説明

チャック摺動部用潤滑組成物

【課題】チャックの把握力の向上や安定性を確保せしめる摩擦特性および耐久性を改善させたチャック摺動部用潤滑組成物を提供する。
【解決手段】基油および増稠剤からなるグリースに、グリースとの合計量中15〜65重量%を占める割合で無機粉末を含有せしめたチャック摺動部用潤滑組成物。無機粉末としては、一次粒径または平均粒径が約0.1〜50μm、好ましくは0.5〜20μm程度(ただし、酸化けい素にあっては平均粒径が約1〜50nm、好ましくは約5〜40nm程度)のものが用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャック摺動部用潤滑組成物に関する。さらに詳しくは、チャックの把握力の向上や安定性を確保せしめる摩擦特性および耐久性を改善させたチャック摺動部用潤滑組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
チャックは、チャッキング治具の一種であり、工作機械では最も一般的でかつ重要な構成部品の一つであるといえる。チャックの作動方式には、手動式、油圧式、空圧式、電動式などがあり、その開閉方式にはくさび形、カムレバー型、クランク型、ドローダウン型、スクロール型などがあり、一般的にはセルフロックが利き、内外径チャックもできることから、くさび形が多く使用されている。
【0003】
従来から工作機械チャック摺動部にはグリースが使用されており、一般的にはチャック用グリースとして、基油として鉱油を、増稠剤としてリチウム系石けんを用いた汎用のグリースが使用されている。
【0004】
また、キー付きチャック、キー無しチャック、すべての形式のコレット、迅速釈放チャック、タップ取付装置、鋸刃または研磨ディスクを駆動スピンドルに取り付けるナットおよびトルク増大装置、工具を駆動部材で取り付ける装置または機構などの工具保持装置の主要な摩擦係合構成部品に、好ましくはコーティングとして施された、固体薄膜潤滑剤が用いられており、固体潤滑剤は結合剤と顔料とからなり、結合剤に担持される粒子顔料として最も普通の組合せは、10%のグラファイトと90%の二硫化モリブデンであるとされている。
【特許文献1】特表平11−506704公報
【0005】
これ迄は、冷却液や切削液に対する耐性のありグリースが必要特性として挙げられており、それらの特性を満足させるグリースが使用されてきたが、近年の加工速度の高速化や高精度加工化のため、ワークの強力把握や把握力の安定化が要求されており、このためチャックの把握力が重要な要素であるが、把握力の低下という問題でこうした要求に対応できないのが現状である。
【0006】
また、従来は、下記特許文献2〜3に示される如く、チャックのジョウ形状やジョウの軽量化に関する発明はみられるものの、把握力と塗布グリースとの関係についての検討はなされていない。
【特許文献2】特許第2,646,076号公報
【特許文献3】特許第2,579,750号公報
【0007】
グリースについてのチャックの把握は、マスタージョーとチャック本体との摺動によって起きており、摺動部の摩擦力が小さい程、より小さな力で把握することができる。しかしながら、従来の汎用グリースでは、摩擦力が大きいため、把握力の向上や安定性が望めないという問題がみられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、チャックの把握力の向上や安定性を確保せしめる摩擦特性および耐久性を改善させたチャック摺動部用潤滑組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる本発明の目的は、基油および増稠剤からなるグリースに、グリースとの合計量中15〜65重量%を占める割合で無機粉末を含有せしめたチャック摺動部用潤滑組成物によって達成される。無機粉末としては、一次粒径または平均粒径が約0.1〜50μm、好ましくは0.5〜20μm程度(ただし、酸化けい素にあっては平均粒径が約1〜50nm、好ましくは約5〜40nm程度)のものが用いられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る潤滑組成物は、グリースに無機粉末を含有せしめることにより、これをチャック摺動部に適用したとき、摩擦係数によって示される摩擦特性および試験片ディスクの摩耗痕径によって示される耐久性を改善することができ、その結果前記の如き各種工作機械用チャックに大きな把握力を与えることができ、また把握力が一定となる、スティックスリップを起し難い、トライボ損傷を起し難い、冷却液や切削液に対する耐性が改善されるといった効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
