説明

チャンバ式インキ供給装置のシール構造

【課題】チャンバ式インキ供給装置のシール構造に関し、シール部材へのインキの堆積を防止できるようにする。
【解決手段】チャンバ本体3と、シールブレード5と、ドクターブレード6と、アニロックスロール7の表面の両端に周方向に沿って延在し、背面4aをチャンバ本体3に固着され、一端面4bはシールブレード5に密着し、他端面4cはドクターブレード6に密着して、頂面4dを表面に摺接するシール部材4を有し、シールブレード5の両シール部材4との密着箇所に設けられた切り欠き部1aと、切り欠き部1aを通じてシール部材4の表面との摺接部分に、印刷に使用される液体を供給する液体供給装置18と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキソ印刷機のアニロックスロールにインキを供給するチャンバ式インキ供給装置のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキソ印刷機には、チャンバ式のインキ供給装置を備えたものがある(例えば、特許文献1,2参照)。
ここで、まず、チャンバ式インキ供給装置を備えたフレキソ印刷機の概要を説明する。
図7は、チャンバ式インキ供給装置を備えたフレキソ印刷機の要部構成を示す図である。図7に示すように、かかるフレキソ印刷機は、チャンバ本体3と、チャンバ本体3に取り付けられたシール部材(サイドシール)4と、ゴムパッキン9を介してチャンバ本体3に取り付けられたシールブレード5及びバックプレート15と、バックプレート15に取り付けられたドクターブレード6と、アニロックスロール7と、版胴(ゴムロール)13と、圧胴(硬質ロール、ここでは、Crロール)14とを備えている。
【0003】
チャンバ17は、チャンバ本体3と、シールブレード5,ドクターブレード6及びシール部材4と、アニロックスロール7の円筒状の表面とによって包囲されて形成される。なお、シールブレード5及びドクターブレード6は、それぞれ先端のエッジをアニロックスロール7の表面に摺接する。
そして、このようなチャンバ17内には、図示しないインキ給排装置によってインキが蓄えられるようになっており、このチャンバ17内のインキが、回転するアニロックスロール7の表面に付着し、アニロックスロール7の表面に摺接するドクターブレード6によって余分なインキが掻き落とされる。
【0004】
さらに、アニロックスロール7の表面に付着したインキは、ドクターブレード6によって掻き取られ、その後、アニロックスロール7のセル内に残留するインキがゴムロール13外周の印刷絵柄に応じた凸面に転移し、ゴムロール13の凸面上のインキが、ゴムロール13とCrロール14とのニップ部に搬送された被印刷媒体(例えば、ウェブ10等)にインキ像として転写されるようになっている。
【0005】
なお、チャンバ本体3には、アニロックスロール7に向かって予め設定された一定の圧力(エア圧)が付加されており、シールブレード5及びドクターブレード6には、アニロックスロール7に対してこの圧力に応じた適度な押付力が作用する。シールブレード5及びドクターブレード6の先端のエッジが摩耗した場合にも、チャンバ本体3がアニロックスロール7に接近するように移動しながら、シールブレード5及びドクターブレード6のアニロックスロール7に対する押付力が保持される。
【0006】
シール部材4は、シールブレード5とドクターブレード6との間(アニロックスロール7の周方向)に延びるようにその背面4aをチャンバ本体3に固着され、その両端面4b,4cをシールブレード5及びドクターブレード6に密着され、さらに、その頂面(アニロックスロール7側の面)4dをアニロックスロール7の表面に摺接することにより、チャンバ17内部のインキが漏れないようにシールする。
【0007】
このようなフレキソ印刷は、無溶剤のUVインキや水性インキを使用できるため、印刷工程で大気を汚染することが少なく、環境に優しい印刷方法である。また、刷り始めに多量の紙の無駄が発生するオフセット印刷に比べ、フレキソ印刷は、刷り始めから色の安定までが短いため紙の無駄が少なく、経済面においても優れている。
さらに、非常に薄く均一なベタ刷りを得意とし、平滑性の悪い紙(厚紙、段ボール等)やフィルム、布、不織布にも柔軟に対応でき、伸縮性のある薄い素材や変肉のあるフィルムにも高い印刷再現性を発揮することができる。
【0008】
このような利点を有することから、フレキソ印刷は様々な分野に適用されており、その中でも特に、新聞用の印刷用紙の紙面改良を行う技術において、フレキソ印刷は好適である。
