説明

チタン酸ランタン化合物の製造方法およびチタン酸ランタン化合物

【課題】微粒子状で形状が制御されたチタン酸ランタン化合物、特に、異方性の高い板状の微粒子としてのチタン酸ランタン化合物を、低温かつ短時間の処理で、容易かつ確実に製造することができる製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のチタン酸ランタン化合物の製造方法では、ランタン化合物とチタン化合物との混合物を、臨界温度以上の温度かつ臨界圧力以上の圧力で、水熱処理することを特徴とする。前記チタン化合物は、チタン錯体化合物であり、当該錯体化合物を構成する配位子がTi原子に直接結合していないカルボキシル基を含むものでないのが好ましい。中でも、チタン化合物としては、ペルオキソグリコール酸チタンアンモニウムを用いるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸ランタン化合物の製造方法およびチタン酸ランタン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸複酸化物は、電気化学素子、電子素子等として利用できる有用な材料である。チタン酸複酸化物の中でも、チタン酸ランタンは、水を原料とする水素の製造や有機物の分解等の光化学触媒作用、イオン伝導体や誘電体等の電気化学素子の原料等として有望な材料である。チタン酸ランタンは従来、酸化物や炭酸塩等を原料とした前駆体を用いて、高温における固相反応を利用した合成法で製造されている。例えば、特許文献1には、酸化ランタンおよび酸化チタンの粉末の混合物を1500〜1600℃の温度で5〜6.5時間の焼成を行ない、酸化ランタンと酸化チタンと固相反応させることについての開示がある。このような固相反応により得られたチタン酸ランタン塊をミリング等の機械的外力により破砕することにより、チタン酸ランタンを所望の構造に適用することが可能な粉体として得ている。
【0003】
しかしながら、上記のような方法では、粒子の形状や大きさを制御することが困難であり、得られる粒子は、不定形で平均粒径が数〜数十μm程度のものである。そのため、微粒子化による、光触媒・化学触媒としての機能や、粒子の配向による誘電性や焦電性等の電気的特性の特性を向上させること等が困難であった。さらに1500℃以上の高温、長時間の熱処理を要するため工業生産におけるエネルギー投入量が大きく、省エネルギー、環境保全の観点から好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−226967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、微粒子状で形状が制御されたチタン酸ランタン化合物、特に、異方性の高い板状の微粒子としてのチタン酸ランタン化合物を提供すること、また、上記のようなチタン酸ランタン化合物を、低温かつ短時間の処理で、容易かつ確実に製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のチタン酸ランタン化合物の製造方法は、ランタン化合物とチタン化合物との混合物を、臨界温度以上の温度かつ臨界圧力以上の圧力で、水熱処理することを特徴とする。
これにより、微粒子状で形状が制御されたチタン酸ランタン化合物、特に、異方性の高い板状の微粒子としてのチタン酸ランタン化合物を、低温かつ短時間の処理で、容易かつ確実に製造することができる製造方法を提供することができる。
【0007】
本発明のチタン酸ランタン化合物の製造方法では、前記チタン化合物は、チタン錯体化合物であり、当該錯体化合物を構成する配位子がTi原子に直接結合していないカルボキシル基を含むものでないことが好ましい。
これにより、カルボキシル基とランタンとが反応してしまうことを効果的に防止・抑制することができ、目的とするチタン酸ランタン化合物をより高い収率で得ることができる。
【0008】
本発明のチタン酸ランタン化合物の製造方法では、前記チタン化合物として、ペルオキソグリコール酸チタンアンモニウムを用いることが好ましい。
これにより、目的としない副反応の進行をより効果的に防止・抑制することができ、目的とするチタン酸ランタン化合物をより高い収率で得ることができる。また、ランタン化合物とチタン化合物との反応性をより高いものとすることができ、より温和な条件で目的を進行させることができるとともに、目的とする反応の反応速度をより高いものとすることができ、チタン酸ランタン化合物の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0009】