基油としては、例えばパラフィン系、ナフテン系等の鉱物油、ポリ-α-オレフィン、エチレン・α-オレフィンコオリゴマー、ポリブデンまたはこれらの水素化物等の合成炭化水素油、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、芳香族多価カルボン酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、炭酸エステル等のエステル系合成油、アルキルジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコール等のエーテル系合成油が挙げられる。
【0012】
これらの各種基油の性状については特に制限がなく、使用条件に応じて適宜選択し得るが、一般にはその動粘度(40℃)が約2〜1000mm2/秒、好ましくは約5〜500mm2/秒のものが用いられる。これ以下の動粘度を有する基油を用いると、蒸発損失の増加や油膜強度の低下など寿命の低下や摩耗、焼付きの原因となる可能性があり、一方これ以上の動粘度のものを用いると、粘性抵抗の増加などトルクが大きくなる不具合を生ずる可能性がある。
【0013】
増稠剤としては、リチウム系石けん、リチウム系複合石けん、カルシウム系石けん、カルシウム系複合石けん、バリウム系石けん、バリウム系複合石けん、アルミニウム系石けん、アルミニウム系複合石けん等の石けん類またはウレア系化合物が用いられる。
【0014】
無機粉末としては、窒化けい素、酸化けい素等のけい素化合物、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛等のリン酸金属塩、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の金属酸化物などの粉末の少くとも一種が用いられる。これらの無機粉末は、一次粒径または平均粒径が約0.1〜50μm、好ましくは約0.5〜20μm程度のものが用いられ、ただし酸化けい素にあっては約1〜50nm、好ましくは約5〜40nmのものが用いられる。粒径がこれよりも小さい無機粉末を用いると耐久性に問題がみられ、一方これよりも大きい粒径の無機粉末を用いると、潤滑面に粉末粒子が円滑に供給されないため、所望の効果が得られない。
【0015】
これらの無機粉末は、基油および増稠剤からなるグリースとの合計量中約15〜65重量%、好ましくは約25〜55重量%を占める割合で用いられる。無機粉末の添加割合がこれ以下では、添加した無機粉末の能力が発揮されず、摩擦係数の低減が期待できず、一方これ以上の添加割合で無機粉末が用いられると、組成物が硬くなりすぎしかも離油が大きくなり、グリース化することができなくなる。
【0016】
残りの約85〜35重量%、好ましくは約75〜45重量%を占めるグリースの内、基油は約99.9〜60重量%、好ましくは約95〜70重量%を、また増稠剤は約0.1〜40重量%、好ましくは約5〜30重量%を占めるような割合でそれぞれ用いられる。
【0017】
組成物中には、さらに従来潤滑剤に添加されている酸化防止剤、防錆剤、腐食防止剤、極圧剤、油性剤、粘度指数向上剤等のその他の添加剤を必要に応じて添加することができる。酸化防止剤としては、例えば2,6-ジ第3ブチル-4-メチルフェノール、4,4′-メチレンビス(2,6-ジ第3ブチルフェノール)等のフェノール系の酸化防止剤、アルキルジフェニルアミン、トリフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェノチアジン等のアミン系の酸化防止剤、さらにはリン酸系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられる。
【0018】
防錆剤としては、例えば脂肪酸、脂肪酸アミン、アルキルスルホン酸金属塩、アルキルスルホン酸アミン塩、酸化パラフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられ、また腐食防止剤としては、例えばベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、チアジアゾール等が挙げられる。
【0019】
極圧剤としては、例えばリン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等のリン系化合物、スルフィド類、ジスルフィド類等のイオウ系化合物、ジアルキルジチオリン酸金属塩、ジアルキルジチオカルバミン酸金属塩等のイオウ系化合物金属塩、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニル等の塩素系化合物などが挙げられる。
