説明

ディップ式表面処理装置及びディップ式表面処理方法

【課題】乱流の発生をできるだけ抑制し、処理液をスムーズに流して異物の滞留を無くして系外へ排出することができるディップ式表面処理装置及びディップ式表面処理方法の提供。
【解決手段】車体に付着して電着槽1内に持ち込まれた異物を前記電着槽1外に吸引排出するディップ式表面処理装置であって、前記電着槽1の長さ方向の一端面をその全面に亘って上段の第1ホッパー10、下段の2つの第2ホッパー20として形成し、各ホッパー10,20の端面11,21に吸引口14,28を開設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、自動車等の車両の車体に表面処理を施す際に使用されるディップ式表面処理装置及びディップ式表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両にあっては、車体に表面処理を施している。表面処理を行うために用いられるディップ式表面処理装置では、電着液が収容された処理槽内に溶接工程を終えた車体を浸漬することで車体表面に防錆処理を施している。浸漬されることにより車体に付着した鉄粉などの異物によって処理槽内の電着液が徐々に汚れてしまうため、通常は電着液を常時循環させながら異物を除去して清浄に保っている。
【0003】
例えば、処理槽の端部にオーバーフロー槽を設け、処理槽とオーバーフロー槽との仕切壁を処理槽の吸引口であるホッパーに向かって傾斜した状態で形成し、処理槽内に形成される流れをホッパーとオーバーフロー槽とに分流するようにしている。したがって、処理液の反応によって生じる液表面の泡は、被処理物と共に持ち込まれた異物と一緒に表面を流れ仕切壁の堰を超えてオーバーフロー槽に至り、仕切壁の傾斜した部分により下向きに流れる中央流は、乱流を生ずること無く底流と共にホッパーに至り系外に排出される(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3299922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、仕切壁が処理槽の吸引口に向かって傾斜しているため、表面流の一部が下方に沈み込み反転流となり、反転流の前方、つまりオーバーフロー槽の処理槽の近傍に所謂「潮目」のような泡の帯が形成され、この泡の帯に被処理物に付着した異物が集積され徐々に成長して被処理物に再付着する不具合がある。
また、上述した反転流が処理槽の底部付近を流れる底流に衝接し乱流を発生させてしまいこの乱流がスムーズな処理液の流れを阻害して異物排出を阻害するという課題がある。
【0005】
そこで、この発明は、乱流の発生をできるだけ抑制し、処理液をスムーズに流し異物の滞留を無くして系外へ排出することができるディップ式表面処理装置及びディップ式表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載した発明は、被処理物(例えば、実施形態における車体W)に付着して処理槽(例えば、実施形態における電着槽1)内に持ち込まれた異物を前記処理槽外に吸引排出するディップ式表面処理装置であって、前記処理槽の長さ方向の一端面をその全面に亘って複数のホッパー(例えば、実施形態における第1ホッパー10、第2ホッパー20)として形成し、各ホッパーの端面(例えば、実施形態における端面11,21)に吸引口(例えば、実施形態における吸引口14,28)を開設したことを特徴とする。
請求項2に記載した発明は、前記一端面の全面に亘って形成される複数のホッパーが少なくとも前記一端面の上部と下部に振り分けて配置されていることを特徴とする。
請求項3に記載した発明は、前記処理槽の底面(例えば、実施形態における底面4)が、前記処理槽の長さ方向の他端から一端に亘って前傾するように形成されていることを特徴とする。
請求項4に記載した発明は 前記底面が2段に前傾するように形成され、一端側(例えば、実施形態における第2底面6)が他端側(例えば、実施形態における第1底面5)より傾斜角度が大きくなるように形成されていることを特徴とする。
請求項5に記載した発明は、前記一端面の下部側に形成されたホッパーの端面(例えば、実施形態における端面21)が、前記処理槽の他端の底面(例えば、実施形態における第1底面5)より下方に形成されていることを特徴とする。