本発明のチタン酸ランタン化合物の製造方法では、前記ランタン化合物として、La(OH)、La、La(NO、LaClよりなる群から選択される1種または2種以上を用いることが好ましい。
これにより、目的としない副反応の進行をより効果的に防止・抑制することができ、目的とするチタン酸ランタン化合物をより高い収率で得ることができる。また、ランタン化合物とチタン化合物との反応性をより高いものとすることができ、より温和な条件で目的を進行させることができるとともに、目的とする反応の反応速度をより高いものとすることができ、チタン酸ランタン化合物の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0010】
本発明のチタン酸ランタン化合物の製造方法では、前記水熱処理は、900℃以下の温度で行うものであることが好ましい。
これにより、チタン酸ランタン化合物の生産に要するエネルギー量を低いものとすることができ、省エネルギーの観点から好ましい。また、目的としない副反応の進行をより効果的に防止・抑制することができる。
【0011】
本発明のチタン酸ランタン化合物の製造方法では、前記水熱処理の処理時間は、1秒以上10分以下であることが好ましい。
これにより、チタン酸ランタン化合物の生産性を特に優れたものとすることができる。
本発明のチタン酸ランタン化合物は、本発明の方法を用いて製造されたことを特徴とする。
これにより、微粒子状で形状が制御されたチタン酸ランタン化合物、特に、異方性の高い板状の微粒子としてのチタン酸ランタン化合物を提供することができる。
【0012】
本発明のチタン酸ランタン化合物では、板状をなし、平均粒径が0.1μm以上30μm以下であることが好ましい。
これにより、該微粒子を用いて形成した薄膜やバルクの配向性が向上するため、光学素子の屈折率を高めたり、電気素子の誘電率を高めたりすることができる。
本発明のチタン酸ランタン化合物では、平均厚さが0.5μm以下であることが好ましい。
これにより、屈折膜の透明性を高めたり、電気素子の薄型化が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で得られたチタン酸ランタン化合物についてのX線回折の結果を示すチャートである。
【図2】実施例1で得られたチタン酸ランタン化合物についての電界放射型走査電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例1で得られたチタン酸ランタン化合物についての電界放射型走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《チタン酸ランタン化合物の製造方法》
まず、本発明のチタン酸ランタン化合物の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
<水熱処理工程>
本発明のチタン酸ランタン化合物の製造方法は、ランタン化合物とチタン化合物との混合物を、臨界温度以上の温度かつ臨界圧力以上の圧力で、水熱処理する水熱処理工程を有する。
【0015】
これにより、固形状で、微粒子状で形状が制御されたチタン酸ランタン化合物、特に、異方性の高い(より具体的には、結晶方位(001)面異方性の)板状の微粒子としてのチタン酸ランタン化合物を、低温かつ短時間の処理で、容易かつ確実に製造することができる。また、本発明では、上記のように形状や大きさが制御された固形状のチタン酸ランタン化合物を得ることができるため、当該チタン酸ランタン化合物を、電気化学素子、電子素子等の材料として用いた場合等に、その特性を特に優れたものとすることができる。特に、本発明では、異方性の高い固形状のチタン酸ランタン化合物を得ることができるため、当該チタン酸ランタン化合物を、電気化学素子、電子素子等の材料として用いた場合等に、上述したような効果をより顕著に発揮させることができる。
【0016】
チタン化合物は、Ti原子を構成成分として含むものであればいかなるものであってもよいが、チタン錯体化合物であり、当該錯体化合物を構成する配位子がTi原子に直接結合していないカルボキシル基を含むものでないのが好ましい。チタン化合物は一般的に水溶性に乏しいが、適当な化合物と錯を形成させて水溶性とすることで、目的とする反応の反応速度を高いものとすることができ、目的とするチタン酸ランタン化合物をより高い収率で得ることができる。特に、カルボキシル基とランタンとが反応してしまうことを効果的に防止・抑制することができ、目的とするチタン酸ランタン化合物をより高い収率で得ることができる。
【0017】
