説明

ディジタル復調器

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はディジタル復調器に係わり、特に、π/4シフトDQPSK変調された信号を復調するものに用いて好適なものである。
【0002】
【従来の技術】周知の通り、ディジタル変調方式としては種々の方式が提案されているが(例えば特公昭59−16456号公報)、米国および日本において検討が進められているディジタルセルラにおいては、π/4シフトDQPSKが採用されることに決定している。π/4シフトDQPSKの場合は、通常のDQPSKと比較して占有帯域幅は同じであるが変調波の変動が小さい。したがって、π/4シフトDQPSKは非線形動作のパワーアンプに有利であるが、これを従来のDQPSKと同様に復調すると、誤り率が劣化する不都合が生じる。
【0003】図2は、従来のDQPSKの信号点の配置を示しており、復調時のキャリアはI軸またはQ軸に平行な位相を有するキャリアが用いられる。今、キャリア位相が軸OIに等しいとすると、P1 点は(+a/21/2 ,+a/21/2 )の検出レベルが得られる。したがって、この検出出力をI軸判定器およびQ軸判定器に加えれば、(I=+,Q=+)の判定出力が得られ、受信信号の復調が可能となる。
【0004】このような復調が行われることは、π/4シフトDQPSKの場合も同様である。次に、図3および図4に従ってその要点を説明する。図3は、π/4シフトDQPSK変調システムの概略構成を示すブロック図である。図3から明らかなように、π/4シフトDQPSK変調システムにおいては、直列で送られてきた原データ、すなわち、2ビットの信号Xk ,Yk が直列/並列変換回路30において並列信号に変換されるとともに、これらの信号が差動QPSK変調回路に与えられ、位相シフト信号Ik ,Qk が形成される。
【0005】このようなπ/4シフトDQPSK変調方式において、時刻t=kT(T:シンボル持続時間)における変調波Mk は、
【数1】


