説明

チオフェン化合物の製造方法

【課題】機能性材料等を製造する際の原料として有用なチオフェン化合物を簡単な工程で効率良く製造することができる方法を提供する。
【解決手段】酸触媒存在下に、特定のα−ジオン化合物1モル当たり、アルコール又はその等価体を少なくとも0.5モルの割合で反応させて、特定のジアセタール化合物を得た後、かかるジアセタール化合物1モル当たり、硫黄又は無機硫黄化合物を少なくとも0.5モルの割合で反応させて、特定のチオフェン化合物を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチオフェン化合物の製造方法に関する。チオフェン化合物は、導電性高分子モノマー等の機能性材料を製造する際の重要な原料として使用されている。本発明は、かかるチオフェン化合物の製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チオフェン化合物の製造方法として、下記の1)〜4)の工程を経る方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。1)ナトリウムエトキシドの存在下に、ジエトキシチオジグリコレートとジエチルオキザレートとを反応させて、2,5−カルボエトキシ−3,4−ジヒドロキシチオフェンを得る工程。2)炭酸カリウムの存在下に、前記の1)で得られた2,5−カルボエトキシ−3,4−ジヒドロキシチオフェンに1,2−ジブロモエタンを反応させて、2,5−カルボエトキシ−3,4−エチレンジオキシチオフェンを得る工程。3)前記の2)で得られた2,5−カルボエトキシ−3,4−エチレンジオキシチオフェンを水酸化ナトリウムで加水分解する工程。4)前記の3)で加水分解したものを脱炭酸する工程。しかし、かかる従来法には、チオフェンの製造に複雑な多くの工程を要するため、手間がかかり、製造効率が悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Q.Pei, G.Zuccarello, M.Ahiskog, and O.Inganas著、「Polymer」誌、35巻、1347頁、1994年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、チオフェン化合物を簡単な工程で効率良く製造することができる方法を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、特定のα−ジオン化合物に特定のアルコール又はその等価体を反応させて特定のジアセタール化合物を得た後、かかるジアセタール化合物に硫黄又は無機硫黄化合物を反応させてチオフェン化合物を得る方法が正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、下記の第1工程及び第2工程を経ることを特徴とするチオフェン化合物の製造方法に係る。
第1工程:酸触媒存在下に、下記の化1で示されるα−ジオン化合物1モル当たり、アルコール又はその等価体を少なくとも0.5モルの割合で反応させて、下記の化2又は化3で示されるジアセタール化合物を得る工程。
第2工程:第1工程で得たジアセタール化合物1モル当たり、硫黄又は無機硫黄化合物を少なくとも0.5モルの割合で反応させて、下記の化4又は化5で示されるチオフェン化合物を得る工程。




【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
【化3】

【0010】
【化4】

【0011】
【化5】

【0012】
化1〜化5において、
X,Y:水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、トリフルオロメタンスルホニル基、トルエンスルホニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子
R:同時に同一又は異なる1価の炭素数1〜24のアルコールから水酸基を除いた残基
A:2〜6価の炭素数2〜24のアルコールから2個の水酸基を除いた残基
【0013】
本発明における第1工程は、酸触媒存在下に、前記の化1で示されるα−ジオン化合物1モル当たり、アルコール又はその等価体を少なくとも0.5モルの割合で反応させて、中間体である前記の化2又は化3で示されるジアセタール化合物を得る工程である。
【0014】
化1で示されるα−ジオン化合物としては、2,3−ブタンジオン、2,3−ペンタンジオン、3,4−ヘキサンジオン等のアルカンジオン、1,4−ジアルコキシ−2,3−ブタンジオン、1,4−ジハロ−2,3−ブタンジオン等が挙げられるが、なかでも、2,3−ブタンジオンが好ましい。
【0015】
