説明

テーラードブランク材のセット位置調整方法、製造方法及び素材選択方法

【課題】成形後において接合線の基準位置からのずれ量を低減でき、成形品の接合線付近の見栄えを安定させることができるテーラードブランク材のセット位置調整方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、それぞれ特性の異なる第1の板材2と第2の板材3とを突き合わせ接合し、その接合位置に接合線4が形成されるテーラードブランク材1をプレス成形装置5によってプレス成形する前に、プレス成形装置5におけるテーラードブランク材1のセット位置Sa,Sb,Scを調整するテーラードブランク材のセット位置調整方法であって、プレス成形装置5は、テーラードブランク材1に当接してセット位置Sa,Sb,Scを調整する位置決め部材50を備え、第1の板材2の特性及び第2の板材3の特性に基づいて、プレス成形装置5におけるテーラードブランク材1のセット位置Sa,Sb,Scを位置決め部材50によって調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーラードブランク材のセット位置調整方法、製造方法及び素材選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、板厚、強度(降伏応力)などの特性が異なる複数の板材(薄い板材と厚い板材)を突き合わせ接合(溶接)し、その接合位置(段差部)に接合線(溶接線)が形成されるテーラードブランク材が知られている。テーラードブランク材を、段差部を有する金型によってプレス成形することにより、特性(主に強度)が異なる複数の部位を有した成形品が得られる。
【0003】
このようなテーラードブランク材においては、接合線と金型の段差部との位置がプレス成形中にずれることにより、接合線付近の薄い板材側に凹みが生じ、成形品の見栄えが悪くなるという問題点があった。また、成形工程毎又はロット毎に板材の特性が異なり、接合線と金型の段差部との位置ずれ量が異なるため、上記凹みの位置がばらついてしまい、成形品の見栄えが悪くなるという問題点があった。
【0004】
そこで、このような問題点を解決すべく、例えば、特許文献1に記載の技術が提案されている。この技術は、ダイとブランクホルダとポンチとを備えたプレス金型を用いて、高強度で且つ高板厚の金属板と低強度で且つ低板厚の金属板とを溶接したテーラードブランク材をプレス成形するものである。このプレス成形に際して、テーラードブランク材の溶接線近傍を成形するポンチの表面に、硬質ゴムをライニングしてプレス成形を行う。
【0005】
この特許文献1に記載の技術によれば、ポンチの表面に硬質ゴムをライニングしたことにより、溶接線近傍の外表面の落込み現象を防止して、良好な面品質(面精度)を得ることができる、とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−36222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、以下の問題点があった。ポンチの表面に硬質ゴムをライニングしなければならず、金型がコスト高になる。ライニングされた硬質ゴムによる層の耐久性が劣る。また、硬質ゴムをライニングすることにより、従来の金属製の金型とは、摩擦係数等が異なる。そのため、プレス成形中のワークの挙動(流入具合等)が異なり、従来とは異なる方法での成形条件の設定や金型設計が必要になる。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、成形後において接合線の基準位置からのずれ量を低減でき、成形品の接合線付近の見栄えを安定させることができるテーラードブランク材のセット位置調整方法、製造方法及び素材選択方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、それぞれ特性(例えば、後述の降伏応力及び板厚)の異なる第1の板材(例えば、後述の薄板材2)と第2の板材(例えば、後述の厚板材3)とを突き合わせ接合し、その接合位置に接合線(例えば、後述の接合線4)が形成されるテーラードブランク材(例えば、後述のテーラードブランク材1)をプレス成形装置(例えば、後述のプレス成形装置5、金型10)によってプレス成形する前に、前記プレス成形装置における前記テーラードブランク材のセット位置(例えば、後述のセット位置Sa,Sb,Sc)を調整するテーラードブランク材のセット位置調整方法であって、前記プレス成形装置は、前記テーラードブランク材に当接してセット位置を調整する位置決め部材(例えば、後述の位置決め部材50)を備え、前記第1の板材の前記特性及び前記第2の板材の前記特性に基づいて、前記プレス成形装置における前記テーラードブランク材のセット位置を前記位置決め部材によって調整することを特徴とする。
