説明

チタン含有基材の表面処理方法及び該方法により得られた表面処理されたチタン含有基材

【課題】チタン含有基材表面にアナターゼ型酸化チタン含有薄膜を低温域で生成させることができる。
【解決手段】本発明のチタン含有基材の表面処理方法は、チタン含有基材表面をアルカリ炭酸塩又はアルカリ炭酸水素塩のいずれか一方又はその双方を含むアルカリ性水溶液により処理する第1処理工程と、第1処理工程を施した基材表面を酸性水溶液により処理する第2処理工程とをこの順に含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温域での表面処理が可能なチタン含有基材の表面処理方法及び該方法により得られた表面処理されたチタン含有基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタン又はチタン合金の表面にアナターゼ型酸化チタンを含む膜を形成し、生体親和性を有する生体材料として利用する多くの提案がなされている。例えば、(NH4)2TiF6水溶液と酸化ホウ素の混合水溶液中に金属チタンを24時間浸漬するとアナターゼを含む酸化チタンが析出することが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。また、その他に、チタニウムを80℃の30質量%過酸化水素水溶液で処理後、更に蒸留水で処理する方法(例えば、非特許文献2参照。)や、チタニウムを80℃の15%過酸化水素水溶液に1時間浸漬後、300℃の加熱処理をする方法(例えば、非特許文献3参照。)、60℃のフッ化チタン−塩酸溶液中に浸漬後、300〜700℃で加熱処理する方法(例えば、非特許文献4参照。)、チタン又はその合金からなる基材をアルカリ性水溶液に漬け、続いて水に漬け、少なくともアナターゼの析出が認められる温度以上、200〜800℃に加熱する方法(例えば、特許文献1参照。)、150℃の水酸化カリウムと塩化カルシウムの混合水溶液で処理後、更に120℃の塩酸水溶液で処理する方法(例えば、非特許文献5参照。)、40〜150℃の水酸化カリウムで処理後、更に120℃以上の塩酸水溶液で処理する方法(例えば、非特許文献6参照。)等が知られている。
【0003】
一方、色調や耐汚染性を目的として大型の建材や装飾品などに表面処理して表面にアナターゼ型酸化チタン含有膜を形成する方法は全く検討されていない。また、生体材料に利用する表面処理法はあくまで小さな部品のみを対象としたものである。
【非特許文献1】Naoshi Ozawa et al., Key Engineering Materials Vols. 218-220, 2002, pp.127-132
【非特許文献2】Jin-Ming WU et al., Journal of the Ceramic Society of Japan 110 [2], 2002, pp.78-80
【非特許文献3】Jin-Ming WU et al., Scripta Materialia 46, 2002, pp.101-106
【非特許文献4】Jin-Ming WU et al., Thin Solid Films 414, 2002, pp.283-288
【特許文献1】特開2002−102330号公報(請求項5,請求項6、段落[0010])
【非特許文献5】Yoko OHBA et al., Journal of the Ceramic Society of Japan, Supplement 112-1, 112[5], 2004, pp.S974-S979
【非特許文献6】Yoko OHBA et al., Transactions of the Materials Research Society of Japan, 29[6], 2004, pp.2595-2598
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献3、4及び特許文献1に示される方法では、付着性に優れた膜を生成するために、200℃以上の高温加熱処理を必要とすること、また、非特許文献1、2、5及び6に示される方法では、低温での表面処理がなされているが、付着性に優れた膜の生成がされていないことから、低温域での表面処理で、付着性に優れた膜を生成させる方法が切望されていた。