化2で示されるジアセタール化合物を得る場合の化1で示されるα−ジオン化合物と反応させるアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、ペンタデカノール、オクタデカノール、エイコサノール、ドコサノール、ベンジルアルコール等の1価の炭素数1〜24の脂肪族又は芳香族アルコール等が挙げられる。またかかるアルコールを形成することとなる等価体としては、炭素数1〜24のアルキル基を有するオルソ蟻酸アルキルエステルやオルソ酢酸アルキルエステル等が挙げられる。なかでも、化2で示されるジアセタール化合物を得る場合に用いるアルコール又はその等価体としては、1価の炭素数1〜18の脂肪族アルコール又はその等価体が好ましい。
【0016】
化2で示されるジアセタール化合物を得る場合に用いるアルコール又はその等価体は、1種を単独で用いることもできるし、2種以上を組合わせて用いることもできる。かかる組合わせには、アルコールと他のアルコール、アルコールと他のアルコールの等価体、アルコールの等価体と他のアルコールの等価体がある。
【0017】
一方、化3で示されるジアセタール化合物を得る場合の化1で示されるα−ジオン化合物と反応させるアルコール又はその等価体としては、a)前記した1価の炭素数1〜24の脂肪族アルコールや芳香族アルコール等又はそれらの等価体の他に、b)エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ソルビット等の2〜6価の炭素数2〜24のアルコール又はその等価体が挙げられる。a)については化2で示されるジアセタール化合物を得る場合について前記したことと同様であるが、b)としては、2価の炭素数2〜18のアルコール又はその等価体が好ましく、エチレングリコールがより好ましい。
【0018】
化3で示されるジアセタール化合物を得る場合に用いるアルコール又はその等価体は、前記したa)から選ばれるものと、b)から選ばれるものとを組合わせて用いる。かかる組合わせには、化2で示されるジアセタール化合物を得る場合について前記したことと同様、アルコールと他のアルコール、アルコールと他のアルコールの等価体、アルコールの等価体と他のアルコールの等価体がある。
【0019】
第1工程におけるアルコール又はその等価体の使用量は、α−ジオン化合物1モル当たり少なくとも0.5モルの割合とし、好ましくは0.8〜3モルの割合とする。α−ジオン化合物1モル当たりのアルコール又はその等価体の使用量を0.5モル未満にすると、アセタール化反応が充分に進行せず、逆に例えば10モルを越えるような過剰にしても、使用量に見合う効果が得られない。
【0020】
第1工程で用いる酸触媒としては、酸触媒としての性能を有するものであれば特に制限されず、例えば炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸、炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキルナフタレンスルホン酸、炭素数1〜18のアルキル基を有するアルキルスルホン酸、カンファースルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸等の有機スルホン酸の他に、炭素数1〜18の脂肪酸、トリフルオロ酢酸、硫酸、塩酸、燐酸、硝酸等が挙げられるが、なかでも有機スルホン酸が好ましい。
【0021】
第1工程のアセタール化反応の反応温度は、通常20〜150℃とするが、好ましくは50〜100℃とする。反応温度を20℃未満にすると、反応に長時間を要するようになり、逆に反応温度を150℃超にすると、副反応が起こり易くなる。反応時間は反応温度により異なるが、通常は5〜36時間とする。
【0022】
第1工程では溶媒を使用することができる。かかる溶媒としては、1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、ベンジルアルコール等の脂肪族アルコール及び芳香族アルコール、2)エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール、3)N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、4)1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、5)ジメチルスルホキシド、及び6)水等が挙げられる。なかでも、反応基質であるアルコール又はその等価体と同種のアルコール溶媒を用いるのが好ましい。溶媒の使用量は、α−ジオン化合物1質量部当たり、通常は1〜100質量部の割合として、好ましくは3〜10重量部の割合とする。
【0023】
第1工程では、以上のようにしてアセタール化反応させた溶液から、抽出、水洗、濃縮、脱水等により目的とするジアセタール化合物を分離することができる。また、分離したジアセタール化合物を蒸留等の公知の方法により更に精製することもできる。
【0024】
