説明

チャンバー装置

【課題】本発明は、サル等の非ヒト霊長類を用いた医学的及び薬学的測定において、無麻酔、無拘束状態でこれを実施することができ、かつ簡便な構成を有し、測定における操作が容易であるチャンバー装置を提供することを目的とする。
【解決手段】非ヒト霊長類の無麻酔、無拘束状態での測定用チャンバー装置1であって、非ヒト霊長類を収容する収容部2と、前記収容部2の内部の側面に非ヒト霊長類が着座することが可能な突起部3と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学及び薬学用試験に用いられる非ヒト霊長類用のチャンバー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サル等の動物を用いた医学用及び薬学用試験では、中枢神経系及び心血管系の測定については無麻酔・無拘束下で行う方法が確立している。しかし、呼吸器系の測定を行う際には、麻酔下、又はモンキーチェアーなどの拘束下において試験が行われていた。しかし、上記のような環境下では動物に対して麻酔の影響や拘束のストレス等が加わるため、正常状態での動物について、上記試験を行うことができなかった。特に、薬理試験等における呼吸器系や心血管系試験においては、同時に心拍数や血圧等も測定されることもあり、麻酔の影響や拘束のストレスのない無麻酔、無拘束状態の動物について上記試験を行うことが望まれていた。
【0003】
呼吸器系試験を行う場合には、密閉された透明チャンバー中に動物を収容して、該チャンバー中の気圧の変化により動物の呼吸量を感知する方法が用いられているが(特許文献1参照)、このようなチャンバーにおいては、サルは馴化やチャンバーへの出し入れが難しいため、馴化可能でチャンバーへの出し入れが容易なマウス、ラット、モルモット等の小動物を用いて試験を行わざるを得なかった。この問題を解決する呼吸器系試験装置として、内部観察及び空気流通を可能とする金属性格子により囲まれた檻にサル等の動物を収容し、該動物が収容された檻を、上記密閉された透明チャンバー中に収容する構成を有するチャンバー装置が開示されている(特許文献2を参照)。該チャンバー装置によれば、該檻に動物を収容することにより、動物の馴化が可能であり、無麻酔、無拘束状態で薬理試験を行うことが可能であると記載されている。
【特許文献1】特表2007−500067号公報
【特許文献2】国際公開公報WO2007−015289
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来から、内部観察及び空気流通を可能とする金属性格子により囲まれた檻にサル等の動物を収容し、該動物が収容された檻を、上記密閉された透明チャンバー中に収容する構成を有するチャンバー装置が開発されている。該チャンバー装置では、個々のチャンバーにそれぞれ金属製の檻が必要となる構成であるため装置として高価であること、外部からの動物の詳細な観察が檻越しとなるため困難なこと、及びチャンバー内に檻があることにより換気や呼吸により発生する空気の自然な流れを阻害するといった問題点があった。また、通常動物用檻に使用される金属性板は、重量など運搬の都合上薄い板が使用されているため撓みやすく、動物が檻の中を動き回り、檻の壁に触れること等により動物の動きが檻に伝わり、測定に影響を及ぼす空気の流れが発生することと、さらには測定における操作が煩雑になるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明では、サル等の動物を用いた医学的及び薬学的測定において、無麻酔、無拘束状態でこれを実施することができ、かつ簡便な構成を有するチャンバー装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するために、チャンバー装置の側面に突起部を設置することにより、サル等の動物が該突起部に着座する点を工夫した。これにより、サル等の動
物(以下、「非ヒト霊長類」と記載する。また、本明細書中において「サル」とは、「非ヒト霊長類」の一例を意味する。)がチャンバー装置内において安静に過ごすことが可能なチャンバー装置を提供することが可能である。
【0007】
詳細には、本発明に係るチャンバー装置は、非ヒト霊長類の無麻酔、無拘束状態での測定用チャンバー装置であって、非ヒト霊長類を収容する収容部と、前記収容部の内部の側面に非ヒト霊長類が着座することが可能な突起部と、を備える。
【0008】