つまり、一般的な新聞用紙は、一般的な印刷用紙(事務用紙、書籍等)に比べ、白色度が低い。そのため、文字の印刷を施す前に、白色インキを新聞用紙の印刷面に印刷し紙面改良を行う技術が提案されている。新聞印刷は、一度に大量の印刷を高速で行うものであるため、非常に薄く均一なベタ刷りを得意とするフレキソ印刷は好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2716457号公報
【特許文献2】特許第3377466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、フレキソ印刷方式によって紙面改良を行う際に用いる白色インキ(ホワイトアンカー、以下、WAインキともいう)は、紙面にWAインキを印刷した直後に、下流の印刷ユニットに送られて通常の印刷(つまり、絵柄や文字の印刷)を行わなければならないので、速乾性に優れていることが要求される。
そこで、本願発明者らは、速乾性の水性WAインキを利用して紙面改良の試験を繰り返した。その結果、印刷開始直後は通常の印刷を行う工程で、紙面に印刷したWAインキは乾いていて支障なく通常の印刷が行えたものの、印刷時間が経過していくにしたがって、絵柄や文字の色や形状に支障をきたすなどの印刷障害が発生することが判明した。
【0011】
この原因を究明したところ、図8に示すように、WAインキがシール部材4の頂面4dの一部(チャンバ内側寄り且つドクターブレード6に近い側、以下、インキ堆積部と呼ぶ)16に次第に堆積していくことに起因していることが判明した。
つまり、シール部材4の頂面4dはアニロックスロール7の表面に密着しているが、頂面4dのチャンバ内側寄りではシール部材4の頂面4dとアニロックスロール7の表面との間にWAインキが進入してしまう。このために、シール部材4は一定の幅dが確保されているのであるが、このシール部材4の頂面4dとアニロックスロール7の表面との間に進入したWAインキは、アニロックスロール7からせん断力を受けることにより固化していく。そして、WAインキは固化しながら、アニロックスロール7の回転方向であるドクターブレード6に近い側に進んで溜まっていくものと推測される。
【0012】
上述したように、チャンバには一定の圧力が付加されているが、WAインキが固化して堆積すると、その厚みの分だけチャンバが後退する。そして、アニロックスロール上に付着したWAインキを掻き取るドクターブレードもチャンバと共に後退するため、その後退した分だけドクターブレードとアニロックスロールとの間に隙間が生じて、ドクターブレードによるアニロックスロールの表面のインキの掻き取りが不十分になり、アニロックスロールにはWAインキが厚くのってしまう。そして、WAインキが厚くのった分、ウェブ等の印刷面に転写されるWAインキが厚くなるため、乾燥しきれずに、印刷面が未乾燥のまま下流の印刷ユニットに送られていくものと考えられる。
【0013】
このように、印刷面が未乾燥のまま、下流の印刷ユニットに送られて絵柄や文字の印刷が行われると、未乾燥のWAインキが絵柄や文字を印刷するインキと混ざって濁りを生じてしまい、絵柄や文字の色や形状に支障をきたすなどの印刷障害を引き起こしてしまう。
そこで、このような事態に備えて、チャンバをアニロックスロールに押し付ける圧力を予め強く設定することが考えられるが、こうすると、ドクターブレードの先端のエッジの摩耗は一層速まって、ドクターブレードの交換を頻繁に行わなくてはならなくなり、メンテナンス負担も増大する。
【0014】
さらに、インキが堆積してしまったシール部材は、インキを除去するか、新しいシール部材に交換しなくてはならないため、そのたびに作業を中断しなければならず、作業効率の低下を招く。
シール部材の頂面でインキが固化するという現象は、インキの速乾性に原因があるものと考えられる。つまり、速乾性のインキは、ウェブ等に印刷されると素早く乾燥するという利点がある一方、シール部材の頂面とアニロックスロールとの間に進入すると、アニロックスロールからせん断力を受けることにより固化しやすいものと考えられる。
【0015】
ただし、このような課題は、WAインキのように特に速乾性に優れたインキを使用したときのみならず、印刷速度が速くなれば、アニロックスロールから受けるせん断力が大きくなり、シール部材にインキが固化して堆積しやすくなるため、同様に生じうる課題と考えられる。
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、シール部材へのインキの堆積を防止し、アニロックスロールに対するドクターブレードの押付力を適正化することができるようにした、チャンバ式インキ供給装置のシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、請求項1記載の本発明のチャンバ式インキ供給装置のシール構造は、インキを貯留するためのチャンバ本体と、先端をアニロックスロールの表面に摺接するシールブレードと、先端を前記表面に摺接するドクターブレードと、前記表面の両端部に周方向に沿って延在し、背面を前記チャンバ本体に固着され、一端面は前記シールブレードに密着し、他端面は前記ドクターブレードに密着して、頂面を前記表面に摺接するシール部材と、を有し、前記シールブレードの前記両シール部材との密着箇所に設けられた切り欠き部と、前記切り欠き部のチャンバ外側寄りで前記シール部材との間をシールするシール部と、前記切り欠き部を通じて前記シール部材の前記表面との摺接部分に、印刷に使用される液体を供給する液体供給装置と、を備えたことを特徴としている。
