説明

チップドレッサ

【課題】チップドレッサを様々な先端形状の電極チップに対応させる。
【解決手段】チップドレッサ15はベースブロック20およびメインブロック22を備えるドレッサ本体23を有する。メインブロック22には電極チップ13を案内する挿入口27が形成される。また、メインブロック22にはカッター部材41,42を支持する支持ボルト43が設けられる。また、ベースブロック20にはカッター部材41,42に接触するテーブル部材50がネジ結合され、ドレッサ本体23に対してテーブル部材50を上下動させることが可能となる。テーブル部材50を上昇させることにより、カッター部材41,42を矢印α方向に回動させることができ、切削角度を大きく設定することが可能となる。一方、テーブル部材50を下降させることにより、カッター部材41,42を矢印β方向に回動させることができ、切削角度を小さく設定することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接用の電極チップを整形するチップドレッサに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車体組立ラインにおいては、組み合わされたパネルに対してスポット溶接が施されている。スポット溶接を行うロボットアームの先端には溶接ガンが組み付けられており、この溶接ガンに設けられる一対のアーム部材の先端にはそれぞれ電極チップが取り付けられている。そして、一対の電極チップによってパネルを加圧しながら、電極チップ間で大電流を流すことにより、電流の抵抗発熱によってパネルを溶接することが可能となっている。
【0003】
ところで、スポット溶接を繰り返すことにより、電極チップは加圧や発熱によって消耗するため、電極チップの先端形状が変化することになっていた。このような電極チップの消耗は溶接品質に影響を与えることから、溶接品質を良好に保つためには定期的に電極チップを整形することが重要となっている。そこで、消耗した電極チップを整形するためのチップドレッサが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−52054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたチップドレッサにおいては、切削刃の形状によって電極チップの先端形状が決定されるため、様々な先端形状の電極チップを整形するためには、複数の切削刃を準備しておく必要があるだけでなく、切削刃の交換作業が必要となっていた。このように、複数の切削刃を用意することや切削刃の交換作業を行うことは、電極チップを整形する際の作業コストを増大させる要因となっていた。
【0005】
本発明の目的は、様々な先端形状の電極チップに対応させることが可能なチップドレッサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のチップドレッサは、溶接用の電極チップを整形するチップドレッサであって、前記電極チップを案内する挿入口が形成されるとともに、前記挿入口の中心線に交差する支持軸を備えるドレッサ本体と、前記支持軸に回動自在に取り付けられ、前記挿入口内に露出する刃部を備える第1カッター部材と、前記支持軸に回動自在に取り付けられ、前記挿入口内に露出する刃部を備える第2カッター部材と、前記支持軸に向けて移動自在に前記ドレッサ本体に設けられ、前記第1および第2カッター部材の端部に接触するテーブル部材と、前記テーブル部材を移動させて前記第1および第2カッター部材を回動させることにより、前記第1および第2カッター部材の刃部によって設定される前記電極チップの切削角度を変化させることを特徴とする。
【0007】
本発明のチップドレッサは、前記テーブル部材に接触する前記第1および第2カッター部材の端部は円弧状に形成されることを特徴とする。
【0008】
本発明のチップドレッサは、前記第1および第2カッター部材を固定する固定機構を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第1および第2カッター部材の端部に接触するテーブル部材を移動させることにより、支持軸に支持される第1および第2カッター部材を回動させるようにしたので、第1および第2カッター部材の刃部によって設定される電極チップの切削角度を自在に変化させることが可能となる。これにより、チップドレッサを様々な先端形状の電極チップに対応させることができ、電極チップを整形する際の作業コストを引き下げることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は溶接ガン10の一例を示す説明図である。