説明

チョコレートの味及び風味の改善のための剤

【課題】チョコレート製品における、食味改善剤を提供する。
【解決手段】(a)遊離のグルタミン酸を、グルタミン酸ナトリウム相当量で10重量%以上(好ましくは15%以上)、(b)5'-イノシン酸二ナトリウム及び5'-グアニル酸二ナトリウムを総量で1重量%以上(好ましくは1.5%以上)、並びに(c)2-フランメタノール及び/又は5-メチル-2-フランメタノールを含む酵母エキスを有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母エキスの、チョコレートを含有する飲食品への利用に関する。本発明はまた、チョコレートを含有する飲食品の味及び風味の改善に関する。本発明は、食品又は飲料の製造の分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
酵母エキスは、天然物由来の調味料として種々の食品に使用されている。酵母エキスは、旨味成分であるグルタミン酸を比較的多く含むので、主として旨味を補うために用いられている一方で(特許文献1〜3)、旨味以外の味に対する効果を期待して用いることも検討されつつある。
【0003】
例えば、特許文献4は、酵母エキス、特に5’-イノシン酸ナトリウム及び/又は5’-アデニル酸ナトリウム、5’-グアニル酸ナトリウム、5’-ウリジル酸ナトリウム及び5’-シチジル酸ナトリウムを各々1〜15%、及びグルタミン酸ナトリウムを1〜20%含有した酵母エキスが、甘味特性、特に後味特性を改善するとの知見に基づき、酵母抽出物を有効成分とする甘味改善剤を提案している。また、特許文献5は、遊離アミノ酸を特定の割合で含有する酵母エキスを原料として添加することにより、簡便かつ安価に、甘味系食品の甘味やコク味を増強できることの知見に基づき、遊離アミノ酸含有量が5重量%以上である酵母エキスを用いることを特徴とする、食品の甘味及びコク味増強方法を提案する。
【0004】
他方、チョコレートを使用した飲食品は多数あり、チョコレートの食味は、世界中でよく知られ、人気の高いものの1つとなっている。チョコレートに関しては、揮発性フレーバーについての報告、ミルクチョコレートやカカオマスの匂いについての報告がある(非特許文献1及び2)。チョコレート製品の工業生産においては、製造原料コストの低減、味や風味の改善等の目的で、原料カカオ分に加えて、香料、糖質、油脂類、甘味料等の添加物が配合されることがある。例えば、特許文献6は、チョコレート特性を有する菓子組成物において、少なくとも1種の短鎖脂肪酸及び少なくとも1種のラクトンを含む純粋フレーバー化合物の混合物を用い、ミルクチョコレートフレーバーを付与することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-102549
【特許文献2】特開平10-327802
【特許文献3】WO99/16860
【特許文献4】特開2000-37170(特許第3099709号)
【特許文献5】特開2009-44978
【特許文献6】特開2001-95490
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Food Chemistry, 113, 208-215, 2009
【非特許文献2】J. Agric. Food Chem., Vol.45, No.3, 867-872, 1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、種々の特性を有する酵母エキスの様々な食品における利用について検討してきた。その中で、グルタミン酸を豊富に含有し、かつ核酸類も多く含む酵母エキスが、旨味を中心とする先味強化に有効であることを見出した。そしてそのような酵母エキスが乳製品との相性がよく、乳感アップに寄与するほか、予想外にも、チョコレートの食味を引き立たせることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下を提供する:
[1](a)グルタミン酸ナトリウムを10重量%以上(好ましくは15%以上)、
(b)イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを、総量で1重量%以上(好ましくは1.5%以上)、並びに
(c)2-フランメタノール及び5-メチル-2-フランメタノールを含む、酵母エキスの呈味成分及び/又は匂い成分を有効成分とする、チョコレート製品における、食味改善剤。
[2](a)グルタミン酸ナトリウムを10重量%以上(好ましくは15%以上)、
(b)イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを、総量で1重量%以上(好ましくは1.5%以上)、並びに
(c)2-フランメタノール及び5-メチル-2-フランメタノールを含む酵母エキスを有効成分とする、チョコレート製品における、食味改善剤。
[3](a)グルタミン酸ナトリウムを10重量%以上(好ましくは15%以上)、
(b)イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを、総量で1重量%以上(好ましくは1.5%以上)、並びに
(c)2-フランメタノール及び5-メチル2-フランメタノール
を含む酵母エキスを添加する工程を含む、チョコレート製品における、食味の改善方法。[4] 酵母エキスを、製品重量あたり、0.002%以上(好ましくは0.01%以上)、0.13%以下(好ましくは0.075%以下)で添加する、[3]に記載の方法。
[5](1)カカオ分、(2)乳脂肪分、(3)甘味料、及び(4)下記を含む酵母エキス
(a)グルタミン酸ナトリウムを10重量%以上(好ましくは15%以上)、
(b)イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを、総量で1重量%以上(好ましくは1.5%以上)、並びに
(c)2-フランメタノール及び5-メチル2-フランメタノール
を含み、製品あたり、
(a)グルタミン酸ナトリウム0.00010重量%以上、
(b)イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを総量で0.000010重量%以上
含む、チョコレート製品。
[6](1)カカオ分、
(2)乳脂肪分、
(3)甘味料、
(4)酵母エキス、及び
(5)5-メチル2-フランメタノール
を含む、チョコレート製品。
[7]チョコレート製品が、21重量%以上のカカオ分を含むミルクチョコレートである、[5]又は[6]に記載のチョコレート製品。
[8]チョコレート製品が、18重量%以上のカカオバターを含むホワイトチョコレートである、[5]又は[6]に記載のチョコレート製品。
[9]チョコレート製品が、7%重量以上のカカオ分を含む、チョコレートドリンクである、[5]又は[6]に記載のチョコレート製品。
[10]5-メチル2-フランメタノールを含む、チョコレート製品における、食味改善剤。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】GC/MSを用い、本発明品の匂い成分を分析した。代表的なチャートを図1に示した。
【図2】市販の酵母エキスのうち、畜肉臭が強く感じられる酵母エキスを選択し、匂い成分を分析した結果を図2に並べて示した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、酵母エキスのチョコレート製品への利用に関する。
【0011】