チタン化合物の具体例としては、ペルオキソグリコール酸チタンアンモニウム、乳酸チタンキレート等のα‐ヒドロキシカルボン酸を配位子とする錯体のうち、Ti原子と直接結合しないカルボキシル基を含まないもの、L-セリン、L−スレオニン等のα‐ヒドロキシアミノ酸を配位子とする錯体、ポルフィリン錯体、アミン錯体等が挙げられるが、中でも、ペルオキソグリコール酸チタンアンモニウムが好ましい。チタン化合物としてペルオキソグリコール酸チタンアンモニウムを用いることにより、目的としない副反応の進行をより効果的に防止・抑制することができ、目的とするチタン酸ランタン化合物をより高い収率で得ることができる。また、ランタン化合物とチタン化合物との反応性をより高いものとすることができ、より温和な条件で目的を進行させることができるとともに、目的とする反応の反応速度をより高いものとすることができ、チタン酸ランタン化合物の生産性を特に優れたものとすることができる。
ランタン化合物としては、Laを構成成分として含むものであればいかなるものを用いてもよいが、La(OH)、La、La(NO、LaClよりなる群から選択される1種または2種以上を用いるのが好ましい。
【0018】
これにより、水熱反応において目的としない副反応の進行をより効果的に防止・抑制することができ、目的とするチタン酸ランタン化合物をより高い収率で得ることができる。また、ランタン化合物とチタン化合物との反応性をより高いものとすることができ、より温和な条件で目的を進行させることができるとともに、目的とする反応の反応速度をより高いものとすることができ、チタン酸ランタン化合物の生産性を特に優れたものとすることができる。
【0019】
本工程での水熱処理は、900℃以下の温度で行うものであるのが好ましく、375℃以上500℃以下の温度で行うものであるのがより好ましく、375℃以上400℃以下の温度で行うものであるのがさらに好ましい。上記のような温度で水熱処理を行うことにより、チタン酸ランタン化合物の生産に要するエネルギー量を低いものとすることができ、省エネルギーの観点から好ましい。また、目的としない副反応の進行をより効果的に防止・抑制することができる。
【0020】
本工程での水熱処理は、22.4MPa以上320MPa以下の圧力で行うものであるのが好ましく、22.4MPa以上60MPa以下の圧力で行うものであるのがより好ましく、22.4MPa以上40MPa以下の圧力で行うものであるのがさらに好ましい。上記のような圧力で水熱処理を行うことにより、チタン酸ランタン化合物の生産に要するエネルギー量を低いものとすることができ、省エネルギーの観点から好ましい。また、目的としない副反応の進行をより効果的に防止・抑制することができる。また、比較的簡易な装置を用いて本工程を行うことができ、装置の大型化等の問題を回避することができる。
【0021】
水熱処理の処理時間は、1秒以上10分以下であるのが好ましく、30秒以上4分以下であるのが好ましい。水熱処理の処理時間を上記のようなものとすることにより、チタン酸ランタン化合物の生産性を特に優れたものとすることができる。
本工程で用いるチタン化合物とランタン化合物との比率(混合比率)は、TiとLaとのモル比率で、1:3以上2:1以下の条件を満足するものであるのが好ましく、1:1.3以上1.5:1以下の条件を満足するものであるのがより好ましい。これにより、目的とするチタン酸ランタン化合物をより高い収率で得ることができる。
【0022】
上記のような水熱処理を施すことにより、チタン酸ランタン化合物が生成する。
生成物としてのチタン酸ランタン化合物は、一般に、水に対して不溶性・難溶性(例えば、25℃における水100gに対する溶解度は0.01g以下であり、反応後の液体中に分散した状態、沈降した状態となる。
チタン酸ランタン化合物の組成は、原料として用いるランタン化合物およびチタン化合物の組成によるが、例えば、ランタン化合物として硝酸ランタン、チタン化合物としてペルオキソグリコール酸チタンアンモニウムを用いた場合、チタン酸ランタン化合物として、LaTiが合成される。
【0023】
なお、本工程での水熱処理は、超臨界水熱状態を維持できる反応装置であればいかなる装置を用いてもよく、例えば、耐圧容器に原料を充填して密閉し加熱することで超臨界状態を実現するバッチ式反応のほか、耐圧設計が施された流路に原料溶液を通液して超臨界水熱反応を連続的に行なう、いわゆる流通式の反応装置を用いることもできる。
【0024】
<分離工程>
本実施形態では、上述した水熱処理工程の後に、生成物を水から分離する分離工程を有している。これにより、不純物(未反応物や副生成物)を効率良く除去することができ、純度の高いチタン酸ランタン化合物を効率よく得ることができる。
分離工程は、ろ過等の方法により行うものであってもよいが、遠心分離により行うのが好ましい。これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。
【0025】
<再分散工程および再分離工程>