本発明における第2工程は、第1工程で得たジアセタール化合物1モル当たり、硫黄又は無機硫黄化合物を少なくとも0.5モルの割合で反応させて、前記の化4又は化5で示されるチオフェン化合物を得る工程である。第2工程では、第1工程で化2で示されるジアセタール化合物を得た場合には化4で示されるチオフェン化合物が得られ、また第1工程で化3で示されるジアセタール化合物を得た場合には化5で示されるチオフェン化合物が得られる。
【0025】
第2工程で用いる硫黄化合物としては、1)硫黄の他に、2)二フッ化硫黄、一フッ化硫黄、二塩化硫黄、一塩化硫黄、二臭化硫黄、一臭化硫黄、二ヨウ化硫黄、一ヨウ化硫黄等のハロゲン化硫黄、3)塩化チオニル等の無機硫黄化合物が挙げられる。なかでも、硫黄や一ハロゲン化硫黄化合物が好ましく、また塩化チオニルが好ましい。
【0026】
第2工程において、硫黄化合物として硫黄及び一ハロゲン化硫黄化合物を用いる場合には、更に酸化剤を併用するのが有利である。かかる酸化剤としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、N−クロロスクシンイミド、N−ブロモスクシンイミド、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、二クロム酸カリウム、過塩素酸、m−クロロ過安息香酸、過酸化ベンゾイル、二酸化マンガン、過酸化水素等が挙げられる。
【0027】
第2工程において、硫黄化合物として塩化チオニルを用いる場合には、更に還元剤を用いるのが有利である。かかる還元剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、亜硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、水素化ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、金属亜鉛、四塩化チタン、四ヨウ化チタン等が挙げられる。
【0028】
第2工程における硫黄又は無機硫黄化合物の使用量は、ジアセタール化合物1モル当たり少なくとも0.5モルの割合とし、好ましくは1〜3モルの割合とする。ジアセタール化合物1モル当たりの硫黄又は無機硫黄化合物の使用量を0.5モル未満にすると、環化反応が充分に進行せず、逆に例えば5モルを越えるような過剰にしても、使用量に見合う効果が得られない。
【0029】
第2工程の環化反応の反応温度は、通常は20〜150℃とするが、好ましくは50〜100℃とする。反応温度を20℃未満にすると、反応に長時間を要するようになり、逆に反応温度を150℃を超えるような温度にすると、副反応が起こり易くなる。反応時間は、反応温度により異なるが、通常は12〜72時間とする。
【0030】
第2工程では、溶媒を使用することができる。かかる溶媒としては、1)シクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の炭化水素系溶媒、2)ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族系溶媒、3)四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、4)N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、5)1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、6)メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、7)ジメチルスルホキシド、8)水等が挙げられる。なかでも、1)シクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の炭化水素系溶媒、2)ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族系溶媒、3)四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒が好ましい。溶媒の使用量は、ジアセタール化合物1質量部当たり、通常は1〜100質量部の割合とし、好ましくは5〜20質量部の割合とする。
【0031】
第2工程では、以上のように環化反応させた溶液から、水洗、濃縮、脱水等により目的とするチオフェン化合物を分離することができる。また、分離したチオフェン化合物を蒸留等の公知の方法により更に精製することもできる。
【0032】
本発明によって製造されるチオフェン化合物は、機能性材料を製造する際の原料として有用である。なかでも、3,4−エチレンジオキシチオフェンは、ノートパソコン、携帯電話等のコンデンサに使用される導電性ポリマーの原料モノマーとし有用である。
【発明の効果】
【0033】
以上説明した本発明には、機能性材料等を製造する際の原料として有用なチオフェン化合物を簡単な工程で効率良く製造することができるという効果がある。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0035】