本発明で「食味(eating quality)」というときは、特に記載した場合を除き、食品のおいしさに関する特性のうち、味覚及び/又は嗅覚により感得される要素をいい、具体的には、味(taste)、風味(flavor)、匂い(aroma)をいう。
【0012】
本発明で「剤」というときは、特に記載した場合を除き、チョコレート製品を製造する際に、チョコレート製品に添加するための物(substance)をいう。本発明の剤は、酵母エキスを含む。本発明の剤は、酵母エキスそのものであってもよく、酵母エキスと他の食品として許容される担体及び/又は添加剤を含んだ組成物であってもよい。
【0013】
本明細書で、剤、酵母エキス、チョコレート組成物等に関して、アミノ酸等の含量又は組成に関する値に言及するときは、特に記載した場合を除き、重量に基づく値を指す。
【0014】
[酵母エキス]
本発明で「酵母エキス」というときは、特に記載した場合を除き、酵母菌体から溶媒により抽出した抽出物を指す。抽出物の精製物、濃縮物及び乾燥物も「酵母エキス」に含まれる。酵母エキスは、液状、ペースト状であることがあり、粉末状であることもある。
【0015】
本発明に用いられる酵母エキスは、呈味成分及び匂い成分を含む。
【0016】
本発明で酵母エキスに関し「呈味成分」というときは、特に記載した場合を除き、稿吠エキスに含まれる成分のうち、味覚として感得できる(口(舌)から感じる)成分をいい、これには、後述する(a)グルタミン酸ナトリウム及び(b)イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムのほか、他のアミノ酸、ペプチド、並びに有機酸が含まれる。「他のアミノ酸」には、アスパラギン酸、アラニン、グリシンが含まれる。「ペプチド」には、100以上700未満のもの、700以上2000未満のもの、2000以上5000未満のもの、5000以上10000未満のもの、分子量が10000以上のものが含まれる、「有機酸」には、コハク酸、クエン酸、乳酸、ピログルタミン酸、リンゴ酸、酢酸が含まれる。
【0017】
本発明で「匂い成分」というときは、後述する「(c)特徴ある匂い成分」の項に記載された成分以外の、揮発性であり、好ましくは水溶性の成分が含まれる。
【0018】
(a)グルタミン酸ナトリウム
本発明で酵母エキスに関連して、グルタミン酸ナトリウムの含量をいうときは、特に記載した場合を除き、酵母エキス中に含まれる遊離アミノ酸のうちのグルタミン酸を、グルタミン酸ナトリウム一水和物(C5H8NNaO4・H20 分子量187.13)相当量として表した値をいう。グルタミン酸ナトリウムは、グルタミン酸ソーダ、2-アミノペンタン二酸ナトリウムということもあり、またMSG(monosodium glutamate)と表されることもある。
【0019】
本発明に用いられる酵母エキスは、グルタミン酸ナトリウムを10重量%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上含む。なお本発明で酵母エキス中の成分の含量を示す場合は、特に記載した場合を除き、その値は、乾燥重量当たりの含量である。また、本発明で酵母エキス又は酵母エキスを含む剤に含有されるアミノ酸について説明する場合は、特に記載した場合を除き、アミノ酸とは、ペプチド又はタンパク質の一部を構成しているアミノ酸残基は含まず、遊離型のアミノ酸である。アミノ酸は、特に記載した場合を除き、L体である。
【0020】
(b)イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウム
本発明で酵母エキスに関連してイノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムの含量をいうときは、特に記載した場合を除き、酵母エキス中に含まれるイノシン酸及びグアニル酸を、イノシン酸ナトリウム(C10H11N4O8P 2Na 分子量 392.2)の7水和物及びグアニル酸ナトリウム(C10H12N5O8P 2Na 分子量407.2)の7水和物相当量として表した値をいう。イノシン酸ナトリウムは、5'-イノシン酸二ナトリウムということもあり、IMP・2Naと表されることもある。グアニル酸ナトリウムは、5'-グアニル酸二ナトリウムということもあり、GMP・2Naと表されることもある。イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムをまとめて、IGと称することもある。
【0021】
本発明に用いられる酵母エキスは、上述のグルタミン酸ナトリウムに加えて、イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを、総量で1重量%以上、好ましくは1.5%以上、より好ましくは1.8%以上含む。
【0022】
(c)特徴的な匂い成分
本発明者らの詳細な検討によると、上述のようなグルタミン酸ナトリウム含量が高く、かつイノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウム含量が高い酵母エキス(本明細書では、「本発明品」ということがある。)は、特徴的な匂い成分として、下記を有することが判明した。
(1)ピラジン類(ピラジン又はピラジン骨格に1以上の置換基を有するピラジン誘導体をいう。特に、2,5-ジメチル-ピラジン、2,3-ジメチル-ピラジン、2-エチル-3-メチル-ピラジン);
(2)フランメタノール類(2-フランメタノール、又は2-フランメタノール骨格に1以上の置換基を有する2-フランメタノール誘導体をいう。特に、2-フランメタノール、5-メチル-2-フランメタノール);及び
(3)3-メチル-ブタノール(イソバレルアルデヒド)。
【0023】
これらの成分の内、2-フランメタノール、及び5-メチル-2-フランメタノールは、これまで酵母エキスに含有されていることは知られていなかった。2-フランメタノール(分子量: 98.1)は、(2-フリル)メタノール、α-フリルカルビノール、2-フリルカルビノール、フラン-2-メタノール、2-フラニルメタノール、2-ヒドロキシメチルフラン、フルフリルアルコールということもある。5-メチル-2-フランメタノール(分子量: 112.13)は、5-メチルフルフリルアルコール、5-メチルフラン-2-メタノールということもある。本発明者らの検討によると、チョコレート製品において、2-フランメタノールは甘い香りを付与することができ、5-メチル-2-フランメタノールはビターな味や風味を付与することができる。
【0024】
本発明に用いることのできる酵母エキスは、2,5-ジメチル-ピラジン、2,3-ジメチル-ピラジン、及び2-エチル-3-メチル-ピラジンを総計で、0.050〜6.0ppm、好ましくは0.075〜4.5ppm、より好ましくは0.10〜3.0ppm含み;2-フランメタノール及び5-メチル-2-フランメタノールを総計で、0.75〜24ppm、好ましくは1.5〜18ppm、より好ましくは3.0〜12ppm含むか、又は2-フランメタノールを、0.050〜1.6ppm、好ましくは0.10〜1.2ppm、より好ましくは0.20〜0.80ppm含み、5-メチル-2-フランメタノールを、2.0〜68ppm、好ましくは4.0〜51ppm、より好ましくは8.0〜34ppm含み;並びに3-メチル-ブタノールを9〜270ppm、好ましくは30〜180ppm、より好ましくは60〜120ppm含む。
【0025】