【0017】
前記切り欠き部は、前記シールブレードの前記両シール部材の一端面に密着する箇所のうちのチャンバ外側寄り全体を除去したものであることが好ましい。
或いは、前記切り欠き部は、前記シールブレードの前記両シール部材の一端面に密着する箇所のうちのチャンバ外側寄りの角部を除去したものであることが好ましい。
上記の場合、前記切り欠き部のさらにチャンバ外側寄りに、前記シール部材の外端面に密着して前記シール部として機能する仕切り板が設けられていることが好ましい。
【0018】
或いは、前記切り欠き部は、前記シールブレードの前記両シール部材の一端面に密着する箇所のうちのチャンバ外側寄り及びチャンバ内側寄りを除いて部分的に設けられ、前記切り欠き部が設けられずに残存する前記シールブレードのチャンバ外側寄り及びチャンバ内側寄りの部分が、前記シール部として機能することが好ましい。
なお、上記の「チャンバ外側寄り」とは、「アニロックスロールの軸方向において、チャンバ外側寄り」を意味し、「チャンバ内側寄り」とは、「アニロックスロールの軸方向において、チャンバ内側寄り」を意味する。
【0019】
さらに、前記各シール部材の他端面側におけるチャンバ内側寄りの少なくとも前記頂面には、部分的に切り欠かれたシール部材側切り欠き部が設けられていることが好ましい。
また、さらに前記各シール部材と前記シールブレードとの間には、シール剤が充填されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のチャンバ式インキ供給装置のシール構造によれば、切り欠き部を通じてシール部材に供給された液体が、シール部材の頂面とアニロックスロールの表面との摺接部分に進入し、表面と摺接するシール部材の頂面に行き渡るため、シール部材の頂面でインキが固化して堆積することが防止される。これにより、シール部材の頂面でのインキの固化に起因した、チャンバ本体の後退が防止され、ドクターブレードがアニロックスロールに適切に摺接する状態を保持することができ、ドクターブレードの掻き取り不良による印刷障害の発生を防止することができる。
【0021】
また、このため、予めチャンバの押付力を強く設定する必要がなく、アニロックスロールに対するドクターブレードの押付力を適正化することができるため、ドクターブレードの先端のエッジの摩耗を抑制して、ドクターブレードの交換頻度を抑えることができ、メンテナンス負担も軽減される。
さらに、シール部によりインキの漏れを防止し、切り欠き部によりインキの堆積を防止するため、シール部材の交換等のために頻繁に作業を中断しなくてもよく、長時間の運転が可能となる。
【0022】
また、シール部材の頂面のインキが堆積しやすい部分に、予め切り欠き部(シール部材側切り欠き部)を設けておくことにより、シール部材の頂面へのインキの堆積を一層確実に防止することができる。
さらに、各シール部材とシールブレードとの間にシール剤を充填しておくことにより、インキ漏れを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるチャンバ式インキ供給装置のシール構造の要部を説明するための模式的な斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態にかかるチャンバ式インキ供給装置のシール構造の要部を、アニロックスロールを除いて示す模式的な斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態にかかるチャンバ式インキ供給装置のシール構造の要部を、アニロックスロールを除いて示す模式的な斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかるチャンバ式インキ供給装置のシール構造の要部を説明するための模式的な斜視図である。
【図5】本発明の第2実施形態にかかるチャンバ式インキ供給装置のシール構造の要部を、アニロックスロールを除いて示す模式図であり、図5(a)はその斜視図、図5(b)はその正面図である。
【図6】本発明の第3実施形態にかかるチャンバ式インキ供給装置のシール構造の要部を、アニロックスロールを除いて示す模式的な斜視図である。