【0010】
本発明では、第1の板材の特性及び第2の板材の特性に基づいて、プレス成形装置におけるテーラードブランク材のセット位置を位置決め部材によって調整する。そのため、テーラードブランク材のセット位置を調整しない場合と比べて、プレス成形した場合における接合線の基準位置からのずれ量を小さくできる。
【0011】
従って、本発明によれば、成形後において接合線の基準位置からのずれ量を低減でき、成形品の接合線付近の見栄えを安定させることができる。
【0012】
この場合、前記テーラードブランク材を前記プレス成形装置によってプレス成形した場合における前記接合線の基準位置からのずれ量を、前記第1の板材の前記特性及び前記第2の板材の前記特性に基づいて予測し、前記ずれ量が小さくなるように、前記プレス成形装置における前記テーラードブランク材のセット位置を前記位置決め部材によって調整することが好ましい。
【0013】
この発明によれば、上記の効果と同様の効果がある。
【0014】
また、本発明は、それぞれ特性の異なる第1の板材と第2の板材とが接合位置において突き合わせ接合され、その接合位置に接合線が形成されるテーラードブランク材の製造方法であって、前記第1の板材の前記特性及び前記第2の板材の前記特性に基づいて、前記接合位置に対応する前記第1の板材の端部の切断位置(例えば、後述の切断位置21a,21b,21c)と前記接合位置に対応する前記第2の板材の端部の切断位置(例えば、後述の切断位置31a,31b,31c)とを調整し、前記切断位置を調整された前記第1の板材と前記第2の板材とを前記接合位置において突き合わせ接合することを特徴とする。
【0015】
本発明では、第1の板材の特性及び第2の板材の特性に基づいて、接合位置に対応する第1の板材の端部の切断位置と接合位置に対応する第2の板材の端部の切断位置とを調整する。そして、切断位置を調整された第1の板材と第2の板材とを接合位置において突き合わせ接合する。そのため、第1の板材の端部の切断位置と第2の板材の端部の切断位置とを調整しない場合と比べて、プレス成形した場合における接合線の基準位置からのずれ量を小さくできる。
【0016】
従って、本発明によれば、成形後において接合線の基準位置からのずれ量を低減でき、成形品の接合線付近の見栄えを安定させることができる。
【0017】
この場合、前記接合線に対応する位置に段差部を有するプレス成形装置によって前記テーラードブランク材をプレス成形した場合における、前記接合線の基準位置からのずれ量を、前記第1の板材の前記特性及び前記第2の板材の前記特性に基づいて予測し、前記ずれ量が小さくなるように、前記接合位置に対応する前記第1の板材の端部の切断位置と前記接合位置に対応する前記第2の板材の端部の切断位置とを調整することが好ましい。
【0018】
この発明によれば、上記の効果と同様の効果がある。
【0019】
また、本発明は、それぞれ特性の異なる第1の板材と第2の板材とを突き合わせ接合し、その接合位置に接合線が形成されるテーラードブランク材の板状の素材を選択するテーラードブランク材の素材選択方法であって、前記第1の板材の前記素材として使用され且つ特性が既知の第1の素材(例えば、後述の薄板材コイル26)が複数得られる第1の素材群(例えば、後述の薄板材コイル群25)と、前記第2の板材の前記素材として使用され且つ特性が既知の第2の素材(例えば、後述の厚板材コイル36)が複数得られる第2の素材群(例えば、後述の厚板材コイル群35)とを準備し、前記第1の素材の前記特性及び前記第2の素材の前記特性に基づいて、両特性の差が所定範囲になるように、前記第1の素材を前記第1の素材群の中から選択すると共に前記第2の素材を前記第2の素材群の中から選択することを特徴とする。
【0020】
