説明

チャック

【課題】チャック先端部での締め付け力を高める。
【解決手段】工具を挿入するチャック筒1と、チャック筒に被せられる締付け筒2と、チャック筒と締付け筒との間の隙間に介装されるローラ3及びリテーナと、上記隙間の先端部を封止するシールキャップ5と、シールキャップ5をチャック筒1の先端部に保持する止め輪6とを具備したチャックにおいて、チャック筒の工具挿入穴1aの内周面に、チャック筒の軸方向に伸びる縦溝17が、チャック筒の先端部に閉止部17aを残すように複数条形成され、閉止部には、チャック筒の先端面から縦溝内に向かって貫通する縦穴18が穿設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具を固定するためのチャックに関する。
【背景技術】
【0002】
チャックは、工具を挿入するチャック筒と、チャック筒に被せられる締付け筒と、チャック筒と締付け筒との間の隙間に介装されるローラ及びリテーナとを備える。チャック筒と締付け筒の対向面はテーパ面となっており、このテーパ面間にローラがリテーナに保持された状態で挿入されている。締付け筒を一方に回すと、ローラを介しチャック筒が締め付けられて縮径し、工具を保持する。締付け筒を逆向きに回すと、チャック筒が緩められて拡径し、工具を解放する。
【0003】
チャック筒と締付け筒との間の隙間には、切削油、切粉、ゴミ等の隙間内への侵入を防止するためシールキャップが嵌め込まれ、止め輪によって隙間内に固定される。
【0004】
チャックはその口元で工具を締め付ける方が、より適正に工具を保持することができ、振動も少ない。そこで、特開平11−77412が開示するチャックは、シールキャップや止め輪の設置によって口元での締め付けに支障を来たすことがないようにするため、シールキャップをチャック筒の先端に固定している。具体的には、チャック筒の肉厚内に縦穴を複数本穿設し、この縦穴に止め具を挿入し、この止め具でシールキャップをチャック筒の先端に固定している。また、止め輪を用いてシールキャップをチャック筒に取り付けるようにすると、チャックが高速回転したときに遠心力で止め輪が広がってチャックの回転バランスが崩れたり止め輪やシールキャップがチャックから脱落したりするおそれがあるが、この特開平11−77412のチャックは遠心力で拡開するような止め輪が用いられないので、従来の不具合が解消される。
【0005】
また、特許第2562883が開示するチャックは、チャック筒の内面に溝を複数条形成している。このようにチャック筒の内面に溝を形成するとチャック筒の溝部での剛性が低減し、締付け筒で締め付けたときに円滑に縮径し、工具を適正に保持することができる。
【0006】
【特許文献1】特開平11−77412号公報
【特許文献2】特許第2562883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許第2562883が開示するチャックは、チャック筒の内面に溝を複数条備えるが、チャック筒の先端部は切削油の漏れ出しや侵入を防止するために溝の先端はチャック筒の先端面の手前で途切れている。そのため、チャック筒の先端部の剛性が高く、チャックの先端部で強く締め付けることができなくなる場合がある。
【0008】
本発明は上記問題点を解決することができるチャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、工具を挿入するチャック筒(1)と、チャック筒(1)に被せられる締付け筒(2)と、チャック筒(1)と締付け筒(2)との間の隙間に介装されるローラ(3)及びリテーナと、上記隙間の先端部を封止するシールキャップ(5)と、シールキャップ(5)をチャック筒(1)の先端部に保持する止め輪(6)とを具備したチャックにおいて、チャック筒(1)の工具挿入穴(1a)の内周面に、チャック筒(1)の軸方向に伸びる縦溝(17)が、チャック筒(1)の先端部に閉止部(17a)を残すように複数条形成され、閉止部(17a)には、チャック筒(1)の先端面から縦溝(17)内に向かって貫通する縦穴(18)が穿設されたチャックを採用する。
【0010】
この請求項1に係る発明によれば、チャック筒(1)の肉の厚い先端部においても剛性が適度に低減し、工具が円滑に締め付けられる。
【0011】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載のチャックにおいて、縦穴(18)に栓体(19)が着脱自在に挿入されたチャックを採用する。
【0012】
