説明

チョコレート用ココアバター代替油脂、及びこれを含むチョコレート組成物

本発明は、植物性油脂を分画する段階;前記分画された植物性油脂を脂肪酸誘導体と混合し原料油脂を製造する段階;及び前記原料油脂を酵素的エステル交換反応する段階、により製造される、チョコレート用及び製菓用のココアバター代替油脂に関するもので、前記ココアバター代替油脂はPOS及びSOSのトリグリセリドを重量比1:1ないし2:1で含むことを特徴とする。本発明によるココアバター代替油脂は、POS含量の高いココアバターのトリグリセリド組成と類似し、SFC(Solid Fat Content、固体脂含量)曲線がココアバター特有の急な傾きを示すため、口の中ですっきり溶け、硬くなく柔らかい食感のココアバター代替油脂として利用できる。従って、本発明によるココアバター代替油脂を、チョコレート用又は製菓のコーティング用の天然ココアバターに代替して用いることで、ココアバターを用いたチョコレートと実質的に同等の品質のチョコレートを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョコレート用ココアバター代替油脂に関するもので、より具体的には、本発明のココアバター代替油脂は、植物性油脂を分画する段階;前記分画された植物性油脂を脂肪酸誘導体と混合し原料油脂を製造する段階;及び前記原料油脂を酵素的エステル交換反応する段階、により製造され、前記ココアバター代替油脂はPOSとSOSのトリグリセリドを重量比1:1ないし2:1で含むことを特徴とする。また、本発明は前記ココアバター代替油脂を利用して製造するチョコレート組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1. ココアバター
チョコレートの一般的な構成は、砂糖が50%以下、カカオマスが30〜50%、油脂(乳脂)を含む脂肪分が約30%である。チョコレートの脂肪分の中でココアバターの含量はチョコレートの種類によって異なるが、通常60%程度である。
【0003】
ココアバター(cocoa butter、cacao butter)は、カカオ(Theobroma cacao)の果実中の種子(カカオ豆、油脂48〜49%含有)の油脂成分である。ココアバターは、トリグリセリド98%、遊離脂肪酸1%、モノ・ジグリセリド0.5%、ステロール0.2%、トコフェロール150〜250ppmで構成される。ココアバターのトリグリセリドには、sn−2位にオレイン酸(Oleic acid)が位置し、sn−1、3位にそれぞれパルミチン酸(Palmitic acid)とステアリン酸(Stearic acid)が位置する対称型構造が75%以上である。POS34〜49%、SOS23〜30%、POP13〜17%で、これらが主な対称型油脂となっている。
【0004】
本発明で使用される用語の“POP”は、トリグリセリドのsn−2位にオレイン酸、sn−1、3位に各々パルミチン酸を有するトリグリセリドを意味する。
【0005】
本発明で使用される用語の“POS”は、トリグリセリドのsn−2位にオレイン酸、sn−1、3位に各々パルミチン酸及びステアリン酸;或いは、ステアリン酸及びパルミチン酸を有するトリグリセリドを意味する。
【0006】
本発明で使用される用語の“SOS”は、トリグリセリドのsn−2位にオレイン酸が、sn−1、3位に各々ステアリン酸を有するトリグリセリドを意味する。
【0007】
本発明で使用される用語“%”又は“比”は、特に触れない限り、各々“重量%”又は“重量比”を意味する。
【0008】
ココアバターの融点は32〜35℃で、室温の20℃付近で71〜88%の固体脂含量を有し、30〜32℃で溶け始め、32〜35℃でほぼ融解される。このような30℃付近で急速に融解する溶融特性により、室温では硬いが、口溶けが速くすっきりとさっぱりした感じの口溶性を有するようになる。ココアバターのこのような溶融特性は対称型油脂に起因することが知られている。
【0009】
ココアバターは、原産地によってトリグリセリドの組成及び含量が各々異なり、それに従って、硬さ・固化速度などの物性に差が生じる。例えば、sn−2位がオレイン酸である対称型油脂の組成において、マレーシア産ココアバターのPOS含量は47%、SOSは30%であり、ブラジル産は各々40%及び22%、ガーナ産は43%及び26%の含量を示す。POP含量は13〜15%で、全て類似した水準である。ココアバターの硬さはマレーシア産が最も硬く、ブラジル産は最も柔らかくて、ガーナ産は中間である。また、固化速度においても差を示し、マレーシア産78±10分、ブラジル産300±51分、ガーナ産95±14分で、硬さと同じ順位を示した。