本発明では、第1の板材の素材として使用され且つ特性が既知の第1の素材が複数得られる第1の素材群と、第2の板材の素材として使用され且つ特性が既知の第2の素材が複数得られる第2の素材群とを準備する。また、第1の素材の特性及び第2の素材の特性に基づいて、両特性の差が所定範囲になるように、第1の素材を第1の素材群の中から選択すると共に第2の素材を第2の素材群の中から選択する。そのため、両特性の差が所定範囲になるように第1の素材を第1の素材群の中から選択すると共に第2の素材を第2の素材群の中から選択することを行わない場合と比べて、プレス成形した場合における接合線の基準位置からのずれ量を小さくできる。
【0021】
従って、本発明によれば、成形後において接合線の基準位置からのずれ量を低減でき、成形品の接合線付近の見栄えを安定させることができる。
【0022】
この場合、前記接合線に対応する位置に段差部を有するプレス成形装置によって前記テーラードブランク材をプレス成形した場合に、前記第1の素材の前記特性及び前記第2の素材の前記特性に基づいて前記接合線の基準位置からのずれ量を予測し、前記ずれ量が小さくなるように、前記第1の素材を前記第1の素材群の中から選択すると共に前記第2の素材を前記第2の素材群の中から選択することが好ましい。
【0023】
この発明によれば、上記の効果と同様の効果がある。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、成形後において接合線の基準位置からのずれ量を低減でき、成形品の接合線付近の見栄えを安定させることができるテーラードブランク材のセット位置調整方法、製造方法及び素材選択方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の第1実施形態に係るプレス成形中のテーラードブランク材を示す断面図である。
【図2】テーラードブランク材の接合線の位置がプレス成形の前後で移動する様子を示す模式図である。
【図3】(a)〜(c)は、金型へのテーラードブランク材のセット位置を調整する様子を示す模式図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るテーラードブランク材の切断位置の比較を示す平面模式図である。
【図5】(a)〜(c)は、切断された薄板材と厚板材との組み合わせを示す説明図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係るテーラードブランク材の素材選択方法の概念を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔第1実施形態〕
以下に、本発明の第1実施形態のテーラードブランク材のセット位置調整方法について図1から図3を参照しながら説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るプレス成形中のテーラードブランク材を示す断面図である。図2は、テーラードブランク材の接合線の位置がプレス成形の前後で移動する様子を示す模式図である。図3は、金型へのテーラードブランク材のセット位置を調整する様子を示す模式図である。
【0027】
先ず、プレス成形の対象であるテーラードブランク材1について、図1〜図3に基づいて説明する。図1に示すように、テーラードブランク材1は、それぞれ特性の異なる第1の板材(素材)としての薄板材2と第2の板材(素材)としての厚板材3とを突き合わせ接合(溶接)し、その接合位置に接合線4が形成された板材である。薄板材2は、厚板材3よりも板厚が薄い。
本実施形態において、特性とは、板厚及び強度(降伏応力)を意味している。薄板材2及び厚板材3の特性は、これらの素材となる板材コイルに添付された鋼材検査証明書(ミルシート)により、既知である。
【0028】
接合線4は、薄板材2と厚板材3との接合位置に沿って溶接ビードとして形成され、所定幅を有している。テーラードブランク材1の接合線4の近傍には、テーラードブランク材1の厚み方向に、段差部1bが形成されている。
【0029】
第1実施形態は、テーラードブランク材1を、プレス成形装置5によってプレス成形する前に、プレス成形装置5におけるテーラードブランク材1のセット位置を調整する方法である。
【0030】
プレス成形装置5は、金型10と位置決め部材50とを備える。
金型10は、テーラードブランク材1をプレス成形するもので、上型11及び下型12を備える。上型11は、所定の成形面を有し、図示しない昇降機構によって昇降される。上型11は、テーラードブランク材1を挟んで下型12の上方に対向して配置されている。下型12も所定の成形面を有する。
下型12は、段差部12aを、段差部1bに対応する位置に有している。