チャンバー装置内に収容された非ヒト霊長類は、突起部に着座する時間が長く、突起部を備えていないチャンバー装置に収容された場合と比較して、安静に過ごすことが可能であると見出された。従って、本発明に係るチャンバー装置は、収容部の内部の側面に突起部を備えることにより、非ヒト霊長類を安静にすることが可能であり、非ヒト霊長類を無麻酔、無拘束状態の自然状態に近い状態で測定することが可能である。
【0009】
ここで本発明に係るチャンバー装置は、外部から前記収容部に非ヒト霊長類が出入りするための開口部と、前記開口部の外側に設置され、開閉することで該開口部を介した非ヒト霊長類の前記収容部への出入りを調整する扉部と、を更に備える構成とし、そして、前記扉部は、前記開口部に対向するように設置され、該開口部での非ヒト霊長類の出入方向に対して垂直方向に引き抜き可能である第一の扉と、前記第一の扉を挟んで前記開口部とは反対側に設置され、該開口部を介した前記収容部と外部との空気の出入りを遮断可能な第二の扉と、を有するようにしてもよい。
【0010】
チャンバー装置内で測定が行われる際は、非ヒト霊長類を、飼育用ケージから搬送用ケージへ移動させ、更には搬送用ケージから上記チャンバー装置の収容部へ移動させる。逆に、チャンバー装置内での測定が終了した際は、非ヒト霊長類を、収容部から搬送用ケージへ移動させ、搬送用ケージから飼育用ケージへ移動させる。このような使用形態が想定される中で、本発明に係るチャンバー装置は、扉部を構成する、垂直方向に引き抜き可能な第一の扉と、更に第一の扉に重ねて設置される第二の扉とを有することによって、非ヒト霊長類のチャンバー装置と搬送用ケージとの間の移動が便利になる。ここで、第一の扉が非ヒト霊長類の出入方向に対して垂直方向に引き抜き可能であるように構成されるため、搬送用ケージと非ヒト霊長類とを連結させて非ヒト霊長類を移動させる際に、それが逃げ出してしまうことを防止することが可能である。具体的に説明すると、例えば、チャンバー装置内に非ヒト霊長類がいる場合、第一の扉を閉めた状態でチャンバー装置の第二の扉を開ける。そして、搬送用ケージの扉を開け、チャンバー装置の開口部と搬送用ケージの開口部とを対向させ接続する。そして、第一の扉を垂直方向に引き抜くことで、搬送用ケージとチャンバー装置とが連結された状態を保持しながら両者間の移動が可能となる状態が形成される。そのため、非ヒト霊長類を搬送用ケージへ移動させることが可能である。
【0011】
また、本発明に係るチャンバー装置における第二の扉は、収容部に設けられる非ヒト霊長類が出入りする開口部を介した空気の出入りを遮断することが可能である。従って、本発明に係るチャンバー装置は、測定に影響を及ぼす収容部への空気の出入りを遮断することにより、該収容部でのより正確な測定値を得ることが可能である。なお、この第二の扉は、収容部に対して着脱可能に設置されてもよく、このような場合にチャンバー装置と搬送用ケージ間で非ヒト霊長類を移動させる場合には、第二の扉を取り外した後、上述した第一の扉の引き抜きを行えばよい。
【0012】
また、本発明に係るチャンバー装置は、前記第一の扉と前記第二の扉の間に、非ヒト霊長類を収容する際に必要な付属品が設置されてもよい。付属品は、例えば、測定に必要な点滴用ポンプや薬液、餌箱や給水装置である。第一の扉と第二の扉の間に付属品が設置さ
れることにより、非ヒト霊長類が出入りする開口部の密閉状態を維持した状態で、非ヒト霊長類を収容するのに必要な付属品等を容易に設置することが可能である。
【0013】
ここで本発明に係るチャンバー装置は、非ヒト霊長類の呼吸系の薬理試験を実施するチャンバー装置であって、前記収容部は、薬理試験が実施される試験室と、前記試験室と分離された状態で並設された、該試験室の薬理試験と照らし合わせる参照室とを、有し、外気を給気する連通管によって、前記試験室と前記参照室とが連通されてもよい。
【0014】
本発明に係るチャンバー装置は、試験室と参照室の両方を有することにより、薬を投与した非ヒト霊長類を試験室に収容し、該薬理試験を実施する試験室と参照室とを照らし合わせ、測定誤差を少なくすることが可能である。従って、非ヒト霊長類が収容部に収容されるという同じ環境下で、測定誤差の少ない薬理試験を実施することが可能である。具体的には、動物の呼吸の測定は、試験室の圧と大気圧の差で測定しているが、試験室の大気圧のみを用いるとノイズが入ってくるため、正確ではなくなるので、半密閉(外気の急激な変動の影響を受けにくい)された参照室の大気圧の計測値を用いることにより、安定した大気圧が測定でき、測定ノイズを軽減することができる。
【0015】