特に生体材料として特殊な形状を有する部品を作製する場合や、建設材料や装飾品に利用するような大型の成型品の場合には、処理が簡便で、熱変形の影響を受けない、しかも付着性に優れたアナターゼ型酸化チタンを含む膜を表面に生成させる方法が切望されている。また、建材や装飾品への利用においては、チタンやチタン合金は色調が銀白色ないしは銀色であるため、その用途が限定されてしまっていた。塗膜によって色調を変化させる方法もあるが、この方法では、耐久性に劣ることやチタン自体の有している耐久性の優位性を利用することができないため、チタンやチタン合金自体の耐久性を生かし、かつ表面の色調を変化させる方法が切望されていた。また、耐汚染性を要求される建材や家具では、成型品が大型となるため、簡便な処理方法で、付着性に優れたアナターゼ型酸化チタンを含む膜を生成させる表面処理方法が切望されていた。
【0005】
本発明の目的は、低温域での表面処理で付着性に優れたアナターゼ型酸化チタン含有薄膜の生成が可能なチタン含有基材の表面処理方法及び該方法により得られた表面処理されたチタン含有基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、チタン含有基材表面をアルカリ炭酸塩又はアルカリ炭酸水素塩のいずれか一方又はその双方を含むアルカリ性水溶液により処理する第1処理工程と、第1処理工程を施した基材表面を酸性水溶液により処理する第2処理工程とをこの順に含むことを特徴とするチタン含有基材の表面処理方法である。
請求項1に係る発明では、上記工程を経ることにより、低温域でチタン含有基材表面にアナターゼ型酸化チタン含有薄膜を形成することができる。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、第1処理工程が基材表面を60〜150℃に維持されたpH9.0〜13.5のアルカリ性水溶液により1〜48時間処理する方法である。
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明であって、アルカリ性水溶液に水酸化アルカリを更に含む方法である。
請求項3に係る発明では、水酸化アルカリを更に含むことでアルカリ性水溶液のpH制御を容易に行うことができる。
【0008】
請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明であって、第2処理工程が基材表面を60〜120℃に維持されたpH1.4〜3.5の酸性水溶液により1〜48時間処理する方法である。
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4いずれか1項に記載の方法により表面処理された基材であって、基材表面に厚さ0.5μm以下のアナターゼ型酸化チタン含有薄膜が連続的又は断続的に形成されたことを特徴とする表面処理されたチタン含有基材である。
請求項5に係る発明では、アナターゼ型酸化チタン含有薄膜の厚さを0.5μm以下に制御することで良好な付着性を確保することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のチタン含有基材の表面処理方法は、低温域での表面処理で付着性に優れたアナターゼ型酸化チタン含有薄膜を生成することができる、という利点がある。また本発明の表面処理されたチタン含有基材は、アナターゼ型酸化チタン含有薄膜の厚さを0.5μm以下に制御することで良好な付着性を確保することができる。この表面処理された基材は、擬似体液中に所定時間保持することで表面にアパタイトを生成することが可能であり、生体材料として利用可能な材料である。また、この表面処理された基材は、耐汚染性に優れ、表面処理条件を変化させることで色調の調整が可能であるため、大型建材や装飾品等として利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明のチタン含有基材の表面処理方法は、基材表面をアルカリ炭酸塩又はアルカリ炭酸水素塩のいずれか一方又はその双方を含むアルカリ性水溶液により処理する第1処理工程と、この第1処理工程を施した基材表面を酸性水溶液により処理する第2処理工程とをこの順に含むことを特徴とする。本発明の表面処理方法の対象となるチタン含有基材としては、純度100%のチタン材料やチタン合金、またこれらを組み合わせた複合基材が挙げられる。チタン合金としてはTi-6Al-4V、Ti-6Al-2Nb-Ta、Ti-1.5Mo-5Zr-3Al等が挙げられる。