【0010】
2. ココアバター代用油脂
ココアバターは天然の作物から得られるため、気候の変化によって供給に変動があり、価格が高い。従って、それに代替するために、チョコレートには、植物性油脂がココアバターの代用油脂として使用されている。この代用油脂としては、パーム核油及び椰子油を硬化させたものが使用されたが、これはココアバターとの相溶性がなかった。ココアバターの代用油脂は製造方法と構成成分によって、ココアバター類似脂(cocoa butter equivalent and extender、CBE)、ココアバター代替脂(cocoa butter replacer、CBR)、ココアバター代用脂(cocoa butter substitute、CBS)の三種類に分類される。
【0011】
ココアバター類似脂(CBE)は、ココアバターとの相溶性を有し、トリグリセリドの組成がココアバターと類似し、テンパリングが必要な油脂である。例えば、パーム油中融点分別脂(Palm middle fraction、PMF)、サル脂(Sal fat)、ボルネオ脂(Borneo tallow)、コクム脂(Kokum)、シア脂(Shea butter)及びそれらの分別油脂が挙げられる。ココアバターにパーム油中融点分別脂とSOS含量の高い油脂を混合すると、ココアバターと類似した油脂が得られることが知られている。
【0012】
ココアバター代替脂(CBR)は、常温で液相及び液相と固体相が混合した状態の大豆油、カノーラ油、パーム油等を硬化して固体化することにより得られ、ココアバターにある程度代替することができ、テンパリングを必要としない油脂である。融点と固体脂含量が比較的高く、SFC曲線の傾きが急で、酸化安定性が高いという長所はあるが、製造方法に部分硬化が使用されるため、トランス脂肪酸の含量が高く、栄養的欠陷があるため、その使用が難しい。
【0013】
ココアバター代用脂(CBS)は、一部の植物性油脂を硬化して得られる油脂で、ココアバターとの相溶性がなく、ラウリン系脂肪酸の含量が高く、テンパリングを必要としない油脂である。製菓分野で主にコーティング用として使用されており、一般的にパーム核油及び椰子油を硬化又はエステル交換して製造し、必要に応じて他の植物性硬化油を混合して製造する。しかし、ラウリン系脂肪酸の含量が高い油脂は水分が存在する場合、カビにより加水分解が起きて異臭を発生する上、ラウリン酸自体にも栄養的欠陥などの短所がある。
【0014】
CBRとCBSの栄養的欠陥及び口溶けの速さなどの食感と関連した感覚の低下などのため、CBEの使用が増えている。CBEは、酵素的エステル交換反応で合成したSOSリッチ脂肪(rich fat)と、パーム油を分別して得たパーム油中融点分別脂(Palm mid−fraction、PMF)とを約1:1で混合して使用することが殆どである。一般的なCBEのトリグリセリドの組成は、POP30〜35%、POS10〜15%、SOS30〜35%である。この数値は、ココアバターのトリグリセリドの組成(ガーナ産POP17%、POS43%、SOS26%)に比べてPOPとSOSの含量が高く、POSの含量が低い。このことから、CBEとココアバターとの特性の差を確認することができる。
【0015】
油脂の物性は、各温度における固体脂含量(Solid Fat Content、SFC)により確認できる。20〜25℃における固体脂含量により油脂の硬さ(Hardness)を確認でき、25〜30℃における固体脂含量により耐熱性(Heat Resistance)を確認でき、35℃以上における固体脂含量によりロウ質(Waxiness)で口の中で速く溶けずに残っている程度を確認できる。チョコレートに使用するココアバターあるいはココアバターの代用油脂の場合、固体脂含量は、30℃以下の温度で高い値を示し、30℃以上の温度で急激に低くなり、35℃以上では微量の値を示すもの、即ち、固体脂含量曲線の傾きが急である特徴を示すものが品質が良いとされる。
【0016】
ココアバターとCBEの固体脂含量を比べると、SOS含量が高いCBEの場合、30℃以下の温度で固体脂含量がココアバターの固体脂含量より低い反面、30℃以上の温度ではココアバターの固体脂含量より高い特性を示し、多少硬い感じを与え、口の中に残る度合いが高い。ココアバターとCBEの固体脂含量の差、即ち、物性の差は前記したように、ココアバターとCBEのトリグリセリドの組成の差に起因すると推察される。CBEは、POPとSOSの含量が高く、ココアバターはPOS含量が高い。POS、POPの融点は35℃付近である一方、SOSの融点は41℃で、SOS含量の多い油脂は30℃以上の温度で比較的硬い特性を示すと言える(Aleksandra Torbica etc.、 Eur Food Res Technol、 2006、 222:385−391)。