図1に示すように、溶接ガン10には一対のアーム部材11,12が設けられており、これらアーム部材11,12の先端には電極チップ13を備えたシャンク14が取り付けられている。このように溶接ガン10に設けられる電極チップ13を用いて、パネル材等のワークWを加圧しながら大電流を流すことにより、抵抗発熱によってワークWを溶接することが可能となっている。このようなスポット溶接を繰り返すことは、加圧や発熱によって電極チップ13を消耗させてしまうため、電極チップ13の先端形状を変形させる要因となっていた。このような電極チップ13の変形は溶接品質の低下を招くことから、定期的に電極チップ13の先端形状を整形することが重要となっている。ここで、図2は本発明の一実施の形態であるチップドレッサ15の使用状態の一例を示す説明図である。図2に示すように、消耗した電極チップ13は溶接ガン10から回収され、ボール盤16の主軸17に装着された作業用シャンク18に対して取り付けられる。また、ボール盤16の作業テーブル19にはチップドレッサ15が取り付けられている。そして、電極チップ13を回転させながらチップドレッサ15内に挿入することにより、電極チップ13の先端形状を整形することが可能となる。
【0011】
図3はチップドレッサ15を示す斜視図であり、図4はチップドレッサ15の内部構造を示す分解斜視図である。また、図5(A)はチップドレッサ15を示す正面図であり、図5(B)はチップドレッサ15を示す平面図である。図3〜図5に示すように、チップドレッサ15は、ベースブロック20、支柱ブロック21およびメインブロック22によって構成されるドレッサ本体23を有しており、ドレッサ本体23を構成する各ブロック20〜22はボルト部材24によって締結されている。ベースブロック20には、作業テーブル19に固定する為のボルト挿入穴25が形成されるとともに、後述するテーブル部材50が取り付けられる雌ねじ部26が形成されている。また、メインブロック22には、上下方向に延びる挿入口27が形成されるとともに、上下方向に貫通する一対のカッター溝28,29が形成されている。さらに、メインブロック22には、幅方向に貫通する確認窓30が形成されるとともに、幅方向に貫通する複数のボルト挿入穴31〜33が形成されている。なお、ボルト挿入穴31〜33には雌ねじ部が形成されている。
【0012】
図3〜図5に示すように、一方のカッター溝28には、刃部41aおよび円弧状の下端部(端部)41bを備える第1カッター部材41が収容され、他方のカッター溝29には、刃部42aおよび円弧状の下端部(端部)42bを備える第2カッター部材42が収容されている。略扇形状に形成されるカッター部材41,42には貫通孔41c,42cとボルト溝41d,42dとが形成されており、それぞれの貫通孔41c,42cには支持軸としての支持ボルト43が通され、それぞれのボルト溝41d,42dには固定ボルト44,45が通されている。なお、支持ボルト43は挿入口27の中心線CLに直交(交差)するように配置されており、この支持ボルト43に支持されるカッター部材41,42の刃部41a,42aは挿入口27内に露出するようになっている。
【0013】
このように、メインブロック22に対してカッター部材41,42を取り付けることにより、メインブロック22に装着される支持ボルト43や固定ボルト44,45を緩めたときには、支持ボルト43を中心にカッター部材41,42を回動させることが可能となる。一方、固定機構として機能する支持ボルト43や固定ボルト44,45を締め付けたときには、カッター部材41,42をメインブロック22に対して固定することが可能となる。なお、カッター部材41,42に形成されるボルト溝41d,42dは円弧状に湾曲していることから、固定ボルト44,45に対して干渉することなくカッター部材41,42を回動させることが可能となっている。
【0014】
また、図3〜図5に示すように、チップドレッサ15は、雄ねじ部51を備えたテーブル部材50を有している。このテーブル部材50はベースブロック20の雌ねじ部26に対して取り付けられており、回転させることでテーブル部材50を上下動させること、すなわち支持ボルト43に向けて移動させることが可能となっている。なお、テーブル部材50の直径は支柱ブロック21の幅寸法よりも大きく形成されており、テーブル部材50には滑り止めのローレット加工が施されることから、外部に露出するテーブル部材50を作業者は容易に回転させることが可能となっている。
【0015】
