説明

チーズ類の製造法

【課題】
本発明は、なんら非熟成タイプチーズの風味を損なわず、チーズ類の離水を防止せしめ、かつ生産効率の維持が可能なチーズ類の製造法を提供することを課題とする。
【解決手段】
水分中のゼラチン含量が1.2w/w%以上、LM-ペクチン含量が1.2w/w%以上およびタラガム含量が0.4w/w%以上の範囲で使用することにより、非熟成タイプチーズの風味を損なわずにチーズ類の離水を抑えることができた。また、83℃における流動性を維持することもできた。本発明は、チーズ類の製品特性を維持しつつも、離水防止にすぐれた新たな価値を持つチーズ類を効率良く提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非熟成タイプチーズの風味を損なわない、および長期間保存しても離水を起こさないチーズ類の製造法と、その製造法により得られる新規なチーズ類に関する。
【背景技術】
【0002】
非熟成タイプチーズは、良好な風味を有しているが、長時間冷蔵条件で保管しているうちに離水が生じてしまい、風味や食感などの品質も変化してしまう。現状では冷蔵条件で数日から数週間程度の品質を維持することが限界と考えられている。
【0003】
このような問題を解決する方法として、多くの種類の安定剤が使用されている。これらの安定剤を使用する場合、一般的に、(1)糊様の食感及び風味を有し、チーズ類が本来有する品質特性が損なわれる可能性がある、(2)増粘剤や安定剤をチーズ類と溶解混合して加熱する際に、増粘及び油分離(オイルオフ)が生じ易くなり製造が不可能となるか又は生産効率が低下する、などの課題を有している。
【0004】
非熟成タイプチーズの離水を抑える方法として、安定剤やゲル化剤を使用することが考えられる。例えば、アラビアガム、ローカストビーンガム、グアーガム、ゼラチン、寒天、カラギナン、タラガム、キサンタンガム、プルラン、ペクチン、ジェランガム、タマリンド種子、カードラン、澱粉などが安定剤やゲル化剤の例として一般に挙げられる。これらは1種もしくは2種以上組み合わせて用いられる。この中で離水がなく食感をも改良するいくつかの方法が検討されている。例えば、キサンタンガムを添加する方法(特許文献1:特許第3609579)、ハイメトキシルペクチンを添加する方法(特許文献2:特開平5−252866号公報)等が報告されている。
【0005】
しかし、前者の方法で製造されるチーズは離水を抑えられるものの、キサンタンガムを加熱溶解した後の工程中で増粘して流動性を損なってしまい、得られた製品についても糊様の食感があり、チーズが本来有する風味も損なわれていた。また、特許文献2の方法で製造されるチーズは固形分が25%以下のチーズに関するものであり、また離水防止に効果のあるpHも4.7以下に限定されていた。
【特許文献1】特許第3609579号
【特許文献2】特開平5−252866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、非熟成タイプチーズの風味を損なうことなく、製品の離水を防止せしめ、かつ安定的に製造が可能なチーズ類の製造法及び製造法により得られる新規なチーズ類を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、最終製品の水分が47w/w%〜57w/w%であるチーズ類の製造において、最終製品の水分含量に対して1.2w/w%以上の重量であるゼラチン、最終製品の水分含量に対して1.2w/w%以上の重量であるローメトキシルペクチン(以後、LM-ペクチンとも呼ぶ)および最終製品の水分含量に対して0.4w/w%以上の重量であるタラガム、を添加・混合して製造するチーズ類において、非熟成タイプチーズの風味を損なわず、安定的に製造が可能である、離水を起こさないチーズ類の新規の製造法を見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明はチーズ類の製造法において、ゼラチン、LM−ペクチンおよびタラガムを一定の添加量を使用することにより、非熟成タイプチーズの良好な風味を有し、かつ離水しないチーズ類を効率的に得られることができたことを特徴としており、下記の態様が包含される。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1] 最終製品の水分含量に対して1.2w/w%以上の重量であるゼラチン、最終製品の水分含量に対して1.2w/w%以上の重量であるローメトキシルペクチンおよび最終製品の水分含量に対して0.4w/w%以上の重量であるタラガムを含有し、最終製品の水分が約47w/w%〜57w/w%であり、加熱攪拌工程で83℃における粘度が400パスカル秒(Pa・s)未満の流動体であり、かつ冷蔵温度において固形状であることを特徴とするチーズ類、
