説明

ディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルター

【課題】フィルターセルにクラックが発生難く、長寿命のディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターを提供する。
【解決手段】ディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターであって、当該DPFの流入側フィルターセル壁12の通過係数Kが、当該DPFの入口側4から出口側5に向かって減少しているものであることを特徴とするディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気ガス中のカーボン等の粒子状物質(以下、「PM」と記載する場合がある。)を捕集し除去するためのディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルター(以下、「DPF」と略記載する場合がある。)に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気ガスは、大気汚染の大きな原因の一つであり、排気ガスに含まれる有害成分を除去する技術は極めて重要である。
なかでも、大都市で問題となっている大気汚染物質としてPMがある。そしてディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンと比べてPMを多く排出する。
【0003】
そこで、ディーゼルエンジン車においては、エンジン燃焼室や燃料噴射系の改善を行ったりして、PMの排出を抑える努力が行われているものの、抜本的な決め手がない。そこで、排気経路にDPFを設置し、ディーゼルエンジンで生成するPMを当該フィルターによって後処理的に捕集し、これを燃焼して除去する技術が最も実用的であると考えられ、検討が続けられている。
【0004】
上記DPFの代表的な例として、ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターがある。ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターは、複数のフィルターセルの集合体であり、隣接するフィルターセルの入口側と出口側とを交互に目封じしたもので、排出ガスは当該フィルターセル間を分離する上下左右のいずれかのろ過壁を通過して出口へと導かれる構造となっている。
【0005】
例えば、特許文献1はDPFのフィルターユニットの前方に金属円板を設けることにより、フィルターユニットの最外周の環状の排気ガス通路からフィルター外周へ透過する排気ガス流速のバラツキを平準化し、パティキュレートの捕集効率の向上を図ることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−196346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、DPFには、PM燃焼後に当該DPFのフィルターユニットを構成するフィルターセルにクラックが発生し、当該DPFの寿命が短縮するという課題がある。
本発明は、上述の状況の下で成されたものであり、その目的は、当該課題が解決された長寿命のDPFを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上述の課題を解決するため研究を行った。
そして、DPF寿命を短縮させるフィルターセルのクラック発生の原因が、フィルターセル内に灰分が堆積する為であること。さらに、当該灰分が、フィルターセル内に不均一に堆積することが原因であるという画期的な知見を得た。具体的には、主に、当該フィルターセル内の入口側から見て奥部にあたる出口側に、灰分が堆積していたのである。
【0009】
つまり、排ガス中のPMは、主にフィルターセル内の出口側に捕集されていたのである。そして当該捕集されたPMは、燃焼処理で排出されるものの、当該燃焼処理時にエンジン潤滑油中に含まれる金属分が灰分となり、フィルターセル内の出口側内表面の細孔に詰まる状態で残留することになる。当該灰分は過熱されやすい為、DPFが再生燃焼を繰り返すと当該灰分が過熱することになる。ここで、フィルターセル内において灰分が不均一に堆積していることから、熱のかかり方も不均一なものとなり、フィルターセルが不均一な膨張・収縮を繰り返す為、フィルターセルにクラックが発生していたのである。
【0010】
本発明者等は、当該知見からフィルターセル内部における灰分の付着の不均一状態を解消することができれば、フィルターセルのクラック発生を抑制出来、DPFを長寿命化出来ることに想到した。
ここで本発明者等は、フィルターセル内部において灰分の付着の不均一状態を解消させることについて研究を続けた。そして、フィルターセル内部において灰分の付着の不均一状態を解消させる為には、その前段階として、フィルターセル内部におけるPMの付着の不均一状態を解消させることが肝要であること。フィルターセル内部におけるPMの付着の不均一状態を解消させる為には、フィルターセルの入口側から出口側に向かって、排気ガスの通過速度を均一化させることが肝要であることに想到した。