・実施例1(3,4−ジオクトキシチオフェンの製造)
アルゴン気流下で、フラスコにアルコールとして1−オクタノール33.0g(127mmol)をメタノール溶媒63mLを用いて加え、また化1で示されるα−ジオン化合物として2,3−ブタンジオン10.0g(127mmol)、メタノールの等価体としてオルトギ酸トリメチル30.5mL(279mmol)及び酸触媒としてカンファースルホン酸2.93g(12.6mmol)を加えて、加熱還流下に24時間攪拌した。トリエチルアミン1.9mLを加えて反応を停止し、ジエチルエーテルを加えて抽出処理した。ジエチルエーテル層を蒸留水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて脱水した後、綿栓濾過を行い、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。この粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/1(質量比)の混合溶液)で精製し、化2で示されるジアセタール化合物として2,3−ジオクトキシ−2,3−ジメトキシブタンを得た(第1工程)。次に、アルゴン気流下で、フラスコに酸化剤としてN−クロロスクシンイミド(NCS)3.35g(18.8mmol)を測りとり、充分に乾燥した後、一塩化硫黄1.69g(12.5mmol)及び1,2−ジクロロエタン溶媒10mLを加えて、加熱還流下に24時間攪拌した。反応系の温度を室温に戻した後、前記の2,3−ジオクトキシ−2,3−ジメトキシブタン3.74g(10.0mmol)をヘキサン溶媒5.0mLを用いて加え、更に酢酸ナトリウム1.97g(24.0mmol)を加えて、加熱還流下に20時間攪拌した。撹拌を止め、酢酸エチルを加えて抽出処理した。酢酸エチル層をセライト濾過し、濾液を熱をかけずにロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。この粗生成物を、14.22kPa、127℃の条件下で減圧蒸留することにより精製し、更に薄層クロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1(質量比)の混合溶液)で精製して、化4で示されるチオフェン化合物として3,4−ジオクトキシチオフェンを得た(第2工程)。
【0036】
・実施例2(3,4−エチレンジオキシチオフェンの製造)
アルゴン気流下で、フラスコにアルコールとしてエチレングリコール7.88g(127mmol)をメタノール溶媒 63mLを用いて加え、また化1で示されるα−ジオン化合物として2,3−ブタンジオン10.0g(127mmol)、メタノールの等価体としてオルトギ酸トリメチル30.5mL(279mmol)及び酸触媒としてカンファースルホン酸2.93g(12.6mmol)を加えて、加熱還流下に24時間攪拌した。トリエチルアミン1.9mLを加えて反応を停止し、ジエチルエーテルを加えて抽出処理した。ジエチルエーテル層を蒸留水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて脱水した後、綿栓濾過を行い、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。この粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/1(質量比)の混合溶液)で精製し、化3で示されるジアセタール化合物として2,3−ジメチル−2,3−ジメトキシ−ジオキサンを得た(第1工程)。次に、アルゴン気流下で、フラスコに酸化剤としてN−クロロスクシンイミド(NCS)3.35g(18.8mmol)を測りとり、充分に乾燥した後、一塩化硫黄1.69g(12.5mmol)及び1,2−ジクロロエタン溶媒10mLを加えて、加熱還流下に24時間攪拌した。反応系の温度を室温に戻した後、前記の2,3−ジメチル−2,3−ジメトキシ−ジオキサン1.72g(10.0mmol)をヘキサン溶媒5.0mLを用いて加え、更に酢酸ナトリウム1.97g(24.0mmol)を加えて、加熱還流下に20時間攪拌した。撹拌を止め、酢酸エチルを加えて抽出処理した。酢酸エチル層をセライト濾過し、濾液を熱をかけずにロータリーエバポレーターで濃縮して、粗生成物を得た。この粗生成物を、15.24kPa、100℃の条件下で減圧蒸留することにより精製し、更に薄層クロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1(質量比)の混合溶液)で精製して、化5で示されるチオフェン化合物として3,4−エチレンジオキシチオフェンを得た(第2工程)。
【0037】
・実施例3(3,4−ジオクトキシチオフェンの製造)