【0031】
テーラードブランク材1のプレス成形中において、図1(b)に示すように、下型12の段差部12aとテーラードブランク材1の段差部1bとがずれると、下型12の段差部12aとテーラードブランク材1の段差部1bとの間において、テーラードブランク材1には、凹み1aが生じる。
【0032】
次に、テーラードブランク材1の成形前後による接合線4の移動量と板材の特性との関係について、図2並びに以下の式(1)及び(2)に基づいて説明する。
テーラードブランク材1をプレス形成すると、テーラードブランク材1は面方向に不均一に引き延ばされるため、接合線4は移動する。図2において、位置41は、成形前の接合線4の位置を模式的に示す。位置42(42a,42b,42c)は、成形後の接合線4の位置を模式的に示す。
【0033】
接合線4の移動量yは、下記式(1)で表すことができる。a及びbは、所定の係数である。εは絶対強度比であり、下記式(2)で表すことができる。
y=aε−b ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
ε=(YP2×t2)/(YP1×t1) ・・・・・・・・・・・・・・(2)
式(2)においては、YPは降伏応力であり、tは板厚である。これらの添え字1は、薄板材2に関するものであることを示し、添え字2は、厚板材3に関するものであることを示す。
【0034】
基準条件(板材の降伏応力、板厚、寸法などが所定の基準値の場合)において、成形後の接合線4の位置42は、基準位置42b又はその近傍に位置する。しかし、板材の降伏応力、板厚、寸法などの許容値には幅があるため、実際には、例えば、成形後の接合線4の位置42は、基準位置42bから成形前の接合線4の位置41の側にずれた第1位置42a、又は、基準位置42bよりも成形前の接合線4の位置41から離れた側にずれた第2位置42cに位置することもある。金型10の段差部12aの位置は、成形前の接合線4の位置41及び成形後の接合線4の基準位置42bに基づいて設定されている。成形後の接合線4の位置42が基準位置42bからずれる量(ずれ量)がばらつくと、テーラードブランク材1の段差部1bの位置もばらつく。そのため、成形後の接合線4の位置42が基準位置42bからずれる量(ずれ量)を安定させることが要望される。
【0035】
プレス成形装置5の位置決め部材50について説明する。
図3に示すように、位置決め部材50は、テーラードブランク材1に当接し、セット位置を調整する部材である。位置決め部材50は、例えば、垂直に延び、その下端部において、下型12に載置されたテーラードブランク材1の端面に当接する。位置決め部材50は、テーラードブランク材1を下型12に載置する前に、所定位置に配置しておく。テーラードブランク材1は、位置決め部材50に突き当てられて位置決めされる。前記所定位置は、下型12に対してテーラードブランク材1の位置を変更する(ずらす)大きさ及び方向に応じて、設定される。
【0036】
なお、位置決め部材50は、テーラードブランク材1を下型12に載置した後に、テーラードブランク材1を面方向に押して移動させる構成を採用できる。このような構成においても、下型12に対してテーラードブランク材1の位置を変更する(ずらす)ことができる。
【0037】
第1実施形態においては、テーラードブランク材1をプレス成形装置5によってプレス成形した場合における接合線4の基準位置42bからのずれ量を、薄板材2の特性及び厚板材3の特性に基づいて予測する。そして、ずれ量が小さくなるように、プレス成形装置5におけるテーラードブランク材1のセット位置を、位置決め部材50によって調整する。
【0038】
例えば、基準条件又はそれと同等の条件のテーラードブランク材1の場合には、すなわち、薄板材2の板厚、薄板材2の強度、厚板材3の板厚及び厚板材3の強度が基準値とほぼ同じ場合には、薄板材2及び厚板材3は、標準的な延び方をする。
基準位置42bは、基準条件のテーラードブランク材1の場合における、成形後の接合線4の位置である。また、テーラードブランク材1には、基準条件のテーラードブランク材1をプレス成形した場合に成形後の接合線4が基準位置42bに位置する基準セット位置Sbが設定されている。
テーラードブランク材1が基準条件又はそれと同等の条件の場合には、図3(a)に示すように、テーラードブランク材1は、基準セット位置Sbに配置されて、プレス成形される。これにより、成形後の接合線4を基準位置42b又はその近傍に位置させることができる。