【0006】のようになり、複素形式で表すことができる。ここで、位相変化Δφは表1で示すように、2ビットの信号Xk ,Yk により決定される。


【0007】したがって、このπ/4シフトDQPSK波の信号点は、図4の信号点遷移説明図に示すように表される。すなわち、例えばt=(k−1)・Tの時点で点P1 に位置していたとすると、■ (Xk =1,Yk =1)ならば、→P6 に遷移■ (Xk =0,Yk =1) 〃 →P4 ■ (Xk =0,Yk =0) 〃 →P2 ■ (Xk =1,Yk =0) 〃 →P8 〃のようになる。
【0008】今、仮に(Xk =0,Yk =0)であったとすると、P2 点に移ることになる。そして、次に、t=(k+1)・Tの時点では、 ■ (Xk+1 =1,Yk+1 =1)ならば、P2 →P7 に遷移 ■ (Xk+1 =0,Yk+1 =1) 〃 P2 →P5 ■ (Xk+1 =0,Yk+1 =0) 〃 P2 →P3 ■ (Xk+1 =1,Yk+1 =0) 〃 P2 →P1 〃のように遷移する。以下、上記したのと同様に遷移する。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】ところで、DQPSK変調された信号を復調する場合、復調を行う基準軸として、例えば軸OP1 と同じ位相を有するキャリアを用いた場合には、復調出力として(+a,0)が出力されることになる。したがって、この出力をI軸判定器およびQ軸判定器に加えた場合、C/Nが低い受信状態においては判定器の出力が(I=+,Q=−)、または(I=+,Q=+)となる可能性が大きく、データの誤り率が大幅に劣化する不都合が生じる。
【0010】したがって、同期検波器に注入するキャリアの位相は、I軸またQ軸に平行な位相を有するキャリアが用いられる。しかしながら、π/4シフトDQPSK変調の場合は、シンボルの送出時間に同期させて基準位相軸を反時計回り方向に45°ずつ回転させているようなDQPSK方式と考えることができる。このため、このように変調方式で変調された信号を復調する場合には、検波基準軸の位相が固定されている従来の同期検波器を使用した場合、上述したような不都合が時間間隔2Tごとに発生するので、この方式においても復調器における誤り率が非常に劣化する問題があった。本発明は上述の問題点に鑑み、π/4シフトDQPSK変調された信号を復調する際の誤り率を向上させることを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明のディジタル復調器は、位相が互いに所定の角度ずつ異なっている検波用信号を複数種類発生させる検波信号発生回路と、上記検波信号発生回路によって発生された複数の検波用信号のうちの一つを選択し、これをシンボル検出用の信号として同期検波器に注入する検波用信号選択回路と、上記検波用信号選択回路の選択動作を制御し、上記検波用信号選択回路から出力される検波用信号の位相が、検波すべきシンボルが与えられるタイミングに同期して反時計回り方向に所定の角度ずつシフトされるように変化させる検波基準軸制御回路とを具備している。また、本発明の他の特徴とするところは、上記同期検波器により検出されるI軸方向の出力とQ軸方向の出力とをゲート回路に供給、上記ゲート回路から所定の論理出力が導出されたときに上記検波基準軸の反時計回り方向のシフトを開始するようにしている。
【0012】
【作用】検波用信号の位相を、検波すべきシンボルが与えられるタイミングに同期して反時計回り方向に所定の角度ずつシフトすることにより、シンボルの回転角度と検波用信号の基準軸の角度とが一致しないようにすることが可能となり、これにより、復調出力として零レベルが出力されないようにすることができ、レベル判定器における誤判定が減少する。
【0013】
【実施例】図1は、本発明の一実施例を示すディジタル復調器の要部構成図である。このディジタル復調器は、π/4シフトDQPSK変調されているディジタル信号を復調するために用いられる。図1から明らかなように、本実施例のディジタル復調器は前段の回路から供給されるIF信号を第1の検波器1および第2の検波器2に与えるとともに、逓倍器3に与える。第1の検波器1はI軸方向の入力情報を抽出するために設けられており、また、第2の検波器2はQ軸方向の入力情報を抽出するために設けられている。
【0014】第1の検波器1および第2の検波器2において、入力情報を抽出するための信号S1 はセレクタ4から与えられるようになされており、第1の検波器1にはこの検波用信号S1 が直接与えられる。また、第2の検波器2にはπ/2移相器5を通して与えられ、これにより、第1の検波器1と第2の検波器2とでは入力情報を抽出する信号の位相がπ/2だけ異ならされる。また、後述するように、本実施例においては、シンボルが送出されるタイミングに合わせて検波用信号S1 の位相を回転させている。
【0015】第1の検波器1から出力される検波出力信号SI がI軸レベル判定器6に与えられ、第2の検波器2から出力される検波出力SQ がQ軸レベル判定器7に与えられる。また、これらの第1および第2の検波器1,2の検波出力信号SI ,SQ が掛算器10に与えられて掛け算される。掛算器10は、入力されたIF信号のキャリアを生成するために設けられているものであり、この掛算器10の出力が第1のPLL回路11に与えられ、次いで、第1のPLL回路11から2分周回路12に与えられることにより、シンボルを検出する際のタイミング信号S2 が生成される。すなわち、これらの回路により、2T(T=シンボルの持続時間)のタイミングを検出し、次に、例えばシンボルのハイパターンのレベルを見て、それに合うようにディレーラインのディレー時間を調整することにより、シンボル検出信号S2 を生成するようにしている。
【0016】分周回路12から出力されるシンボル検出信号S2 は、3ビットカウンタ13に与えられる。この3ビットカウンタ13においては、次段に設けられているセレクタ4の選択動作を決定するデコード信号S3 が生成される。また、この3ビットカウンタ13のリセット端子Rには、アンド回路15から導出されるアンド出力信号S4 が与えられる。アンド回路15の入力端子には、I軸レベル判定器6およびQ軸レベル判定器7のレベル判定出力がそれぞれ与えられ、これらのレベル判定器の出力が両方ともに“H”レベルとなったときに3ビットカウンタ13がリセットされ、これによりデコード信号S3 の位相が初期状態に設定される。
【0017】一方、逓倍器3に与えられたIF信号は、ここで8逓倍された後に第2のPLL回路16に与えられ、入力IF信号に同期したクロック信号SCkが形成される。このクロック信号SCkは、シフト動作のタイミングを制御するクロック信号としてシフトレジスタ17のクロック入力端子ckに与えられるとともに、分周回路18によって8分周された後に、シフトレジスタ17の信号入力端子に与えられる。このシフトレジスタ17は、入力された信号をクロック信号SCkに同期して8段シフトするとともに、直列に入力された信号を並列に出力する。したがって、このシフトレジスタ17からは、位相がπ/4ずつ異なるキャリア信号SCAが8個出力される。
【0018】これらのキャリア信号SCAは上述したセレクタ4に与えられ、その内の一つの信号が上記したようにデコード信号S3 に基いて選択され、検波用信号S1 として第1の検波器1および第2の検波器2にそれぞれ与えられる。この検波用信号S1 は、上記したようにI軸を基準軸として同期検波を行う第1の検波器1には直接与えられるが、Q軸を基準軸として同期検波する第2の検波器2にはπ/2移相器5を通して与えられる。
【0019】これにより、第1の検波器1および第2の検波器2において行われる同期検波は、シンボルが与えられるタイミングに同期してシンボル検出の基準軸の位相が反時計回り方向に90°ずつ回転することになる。第1の検波器1および第2の検波器2から導出される検波出力信号SI ,SQ は、上記したようにアンド回路15入力与えられるとともに、並列−直列変換回路19に与えられる。このディジタル復調器が定常状態に入ったとき、すなわち、シンボルの送出タイミングと同期して90°ずつ位相シフトして同期復調を行う状態になったときに、検出したシンボルからシリアルのデータを復調するには通常のDQPSKと同じ手続きに従う。
【0020】すなわち、時刻t´=(k−1)と、t=kTにおける信号点の位相回転角とを観測し、表2に示したようなテーブルに従ってシリアルデータに変換すればよい。