[2] チーズ類が、非熟成タイプチーズの良好な風味を有しているものであり、かつ30℃で2時間経過後の離水率が1.0%未満であり、乳化安定性が良好であることを特徴とする、前記[1]に記載のチーズ類、
[3] 非熟成タイプチーズの1種類または2種類以上を原料として含有する、前記[1]〜[2]のいずれか1つに記載のチーズ類、
[4] 非熟成タイプチーズがクリームチーズ、クワルク、カッテージ、フェタ、フロマージュブラン、マスカルポーネ、フロマージュフレからなる群のうちの1つまたは2つ以上である、前記[3]に記載のチーズ類、
[5] 加熱攪拌工程で83℃における粘度が400パスカル秒(Pa・s)未満の流動体であり、かつ冷蔵温度において固形状である物性を有するチーズ類の製造方法であって、最終製品の水分含量に対して1.2w/w%以上の重量であるゼラチン、最終製品の水分含量に対して1.2w/w%以上の重量であるローメトキシルペクチンおよび最終製品の水分含量に対して0.4w/w%以上の重量であるタラガムを含有せしめ、最終製品の水分を約47w/w%〜57w/w%に調整することを特徴とするチーズ類の製造方法、
[6] チーズ類が、非熟成タイプチーズの良好な風味を有しているものであり、かつ30℃で2時間経過後の離水率が1.0%未満であり、乳化安定性が良好であることを特徴とする、前記[5]に記載のチーズ類の製造方法、
[7] 非熟成タイプチーズの1種類または2種類以上を原料に用いることを特徴とする、前記[5]〜[6]のいずれか1つに記載のチーズ類の製造方法、
[8] 非熟成タイプチーズがクリームチーズ、クワルク、カッテージ、フェタ、フロマージュブラン、マスカルポーネ、フロマージュフレからなる群のうちの1つまたは2つ以上であることを特徴とする、前記[7]に記載のチーズ類の製造方法、
からなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、チーズ類において、非熟成タイプチーズの風味を損なうことなく、増粘及び油分離などの製造工程での不具合を起こすことなく、長時間保存しても離水を起こさないチーズ類を効率的に得ることを可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。なお、特に明示のない限り添加量は、最終製品であるチーズ類に対するw/w%を示す。
【0012】
本発明において、チーズ類とは、プロセスチーズ、チーズフード、または乳等を主要原料とする食品である。
【0013】
本発明のチーズ類製造の原料に用いられ、あるいは本発明のチーズ類の風味の指標となる非熟成タイプチーズとは、熟成しないか、あるいはほとんど熟成させないタイプのチーズをいう。他のタイプのチーズに比べて水分含量が高く、くせの少ない風味を呈する。例えば、クリームチーズやクワルク、カッテージ、モッツアレラ、マスカルポーネ、フロマージュフレなどを指すことができるが、本発明においてはこれらの例に限定されない。これらは、乳等省令に定めるナチュラルチーズの規格を満たすものを用いることができるが、規格外であっても規格に準じて製造したものを用いてもよい。
【0014】
本発明のチーズ類製造の原料に用いることができる「チーズ」以外の原料として、バター、バターオイル、クリーム、クリームパウダー、バターミルク、牛乳、濃縮乳、脱脂粉乳、ホエイ、乳タンパク濃縮物、ホエイタンパク濃縮物、乳糖などの乳製品、及び溶融塩、安定剤、ゲル化剤、pH調整剤、調味料等の食品衛生法で認められており、チーズ製造に一般的に用いられる添加物を挙げることができるが、本発明においてはこれらの例に限定されない。
【0015】