【0039】
これに対して、例えば、薄板材2の板厚が基準値よりも薄く、及び/又は、薄板材2の強度が基準値よりも低い場合で、且つ、厚板材3の板厚が基準値よりも厚く、及び/又は、厚板材3の強度が基準値よりも高い場合には、薄板材2は、基準値の薄板材2に比較して、延び易く、また、厚板材3は、基準値の厚板材3に比較して、延び難い。
【0040】
その場合には、図3(b)に示すように、テーラードブランク材1のセット位置Scを薄板材2の側にずらす。薄板材2は、基準値の薄板材2に比較して、延びやすく、また、厚板材3は、基準値の厚板材3に比較して、延びにくいため、この状態でプレス成形を行うと、成形後の接合線4の位置は、厚板材3の側にずれる。このすれ量を考慮して、テーラードブランク材1のセット位置Saを薄板材2の側にずらし、その状態で、プレス成形を行う。これにより、成形後の接合線4の位置を基準位置42bに接近させることができる。つまり、接合線4の基準位置42bからのずれ量を小さくすることができる。
【0041】
また、例えば、薄板材2の板厚が基準値よりも厚く、及び/又は、薄板材2の強度が基準値よりも高い場合で、且つ、厚板材3の板厚が基準値よりも薄く、及び/又は、厚板材3の強度が基準値よりも低い場合には、薄板材2は、基準値の薄板材2に比較して、延び難く、また、厚板材3は、基準値の厚板材3に比較して、延び易い。
【0042】
その場合には、図3(c)に示すように、テーラードブランク材1のセット位置Saを厚板材3の側にずらす。薄板材2は、基準値の薄板材2に比較して、延び難く、また、厚板材3は、基準値の厚板材3に比較して、延び易いため、この状態でプレス成形を行うと、成形後の接合線4の位置は、薄板材2の側にずれる。このすれ量を考慮して、テーラードブランク材1のセット位置Scを厚板材3の側にずらし、その状態で、プレス成形を行う。これにより、成形後の接合線4の位置を基準位置42bに接近させることができる。つまり、接合線4の基準位置42bからのずれ量を小さくすることができる。
【0043】
セット位置を基準セット位置Sbからずらす量(調整量)は、例えば、前記式(1)及び(2)を用いて設定される。
【0044】
以上に説明した第1実施形態のテーラードブランク材のセット位置調整方法によれば、例えば、以下に示す効果が奏される。
第1実施形態においては、テーラードブランク材1をプレス成形装置5によってプレス成形した場合における接合線4の基準位置42bからのずれ量を、薄板材2の特性及び厚板材3の特性に基づいて予測する。そして、ずれ量が小さくなるように、プレス成形装置5におけるテーラードブランク材1のセット位置を位置決め部材50によって調整する。そのため、テーラードブランク材1のセット位置を調整しない場合と比べて、プレス成形した場合における接合線4の基準位置42bからのずれ量を小さくできる。
従って、第1実施形態によれば、成形後において接合線4の基準位置42bからのずれ量を低減でき、成形品の接合線4の付近の見栄えを安定させることができる。
【0045】
次に、他の実施形態について説明する。他の実施形態については、主として、第1実施形態と異なる点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。他の実施形態において特に説明しない点は、第1実施形態についての説明が適宜適用又は採用される。
【0046】
〔第2実施形態〕
以下に、本発明の第2実施形態のテーラードブランク材の製造方法について、図4及び図5を参照しながら説明する。図4は、本発明の第2実施形態に係るテーラードブランク材のカット位置の比較を示す平面模式図である。図5は、カットされた薄板材及び厚板材の組み合わせ要領を示す説明図である。
【0047】
第2実施形態は、接合線4に対応する位置に段差部12aを有するプレス成形装置によってテーラードブランク材1をプレス成形した場合における、接合線4の基準位置42bからのずれ量を、第1の板材(薄板材2)の特性及び第2の板材(厚板材3)の特性に基づいて予測する点については、第1実施形態と同様である。
【0048】
一方、第2実施形態は、第1実施形態と比べて、図4及び図5に示すように、接合線4の基準位置42bからのずれ量が小さくなるように、接合位置に対応する薄板材2の端部の切断位置21a,21b,21cと接合位置に対応する厚板材3の端部の切断位置31a,31b,31cとを調整し、その後、切断位置を調整された薄板材2と厚板材3とを接合位置において突き合わせ接合すること点について、主として異なる。