【図7】一般的なチャンバ式インキ供給装置を備えたフレキソ印刷機の要部構成を示す模式的な斜視図である。
【図8】従来のチャンバ式インキ供給装置のシール構造におけるインキの堆積を説明するための模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。ここで、従来と同じ部材等は、従来の説明と同一の符号で説明する。
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態にかかるチャンバ式インキ供給装置のシール構造について図1〜図3を用いて説明すると、図1はチャンバ式インキ供給装置のシール構造の要部を説明するための模式的な斜視図、図2及び図3はチャンバ式インキ供給装置のシール構造の要部を、アニロックスロールを除いて示す模式的な斜視図である。各図において、説明をわかりやすくするために、チャンバ本体3、シールブレード5、ドクターブレード6、シール剤8、ゴムパッキン9及びバックプレート15の厚みは実際よりも厚く図示してある。また、各図では、便宜上、仕切り板11を除いて図示しており、仕切り板11については二点鎖線で示している。
【0025】
なお、フレキソ印刷機の概要説明には図7を流用する。
また、本実施形態では、新聞用紙の印刷面の紙面改良、つまり、白色度向上のために、印刷面に白色インキ(WAインキ)を印刷するために、フレキソ印刷を適用する場合を例に説明する。また、WAインキには、水性WAインキを用いるものとして説明する。ただし、インキは水性WAインキに限らず、また、液体はインキ溶媒や水などを使用するとよい。
【0026】
図7に示すように、本実施形態にかかるフレキソ印刷機は、従来のフレキソ印刷機と同様、チャンバ本体3と、チャンバ本体3に取り付けられたシール部材(サイドシール)4と、ゴムパッキン9を介してチャンバ本体3に取り付けられたシールブレード5及びバックプレート15と、バックプレート15に取り付けられたドクターブレード6と、アニロックスロール7と、版胴(ゴムロール)13と、圧胴(硬質ロール、ここでは、Crロール)14とを備えている。さらに、本実施形態におけるフレキソ印刷機は、図1に示すように、シールブレード5に設けられた切り欠き部1a及びシール部2aと、シール剤8と、仕切り板11と、シール部材側切り欠き部(サイドシール側切り欠き部)12と、ノズル(液体供給装置)18とを備えている。
【0027】
チャンバ17は、チャンバ本体3と、シールブレード5,ドクターブレード6及びサイドシール4と、アニロックスロール7の円筒状の表面とによって包囲されて形成される。なお、シールブレード5及びドクターブレード6は、それぞれ先端のエッジをアニロックスロール7の表面に摺接する。
ここで、シールブレード5は、チャンバ17内部からのインキ漏れ防止のためのシールが可能であれば、材質は樹脂、金属を問わない。アニロックスロール7の表面と接触する辺の真直度や、シールブレード5の固定の際のうねりを吸収でき、且つ、未使用の戻りのインキを掻き取らない程度の適度な剛性があり、アニロックスロール7に軽く接触させられるものであればよい。
【0028】
また、ドクターブレード6は、アニロックスロール7に接触する先端のエッジの真直度が高く(より直線に近い)、先端のエッジ近傍の面の平面度が高く(より平面に近い)、且つ、過剰に変形せず、ドクターブレード6の固定の際のうねりを吸収できる程度の適度な剛性があり、アニロックスロール7の全面にフィットするもの、つまり、アニロックスロール7の回転時に、ドクターブレード6の先端のエッジが常時アニロックスロール7の表面に接触するもの、が好ましい。さらに、ドクターブレード6は、アニロックスロール7の表面を摩耗させない範囲で可能な限り高い耐摩耗性を有しているものが好ましい。例えば、好適なドクターブレード6の一例として、ステンレス鋼(SUS)の先端のエッジ部分近傍にセラミック溶射したものがあるが、これに限定されるものではなく、上記の要件を満たす範囲で種々の変更が可能である。
【0029】
サイドシール4は、シールブレード5とドクターブレード6との間(アニロックスロール7の周方向)に延びるようにその背面4aをチャンバ本体3に固着され、その両端面4b,4cをシールブレード5及びドクターブレード6に密着され、さらに、その頂面(アニロックスロール7側の面)4dをアニロックスロール7の表面に摺接することにより、チャンバ17内部のインキが漏れないようにシールする。
【0030】
また、サイドシール4には、アニロックスロール7の回転に引きずられて変形せず、且つ、シール面圧の増大に伴う摩擦の増加による熱等の不安が生じない程度の適度な剛性があるものが好ましい。例えば、好適なサイドシール4の一例として、シリコン系単発泡ゴムがあるが、これに限定されるものではなく、上記の要件を満たす範囲で種々の変更が可能である。
【0031】