アルゴン気流下で、フラスコにアルコールとして1−オクタノール33.0g(127mmol)をメタノール溶媒63mLを用いて加え、また化1で示されるα−ジオン化合物として2,3−ブタンジオン10.0g(127mmol)、メタノールの等価体としてオルトギ酸トリメチル30.5mL(279mmol)及び酸触媒としてカンファースルホン酸2.93g(12.6mmol)を加えて、加熱還流下に24時間攪拌した。トリエチルアミン1.9mLを加えて反応を停止し、ジエチルエーテルを加えて抽出処理した。ジエチルエーテル層を蒸留水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて脱水した後、綿栓濾過を行い、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。この粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/1(質量比)の混合溶液)で精製し、化2で示されるジアセタール化合物として2,3−ジオクトキシ−2,3−ジメトキシブタンを得た(第1工程)。次に、アルゴン気流下で、フラスコに前記の2,3−ジオクトキシ−2,3−ジメトキシブタン374mg(1.0mmol)を1,2−ジクロロエタン溶媒10mLを用いて加え、酢酸ナトリウム100g(1.2mmol)及び塩化チオニル0.2mL(2.7mmol)を加えて、加熱還流下に20時間攪拌した。反応系の温度を室温に戻した後、酢酸エチルを加えて抽出処理した。酢酸エチル層をセライト濾過し、濾液を蒸留水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄して、硫酸ナトリウムを用いて脱水した後、綿栓濾過を行い、濾液を熱をかけずにロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。この粗生成物を薄層クロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1(質量比)の混合溶液)で精製して、3,4−ジオクトキシチオフェンオキサイドを得た。更に、アルゴン気流下で、フラスコに還元剤として四ヨウ化チタン833mg(1.5mmol)を測りとり、0℃の温度下にて前記のジオクトキシチオフェンオキサイド385mg(1.0mmol)をアセトニトリル溶媒5.0mLを用いて加え、1時間攪拌した。炭酸水素ナトリウム水溶液及び亜硫酸水素ナトリウム水溶液を用いて反応を停止し、酢酸エチルを加えて、抽出処理した。酢酸エチル層をセライト濾過し、濾液を蒸留水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて脱水した後、綿栓濾過を行い、濾液を熱をかけずにロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。この粗生成物を薄層クロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/1(質量比)の混合溶液)で精製して、化4で示されるチオフェン化合物として3,4−エチレンジオキシチオフェンを得た(第2工程)。
【0038】
・実施例4(3,4−エチレンジオキシチオフェンの製造)
アルゴン気流下で、フラスコにアルコールとしてエチレングリコール7.88g(127mmol)をメタノール溶媒63mLを用いて加え、また化1で示されるα−ジオン化合物として2,3−ブタンジオン10.0g(127mmol)、メタノールの等価体としてオルトギ酸トリメチル30.5mL(279mmol)及び酸触媒としてカンファースルホン酸2.93g(12.6mmol)を加えて、加熱還流下に24時間攪拌した。トリエチルアミン1.9mLを加えて反応を停止し、ジエチルエーテルを加えて抽出処理した。ジエチルエーテル層を蒸留水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて脱水した後、綿栓濾過を行い、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。この粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/1(質量比)の混合溶液)で精製し、化3で示されるジアセタール化合物として2,3−ジメチル−2,3−ジメトキシ−ジオキサンを得た(第1工程)。次に、アルゴン気流下で、フラスコに前記の2,3−ジメチル−2,3−ジメトキシ−ジオキサン176mg(1.0mmol)を1,2−ジクロロエタン溶媒10mLを用いて加え、酢酸ナトリウム100mg(1.2mmol)及び塩化チオニル0.2mL(2.7mmol)を加えて、加熱還流下に20時間攪拌した。反応系の温度を室温に戻した後、酢酸エチルを加えて抽出処理した。酢酸エチル層をセライト濾過し、濾液を蒸留水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄して、硫酸ナトリウムを用いて脱水した後、綿栓濾過を行い、濾液を熱をかけずにロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。