ここで本発明に係るチャンバー装置において、非ヒト霊長類はサルでもよい。サルはヒトと生体機能が近いため、サルを用いた無麻酔・無拘束下の医学的及び薬学的測定ができることは、薬物等のヒトへの影響を予測する際に有利である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るチャンバー装置は、サル等の動物を用いた医学的及び薬学的測定において、無麻酔、無拘束状態でこれを実施することができ、かつ簡便な構成を有するチャンバー装置を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ここで、本発明に係るチャンバー装置1の実施の形態について図面に基づいて説明する。以下に、呼吸器系測定装置を例にして、本発明のチャンバー装置1を図面に基づき説明するが、本発明のチャンバー装置1は以下に限定されるものではない。図1は、本発明の実施例のチャンバー装置1の斜視図である。図1Aは、本発明の実施例のチャンバー装置1の連通管26のA−A拡大断面図である。図2は、本発明の実施例のチャンバー装置1の二重の扉4を開放した正面斜視図である。尚、本発明の実施例では、非ヒト霊長類としてサルを例示する。
【0018】
(1)チャンバー装置の構成
本発明の実施例のチャンバー装置1は、サルの無麻酔、無拘束状態での測定用チャンバー装置であって、サルを収容する第一収容部2と、第一収容部2の試験室21の内部の側面にサルが着座することが可能な突起部3と、開閉することによってサルが第一収容部2の試験室21へ出入り可能である扉部4とを有する。本発明の実施例のチャンバー装置1は、第一収容部2の試験室21に収容したサルを用いて、医学的、薬学的な試験のための測定を行う装置であれば如何なるものでもよい。具体的には、サルを用いた呼吸器系、代謝系、循環器系及び中枢神経系薬理試験等のための測定装置が挙げられる。これらの薬理試験のうち、特にサルの運動量やストレス等の影響が大きい呼吸器系の薬理試験では、本発明の実施例のチャンバー装置1が好ましく用いられる。
【0019】
図1に示すように、本発明の実施例のチャンバー装置1は、直方体で、上面51及び前面52が透明の壁、側面53、背面54及び底面55が不透明の壁により囲まれて構成されている。尚、上面51及び前面52が少なくとも透明な壁によって構成されていればよい。また、チャンバー装置1は、該チャンバー装置1の内外で空気の出入りを遮断するこ
とが可能な構造である。上面51の透明の壁は、サルが直接接触する場合があるので、強度があるものが好ましく、具体的には厚さが10mm以上のアクリル板や、塩ビ又はポリカーボネイト等の透明板が好ましく用いられ、ステンレス製等の枠にはめ込むように設置されているものも好ましい。また、図2に示すように、チャンバー装置1の試験室21の底面には、挿抜自在な網状金属板6が設置される。また、試験室21には、測定後に動物を運搬用ケージ100に移動させる際に、運搬用ケージ挿入用レール61が底面に設置されている。尚、運搬用ケージ100は、サルを飼育用ケージからチャンバー装置1まで運搬する際に使用するケージである。運搬用ケージ100についての説明は後述する。
【0020】
また、図1に示すように、本発明の実施例のチャンバー装置1の前面52には、第一の扉41と第二の扉42とで構成された扉部4が設置されている。これらの第一の扉41と第二の扉42とは、チャンバー装置1の第一収容部2へのサルの出入りを可能とすべく、第二開口部7に対して開閉可能な扉である。詳細には、第一の扉41は、第二開口部7に対して対向するように設置されるとともに、該第二開口部7でのサルの出入り方向に対して垂直方向に引き抜き可能である。また、第二の扉42は、第一の扉41を挟んで第二開口部7とは反対側に設置され、すなわち、チャンバー装置1の外側から第一の扉41に対して更に重なるように設置されるとともに、該第二開口部7を介した第一収容部2と外部との空気の出入りを遮断可能である。
【0021】
第一の扉41が第二開口部7に対して垂直方向に引き抜き可能であることにより、サルのチャンバー装置1から運搬用ケージ100への移動が便利になり、サルがチャンバー装置1から運搬用ケージ100へ移動する際に、逃げてしまうことを防止することが可能である。また、第二の扉42は、該第二の扉42を閉鎖した際に、第二開口部7を密閉し、チャンバー装置1の内外で空気の出入りを遮断することが可能なように、ゴム等のパッキンを施すことが好ましい。ゴム等のパッキンは第一収容部2側もしくは第二の扉42側のどちらに施しても良いが,第二の扉42側のほうが好ましい。尚、第一の扉41は、第二の扉42を取り外した際に、垂直方向に引き抜くことが可能である。
【0022】