シール剤8は、サイドシール4と、シールブレード5,ドクターブレード6及びバックプレート15との隙間(図1に示す黒塗りの部分)に充填され、インキ漏れを確実に防止する。シール剤8は、接着力と多少の弾力とを有し、シールブレード5,ドクターブレード6及びバックプレート15とサイドシール4との隙間を確実に埋める効果があるものが好ましい。
ゴムパッキン9は、チャンバ本体3とシールブレード5及びバックプレート15との間に設けられ、チャンバ17内部のインキが漏れないようにシールする。
また、バックプレート15は、ドクターブレード6の過剰変形防止のために、ドクターブレード6の背面に設けられている。
【0032】
ここで、特徴的な構造として、シールブレード5には、サイドシール4との密着箇所のチャンバ外側寄りの全体を削除するか、若しくは、シールブレード5の長さを短くすることによって形成された切り欠き部1aが設けられている。また、切り欠き部1aのチャンバ内側寄りで、サイドシール4と接触するシールブレード5の裏面であって、切り欠き部1aが形成されたシールブレード5の残りの面であるシール部2aが、シールブレード5とサイドシール4との間をシールし、チャンバ17内のインキ漏れを防止するために設けられている。さらに、この切り欠き部1aの上方には、切り欠き部1aを通じてサイドシール4の頂面4dに水(インキ溶媒)を供給するためのノズル(液体供給装置)18が設けられている。
【0033】
なお、ここで、「チャンバ外側寄り」とは、「アニロックスロール7の軸方向において、チャンバ外側寄り」を意味し、「チャンバ内側寄り」とは、「アニロックスロール7の軸方向において、チャンバ内側寄り」を意味する。
また、切り欠き部1aはシールブレード5のチャンバ外側寄り全体に設けられているため、シール部として機能する仕切り板11が、図1に二点鎖線で示すように設けられている。つまり、仕切り板11は、切り欠き部1aのさらにチャンバ外側寄りに、サイドシール4の外端面に密着しており、ノズル18から供給されたインキ溶媒としての水が直接外に漏れることを確実に防止することができる。ここで、仕切り板11は、ノズル18から供給された水が直接外に漏れるのを防止できるシール部としての機能を有するものであればよく、図1に示した形状に限らない。
【0034】
また、仕切り板11を設けないことも可能である。仕切り板11はサイドシール4とアニロックスロール7との位置関係を考慮し、精度良く取り付ける必要があるため、取り付け位置の調整には手間がかかるが、仕切り板11がなくともノズルから供給されたインキ溶媒としての水は、基本的にはサイドシール4に吸い込まれていくため、仕切り板11を設けない場合には、仕切り板11を取り付ける手間を省くことができる。
【0035】
また、図2及び図3に示すように、サイドシール4の頂面4dのチャンバ内側で且つドクターブレード6寄りには、この部分のみを部分的に切り欠いたサイドシール側切り欠き部12,12′が設けられている。なお、図2に示すように、サイドシール4のチャンバ内側で且つドクターブレード6寄りにおいて、その頂面4dから背面4aまでに亘って設けたサイドシール側切り欠き部12の形状でもよく、また、図3に示すように、サイドシール4のチャンバ内側で且つドクターブレード6寄りの頂面4d側のみに部分的に設けたサイドシール側切り欠き部12′の形状でもよい(背面4a側は切り欠かない)。
【0036】
本発明の第1実施形態にかかるチャンバ式インキ供給装置のシール構造は、上述のように構成されているので、印刷中には、インキ溶媒としての水がノズル18から切り欠き部1aの部分に連続的に滴下される。この水は、切り欠き部1aを通じてサイドシール4の一端面4bに供給される。そして、供給された水は、アニロックスロール7の回転により、サイドシール4の頂面4dとアニロックスロール7の表面との摺接部分に進入して広がりながら、サイドシール4の頂面4dの下方に行き渡る。このため、サイドシール4の頂面4dに進入したインキは、アニロックスロール7の表面からせん断力を受けても、供給されるインキ溶媒としての水によって固化することがなく、サイドシール4の頂面4dに固化したインキが堆積することが防止される。
【0037】
これにより、サイドシール4の頂面4dでのインキの固化に起因した、チャンバ本体3の後退が防止され、ドクターブレード6がアニロックスロール7に適切に摺接する状態を保持できる。そして、ドクターブレード6の掻き取り不良による印刷障害の発生を防止することができる。
また、このため、予めチャンバ17の押付力を強く設定する必要がなく、アニロックスロール7に対するドクターブレード6の押付力を適正化することができるため、ドクターブレード6の先端のエッジの摩耗を抑制して、ドクターブレード6の交換頻度を抑えることができ、メンテナンス負担も軽減される。