ここで、図6(A)はテーブル部材50を上昇させたときのチップドレッサ15の作動状態を示す説明図であり、図6(B)はテーブル部材50を下降させたときのチップドレッサ15の作動状態を示す説明図である。図6(A)に示すように、テーブル部材50を回転させて上昇させることにより、テーブル部材50によってカッター部材41,42が押し上げられるため、それぞれのカッター部材41,42は矢印α方向に回動することになる。これにより、双方のカッター部材41,42の刃部41a,42aによって設定される角度を狭めることができるため、電極チップ13の切削角度を大きく設定することが可能となる。一方、図6(B)に示すように、テーブル部材50を回転させて下降させることにより、テーブル部材50に追従してカッター部材41,42が下降するため、それぞれのカッター部材41,42は矢印β方向に回動することになる。これにより、双方のカッター部材41,42の刃部41a,42aによって設定される角度を広げることができるため、電極チップ13の切削角度を小さく設定することが可能となる。
【0016】
このように、テーブル部材50を操作して電極チップ13の切削角度を設定し、支持ボルト43や固定ボルト44,45を締め付けてカッター部材41,42を固定した後に、回転する電極チップ13が挿入口27からカッター部材41,42に向けて挿し込まれる。これにより、設定された切削角度によって電極チップ13を切削することができ、電極チップ13の先端を所定形状に整形することが可能となる。なお、電極チップ13をガイドする挿入口27は電極チップ13の直径とほぼ同等に形成されており、挿入される電極チップ13の振れを抑制することが可能となっている。また、図6(A)および(B)に示すように、カッター部材41,42の刃部41a,42aと電極チップ13との接触部位は、メインブロック22に形成された確認窓30によって目視することができ、切削状態を確認しながら電極チップ13の整形作業を確実に行うことが可能となる。また、確認窓30からカッター部材41,42等に向けてエアブローを施すことができるため、切削時に発生する切りくず等を容易に除去することが可能となっている。
【0017】
また、図5(A)に示すように、テーブル部材50には基準線52が形成されており、支柱ブロック21には目盛り53が形成されている。支柱ブロック21の目盛り53は双方の刃部41a,42aの間の角度に対応しており、テーブル部材50の基準線52を支柱ブロック21の目盛り53に合わせることにより、チップドレッサ15によって加工される電極チップ13の切削角度を簡単に設定することが可能となる。なお、図示する場合には、支柱ブロック21の目盛り53に付された角度は、双方の刃部41a,42aによって設定される角度に対応しているが、これに限られることはなく、支柱ブロック21の目盛り53に電極チップ13の切削角度を付しても良い。
【0018】
これまで説明したように、テーブル部材50を上下動させることにより、カッター部材41,42を回動させることができ、双方の刃部41a,42aによって設定される角度を任意に設定することができるため、電極チップ13の切削角度を自在に設定することが可能となる。これにより、様々な先端形状の電極チップ13にチップドレッサ15を対応させることができるため、電極チップ13の先端形状に合わせて多くの切削刃を用意したり、電極チップ13の先端形状が変わるたびに切削刃を交換したりする必要がなく、電極チップ13の整形コストを大幅に引き下げることが可能となる。
【0019】
また、テーブル部材50に接触するカッター部材41,42の下端部41b,42bは円弧状に形成されるため、テーブル部材50を上下動させた場合であっても、カッター部材41,42をテーブル部材50に対して滑らかに追従させることが可能となる。これにより、テーブル部材50の回転操作が容易となるだけでなく、カッター部材41,42を確実に回動させることが可能となる。さらに、目盛り53を目標としてテーブル部材50を上下動させることにより、カッター部材41,42の回動角度を簡単に精度良く設定することができ、電極チップ13の整形作業の簡素化を図ることが可能となる。
【0020】
しかも、1つのテーブル部材50を上下動させることにより、双方のカッター部材41,42を連動させて回動させる構造であるため、カッター部材41,42の回動角度のバラツキを抑制することが可能となる。これにより、双方の刃部41a,42aを電極チップ13に対して満遍なく接触させることができ、電極チップ13を切削する際の心振れを抑制することが可能となる。さらに、メインブロック22には電極チップ13の挿入口27が形成されており、この挿入口27によって電極チップ13の振れを抑制しながら、電極チップ13をカッター部材41,42に向けて案内することが可能となる。このように、挿入口27によっても電極チップ13を切削する際の心振れを抑制することが可能となる。