匂い成分の同定及び定量は、当業者であれば、公知の適切な方法を用いて適宜行うことができる。例えば、GC/MSは同定及び定量のために有効な手段である。当業者は、具体的な条件として、本明細書の実施例の記載を参照することができる。
【0026】
その他の成分
本発明に用いられる酵母エキスは、いずれの場合も、含有される遊離アミノ酸の含量が高いことが好ましい。好ましい態様においては、酵母エキスは、100g中、20g以上、好ましくは、25g以上、より好ましくは30g以上の遊離アミノ酸を含む。また、いずれの場合も、含有される遊離アミノ酸中、グルタミン酸の占める割合が高いことが好ましい。好ましい態様においては、遊離アミノ酸のうち、40%以上、好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上をグルタミン酸が占める。
【0027】
本発明に用いられる酵母エキスは、いずれの場合も、有機酸の含量が高いことが好ましい。特に好ましい態様においては、コハク酸を、1%以上、好ましくは1.5%以上、より好ましくは、1.8%以上含む。
【0028】
酵母エキスの製造方法
本発明の酵母エキスは、既存の、MSG高生産性の株、又はIG高生産性の株の中から、必
要に応じ育種・選抜し、MSG高生産性であり、かつIG高生産性でもある株をスクリーニン
グすることで得られる酵母を用いて製造することができる。
【0029】
親株としては、食用に適した種々の酵母を用いることができる。好ましくは、サッカロマイセス属に属する酵母(例えば、サッカロマイセス・セレビシエ、サッカロマイセス・ロゼイ、サッカロマイセス・ウバルム、サッカロマイセス・シバリエリに属する酵母)、又はキャンディダ属に属する酵母(例えば、キャンディダ・ユティルスに属する酵母)を用いることができる。
【0030】
親株及び変異株を培養するにあたっては、酵母に多用されるYPD培地、糖蜜培地などが使用できる。所望により、炭素源としては、ブドウ糖、ショ糖、糖蜜、糖化液等が利用可能であり、窒素源としては、硫安、塩化アンモニウム、硝酸塩、尿素、アンモニア等が利用可能である。燐酸、カリウム、マグネシウム、亜鉛、銅、マンガン、鉄等の無機塩類、ビタミン類、アミノ酸を添加することができる。
【0031】
培養物が得られれば、培養物から、遠心分離等の適当な手段を用いて酵母菌体を得て、必要に応じ、洗浄した後、熱水抽出法、酵素分解法及び/又は自己消化法により、エキス化する。自己消化法とは、酵母が本来有している酵素の働きにより、酵母を可溶化し、抽出する方法であり、遊離アミノ酸含有量の多い酵母エキスを得ることができる。一方、酵素分解法とは、分解酵素を添加して酵母を可溶化し、抽出する方法である。外部から適当な酵素を添加することにより、酵素反応を簡便に制御し得るため、遊離アミノ酸や核酸の含有量を調整することができる。
酵素分解法において用いられる酵素は、食品製造において生体成分を分解する際に用いられる酵素であれば、特に限定されるものではなく、例えば、酵母の細胞壁を分解し得る酵素、タンパク質分解酵素、核酸分解酵素、又はこれらの組み合わせを用いることができる。また、核酸分解酵素として、5’-ホスホジエステラーゼを用いることがより好ましい。イノシン酸、グアニル酸の酵母エキス中の含量を多くすることができるからである。
【0032】
培養及びエキス化のための条件は、当業者であれば、適宜決定することができる。
【0033】
[チョコレート製品における利用]
本発明は、上述の酵母エキスを含む、チョコレート製品における食味改善剤を提供する。
【0034】
本明細書で「チョコレート製品の食味の改善」というときは、チョコレート製品において、チョコレートの味、甘味キレ、チョコレートの匂い、チョコレートの風味(カカオ感、ビター感、ミルク感)のいずれかの項目に関する改善を含む。改善の有無及び程度は、訓練されたパネラーの1名又は複数名による官能評価により比較・検討することができる。例えば、パネラーに、評価の対象となる酵母エキスを含むチョコレート製品と、酵母エキスを含まない点でのみ異なるチョコレート製品(Blank)を準備し、Blankに対して、5段階で改善の程度を評価させることにより(段階が上がるにつれ、より改善されている)、比較・検討することができる。より詳細な条件は、本願明細書の実施例の記載を参照することができる。
【0035】
チョコレート製品に本発明品を有効量添加した場合、本発明品のその有効量に相当するMSGのみを添加したもの、同相当するMSG及びIGのみを添加したもの、及び本発明品のその有効量相当する、本発明品の水溶性香気成分のみを添加したものでは得られない効果が奏されうる。より詳細には、MSGのみの添加、MSG及びIGのみの添加では、チョコレートの味においては多少向上が見られるかもしれないが、チョコレートの匂い及びチョコレート風味においてはほとんど改善効果は見られず、一方水溶性香気成分のみの添加では、チョコレートの匂い及びチョコレート風味に対する効果は見られるかもしれないが、チョコレートの味や甘味のキレに対する改善効果は低く、これらのいずれ場合においても、十分な効果は得られない。その一方で、本発明品を添加した場合は、チョコレートの味、チョコレートの匂い及びチョコレートの風味について、充分な改善効果が見られ、かつか甘味のキレも感じられ、非常に好ましいチョコレート製品を得ることができる(実施例2参照)。
【0036】
またチョコレート製品に本発明品を添加した場合、イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムの含有量が高いが、グルタミン酸ナトリウムの含量が10%以上ではない酵母エキス(高IG酵母エキスと評することができる。)を用いた以上の効果をより少ない添加量で得ることができる(実施例3参照)。
【0037】
本発明で「チョコレート製品」というときは、特に記載した場合を除き、原料としてカカオ分を使用した飲食品をいい、これにはチョコレート(チョコレート生地60〜100%か
らなるもの、例えば板チョコ)、チョコレート菓子(チョコレート加工品、例えば、ナッツチョコ、パフチョコ、糖衣チョコ、シェルチョコ)、準チョコレート(準チョコレート生地60〜100%からなるもの)、及び準チョコレート菓子(準チョコレートの加工品)、調整ココアパウダー、ココア、チョコレートドリンクが含まれる。
【0038】
本発明で「カカオ分」というときは、特に記載した場合を除き、カカオニブ、カカオマス、ココアバター、ココアケーキ及びココアパウダーの水分を除いたものを指す。カカオ分は、「カカオ脂肪分」(ココアバター)と「非脂肪カカオ分(例えば、カカオニブ、カカオマス、ココアケーキ、ココアパウダー)」に大別することができる。
【0039】
本発明の剤は、チョコレート風味のうち、カカオ感のみならず、ミルク感についても向上することができるから、チョコレート製品のうち、特にミルクチョコレート、ホワイトチョコレート、乳入りチョコレートドリンクに添加するのに適している。
【0040】
本発明でチョコレート製品の一の形態として「ミルクチョコレート」というときは、特に記載した場合を除き、カカオ分21%以上、ココアバター18%以上、乳固形分14%以上、及び乳脂肪分3%以上のものをいう。
【0041】
本発明でチョコレート製品の一の形態として「ホワイトチョコレート」というときは、特に記載した場合を除き、20%以上のココアバター、14%以上の乳固形分、3.5%以上の乳脂肪、及び55%未満の甘味料を含むものか、又はカカオ分21%以上(うちココアバター18%以上)、乳固形分14%以上(うち乳脂肪3.5%以上)、糖分(蔗糖)55%以下のものをいう。
【0042】