また、本発明のチーズ類に香りや味を付与する目的等で乳に由来しないものを添加することもできる。例えば、果実、果汁、ナッツ類(クルミ、アーモンド等)、香草(バジル等)、スパイス(コショウ等)、シロップ(メープルシロップ、ハチミツ等)など又はその加工品(オレンジピール、果物のジャム、果物の乾燥物等)、あるいは香料、甘味料、調味料、矯味料などの食品添加物等を添加したチーズを製造することもできるが、本発明においてはこれらの例に限定されない。本発明でいうチーズ類にはこれらの製品も含むことができる。
【0016】
本発明では、溶融塩を用いることができる。本発明のチーズ類の製造で用いることができる溶融塩は、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムなど、通常のプロセスチーズ、チーズフードまたは乳等を主要原料とする食品、の製造に一般的に用いられる溶融塩を指す。本発明においては特に限定されないが、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラメタリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、等が挙げられる。その添加量は0.1w/w%〜10w/w%が好ましく、非熟成タイプチーズの風味を損ねない添加量としては0.1w/w%〜3w/w%がより好ましい。
【0017】
本発明において、製造工程における増粘及び油分離を生じさせずに最終製品の離水を防止するために、少なくともゼラチン、LM-ペクチン、タラガムを一定範囲の混合率にて併用する。ゼラチン、LM-ペクチン、タラガムは、一般に市販されているものであれば、どの銘柄を使用しても良い。本発明においては、最終製品の水分含量に対して1.2w/w%以上の重量であるゼラチン、最終製品の水分含量に対して1.2w/w%以上の重量であるローメトキシルペクチンおよび最終製品の水分含量に対して0.4w/w%以上の重量であるタラガムを含有することが好ましい。より好ましくは、最終製品の水分含量に対して1.2w/w%以上かつ6.0w/w%以下の重量であるゼラチン、最終製品の水分含量に対して1.2w/w%以上かつ6.0w/w%以下の重量であるローメトキシルペクチンおよび最終製品の水分含量に対して0.4w/w%以上かつ2.0w/w%以下の重量であるタラガムを含有することが好ましい。さらに好ましくは、最終製品の水分含量に対して1.2w/w%以上かつ6.0w/w%以下の重量であるゼラチン、最終製品の水分含量に対して1.2w/w%以上かつ3.6w/w%以下の重量であるローメトキシルペクチンおよび最終製品の水分含量に対して0.4w/w%以上かつ2.0w/w%以下の重量であるタラガムを含有することが好ましい。また、ローカストビーンガム、グアーガム、寒天、カラギナン、HM−ペクチン、ジェランガム等、他の安定剤やゲル化剤を非熟成タイプチーズの良好な風味を損なわない範囲内で併用してもかまわない。
【0018】
ゼラチンは、牛、豚、鳥、魚等の動物の骨、軟骨、皮、皮膚、靱帯、腱、白色結合組織、魚鱗、等を処理して得たコラーゲンを熱水抽出し、コラーゲンの三重らせん構造を不可逆的に解いたものである。分子量が約10万〜70万Daの水溶性タンパク質であり、その水溶液は約20〜25℃でゲル化する性質を有する。ゲル化の温度は、ゼラチン濃度、共存する塩の種類・濃度、水溶液のpHによって異なる。また、ゼラチン溶液の粘度はpH、温度、塩類等の影響を受け、等電点付近で最少の粘度を呈する。凝固物の状態は、寒天に比べて柔軟性、弾性に富むため口当たりが軟らかいのが特徴である。また、コラーゲンを酸又はアルカリ処理により抽出したゼラチンをゼラチンタイプA(酸処理して得たゼラチン、等電点は約pH7.0〜9.0)又はゼラチンタイプB(アルカリ処理して得たゼラチン、等電点は約pH4.7〜5.1)ともいう。本発明において、ゼラチンは前述のいずれの種類のゼラチンを使用することもできるが、ゼラチンタイプA又はゼラチンタイプBを好適に使用することができる。
【0019】
ペクチンは、野菜や果実、特に柑橘類の果皮・果肉等に多く含まれる、分子量約10万〜150万Daの高分子多糖類である。ペクチンは主にガラクチュロン酸とそのメチルエステルからなり、その性質はそのエステル化度(DE値)によって異なる。全ガラクチュロン酸のうち、メチルエステルの占める割合が50%以上(エステル化度50%以上)のものをハイメトキシルペクチン(HM-ペクチン)、50%未満(エステル化度50%未満)のものをローメトキシルペクチン(LM-ペクチン)という。ローメトキシルペクチンは、糖度、pHに関係なく、カルシウムイオン等の二価金属イオンの存在下でゲル化する性質を有する。このゲルは、機械耐性に優れ、撹拌後放置するとゲル状に復元する性質を有する。