【0011】
そして、当該排気ガスがフィルターセルを通過する速度を均一化させる為に、フィルター壁の厚みδを入口側から出口側に向かって厚くする手段、通過係数Kを入口側から出口側に向かって下げる手段のいずれか、または、両手段を併用することで、フィルターセル内部における灰分の付着の不均一状態を解消させることが可能となり、この結果、DPFの寿命も延びることを知見し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
ディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターであって、当該フィルターにおいて、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側のフィルターセルを流入側フィルターセルとし、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側を入口側、流出する側を出口側とするとき、
当該流入側フィルターセル壁の通過係数Kが、当該フィルターの入口側から出口側に向かって減少しているものであることを特徴とするディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターである。
【0013】
第2の発明は、
ディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターであって、当該フィルターにおいて、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側のフィルターセルを流入側フィルターセルとし、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側を入口側、流出する側を出口側とするとき、
当該流入側フィルターセル壁を構成する素材の密度および/または充填率が、入口側から出口側に向かって増加していることを特徴とするディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターである。
【0014】
第3の発明は、
ディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターであって、当該フィルターにおいて、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側のフィルターセルを流入側フィルターセルとし、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側を入口側、流出する側を出口側とするとき、
当該流入側フィルターセル壁の壁厚が、入口側から出口側に向かって増加していることを特徴とするディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルタ
ーである。
【0015】
第4の発明は、
ディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターであって、当該フィルターにおいて、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側のフィルターセルを流入側フィルターセルとし、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側を入口側、流出する側を出口側とするとき、
当該流入側フィルターセル壁に、当該フィルターセル壁の通過係数Kを減少させるコーティングが施され、当該コーティングの厚みが入口側から出口側に向かって増加していることを特徴とするディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターである。
【0016】
第5の発明は、
ディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターであって、当該フィルターにおいて、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側のフィルターセルを流入側フィルターセルとし、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側を入口側、流出する側を出口側とするとき、
当該流入側フィルターセル壁に、当該フィルターセル壁の通過係数Kを減少させるコーティングが施され、当該コーティングの材質が入口側から出口側に向かって、通過係数Kをより減少させるものがコーティングされていることを特徴とするディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターである。
【0017】
第6の発明は、
ディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターであって、当該フィルターにおいて、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側のフィルターセルを流入側フィルターセルとし、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側を入口側、流出する側を出口側とするとき、
当該流入側フィルターセル壁を構成する素材の密度および/または充填率が、入口側から出口側に向かって増加している構成、
当該流入側フィルターセル壁の壁厚が、入口側から出口側に向かって増加している構成、
当該流入側フィルターセル壁に、当該フィルターセル壁の通過係数Kを減少させるコーティングが施され、当該コーティングの厚みが入口側から出口側に向かって増加している構成、
当該流入側フィルターセル壁に、当該フィルターセル壁の通過係数Kを減少させるコーティングが施され、当該コーティングの材質が入口側から出口側に向かって、通過係数Kをより減少させるものがコーティングされている構成、
のいずれかの構成から選択される2つ以上の構成を備えることを特徴とするディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターにおいては、排気ガス中のPMがフィルターセルの内側に均一に捕獲される為、燃焼処理後にフィルターセルの内側に残留する灰分の不均一を解消し、燃焼処理の際の膨張・収縮の不均一も解消した。この結果、当該ディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターの寿命を延ばすことが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】DPFに用いられるフィルターユニットの模式的な外観である。
【図2】図1に示したフィルターユニットのI−I断面図の模式的な拡大図である。
【図3】図2に示したフィルターセルの単体セルの模式的な断面図である。
【図4】フィルターセルの所定位置における排気ガス流速のグラフである。
【図5】フィルターセルの所定位置における排気ガス圧力のグラフである。
【図6】フィルターセルの所定位置におけるKの値のグラフである。
【図7】本発明に係るフィルターセルの実施形態例である。
【図8】本発明に係るフィルターセルの異なる実施形態例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明について図面を参照しながら説明する。
図1は、DPFに用いられるフィルターユニット1の模式的な外観である。図1において向かって左側が排ガスの入口側4であり、右側が出口側5である。フィルターユニット1集合体の入口側には目板2が設けられており、当該入口側の目板2には多数の穿孔3が設けられている。一方、フィルターユニット1集合体の出口側には目板6が設けられており、当該出口側の目板6にも多数の穿孔7が設けられている。
【0021】
図2は、図1に示したフィルターユニット1におけるI−I断面図の模式的な拡大図である。フィルターユニット1は、流入してくる排気ガス16が流入する多数のフィルターセル11の集合体である。フィルターユニット1集合体の入口側4には目板2が設けられ、当該入口側の目板2には、排気ガス流入側のフィルターセル11の位置に合わせて穿孔3が穿たれている。一方、フィルターセル11集合体の出口側には目板6がある。当該出口側の目板6は目封じ14となって、排気ガス流入側の各フィルターセル11を盲管状態とする。さらにフィルターユニット1集合体の入口側4には、電気ヒーター15が設けられ所定時間の間隔で通電される。
【0022】
一方、複数の排気ガス流入側のフィルターセル11が周囲を囲むことで、排気ガス流出側のフィルターセル18が形成される。当該排気ガス流出側のフィルターセル18は、前記排気ガス流入側のフィルターセル11とは逆に入口側4が目板2によって目封じ17されて盲管状態となるが、出口側は目板6に設けられた穿孔7によって開放されている。
【0023】
入口側4から流入してくる排気ガス16は、入口側の穿孔3を介してフィルターセル11内に流入する。ところがフィルターセル11は盲管状態なので、流入した排気ガス16は、ガス透過性を有するフィルターセル壁を透過して排気ガス流出側のフィルターセル18へ流入する。フィルターセル18へ流入した排気ガス19は、出口側の穿孔7を介して出口側5へ向かい流出する。
この排気ガス16が、ガス透過性を有するフィルターセル壁を透過する際、PMは当該フィルターセル壁を透過することが出来ず、排気ガス流入側のフィルターセル11内面のフィルターセル壁に沈着する。
【0024】
尚、本実施形態において、説明の便宜のため排気ガス流入側のフィルターセル11、排気ガス流出側のフィルターセル18とも直方体形状としているが、これに限られる訳ではなく、多角形柱状、円柱形状であっても良い。
【0025】
図3は、図2に示した排気ガス流入側のフィルターセル11の単体セル11、および排気ガス流出側のフィルターセル18の単体セル18の模式的な断面図である。
以下、まず図3を参照しながら、排気ガス流入側のフィルターセルの単体セル11によるPMの捕集と加熱処理、および問題点について説明する。
【0026】
