説明

ディプロチンAを含有する採血管及びそれを用いる測定法

【課題】臨床試験において実用的な条件において、血中におけるGLP-1などのインクレチンホルモンやDPP-IV阻害剤の測定を正確に行うことができる方法及びそれに用いることのできる採血管を提供する。
【解決手段】採血前に予めディプロチンAを含有する採血管を用いて採取された血液を免疫学的方法により分析し、該血液中のインクレチンホルモンやDPP-IV阻害剤の存在及び/又は量を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクレチンホルモンの測定に用いることのできる採血管及びそれを用いるインクレチンホルモンの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジペプチジルペプチダーゼIV(以下「DPP-IV」と言うことがある)活性阻害をターゲットとする薬物、又は、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)を薬物とする医薬品(主に糖尿病薬)の開発においては、それぞれ薬効評価パラメーター及び薬物濃度測定のために血中活性型GLP-1濃度(GLP-1(active))、または総GLP-1濃度(GLP-1(total))を測定することが頻繁に行われている。
【0003】
DPP-IV阻害剤の作用機序とは、DPP-IV活性を阻害することにより、DPP-IVにより分解される性質を有するGLP-1の濃度を上昇させ、このGLP-1によりインスリンの分泌を促進させて、糖の分解を促進するものである。従って、GLP-1の濃度を測定することによりDPP-IV阻害剤の作用効果を判定することができる。
【0004】
この測定のための採血は、通常、注射針を血管に刺し、注射針を介して採血管中に血液を吸入することにより行われている。ところが、血中GLP-1は血中DPP-IVによって経時的に分解され、5分程度で半分にまで減少することがわかっている。
【0005】
この問題を解決するため、DPP-IVの阻害剤であるディプロチンA(Diprotin A)を採血直後に血液検体に添加する方法が広く知られ、多くの文献でこの手法により問題なく測定できることが報告されている(非特許文献1〜4)。一般的に酵素活性を阻害する物質としては、金属キレート剤やSH基を修飾する試薬(SH修飾試薬)が広く用いられているが、ディプロチンAはDPP-IV活性を特異的に阻害するペプチドであり、DPP-IV活性阻害剤として有効と考えられている。
【0006】
従来、ディプロチンAを阻害剤として用いる場合、適宜、ディプロチンA粉末を蒸留水に溶解し、採血後速やかに適量添加するのが通常であった。しかしながら、これらの方法では、調製したディプロチンA溶液を添加するまでの時間や液量のばらつきによって血中GLP-1濃度が影響をうけ、薬効評価パラメーターとしての信頼性が期待できないばかりか、得られた血中GLP-1濃度に対する液量変化による補正も無視できないことがわかってきた。さらに、特に臨床試験の現場においては複数項目の検査を目的とした頻回採血が一般的に行われており、このような状況で上記の作業は煩雑であり実用的でなかった。
【非特許文献1】CAROLYN F. DEACON, ANDERS F. JOHNSEN, and JENS J HOLST., Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism, 80(3), 952-957(1995)
【非特許文献2】Finbarr P.M. et al., Diabetes, 48, 758-765 (1999)
【非特許文献3】R Mentlein et al., Eur J Biochem., 214, 829-835 (1993)
【非特許文献4】Beatrice Sudre et al., Diabetes, 51, 1461-1469 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、臨床試験において実用的な条件において、血中におけるGLP-1などのインク