本発明でチョコレート製品の一の形態として「チョコレートドリンク」というときは、特に記載した場合を除き、カカオ分及び乳脂肪を含む、チョコレート風味の飲料をいう。 本発明においては、酵母エキスを、製品重量あたり、0.002%以上(好ましくは0.01%以上)、0.13%以下(好ましくは0.075%以下)で添加することができる。
【0043】
本発明のチョコレート製品は、(1)カカオ分、(2)乳脂肪分、(3)甘味料(砂糖、ぶどう糖、果糖、オリゴ糖、高甘味度甘味料等)、及び(4)酵母エキスであって、(a)グルタミン酸ナトリウムを10重量%以上(好ましくは15%以上)、(b)イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを、総量で1重量%以上(好ましくは1.5%以上)、並びに(c)2-フランメタノール及び5-メチル2-フランメタノールを含むものを含み、製品あたり、
(a)グルタミン酸ナトリウム0.00010重量%以上、好ましくは0.0010重量%以上
(b)イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを総量で0.000010重量%以上、好ましくは0.00010重量%以上含む。
本発明のチョコレート製品は、他の態様においては、(1)カカオ分、(2)乳脂肪分、(3)甘味料、(4)酵母エキス、及び(5)5-メチル2-フランメタノールを含む。ここでいう5-メチル2-フランメタノールは、酵母エキス由来のものであっても、酵母エキスとは別に添加されたものであってもよい。ここでいう酵母エキスは、(a)グルタミン酸ナトリウムを10重量%以上(好ましくは15重量%以上)、(b)イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを、総量で1重量%以上(好ましくは1.5重量%以上)、並びに(c)2-フランメタノール、及び5-メチル2-フランメタノールを8ppm以上(好ましくは11ppm)、含んでいることが好ましい。このようなチョコレート製品は、(a)グルタミン酸ナトリウム0.00010重量%以上、好ましくは0.0010重量%以上、(b)イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを総量で0.000010重量%以上、好ましくは0.00010重量%以上を含み、かつ有効量の5-メチル2-フランメタノールを含む。有効量の5-メチル2-フランメタノールは、0.08ppb以上(5-メチル2-フランメタノール8 ppm含有する酵母エキスを0.001%用いたとして計算)、好ましくは0.11ppb以上(5-メチル2-フランメタノール11 ppm含有する酵母エキスを0.001%用いたとして計算)であり得る。
本発明者らの検討によると、5-メチル-2-フランメタノールは、単独でチョコレート製品に用いた場合にも、ビターな味や風味を付与することができる。したがって、本発明は、5-メチル-2-フランメタノールを様々な形態で、好ましくは酵母エキスとして、添加したチョコレート製品を提供する。本発明により提供されるチョコレート製品は、5-メチル2-フランメタノールを、0.08ppb以上含み、好ましくは0.11ppb以上含む。別の態様においては、本発明によって提供されるチョコレート製品は、5-メチル2-フランメタノールを、0.08ppb以上含み(好ましくは0.11ppb以上含み)、かつ酵母エキスを含む。
【0044】
本発明者らの検討によると、チョコレート製品に添加した際に、甘味のキレが増すことも本発明品添加効果の一つである。したがって、チョコレート製品中の甘味料の存在は、重要である。しかしながら、甘味料は、砂糖である必要はなく、飲食品において許容される各種の甘味料を本発明のチョコレート製品においても用いることができる。このような甘味料の例として、ブドウ糖、果糖、オリゴ糖等の糖類や、エリスリトール、マルチトール、キシリトール等の糖アルコール類、スクラロース、アスパルテームやサッカリンナトリウム等の合成甘味料、ステビア、甘草、ラカンカ等の天然系甘味料が挙げられる。
【0045】
本発明者らの検討によると、チョコレート製品に添加した際に、チョコレート風味のうち、特にミルク感が増すことも本発明品添加効果の一つである一方で、その効果は、脱脂粉乳や香料が含まれた場合にはないか又は少ないことが分かっている。したがって、本発明が適用されるチョコレート製品には、乳脂肪分が含まれることが重要であると考えられる。
【0046】
本発明品の有効な添加量は、製品別では、ミルクチョコレートの場合、0.001%以上、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.01%以上であり、いずれの場合においても、0.5%以下であり、0.3%以下であることが好ましく、0.2%以下であることがより好ましい。ホワイトチョコレートの場合、0.001%以上、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.01%以上であり、いずれの場合においても、0.4%以下であり、0.3%以下であることが好ましく、0.2%以下であることがより好ましい。チョコレートドリンクの場合、0.001%以上、好ましくは0.002%以上、より好ましくは0.003%以上であり、いずれの場合においても、0.15%以下であり、0.13%以下であることが好ましく、0.075%以下であることがより好ましい。
【0047】
各製品に共通する本発明品の有効範囲は、0.001%以上であり、好ましくは0.01%以上であり、いずれの場合においても、0.2%以下であることが好ましく、0.075%以下であることがより好ましい。なお、上限は、味(旨味が強すぎる、酵母エキス特有の味が認識される)、及び匂い・風味(酵母エキス特有の匂いが気になる。)を考慮することができる。
【0048】
チョコレート製品の製造において、酵母エキスを添加する段階は、適宜設定できるか、酵母エキスが粉末である場合は特に、他の粉末原料に混合するか、又は油脂類に分散させて、添加することが好ましい。
【0049】
本発明の剤は、チョコレート製品へ添加するための調味料組成物とすることができる。調味料組成物へは、酵母エキスのほか、食品として許容される種々の添加物を添加することができる。このような添加物の例として、例えば、デキストリン、乳糖、香料が挙げられる。調味料組成物のチョコレート製品へは、喫食時の酵母エキスの濃度が、上述のチョコレート製品における好ましい含量になるように、設計することができる。例えば、調味料組成物あたり、酵母エキスが4〜40%となるように、好ましくは5〜30%、より好ましくは6〜20%となるようにすることができる。
【実施例1】
【0050】
[酵母エキスの製造]
(酵母の培養)
テーブルマーク株式会社保有の製パン用酵母、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)のライブラリーの中から、得られる酵母エキスのMSG濃度とIG濃度を指標として選抜した種酵母 を用いて、撹拌培養を行い、菌体分離後、洗浄して酵母菌体を得た。
【0051】
(酵母エキス)
この菌体を、酵素処理によりエキス分を抽出し、加熱により酵素を失活させた後に遠心分離によりエキス分を回収した。さらに70℃20分の加熱殺菌、100meshでろ過後、直ちにスプレードライヤーにて乾燥し、粉末状の酵母エキスを得た。得られた酵母エキスについて確認したところ、MSG及びIG含量が、通常の酵母エキスに比較して高いことが分かった。
[酵母エキスの呈味成分の分析]
【0052】
【表1】