【0017】
最近チョコレートの特性において、硬いものより、柔らかくて口溶けが速く、口に残る感じがなく、すっきりとさっぱりしたものが好かれる傾向がある。そして、SOS含量を減少し、PMFの含量を増加することにより柔らかい感じの軟質(soft)CBEが開発された。軟質CBEは、POP40〜45%、POS10〜15%、SOS30〜35%のトリグリセリド組成を有する。軟質CBEは20〜35℃の温度範囲で全般的に低い固体脂含量を示し、これによって柔らかい感じのチョコレートを提供することはできるが、常温で結晶が堅固でないため、ブルーム現象が発生する可能性が高い。
【0018】
現在常用されている殆どのCBEでは、合成又は分別により得られるSOSと、POP含量の高いPMFとの配合比率を調節することで、硬いか柔らかいかの物性が調整されている。しかし、これは、天然ココアバターのように急な傾きの固体脂含量曲線を示さない。
【0019】
米国特許第4,705,692号明細書では、ココアバターの代用油脂としてSOS、POS及びPOPを含む油脂であって、ステアリン酸(Stearic acid)とパルミチン酸(Palmitic acid)との割合が1.5:1〜6.0:1であるような、SOS含量の高い油脂の組成が開示された。
【0020】
特開平11−243982号公報では、POS含量が高いトリグリセリド組成を有する油脂をエステル交換反応して製造することが開示されている。この油脂は、POS含量が18wt%以上の低いレベルであるのに対して、POP含量は10〜55wt%で、SOS含量は10〜50wt%で、もっと高いレベルであり、POSよりSOSの合成に重点を置いているように見受けられる。
【0021】
特開2008−154555号公報では、耐熱性及び口溶性の良いチョコレートの製造として、SOS40〜60wt%以上、POP1〜10%以下、SOS含量が、POSとSOA(Stearic acid(C18:0)−Oleic acid(C18:1)−Arachidic acid(C20:0))の合計に対する含量に対比して1.1〜1.8倍である油脂を開示しているが、SOS含量がPOSとSOAの総含量より高く、またこれもSOS含量の組成を高めることに重点を置いていることが確認できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許第4,705,692号明細書
【特許文献2】特開平11−243982号公報
【特許文献3】特開2008−154555号公報
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Aleksandra Torbica etc.、 Eur Food Res Technol、 2006、 222:385−391
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
前記の従来技術においては、柔らかくて口溶けが速く、口に残る感じのないチョコレート製品を製造するために、SOS含量が高い組成のチョコレート用の油脂に重点をおいて研究しただけで、天然ココアバターに多く含まれているPOSについては重点的に論議されたことがなかった。
【0025】
特に、現在常用されているCBEの殆どはPOPとSOSの含量が高いため、多少硬い感じを与え口残りの程度が高い。一方で、軟質CBEは常温で結晶が硬くないため、ブルーム現象が発生する可能性が高いという短所がある。
【0026】
従って、口の中ですっきり溶けて、硬くなく柔らかい食感を有するだけでなく、耐熱性が良く、結晶が堅固であり、ブルーム現象が発生しない新しい代替油脂を開発する必要性がある。
【0027】
本発明の目的は、従来のCBEの多少硬い感じと口残りの程度が高いことと、従来の軟質CBEが常温でブルーム現象を起こすという短所を改善し、口の中で天然ココアバターのようにすっきり溶け、硬くなくて柔らかい食感を維持するだけでなく、ブルーム現象を起こさないココアバター代替油脂を提供することである。
【0028】
本発明の目的は、天然ココアバターの代りにチョコレートに使用しても食感や品質、官能性又は保存性に優れ、チョコレートの品質を改良及び保持できるココアバター代替油脂を提供することである。
【0029】