【0049】
例えば、基準条件又はそれと同等の条件のテーラードブランク材1の場合には、すなわち、薄板材2の板厚、薄板材2の強度、厚板材3の板厚及び厚板材3の強度が基準値とほぼ同じ場合には、薄板材2及び厚板材3は、標準的な延び方をする。
薄板材2の端部の切断位置21b及び厚板材3の端部の切断位置31bは、基準条件のテーラードブランク材1をプレス成形した場合に成形後の接合線4が基準位置42bに位置する基準切断位置である。
【0050】
テーラードブランク材1が基準条件又はそれと同等の条件の場合には、図4及び図5(a)に示すように、薄板材2の端部を基準切断位置21bで切断すると共に、厚板材3の端部を基準切断位置31bで切断する。このように切断された薄板材2及び厚板材3からテーラードブランク材1を製造する。このテーラードブランク材1をプレス成形すると、成形後の接合線4を基準位置42b又はその近傍に位置させることができる。
【0051】
これに対して、例えば、薄板材2の板厚が基準値よりも薄く、及び/又は、薄板材2の強度が基準値よりも低い場合で、且つ、厚板材3の板厚が基準値よりも厚く、及び/又は、厚板材3の強度が基準値よりも高い場合には、薄板材2は、基準値の薄板材2に比較して、延び易く、また、厚板材3は、基準値の厚板材3に比較して、延び難い。
【0052】
その場合には、図4及び図5(b)に示すように、薄板材2の端部の切断位置21a及び厚板材3の端部の切断位置31aを、同じ量だけ薄板材2の側にずらす。なお、突き合わせ接合されて形成されるテーラードブランク材1の長さは変わらない。
【0053】
薄板材2は、基準値の薄板材2に比較して、延びやすく、また、厚板材3は、基準値の厚板材3に比較して、延びにくいため、この状態でプレス成形を行うと、成形後の接合線4の位置は、厚板材3の側にずれる。このすれ量を考慮して、薄板材2の切断位置21a及び厚板材3の切断位置31aを薄板材2の側にずらし、その状態で、プレス成形を行う。これにより、成形後の接合線4の位置を基準位置42bに接近させることができる。つまり、接合線4の基準位置42bからのずれ量を小さくすることができる。
【0054】
また、薄板材2の板厚が基準値よりも厚く、及び/又は、薄板材2の強度が基準値よりも高い場合で、且つ、厚板材3の板厚が基準値よりも薄く、及び/又は、厚板材3の強度が基準値よりも低い場合には、薄板材2は、基準値の薄板材2に比較して、延び難く、また、厚板材3は、基準値の厚板材3に比較して、延び易い。
【0055】
その場合には、図4及び図5(c)に示すように、薄板材2の端部の切断位置21c及び厚板材3の端部の切断位置31cを、それぞれ薄板材2の端部の基準切断位置21b及び厚板材3の端部の基準切断位置31bに対して、同じ量だけ厚板材3の側にずらす。なお、突き合わせ接合されて形成されるテーラードブランク材1の長さは変わらない。
【0056】
薄板材2は、基準値の薄板材2に比較して、延び難く、また、厚板材3は、基準値の厚板材3に比較して、延び易いため、この状態でプレス成形を行うと、成形後の接合線4の位置は、薄板材2の側にずれる。このすれ量を考慮して、薄板材2の切断位置21c及び厚板材3の切断位置31cを厚板材3の側にずらし、その状態で、プレス成形を行う。これにより、成形後の接合線4の位置を基準位置42bに接近させることができる。つまり、接合線4の基準位置42bからのずれ量を小さくすることができる。
【0057】
薄板材2の切断位置及び厚板材3の切断位置をそれぞれ基準切断位置21b及び基準切断位置31bからずらす量(調整量)は、例えば、前記式(1)及び(2)を用いて設定される。
【0058】
以上に説明した第2実施形態のテーラードブランク材の製造方法によれば、例えば、以下に示す効果が奏される。
第2実施形態においては、接合線4の基準位置42bからのずれ量を、薄板材2の特性及び厚板材3の特性に基づいて予測し、ずれ量が小さくなるように、接合位置に対応する薄板材2の端部の切断位置21a,21b,21cと接合位置に対応する厚板材3の端部の切断位置31a,31b,31cとを調整する。そして、切断位置を調整された薄板材2と厚板材3とを接合位置において突き合わせ接合する。そのため、薄板材2の端部の切断位置21a,21b,21cと厚板材3の端部の切断位置31a,31b,31cとを調整しない場合と比べて、プレス成形した場合における接合線4の基準位置42bからのずれ量を小さくできる。