【0020】
油性剤としては、例えば脂肪酸またはそのエステル、高級アルコール、多価アルコールまたはそのエステル、脂肪族アミン、脂肪酸モノグリセライド、モンタンワックス、アミド系ワックス等が挙げられる。また、他の固体潤滑剤としては、例えば二硫化モリブデン、グラファイト、窒化ホウ素、窒化シラン等が挙げられる。
【0021】
粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート、エチレン-プロピレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、スチレン-イソプレン共重合体水素化物等が挙げられる。
【0022】
組成物の調製は、基油、増稠剤、無機粉末および他の必要な添加剤を所定量添加し、3本ロールまたは高圧ホモジナイザで十分に混練する方法等によって行われる。
【実施例】
【0023】
次に、実施例について本発明の効果を説明する。
【0024】
実施例1〜6、比較例1〜6
基油A:鉱油(40℃動粘度30mm2/秒)
〃 B:ポリα-オレフィン油(40℃動粘度400mm2/秒)
〃 C:ポリアルキレングリコール油(40℃動粘度400mm2/秒)
増稠剤A:Li系石けん
〃 B:Li系複合石けん
〃 C:Ba系複合石けん
〃 D:Ca系複合石けん
無機粉末A:リン酸亜鉛(一次粒径3μm)
〃 B:酸化亜鉛(平均粒径2μm)
〃 C:酸化けい素(平均粒径14nm)
〃 D:MoS2(平均粒径10μm)
酸化防止剤:フェニルナフチルアミン
【0025】
以上の基油、増稠剤、無機粉末および酸化防止剤(2重量部共通して使用)の各成分からなる潤滑組成物を、図1にその主要部品が示される装置(SRV試験機)のシリンダー1およびディスク2の間に供給し、次の試験条件下で、その間に発生する摩擦力から摩耗係数を測定すると共に、試験後のディスクの摩耗痕径を測定することにより耐久性を評価した。得られた測定結果は、次の表に示される。
(試験条件)
上部試験片:100CR6製シリンダー(15mm径、長さ22mm)
下部試験片:100CR6製ディスク(24mm径、長さ7.9mm)
試験荷重:200N
滑り距離:0.5mm
振動数:50Hz
試験温度:50℃
試験時間:60分間

基油 増稠剤 無機粉末 摩耗 摩耗
種類 重量部 種類 重量部 種類 重量部 係数 深さ(μm)
実施例1 A 65 A 5 A 28 0.19 0.5
〃 2 A 40 D 10 A 28 0.15 0.4
B 20
〃 3 A 35 C 15 A 20 0.15 0.4
B 28
〃 4 A 35 D 10 A 25 0.14 0.3
B 20
C 8
〃 5 B 50 C 20 B 28 0.18 0.5
〃 6 C 50 A 15 A 33 0.18 0.5
比較例1 A 83 A 15 − − >0.50 2.1
〃 2 A 78 A 10 D 10 0.38 1.2
〃 3 A 75 B 20 C 3 >0.50 2.2
〃 4 A 70 D 25 A 3 >0.50 1.9
〃 5 B 65 C 30 B 3 0.45 1.7
〃 6 C 66 C 28 A 4 0.43 1.8
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】測定に用いられたSRV試験機の概略図である。
【符号の説明】
【0027】
1 シリンダー
2 ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油および増稠剤からなるグリースに、グリースとの合計量中15〜65重量%を占める割合で無機粉末を含有せしめてなるチャック摺動部用潤滑組成物。
【請求項2】
無機粉末がけい素化合物、リン酸金属塩および金属酸化物の少くとも一種である請求項1記載のチャック摺動部用潤滑組成物。
【請求項3】
一次粒径または平均粒径が0.1〜50μmの無機粉末(ただし、酸素けい素にあっては1〜50nm)が用いられた請求項1または2記載のチャック摺動部用潤滑組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−75036(P2008−75036A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258344(P2006−258344)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000102670)NOKクリューバー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】