更に本発明の目的は、上記の発明で完成されたココアバター代替油脂を利用し、チョコレート組成物又はコーティング用のチョコレート組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明のココアバター代替油脂は、酵素的エステル交換反応により製造されるもので、POS/SOSの含量比が約1〜2であることを特徴とし、好ましいトリグリセリドのPOS/SOS含量比は約2である。POS/SOSトリグリセリド含量比が約1〜2であることは、天然ココアバターと類似した食感又は特性を表すこと(すっきり溶ける特性)に関連して重要である。従来技術では、チョコレートの食感を改善するためにSOS含量を高めることだけに力を注ぎ、POPの含量やPOS/SOS含量比に関しては一切言及されてない。従って、POS/SOSトリグリセリド含量比を約1〜2に調整し、天然ココアバターと類似した食感ないし特性を持たせることができるということは本発明で初めて見出されたことである。
【0031】
本発明のココアバター代替油脂は、植物性油脂を分画する段階;前記分画された植物性油脂を脂肪酸誘導体と混合し、原料油脂を製造する段階;前記原料油脂を酵素的エステル交換反応する段階、により製造される。前記製造方法において、酵素的エステル交換反応した原料油脂から脂肪酸誘導体を除去する段階を、更に含むことができる。酵素的エステル交換反応した原料油脂から脂肪酸誘導体を除去する段階は、0.001ないし30mbar、100ないし300℃で行うことができる。前記脂肪酸誘導体は、ステアリン酸誘導体、例えば、ステアリン酸エチルエステル又はステアリン酸メチルエステルであり得る。
【0032】
前記原料油脂は、植物性油脂と脂肪酸誘導体を1:0.5ないし1:10の割合で混合したものであり得る。
【0033】
前記のような発明は、植物性油脂を酵素的エステル交換反応し、前記反応で基質と反応時間を調節し、POS/SOSの含量比が調節されたココアバター代替油脂を製造し、前記代替油脂のトリグリセリド構造を分析し、天然ココアバターと類似した構成を有していることを確認し、また、前記代替油脂をチョコレート組成物に適用した後、前記組成物に対する官能的評価と保存性評価を実施し、チョコレートにおいてココアバターに代わり前記ココアバター代替油脂によってチョコレートの品質が保持されることを確認することで達成された。
【0034】
本発明において、前記植物性油脂として、椰子油(coconut oil)、パーム核油(palm kernel oil)、パーム油(palm oil)、カノーラ油(canola oil)、ひまわり油(sun flower oil)、大豆油(soy bean oil)、綿実油(cotton seed oil)、米糠油、コーン油、オリーブ油、シア脂(shea fat)、マンゴー核脂(mango kernel fat)、ボルネオ脂(Borneo tallow、Shorea stenoptera or Pentadema butyracea)、サラソウジュ(sal、Shorea robusta)、コクム脂(kokum、Garcinia indica)を使用することができるが、これらに限定されず、当業界で使用される任意の植物性油脂を使用することができる。
【0035】
本発明において、植物性油脂分画工程は植物性油脂原料から飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の含量に差があるPOP含有油脂を得るためのもので、植物性油脂原料の特徴により乾式分別(dry fractionation)と溶剤分別(solvent fractionation)を選択的に利用することができる。溶剤分別の場合、ヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、エタノールなどの原料油脂を溶解できるものなら、何でも使用ができる。
【0036】
本発明において、前記脂肪酸誘導体としては、パルミチン酸エチルエステル(Palmitic acid ethyl ester)、ステアリン酸エチルエステル(stearic acid ethyl ester)、アラキドン酸エチルエステル(Arachidonic acid ethyl ester)及びベヘン酸エチルエステル(Behenic acid ethyl ester);又は、パルミチン酸メチルエステル(Palmitic acid methyl ester)、ステアリン酸メチルエステル(stearic acid methyl ester)、アラキドン酸メチルエステル(Arachidonic acid methyl ester)及びベヘン酸メチルエステル(Behenic acid methyl ester)、好ましくは、ステアリン酸エチルエステル又はステアリン酸メチルエステルを使用することができるが、これらに限定されず、当業界で使用される任意の脂肪酸及び脂肪酸誘導体を使用することができる。