上述したように、入口側の目板2に設けられた穿孔3から、出口側の目封じ14によって盲管状態となったフィルターセル11に流入した排気ガス16は、ガス透過性を有するフィルターセル壁12を透過して排気ガス流出側のフィルターセル18へ流入し、出口5
へ向かう。この排気ガス16が、フィルターセル壁12を透過する際、排気ガス16中のガス成分は、ここを透過出来るが、PM25は透過出来ずにフィルターセル壁12の内表面に捕獲される。当該PM25の捕獲により、排気ガス19はガス成分のみとなり出口5へ向かい流出する。
尚、図3のフィルターセル壁12に、〈1〉〈2〉・・・・〈n−2〉〈n−1〉〈n〉の符号が付与されているが、これは、後述する、フィルターセル内における排気ガスの運動モデルを説明するために用いる符号である。
【0027】
ディーゼルエンジンが作動を続ける限り、排ガス16は単体セル11内に流入し続けるので、フィルターセル壁12に沈着して捕獲されるPM25量も増加を続ける。そこで、所定時間毎にヒーター15に通電し、PM25を加熱する。PM25は、殆どが炭素であるので、当該加熱により燃焼(再生燃焼)して気体の二酸化炭素となりフィルターセル壁12を透過して行く。ところがPM25には潤滑油等に由来する金属分が含有されている。当該金属分は、PM25が加熱燃焼して気体化する際、灰分26としてフィルターセル壁12の内表面の細孔に詰まる状態で残留する。
【0028】
当該灰分26は、通過する排気ガス16量の増加と伴に増加し続ける。ここで、本発明者等は、当該灰分26が、フィルターセル壁12の内表面全体に均等に付着するのではなく、出口側5の内表面に多く、入口側4の内表面に少なく付着することを知見した。これは、排気ガス流入側のフィルターセル11内の排ガス16の流速(u)が出口側5にて速く、入口側4にて遅いためであると考えられる(詳細は後述する。)。
結局、フィルターセル壁12の内表面に不均等に付着した灰分26が、PM25の再生燃焼の度に加熱と冷却とにより、不均一な膨張・収縮を繰り返し、排気ガス流入側のフィルターセル11にワレが発生していたものと考えられる。
【0029】
ここで、本発明者等が行った、排気ガス流入側のフィルターセル11内の排ガス16、および、排気ガス流出側のフィルターセル18内の排ガス19の内部流動特性に関する検討結果について説明する。
[計算モデル]
排気ガス流入側のフィルターセル11内の排ガス16、および、排気ガス流出側のフィルターセル18内の排ガス19の流れを1次元非定常圧縮性とすると、連続の式(1)式、運動方程式(2)式、エネルギー式(3)式は、次のように記載される。


【0030】
図3に示すように、排気ガス流入側のフィルターセル11の内部の長さLを(n−1)等分し、n個の格子点の排気ガス16の流速(u)、温度(T)、圧力(p)の値をもとめた。このとき、DPF周辺においては排気ガス16および排気ガス19の密度の変化は小さいので、当該排気ガス16、19を非圧縮性流体として取り扱うことが出来る。
ここで、入口側4の排気ガス流入側のフィルターセル11入口を〈1〉点目とし、出口側5の目封じ14の位置を〈n〉:〈101〉点目とした。
まず、〈1〉点目はフィルターセル11の入口であり、排気ガス16の流速(u)、温度(T)、圧力(p)は所与の値である。一方、〈101〉点目においては、出口側の目封じ14により目封じされているので流速(u)=0となる。
【0031】
当該条件の下、排気ガス16が、フィルターセル壁12を通過する速度(u)を一定とする為の要件を検討した。
【0032】
まず、排気ガス16がフィルターセル壁12を通過する速度が、一定であるとして、上記(1)式〜(3)式を解いた。
具体的には、(1)式を差分式とし、〈2〉〜〈100〉点目までの流速を求めた(尚、〈101〉点目は、目封じなので流速は0である。)。
その結果を図4に示す。図4は、横軸に排気ガス流入側のフィルターセル11における入口からの位置を示す点の符号をとり、縦軸に排気ガス16の流速(u)をとったグラフである。
そしてフィルターセル壁の縦横内寸を1mm、フィルターセル長さを10cm、入口側4にある穿孔3における排気ガス16の圧力を0.106MPa、出口側5にある穿孔7における排気ガス16の圧力を0.1MPa、フィルターセル11内の密度(ρ)は1.2kg/mで一定、排気ガス流入側のフィルターセル11外の排気ガス16の排気入口側における流速を0.12m/sとした。
このときの、排気ガス流入側のフィルターセル11内の排気ガス16の流速(u)を実線で当該グラフにプロットし、排気ガス流出側のフィルターセル18内の排気ガス19の流速(u)を破線で当該グラフにプロットしたものである。
【0033】
図4より、排気ガス16がフィルターセル壁12を通過する速度が、一定であるときの、排気ガス流入側のフィルターセル11および排気ガス流出側のフィルターセル18における、排気ガス16、19の流速の挙動について次のことが判明した。
(1)排気ガス流入側のフィルターセル11における排気ガス16の流速は、入口側4から出口側5へ向かって単調に低下し、〈101〉点にてゼロになる。