【0053】
本発明品を代表する酵母エキスとして、ハイマックスGL(富士食品工業株式会社)を用いた。比較例として、市販の、酵母エキスA(A社製)、酵母エキスB(B社製)、酵母エキスC(B社製)、酵母エキスD(バーテックスIG 20、富士食品工業株式会社)を用いた。以下の実施例において、特に記載した場合を除き、「本発明品」というときは、ハイマックスGLを指し、酵母エキスA〜Dというときは、上記のものを指す。なお、表中、MSGはグルタミン酸ナトリウム一水和物を指し、以下の実施例において「MSG」というときも、特に記載した場合を除き、同様である。
【0054】
[酵母エキスの匂い成分の分析]
GC/MS(機器名:GC:VARIAN CP-3800 GC/MS:VARIAN 300-MS)を用い、各酵母エキスの匂い成分を分析した。本実施例では、特に示した場合を除き、下記の条件で分析を行った。
【0055】
【化1】

【0056】
代表的なチャートを、図1に示した。なお、製造ロット間で差はほとんど認められなかった。
【0057】
また、市販の酵母エキスのうち、畜肉臭が強く感じられる酵母エキスを選択し、同様の分析を行った。その結果を図2に並べて示した。図2中、酵母エキスGはイーストエキス21-TF(富士食品工業株式会社)、酵母エキスHはイーストエキスSF-1(富士食品工業株式会
社)、酵母エキスIはイーストエキス21−A(富士食品工業株式会社)についての分析結果である。また、酵母エキスG〜Hはペースト状であり、他は粉末状のものであった。
【0058】
GC/MSの結果から、本発明品に特徴的な匂い成分として、下記が特定できた。
(1)ピラジン類(特に、2,5-dimethyl-pyrazine、2,3-dimethyl-pyrazine、2-ethyl-3-methyl-pyrazine);
(2)フランメタノール類(特に、2-furanmethanol、5-methyl-2-furanmethanol);及び
(3) 3-methyl-butanal(イソバレルアルデヒド)
これらの成分の内、2-furanmethanol、5-methyl-2-furanmethanolは、これまで酵母エキスに含有されていることは知られていなかった。
【0059】
これらの特徴ある成分について、市販の標準品1000ppmのGC/MSチャートのピークの面積との比較から、実施例1の酵母における含有濃度(4ロットについて測定した平均値)を算出した。その結果を下表に示した。
【0060】
【表2】