【0011】
先ず、チタン含有基材表面をアルカリ炭酸塩又はアルカリ炭酸水素塩のいずれか一方又はその双方を含むアルカリ性水溶液により処理する(第1処理工程)。この第1処理工程により、チタン含有基材の表面に存在するチタンが溶出するとともに、この溶出したチタンがアルカリ性水溶液と反応して、基材表面にチタン酸アルカリが析出する。第1処理工程に使用するアルカリ性水溶液を、アルカリ炭酸塩又はアルカリ炭酸水素塩のいずれか一方又はその双方を含む水溶液としたのは、強塩基のみからなるアルカリ性水溶液により基材表面を処理すると、基材表面にチタン酸アルカリが急激に析出してしまい、形成する薄膜の収量を抑制することが困難となるが、弱塩基であるアルカリ炭酸塩又はアルカリ炭酸水素塩を含む水溶液を使用することで、チタン酸アルカリの析出反応が緩やかに進行するため、析出するチタン酸アルカリの収量を抑制でき、形成する薄膜の膜厚を制御することが可能となり、水溶液のpHを抑制し易く、更に従来の方法よりも処理温度を低減することができるためである。アルカリ炭酸塩としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムが、アルカリ炭酸水素塩としては、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素リチウムがそれぞれ挙げられる。このうち特に炭酸カリウム水溶液を使用することが薄膜中の不純物量抑制の観点から好ましい。
【0012】
第1処理工程は、基材表面を60〜150℃に維持されたpH9.0〜13.5のアルカリ性水溶液により1〜48時間処理することが好適である。アルカリ性水溶液による処理温度を60〜150℃としたのは、上限値を越える温度で処理したとしても、基材表面にチタン酸アルカリを析出させることはできるが、析出させたチタン酸アルカリの収量を抑制するのが困難となるためである。下限値未満の温度で処理すると、処理時間がかかりすぎ、また十分なチタン酸アルカリが析出されないためである。またこの第1処理工程でチタン酸アルカリの収量を抑制することができないと、後に続く工程で形成されるアナターゼ型酸化チタン含有薄膜の膜厚を薄く制御することができず、薄膜が剥離し易くなる問題を生じる。処理温度は80〜120℃が好ましく、80℃以上100℃未満が特に好ましい。反応開始前のアルカリ性水溶液のpHは9.0〜13.5、好ましくは12.0〜13.2である。例えば、アルカリ性水溶液が0.0005mol%濃度(0.005mol/l)の炭酸カリウム水溶液の場合でpH9.0、0.09mol%濃度(0.9mol/l)の炭酸カリウム水溶液の場合でpH12.0、0.3mol%濃度(3.0mol/l)の炭酸カリウム水溶液の場合でpH12.5となる。アルカリ性水溶液による処理時間は、処理対象となるチタン含有基材の材質、アルカリ性水溶液の処理温度やpH、形成する薄膜の膜厚によっても異なるが、1〜48時間が好ましく、1〜24時間が特に好ましい。処理時間が下限値未満では十分な厚さのチタン酸アルカリを析出することができず、処理時間が上限値を越えると、チタン酸アルカリの収量を抑制するのが困難となる。
また、第1処理工程で使用するアルカリ性水溶液には、水酸化アルカリを更に含んでもよい。水酸化アルカリを更に含むことでアルカリ性水溶液のpH制御を容易に行うことができる。水酸化アルカリとしては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。水酸化アルカリの混合割合は、アルカリ性水溶液のpHを制御する程度の割合で加えることが好適である。具体的には、アルカリ炭酸塩又はアルカリ炭酸水素塩のいずれか一方又はその双方を含むアルカリ性水溶液100重量%に対して0〜0.1重量%の割合で添加することが好ましい。
【0013】
続いて第1処理工程を施した基板表面を酸性水溶液により処理する(第2処理工程)。この第2処理工程により、第1処理工程で析出したチタン酸アルカリのアルカリ成分と酸とが反応し、チタン含有基材表面にアナターゼ型酸化チタンを含む薄膜が形成される。第2処理工程で使用する酸性水溶液としては、塩酸、硝酸、硫酸等の鉱酸或いは酢酸、シュウ酸等の有機酸の各種酸溶液を使用することができる。このうち塩酸を使用することにより、塩化物イオンがアナターゼ型酸化チタンの生成を促進することから特に好ましい。