レチンホルモンの測定を正確に行うことができる方法及びそれに用いることのできる採血管を提供することを課題とする。また、DPP-IV阻害剤の正確な測定法の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、試料の採取に用いる採血管内に予めディプロチンAを含有させることにより上記課題が解決されることを見出した。さらに、ディプロチンAを阻害剤として用いる血中インクレチンホルモンの測定が不正確になる理由が、ディプロチンA溶液を添加するまでの時間や液量のばらつきだけではないことを見出した。すなわち、従来報告されているディプロチンAの添加量では、採血後の血液の血漿化処理等をまとめて行うために採血から処理までの時間がばらつくなどの、実用的な条件では、阻害効果が低い、又は持続が望めないことが判明した。そして、ある濃度以上に添加することにより、臨床試験の実用的な条件下でも十分に阻害効果を維持できることを見出した。これらの知見に基づき、本発明は完成された。
【0009】
本発明は、下記のものを提供する。
[1] 採血前に予めディプロチンAを含有することを特徴とする採血管。
[2] ディプロチンAが、血液試料添加後の最終濃度が400μmol/L以上となるように含有されていることを特徴とする項1に記載の採血管。
[3] ディプロチンAが凍結乾燥されていることを特徴とする項1又は2に記載の採血管。
[4] さらに、採血前に予め抗凝固剤を含有することを特徴とする項1〜3のいずれか1項に記載の採血管。
[5] 真空採血管であることを特徴とする項1〜4のいずれか1項に記載の採血管。
[6] 項1〜5のいずれか1項に記載の採血管を用いて採取された血液中のインクレチンホルモンの存在及び/又は量を測定することを特徴とするインクレチンホルモンの測定法。
[7] インクレチンホルモンがグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)であることを特徴とする項6に記載の測定法。
[8] 測定の方法が、酵素免疫測定法又は競合的放射免疫測定法である項7に記載の方法。
[9] 項1〜5のいずれか1項に記載の採血管を用いて採取された血液中のジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-IV)阻害剤の存在及び/又は量を測定することを特徴とするDPP-IV阻害剤の測定法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、DPP-IVにより分解代謝をうける物質を採取直後より効率良く長時間分解抑制することができ、正確な濃度測定が可能となる。本発明を用いることにより、採血する医療スタッフの技量の差に係わらず、瞬時にDPP-IVを阻害することが可能であり、従来法よりも正確な濃度測定が可能になる。臨床現場においても、煩雑な作業が不要になり、簡便に均一化された測定を実施できる。
【0011】
また、高濃度ディプロチンA存在下でのインクレチンホルモンやDPP-IV阻害剤の濃度測定への影響がない。特に真空採血管の場合、近年逆流による人体への毒性の問題がたびたび取り上げられており、本発明の採血管のように高い濃度で物質が添加されていても毒性がなく、血液への影響が全くないことは非常に重要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の採血管は、採血前に予めディプロチンAを含有することを特徴とする。ここで「含有する」とは、採血した試料と混合できる形態で含有することを意味する。
【0013】
ディプロチンAは、Ile-Pro-Ileの3アミノ酸からなるペプチドである。ディプロチンAは、合成により得ることができ、また、市販品として提供されている。
ディプロチンAは、採血管に添加された状態で、常温で保存でき、保管安定性にすぐれ、毒性がない(THE JOURNAL OF ANTIBIOTICS, VOL.XXXVII, NO.4)という優れた性質を有する。
【0014】
ディプロチンAの含有量は、DPP-IV活性が有意に阻害される量であればよく、目的とする測定の精度に応じて適宜設定できる。血液試料添加後の最終濃度は、好ましくは400μmol/L以上、さらに好ましくは1000μmol/L以上、特に好ましくは4000μmol/L以上である。例えば、治験、臨床検査等の高い精度での測定が求められる場合(薬剤の有効性を精密に比較することが必要となる場合等)には、好ましくは1000μmol/L以上、さらに好ましくは2000μmol/L以上、特に好ましくは4000μmol/L以上である。含有量の上限は特に限定されないが、経済性、溶解性等の観点から、通常には、血液試料添加後の最終濃度で200 mmol/L以下である。
【0015】