請求項6に記載した方法発明は、被処理物に付着して処理槽内に持ち込まれた異物を前記処理槽外に吸引排出するディップ式表面処理方法であって、前記処理槽の長さ方向の一端面をその全面に亘って複数のホッパーとして形成し、各ホッパーの端面に開設された吸引口より前記処理槽外に前記異物を排出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1及び請求項6に記載した発明によれば、処理槽を流れる異物が処理槽内のどの部分を流れていても効果的にホッパーにより捕集して除去しながら、被処理物の表面処理を行うことができるため、異物が被処理物に付着するような不具合が生じ難くなる効果がある。
【0008】
請求項2に記載した発明によれば、上部のホッパーと下部のホッパーにより重量によって流れる深さ位置が異なる異物を吸引口から捕集して系外に排出することができる。
【0009】
請求項3に記載した発明によれば、他端から一端に傾斜した底面付近を流れる比較的重量の大きい異物を傾斜角度がもたらす異物自体の落下の力を使って効果的に流下させてホッパーに導くことができる効果がある。
【0010】
請求項4に記載した発明によれば、処理槽の下層の流れがそれよりも上にある流れと衝突して乱流を形成することが無くなるため鉄粉などの比重の重い異物が再び処理液内に飛散するのを確実に防止できる。
【0011】
請求項5に記載した発明によれば、底面の近傍を流下する異物を徐々に下側に案内してホッパーに導くことができるため、確実に底面の近傍を流下する異物を下部側のホッパーに導くことができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1はディップ式表面処理装置の側面図、図2はディップ式表面処理装置の断面説明図である。図1、図2において、ディップ式表面処理装置は自動車製造ラインの塗装工程の前処理工程で主として防錆のための表面処理を行うものである。
【0013】
電着槽1は鋼板材によって形成され電着液を収容するものであって、複数の脚部Kによって支持された収容部Sが電着塗装する車体Wの搬送路49に沿って配置されている。図1、図2において左側は車体Wを搬入する入槽側2で、右側が車体Wを搬出する出槽側3であり、電着槽1の収容部S内には図1、図2において右側から左側、つまり出槽側3から入槽側2に向かって電着液が流れる。
【0014】
電着槽1の上方にはハンガー50に載置された車体Wを搬送する搬送コンベア51が設けられている。この搬送コンベア51は電着槽1の入槽側2で車体Wを電着液に徐々に浸漬し全没状態となり、出槽側3で全没状態から徐々に車体Wが電着液より引き上げられるように構成されている。具体的には、搬送コンベア51は、入槽側2において車体Wの前部が斜め下側に向いた状態で電着液に浸漬されるように搬送路49が斜め下側に向かって設置され、その後車体Wを浸漬し水平状態にして出槽側3に搬送し、出槽側3においては車体Wの後部を斜め下側に向けた状態で車体Wの前部が先に電着液から出るように搬送路49が斜め上側に向かって設置されている。
【0015】
図2〜図7に示すように、電着槽1の入槽側2の入槽側槽壁2aには全面に渡って外側に向かう合計3つの第1、第2ホッパー10、20,20が形成され、略上半部には全面に渡って第1ホッパー10が開設されている。
第1ホッパー10は、電着槽1の長さ方向を軸にして上下、左右対称に第1ホッパー10の端面11に向かってその断面積が徐々に縮減する略四角錐の形状を成している(図5、図6も参照)。第1ホッパー10の端面11にはその途中に吸引ポンプ12及びフィルター30が介装された循環配管13が接続されている。尚、循環配管13の接続口が第1ホッパー10の吸引口14を構成している。
【0016】
また、電着槽1の入槽側槽壁2aの略下半分には、電着槽1の長さ方向を軸にして幅方向で対称に一対の第2ホッパー20,20が開設されている。この第2ホッパー20はその端面21に向かって断面積が徐々に縮減する略四角錐の形状を成している(図7も参照)。第2ホッパー20の端面21は電着槽1の幅方向においてその4等分位置より外方に偏奇した位置にあり(図3参照)、電着槽1の高さ方向においては、少なくとも電着槽1側の出槽側3の底面4である後述する第1底面5より下方に端面21が位置するように構成されている(図2参照)。
【0017】