【0037】
本発明において、前記酵素的エステル交換反応は、sn−1、3位に飽和脂肪酸、sn−2位に不飽和脂肪酸を含む対称型トリグリセリドを製造することに使用され、sn−1、3位に特異性を有する酵素を利用し、30ないし60℃で1ないし30時間反応させる。
【0038】
sn−1、3位に特異性を有する酵素は、リゾープスデレマ(Rhizopus delemar)、ムコールミエヘイ(Mucor miehei)、アスペルギルスニガー(Aspergillus miger)、リゾプスアリズス(Rhizopus arrhizus)、リゾプスニベウス(Rhizopus niveus)、ムコールジャバニクス(Mucor javanicus)、リゾプスジャバニクス(Rhizopus javenicus)、リゾプスオクシザエ(Rhizopus oxyzae)、サーモマイセスラヌギノソス(Thermomyces lanuginosus)などから分離した酵素、好ましくは、ムコールミエヘイ(Mucor miehei)又はサーモマイセスラヌギノソス(Thermomyces lanuginosus)から分離した酵素を使用することができるが、これらに限定されず、当業界で使用される任意のsn−1、3位特異性酵素を使用することができる。
【0039】
本発明において、前記酵素的エステル交換反応の時に基質の比率及び反応時間を調節し、POS/SOS含量比を調節することができる。また、反応が終了した状態でも、反応物を混合することによって、POS/SOSの含量比を調節することができ、容易にその用途を変更することができる。例えば、POP48%、SOS13%でPOS/SOSの含量比が3.7である組成物と、POS40%、SOS40%でPOS/SOSの含量比が1である組成物を、重量比7:3の割合で混合すると、POS45%、SOS21%のPOS/SOSの含量比が2である組成物を製造することができる。
【0040】
前記原料油脂及び工程を利用して製造した油脂は、POS/SOSの比率が約1〜2であるトリグリセリド組成を有する。酵素的エステル交換反応時に基質の比率及び反応時間を調節したり、反応物を配合したりすることで、POS/SOSの比率を調整することができ、必要に応じてPOS/SOS比率が1〜2である組成物を選択的に使用することができる。
【発明の効果】
【0041】
上述した説明の通り、本発明で使用されるココアバター代替油脂はPOS含量の高い天然ココアバターのトリグリセリド組成と類似であって、ココアバター特有の急な傾きのSFC曲線を示すため口溶けがすっきりしている上、硬くなく柔らかい食感のココアバター同等油脂として利用できる。
【0042】
また、本発明の代替油脂は従来のココアバター代替油脂に比べてチョコレートのブルーム耐性改善及び物性改善効果に優れて、ココアバターの品質改善剤として使用することができ、これを硬いココアバターに添加することにより、該硬いココアバターに対して柔らかい食感のココアバターと類似なトリグリセリド組成及び物性を持たせることができるようになる効果がある。
【0043】
更に、本発明のココアバター代替油脂はPOS比率を高めることで、チョコレートのブルーム耐性及び口溶け感を改善してチョコレートの製品性の向上に大きく資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明のココアバター代替油脂のトリグリセリド組成を示すHPLCグラフである。
【図2】図2は、本発明のココアバター代替油脂と天然ココアバター(CB)の固体脂含量に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明を下記実施例により更に具体的に説明する。しかし、これらの実施例は単に本発明に対する理解を助けるためであり、いかなる意味でも本発明の範囲がこれらにより限定されることではない。
【実施例】
【0046】
実施例 1: ココアバター代替油脂の製造及びトリグリセリド構造の分析
本実施例において、下記の方法でココアバター代替油脂を製造した。原料油脂としてパーム分画物は溶剤分別により収得した。パーム油1Kgを60℃で完全に融解させた後、アセトン10kgと混合し栓をした後、攪拌して油脂をアセトンに完全に溶解させた。前記混合液は0℃、3時間、30rpmで撹拌を行った状態で結晶化させ、これを減圧濾過し、固体相のパームステアリン(Palm stearin)と液体相のパームオレイン(Palm Olein)として分離した。この際、パームオレインの収率は60%以上で、ヨウ素価(Iodine value)が60以下の特性を示した。