このような濃度で用いると、非常に高い抗DPP-IV活性を長時間発揮することができる。例えば、臨床検査や治験においてインクレチンホルモン等を測定する場合、病院等の臨床現場において採血が行われた後、30分〜1時間程度の間に遠心分離による血漿化、冷凍保存等の処理が行われる。その後、検査センター等に搬送され、測定が行われている。採血、採血後の処理、保管等の手法は、予め定められたプロトコールに従って行われるのが通常であるが、実際の臨床現場ではより長い時間を経て処理されていたり、従事する医療スタッフの技量によって誤差が生じたりする可能性がある。すなわち、検査センター等における測定が実施されるまでの間に、どの程度の時間を経てどのように処理が行われたかは、事実上コントロールが不可能であり、詳細を把握できないのが実情である。従来、高精度の測定においてはこのような誤差が測定値に大きく影響していた。しかし、本発明の採血管を用いて採血が行われれば、非常に高い抗DPP-IV活性を長時間発揮することができるので、採血から採血後の処理、保存までにかかる時間が長期化しても、問題なく高精度の測定を行うことができる。
【0016】
採血管は、公知のものを使用でき、広く用いられているガラス製やプラスチック製の採血管等をそのまま用いることができる。好ましくは真空採血管である。
【0017】
採血管は、本発明の効果に有意な悪影響を与えない範囲ならば他の成分や不純物等を含んでいてもよい。例えば、さらに、抗凝固剤としてEDTA(エチレンジアミン四酢酸)又はその塩、ヘパリン等を含んでもよい。好ましくはEDTA又はその塩であり、EDTAの塩としては、特に限定されないが、EDTAのアルカリ金属塩、例えばEDTAのカリウム塩やナトリウム塩を好ましい例として挙げることができる。
【0018】
ディプロチンAは、凍結乾燥されていることが好ましい。凍結乾燥状態としておくことにより、取扱いがさらに簡便になり、保存安定性も向上する。凍結乾燥は、公知の手法で行うことができるが、予め50〜100μl程度の量を分注すれば適量となるようにディプロチンA溶液を調製しておき、これを分注した後に凍結乾燥すればよい。
【0019】
このとき、抗凝固剤等をさらに添加する場合は、これらも予め加えて同時に凍結乾燥することが好ましい。また、凍結乾燥が良好に行われ、乾燥後の再溶解が速やかに達成されるために、適当な賦形剤等を添加してもよい。賦形剤としては、公知の物質から適宜選択できるが、例えば、ゼラチン等が用いられる。
【0020】
また、通常は最後に滅菌操作を行う。滅菌操作も、公知の手法を適用できるが、好まし
くはγ線滅菌である。
【0021】
この採血管に含まれるディプロチンAは常温で長期安定であり、保存条件に特別な配慮は必要ない。また、凍結乾燥した場合には、溶液を配合した真空採血管などに比べて利用者にとっては扱いやすいものとなる。
【0022】
本発明の採血管は、血中DPP-IVにより分解される可能性のある基質の測定に好適である。例えば、インクレチンホルモンの測定に好ましく用いられ、インクレチンホルモンとしては、例えば、GLP-1、GIP(Gastric Inhibitory Peptide)等が挙げられる。GLP-1の測定に用いられるのが特に好ましい。GLP-1の測定が正確に行われることは、DPP-IV阻害剤(糖尿病薬等)やGLP-1製剤の開発等において非常に有用である。
【0023】
また、本発明の採血管は、DPP-IV阻害剤の測定にも好適に用いられる。DPP-IV阻害剤の中には、それ自身が血中DPP-IVにより経時的に分解されながら阻害活性を発揮する性質のものがあり、このような性質を有する薬剤については、投与された薬剤の血中濃度を正確に測定することが困難な場合がある。このような場合には、本発明の採血管を用いることにより、より正確な濃度測定が可能である。すなわち、本発明の採血管を用いれば、薬剤の性質にかかわらず、安定的に測定を行うことができる。なお、ここでいう測定対象となる「DPP-IV阻害剤」には、通常、ディプロチンAは含まないが、測定対象となるディプロチンAの量が比較的大きく、採血管に予め含有される量を測定値から差し引くことによって有意な測定が可能な場合には、ディプロチンAの測定も可能である。
【0024】
測定試料採取のため、本採血管を用いてヒト血漿を採取する。採取方法は、通常の採血管と同様である。真空採血管であれば、それに対応するホルダーを用いて、通常の真空採血管と同じ要領で採血をする。採取後の採血管を数回転倒混和し、内容物を混合する。次いで、遠心分離により血漿を採取する。採取後の採血管は、遠心分離まで氷中におくなど冷蔵状態を保つことが好ましい。また、遠心分離後の血漿についても冷蔵状態を保つことが好ましく、直ちに測定しない場合には、凍結状態で保存されることが好ましい。
