説明

チタン合金

【課題】高い強度を維持しつつ安定して高い加工性が得られるように、加工硬化を抑制したチタン合金を提供する。
【解決手段】Nb、Zr、Ta、Oのうち少なくともNbおよびOを含有し、下記式(1):
Nb当量(at%)=Nb含有量(at%)+0.875×Zr含有量(at%)+0.75×Ta含有量(at%)+4×O含有量(at%)・・・(1)
で定義されるNb当量が32〜39at%であり、O含有量は0.5〜1.5at%、Zr含有量は4at%以下であり、残部がTiおよび不可避的不純物から成る化学組成を有し、
溶体化処理材の硬さが200Hv以上、95%冷間加工材の硬さが300Hv以下であって、下記式(2):
加工硬化率(%)={95%冷間加工材の硬さ(Hv)−溶体化処理材の硬さ(Hv)}/{溶体化処理材の硬さ(Hv)}×100・・・(2)
で定義される加工硬化率が20%以下であることを特徴とするチタン合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン合金、特に、加工硬化率が低く加工性の優れたβ型チタン合金に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は、比強度や耐食性に優れるため、航空、宇宙、深海、化学プラントなどの特殊分野で広く用いられている。特にβ型チタン合金は、高い耐食性と低い弾性率を特徴とし、腐食環境下で用いられるネジのような締結部材等への適用が期待される。
【0003】
β型チタン合金は、α型およびα+β型チタン合金に比べて加工性に優れるが、合金組成によっては焼入れ時や加工時にω相が生じて脆化したり、α”マルテンサイト変態が起きたりして、著しい加工硬化を生じ加工性が劣化することが多い。
【0004】
特許文献1には、Mo、V、W、Nb、Ta、Fe、Cr、Ni、Co、Cu、Alの各含有量の線形式で定義されるMo当量を3〜11質量%とする範囲でこれらの合金元素を1種以上含有し、0.3〜3質量%の、O、NまたはCの1種以上から成る侵入型固溶元素を含有し、Al含有量は1.8質量%以下であり、少なくとも室温でβ単相であることを特徴とする加工性に優れ、低ヤング率のチタン合金が開示されている。
【0005】
特許文献2には、質量比で、Mo:13.5〜16.9%、Nb:0.5〜5.5%、Zr:0.5〜5.0%、O:0.20以下を含有し、残部がTiおよび不可避的不純物から成るとともに、β変態点が700〜750℃の範囲であることを特徴とする生体用β型チタン合金が開示されている。
【0006】
しかし、高い強度を維持しつつ安定して高い加工性を確保するためには、加工硬化を抑制する視点からの合金設計が更に必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−162171号公報
【特許文献2】特開2003−73761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高い強度を維持しつつ安定して高い加工性が得られるように、加工硬化を抑制したチタン合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、Nb、Zr、Ta、Oのうち少なくともNbおよびOを含有し、下記式(1):
Nb当量(at%)=Nb含有量(at%)+0.875×Zr含有量(at%)+0.75×Ta含有量(at%)+4×O含有量(at%)・・・(1)
で定義されるNb当量が32〜39at%であり、O含有量は0.5〜1.5at%、Zr含有量は4at%以下であり、残部がTiおよび不可避的不純物から成る化学組成を有し、
溶体化処理材の硬さが200Hv以上、95%冷間加工材の硬さが300Hv以下であって、下記式(2):
加工硬化率(%)={95%冷間加工材の硬さ(Hv)−溶体化処理材の硬さ(Hv)}/{溶体化処理材の硬さ(Hv)}×100・・・(2)
で定義される加工硬化率が20%以下であることを特徴とするチタン合金が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、Nb当量、O含有量、Zr含有量を規定範囲内に制限すると共に、硬さおよび加工硬化率を規定したことにより、高い強度を維持しつつ高い加工性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明においては、冷間加工性を高めるために、マルテンサイト変態開始温度Ms点を室温より十分に低い温度に維持する。ここで本発明者は、Nb当量を式(1)で定義すると、Ms点はNb当量によって式(1A)で表わせることを新規に見出した。
【0012】
Nb当量(at%)=Nb含有量(at%)+0.875×Zr含有量(at%)+0.75×Ta含有量(at%)+4×O含有量(at%)・・・(1)
Ms点(K)=1380−43×Nb当量(at%)・・・(1A)
式(1)で定義されるNb当量とは、Nbを1at%増加したときのMs点の低下量に対して、Nbに代えて式(1)中の他の各元素を1at%増加したときのMs点の低下量の比率を各元素の係数として線形式として表わした数量である。
【0013】
本発明において、チタン合金の化学組成を限定した理由は下記のとおりである。
【0014】
〔Nb当量が32〜39at%〕
Nb当量が32at%未満であると、加工硬化率が20%を超える。Nb当量を32at%以上とすることによりマルテンサイト変態を完全に抑止でき、加工硬化率を容易に20%以下に低減できる。一方、Nb当量が39at%を超えると、融点が高くなり過ぎ製造上不利となる上、材料コストも上昇する。したがってNb等量は32〜39at%に限定する。