この請求項2に係る発明によれば、縦穴(18)に栓体(19)が挿入されることにより、チャック内部から供給される切削油の縦穴(18)からの漏れ出しが防止され、切削油は工具内の穴等を通ってワークの方に吐出される。また、栓体(19)が縦穴(18)から取り除かれると、チャック内部から供給される切削油は縦溝(17)から縦穴(18)を通ってワークの方に吐出される。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、工具を挿入するチャック筒と、チャック筒に被せられる締付け筒と、チャック筒と締付け筒との間の隙間に介装されるローラ及びリテーナと、上記隙間の先端部を封止するシールキャップと、シールキャップをチャック筒の先端部に保持する止め輪とを具備したチャックにおいて、チャック筒の工具挿入穴の内周面に、チャック筒の軸方向に伸びる縦溝が、チャック筒の先端部に閉止部を残すように複数条形成され、閉止部には、チャック筒の先端面から縦溝内に向かって貫通する縦穴が穿設されたチャックであるから、チャック筒の肉の厚い先端部においても剛性が適度に低減し、工具が円滑に締め付けられる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、請求項1に記載のチャックにおいて、縦穴に栓体が着脱自在に挿入されたチャックであるから、縦穴に栓体が挿入されることにより、チャック内部から供給される切削油の縦穴からの漏れ出しが防止され、切削油は工具内の穴等を通ってワークの方に吐出される。また、栓体が縦穴から取り除かれると、チャック内部から供給される切削油は縦溝から縦穴を通ってワークの方に吐出される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0016】
図1に示すように、このチャックは、刃物等の工具(図示せず)を挿入するチャック筒1と、チャック筒1に被せられる締付け筒2と、チャック筒1と締付け筒2との間の隙間に介装されるローラ3及びリテーナ4と、上記隙間の先端部を封止するシールキャップ5と、シールキャップ5をチャック筒1の先端部に保持する止め輪6とを具備する。
【0017】
チャック筒1は、工具のシャンクが挿入される工具保持穴1aを中心部に有し、その外周面7は先端に行くにつれ細くなるようなテーパ面とされる。チャック筒1は、鍔部8を介してシャンク部9に連結される。鍔部8は図示しない工具交換装置で把持される部分である。シャンク部9は図示しない工作機械に連結される部分であり、シャンク部9を介してこのチャックが工作機械に取り付けられる。
【0018】
締付け筒2はチャック筒1に隙間が空くように被せられる円筒体であり、チャック筒1の外周面7であるテーパ面に対向する内周面10は同じ向きに傾斜するテーパ面とされる。
【0019】
チャック筒1と締付け筒2との対向面間の隙間内には、多数のローラ3がリテーナ4に保持された状態で挿入される。ローラ3はニードルローラであり、リテーナ4の多数の穴の中にチャック筒1の軸心に対し多少傾斜するように保持される。これにより、締付け筒2を一方向に回すと、ローラ3を介しチャック筒1が締め付けられて縮径し、工具保持穴1a内の工具を強く把持する。締付け筒2を逆向きに回すと、チャック筒1が緩められて拡径し、工具を工具保持穴1aから解放する。
【0020】
図2及び図3に示すように、チャック筒1と締付け筒2との間の隙間には、切削油、切粉、ゴミ等の隙間内への侵入を防止するためシールキャップ5が嵌め込まれ、止め輪6によって隙間内に固定される。
【0021】
シールキャップ5は、図4に示すように、リング状部材であり、図2及び図3に示すように、チャック筒1と締付け筒2との間の隙間内に入り込み得る厚さを有する。シールキャップ5は、チャック筒1とシールキャップ5の対向面上に形成された抜け止め溝11に嵌め込まれる止め輪6によって上記隙間内に保持される。止め輪6は、図5に示すように、略C字形のリングであり、バネ材等の弾性材により形成される。もちろん、止め輪6はゴム等で出来たOリングとすることも可能である。このように止め輪6がチャック筒1とシールキャップ5の対向面上に形成された抜け止め溝11に嵌め込まれることから、チャックの高速回転に伴う止め輪6の拡径がシールキャップ5の存在により阻止される。これにより、止め輪6及びシールキャップ5のチャックからの脱落が防止される。
【0022】
工具はできるだけチャックの口元で締め付けるほうが把持力が大きくなって有利であるから、ローラ3はチャックの口元近くまで配置したほうが望ましい。そこで、図2に示すように、シールキャップ5、止め輪6及び止め輪6の嵌り込む抜け止め溝11はチャック筒1の先端部に寄せて配置される。