また、第一の扉41は、上記透明板により構成することができるが、必要に応じて、孔の空いた金属板等により構成される。このような第一の扉41は、例えば、薬品のサルへの連続投与を行う測定の場合、点滴用チューブを固定するために便利である。また、この場合、点滴用ポンプや薬液は第一の扉41と第二の扉42の間、サルを収容する第一収容部2の試験室21、あるいはチャンバー装置1の外部に設置することも可能である。外部に点滴用ポンプや薬液を設置する場合には、第二の扉42には外部と空気の出入りがない構造の穴を開けて、チューブを通すこと等ができる。尚、第一の扉41と第二の扉42の間に点滴用ポンプや薬液が設置されることにより、サルが出入りする第二開口部7の密閉状態を容易に維持することが可能である。第一の扉41と第二の扉42の具体的な操作については、後述する。
【0023】
また、チャンバー装置1は、第一収容部2の下に、サルの餌箱8が設置され、更に、第一の扉41と第二の扉42との間には給水装置9も設置されている(図1参照)。また、試験室21は換気を行うことが好ましく、試験室21の外部に設置された換気装置に接続された換気口(不図示)が設置されていて、換気口はチャンバー装置1内の空気を効率よく換気させるため、左右側面の上部及び下部に複数箇所に設置されるのが好ましい(不図示)。本発明の実施例のチャンバー装置1に設置される呼吸器系測定用装置は、例えば、特表2007−500067号公報に記載のものが設置される。
【0024】
上記チャンバー装置1には、サルを収容する第一収容部2を有し、測定に必要な装置が設置される。本発明の実施例のチャンバー装置1の特徴であるサルが着座し得る突起部3は、サルの第一収容部2の試験室21の四方側面のいずれかに1個、もしくは複数設置さ
れる。尚、突起部3の大きさ及び形状は、測定に使用するサルが着座できる大きさや形状であれば如何なるものでもよいが、カニクイザルの場合は10cm×10cm〜30cm×30cmの四角形あるいは楕円形等が好ましい。また、突起部3を設置する場所は、サルが着座して安定する箇所であれば特に制限はないが、二重の扉4の逆側か、人が通る方向から一番離れた箇所でサルの上方のスペースが十分確保されている箇所に設置することが好ましい。本発明の実施例のチャンバー装置1の突起部3は、二重の扉4と対向する第一収容部2の試験室21内の側面に1個設置されている。突起部3の材質は、アクリル、木、塩ビ、ポリカーボネイト等が挙げられるが、好ましくは塩ビである。色は特に制限はないが、黒やグレーなどダークカラーが好ましい。
【0025】
本発明の実施例のチャンバー装置1の第一収容部2の試験室21は、サルを収容し第一空気流開口23を持つ試験室21と、第二空気流開口24を持つ参照室22を有する(図1A参照)。試験室21では、サルの呼吸系の薬理試験を実施する。動物の呼吸の測定は、試験室の圧と大気圧の差で測定しているが、試験室の大気圧のみを用いるとノイズが入ってくるため、正確ではなくなるので、半密閉(外気の急激な変動の影響を受けにくい)された参照室の大気圧の計測値を用いることにより、安定した大気圧が測定でき、測定ノイズを軽減することができる。第一空気流開口23及び第二空気流開口24は、外部空気流開口25(図1及び図1A参照)から外気を給気する連通管26により連通されている。試験室21と参照室22は、共通の分離壁27により分離されており、試験室21、参照室22及び分離壁27はいずれも、上記の透明板等により構成されるものであることが望ましい。
【0026】
上記試験室21の大きさは、収容するサルの体長に応じて、ILAR(Institute of Laboratory Animal Resources)の動物実験に関する指針で規定された、体重3kg〜10kgのサルでは床面積0.39m2及び高さは76.2cm以上であればよいが、測定値の正確性、再現性等の観点からできるだけ狭いことが好ましい。具体的には、例えば、カニクイザルを収容する場合には、試験室21内側の居住空間が、縦:約70cm、横:約60cm、高さ:約76.5cmであるもの等が好ましく用いられる。
【0027】
(2)運搬用ケージの構成
測定に用いるサルは、飼育用ケージからチャンバー装置1までは、本発明の実施例の運搬用ケージ100に入れて運搬される。以下に、本発明の実施例の運搬用ケージ100を図面に基づき説明する。図3は、本発明の実施例の運搬用ケージ100の斜視図である。また、図4は、本発明の実施例の運搬用ケージ100の側面図である。図5は、本発明の実施例の運搬用ケージ100の正面図である。以下、本発明の実施例の運搬用ケージ100について、図3から図5を基に説明する。
【0028】