第2処理工程は、基材表面を60〜120℃に維持されたpH1.4〜3.5の酸性水溶液により1〜48時間処理することが好適である。酸性水溶液による処理温度は60〜120℃であれば十分にアナターゼ型酸化チタン含有薄膜を形成することができるため、低コストでの処理が可能となる。処理温度は80〜120℃が好ましく、100〜120℃が特に好ましい。反応開始前の酸性水溶液のpHは1.4〜3.5、好ましくは1.7〜2.6である。酸性水溶液による処理時間は、前述した第1処理工程で析出したチタン酸アルカリの収量、酸性水溶液の処理温度やpH、形成する薄膜の膜厚によっても異なるが、1〜48時間が好適である。処理時間が下限値未満ではアナターゼ型酸化チタン含有薄膜を十分に形成することができず、また、前述した第1処理工程で析出したチタン酸アルカリの多くが残留してしまう。処理時間が上限値を越えてもその効果は変わらないが、基材の材質を傷めるおそれがある。
【0014】
本発明の表面処理されたチタン含有基材は、前述した方法により表面処理された基材であって、基材表面に厚さ0.5μm以下のアナターゼ型酸化チタン含有薄膜が連続的又は断続的に形成されたことを特徴とする。表面に生成するアナターゼ型酸化チタン含有薄膜とチタン含有基材との良好な付着性を確保するために膜厚の制御が重要であり、アナターゼ型酸化チタン含有薄膜の厚さを0.5μm以下、好ましくは0.2μm未満、特に好ましくは0.1μm未満に制御することで良好な付着性を確保することができる。この表面処理された基材は、擬似体液中に所定時間保持することで表面にアパタイトを生成することが可能であり、生体材料として利用可能な材料である。また、この表面処理された基材は、耐汚染性に優れ、表面処理条件を変化させることで色調の調整が可能であるため、大型建材や装飾品等として利用可能である。
【実施例】
【0015】
次に本発明の実施例を詳しく説明する。
<実施例1>
先ず、10mm×40mm、厚さ0.05mmのチタン基板を複数枚用意した。前処理としてチタン基板をアセトン中に浸漬して超音波洗浄を5分間行い、室温でアセトンを除去した。次いで、第1処理工程として、蒸留水に炭酸カリウムを溶解して3mol/l濃度の水溶液を調製した。続いて図1(a)に示すように、フッ素樹脂製の内筒11aを備えたステンレス製反応容器11に炭酸カリウム水溶液12を約20mlを注入した。続いて反応容器11内に前処理したチタン基板13を入れてチタン基板13を炭酸カリウム水溶液中に浸漬し、図1(b)に示すように、反応容器11の上部に蓋14をして、容器11内部を密閉した。この反応容器11を図示しない恒温器内に入れて反応容器自体を図示するように約25rpmで回転させながら、80℃で2時間保持した。反応後の基板は反応容器から取り出して、蒸留水で洗浄した。次に第2処理工程として、反応容器にpH2.0に調製した塩酸水溶液を約20ml注入し、第1処理工程を施した基板を入れて、塩酸水溶液中に基板を浸漬した。反応容器の上部に蓋をして、容器内部を密閉し、この反応容器を恒温器内に入れて反応容器自体を約25rpmで回転させながら、120℃で3時間保持した。反応後の基板は反応容器から取り出して、蒸留水で洗浄し、表面処理済チタン基板を得た。また、第1処理工程の保持時間を6時間、12時間及び24時間にそれぞれ変更させて表面処理済チタン基板を得た。
【0016】
得られた表面処理済チタン基板に対して薄膜X線回折分析を行い、基板表面に形成した薄膜にアナターゼ型酸化チタンが生成されているか否かを確認した。アナターゼ生成の具体的な評価は、アナターゼ型酸化チタンが連続的に生成がしていたとき「○」の評価とし、アナターゼ型酸化チタンが断続的に生成がしていたとき「△」の評価とした。
【0017】
次の表1に示すイオン濃度となるように各イオン種を添加混合して擬似体液を調製した。なお、参考値としてヒト血漿の各イオン種におけるイオン濃度を表1に併せて示す。
【0018】
【表1】

【0019】