【0023】
抜け止め溝11は、チャック筒側凹部11aとシールキャップ側段部11bとが合致することで形成され、チャック筒側凹部11aはチャック筒1の先端部の外周面7に環状凹溝として形成され、シールキャップ側段部11bはシールキャップ5の内周面の中間部から外端面にかけて除肉することによる溝として形成される。シールキャップ側段部11bもチャック筒側凹部11aと同様に環状凹溝として形成してもよい。抜け止め溝11のチャック筒側凹部11aは、望ましくは縮径変形した止め輪6の没入し得る深さに形成される。また、これに対応してシールキャップ5の内端における止め輪6に対向する箇所には斜面12が形成される。これにより、止め輪6を抜け止め溝11のチャック筒側凹部11aに被せた状態で、シールキャップ5をチャック筒1と締付け筒2との間の隙間内に押し込むようにすると、シールキャップ5の斜面12が止め輪6をチャック筒側凹部11a内に押圧しつつ止め輪6の上を隙間の奥の方へと乗り越える。止め輪6はチャック筒側凹部11a内へと弾性変形した後、原形に復し抜け止め溝11内に嵌まり込んでシールキャップ5を隙間内に拘束する。従って、シールキャップ5は簡易かつ迅速にチャックに装着される。シールキャップ5が一旦隙間内に入り込んだ後は、図2に示すように、止め輪6がチャック筒側凹部11aとシールキャップ側段部11bの双方に拘束されることとなり、シールキャップ5の隙間外への抜け出しを阻止する。
【0024】
また、図2に示すように、上記隙間内には、この隙間内に嵌め込まれたシールキャップ5をチャック筒1の先端方向へと付勢するシールリングであるOリング13が挿入される。具体的には、隙間内に嵌め込まれたシールキャップ5の斜面12に対向するようにチャック筒1の外周面7に環状凹溝14が形成され、この環状凹溝14内にシールリングであるOリング13が嵌め込まれる。シールキャップ5の斜面12によってこのOリング13が弾性変形し、シールキャップ5がチャック筒1の先端方向へと付勢され、これにより止め輪6がチャックの軸心方向でシールキャップ5とチャック筒1との間に挟まれることとなって止め輪6及びシールキャップ5のガタツキ、脱落が防止される。また、このOリング13によりシールキャップ5とチャック筒1との間が遮蔽され、ローラ3等が収納された隙間内への切削油の侵入が阻止される。
【0025】
図2に示すように、シールキャップ5の外周面にも環状凹溝15が形成され、この環状凹溝15にシールリングであるOリング16が嵌め込まれる。このOリング16はシールキャップ5と締付け筒2との間を遮蔽し、ローラ3等が収納された隙間内への切削油の侵入を阻止する。
【0026】
図1乃至図3に示すように、チャック筒1の工具挿入穴1aの内周面には、チャック筒1の軸方向に伸びる縦溝17が、チャック筒1の先端部に閉止部17aを残すように複数条形成され、閉止部17aには、チャック筒1の先端面から縦溝17内に向かって貫通する縦穴18が穿設される。このように縦穴18が閉止部17aに形成されることにより、チャック筒1の肉の厚い先端部においても剛性が適度に低減し、工具が円滑に締め付けられることとなる。
【0027】
この縦穴18には、栓体19が着脱自在に挿入される。具体的には、栓体19は短いネジ棒であり、縦穴18内にこのネジ棒の雄ネジが螺合する雌ネジが形成され、このネジ棒が縦穴18内に螺合することにより、チャック内部から供給される切削油の縦穴18からの漏れ出しが防止される。すなわち、工作機械からチャックの中心穴内に供給される切削油は縦溝17の先端からの吐出を阻止され、図示しない工具内の穴の先端からワーク(図示せず)の方に吐出される。また、栓体19が縦穴18から取り除かれる場合は、チャック内部に供給される切削油は縦溝17から縦穴18を通ってワークの方に吐出される。
【0028】
その他、図1に示すように、チャック筒1及び締付け筒2の鍔部8側の後部において、両者間の隙間には切削油等の侵入を防止するためのシールカラー20、Oリング21が挿入され、締付け筒2の内周に嵌め込まれるリング状クリップ22により定位置に保持される。また、締付け筒2と鍔部8との間にはカバーリング23が被せられる。
【0029】
次に、上記構成のチャックの作用について説明する。
【0030】
シールキャップ5をチャックの先端部に取り付けるには、止め輪6を抜け止め溝11のチャック筒側凹部11aに被せた状態で、シールキャップ5をチャック筒1と締付け筒2との間の隙間内に押し込むようにする。
【0031】