【0061】
なお、5-methyl-2-furanmethanolについては、標準品として2-furanmethanolを用いて算出した値(2-furanmethanol 1000ppmのGC/MSチャートのピークの面積との比較から求めた濃度を、112.13/98.1倍した値)を示した。
【0062】
他方、酵母エキスA及び酵母エキスBを使用し、同様に匂い成分を分析した。上記の特徴ある成分の内、検出された成分及びその濃度を下表に示した。
【0063】
【表3】

【0064】
他の成分、詳細には、酵母エキスAにおいては2-furanmethanol及び5-methyl-2-furanmethanolが検出されず、また酵母エキスBにおいては2-furanmethanol、5-methyl-2- furanmethanol、及び3-methyl-butanalは検出されなかった。なお、検出限界値は、一般に機器の検出限界値とされるS/N=3を基準とした。
【実施例2】
【0065】
[チョコレート製品の製造及び評価]
酵母エキスの呈味成分及び匂い成分が、チョコレート製品の味及び風味にもたらす影響を評価するため、三種の製品、詳細には、ミルクチョコレート(カカオ分34.5%)、ホワイトチョコレート、チョコレートドリンク(カカオ分8.25%、無香料)を製造し、官能評価に供した。
【0066】
本実験で用いたのは、本発明品であるが、その匂い成分を下表にまとめた。
【0067】
【表4】

【0068】
1.ミルクチョコレート
下表の配合で、ミルクチョコレートを製造した。
【0069】
【表5】

【0070】
(製造方法)
各ミルクチョコレートは、酵母エキス等の試験成分をサラダ油に分散させた後、刻んだチョコレートを加え、湯煎しながら溶かし混ぜた後、型に流し、冷蔵庫で冷やし固めた。
【0071】
(評価方法)
Blank(カカオ36%含有ミルクチョコレート、不二製油株式会社製)と、(1)本発明品0.05%添加区、(2)酵母エキスA0.05%添加区、(3)酵母エキスB0.05%添加区、 (4)本発明品の0.05%に相当するMSG添加区(MSG 0.001%添加区)、(5) 本発明品の0.05%に相当するMSG及びIG添加区(MSG 0.001%及びIG 0.0001%添加区)、(6) 本発明品の0.05%に相当する、本
発明品の水溶性香気成分添加区、(7)同 酵母エキスAの水溶性香気成分添加区、(8)同 酵母エキスBの水溶性香気成分添加区、よく訓練されたパネラー6人に評価させた。水溶性香気成分とは、各エキスの希釈液をエバポレーターで濃縮する際、冷却機で回収される凝結水をいう。
【0072】
(評価基準)
官能試験はBlankを-とし、Blankとの比較で、主に口から感じ、呈味成分に起因する、チョコレートの味、甘味キレ、及び主に鼻から感じ、匂い成分に起因する、チョコレートの匂い、チョコレートの風味の項目に関して+〜+++++(+;やや差がある、++;差がある、+++;やや強い、ややキレがある、++++;強い、キレがある、+++++;とても強い、とてもキレがある)で、6人の総意として表記させた。
【0073】
【表6】

【0074】
BlankにMSG、IG(イノシン酸ナトリウムの7水和物及びグアニル酸ナトリウムの7水和物の総量。実施例の他の箇所において、特に記載した場合を除き、「IG」というときも、同様である。)などの呈味性成分を加えることによって、特にチョコレートの味が改善されるのに対し、酵母エキスを加えた場合にはB、A、本発明品の順にチョコレートの味が良く、特に本発明品が効果が強いことが明らかになった。また、甘味のキレについても各旨味成分による効果以上の効果が見られた。
【0075】
また、水溶性の香気成分の添加は、呈味性への効果はわずかであった。
【0076】
【表7】

【0077】
一方、香気成分を加えた場合においては、本発明品を特に加えた場合に匂いやチョコレート風味が向上することが明らかになった。酵母エキスを加えた場合にも呈味性と同様に、B、A、本発明品の順に効果が見られた。また、本発明品の水溶性の香気成分の添加は、匂い、チョコレートの風味ともに効果を発揮し、水溶性香気成分が重要な因子であることを裏付けた。
【0078】
2.ホワイトチョコレート
下表の配合で、ホワイトチョコレートを製造した。製造方法は、ミルクチョコレートの場合に従った。
【0079】
【表8】