従って、第2実施形態によれば、成形後において接合線4の基準位置42bからのずれ量を低減でき、成形品の接合線4の付近の見栄えを安定させることができる。
【0059】
〔第3実施形態〕
以下に、本発明の第3実施形態のテーラードブランク材の素材選択方法について、図6を参照しながら説明する。図6は、本発明の第3実施形態に係るテーラードブランク材の素材選択方法の概念を示す模式図である。
【0060】
第3実施形態のテーラードブランク材の素材選択方法は、テーラードブランク材1の板状の素材を選択する方法である。
第3実施形態の素材選択方法においては、第1の素材群としての薄板材コイル群25と、第2の素材群としての厚板材コイル群35とを準備する。薄板材コイル群25は、薄板材2の素材として使用され且つ特性が既知の第1の素材としての薄板材コイル26が、複数得られるコイル群である。厚板材コイル群35は、厚板材3の素材として使用され且つ特性が既知の第2の素材としての厚板材コイル36が、複数得られるコイル群である。
薄板材コイル26及び厚板材コイル36の特性は、それに添付された鋼材検査証明書(ミルシート)により、既知である。
【0061】
第3実施形態の素材選択方法においては、接合線4に対応する位置に段差部12aを有するプレス成形装置5によってテーラードブランク材1をプレス成形した場合に、薄板材2の特性及び厚板材3の特性に基づいて接合線4の基準位置42bからのずれ量を予測し、ずれ量が小さくなるように(両特性の差が所定範囲になるように)、薄板材コイル26を薄板材コイル群25の中から選択すると共に、厚板材コイル36を厚板材コイル群35の中から選択する。
【0062】
例えば、式(1)及び(2)から明らかなように、厚板材3の降伏応力YP2と板厚t2との積を、薄板材2の降伏応力YP1と板厚t1との積で除した値、すなわち、絶対強度比εが、基準条件における絶対強度比ε0に近ければ、接合線4の基準位置42bからのずれ量が小さくなる。
【0063】
このずれ量を少なくするために、図6に示すように、ある薄板材コイル26を薄板材コイル群25の中から選択すると共に、ある厚板材コイル36を厚板材コイル群35の中から選択する場合に、選択した薄板材コイル26及び厚板材コイル36の組み合わせにおける絶対強度比εを算出する。算出した絶対強度比εが、所定の絶対強度比εの範囲に含まれる場合には、その組み合わせを選択する。また、複数組の薄板材コイル26及び厚板材コイル36の組み合わせ全体について、絶対強度比εが基準条件における絶対強度比ε0に極力近づくように、最適化すると更に好ましい。
【0064】
以上に説明した第3実施形態のテーラードブランク材の素材選択方法によれば、例えば、以下に示す効果が奏される。
第3実施形態においては、薄板材2の素材として使用され且つ特性が既知の薄板材コイル26が複数得られる薄板材コイル群25と、厚板材3の素材として使用され且つ特性が既知の厚板材コイル36が複数得られる厚板材コイル群35とを準備する。また、テーラードブランク材1をプレス成形した場合に、薄板材コイル26の特性及び厚板材コイル36の特性に基づいて接合線4の基準位置42bからのずれ量を予測する。そして、ずれ量が小さくなるように、薄板材コイル26を薄板材コイル群25の中から選択すると共に厚板材コイル36を厚板材コイル群35の中から選択する。そのため、ずれ量が小さくなるように薄板材コイル26を薄板材コイル群25の中から選択すると共に厚板材コイル36を厚板材コイル群35の中から選択することを行わない場合と比べて、プレス成形した場合における接合線4の基準位置42bからのずれ量を小さくできる。
従って、第3実施形態によれば、成形後において接合線4の基準位置42bからのずれ量を低減でき、成形品の接合線4の付近の見栄えを安定させることができる。
【0065】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等を行うことができる。
例えば、前記各実施形態においては、第1の板材及び第2の板材の特性として、降伏応力(強度)及び板厚を用いているが、他の特性を用いてもよい。
第1実施形態において、位置決め部材50の構成は制限されない。
接合線4の基準位置42bからのずれ量を予測する手段は、前記式(1)及び(2)に制限されない。
【符号の説明】
【0066】
1 テーラードブランク材
1a 凹み
1b 段差部
2 薄板材(第1の板材)