本発明の実施例の運搬用ケージ100は、直方体であり、前面101が格子状で、上面102、底面103、側面104及び側面105は金属板で構成されている。運搬用ケージ100の前面101には、第一扉201と第二扉202とで構成された扉部203が設置されている。これらの第一扉201と第二扉202とは、運搬用ケージ100の第二収容部800へのサルの出入りを可能とすべく、第一開口部300に対して開閉可能な扉である。詳細には、第一扉201は、サルが出入りする第一開口部300に対して対向するように設置されるとともに、該第一開口部300でのサルの出入り方向に対して垂直方向に引き抜き可能である。また、第二扉202は、第一扉201を挟んで第一開口部300とは反対側に設置されるとともに、第二収容部800から着脱可能である。運搬用ケージ100の第一扉201は、運搬用ケージ100の第二収容部800から、チャンバー装置1の第一収容部2へ動物を移動させる際に便利であり、運搬用ケージ100の第二扉202は、運搬用ケージ100の第二収容部800からサルが逃げないように安全に運搬することが可能である。第一扉201と第二扉202は、いずれも金属製の格子からなるもの
が好ましい。
【0029】
本発明の実施例の運搬用ケージ100の第二扉202は、運搬用ケージ100の上面102側へ巻き上げる構造を有することが好ましいが、垂直方向へ引き上げる構造でもよい。運搬用ケージ100の上面102へ巻き上げる構造としては、図4に示すように、運搬用ケージ100の背面105上部の両サイドに駆動スプロケット401を設置し、従動スプロケットを運搬用ケージ100の前面上部の両サイド402、運搬用ケージ100の背面下部の両サイド403、及び運搬用ケージ100の前面102下部の両サイド404に設置して、片側4つのスプロケット401、402、403及び404に巻き掛けられているエンドレス状ブロックチェーン405を2本設置する。この両サイドのブロックチェーン405には、連続して隣り合うもの同士接するように取付けられている多数の金属丸棒406があり、両サイドのチェーンを片側4つのスプロケット401、402、403及び404に巻きかけると、格子状になるものである。
【0030】
また、上面102に設置された駆動スプロケット401には、これを回転させるための軸および軸を回転させる操作用取手407がケージの外側に設置されている。操作用取手407が第二収容部800の外側に設けられることにより、第一開口部300と第二開口部7を接合させれば、第二収容部800に収容されている非ヒト霊長類が隙間から逃げることがなく、また、安全に第一扉201を巻き上げることが可能である。更に、前面101下部の両サイドにはチェーンのストッパープレート408が設置されている。
【0031】
本発明の実施例の運搬用ケージ100の底面103には、底板として挿抜自在な網状金属板を入れられる(不図示)。運搬用ケージ100の容積は、収容するサルの体長に応じて、適宜選択可能であるが、上記チャンバー装置1からサルを運搬用ケージ100に移動させる際に、運搬用ケージ100をチャンバー装置1内へ挿入するので、挿入した際にチャンバー装置1と運搬用ケージ100の間に広い隙間ができないサイズとすることが好ましい。
【0032】
本発明の実施例の運搬用ケージ100の前面101と背面105の間には、進退可能な狭体板500が設置されている(図3参照)。狭体板500は、運搬用ケージ100のサル収容空間を背面105から前面101、あるいはその逆方向へ向かって狭くしていくことを目的として進退させる。従って、本発明の実施例の運搬用ケージ100は、狭体板500によって、サルを捕捉することなく、安全に短時間でチャンバー装置1にサルを移動させることが可能である。また、狭体板500は、好ましくは両サイドに操作用ハンドル501が設置されている(図3参照)。この操作用ハンドル501は、運搬用ケージ100の外側から操作でき、また前後どちらにでも引くことが可能なようにボールジョイント等で接合して設置することが好ましい。操作者が、両手でこの操作用ハンドル501を運搬用ケージ100の外側から引押することにより、狭体板500が進退する。さらに、狭体板500を貫通するガイド用の棒を、運搬用ケージ100の背面と前面にかけて横架すると、狭体板500の進退動作がスムーズに行われるため好ましい。また、サルが狭体板500を簡単には押し戻すことができないようにストッパー等の機能を有することも好ましい。
【0033】
本発明の実施例の運搬用ケージ100は、その底面103に移動用のキャスター600が設置されている。該キャスター600は、運搬用ケージ100そのものの移動の目的と、チャンバー装置1内への運搬用ケージ100の移動の目的を有するものである。尚、チャンバー装置1内のレール61(図2参照)に、キャスター600を挿入することが可能である。また、チャンバー装置1内へ段差なく移動できるように、該運搬用ケージ100はチャンバー装置1との段差をなくすための台座700(図4参照)に乗せることも好ましい。この場合、前記台座700にさらにキャスター600を付けておけば、運搬用ケー