上記のようにして得られた生成物は、水中に再分散し(再分散工程)、さらに、上記と同様に生成物を水から分離(再分離工程)してもよい。これにより、より純度の高いチタン酸ランタン化合物を効率よく得ることができる。
上述した分離工程と再分離工程とは、同じ方法・条件で行うものであってもよいし、異なる方法・条件で行うものであってもよい。
また、再分散工程および再分離工程は、それぞれ、複数回行うものであってもよい。この場合、複数回の再分散工程は、同じ方法・条件で行うものであってもよいし、異なる方法・条件で行うものであってもよい。同様に、複数回の再分離工程は、同じ方法・条件で行うものであってもよいし、異なる方法・条件で行うものであってもよい。
【0026】
《チタン酸ランタン化合物》
次に、本発明のチタン酸ランタン化合物について説明する。
本発明のチタン酸ランタン化合物は、上述したような本発明のチタン酸ランタン化合物の製造方法を用いて製造されたものである。このようにして得られる本発明のチタン酸ランタン化合物は、従来では製造するのが困難であった、微粒子状で形状が制御されたものであり、特に、異方性の高い板状の微粒子をなすものである。
【0027】
上記のような方法を用いて製造されるチタン酸ランタン化合物は、板状をなすものであり、その平均粒径が0.1μm以上30μm以下であるものが好ましく、2μm以上15μm以下であるものがより好ましく、2μm以上8μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、一般的な粉体プロセスに適用しやすく、且つ微粒子薄膜などにおいて配向性が高い膜質が得られやすくなる。また、該微粒子を用いて形成した薄膜やバルクの配向性が向上するため、光学素子の屈折率を高めたり、電気素子の誘電率を高めたりすることができる。なお、本発明において、平均粒径とは、個数基準の平均粒径のことを指し、投影面積が最大となる方向から観察した際の面積Sと同一の面積を有する真円の直径の平均値のことを指す。また、平均粒径(D50)は、レーザー式粒度分布測定装置LA−920(堀場製作所製)、マルチサイザーIII(コールター社製)、ELS−800(大塚電子社製)、動的光散乱式 粒子径・粒度分布測定装置ナノトラックUPA−EX250(日機装社製)等の装置を用いて求めることができる。
【0028】
また、チタン酸ランタン化合物は、平均厚さが0.5μm以下であるのが好ましく、0.01μm以上0.1μm以下であるのがより好ましく、0.01μm以上0.05μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、各種素子として加工する際に薄膜状に形成しやすくなるため、薄型の素子として透明度や省スペース設計を向上できる。また、屈折膜の透明性を高めたり、電気素子の薄型化が容易になる。なお、本発明において、平均厚さとは、各粒子についての最大厚さを個数基準で求めた平均値のことを指し、粒子の投影面積が最大となる面の法線方向の厚さの平均値のことを指す。また、平均厚さは、電界放射型走査電子顕微鏡 ULTRA55(ZEISS社製)、透過型電子顕微鏡(Philips社製、CM200)等の装置を用いて求めることができる。
【0029】
また、チタン酸ランタン化合物の平均粒径をD[μm]、チタン酸ランタン化合物の平均厚さをT[μm]としたとき、4≦D/T≦1500の関係を満足するのが好ましく、200≦D/T≦1500の関係を満足するのがより好ましい。このような関係を満足することにより、粒子の扁平率が向上し配向構造を形成しやすくなるとともに、粒子としての取り扱いが容易になる。
【0030】
本発明のチタン酸ランタン化合物の粒子は、面方位(001)について、高い異方性を有しているため、例えば、高配向性の強誘電体セラミックコンデンサー等の電子回路部品等に好適に適用することができる。また、同様に強誘電体の配向面が揃うことによって、高屈折率の光学部品の製造にも好適に適用することができる。また、本発明のチタン酸ランタン化合物の粒子は、比表面積が大きいため、各種触媒等に好適に適用することができる。
【0031】
また、本発明においては、原料として用いるランタン化合物のTiの一部、チタン化合物のLaの一部を他の元素に置き換えてもよい。これにより、得られるチタン酸ランタン化合物(Tiの一部および/またはLaの一部が他の元素で置換されたもの)の特性を調整することができる。Laについての置換元素としては、例えば、アルカリ金属原子、アルカリ金属土類原子、La以外のランタノイド原子等が挙げられる。このような置換元素で置換することにより、生成物の触媒特性や誘電率等の特性を調整したり、イオン導電性や発光、ダイオード特性等を付与することもできる。また、Tiについての置換元素としては、Ti以外の遷移金属原子や典型金属原子等が挙げられる。このような置換元素で置換することにより、耐久性の向上や光励起波長の遷移、正孔またはホール移動度の向上、耐電圧の向上、導電性や磁性の付与等を図ることができる。