【0038】
さらに、シール部としての仕切り板11はインキ溶媒として供給された水が直接外に漏れることを確実に防ぎ、シール部2aはチャンバ17内部のWAインキの漏れを防ぐ機能を有するため、切り欠き部1aのチャンバ外側寄り及びチャンバ内側寄りにおいて、シールブレード5とサイドシール4との間を確実にシールすることができる。
ただし、シール部2aは、これらの機能を有するものであればよく、本実施形態のものに限らない。
【0039】
したがって、仕切り板11及びシール部2aによりインキ漏れ等を防止し、切り欠き部1aによりインキの堆積を防止するため、サイドシール4の交換等のために頻繁に作業を中断しなくてもよく、長時間の運転が可能となる。
また、サイドシール4の頂面4dのインキが堆積しやすい部分16に、予めサイドシール側切り欠き部12が設けられているので、サイドシール4の頂面4dへのインキの堆積を一層確実に防止することができる。
【0040】
さらに、各サイドシール4とシールブレード5及びドクターブレード6との間にシール剤8が充填されているため、インキ漏れを確実に防止することができる。
なお、本実施形態では、切り欠き部1aがシールブレード5のチャンバ外側寄りの全体を削除するか、若しくは、シールブレード5の長さを短くすることにより設けられるため、切り欠き部1aの加工を容易に施すことができる。
【0041】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態にかかるチャンバ式インキ供給装置のシール構造について図4,図5を用いて説明すると、図4はチャンバ式インキ供給装置のシール構造の要部を説明するための模式的な斜視図、図5はチャンバ式インキ供給装置のシール構造の要部を、アニロックスロールを除いて示す模式図であり、図5(a)はその斜視図、図5(b)はその正面図である。なお、第1実施形態と同じ部材等は、第1実施形態の説明と同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0042】
図4及び図5に示すように、本実施形態にかかるフレキソ印刷機は、第1実施形態とは異なり、切り欠き部1bが、サイドシール4との密着箇所を一部切り欠いて形成されている。また、切り欠き部1bのチャンバ内側寄り及びチャンバ外側寄りで、サイドシール4と接触するシールブレード5の裏面であって、切り欠き部1bが形成されたシールブレード5の残りの面であるシール部2a,2bが、シールブレード5とサイドシール4との間をシールし、チャンバ17内のインキ漏れを防止するために設けられている。
また、上記以外の構造は、第1実施形態と同様である。
【0043】
本発明の第2実施形態にかかるチャンバ式インキ供給装置のシール構造は、上述のように構成されているので、第1実施形態と同様に、印刷中には、インキ溶媒としての水がノズル18から切り欠き部1bの部分に連続的に滴下される。この水は、切り欠き部1bを通じてサイドシール4の一端面4bに供給される。そして、供給された水は、アニロックスロール7の回転により、サイドシール4の頂面4dとアニロックスロール7の表面との摺接部分に進入して広がりながら、サイドシール4の頂面4dの下方に行き渡る。このため、サイドシール4の頂面4dに進入したインキは、アニロックスロール7の表面からせん断力を受けても、供給されるインキ溶媒としての水によって固化することがなく、サイドシール4の頂面4dに固化したインキが堆積することが防止される。
【0044】
これにより、サイドシール4の頂面4dでのインキの固化に起因した、チャンバ本体3の後退が防止され、ドクターブレード6がアニロックスロール7に適切に摺接する状態を保持できる。そして、ドクターブレード6の掻き取り不良による印刷障害の発生を防止することができる。
また、このため、予めチャンバ17の押付力を強く設定する必要がなく、アニロックスロール7に対するドクターブレード6の押付力を適正化することができるため、ドクターブレード6の先端のエッジの摩耗を抑制して、ドクターブレード6の交換頻度を抑えることができ、メンテナンス負担も軽減される。
【0045】
さらに、シール部2bはインキ溶媒として供給された水が直接外に漏れるのを防ぎ、シール部2aはチャンバ17内部のWAインキの漏れを防ぐ機能を有するため、切り欠き部1bのチャンバ内側寄り及び外側寄りにおいて、シールブレード5とサイドシール4との間を確実にシールすることができる。
ただし、シール部2a,2bは、これらの機能を有するものであればよく、本実施形態のものに限らない。
【0046】
したがって、シール部2a,2bによりインキ漏れ等を防止し、切り欠き部1bによりインキの堆積を防止するため、サイドシール4の交換等のために頻繁に作業を中断しなくてもよく、長時間の運転が可能となる。