【0025】
上記した本発明の採血管に血液検体を採取して、予め含有された成分と混合すると、DPP-IV阻害効果が速やかに発揮され、DPP-IVによるGLP-1等の分解が抑制されるので、正確な測定値が得られる。
【0026】
また、本発明により、本発明の採血管を用いるインクレチンホルモンの測定法も提供される。本発明の測定法は、本発明の採血管を用いて採取された血液を用いる他は、採取された血液中のインクレチンホルモンの存在及び/又は量を測定する、通常のインクレチンホルモンの測定法と同様でよい。測定方法としては、例えば、免疫学的方法、機器分析法等が挙げられ、好ましくは免疫学的方法である。インクレチンホルモンについては上記したとおりである。
【0027】
GLP-1濃度の測定としては、一般に「GLP-1(active)」と言われる活性型のみを対象とした測定、「GLP-1(total)」と言われる総量を対象とした測定等が行われる。それぞれのGLP-1濃度の測定方法自体は何ら限定されるものではなく、周知の免疫分析・機器分析等により行うことができるが、好ましくは、免疫学的方法であって、例えば、酵素免疫測定法や競合RIA法などが好ましく用いられる。酵素免疫測定法としては、例えば、吸光、蛍光、化学発光等を利用する方法が用いられ、中でも化学発光法が特に好ましく用いられる。市販のEIA、ELISAまたはRIAキットを用いて測定することも可能である。
【0028】
また、本発明により、本発明の採血管を用いるDPP-IV阻害剤の測定法も提供される。DPP-IV阻害剤は、前記のとおりそれ自身がDPP-IVにより分解されながら阻害活性を発揮する
性質を有する可能性があるので、DPP-IV阻害剤の正確な血中濃度測定等にも本発明の採血管は好ましく用いられる。本発明のDPP-IV阻害剤の測定法は、本発明の採血管を用いて採取された血液を用いる他は、採取された血液中のDPP-IV阻害剤の存在及び/又は量を測定する、通常のDPP-IV阻害剤の測定法と同様でよい。分析方法としては、免疫学的方法、機器分析法等が挙げられ、機器分析法の場合、好ましくは質量分析法である。質量分析法としては、公知の手法を適宜選択して行うことができる。
【実施例】
【0029】
<参考例1> DPP-IV活性測定
1.試薬調製
下記の試薬を調製した。AMCは、7-アミノ-4-メチルクマリンを意味する。
【0030】
1) アッセイバッファー(25 mmol/L HEPES, 140 mmol/L NaCl, 1 mg/mL BSA)
HEPES 2.98 g、NaCl 4.09 g及びBSA 0.5 gを精製水400 mLに溶解し、5 mol/L NaOHを用いてpHを7.8に合わせる。精製水を加え全量を500 mLとした後、フィルター(ポアサイズ0.22μm)により濾過する。冷蔵(管理温度範囲:4±3℃)にて保存し、使用期限は調製後3箇月とする。
【0031】
2) 10 mmol/L 基質溶液
H-Gly-Pro-AMC・HBr (Bachem製) 41 mg をメスフラスコに秤量し、DMSOを加えて溶解し正確に10 mLとする。遮光下、冷凍(管理温度範囲:-20±5℃)にて保存し、使用期限は調製後3箇月とする。
【0032】
3) 100μmol/L基質溶液
用時、10 mmol/L基質溶液100μLをアッセイバッファー9900μLに加えて混和する。
【0033】
4) ディプロチンA溶液
用時、クリーンベンチ内でディプロチンA (分子量 341.5)を蒸留水に加えて溶解する。フィルター (ポアサイズ0.22 μm) により濾過する。
【0034】
5) 標準試料溶液(ストック溶液)
AMC 43.8 mg を量り取り、DMSOを加えて溶解し正確に10 mLとする(S1:25.0 mmol/L AMC)。ポリプロピレン製チューブに分注して遮光下、冷凍(管理温度範囲:-20±5℃)にて保存する。
【0035】
6) 検量線用標準試料溶液の調製
用時、ストック溶液(S1:25.0 mmol/L AMC)をアッセイバッファーで、50.0、25.0、10.0、5.00、2.50、1.00、0.50、0.25、0.10μmol/Lに希釈する。BL(0μmol/L)としてアッセイバッファーを用いる。使用時まで遮光し、希釈液及びBLを検量線作成に使用する。
【0036】
2.測定手順
下記の手順でDPP-IVの活性を測定した。なお、コントロールは、血漿の個体毎及び測定時のプレート毎に測定した。
【0037】