【0032】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、前述した実施形態では、水熱処理工程、分離工程、再分散工程および再分離工程を有する製造方法について中心的に説明したが、分離工程、再分散工程、再分離工程は省略してもよい。
また、本発明の製造方法は、前述した工程以外の他の工程を有するものであってもよい。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
[1]チタン酸ランタン化合物の製造
(実施例1)
まず、チタン化合物としての水溶性有機チタン錯体であるペルオキソグリコール酸チタンアンモニウムをイオン交換水に溶解して0.5M水溶液とした。ペルオキソグリコール酸チタンアンモニウムとしては、以下のようにして調製したものを用いた。すなわち、まず、アモルファスチタニア粉末(関東化学社製)を氷冷しながら過酸化水素水(関東化学)に溶解し、ペルオキソチタン酸水溶液とした。ここにアンモニア水(関東化学)を添加することでペルオキソチタン酸を安定化させた。十分にアモルファスチタニア粉末の溶解が進行したところでグリコール酸1水和物粉末(関東化学社製)をチタン原子のモル数の1.5倍となるようペルオキソチタン酸水溶液に添加し、60℃以下の温度で攪拌することで錯体化を進行させた。このようにして得られた黄色透明の水溶液を乾固することで黄色のペルオキソグリコール酸チタンアンモニウム塩の粉末を得た。
【0034】
上記のようにして得られたペルオキソグリコール酸チタンアンモニウムの水溶液中に、ランタン化合物としてのLa(OH)を添加し、超音波照射を行なうことでランタン濃度が0.5Mとなる分散液とした。La(OH)粒子としては、以下のようにして調製したものを用いた。すなわち、La(CHCOO)・1.5HO(関東化学社製)をイオン交換水に溶解し、当該溶液に、LiOH・HO(関東化学社製)をイオン交換水に溶解した水溶液をLaイオンのモル数の三倍モル当量加えて中和し、析出した微粒子をイオン交換水で洗浄したものを用いた。
上記のようにして得られたチタン化合物(ペルオキソグリコール酸チタンアンモニウム)とランタン化合物(La(OH))とを含む水溶液のpHを、水酸化リチウム(LiOH)を用いて12に調整した。このような前駆体溶液をニッケル基合金製高耐圧容器に充填し、400℃、37.2MPaの超臨界状態で、10分間の水熱処理を行った。
【0035】
反応後の微粒子懸濁液を反応容器から回収し、遠心分離による粒子の沈澱とイオン交換水に対する粒子の再分散を繰り返すことによって残留水溶性成分を除去した。洗浄後に残った水分を含む微粒子のスラリーを乾燥させ、目的とするチタン酸ランタン化合物の粒子を得た。
反応によって得られた粒子の同定は粉体X線回折装置(PANalytical社製、X’Pert PRO)を用いて行なった。その結果、単一相のLaTiで構成されたものであることが確認された(図1参照)。また、電界放射型走査電子顕微鏡(ZEISS社製、ULTRA55)を用いて粒子形状を確認したところ、一様に板状の粒子が観察された(図2参照)。また、粒子の反射電子像を観察するとコントラストはほぼ一様であり、したがって、生成物中にはXRD解析で検出困難な微量の異相も含まれていないことが確認された(図3参照)。さらに、透過型電子顕微鏡(Philips社製、CM200)による測定結果から得られた格子定数および電子線回折像を基に粒子の面方位の指数付けを行なったところ、本実施例で得られたチタン酸ランタン化合物の粒子(LaTi粒子)は(001)面方位異方的に偏平していることが明らかになった。
【0036】
(実施例2〜11)
チタン化合物、ランタン化合物の種類(組成)、これらの配合比率、水熱処理の処理温度、処理圧力、処理時間を表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にしてチタン酸ランタン化合物の粒子を得た。
【0037】
(比較例1)
酸化ランタン(La)および酸化チタン(TiO)の粉末の混合物を1550℃で6時間の焼成を行ない、酸化ランタンと酸化チタンと固相反応させ、塊状のチタン酸ランタンを得た。このチタン酸ランタン塊に、メタノールを加えて20質量%のスラリー状としたのち、前記スラリーに直径5mmおよび10mmのアルミナボールを投入し、ポリプロピレン容器内に密閉してミリング処理を400rpmの回転数で48時間行うことにより、粒子状のチタン酸ランタンを得た。
【0038】
(比較例2)