【0047】
前記分別で得られた、アセトンが除去されてないパームステアリンを40℃で完全に溶解させた後、更にアセトンを添加し、30℃、30rpmで撹拌を行った状態で結晶化させ、これを減圧濾過し、結晶化された分画とパーム油中融点分別脂(PMF)に分離した。この際、パーム油中融点分別脂の収率は30%以上で、POPを55%含有、ヨウ素価が40であることを特徴とするパーム分画物を得ることができた。
【0048】
上記のパーム分画物とステアリン酸誘導体(Stearic derivatives)を1:2のモル比(molar ratio)で混合し、総量が2kgになるようにした後、それぞれsn−1、3位に特異性を有する酵素であるリポザイム(lipozyme)、RMIN(immobilized sn−1、3−specific lipase from Rhizomucor meihei)により、0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 10, 14, 20時間エステル交換反応を施し、各々のココアバター代替油脂を合成し、前記合成された油脂に存在するエチルエステルを蒸発させて除去し、最終ココアバター代替油脂を製造した。
【0049】
HPLCを利用し、前記油脂の酵素的エステル交換反応前後の油脂中トリグリセリドの種類と含量を確認した。
【0050】
HPLCを利用したトリグリセリドの分析条件は下記の表1に示した。逆相高分解能液体クロマトグラフィー蒸発光散乱検出器システムを利用し、分別前後の油脂のトリグリセリド構造を分析した。試料30μlとヘキサン10mlを入れ、PTFEシリンジフィルター(syringe filter)(25mm、0.2μm)を利用して濾過した後、2mmのバイアルに入れ、オートサンプラを利用し試料20μlを注入した。溶媒はアセトニトリル(溶媒A)、ヘキサン/イソプロパノール(溶媒B)を使用し、流速は1ml/minであった。溶媒の勾配溶離(A:B、v:v)の進行過程は、45分間80:20に維持し、60分まで54:46に変化した後、60分から70分まで80:20に維持し、総進行時間は70分であった。
【0051】
【表1】

【0052】
HPLCにより油脂中のトリグリセリド組成を確認した結果は表2に示した。
【0053】
【表2】

【0054】
前記表2に示した通り、POS/SOS含量比が約1のココアバター代替油脂は20時間反応でPOP40.12%、SOS40.93%で収得され、POS/SOSの含量比が約1.4のココアバター代替油脂は14時間反応でPOS43.51%、SOS30.55%で収得された。
【0055】
実験例1:核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)を利用した固体脂含量の分析
本実験例では、前記実施例1で得られた油脂中、ココアバターのPOS/SOS含量比率(1.35)と類似のPOS/SOS含量比率(1.42)を示したココアバター代替油脂を選択し天然ココアバターと、核磁気共鳴を利用して、それぞれの固体脂含量(Solid Fat Content、SFC)を比較分析した。固体脂含量分析の核磁気共鳴分析条件は、下記の表3に示した。
【0056】
核磁気共鳴を利用する固体脂含量分析試験は並列法(Parallel Method)で行った。サンプルを各々3mL、5個ずつ準備し、実験の前処理時に80℃で十分に油脂を溶かした後、60℃で10分、0℃で90分間処理して、冷却した。その後、26℃で40時間結晶を安定化させた後、0℃で90分間冷却した。10.0℃、20.0℃、25.0℃、30.0℃、35.0℃に予めセットしたセルシウスバス(Celsius bath)−メタルブロックサーモスタット(metal block thermostat)で30分ずつ放置した後、サンプルを測定した。サンプルの測定時間は約6秒であった。
【0057】
【表3】

【0058】
核磁気共鳴を利用して固体脂含量を分析した結果を図2に示した。図2によると、本発明で選択されたココアバター代替油脂は、天然ココアバターと類似水準の物性を示したことが分かる。
【0059】
実施例2:ココアバターを適用したチョコレートの製造
本実施例では、前記の選択したココアバター代替油脂を使用したチョコレート組成物を用いて、口溶性、ブルーミング防止などの品質改善のための使用可否を調べるため、全油脂がココアバターだけからなるチョコレートを製造しこれを基準とした。
【0060】