【0080】
(評価方法)
ホワイトチョコレートBlank(不二製油株式会社製チョコレート)に対し(1)本発明品0.05%添加区、(2)酵母エキスA0.05%添加区、(3)酵母エキスB0.05%添加区、(4)本発明品の0.05%に相当するMSG添加区(MSG 0.001%添加区)、(5)本発明品の0.05%に相当するMSG及びIG添加区(MSG 0.001%及びIG 0.0001%添加区)、(6)MSGとIGとピラジン類(本発明品0.05%に相当する3種のピラジン類の混合物)、(7)MSGとIGとイソバレルアルデヒド、(8)MSGとIGとフランメタノール類(本発明品0.05%に相当するフランメタノール類)、(9)MSGとIGとピラジン類、(10)MSGとIGとピラジン類とフランメタノール類、(11)MSGとIGとピラジン類とイソバレルアルデヒド、(12)MSGとIGとフランメタノール類とイソバレルアルデヒドを、それぞれ本発明品0.05%相当量添加したホワイトチョコレートを製造し、よく訓練されたパネラー6人に試食評価させた。
【0081】
(評価基準)
チョコレートの味、甘味キレ、チョコレートの匂い、チョコレートの風味、ミルク風味の項目に関して、ミルクチョコレートの場合と同様に、表記させた。
【0082】
【表9】

【0083】
ホワイトチョコレートにおいても、BlankにMSG、IGなどの呈味性成分を加えることによって、旨味、わずかな甘味、伸びのある後味などを付与するのに対し、本発明品を添加することによって、これらに加え、濃厚感、コク、ミルク感、甘味及び濃乳様のミルク感を付与することができた。これらの効果は呈味性成分を加えただけ、呈味性成分に本発明品の横の水溶性の香気成分を添加したのみでは、改善されなかったことから、何か他の因子の寄与が示唆された。
【0084】
【表10】

【0085】
次に、匂い成分に関わる要素について評価をおこなうと、BlankにMSG、IGなどの呈味性成分を加えたのみでは効果が見られないのに対し、この呈味性成分に本発明品の主要な香気成分を加えることにより、効果があることが明らかになった。また、これらと比しても本発明品そのものを加えた場合が効果が強く、ミルク感、甘い香り、チョコレート特有の香りなどを改善させた。
【0086】
3.チョコレートドリンク
下表の配合で、チョコレートドリンクを製造した。
【0087】
【表11】

【0088】
(製造方法)
刻んだチョコレートに、酵母エキス等の試料を加え、温めた牛乳と湯を配合量入れ、チョコレートが解けるまで攪拌することにより製造した。
【0089】
(評価方法及び評価基準)
評価項目を、チョコレートの味、チョコレートの匂い、カカオ感、チョコレート風味とし、ミルクチョコレートの場合と同様に、表記させた。
【0090】
【表12】

【0091】
【表13】

【実施例3】
【0092】
[チョコレート製品への配合量の検討1]
酵母エキスの最適添加量について検討した。上述の方法でホワイトチョコレートとミルクチョコレートを製造した。本発明品ハイマックスGLとバーテックス IG 20を0.1%〜0.02%添加し最適添加量を探った。
【0093】
【表14】

【0094】
【表15】

【0095】
ホワイトチョコレート、ミルクチョコレート共に、本発明品は0.05%、酵母エキスDは0.02%添加が最適であった。それぞれの添加効果の違いを下表に示す。
【0096】
【表16】

【0097】
【表17】

【実施例4】
【0098】
[チョコレート製品への配合量の検討2]
チョコレート製品における酵母エキスの添加量の有効範囲を検討した。上述の方法で、本発明品を0.0005%〜0.5%添加したミルクチョコレート、ホワイトチョコレート及びチョコレートドリンクを製造し、評価した。結果を下表に示した。
【0099】
【表18】

【0100】
【表19】

【0101】
本発明品の有効な添加量を主に口から感じる、味、甘味の切れなどの呈味の評価、及び主に鼻から感じる匂い、風味の評価についてそれぞれ有効範囲を検討した。製品別では、ミルクチョコレートの場合、0.001%以上、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.01%以上であり、いずれの場合においても、0.5%以下であり、0.3%以下であることが好ましく、0.2%以下であることがより好ましいことが分かった。ホワイトチョコレートの場合、0.001%以上、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.01%以上であり、いずれの場合においても、0.4%以下であり、0.3%以下であることが好ましく、0.2%以下であることがより好ましいことが分かった。チョコレートドリンクの場合、0.001%以上、好ましくは0.002%以上、より好ましくは0.003%以上であり、いずれの場合においても、0.15%以下であり、0.13%以下であることが好ましく、0.075%以下であることがより好ましいことが分かった。
【0102】
各製品に共通する本発明品の有効範囲は、0.001%以上であり、好ましくは0.01%以上であり、いずれの場合においても、0.2%以下であることが好ましく、0.075%以下であることがより好ましいといえた。なお、上限は、味(旨味が強すぎる、酵母エキス特有の味が認識される)、及び匂い・風味(酵母エキス特有の匂いが気になる。)を考慮する必要があった。
【0103】
チョコレートドリンクを用い、本発明品の各成分について、有効範囲を算出した。
【0104】
【表20】