ミリング処理の処理時間を60分間に変更した以外は、前記比較例1と同様にしてチタン酸ランタン化合物の粒子を得た。
(比較例3)
高耐圧容器での処理を超臨界状態に達しない温度である360℃で行った以外は、前記実施例1と同様の操作を行った。
その結果、チタン化合物とランタン化合物との反応は十分に進行せず、チタン酸ランタン化合物を微量しか得ることができなかった。またチタン酸リチウムの副生が確認された。
【0039】
(比較例4)
高耐圧容器での処理を超臨界状態に達しない圧力である22MPaで行った以外は、前記実施例1と同様の操作を行った。
その結果、チタン化合物とランタン化合物との反応は進行せず、チタン酸ランタン化合物を得ることができなかった。
各実施例および各比較例の製造方法の条件を表1にまとめて示す。なお、表1中、ペルオキソグリコール酸チタンアンモニウムを「T1」、TiOを「T2」、ペルオキソクエン酸チタンアンモニウム塩を「T3」、La(OH)を「L1」、硝酸ランタンを「L2」、塩化ランタンを「L3」で示した。
【0040】
【表1】

【0041】
[2]評価
[2.1]粒度分布(平均粒径、半値幅、厚さ)
前記各実施例(実施例3を除く)および比較例1、2のチタン酸ランタン化合物の粒子について、動的光散乱式粒径・粒度分布測定装置ナノトラックUPA−EX250(日機装社製)を用いて、粒度分布を求め、その結果から、平均粒径D、最大ピークの粒径についての半値幅を求め、さらに、平均厚さTを求めた。半値幅が小さいほど、粒子の大きさの均一性が高いものといえる。
また、実施例3においては、SEMを用い、薄片状の形態を有し、EDX像でTi原子及びLa原子の両方を含む粒子を数十個ピックアップし、粒子径及び厚みを求めて平均化した。平均粒径については、各粒子の最長径を平均化して求めた。
【0042】
[2.2]面異方性
前記各実施例および比較例1、2のチタン酸ランタン化合物の粒子について、エタノールに対して重量が10%となるよう分散液を調製し、Si基板に分散液を0.5ml塗布して乾燥させた。このようにして得られた薄膜状の粒子堆積物を粉体X線回折装置 X’Pert PRO(PANalytical社製)によるXRD解析に供した。
【0043】
このとき(001)配向によって増強する(002)回折ピーク、およびチタン酸ランタンのメインピークである(212)の回折ピークについて、それらの積分強度をそれぞれI1およびI2とし、I1/I2の値を求めた。I1/I2の値が大きな試料ほど(001)配向性が強いといえる。
これらの結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2から明らかなように、本発明では、優れた結果が得られた。これに対し、比較例では、満足な結果が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタン化合物とチタン化合物との混合物を、臨界温度以上の温度かつ臨界圧力以上の圧力で、水熱処理することを特徴とするチタン酸ランタン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記チタン化合物は、チタン錯体化合物であり、当該錯体化合物を構成する配位子がTi原子に直接結合していないカルボキシル基を含むものでない請求項1に記載のチタン酸ランタン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記チタン化合物として、ペルオキソグリコール酸チタンアンモニウムを用いる請求項2に記載のチタン酸ランタン化合物の製造方法。
【請求項4】
前記ランタン化合物として、La(OH)、La、La(NO、LaClよりなる群から選択される1種または2種以上を用いる請求項1ないし3のいずれかに記載のチタン酸ランタン化合物の製造方法。
【請求項5】
前記水熱処理は、900℃以下の温度で行うものである請求項1ないし4のいずれかに記載のチタン酸ランタン化合物の製造方法。
【請求項6】
前記水熱処理の処理時間は、1秒以上10分以下である請求項1ないし5のいずれかに記載のチタン酸ランタン化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の方法を用いて製造されたことを特徴とするチタン酸ランタン化合物。
【請求項8】
板状をなし、平均粒径が0.1μm以上30μm以下である請求項7に記載のチタン酸ランタン化合物。
【請求項9】
平均厚さが0.5μm以下である請求項8に記載のチタン酸ランタン化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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