基準となるチョコレート配合物は、総油脂含量36%、粒度20μmの板状チョコレート配合物を基準とした。このチョコレートを製造するために、カカオマス27%、ココアパウダー9.6%、ココアバター20%、砂糖43%、レシチン0.4%を基本配合として製造した。チョコレートの最終配合は表4に記載した。
【0061】
【表4】

【0062】
まず、原料中で、砂糖、ココアパウダー、混合油脂のうち10%を混合して、ドウ(Dough)を作った後、これを精製装置(Refiner)に通過させ、粒度を20μmにする(Refining)。得られたフレーク(Flake)状態物をコンチェ(Conche)に入れ、20時間コンチング(Conching)した後、混合油脂の残り10%とレシチンを入れ、更に1時間コンチングする。得られた配合物を28℃→29.5℃でテンパリング(Tempering)し、板状モールドに注ぎ、10℃の冷却室で10分間冷却し、モールドから取出して完成する。
【0063】
実施例 3ないし6:ココアバターを代替油脂により代替したチョコレートの製造
本実施例では、実施例2にで製造したチョコレートのココアバターを代替油脂により代替した際の口溶性、ブルーミング防止などの品質改善のための使用可否を調べるため、前記実施例1で得られたココアバター代替油脂を使用し、板状チョコレートを製造した。
【0064】
実施例2においてココアバター20%の配合比を、代替油脂5%, 10%, 15%, 20%で代替し、残りはココアバターで構成したチョコレートを、実施例2と同じ方法で製造した。各々の代替比率は以下の通りである。
【0065】
【表5】

【0066】
実施例 7:製造されたチョコレートの口溶感の確認試験
実施例2ないし6により製造した各々の油脂構成の異なるチョコレートの口溶感を10名のパネリストにより評価した。口溶感が良かったら○、普通は△、良くなかったら×にした。
【0067】
【表6】

【0068】
実施例 8:チョコレートの保存性の確認試験
実施例2ないし6により製造した各々のチョコレートを20℃で1週間熟成した後、30℃で24時間、20℃で24時間のサイクルを繰り返すことができる恒温器でチョコレートを保管しサイクリングテスト(Cycling Test)を実施した。このテストを15回行い、時間経過によるチョコレートの品質変化、即ち、ブルーミング又はグレーニングの発生有無を肉眼確認した結果を表7に整理した。また、テスト後のチョコレートの口溶感を実施例7と同じ方法で行い結果を整理した。
【0069】
【表7】

【0070】
結果は、全実施例において保存中にブルーミング又はグレーニングの発生がなかった。これは、一般的にテンパリングされたチョコレートにおいて、30℃以下の温度での油脂の耐熱性に関わることであり、口溶感の変化がなったことで、油脂結晶の再配列が生じなかったことを確認した。
【0071】
実施例 9:ココアバターを適用したコーティング用チョコレートの製造
本実施例では前記のように選択したココアバター代替油脂を使用したチョコレート組成物について、口溶性、光沢、ヒビ及びブルーミング防止などの品質改善用として使用可能性を調べるために、全油脂にココアバターだけを使用したコーティング用チョコレートを製造し、これを基準とした。
【0072】
基準となるチョコレート配合物は、総油脂含量36%、粒度20μmのコーティング用チョコレート配合物を基準とした。このコーティング用チョコレートを製造するため、カカオマス5%、ココアパウダー16.6%、ココアバター35%、砂糖43%、レシチン0.4%を基本配合として製造した。チョコレートの最終配合は下記の表8に記載した。
【0073】
【表8】

【0074】
まず、原料中で、砂糖、ココアパウダー、混合油脂のうち10%を混合し、ドウ(Dough)を作った後、これを精製装置(Refiner)に通過させ、粒度を20μmにする(Refining)。得られたフレーク(Flake)状態物をコンチェ(Conche)に入れ、20時間コンチング(Conching)した後、混合油脂の残り10%とレシチンを入れ、更に1時間コンチングする。得られた配合物を28℃→29.5℃でテンパリング(Tempering)し、予め準備したウェファースの上にチョコレートを被せた後、10℃の冷却室で10分間冷却し取り出して完成とした。
【0075】
実施例 10ないし14:ココアバター代替油脂を利用したコーティング用チョコレートの製造
本実施例では、実施例9で製造したチョコレートのココアバターを代替油脂で代替した際の、口溶性、光沢、ヒビ及びブールミング防止などの品質面での改善効果を調べるため、前記実施例1で得られた代替油脂を使用しコーティング用チョコレートを製造した。
【0076】