【実施例5】
【0105】
[5-メチル-2-フランメタノールの効果の確認]
市販の5-メチル-2-フランメタノールを標準品として用い、実施例1に記載したのと同様の方法で、本発明品における5-メチル-2-フランメタノールの含有濃度(3ロットについて測定した値の平均値)を求めた。その結果、5-メチル-2-フランメタノールの含有濃度は、16.73ppmであることが分かった。
【0106】
2.ホワイトチョコレート
下表の配合で、ホワイトチョコレートを製造した。製造方法は、実施例2に従った。なお、5-メチル-2-フランメタノールとして、市販の5-メチル-2-フランメタノールを用いた(以下、本実施例において、特に記載した場合を除き、同じ。)。
【0107】
【表21】

【0108】
製造したホワイトチョコレートを、実施例2と同様、よく訓練されたパネラー6人に試食評価させた。
【0109】
(評価基準)
チョコレートの味、甘味キレ、チョコレートの匂い、チョコレートの風味、ミルク風味の項目に関して、実施例2と同様に、表記させた。
【0110】
【表22】

【0111】
【表23】

【0112】
Blankに呈味性成分MSG及びIGを加え、さらに5-メチル-2-フランメタノールを添加した場合、カカオのビターな風味がアップした。2-フランメタノールが甘い香りを付与するのに対し、5-メチル-2-フランメタノールの添加による効果は、異なるものであった。また、呈味性成分に本発明品の主要な匂い成分すべて(ピラジン類、イソバレルアルデヒド、2-フランメタノール及び5-メチル-2-フラン)を加えることにより、高い効果が得られることが明らかになった。ただし、これらと比較しても、本発明品そのものを加えた場合が効果が最も強く、ミルク感、甘い香り、チョコレート特有の香りなどを改善させることが分かった。
【0113】
3.チョコレートドリンク
下表の配合で、チョコレートドリンクを製造した。製造方法は、実施例2に従った。
【0114】
【表24】

【0115】
製造したチョコレートドリンクを、実施例2と同様、よく訓練されたパネラー6人に試食評価させた。
【0116】
(評価基準)
チョコレートの味、チョコレートの匂い、カカオ感、チョコレート風味の項目に関して、実施例2と同様に、表記させた。
【0117】
【表25】

【0118】
【表26】

【0119】
Blankに呈味性成分MSG及びIGを加え、さらに5-メチル-2-フランメタノールを添加した場合、味、並びに匂い及び風味において、ビター感、カカオ感がアップした。2-フランメタノールが甘い香りを付与するのに対し、5-メチル-2-フランメタノールの添加による効果は、異なるものであった。また、呈味性成分に本発明品の主要な匂い成分すべて(ピラジン類、イソバレルアルデヒド、2-フランメタノール及び5-メチル-2-フラン)を加えることにより、高い効果が得られることが明らかになった。ただし、これらと比較しても、本発明品そのものを加えた場合が最も効果が強く、ミルク感、甘い香り、チョコレート特有の香りなどを改善させた。
【0120】
4.チョコレート製品への配合量の検討
チョコレートドリンクを用い、実施例4と同様に、本発明品の各成分について、有効範囲を追加検討した。
【0121】
【表27】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)グルタミン酸ナトリウムを10重量%以上(好ましくは15%以上)、
(b)イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを、総量で1重量%以上(好ましくは1.5%以上)、並びに
(c)2-フランメタノール及び/又は5-メチル-2-フランメタノール
を含む、酵母エキスの呈味成分及び/又は匂い成分を有効成分とする、チョコレート製品における、食味改善剤。
【請求項2】
(a)グルタミン酸ナトリウムを10重量%以上(好ましくは15%以上)、
(b)イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを、総量で1重量%以上(好ましくは1.5%以上)、並びに
(c)2-フランメタノール及び/又は5-メチル-2-フランメタノール
を含む酵母エキスを有効成分とする、チョコレート製品における、食味改善剤。
【請求項3】
(a)グルタミン酸ナトリウムを10重量%以上(好ましくは15%以上)、
(b)イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを、総量で1重量%以上(好ましくは1.5%以上)、並びに
(c)2-フランメタノール及び/又は5-メチル2-フランメタノール
を含む酵母エキスを添加する工程を含む、チョコレート製品における、食味の改善方法。
【請求項4】
酵母エキスを、製品重量あたり、0.002%以上(好ましくは0.01%以上)、0.13%以下(好ましくは0.075%以下)で添加する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
(1)カカオ分、
(2)乳脂肪分、
(3)甘味料、及び
(4)下記を含む酵母エキス
(a)グルタミン酸ナトリウムを10重量%以上(好ましくは15%以上)、
(b)イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを、総量で1重量%以上(好ましくは1.5%以上)、並びに
(c)2-フランメタノール及び/又は5-メチル2-フランメタノール
を含み、製品あたり、
(a)グルタミン酸ナトリウム0.00010重量%以上、
(b)イノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを総量で0.000010重量%以上
含む、チョコレート製品。
【請求項6】
(1)カカオ分、
(2)乳脂肪分、
(3)甘味料、
(4)酵母エキス、及び
(5)5-メチル2-フランメタノール
を含む、チョコレート製品。
【請求項7】
チョコレート製品が、21重量%以上のカカオ分を含むミルクチョコレートである、請求項5又は6に記載のチョコレート製品。
【請求項8】
チョコレート製品が、18重量%以上のカカオバターを含むホワイトチョコレートである、請求項5又は6に記載のチョコレート製品。
【請求項9】
チョコレート製品が、7%重量以上のカカオ分を含む、チョコレートドリンクである、請
求項5又は6に記載のチョコレート製品。
【請求項10】
5-メチル2-フランメタノールを含む、チョコレート製品における、食味改善剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−175963(P2012−175963A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124247(P2011−124247)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000140650)テーブルマーク株式会社 (55)
【Fターム(参考)】