説明

テルビウム・ビスマス・タングステン酸化物固溶体からなる電気伝導材料及びその製造方法

【課題】酸化物固溶体からなる新規材料の提供
【解決手段】単斜晶系の構造を有する一般式Tb2xBi2yz3( 0.66<x<0.73、0.13
5<y<0.19、0.11<z<0.175、但し、x+y+z=1)で示されるテルビウム・ビスマ
ス・タングステン酸化物固溶体からなる電気伝導材料。例えば、x=0.6725、y=0.17、z=0.
1575 の組成では150℃における電気伝導度が10-4 S cm-1、250℃では10-3S cm
-1であり、半導体特性を有している。良好な電気伝導性を示すことから、電極、センサー
、触媒等の材料としての用途を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単斜晶系の構造を有する一般式Tb2x Bi2yz3 ( 0.66<x<0.73、0.
135<y<0.19、0.11<z<0.175、但し、x+y+z=1)で示されるテルビウム・ビス
マス・タングステン酸化物固溶体からなる電気伝導材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化ビスマスの高温安定相(δ-Bi2O3と命名されている)は酸素が25at%欠
損した蛍石型の面心立方晶系構造をもつ優れた酸化物イオン伝導体であることが知られて
いるが、その安定温度領域が730〜825℃と狭く、かつ還元され易い等の欠点を有す
るために、他の酸化物を添加することにより、安定温度領域を室温付近まで低下させる安
定化の試みがなされた(例えば、特許文献1)。既往の酸化物イオン伝導体として有名な
安定化ジルコニアも酸素欠損した蛍石型の面心立方晶系構造を有しており、隙間の多い蛍
石型の面心立方構造と酸化物イオン伝導の関連性もまた種々検討されてきた。
【0003】
酸化ビスマスの高温相を安定化するために、特に、希土類酸化物(Ln2O3)を添加したB
i2O3-Ln2O3の二成分系が広く検討された。その結果、得られた蛍石型構造の面心立方晶の
相は高い酸化物イオン伝導を示すことが認められたが、650〜700℃より低い温度領
域では準安定であるため、この温度領域で使用すると、分解あるいは相転移が起こり、酸
化物イオン伝導特性は急激に劣化してしまうという欠点が明瞭となった。
【0004】
【特許文献1】特許第3443638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、酸化物固溶体からなる新規材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、酸化ビスマス(Bi2O3)を基本とする酸化物イオン伝導体を探索する目的
で、添加酸化物として酸化テルビウム(Tb2O3)と酸化タングステン(WO3)を用いた三成
分系について検討した。その結果、ビスマスよりもテルビウムの含有量が多い組成の、一
般式Tb2x Bi2yz3( 0.66<x<0.73、0.135<y<0.19、0.11<z<0.175、但し
、x+y+z=1)で示されるテルビウム・ビスマス・タングステン酸化物固溶体は、図
1に示すような粉末X線回折パターンを与える新規な単斜晶系構造をもつ新物質であり、
意外にも、従来のビスマス複酸化物と異なって酸化物イオン伝導ではなく、電子あるいは
ホール伝導に起因する良好な電気伝導性を呈することを発見した。
【0007】
すなわち、本発明は、一般式Tb2xBi 2yz3 ( 0.66<x<0.73、0.135<y<0.1
9、0.11<z<0.175、但し、x+y+z=1)で示される新規な単斜晶系の構造を有する
テルビウム・ビスマス・タングステン酸化物固溶体からなることを特徴とする電気伝導材
料である。0.66<x<0.73、0.135<y<0.19、0.11<z<0.175の固溶領域は粉末X線回
折結果から求められた。この組成領域外では単斜晶系の単一相とはならず、混合物となっ
てしまい、特性の劣化を誘起してしまう。
【0008】
本発明のテルビウム・ビスマス・タングステン酸化物固溶体からなる電気伝導材料は、
例えばx=0.6725、y=0.17、z=0.1575 の組成では150℃における電気伝導度が10-4S c
m-1、250℃では10-3S cm-1であり、図2に示されるように半導体特性を有している