シールキャップ5を隙間内に押し込むと、シールキャップ5の斜面12が止め輪6をチャック筒側凹部11a内に押圧しつつ止め輪6の上を隙間の奥の方へと乗り越える。止め輪6は弾性変形してチャック筒側凹部11a内に収まり、シールキャップ5が通過した後原形に復し抜け止め溝11内に嵌まり込んでシールキャップ5を隙間内に拘束する。
【0032】
シールキャップ5が一旦隙間内に入り込むと、止め輪6がチャック筒側凹部11aとシールキャップ側段部11bの双方に拘束され、この拘束された止め輪6がシールキャップ5の隙間外への抜け出しを阻止する。
【0033】
なお、シールキャップ5とチャック筒1との間にドライバ等を差し込み、止め輪6をチャック筒側凹部11a内に押圧することにより、シールキャップ5をチャックから取り外すことができる。
【0034】
シールキャップ5がチャックの隙間内に挿入されると、シールキャップ5の斜面12によってチャック筒1側の環状凹溝14内のOリング13が弾性変形し、シールキャップ5をチャック筒1の先端方向へと付勢する。これにより止め輪6がチャックの軸心方向においてシールキャップ5とチャック筒1との間に挟まれ、止め輪6及びシールキャップ5のガタツキ、脱落が防止される。
【0035】
このようなシールキャップ5を装着したチャックを工作機械に装着し、チャック筒1の工具挿入穴1a内に工具のシャンクを挿入したうえで締付け筒2を一方に回すと、ローラ3を介しチャック筒1が締め付けられて縮径し、工具保持穴1a内の工具を強く把持する。
【0036】
工作機械の主軸の回転によりチャックが高速で回転すると、止め輪6は拡径しようとするがシールキャップ5の存在により拡径を阻止される。これにより、止め輪6及びシールキャップ5のチャックからの脱落が防止される。
【0037】
工具による加工中、チャック内部に供給される切削油が縦溝17から縦穴18を通ってワークの方に吐出される。
【0038】
この縦穴18を栓体19で閉じる場合は、チャック内部から供給される切削油は縦穴18からの吐出を阻止され、工具内の穴の先端からワークの方に吐出される。
【0039】
チャックの先端部において、チャック筒1と締付け筒2との間の隙間はシールキャップ5により遮蔽され、さらにチャック筒1とシールキャップ5との間及び締付け筒2とシールキャップ5との間がそれぞれOリング13,16で遮蔽されるので、ローラ3等が収納された隙間内への切削油、切粉、ゴミ等の侵入が阻止される。
【0040】
工具による加工が終了し、締付け筒2を逆向きに回すと、チャック筒1が緩められて拡径する。これにより、工具がチャック筒1の工具保持穴1aから抜き取られる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るチャックを締め付け状態で示す半断面図である。
【図2】本発明の要部を示す図1の部分拡大図である。
【図3】図1に示すチャックの正面図である。
【図4】シールキャップの半断面図である。
【図5】止め輪の正面図である。
【符号の説明】
【0042】
1…チャック筒
2…締付け筒
3…ローラ
4…リテーナ
5…シールキャップ
6…止め輪
11…抜け止め溝
11a…チャック筒側凹部
12…斜面
13…Oリング
17…縦溝
17a…閉止部
18…縦穴
19…栓体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を挿入するチャック筒と、チャック筒に被せられる締付け筒と、チャック筒と締付け筒との間の隙間に介装されるローラ及びリテーナと、上記隙間の先端部を封止するシールキャップと、シールキャップをチャック筒の先端部に保持する止め輪とを具備したチャックにおいて、チャック筒の工具挿入穴の内周面に、チャック筒の軸方向に伸びる縦溝が、チャック筒の先端部に閉止部を残すように複数条形成され、閉止部には、チャック筒の先端面から縦溝内に向かって貫通する縦穴が穿設されたことを特徴とするチャック。
【請求項2】
請求項1に記載のチャックにおいて、縦穴に栓体が着脱自在に挿入されたことを特徴とするチャック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−260903(P2007−260903A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181042(P2007−181042)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【分割の表示】特願2002−230402(P2002−230402)の分割
【原出願日】平成14年8月7日(2002.8.7)
【出願人】(000127042)株式会社アルプスツール (31)
【Fターム(参考)】