(2)排気ガス流出側のフィルターセル18における排気ガス19の流速は上述した(1)と相反し、入口側4でゼロであるが、出口側5へ向かって単調に増加する。
【0034】
次に、排気ガス16がフィルターセル壁12を通過する速度が、一定であるときの、排気ガス流入側のフィルターセル11および排気ガス流出側のフィルターセル18における、排気ガス16、19の圧力の挙動を(2)式を用いて求めた。
尚、(3)式は、温度一定の解を与えたので実質的に解かれたことになった。
その結果を図5に示す。尚、フィルターセルの各条件は、図4の場合と同様である。
図5は、横軸に排気ガス流入側のフィルターセル11における入口からの位置を示す点の符号をとり、縦軸に排気ガス16、19の圧力をとったグラフであり、排気ガス流入側のフィルターセル11内の排気ガス16の圧力を実線で当該グラフにプロットし、排気ガス流出側のフィルターセル18内の排気ガス19の圧力を破線で当該グラフにプロットしたものである。
【0035】
図5より、排気ガス16がフィルターセル壁12を通過する速度が、一定であるときの、排気ガス流入側のフィルターセル11および排気ガス流出側のフィルターセル18における、排気ガス16、19の圧力の挙動について次のことが判明した。
(1)排気ガス流入側のフィルターセル11における排気ガス16の圧力は、入口側4の〈1〉点における0.106MPaから出口側5へ向かって徐々に増加する。
(2)排気ガス流出側のフィルターセル18における、流出する排気ガス19の圧力は、
上述した(1)と相反して出口側5へ向かって徐々に低下し、〈101〉点にて0.1MPa(大気圧)になる。
【0036】
以上、図4、5より、本発明者等は、フィルターセル内の位置によらず、排気ガス16がフィルターセル壁12を通過する速度を一定にするには、フィルターセル壁の通過係数Kの値をフィルターセルにおける入口側から出口に向かって減少させていけば良いことに想到した。
さらに、本発明者等は、通過係数Kの値の検討を行うに際し、岩石など多孔質物体の物理的性質の一つで多孔質物体内における流体の流れやすさを表現する「ダルシー則」を適用することに想到した。
当該ダルシー則を適用し、排気ガス16がフィルターセル壁12を通過する速度をVzと表記すると、(4)式という関係が示される。
Vz=Q/A=(κ△P/μ・δ)=K△P・・・・・(4)式
ここで、κ:絶対浸透率(絶対通過係数)は、その多孔質物体固有のものである。そして、本発明においては、通過係数Kについて(5)式という関係が示される。
K=κ/(μ・δ)・・・・(5)式
但し、Q:フィルターを通過する排気ガスの体積流量(m/s)、A:フィルターセル壁の内側の面積[フィルターセル壁の縦横内寸から算出](m)δ:フィルターセル壁の壁厚(m)、μ:排気ガス16の粘度(Pa・s)。
【0037】
ここで本発明者等は、1例として、フィルターセル壁の縦横内寸、フィルターセル長さ、入口側4にある穿孔3における排気ガス16の圧力、出口側5にある穿孔7における排気ガス16の圧力、排気ガス流入側のフィルターセル11内の密度(ρ)、フィルターセル11外の排気ガス16の排気入口側における流速を上述の条件としたときに、フィルターセル壁の通過係数Kの値をフィルターセルにおける入口側から出口側に向かってどのように設定すれば、排気ガス16がフィルターセル壁12を通過する速度が一定になるのかを、(4)式、(5)式を解くことで検討した。
【0038】
当該検討結果を表1および図6に示す。
表1は、排気ガス流入側のフィルターセル11における入口からの位置n=1〜100におけるκとδの値の計算結果を入口の値で無次元化して示した表である。また、図6は、横軸に排気ガス流入側のフィルターセル11における入口からの位置を示す点の符号をとり、縦軸にKの値をとったグラフであり、排気ガス16がフィルターセル壁12を通過する速度が一定なる場合の通過係数Kの値を実線で当該グラフにプロットしたものである。
【0039】
図6より、上述の条件下において、排気ガス16がフィルターセル壁12を通過する速度を一定とする為には、通過係数Kの値を、入口側4の〈1〉点における値から出口側5へ向かって徐々に減少させていけば良いことが知見出来た。
尤も、これらの値は、エンジンの種類や運転条件によって異なる。そこで、予め、上述の方法で計算を行い、試作品を作製し空気流を用いて性能を確認するといった試作段階を経て、量産段階に移行すれば良い。
【0040】
ここで、排気ガス16を発生するディーゼルエンジンが、発電用ディーゼルエンジンのように運転状況が安定しているものであれば、DPF入口圧力、温度、排気流量、大気圧力等に応じ、例えば、図6に記載する様にκとδとの値を計算して、通過係数Kの値を定めれば良い。
他方、排気ガス16を発生するディーゼルエンジンが、様々な状態で作動する車両用等のディーゼルエンジンにおいては、PMが多量に排出される運転条件を基準として、DPF入口圧力、温度、排気流量、大気圧力等に応じ、例えば、図6に記載する様にκとδと
の値を計算して、通過係数Kの値を定めれば良い。
【0041】