【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のテルビウム・ビスマス・タングステン酸化物固溶体からなる電気伝導材料は、
以下の手順で製造することができる。すなわち、酸化テルビウム(Tb2O3)もしくは加熱さ
れることにより酸化テルビウムに分解される化合物と、酸化ビスマス(Bi2O3)もしくは加
熱されることにより酸化ビスマスに分解される化合物と、さらに、酸化タングステン(WO3
)もしくは加熱されることにより酸化タングステンに分解される化合物とを、その割合が
モル比でTb2O3 : Bi2O3 : WO3がx:y:z(ここで、0.66<x<0.73、0.135<y<0.19
、0.11<z<0.175、但し、x+y+z=1)となるように秤量・混合した出発原料を空
気中或いは酸化雰囲気下で1050℃以上1200℃未満の温度で加熱し、固相反応させ
ることにより得られる。1050℃未満の温度では固相反応が進まず、1200℃を越え
るとビスマスの蒸発が生じる恐れがある。望ましくは1100〜1150℃の温度である
。固相反応は試料の量によるが、10g程度では20時間程度で完了する。
【0010】
上記のTb2xBi2yz3セラミックの電気伝導度は組成x、y、zの値によって変化
する。代表的な組成の電気伝導度(S cm-1)の150℃、250℃、350℃、450℃で
の常用対数値を表1に掲げる。
【0011】
【表1】

【実施例1】
【0012】
次に本発明の実施例を示す。
純度がいずれも、99.9%以上のテルビウム酸化物(Tb4O7)、酸化ビスマス(Bi2O3)、
酸化タングステン(WO3)の粉末を、Tb2O3:Bi2O3:WO3がモル比で67.25:17:15.75となる
ように秤量し、メノウ乳鉢中で十分に混合した。この混合物を白金ルツボに充填し、電気
炉で室温から加熱し始め空気中、1150℃で60時間保った後、ルツボを電気炉から取
り出した。
【0013】
生成物67.25Tb2O3・17Bi2O3・15.75WO3の粉末X線回折パターンは図1に示すように、
δ-Bi2O3型類似の擬面心立方晶系の構造を副格子とした六方晶系(菱面体晶系)の超格子
を形成していることを示唆している。しかしながら、指数付けの結果と、擬面心立方晶副
格子内の金属原子の配列による対称性を検討した結果から、真の格子は単斜晶系で、その
格子定数はa=13.0416Å、b=7.5309Å、c=9.4071Å、β=89.999°であった。
【0014】
電気伝導度測定用試料として、合成された67.25Tb2O3・17Bi2O3・15.75WO3の粉末を直
径4.5mmの金型を使用して長さ13mmの圧粉円柱体を作製し、その圧粉体をさらに
200MPaの静水圧で等方的に圧縮した後、電気炉中で1150℃で12時間加熱焼結
した。この焼結体の両面に金ペーストを塗布して電極とし、交流インピーダンス法の電気
伝導度測定用試料とした。電気炉中に設置した試料の電気抵抗を150℃から700℃ま
で20℃の温度間隔で昇温と降温過程で測定した。その結果は図2に示すように良好な半
導性電気伝導を示した。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明のテルビウム・ビスマス・タングステン酸化物固溶体からなる電気伝導材料は、
良好な電気伝導性を示すことから、燃料電池等の電極、特定のガスを検知するセンサー、
或いは有機物の酸化触媒等の材料としての用途を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の電気伝導材料としてのテルビウム・ビスマス・タングステン酸化物固溶体の一組成である67.25 Tb2O3 ・17 Bi2O3・15.75 WO3の粉末X線回折(入射X線はCuKα線である)結果を示すグラフ。
【図2】本発明の電気伝導材料としてのテルビウム・ビスマス・タングステン酸化物固溶体の一組成である67.25 Tb2O3 ・17 Bi2O3・15.75 WO3の電気伝導度の温度変化を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単斜晶系の構造を有する一般式Tb2xBi2yz3( 0.66<x<0.73、0.135<y<0.19
、0.11<z<0.175、但し、x+y+z=1)で示されるテルビウム・ビスマス・タングス
テン酸化物固溶体からなる電気伝導材料。
【請求項2】
酸化テルビウム(Tb2O3)もしくは加熱されることにより酸化テルビウムに分解される化合
物と、酸化ビスマス(Bi2O3)もしくは加熱されることにより酸化ビスマスに分解される化
合物と、さらに、酸化タングステン(WO3)もしくは加熱されることにより酸化タングステ
ンに分解される化合物とを、その割合がモル比でTb2O3:Bi2O3:WO3がx:y:z(ここで
、0.66<x<0.73、0.135<y<0.19、0.11<z<0.175、但し、x+y+z=1)となる
ように秤量・混合した出発原料を空気中或いは酸化雰囲気下で1050℃以上の温度で加熱す
ることにより、一般式Tb2xBi2yz3( 0.66<x<0.73、0.135<y<0.19、0.11<
z<0.175、但し、x+y+z=1)で示される単斜晶系の構造を有する電気伝導性テルビ
ウム・ビスマス・タングステン酸化物固溶体を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−35346(P2007−35346A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213951(P2005−213951)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】