(1) 血漿試料(試料用及びコントロール用)をデュプリケートにてマイクロプレートのウェルにそれぞれ20μLずつ加える。
(2) 暗室内にて検量線用標準試料溶液をデュプリケートにて検量線用のウェルに100μLずつ加える。
(3) 血漿試料(コントロール用)に25%酢酸100μLを加えて混和する。
(4) 血漿試料(試料用及びコントロール用)を分注したウェルそれぞれに100μmol/L基質
溶液80μLを添加し、室温で10分間攪拌しながら反応させる。
(5) 血漿試料(コントロール用)を除く全てのウェルに25%酢酸100μLを加える。
(6) マルチファンクショナルリーダー(付属ソフト:XFluor4、和光純薬工業株式会社)により蛍光強度(波長:Excitation 380 nm、Emission 460 nm)を測定する。
【0038】
測定値からの活性の計算方法は以下の通りであった。
【0039】
1) 蛍光強度差の算出:
<検量線用標準試料溶液>
蛍光強度差=(各蛍光強度)−(BLの蛍光強度の平均値)
<血漿試料>
蛍光強度差=(sample用の各蛍光強度)−(control用の蛍光強度の平均値)
【0040】
2) 回帰式 : Log-Log式
log10(y) = A + [ B × log10(x)]
x: AMC濃度(最終濃度)、y: 蛍光強度差、A: y切片、B: 傾き
3) DPP-IV活性の算出
【0041】
【数1】

【0042】
3.測定例
異なる供給元から入手したディプロチンAを用いて、血漿試料にディプロチンAを表1に示す最終濃度で添加した後直ちに、蛍光強度の測定を行った。下記式より算出した阻害率を表1に示す。
【0043】
阻害率(%)=[1−(試料の蛍光強度/陰性コントロールの蛍光強度(平均値))]×100
【0044】
【表1】

【0045】
この結果から、明らかなように上記の測定系は極めて精度のよい方法であることが分かる。
【0046】
<実施例1> 採血管の作製
株式会社ニプロに委託して、採血量5ml及び2mlの抗凝固剤(EDTA-2Na: 最終濃度6mmol/L)入り真空採血管に、表2に示す条件でディプロチンAを含む真空採血管を作製した。
【0047】
【表2】

【0048】
<実施例2> 採血管及び採取した試料の保存安定性
実施例1で作成した採血管A〜Dを室温又は冷蔵(4±3℃)で、0、3、6、9、12、15及び18箇月保存した。なお、採血管A及びBについては、保存期間中の水分蒸散を防ぐため、ポリ袋に入れて密封して保存した。
【0049】
保存した採血管A〜Dを用い血漿試料の調製を行った。すなわち、通常の真空採血管と同様に採血後、採血管を数回転倒混和して内容物を混合した。次いで、遠心分離(4℃、2000×g、10分間)を行い、上清を採取して血漿試料とした。陽性コントロールは
、ディプロチンA溶液を用時調製し、血液に添加した。
【0050】
調製直後の血漿試料及び室温で24時間保存した血漿試料を用いて、上記参考例1の測定法によりDPP-IV活性を測定した。
代表的な結果として、6箇月及び18箇月保存の結果を表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
この結果から分かるように、採血量が2mLの場合と5mLの場合、血漿調製直後と2
4時間後の場合、ディプロチンAを用時調製した場合(陽性コントロール)と採血管として6箇月及び18箇月保管しておいた場合で、阻害率に差はなかった。
【0053】
6箇月及び18箇月の他のいずれの保存期間でも表3に示した結果とほとんど差のない結果が得られた。
【0054】
<実施例3> ディプロチンAの血液成分に対する影響
採血管Dにて3名より採血し、採血直後、室温保存3時間及び24時間後に自動血球計数装置にて、下記の検査項目について血液検査を行った。コントロールとしては、コントロール採血管2を用いた。
【0055】
[検査項目]赤血球、白血球、血小板、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値、平均血小板体積、プレートレットクリット値、血小板サイズ分布幅、リンパ球数、リンパ球数比、単球数、単球比、顆粒球数、顆粒球比、WBCヒストグラム、RBCヒストグラム、PLTヒストグラム
【0056】
この結果、これらの検査項目のいずれにおいても、測定誤差の範囲内の相違しか認められなかった。ディプロチンAの添加により試料中の血液成分に悪影響がないことが確認された。
【0057】
<実施例4> ディプロチンAによるリンパ球幼若化試験(LST)