上述の検討結果より得られた、通過係数Kの値をフィルターセルにおける入口側から出口側に向かって減少させていく構成を、実際のフィルターセルにおいて実現する手段として、本発明者等は次の手段に想到した。
1)フィルターセル壁を構成する素材の密度および/または充填率を、入口側から出口側に向かって増加させることで、フィルターセル壁の通過係数Kを入口側から出口側に向かって減少させる。
2)フィルターセル壁の壁厚δを、入口側から出口側に向かって増加させることで、フィルターセル壁の通過係数Kを入口側から出口側に向かって減少させる。
3)フィルターセル壁に、フィルターの通過係数Kを増加させるコーティングを施す。その際、当該コーティングの厚みを入口側から出口側に向かって増加させる。または、当該コーティングの材質を入口側から出口側に向かって、通過係数Kをより減少させるものに変えていく。
4)上記1)〜3)の手段を併用する。
【0042】
上述の手段について、より具体的に説明する。
1)フィルターセル壁を構成する素材の密度および/または充填率を、入口側から出口側に向かって増加させることで、フィルターセル壁の通過係数Kを入口側から出口側に向かって減少させる手段
図7に、当該1)の手段に係るフィルターセルの実施形態例を示す。
該1)の手段に係る排気ガス流入側のフィルターセル11Bにおいて、フィルターセル壁12Bは、例えばセラミック素材で構成されている。このようにフィルターセル壁12Bが、セラミック素材で構成されている場合は、フィルターセル11Bの製造時に、フィルターセル壁12Bの密度および/または充填率を、入口側から出口側に向かって増加させる(図7においては、ドットの密度で記載している。)ことで、フィルターセル壁の通過係数Kを入口側から出口側に向かって減少させることが出来る。
ここで、フィルターセル壁12Bの密度および/または充填率を変化させる方法として、セラミック生成の際の焼成条件を変化させる、セラミック生成の際の原料粉に膨潤剤等の添加剤を予め加えた上で焼成を行う、といった方法がある。
【0043】
2)フィルターセル壁の壁厚δを、入口側から出口側に向かって増加させることで、フィルターセル壁の通過係数Kを入口側から出口側に向かって減少させる手段
図8に、当該2)の手段に係るフィルターセルの実施形態例を示す。
当該2)の手段に係る排気ガス流入側のフィルターセル11Cにおいて、フィルターセル壁12Cも、例えばセラミック素材で構成されている。このフィルターセル壁12Cは、壁厚δが入口側から出口側に向かって増加していることで、フィルターセル壁の通過係数Kを入口側から出口側に向かって減少させることが出来る。
ここで、フィルターセル壁12Cの壁厚δを変化させる方法として、セラミック生成の際に用いる金型をCAD/CAM加工する等の方法がある。
【0044】
3)フィルターセル壁に、通過係数Kを減少させるコーティングを施す。その際、当該コーティングの厚みを入口側から出口側に向かって増加させる。または、当該コーティングの材質を入口側から出口側に向かって、フィルター通過係数Kをより大きく増加させるものに変えていく手段
当該コーティングとしては、フィルターセル壁を構成するセラミック素材より通過係数K値の低い物質、例えば、よりガラス質の高いコーティング剤を用いれば良い。
【0045】
4)上記1)〜3)の手段を併用する手段
上述した1)〜3)の手段は単独で行っても良いが、2以上の手段を併用することも好
ましい方法である。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係るDPFにおいては、排気ガス中のPMがフィルターセルの内側に均一に捕獲される為、当該DPFの寿命を延ばすことが出来た。
この結果、産業用および輸送機器用等のディーゼルエンジンの保守コストを低減することが出来、産業上有効である。
【符号の説明】
【0048】
1. フィルターユニット
2. 目板(入口側)
3. 穿孔(入口側)
6. 目板(出口側)
7. 穿孔(出口側)
11. フィルターセル(流入側)
11B.本発明の実施形態に係るフィルターセル(流入側)
11C.本発明の異なる実施形態に係るフィルターセル(流入側)
12. フィルターセル壁
12B.本発明の実施形態に係るフィルターセル壁
12C.本発明の異なる実施形態に係るフィルターセル壁
14. 目封じ(出口側)
15. ヒーター
16. 排気ガス(流入側)
17. 目封じ(入口側)
18. フィルターセル(流出側)
19. 排気ガス(流出側)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターであって、当該フィルターにおいて、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側のフィルターセルを流入側フィルターセルとし、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側を入口側、流出する側を出口側とするとき、
当該流入側フィルターセル壁の通過係数Kが、当該フィルターの入口側から出口側に向かって減少しているものであることを特徴とするディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルター。