3 厚板材(第2の板材)
4 接合線
5 プレス成形装置
10 金型
11 上型
12 下型
12a 段差部
21a,21b,21c,31a,31b,31c 切断位置
25 薄板材コイル群(第1の素材群)
26 薄板材コイル(第1の素材)
35 厚板材コイル群(第2の素材群)
36 厚板材コイル(第2の素材)
42b 基準位置
50 位置決め部材
Sa,Sb,Sc セット位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ特性の異なる第1の板材と第2の板材とを突き合わせ接合し、その接合位置に接合線が形成されるテーラードブランク材をプレス成形装置によってプレス成形する前に、前記プレス成形装置における前記テーラードブランク材のセット位置を調整するテーラードブランク材のセット位置調整方法であって、
前記プレス成形装置は、前記テーラードブランク材に当接してセット位置を調整する位置決め部材を備え、
前記第1の板材の前記特性及び前記第2の板材の前記特性に基づいて、前記プレス成形装置における前記テーラードブランク材のセット位置を前記位置決め部材によって調整することを特徴とするテーラードブランク材のセット位置調整方法。
【請求項2】
前記テーラードブランク材を前記プレス成形装置によってプレス成形した場合における前記接合線の基準位置からのずれ量を、前記第1の板材の前記特性及び前記第2の板材の前記特性に基づいて予測し、
前記ずれ量が小さくなるように、前記プレス成形装置における前記テーラードブランク材のセット位置を前記位置決め部材によって調整することを特徴とする請求項1に記載のテーラードブランク材のセット位置調整方法。
【請求項3】
それぞれ特性の異なる第1の板材と第2の板材とが接合位置において突き合わせ接合され、その接合位置に接合線が形成されるテーラードブランク材の製造方法であって、
前記第1の板材の前記特性及び前記第2の板材の前記特性に基づいて、前記接合位置に対応する前記第1の板材の端部の切断位置と前記接合位置に対応する前記第2の板材の端部の切断位置とを調整し、
前記切断位置を調整された前記第1の板材と前記第2の板材とを前記接合位置において突き合わせ接合することを特徴とするテーラードブランク材の製造方法。
【請求項4】
前記接合線に対応する位置に段差部を有するプレス成形装置によって前記テーラードブランク材をプレス成形した場合における、前記接合線の基準位置からのずれ量を、前記第1の板材の前記特性及び前記第2の板材の前記特性に基づいて予測し、
前記ずれ量が小さくなるように、前記接合位置に対応する前記第1の板材の端部の切断位置と前記接合位置に対応する前記第2の板材の端部の切断位置とを調整することを特徴とする請求項3に記載のテーラードブランク材の製造方法。
【請求項5】
それぞれ特性の異なる第1の板材と第2の板材とを突き合わせ接合し、その接合位置に接合線が形成されるテーラードブランク材の板状の素材を選択するテーラードブランク材の素材選択方法であって、
前記第1の板材の前記素材として使用され且つ特性が既知の第1の素材が複数得られる第1の素材群と、前記第2の板材の前記素材として使用され且つ特性が既知の第2の素材が複数得られる第2の素材群とを準備し、
前記第1の素材の前記特性及び前記第2の素材の前記特性に基づいて、両特性の差が所定範囲になるように、前記第1の素材を前記第1の素材群の中から選択すると共に前記第2の素材を前記第2の素材群の中から選択することを特徴とするテーラードブランク材の素材選択方法。
【請求項6】
前記接合線に対応する位置に段差部を有するプレス成形装置によって前記テーラードブランク材をプレス成形した場合に、前記第1の素材の前記特性及び前記第2の素材の前記特性に基づいて前記接合線の基準位置からのずれ量を予測し、前記ずれ量が小さくなるように、前記第1の素材を前記第1の素材群の中から選択すると共に前記第2の素材を前記第2の素材群の中から選択することを特徴とする請求項5に記載のテーラードブランク材の素材選択方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−49078(P2013−49078A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188362(P2011−188362)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)