【0021】
また、図示する場合には、カッター部材41,42の刃部41a,42aが凹状に湾曲しているが、刃部41a,42aの形状はこれに限られることはなく、電極チップ13の先端形状に合わせて任意に設定することが可能である。ここで、図7は本発明の他の実施の形態であるチップドレッサ60を示す正面図である。なお、図7において図5(A)に示す部材と同一の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。図7に示すように、第1カッター部材61の刃部61aと第2カッター部材62の刃部62aとを、それぞれ直線状に形成しても良い。このように、双方の刃部61a,62aを直線状に形成することにより、電極チップ13の先端形状を円錐台形状に整形することが可能となる。
【0022】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、前述の説明では、電極チップ13側を回転させることにより、電極チップ13の先端形状を整形するようにしているが、これに限られることはなく、チップドレッサ15,60側を回転させることにより、電極チップ13の先端形状を整形するようにしても良い。また、回転自在となるチップドレッサ15,60を溶接工程のラインサイドに設置することにより、定期的に溶接ガン10の電極チップ13をチップドレッサ15,60に挿入するように、溶接ガン10を操作する溶接ロボットの動作をプログラムしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】溶接ガンの一例を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態であるチップドレッサの使用状態の一例を示す説明図である。
【図3】チップドレッサを示す斜視図である。
【図4】チップドレッサの内部構造を示す分解斜視図である。
【図5】(A)はチップドレッサを示す正面図であり、(B)はチップドレッサを示す平面図である。
【図6】(A)はテーブル部材を上昇させたときのチップドレッサの作動状態を示す説明図であり、(B)はテーブル部材を下降させたときのチップドレッサの作動状態を示す説明図である。
【図7】本発明の他の実施の形態であるチップドレッサを示す正面図である。
【符号の説明】
【0024】
13 電極チップ
15 チップドレッサ
23 ドレッサ本体
27 挿入口
41 カッター部材(第1カッター部材)
41a 刃部
41b 下端部(端部)
42 カッター部材(第2カッター部材)
42a 刃部
42b 下端部(端部)
43 支持ボルト(支持軸,固定機構)
44,45 固定ボルト(固定機構)
50 テーブル部材
60 チップドレッサ
61 カッター部材(第1カッター部材)
61a 刃部
62 カッター部材(第2カッター部材)
63a 刃部
CL 中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接用の電極チップを整形するチップドレッサであって、
前記電極チップを案内する挿入口が形成されるとともに、前記挿入口の中心線に交差する支持軸を備えるドレッサ本体と、
前記支持軸に回動自在に取り付けられ、前記挿入口内に露出する刃部を備える第1カッター部材と、
前記支持軸に回動自在に取り付けられ、前記挿入口内に露出する刃部を備える第2カッター部材と、
前記支持軸に向けて移動自在に前記ドレッサ本体に設けられ、前記第1および第2カッター部材の端部に接触するテーブル部材と、
前記テーブル部材を移動させて前記第1および第2カッター部材を回動させることにより、前記第1および第2カッター部材の刃部によって設定される前記電極チップの切削角度を変化させることを特徴とするチップドレッサ。
【請求項2】
請求項1記載のチップドレッサにおいて、
前記テーブル部材に接触する前記第1および第2カッター部材の端部は円弧状に形成されることを特徴とするチップドレッサ。
【請求項3】
請求項1または2記載のチップドレッサにおいて、
前記第1および第2カッター部材を固定する固定機構を有することを特徴とするチップドレッサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−131646(P2010−131646A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311114(P2008−311114)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(508360095)株式会社鈴木機械 (1)