ジ100を乗せたまま移動することができる。また、運搬用ケージ100を台座700に乗せる場合には、台座700とチャンバー装置1とを固定するためのフック(不図示)を設置しておくことが好ましい。
【0034】
(3)チャンバー装置を用いた測定方法
本発明の実施例のチャンバー装置1は、第一収容部2に収容したサルを用いて、医学的、薬学的な試験のための測定を行う装置であるが、サルを用いた呼吸器系薬理試験を行う場合を例にして以下にその使用方法を説明する。
【0035】
薬理試験などに用いるサルは、飼育用ケージから上記運搬用ケージ100へ移された後、上記チャンバー装置1まで運搬される。サルを運搬用ケージ100からチャンバー装置1へ移動する手順としては、まず、チャンバー装置1の第二の扉42を開けて、運搬用ケージ100の第二扉202を外し、チャンバー装置1の第二開口部7と運搬用ケージ100の第一開口部300を対向させ、該第二開口部7と該第一開口部300が接着保持して接合するように、運搬用ケージ100の底面103に設置されたフック(不図示)で固定する。次に、運搬用ケージ100の第一扉201を上部へ巻き上げて開放し、サルがチャンバー装置1の第一収容部2に移動しなければ、狭体板500を第一開口部300に向かって移動し、サルを第二収容部800から押し出すことが可能である。従って、本発明の実施例の運搬用ケージ100は、サルを捕捉することなく、安全に短時間でサルの移動をさせることが可能である。サルが第二収容部800から第一開口部800と第二開口部7を介して第一収容部2へ移動した後、チャンバー装置1の第一の扉41を閉め、フックで固定されたチャンバー装置1と運搬用ケージ100との接合を解除し、チャンバー装置1の第二の扉42を閉め、必要な測定を行う。この間、サルは、試験室21に設置された突起部3に着座することにより、突起部3が無い場合と比べて比較的安静に過ごすことができる。
【0036】
測定終了後、サルをチャンバー装置1から運搬用ケージ100へ移動する手順は、まず、チャンバー装置1の第二の扉42を開け、第一の扉41を閉めた状態で、チャンバー装置1の第二開口部7と運搬用ケージ100の第一開口部300とを対向させ、該第二開口部7と第一開口部300が接着保持して接合するように、運搬用ケージ100の底面103に設置されたフック(不図示)で固定する。このとき、運搬用ケージ100の第二の扉42は外されたままで、運搬用ケージ100の第一扉201を開放状態にしておく。次に、チャンバー装置1の第一の扉41を上部に引き抜いて開放し、運搬用ケージ100をチャンバー装置1中へ挿入して、サルを運搬用ケージ100に移動させる。移動したことを確認したら運搬用ケージ100の第一扉201を閉め、フックで固定されたチャンバー装置1と運搬用ケージ100との接合を解除する。
【0037】
運搬用ケージ100から、サルを飼育用ケージへ移す方法としては、運搬用ケージ100の第二扉202を第二収容部800から取り外し、第一扉201を閉めた状態にする。飼育用ケージと、運搬用ケージ100の第一開口部300とを接合させ、運搬用ケージ100の第一扉201を空け、必要に応じて、狭体板500を第一開口部300に向かって移動し、サルを第二収容部800から押し出すことが可能である。従って、本発明の実施例の運搬用ケージ100は、サルを捕捉することなく、安全に短時間でサルの移動をさせることが可能である。あるいは、第二扉202を閉じたまま第一扉201は開放して狭体板500を第一開口部300に向かって押し出し、サルを身動きできないように圧迫する。その後、第二扉202の外から捕獲棒を差し込み動物の首輪を掴み第二扉202を開放しても逃げられないようにする。第二扉202を開放したら動物の両腕を後手に捕獲し、捕獲棒を外して、そのまま飼育ケージに戻す方法でも移動させることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例のチャンバー装置1における測定について詳細に説明する。尚、チャンバー装置1における測定はこれらによって限定されるものではない。先ず、チャンバー装置1内に設置した突起部3の効果について説明する。
【0039】
カニクイザル(3齢、オス)を、密閉された試験室21で、内側の居住空間が、縦:約70cm、横:約60cm、高さ:約76.5cmである第一収容部2に収容し、ビデオ録画で3時間観察した。また、上記チャンバー装置1の試験室21の背面に突起部3を設置した場合としない場合とで、同一のサルで同一の時間帯に実験を行い、その行動を比較した。