【0020】
タラガムは、豆科植物のタラ(Caesalpinia spinosa Kuntze)の種子の胚乳から得られる、高分子多糖類を主成分とする。CAS No.は39300-88-4である。
【0021】
本発明のチーズ類の製造方法においては、少なくとも前記非熟成タイプチーズに加えてゼラチン、LM-ペクチンおよびタラガムを原材料に用いる。必要に応じて、前述の他の原料を添加することもできる。その製造工程は、プロセスチーズ、チーズフードまたは乳等を主要原料とする食品、の製造における一般的な方法に従って行う。例えば以下の2通りの工程で行うことができる。
(1)加熱乳化:上記の原材料をプロセスチーズまたはチーズフードの製造における一般的な条件(温度等)で加熱乳化する。また、加熱乳化は攪拌混合しながら行うことが好ましい。加熱乳化に使用する乳化機としては、特に限定されないが、通常チーズ類の乳化に使用しているクッカー型乳化機、ケトル型乳化機、ステファン型乳化機、表面掻き取り式乳化機等を例示することができる。
(2)原材料混合:安定剤及びゲル化剤、また必要に応じてチーズ以外の原料を水又はバターミルクなどに溶解・分散してミックス液を調製することができる。これを非熟成タイプチーズのチーズカードと混合し、プロセスチーズ、チーズフードまたは乳等を主要原料とする食品の製造における一般的な条件(温度等)で加熱攪拌する。
また、こうして製造したチーズ類の最終製品の水分が約47w/w%〜57w/w%となるように、水分を調整する製造工程が上記製造方法に含まれる。よって、本発明のチーズ類の固形分含量は約43w/w%〜53w/w%となる。
【0022】
本発明のチーズ類のpHは特に限定されないが、pH4.0〜6.0、好ましくは4.6〜5.5に調整して製造することができる。pHの調整に使用できるものとしては、乳酸、クエン酸、アジピン酸、コハク酸、乳酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム(無水)、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、などを挙げることができるが、食品添加物として認められているものであれば、いずれを使用してもよい。
【0023】
本発明において、製造工程における高粘性(増粘ともいう)とは、加熱乳化終了時のチーズ類が400パスカル秒(Pa・s)以上の粘度となる状態を指す。安定剤及びゲル化剤等を使用したチーズ類は、加熱すると餅様の粘りを有して高粘性となりやすいため、著しく流動性を損ないやすい。その結果、ロータリーポンプ等の汎用性の高い装置で後工程にチーズ類を送ることが困難となる。このため、高粘物用の特殊な装置を使用しなければならなくなる。例えば、一般的な安定剤の溶解温度である83℃においてチーズ類が高粘性の状態とならない事が必要となる。その一方で、充填、冷却、流通の過程においては、チーズ類が固形状である事が重要である。とりわけ、冷蔵温度においてチーズ類が固形状であるのが好ましい。本発明でいう冷蔵温度とは、食品製造において一般的な冷蔵工程で用いられる温度帯をいう。例えば、10℃以下の温度帯を挙げることができる。本発明のチーズ類は、加熱攪拌工程で83℃における粘度が400パスカル秒(Pa・s)未満の流動体であり、かつ冷蔵温度において固形状であることを特徴とする。また、本発明のチーズ類の製造方法は、加熱攪拌工程で83℃における粘度が400パスカル秒(Pa・s)未満の流動体であり、かつ冷蔵温度において固形状であることを特徴とするチーズ類を提供することができる。
【0024】