薬剤による悪影響の指標の一つである、リンパ球幼若化試験を行った。この試験は、薬剤アレルギー、特に薬剤アレルギー性肝障害の起因物質の検索に用いられるものである。体内において既に薬剤により感作されているリンパ球と、感作したと思われる薬剤(起因薬剤)とが共に培養された場合、3Hチミジンの取込量の増加として検出される。試験の手順を図1に示す。陽性率は、下記式により求められる。
【0058】
陽性率=(薬剤添加3Hチミジン取込(cpm))/(薬剤無添加3Hチミジン取込(cpm))×100
【0059】
6名の治験者から採取した末梢血液を用いたが、いずれの治験者でも、最終濃度16 mM〜0.0625 mMの希釈系列のディプロチンAでは、擬陽性(180〜199%)及び陽性(200%以上)以上の陽性率は認められなかった。
【0060】
<実施例5> ディプロチンAの阻害効果の経時変化の検討
複数の供与者から提供された血漿を合わせたプール血漿をモデル試料として用いて、種々の濃度におけるディプロチンA阻害効果の経時変化の検討を行った。DPP-IV活性の測定は、上記参考例1の方法を用いた。採血量2mlと5mlの採血管を用いた場合を想定して同様の測定を行った。
試料調製方法及び結果を表4(2ml)及び表5(5ml)に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
上記の結果から、阻害効果は、100μmol/lでは、24時間が経過するとほとんど期待できなくなることが判明した。また、1000μmol/lでは、24時間であればある程度の効果は得られるが、48時間では効果が期待できない結果となり、2000〜3000μmol/lでは90%以上の阻害率は得られることが判明した。治験のような高精度が求められる検査で要求されるような98%以上の阻害率を48時間維持させるには4000μmol/lの濃度が必要であることが判明した。
【0064】
なお、採血管の容量による差は見られず、どのような容量の採血管を用いても同等に効果が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】リンパ球幼若化試験の手順を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
採血前に予めディプロチンAを含有することを特徴とする採血管。
【請求項2】
ディプロチンAが、血液試料添加後の最終濃度が400μmol/L以上となるように含有されていることを特徴とする請求項1に記載の採血管。
【請求項3】
ディプロチンAが凍結乾燥されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の採血管。
【請求項4】
さらに、採血前に予め抗凝固剤を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の採血管。
【請求項5】
真空採血管であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の採血管。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の採血管を用いて採取された血液中のインクレチンホルモンの存在及び/又は量を測定することを特徴とするインクレチンホルモンの測定法。
【請求項7】
インクレチンホルモンがグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)であることを特徴とする請求項6に記載の測定法。
【請求項8】
測定の方法が、酵素免疫測定法又は競合的放射免疫測定法である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の採血管を用いて採取された血液中のジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-IV)阻害剤の存在及び/又は量を測定することを特徴とするDPP-IV阻害剤の測定法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−104870(P2008−104870A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249148(P2007−249148)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(591122956)三菱化学メディエンス株式会社 (45)
【Fターム(参考)】