【0015】
〔O含有量は0.5〜1.5at%〕
Nb当量が規定範囲の32〜39at%であっても、Oが0.5at%未満であると、加工硬化率が20%を超える。Oが1.5at%を超えると、溶体化硬さが300Hvを超えてしまい、延性が低下する。したがってO含有量は0.5〜1.5at%に限定する。
【0016】
〔Zr含有量は4at%以下〕
Nb当量が32〜39at%、O含有量が0.5〜1.5at%であっても、Zr含有量が4at%を超えると、加工中に硬さが300Hvを超え、加工が困難になる。
【0017】
また、硬さおよび加工硬化率を限定した理由は下記のとおりである。
【0018】
〔硬さ:溶体化状態で200Hv以上、95%加工状態で300Hv以下〕
溶体化状態の硬さが200Hv未満であると、強度が低すぎて圧延等の諸加工にむしろ支承をきたす。一方、95%加工状態での硬さが300Hvを超えると、延性が不足する。したがって、硬さは、溶体化状態で200Hv以上、95%加工状態で300Hv以下とする。
【0019】
〔加工硬化率:20%以下〕
本発明において、加工硬化率は下記式(2)で定義する。
【0020】
加工硬化率(%)={95%冷間圧延材の硬さ(Hv)−溶体化処理材の硬さ(Hv)}/{溶体化処理材の硬さ(Hv)}×100
加工硬化率が20%を越えると、安定して高い加工性を確保できる。したがって、溶体化状態に対する95%加工状態での加工硬化率は20%以下とする。
【実施例】
【0021】
表1に示す種々の化学組成のチタン合金を作製した。合金番号1〜8は本発明例、合金番号9〜18は比較例である。作製の手順および条件は下記のとおりであった。
【0022】
<インゴット作製>
合金原料としてスポンジTi(純度99.99%)、塊状Nb(純度99.9%)、塊状Ta(純度99.9%)、塊状Zr(純度99.9%)、TiO粉末を用い、非消耗タングステン電極型Arアーク溶解法により、ボタン状合金インゴットを作製した。均質な合金インゴットを得るために、一旦凝固したインゴットを裏返して再溶解する操作を繰返し、合計6回の溶解を行なった。
【0023】
<均質化処理(溶体化処理を兼ねる)>
更に偏析を少なくするために、下記条件で均質化処理を行った。この処理は溶体化処理を兼ねている。
【0024】
インゴットを石英管に真空封入し、大気炉内で1273Kに7.2ks保持した後、室温まで空冷した。インゴットを石英管から取り出し、インゴット表面に生成した酸化膜をエッチングにより取り除いた。エッチング液としてHO:HNO:HF=5:4:1の体積比で混合した溶液を使用し、343Kのウォーターバス中でエッチングした。
【0025】
<冷間加工>
4段ロールを用いた冷間圧延により、インゴットに加工率95%の冷間加工を施し、厚さ約0.5mmの薄板にした。
【0026】
冷間圧延前のインゴットおよび冷間圧延後の薄板のビッカース硬さを測定した。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明例の合金番号1〜8は、硬さ(溶体化処理材、95%冷間加工材)および加工硬化率が全て本発明の規定範囲を満たしている。
【0029】
これに対して比較例の合金番号9〜18は、化学組成の少なくとも一部が本発明の規定範囲外にあるため、硬さおよび加工硬化率の少なくともいずれかが本発明の規定範囲を満たしていない。
【0030】
すなわち、比較例の合金番号9〜10、13〜15は、Nb当量が本発明の規定下限値32at%より少ないため、加工硬化率が本発明の規定上限値20%を超えている。
【0031】
比較例の合金番号11、12は、Nb等量は本発明の規定範囲内であるが、O含有量が本発明の規定下限値0.5at%より少ないため、加工硬化率が本発明の規定上限値20%を超えている。一方、比較例の合金番号16、17は、Nb等量は本発明の規定範囲内であるが、O含有量が本発明の規定上限値1.5at%を超えるため、溶体化処理材の硬さがHv300を超えている。
【0032】
比較例の合金番号18は、Nb等量が本発明の規定範囲内であり、O含有量も本発明の規定範囲内であるが、Zr含有量が本発明の規定上限値4at%を超えるため、95%冷間加工材の硬さが300Hvを超えている。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、高い強度を維持しつつ安定して高い加工性が得られるように、加工硬化を抑制したチタン合金が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nb、Zr、Ta、Oのうち少なくともNbおよびOを含有し、下記式(1):
Nb当量(at%)=Nb含有量(at%)+0.875×Zr含有量(at%)+0.75×Ta含有量(at%)+4×O含有量(at%)・・・(1)
で定義されるNb当量が32〜39at%であり、O含有量は0.5〜1.5at%、Zr含有量は4at%以下であり、残部がTiおよび不可避的不純物から成る化学組成を有し、
溶体化処理材の硬さが200Hv以上、95%冷間加工材の硬さが300Hv以下であって、下記式(2):
加工硬化率(%)={95%冷間加工材の硬さ(Hv)−溶体化処理材の硬さ(Hv)}/{溶体化処理材の硬さ(Hv)}×100・・・(2)
で定義される加工硬化率が20%以下であることを特徴とするチタン合金。