また、本発明のチーズ類は、長時間保存しても離水を起こさない物性を有する。本発明において「離水を起こさない」とは、離水率が1.0%未満であることを指す。ここでいう離水とは、チーズ類から乳清などの水分が滲出する現象を指し、離水率とは、30℃で2時間内にチーズ類から滲出する水分の重量を水分が滲出する前のチーズ類の重量で除した値をいう。例えば、実施例1に示すように、辺が15mmの立方体状に成形したチーズ類をシャーレ内に敷いた濾紙(定性濾紙No.2、φ70mm、ADVANTEC社製)の上に置き、30℃の恒温室において2時間経過後の時点に濾紙中に移行した水分の重量を測定し、この値と水分が滲出する前のチーズ類の重量を基に算出することができる。離水は包材を汚し、外観を悪くすると同時に、外包材が紙製の場合は外包材にカビ等の発生を促すなどの品質不良を引き起こす。長時間保存しても離水を起こさない物性を有するチーズ類は、製造〜流通の過程における品質不良を防止することができる。
【0025】
本発明のチーズ類は、非熟成タイプチーズの良好な風味を有しているものであることを特徴とする。前記風味は官能検査によって、糊感、および非熟成タイプチーズ特有の爽やかな風味を基準に判断する。糊感とは、糊様の食感(もちのような粘り、およびべたつき)を指す。本発明においては、糊感がなく、かつ良好な非熟成タイプチーズ特有の爽やかな風味を有するものを非熟成タイプチーズの良好な風味を有しているチーズ類とする。
【0026】
本発明のチーズ類は、乳化安定性が良好であることを特徴とする。本発明において、乳化安定性の良否は製造における加熱攪拌直後の溶解物の外観を観察して行う。このとき、加熱によりチーズの組織から油脂が遊離し表面に油膜が形成される状態を、乳化安定性が悪い状態(オイルオフ、または油分離ともいう)として評価する。一方、オイルオフのないものを乳化安定性が良好な状態として評価する。本発明においては、加熱攪拌直後のオイルオフのないものを乳化安定性が良好なチーズ類とする。
【0027】
以下、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これにより限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
[実施例1](非熟成タイプチーズを用いた検討1)
非熟成タイプチーズとしてクリームチーズを用い、バター等と共に各種安定剤を単独で添加して製造したチーズ類の比較を行った。
【0029】
最終製品の水分含量が52w/w%となるように各種試作品を製造した。クリームチーズ(水分含量55.5w/w%)800g、バター(水分含量16.2w/w%)100gを混合して原料を調整した。原料に各種安定剤として、(試作品1−1)ゼラチン、(試作品1−2)ローカストビーンガム、(試作品1−3)グアーガム、(試作品1−4)寒天、(試作品1−5)カラギナン、(試作品1−6)タラガム、(試作品1−7)LM−ペクチン、または(試作品1−8)ジェランガム、を5.0g(最終製品に対して0.52w/w%)添加した。比較として、安定剤を添加しないものも(比較)設けた。さらに、溶融塩としてポリリン酸ナトリウムを9.5g(最終製品に対して1.0w/w%)添加した。調整した原料、安定剤および溶融塩の混合物に水分30gを添加しながらケトル型乳化釜で83℃以上になるまで加熱攪拌溶解した。加熱攪拌直後の溶解物について、83℃における乳化安定性を評価し、さらに粘度を測定した。そののち、溶解物を容器に充填し、冷蔵庫で10℃以下まで冷却して各種試作品を製造した。このとき、いずれの試作品も固形状となった。こうして得られた試作品について、30℃での離水率の測定(N=5)及び官能評価(糊感の評価)を行った。
【0030】
[乳化安定性の評価]
加熱攪拌直後の溶解物の外観を観察した。このとき、加熱によりチーズの組織から油脂が遊離し表面に油膜が形成される状態を、乳化安定性が悪い状態(オイルオフ)として評価した。一方、オイルオフのないものを乳化安定性が良好な状態として評価した。
【0031】
[粘度の測定]
加熱攪拌直後の溶解物の粘度測定は、高粘度用粘時計ビスコテスター VT−04(リオン(RION)社製)を用いて行った。単位はパスカル秒(Pa・s又はPsともいう)である。
【0032】
[離水率の測定]
上記の実施例1による本発明のチーズ類の2時間内の離水率を測定した。測定条件は1辺が15mmの立方体状に成形したチーズ試料をシャーレ内に敷いた濾紙(定性濾紙No.2、φ70mm、ADVANTEC社製)の上に置き、30℃の恒温室において2時間経過後の時点に濾紙中に移行した水分の重量を測定した。離水率は、次式により算出した。数値が小さい方が離水を起こしにくいことを示す。