この粗生成物を薄層クロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1(質量比)の混合溶液)で精製して、エチレンジオキシチオフェンオキサイドを得た。更に、アルゴン気流下で、フラスコに還元剤として四ヨウ化チタン833mg(1.5mmol)を測りとり、0℃の温度下にて前記の3,4−エチレンジオキシチオフェンオキサイド158mg(1.0mmol)をアセトニトリル溶媒5.0mLを用いて加え、1時間攪拌した。炭酸水素ナトリウム水溶液及び亜硫酸水素ナトリウム水溶液を用いて反応を停止し、酢酸エチルを加えて、抽出処理した。酢酸エチル層をセライト濾過し、濾液を蒸留水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて脱水した後、綿栓濾過を行い、濾液を熱をかけずにロータリーエバポレーターで濃縮し、粗生成物を得た。この粗生成物を薄層クロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/1(質量比)の混合溶液)で精製して、化5で示されるチオフェン化合物として3,4−エチレンジオキシチオフェンを得た(第2工程)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の第1工程及び第2工程を経ることを特徴とするチオフェン化合物の製造方法。
第1工程:酸触媒存在下に、下記の化1で示されるα−ジオン化合物1モル当たり、アルコール又はその等価体を少なくとも0.5モルの割合で反応させて、下記の化2又は化3で示されるジアセタール化合物を得る工程。
第2工程:第1工程で得たジアセタール化合物1モル当たり、硫黄又は無機硫黄化合物を少なくとも0.5モルの割合で反応させて、下記の化4又は化5で示されるチオフェン化合物を得る工程。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

(化1〜化5において、
X,Y:水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、トリフルオロメタンスルホニル基、トルエンスルホニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子
R:同時に同一又は異なる1価の炭素数1〜24のアルコールから水酸基を除いた残基
A:2〜6価の炭素数2〜24のアルコールから2個の水酸基を除いた残基)
【請求項2】
化2又は化3中のRが、同時に同一又は異なる1価の炭素数1〜18の脂肪族アルコールから水酸基を除いた残基である請求項1記載のチオフェン化合物の製造方法。
【請求項3】
化3中のAが、エチレングリコールから2個の水酸基を除いた残基である請求項1又は2記載のチオフェン化合物の製造方法。
【請求項4】
第1工程の酸触媒が、有機スルホン酸触媒である請求項1〜3のいずれか一つの項記載のチオフェン化合物の製造方法。
【請求項5】
第1工程のα−ジオン化合物が、2,3−ブタンジオンである請求項1〜4のいずれか一つの項記載のチオフェン化合物の製造方法。
【請求項6】
第2工程の硫黄又は無機硫黄化合物として硫黄又は一ハロゲン化硫黄化合物を用い、更に酸化剤を用いる請求項1〜5のいずれか一つの項記載のチオフェン化合物の製造方法。
【請求項7】
第2工程の硫黄又は無機硫黄化合物として塩化チオニルを用い、更に還元剤を用いる請求項1〜5のいずれか一つの項記載のチオフェン化合物の製造方法。
【請求項8】
第1工程のジアセタール化合物が化2で示される場合のものであり、且つ第2工程のチオフェン化合物が化4で示される場合のものである請求項1〜7のいずれか一つの項記載のチオフェン化合物の製造方法。
【請求項9】
第1工程のジアセタール化合物が化3で示される場合のものであり、且つ第2工程のチオフェン化合物が化5で示される場合のものである請求項1〜7のいずれか一つの項記載のチオフェン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2011−57628(P2011−57628A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210091(P2009−210091)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月13日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第89春季年会 2009年 講演予稿集II」に発表
【出願人】(509255358)
【出願人】(509256160)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【Fターム(参考)】