また、サイドシール4の頂面4dのインキが堆積しやすい部分16に、予めサイドシール側切り欠き部12が設けられているので、サイドシール4の頂面4dへのインキの堆積を一層確実に防止することができる。
【0047】
さらに、各サイドシール4とシールブレード5及びドクターブレード6との間にシール剤8が充填されているため、インキ漏れを確実に防止することができる。
なお、本実施形態では、シール部2bがインキ溶媒として供給された水が直接外に漏れるのを防ぐため、仕切り板11を設ける必要がないという利点がある。
【0048】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態にかかるチャンバ式インキ供給装置のシール構造について図6を用いて説明すると、図6はチャンバ式インキ供給装置のシール構造の要部を、アニロックスロール除いて示す模式的な斜視図である。なお、第1,第2実施形態と同じ部材等は、第1,第2実施形態の説明と同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
また、第3実施形態は、第1実施形態における切り欠き部1aの設け方が異なっているのみで、それ以外の構造は第1実施形態と同様である。
【0049】
図6に示すように、本実施形態にかかるフレキソ印刷機は、切り欠き部1cが、シールブレード5のチャンバ外側寄りの角部(チャンバ外側寄り且つシールブレード5の先端寄り)を削除することによって設けられている。また、切り欠き部1cのチャンバ内側寄りで、サイドシール4と接触するシールブレード5の裏面であって、切り欠き部1cが形成されたシールブレード5の残りの面であるシール部2aが、シールブレード5とサイドシール4との間をシールし、チャンバ17内のインキ漏れを防止するために設けられている。
【0050】
また、切り欠き部1cをシールブレード5のチャンバ外側寄りの角部に設けられているため、第1実施形態と同様に、本実施形態においてもシール部として機能する仕切り板11が、図6に二点鎖線で示すように設けられている。仕切り板11は、切り欠き部1cのさらにチャンバ外側寄りに、サイドシール4の外端面に密着しており、ノズル18から供給されたインキ溶媒としての水が直接外に漏れることを確実に防止することができる。ここで、仕切り板11は、ノズル18から供給された水が直接外に漏れるのを防止できるシール部としての機能を有するものであればよく、図6に示した形状に限らない。
【0051】
また、第1実施形態と同様、仕切り板11を設けないことも可能である。この場合には、仕切り板11を取り付ける手間を省くことができる。 本発明の第3実施形態にかかるチャンバ式インキ供給装置のシール構造は、上述のように構成されているので、第1,第2実施形態と同様に、印刷中には、インキ溶媒としての水がノズル18から切り欠き部1cの部分に連続的に滴下される。この水は、切り欠き部1cを通じてサイドシール4の一端面4bに供給される。そして、供給された水は、アニロックスロール7の回転により、サイドシール4の頂面4dとアニロックスロール7の表面との摺接部分に進入して広がりながら、サイドシール4の頂面4dの下方に行き渡る。このため、サイドシール4の頂面4dに進入したインキは、アニロックスロール7の表面からせん断力を受けても、供給されるインキ溶媒としての水によって固化することがなく、サイドシール4の頂面4dに固化したインキが堆積することが防止される。
【0052】
これにより、サイドシール4の頂面4dでのインキの固化に起因した、チャンバ本体3の後退が防止され、ドクターブレード6がアニロックスロール7に適切に摺接する状態を保持できる。そして、ドクターブレード6の掻き取り不良による印刷障害の発生を防止することができる。
また、このため、予めチャンバ17の押付力を強く設定する必要がなく、アニロックスロール7に対するドクターブレード6の押付力を適正化することができるため、ドクターブレード6の先端のエッジの摩耗を抑制して、ドクターブレード6の交換頻度を抑えることができ、メンテナンス負担も軽減される。
【0053】
さらに、仕切り板11はシール部として機能するため、インキ溶媒として供給された水が直接外に漏れるのを防ぎ、シール部2aはチャンバ17内部のWAインキの漏れを防ぐ機能を有するため、切り欠き部1cのチャンバ内側寄りにおいて、シールブレード5とサイドシール4との間を確実にシールすることができる。
したがって、シール部としての仕切り板11とシール部2aとによりインキ漏れ等を防止し、切り欠き部1cによりインキの堆積を防止するため、シール部材4の交換等のために頻繁に作業を中断しなくてもよく、長時間の運転が可能となる。
【0054】
また、サイドシール4の頂面4dのインキが堆積しやすい部分16に、予めサイドシール側切り欠き部12が設けられているので、サイドシール4の頂面4dへのインキの堆積を一層確実に防止することができる。