【0033】
【数1】

【0034】
尚、本発明において「離水を起こさない」とは、離水率が1.0%未満であることを指している。また、離水率は使用した濾紙の大きさにより20.5%が上限値となっている。
【0035】
[官能評価(非熟成タイプチーズの風味)]
試作品について、官能検査を実施し、糊感および非熟成タイプチーズ特有の爽やかな風味の有無を指標に、非熟成タイプチーズの風味について評価を行った(N=3)。
【0036】
【表1】

【0037】
上記の表1の中の記号(○、△、×)は、試料に対する官能評価の結果を示す。各種記号は下記の意味をもつ。
○:糊感がなく、非熟成タイプチーズ特有の爽やかな風味を有する
△:少し糊感を有するが、非熟成タイプチーズ特有の爽やかな風味は多少感じられる
×:糊感が強く、非熟成タイプチーズ特有の爽やかな風味を損なっている
【0038】
結果を表1に示す。表1に示す通り、ゼラチン、タラガムの離水率は10%程度であり、単独使用では不十分ではあるものの離水防止効果が認められた。粘性についても大きな増加もなく流動性も良好であった。また冷蔵後の風味には糊感も少なく、使用に適していることが分かった。LM−ペクチンの単独使用は離水率が9%と最も低くなっていたが、350パスカル秒(Pa・s)と粘性が高く、僅かに糊感も感じられた。その他の安定剤は粘度が400パスカル秒(Pa・s)以上となり流動性が低く、製造に適していないか、あるいは糊感が強く、使用には適さなかった。
【0039】
[実施例2](非熟成タイプチーズを用いた検討2)
非熟成タイプチーズとしてクリームチーズを用い、バター等と共に各種安定剤を複数組み合わせて添加して製造したチーズ類の比較を行った。
【0040】
表2の配合表に従い、最終製品の水分含量が52w/w%、pHを4.9となるように固定して各種試作品を製造した。
クリームチーズ(水分含量55.5w/w%)、バター(水分含量16.2w/w%)を混合して原料を調整した。原料に酸味料(乳酸)、および各種安定剤として、表2に示す配合表に従ってゼラチン、LM−ペクチン、タラガムの中から2種類以上添加した。さらに、溶融塩としてポリリン酸ナトリウムを最終製品に対して1.0w/w%添加した。調整した原料、安定剤、酸味料、および溶融塩の混合物に直接蒸気(水分)を必要に応じて供給しながらケトル型乳化釜で83℃以上まで加熱攪拌溶解した。加熱攪拌直後の溶解物について、83℃における乳化安定性を評価し、さらに粘度を測定した。そののち、溶解物を容器に充填し、冷蔵庫で10℃以下まで冷却して各種試作品(2−1〜2−10)を製造した。このとき、いずれの試作品も固形状となった。こうして得られた試作品について、30℃での離水率の測定(N=5)及び官能評価(非熟成タイプチーズの風味)を行った。乳化安定性の評価、粘度の測定、離水率の測定、官能評価(非熟成タイプチーズの風味)の実施方法は、実施例1に記載の方法に準じて行った。
【0041】
【表2】

【0042】
上記の表2の中の記号(○、△、×)は、試料に対する官能評価の結果を示し、下記の意味をもつ。
○:糊感がなく、非熟成タイプチーズ特有の爽やかな風味を有する
△:少し糊感を有するが、非熟成タイプチーズ特有の爽やかな風味は多少感じられる
×:糊感が強く、非熟成タイプチーズ特有の爽やかな風味を損なっている
【0043】
結果を表2に示す。水分中のゼラチン濃度1.2w/w%、水分中のLM−ペクチン濃度が1.2w/w%、水分中のタラガム0.4w/w%として、これらの中から2つを添加した試作品(2−1、2−2、2−3)では、粘度は400パスカル秒(Pa・s)未満に抑えつつ非熟成タイプチーズの風味を損なうことはなかったが離水率は10%未満にまで低下したものの、離水は完全に止まっていなかった。次に3つを併用した試作したサンプル(試作品2−4)では、非熟成タイプチーズの風味を損なうことなく、粘度を400パスカル秒(Pa・s)未満に抑えつつ離水を起こさないチーズを得られた。また、3つの添加量を2−4の2倍量、3倍量、5倍量とした試作サンプル(試作品2−5、2−6、2−7)では、3倍量の2−6で糊感が感じられたが、粘度は400パスカル秒(Pa・s)未満に抑えつつ離水を起こさないチーズ類を得られたが、5倍量2−7では糊感が強く、油分離しており品質不良であった。しかし、LM−ペクチン含量を2−7の半分量としたサンプル(試作品2−9)及びLM−ペクチンとタラガム含量を2−7の半分量としたサンプル(試作品2−10)では糊感もなく、粘度を400パスカル秒(Pa・s)未満に抑えつつ離水を起こさないチーズ類を得られた。