25mlポリスチロール瓶に調製した擬似体液を20ml添加し、続いて、10×20mmの大きさに切断した表面処理済チタン基板をポリスチロール瓶内に入れて、表面処理済チタン基板を擬似体液に浸漬した。このポリスチロール瓶に蓋をして瓶内部を密閉した。続いて恒温器内にポリスチロール瓶を入れて約37℃で7日間保持した。保持後の表面処理済チタン基板を薄膜X線回折、走査型電子顕微鏡観察して、基板表面がハイドロキシアパタイトで覆われているか否かを確認した。アパタイト析出の具体的な評価は、薄膜の全面にアパタイトが析出していたとき「○」の評価とし、薄膜の一部にアパタイトが析出していたとき「△」の評価とした。得られた結果を表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
表1より明らかなように、本発明の表面処理方法を施すことで、アナターゼ型酸化チタン含有薄膜が低温域で生成されることが確認された。また、表面処理済チタン基板を擬似体液に所定の時間浸漬することで、その表面がハイドロキシアパタイトで覆われていることが確認できた。
【0022】
<実施例2>
次の表3に示すように、第1処理工程の処理条件を変化させた以外は、実施例1と同様にしてチタン基板に表面処理を施した。また、表面処理前の基板重量と、第1処理工程を終えた後の基板重量をそれぞれ測定し、この測定値の差を基板重量変化として算出した。得られた表面処理済チタン基板に対して実施例1と同様にして基板表面に形成した薄膜にアナターゼ型酸化チタンが生成されているか否かを確認した。アナターゼ生成の具体的な評価は、アナターゼ型酸化チタンが連続的に生成がしていたとき「○」の評価とし、薄膜にアナターゼ型酸化チタンが生成しており、かつ、チタン酸カリウムの存在が確認されたとき「」の評価とした。また、粘着力評価として、約4.2N/mmの粘着力を有する粘着テープを用い、このテープを表面処理済チタン基板表面に気泡が入らないように貼り付けて、消しゴムを利用し、粘着テープが試料表面に十分固定されるように、貼り付けた粘着テープ上から擦った。続いて粘着テープを引き剥がして、粘着テープによって薄膜が基板から剥がれるか否かを確認した。粘着力の具体的な評価は、全く薄膜が剥がれなかったとき「○」の評価とし、薄膜の一部が剥がれて粘着テープの粘着面にくっついていたとき「△」の評価とした。得られた結果を表3に示す。
【0023】
【表3】

【0024】
表3より明らかなように、第1処理工程の処理時間が長くなるにつれて、第1処理工程後の基板重量が高くなっており、析出するチタン酸カリウムの収量が増加している結果が得られた。また、第1処理工程の処理時間が長くなると、形成された薄膜の付着力が劣っていく傾向が見られた。この結果から、第1処理工程の処理時間が長くなり、析出するチタン酸カリウムの収量が増加すると、形成される薄膜の膜厚が厚くなって付着力が低下するものと推察される。第1処理工程のアルカリ性水溶液の濃度及びpHが高くなるにつれて、第1処理工程後の基板重量が大きくなっており、析出するチタン酸カリウムの収量がアルカリ性水溶液の濃度及びpHに反映している結果となった。また、濃度及びpHが高いアルカリ性水溶液を用いて長時間処理した場合、形成された薄膜中にチタン酸カリウムが残留する結果となった。これはチタン酸カリウムの析出量が多く、アルカリ成分が第2処理工程で十分に酸に溶解しなかったためと考えられる。
【0025】
<実施例3>
次の表4に示すように、第1処理工程の処理条件を変化させた以外は、実施例1と同様にしてチタン基板に表面処理を施した。実施例2と同様に粘着力評価を行い、粘着テープによって薄膜が基板から剥がれるか否かを確認した。得られた結果を表4に示す。
【0026】
【表4】

【0027】
表4から明らかなように、アルカリ性水溶液の濃度、pHの違いでは形成された薄膜の付着力に差異は生じなかった。第1処理工程の処理温度が150℃では、80℃に比べて付着力が若干劣る傾向が見られた。このことから、150℃を越える温度で処理した場合には、付着力に劣る薄膜が形成されると推察される。
【0028】
<実施例4>
次の表5に示すように、第2処理工程の処理条件を変化させた以外は、実施例1と同様にしてチタン基板に表面処理を施した。得られた表面処理済チタン基板に対して実施例1と同様にして基板表面に形成した薄膜にアナターゼ型酸化チタンが生成されているか否かを確認した。また、実施例2と同様に粘着力評価を行い、粘着テープによって薄膜が基板から剥がれるか否かを確認した。得られた結果を表5に示す。