【請求項2】
ディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターであって、当該フィルターにおいて、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側のフィルターセルを流入側フィルターセルとし、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側を入口側、流出する側を出口側とするとき、
当該流入側フィルターセル壁を構成する素材の密度および/または充填率が、入口側から出口側に向かって増加していることを特徴とするディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルター。
【請求項3】
ディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターであって、当該フィルターにおいて、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側のフィルターセルを流入側フィルターセルとし、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側を入口側、流出する側を出口側とするとき、
当該流入側フィルターセル壁の壁厚が、入口側から出口側に向かって増加していることを特徴とするディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルター。
【請求項4】
ディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターであって、当該フィルターにおいて、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側のフィルターセルを流入側フィルターセルとし、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側を入口側、流出する側を出口側とするとき、
当該流入側フィルターセル壁に、当該フィルターセル壁の通過係数Kを減少させるコーティングが施され、当該コーティングの厚みが入口側から出口側に向かって増加していることを特徴とするディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルター。
【請求項5】
ディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターであって、当該フィルターにおいて、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側のフィルターセルを流入側フィルターセルとし、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側を入口側、流出する側を出口側とするとき、
当該流入側フィルターセル壁に、当該フィルターセル壁の通過係数Kを減少させるコーティングが施され、当該コーティングの材質が入口側から出口側に向かって、通過係数Kをより減少させるものがコーティングされていることを特徴とするディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルター。
【請求項6】
ディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルターであって、当該フィルターにおいて、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側のフィルターセルを流入側フィルターセルとし、ディーゼルエンジン排気ガスが流入する側を入口側、流出する側を出口側とするとき、
当該流入側フィルターセル壁を構成する素材の密度および/または充填率が、入口側から出口側に向かって増加している構成、
当該流入側フィルターセル壁の壁厚が、入口側から出口側に向かって増加している構成、
当該流入側フィルターセル壁に、当該フィルターセル壁の通過係数Kを減少させるコーティングが施され、当該コーティングの厚みが入口側から出口側に向かって増加している構成、
当該流入側フィルターセル壁に、当該フィルターセル壁の通過係数Kを減少させるコーティングが施され、当該コーティングの材質が入口側から出口側に向かって、通過係数Kをより減少させるものがコーティングされている構成、
のいずれかの構成から選択される2つ以上の構成を備えることを特徴とするディーゼルエンジン用ウォールフローハニカム型パティキュレートフィルター。









【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−38410(P2011−38410A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183867(P2009−183867)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】