【0044】
[実施例3](非熟成タイプチーズを用いた検討3)
非熟成タイプチーズとしてクリームチーズを用い、バター等と共に安定剤(ゼラチン、ローメトキシルペクチン、タラガムの3種)を一定比率で組み合わせて添加し、最終製品の水分含量を違えて製造したチーズ類の比較を行った。
【0045】
表3の配合表に従い、各種試作品を製造した。ゼラチン、LM−ペクチン、タラガムは、最終製品の水分含量に対する濃度をそれぞれ約5.8w/w%、約2.3w/w%、約1.0w/w%、およびpHを5.0となるように固定した。
クリームチーズ(水分含量55.5w/w%)、バター(水分含量16.2w/w%)を混合して原料を調整した。原料に酸味料(乳酸)、および各種安定剤として、表3に示す配合表に従ってゼラチン、LM−ペクチン、タラガムを添加した。このとき、ゼラチン、LM−ペクチン、タラガムは、設定した最終製品の水分含量に対する濃度がそれぞれ約5.8w/w%、約2.3w/w%、約1.0w/w%となるように固定し、3種類全てを使用した。さらに、試作品3−1、3−3、3−4、3−5では溶融塩としてポリリン酸ナトリウムを最終製品に対して約1.0w/w%添加した。試作品3−2には、溶融塩を添加しなかった。調整した原料、安定剤、酸味料、および溶融塩の混合物(3−1、3−2、3−3、3−4、3−5)に直接蒸気(水分)を必要に応じて供給しながらケトル型乳化釜で直接蒸気を必要に応じて供給し、83℃以上まで加熱攪拌溶解した。最終製品のpHを5.0、水分を47w/w%、52w/w%、57w/w%または65w/w%に調整した。加熱攪拌直後の溶解物について、83℃における乳化安定性を評価し、さらに粘度を測定した。そののち溶解物を容器に充填し、冷蔵庫で10℃以下まで冷却して各種試作品(3−1、3−2、3−3、3−4、3−5)を製造した。このとき、いずれの試作品も固形状となった。こうして得られた試作品について、30℃での離水率の測定(N=5)及び官能評価(非熟成タイプチーズの風味)]を行った。乳化安定性の評価、粘度の測定、離水率の測定、官能評価(非熟成タイプチーズの風味)]の実施方法は、実施例1に記載の方法に準じて行った。
【0046】
【表3】

【0047】
上記の表3の中の記号(○、△、×)は、試料に対する官能評価の結果を示し、下記の意味をもつ。
○:糊感がなく、非熟成タイプチーズ特有の爽やかな風味の風味を有する
△:少し糊感を有するが、非熟成タイプチーズ特有の爽やかな風味は多少感じられる
×:糊感が強く、非熟成タイプチーズ特有の爽やかな風味を損なっている
【0048】
結果を表3に示す。表3に示す通り、試作品3−1、3−2、3−3、3−4において良好な評価が得られた。つまり、溶融塩の存在下では最終製品の水分が47w/w%〜57w/w%において、非熟成タイプチーズの風味を損なうことなく、粘度を400パスカル秒(Pa・s)未満に抑えつつ離水を起こさないチーズを得られることが見出された。また、それと同時に、溶融塩を添加しなくても、非熟成タイプチーズの風味を損なうことなく、粘度を400パスカル秒(Pa・s)未満に抑えつつ離水を起こさないチーズを得られることも見出された。
【0049】
[実施例4](非熟成タイプチーズを用いた検討4)
原料として牛乳(水分含量87.4w/w%)を24.0kg、クリーム(水分含量48.4w/w%)8.0kgを混合したミックスを調整し、このミックスを温度50℃、圧力150kg/cm2で均質化を行い、72℃15秒間の加熱殺菌をした。さらにこの殺菌乳を32℃前後まで冷却した。これにLactococcus lactis subsp. lactis、Lactococcus lactis subsp. cremoris、lactococcus lactis subsp. lactis biovar daicetylactisの3混合スターターを3w/w%接種し攪拌した。これを32℃で約5時間発酵し、pH4.6の発酵液を得た。