ここで、図2に示すように、電着槽1の底面4は、出槽側3から入槽側2に亘って徐々に下方向に傾斜する第1底面5と、これに連なり、電着槽1の第2ホッパー20の底面22に面一に連なる第2底面6とで構成され、第2底面6は第1底面5に比較してより一層下方向に傾斜するように構成されている。ここで、出槽側3の底面4は第1底面5から急激に斜め上方に立ち上がる出槽側底面7となっている。
そして、第2ホッパー20の端面21には、各端面21間を結ぶ合流管24aが接続され、この合流管24aに、途中に吸引ポンプ23及びフィルター30が配設された循環配管24が接続されている。ここで、合流管24aの接続口が第2ホッパー20の吸引口28を構成している。尚、29は第2ホッパー20の上面を示す。
【0018】
図4に示すように、循環配管13と循環配管24は合流して循環配管25となり電着槽1内の枝管26に接続されている。枝管26は電着槽1の幅方向に配置された配管であって、電着槽1の長さ方向に等間隔で多数本配置され、電着槽1の左側に設けた連結管19によって連通接続され、電着槽1の出槽側3の連結管19と枝管26との結合部分に循環配管25が接続されている。枝管26には電着液の吐出ノズル27が等間隔に配設されており、吐出ノズル27から底面4に向かって斜め下方に電着液が噴出される。この吐出ノズル27からの吐出される電着液と吸引ポンプ12,23の吸引力により生ずる電着液流により電着槽1の出槽側3から入槽側2に向かって上から下に整流の上層流31、中層流32及び下層流33が形成される。ここで、枝管26は電着槽1の出槽側底面7、第1底面5、第2底面6の第2ホッパー20の入口付近までの範囲に配置されている。尚、出槽側底面7の吐出ノズル27は入槽側2に向けて電着液を吐出し、一部の吐出ノズル27は鉛直下方にも電着液を吐出している。
【0019】
上記実施形態によれば、搬送路49を搬送コンベア51に吊下されて搬送される車体Wを電着槽1の入槽側2から車体Wの前部を斜め下方向に向けて浸漬して電着による表面防錆処理を行う。
ここで、電着槽1内の上層流31では電着反応によって電着液表面に浮遊する泡、及びこの泡に付着した電着槽入槽時に車体Wに付着して持ち込まれた繊維ゴミが第1ホッパー10に向かって流下する。
また、電着槽1内の中層流32では、電着槽1に入槽する時に車体Wに付着して持ち込まれた繊維ゴミなど比重の比較的小さい異物が第1ホッパー10及び第2ホッパー20に向かって流下する。
【0020】
よって、第1ホッパー10では電着液表面に浮遊する泡及び繊維ゴミなど比重の比較的小さい異物を確実に捕集し、これらの異物は端面11に開設された循環配管13の吸引口14より吸引ポンプ12で系外に排出されフィルター30により除去される。
この時、第1ホッパー10は電着槽1の長さ方向軸線に対して上下、左右対称に構成されているため、上層流31及び中層流32が集合流となっても乱流を生ずることが無く、比較的軽い異物が下流側へ廻り込むことがない。
【0021】
一方、図8に示すように、下層流33では、電着槽1の長さ方向に等間隔に敷設された枝管26の等間隔に配設された吐出ノズル27から噴出される電着液流により、電着槽1に入槽する時に車体Wに付着して持ち込まれた鉄粉、溶接シーラーなど比較的比重の大きい異物が第2ホッパー20に向けて流下する。
よって、第2ホッパー20では鉄粉、溶接シーラーなど比較的比重の大きい異物を確実に捕集し、この異物は端面21に開設された吸引口28から合流管24a、循環配管24を介して吸引ポンプ23で系外に排出されフィルター30により除去される。
このように、第1ホッパー10と第2ホッパー20,20から別々の吸引ポンプ12,23により、異物が電着槽1内のどの部分を流れていても重量によって流れる深さ位置が異なる異物を捕集して除去しながら車体Wの表面処理を行うことができるため、乱流の発生を抑制し、電着液をスムーズに流して異物の滞留を無くし異物が車体Wに付着するような不具合が生じ難くなる。
【0022】
この時、前述したように電着槽1の出槽側3から入槽側2に亘る範囲で底面4が徐々に下方向に傾斜する第1底面5と、これに連なり、第1底面5に比較してより一層下方向に傾斜するように構成され、第2ホッパー20の底面22に連なる第2底面6とが設けられているため、第1底面5、第2底面6の傾斜角度がもたらす異物自体の落下の力を使って、比重が比較的大きい異物を効果的に流下させ第2ホッパー20に導くことができる。
とりわけ、第2底面6を第1底面5より急傾斜とすることにより、下層流33自体も第2底面6に倣ってその下方により一層傾斜して流下するため、異物を第2ホッパー20に効果的に排出することができる。