【0029】
【表5】

【0030】
表5より明らかなように、第2処理工程でpHが低く、酸性が強い酸性水溶液を使用すると、アナターゼ型酸化チタン含有薄膜の形成が断続的になる傾向が見られた。この場合でも、第2処理工程の処理時間が長くなると、薄膜が連続的に形成される結果となった。また第2処理工程のpHが高いほど、付着力が高い傾向となった。
【0031】
<実施例5>
次の表6に示すように、第1処理工程の処理条件を変化させた以外は、実施例1と同様にしてチタン基板に表面処理を施した。得られた表面処理済チタン基板に対して実施例2と同様に粘着力評価を行い、粘着テープによって薄膜が基板から剥がれるか否かを確認した。粘着力の具体的な評価は、全く薄膜が剥がれなかったとき「○」の評価とし、薄膜の大部分が剥がれて粘着テープの粘着面に付着していたとき「×」の評価とした。また、表面処理済チタン基板表面を原子間力顕微鏡(AFM)により分析を行い、表面粗さを測定した。更に、表面処理済チタン基板にスパッタリング及びX線光電子分光分析(XPS)を行い、得られた薄膜の膜厚を測定した。得られた結果を表5に示す。
【0032】
【表6】

【0033】
表6より明らかなように、第1処理工程でアルカリ性水溶液として炭酸カリウムを用いた場合、付着力は高く剥がれを生じることはなかった。また表面粗さは100nm程度の結果が得られた。薄膜の膜厚は300nm以下であった。一方、第1処理工程でアルカリ性水溶液として水酸化カリウムを使用した場合、付着力が低く、薄膜の大部分が剥離した。また、膜厚は3000nm(3μm)と厚く、表面粗さも300nmと粗い結果が得られた。
【0034】
<実施例6>
次の表7に示すように、第1処理工程の処理条件を変化させた以外は、実施例1と同様にしてチタン基板に表面処理を施した。得られた表面処理済チタン基板の表面の色調を目視により確認した。なお、表面処理前のチタン基板の色調は銀白色であった。得られた結果を表7に示す。
【0035】
【表7】

【0036】
表7より明らかなように、処理条件を変化させることで、様々な色調を有する薄膜を形成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】反応容器を使用した第1処理工程並びに第2処理工程を示す図。
【符号の説明】
【0038】
11 反応容器
12 アルカリ性水溶液
13 チタン基板
14 蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン含有基材表面をアルカリ炭酸塩又はアルカリ炭酸水素塩のいずれか一方又はその双方を含むアルカリ性水溶液により処理する第1処理工程と、
前記第1処理工程を施した基材表面を酸性水溶液により処理する第2処理工程と
をこの順に含むことを特徴とするチタン含有基材の表面処理方法。
【請求項2】
第1処理工程が基材表面を60〜150℃に維持されたpH9.0〜13.5のアルカリ性水溶液により1〜48時間処理する請求項1記載の方法。
【請求項3】
アルカリ性水溶液に水酸化アルカリを更に含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
第2処理工程が基材表面を60〜120℃に維持されたpH1.4〜3.5の酸性水溶液により1〜48時間処理する請求項1記載の方法。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の方法により表面処理された基材であって、
前記基材表面に厚さ0.5μm以下のアナターゼ型酸化チタン含有薄膜が連続的又は断続的に形成されたことを特徴とする表面処理されたチタン含有基材。

【図1】
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【公開番号】特開2006−249526(P2006−249526A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69328(P2005−69328)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】