実施例9において、ココアバター35%の配合比を、代替油脂5%, 15%, 25%, 35%で代替し、残りはココアバターで構成したチョコレートを実施例9と同じ方法で製造した。各々の代替比率は以下の通りである。
【0077】
【表9】

【0078】
実施例 15:製造されたチョコレートの口溶感の確認試験
実施例10ないし14で製造した各々の油脂構成の異なるチョコレートの口溶感を10名のパネリストにより評価した。口溶感が良かったら○、普通は△、良くなかったら×にした。
【0079】
【表10】

【0080】
実施例 16:チョコレートの保存性の確認試験
実施例10ないし14で製造した各々のチョコレートを20℃で1週間熟成した後、30℃で24時間、20℃で24時間のサイクルを繰り返すことができる恒温器でチョコレートを保管しサイクリングテスト(Cycling Test)を実施した。このテストを15回行い、時間経過によるチョコレートの品質変化、即ち、ブルーミング又はグレーニングの発生有無を肉眼確認した結果を表11に整理した。また、テスト後のチョコレートの口溶感を実施例15と同じ方法で行い結果を整理した。
【0081】
【表11】

【0082】
結果は、全実施例において保存中にブルーミング又はグレーニングの発生がなかった。これは、一般的にテンパリングされたチョコレートにおいて、30℃以下の温度での油脂の耐熱性に関わることであり、口溶感の変化がなったことから油脂結晶の再配列が生じなかったことを確認した。
【0083】
実施例 17:チョコレートの光沢及びヒビ(Crack)の確認試験
実施例10ないし14で製造した各々のチョコレートを20℃で1週間熟成した後、肉眼でチョコレート表面の光沢状態とヒビの有無を1週間ごとに4週間確認して、結果を下記の表12に整理した。
【0084】
【表12】

【0085】
結果は実施例10ないし14で製造された全てのチョコレートは全般的に4周経過時であっても光沢が良好な様態で維持され、ヒビの変化も非常に良い又は良い状態で維持された。従って、前記結果から、本発明によるココアバター代替油脂は、チョコレートの商品価値を良好に維持しながら安定的な結晶を形成するため、天然ココアバターに有効に代替することができ、チョコレート製品に有用に使用できることが確認できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素的エステル交換反応により製造することを特徴とし、ココアバターを代替することが可能で、POS/SOSトリグリセリドの含量比が1ないし2である、ココアバター代替油脂。
【請求項2】
前記ココアバター代替油脂は、
植物性油脂を分画する段階;
前記分画された植物性油脂をステアリン酸誘導体と混合して、原料油脂を製造する段階;及び
前記原料油脂を酵素的エステル交換反応する段階、を含む製造方法により製造することを特徴とする、請求項1に記載のココアバター代替油脂。
【請求項3】
前記酵素的エステル交換反応後、更にステアリン酸誘導体を除去する段階を含む、請求項1又は2に記載のココアバター代替油脂。
【請求項4】
前記植物性油脂とステアリン酸誘導体を1:0.5ないし1:10の重量比で混合する、請求項2に記載のココアバター代替油脂。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一つに記載のココアバター代替油脂を1ないし20重量%含む、チョコレート又はコーティング用のチョコレート組成物。
【請求項6】
植物性油脂を分画する段階;
前記分画された植物性油脂をステアリン酸誘導体と混合し原料油脂を製造する段階;及び
前記原料油脂を酵素的エステル交換反応する段階、を含み、
POS/SOSトリグリセリドの含量比が1ないし2である、
ココアバター代替油脂の製造方法。
【請求項7】
前記酵素的エステル交換反応は、30ないし60℃で、1時間ないし30時間行われることを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−507119(P2013−507119A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533066(P2012−533066)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際出願番号】PCT/KR2010/003380
【国際公開番号】WO2011/068291
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(508074963)シージェイ チェイルジェダング コーポレイション (4)
【Fターム(参考)】