この発酵液を濾過用の布袋(綿モスリン(muslin)製)に詰め、5〜10℃の冷却下でホエイを除き、水分62.4w/w%のクリームチーズを調製した。このクリームチーズに、ゼラチンを水分中濃度5.8w/w%、LM−ペクチンを水分中濃度2.3w/w%、タラガムを水分中濃度0.8w/w%となるように調整し、調整した原料をケトル型乳化釜で直接蒸気を必要に応じて供給し、83℃以上まで加熱溶融した。その後、溶融物の粘度を測定したのち溶融物を容器に充填し、冷蔵庫で10℃以下まで冷却して本発明による試作品を得た。このとき、試作品は固形状となった。得られた試作品について、30℃での離水率の測定(N=5)及び官能評価(非熟成タイプチーズの風味)を行った。乳化安定性の評価、粘度の測定、離水率の測定、官能評価(非熟成タイプチーズの風味)]の実施方法は、実施例1に記載の方法に準じて行った。
【0050】
得られた試作品の粘度が35パスカル秒(Pa・s)となり、400パスカル秒(Pa・s)未満に抑えられていた。また、最終製品の水分は56.4w/w%であり、離水率も0.9%に抑えられており、糊感のない良好な非熟成タイプチーズの風味を損なっていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のチーズ製造法は、チーズ又はチーズ様食品において、水分含量が高いものでも包装材にチーズの離水を付着させることなく、非熟成タイプチーズの風味を損なうことなく、保存期間中の離水を抑えるチーズを効率的に得ることを可能とするものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最終製品の水分含量に対して1.2w/w%以上の重量であるゼラチン、最終製品の水分含量に対して1.2w/w%以上の重量であるローメトキシルペクチンおよび最終製品の水分含量に対して0.4w/w%以上の重量であるタラガムを含有し、最終製品の水分が約47w/w%〜57w/w%であり、加熱攪拌工程で83℃における粘度が400パスカル秒(Pa・s)未満の流動体であり、かつ冷蔵温度において固形状であることを特徴とするチーズ類。
【請求項2】
チーズ類が、非熟成タイプチーズの良好な風味を有しているものであり、30℃で2時間経過後の離水率が1.0%未満であり、乳化安定性が良好であることを特徴とする、請求項1に記載のチーズ類。
【請求項3】
非熟成タイプチーズの1種類または2種類以上を原料として含有する、請求項1〜2のいずれか1項に記載のチーズ類。
【請求項4】
非熟成タイプチーズがクリームチーズ、クワルク、カッテージ、フェタ、フロマージュブラン、マスカルポーネ、フロマージュフレからなる群のうちの1つまたは2つ以上である、請求項3に記載のチーズ類。
【請求項5】
加熱攪拌工程で83℃における粘度が400パスカル秒(Pa・s)未満の流動体あり、かつ冷蔵温度において固形状である物性を有するチーズ類の製造方法であって、最終製品の水分含量に対して1.2w/w%以上の重量であるゼラチン、最終製品の水分含量に対して1.2w/w%以上の重量であるローメトキシルペクチンおよび最終製品の水分含量に対して0.4w/w%以上の重量であるタラガムを含有せしめ、最終製品の水分を約47w/w%〜57w/w%に調整することを特徴とするチーズ類の製造方法。
【請求項6】
チーズ類が、非熟成タイプチーズの良好な風味を有しているものであり、かつ30℃で2時間経過後の離水率が1.0%未満であり、乳化安定性が良好であることを特徴とする、請求項5に記載のチーズ類の製造方法。
【請求項7】
非熟成タイプチーズの1種類または2種類以上を原料に用いることを特徴とする、請求項5〜6のいずれか1項に記載のチーズ類の製造方法。
【請求項8】
非熟成タイプチーズがクリームチーズ、クワルク、カッテージ、フェタ、フロマージュブラン、マスカルポーネ、フロマージュフレからなる群のうちの1つまたは2つ以上であることを特徴とする、請求項7に記載のチーズ類の製造方法。

【公開番号】特開2009−100663(P2009−100663A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273737(P2007−273737)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】