このように、並列−直列変換回路19において直列信号に変換された信号は、復調器出力信号SO として外部回路に導出される。
【0021】
【発明の効果】本発明は上述したように、検波すべきシンボルが与えられるタイミングに同期して検波用信号の位相を反時計回り方向に所定の角度ずつシフトさせるようにすることにより、シンボルの回転角度と検波基準軸の角度とが一致しないようにしたので、零レベルが復調出力として出力されるのを防止することができる。これにより、位相が固定されているキャリアを注入する同期検波器と比較して、シリアルデータを再生する判定回路の構成を単純化することができ、装置の小型化および低価格化を達成することができる。また、復調出力が零にならないようにすることができるので、レベル判定器における誤判定を防止することができ、ビットエラーレート(BER)を大幅に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示すディジタル復調器の構成図である。
【図2】DQPSKにおける信号点の配置を説明する図である。
【図3】π/4シフトDQPSK変調方式を説明するブロック図である。
【図4】π/4シフトDQPSKにおける信号点の遷移状態を説明する状態遷移図である。
【符号の説明】
1 第1の検波器
2 第2の検波器
4 セレクタ
5 π/2移相器
6 I軸レベル判定器
7 Q軸レベル判定器
11 第1のPLL回路
12 分周回路
13 3ビットカウンタ
15 アンド回路
16 第2のPLL回路
17 シフトレジスタ
18 分周回路
19 並列/直列変換回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】 位相が互いに所定の角度ずつ異なっている検波用信号を複数種類発生させる検波信号発生回路と、上記検波信号発生回路によって発生された複数の検波用信号のうちの一つを選択し、これをシンボル検出用の信号として同期検波器に注入する検波用信号選択回路と、上記同期検波器により検出されるI軸レベル信号とQ軸レベル信号とが供給されるゲート回路を含み、このゲート回路から所定の論理出力が導出されたときに上記検波基準軸の反時計回り方向のシフトを開始するようにするとともに、上記検波用信号選択回路の選択動作を制御し、上記検波用信号選択回路から出力される検波用信号の位相が、検波すべきシンボルが与えられるタイミングに同期して反時計回り方向に所定の角度ずつシフトするように変化させる検波基準軸制御回路とを具備することを特徴とするディジタル復調器。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【特許番号】特許第3245879号(P3245879)
【登録日】平成13年11月2日(2001.11.2)
【発行日】平成14年1月15日(2002.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−81413
【出願日】平成3年3月20日(1991.3.20)
【公開番号】特開平4−292042
【公開日】平成4年10月16日(1992.10.16)
【審査請求日】平成10年3月12日(1998.3.12)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【参考文献】
【文献】特開 平3−135252(JP,A)
【文献】特開 平3−220950(JP,A)
【文献】特開 平4−220043(JP,A)