さらに、各サイドシール4とシールブレード5及びドクターブレード6との間にシール剤8が充填されているため、インキ漏れを確実に防止することができる。
【0055】
なお、本実施形態では、切り欠き部1cがシールブレード5の角部を削除することによって設けられているため、切り欠き部1cの加工を容易に施すことができる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
例えば、上記実施形態ではインキを水性としたが、油性であってもよい。また、サイドシール側切り欠き部12は設けなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、チャンバ式インキ供給装置を備えた印刷機による印刷産業に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1a,1b,1c 切り欠き部
2a,2b シール部
3 チャンバ本体
4 シール部材(サイドシール)
4a シール部材の背面
4b シール部材の一端面
4c シール部材の他端面
4d シール部材の頂面
5 シールブレード
6 ドクターブレード
7 アニロックスロール
8 シール剤
9 ゴムパッキン
10 ウェブ
11 仕切り板
12,12′ シール部材側切り欠き部(サイドシール側切り欠き部)
13 ゴムロール
14 圧胴(硬質ロール,Crロール)
15 バックプレート
16 インキ堆積部
17 チャンバ
18 ノズル(液体供給装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキを貯留するためのチャンバ本体と、先端をアニロックスロールの表面に摺接するシールブレードと、先端を前記表面に摺接するドクターブレードと、前記表面の両端部に周方向に沿って延在し、背面を前記チャンバ本体に固着され、一端面は前記シールブレードに密着し、他端面は前記ドクターブレードに密着して、頂面を前記表面に摺接するシール部材と、を有するチャンバ式インキ供給装置のシール構造であって、
前記シールブレードの前記両シール部材との密着箇所に設けられた切り欠き部と、
前記切り欠き部のチャンバ外側寄りで前記シール部材との間をシールするシール部と、
前記切り欠き部を通じて前記シール部材の前記表面との摺接部分に、印刷に使用される液体を供給する液体供給装置と、を備えた
ことを特徴とする、チャンバ式インキ供給装置のシール構造。
【請求項2】
前記切り欠き部は、前記シールブレードの前記両シール部材の一端面に密着する箇所のうちのチャンバ外側寄り全体を除去したものである
ことを特徴とする、請求項1記載のチャンバ式インキ供給装置のシール構造。
【請求項3】
前記切り欠き部は、前記シールブレードの前記両シール部材の一端面に密着する箇所のうちのチャンバ外側寄りの角部を除去したものである
ことを特徴とする、請求項1記載のチャンバ式インキ供給装置のシール構造。
【請求項4】
前記切り欠き部のさらにチャンバ外側寄りに、前記シール部材の外端面に密着して前記シール部として機能する仕切り板が設けられている
ことを特徴とする、請求項2又は3記載のチャンバ式インキ供給装置のシール構造。
【請求項5】
前記切り欠き部は、前記シールブレードの前記両シール部材の一端面に密着する箇所のうちのチャンバ外側寄り及びチャンバ内側寄りを除いて部分的に設けられ、前記切り欠き部が設けられずに残存する前記シールブレードのチャンバ外側寄り及びチャンバ内側寄りの部分が、前記シール部として機能する
ことを特徴とする、請求項1記載のチャンバ式インキ供給装置のシール構造。
【請求項6】
前記各シール部材の他端面側におけるチャンバ内側寄りの少なくとも前記頂面が、部分的に切り欠かれたシール部材側切り欠き部が設けられている
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載のチャンバ式インキ供給装置のシール構造。
【請求項7】
前記各シール部材と前記シールブレードとの間に、シール剤が充填されている
ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項に記載のチャンバ式インキ供給装置のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−79142(P2011−79142A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230885(P2009−230885)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(310016522)三菱重工印刷紙工機械株式会社 (75)
【Fターム(参考)】