【0023】
一方、第2ホッパー20に下層流33及び中層流32の一部が流下する時、中層流32が第2ホッパー20の上面29で下方に流れを偏向されるが、前述したように下層流33は、第2ホッパー20の底面22に沿ってより一層下方に傾斜して流下しているため、偏向した中層流32と衝突し、乱流が発生しないため、鉄粉などの比重の重い異物が再び電着液内に飛散するのを確実に防止できる。
【0024】
特に、この実施形態では車体Wの搬送方向が上層流31、中層流32及び下層流33の流れ方向と逆方向に設定されているため、車体Wから見た電着液の流速が相対的に速まり、異物が車体Wから離れ易くなり車体Wの洗浄効果を高めることができる。
また、車体Wの入槽側2が電着液を系外に排出する電着液の下流側であるため、これから表面処理を行う最も汚れている車体Wを電着液の上流側から浸漬する場合に比較して、電着液の汚れを最小限に抑えることができる。
【0025】
尚、この発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、第2ホッパー20を2つ設けた場合で説明したが、第2ホッパーは一つでもよい。そして、車体Wの入槽側2を電着液の流れの上流側に、車体Wの出槽側3を電着液の流れの下流側に設定することもできる。また、1つの第1ホッパー10と2つの第2ホッパー20を設けた場合で説明したが、3個以上のホッパーを設けてもよい。更に、電着槽1の入槽側2から車体Wの後部を下方向に向けて浸漬して電着するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の実施形態のディップ式表面処理装置の側面図である。
【図2】図1の縦断面図である。
【図3】図2のA矢視図である。
【図4】図1の平面図である。
【図5】図2のB−B線に沿う断面図である。
【図6】図2のC−C線に沿う断面図である。
【図7】図2のD−D線に沿う断面図である。
【図8】図2の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0027】
1 電着槽(処理槽)
4 底面
5 第1底面
6 第2底面
11 端面
10 第1ホッパー
14 吸引口
20 第2ホッパー
21 端面
28 吸引口
W 車体(被処理物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物に付着して処理槽内に持ち込まれた異物を前記処理槽外に吸引排出するディップ式表面処理装置であって、前記処理槽の長さ方向の一端面をその全面に亘って複数のホッパーとして形成し、各ホッパーの端面に吸引口を開設したことを特徴とするディップ式表面処理装置。
【請求項2】
前記一端面の全面に亘って形成される複数のホッパーが少なくとも前記一端面の上部と下部に振り分けて配置されていることを特徴とする請求項1記載のディップ式表面処理装置。
【請求項3】
前記処理槽の底面が、前記処理槽の長さ方向の他端から一端に亘って前傾するように形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載のディップ式表面処理装置。
【請求項4】
前記底面が2段に前傾するように形成され、一端側が他端側より傾斜角度が大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のディップ式表面処理装置。
【請求項5】
前記一端面の下部側に形成されたホッパーの端面が、前記処理槽の他端の底面より下方に形成されていることを特徴とする請求項4に記載のディップ式表面処理装置。
【請求項6】
被処理物に付着して処理槽内に持ち込まれた異物を前記処理槽外に吸引排出するディップ式表面処理方法であって、前記処理槽の長さ方向の一端面をその全面に亘って複数のホッパーとして形成し、各ホッパーの端面に開設された吸引口より前記処理槽外に前記異物を排出することを特徴とするディップ式表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−126785(P2010−126785A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304382(P2008−304382)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)