【0040】
その結果、突起部3を設置されていないチャンバー装置1では、サルは落ち着き無く試験室21中を動き回り、1時間程度探索行動を繰り返した。その後、チャンバー装置1に馴化し座る行動をしたが、すわる場所は一定ではなく頻繁に場所を変更するのが確認された。例えば、チャンバー装置1の前面52に出てきて外を覗うか、またはチャンバー装置1の四隅のいずれかに座ることが多く確認された。
【0041】
一方、突起部3を設置したチャンバー装置1では、同じく最初は落ち着き無く試験室21中を動き回り探索行動が見られたが、その時間は0.5時間程度で、突起部3の無いチャンバー装置1に収納したときよりも、探索行動をする時間が短かった。また、チャンバー装置1に馴化した後は、チャンバー装置1の前面52に出て外を覗う以外は突起部3に着座することが多く確認された。
【0042】
(1)呼吸器系測定用チャンバー装置
本測定では、本発明の実施例のチャンバー装置1を用いた。サルを第一収容部2へ収容した。また、試験室21は、縦:約70cm、横:約60cm、高さ:約76.5cmである。チャンバー装置1には、特表2007−500067号公報に記載の呼吸器系測定用装置が設置されている。
【0043】
(2)サルを用いた測定
本発明の実施例のチャンバー装置1に、生理食塩液、あるいは塩酸モルヒネ10mg/kg(武田薬品工業株式会社製、10mg/ml)を皮下投与したカニクイザル4例(4齢オス)を収納し、WHOLE BODY PLETHYSMOGRAPHY法(詳細記載された文献を追記)にて呼吸機能測定を行った。生理食塩水を投与したサルと、塩酸モルヒネを投与したサルは同一で、実験は1〜9日間あけて行った。
【0044】
なお、カニクイザルは、予め上記チャンバー装置1の第一収容部2の試験室21に収容し、探索行動が落ち着いた状態で投与前値を取得した。この後、動物を上記チャンバー装置1から取り出し、生理食塩水またはモルヒネを投与し、直ちに上記チャンバー装置1に収容し、6時間以上測定した。測定時間中は絶食、自由摂水とした。
【0045】
また、上記チャンバー装置1内で呼吸機能測定を行うと同時に、テレメトリー法を用いた心血管系機能及び心電図、ビデオカメラを用いた中枢神経系機能の観察を行った。血圧は、送信器からの圧信号をテレメトリー方式で受信器を介し、データ取得・実時間解析システム(NOTOCORD-hem 3.5,NOTOCORD SYSTEMS社製)により収縮期血圧、拡張期血圧および平均血圧として測定した。心拍数は、血圧の脈波をトリガーして、データ取得分析用コンピュータシステムを介して測定した。また、心電図は、送信器からの生体電気信号をテレメトリー方式で受信器を介してデータ取得・実時間解析システム(NOTOCORD-hem 3.5,NOTOCORD SYSTEMS社製)を用いて測定した。
【0046】
生理食塩液およびMorphineの投与前、投与後の各パラメータ(収縮期血圧、拡張期血圧
、平均血圧、心拍数及び心電図(PQ間隔、QRS群持続時間、QT間隔、QTc)、呼吸数、一回換気量、分時換気量、および一般症状観察)のデータを取得し安全性薬理試験コアバッテリーIN VIVO試験を総合的に評価した。
【0047】
その結果、4例とも呼吸数は、塩酸モルヒネの10mg/kg皮下投与により、僅かに減少しただけであったが、1回換気量および分時換気量は顕著に減少した。血圧は、塩酸モルヒネ投与により持続的に低下した。一方、心拍数およびQT間隔(QTc)は、塩酸モルヒネ投与では殆ど変化しなかった。中枢神経系に関する一般身体状態の観察では、塩酸モルヒネ投与後、自発運動の低下やヒトへの威嚇低下、ヒトに対する反応の低下、眼瞼下垂、傾眠などの抑制的徴候が持続的にみられた。その外に皮膚掻き行動が観察された。これらの行動は、4例とも同様に観察された。
【0048】
上記結果より、上記チャンバー装置1を用いたWhole body plethysmography法によるカニクイザルの呼吸機能測定は、無麻酔非拘束下に行うことができ、4例で結果が同様であることがわかった。また、心血管系および中枢神経に及ぼす影響も同時に観察することができた。
【0049】
以上により、本発明の実施例のチャンバー装置1によれば、非ヒト霊長類の無麻酔、無拘束状態での測定を簡便な装置で行うことができる。呼吸機能の薬理試験について、無麻酔、無拘束状態での測定がサルを用いて行うことができることは、現在まで一般に上記試験において使用されていたラットが代表的な呼吸抑制をきたすモルヒネへの感受性が低いという問題を解決し、またイヌでは体温の調節を呼吸で行うことや嘔吐しやすい性質があることで間接的に呼吸機能測定に弊害を及ぼす可能性がある点も解決し、より自然状態の動物を用いた測定を行うことが可能である。さらには、サルはヒトと生体機能が近いため、無麻酔・無拘束で測定できることはヒトへの影響を予測することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例のチャンバー装置の斜視図である。
【図1A】本発明の実施例のチャンバー装置の連通管のA−A拡大断面図である。
【図2】本発明の実施例のチャンバー装置の扉を開放した正面斜視図である。
【図3】本発明の実施例の運搬用ケージの概略斜視図である。
【図4】本発明の実施例の運搬用ケージの側面図である。
【図5】本発明の実施例の運搬用ケージの正面図である。
【符号の説明】
【0051】
1・・・チャンバー装置
2・・・第一収容部
21・・・試験室
22・・・参照室
23・・・第一空気流開口
24・・・第二空気流開口
25・・・外部空気流開口
26・・・連通管
27・・・分離壁
3・・・突起部
4・・・扉部
41・・・第一の扉
42・・・第二の扉
51・・・上面
52・・・前面
53・・・側面
54・・・背面
55・・・底面
6・・・網状金属板
61・・・レール
7・・・第二開口部
8・・・餌箱
9・・・給水装置
100・・・運搬用ケージ
101・・・前面
102・・・上面
103・・・底面
104・・・側面
105・・・背面
203・・・扉部
201・・・第一扉
202・・・第二扉
300・・・第一開口部
401・・・駆動スプロケット
402、403、404・・・従動スプロケット
405・・・ブロックチェーン
406・・・金属丸棒
407・・・操作用取手
408・・・ストッパープレート
500・・・狭体板
501・・・操作用ハンドル
600・・・キャスター
700・・・台座
800・・・第二収容部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ヒト霊長類の無麻酔、無拘束状態での測定用チャンバー装置であって、
非ヒト霊長類を収容する収容部と、
前記収容部の内部の側面に非ヒト霊長類が着座することが可能な突起部と、を備えるチャンバー装置。
【請求項2】
外部から前記収容部に非ヒト霊長類が出入りするための開口部と、
前記開口部の外側に設置され、開閉することで該開口部を介した非ヒト霊長類の前記収容部への出入りを調整する扉部と、を更に備え、
前記扉部は、
前記開口部に対向するように設置され、該開口部での非ヒト霊長類の出入方向に対して垂直方向に引き抜き可能である第一の扉と、
前記第一の扉を挟んで前記開口部とは反対側に設置され、該開口部を介した前記収容部と外部との空気の出入りを遮断可能な第二の扉と、を有する、
請求項1に記載のチャンバー装置。
【請求項3】
前記第二の扉は、前記収容部に対して着脱可能であって、
前記チャンバー装置を非ヒト霊長類が逃げられないようにした囲いに連結し、該囲いから非ヒト霊長類を該チャンバー装置に移す際には、前記第二の扉は前記収容部から取り外されるとともに、前記第一の扉は非ヒト霊長類の出入方向に対して垂直方向に引き抜かれる、
請求項2に記載のチャンバー装置。
【請求項4】
前記第一の扉と前記第二の扉の間に、非ヒト霊長類を収容する際に必要な付属品が設置される、
請求項2又は3に記載のチャンバー装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載のチャンバー装置は、
非ヒト霊長類の呼吸系の薬理試験を実施するチャンバー装置であって、
前記収容部は、
薬理試験が実施される試験室と、
前記試験室と分離された状態で並設された、該試験室での薬理試験と照らし合わせるための参照室とを、有し、
外気を給気する連通管によって、前記試験室と前記参照室とが連通されている、
チャンバー装置。
【請求項6】
非ヒト霊長類はサルである、
請求項1から5の何れか一項に記載のチャンバー装置。

【図1】
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【図1A】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−81854(P2010−81854A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253685(P2008−253685)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(591122956)三菱化学メディエンス株式会社 (45)
【Fターム(参考)】