説明

ディーゼル燃料製造用反応器およびディーゼル燃料製造システム

【課題】 原料油から分解油を作製する接触分解反応において、より高い収量の分解油が得られるディーゼル燃料製造用反応器、およびより高い収量のディーゼル燃料が得られるディーゼル燃料製造システムを提供する。
【解決手段】 反応槽1の周囲に加熱手段(第1加熱部H1)が設けられるとともに、触媒層2の内部に第2加熱部H2が設けられ、触媒層2上部には、導入部3から導入された原料油が広く噴射されるように、噴射部3aが設けられ、触媒層2の周囲には、気液が流通可能なプレート部(プレートA〜C)が配設され、触媒層2と所定の容積を有する空間部(第1〜4空間S1〜S4)の仕切りを形成し、再生ガスの一部が、空間部を介して触媒層2に給送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒を用いてディーゼル燃料を製造するディーゼル燃料製造用反応器およびこれを用いたディーゼル燃料製造システムに関する。特に、ディーゼル燃料の製造原料として、廃食油、植物系油脂、動物系油脂、各種鉱物油を単体または混合して用いることが可能な、接触分解法を用いたディーゼル燃料製造用反応器およびこれを用いたディーゼル燃料製造システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル燃料油は、これまで、主に石油の軽油留分または残油の接触分解または熱分解の生成物から、必要に応じてリフォ−ミング、脱硫、脱窒素などの処理を行うことにより、製造されていた。一方、石油に代わる原料の確保等の観点から、ディーゼル燃料の製造原料として、廃食油、植物系油脂、動物系油脂、各種鉱物油を用いることが、研究され実用化されている。こうした廃食油からのディーゼル燃料油の製造には、従前の石油原料から製造する技術を適用することができなかったことから、例えば、図6(A)に示すような構成が提案されている(例えば特許文献1参照)。廃食油から固体物質を除去する前処理部101、廃食油を加熱し廃食油から水分および臭気物質を蒸発させて除去する脱水・脱臭部102、アルコールにアルカリ性物質からなる触媒を溶解させて触媒含有アルコール溶液を調製する触媒含有アルコール溶液調製部103、廃食油と触媒含有アルコール溶液とを混合させ撹拌して反応生成物を得る混合反応部104、反応生成物を軽液と重液とに分離させる液−液分離部105、軽液を固体吸着剤と混合させて軽液中の不純物を固体吸着剤に吸着させる精製処理部106、不純物を吸着した固体吸着剤を軽液から分離させて除去する固−液分離部107、および、重液を中和剤と混合させて重液中のアルカリ性物質からなる触媒を中和させる中和処理部108を備える。
【0003】
ここで、混合反応部104は、図6(B)のように、触媒含有アルコール溶液計量ポンプ156、脱水・脱臭された廃食油の計量ポンプ158、および、多段羽根162を取り付けた撹拌反応槽160から構成されている。撹拌反応槽160は、円筒形のベッセル中心部に設置された回転軸164に多段羽根162を取り付けて、その回転軸164を駆動モータ166によって回転させることにより、撹拌反応槽160の内部において底部から上部へ流動する脱水・脱臭廃食油と触媒含有アルコール溶液とを連続的に混合させるとともに、廃食油とアルコールとを反応させる。撹拌反応槽160は、カスケード方式で2基設置されており、脱水・脱臭部102から送られる廃食油と触媒含有アルコール溶液タンク154から送られる触媒含有アルコール溶液とが、それぞれ計量ポンプ158、156によって一定の割合で連続的に第1の撹拌反応槽160の底部へ導入され、その撹拌反応槽160の内部を通過した後、第1の撹拌反応槽160の出口から流出し、さらに第2の撹拌反応槽160の底部へ導入され、その撹拌反応槽160の内部を通過した後、第2の撹拌反応槽160の出口から流出する(特許文献1段落0030,図3参照)。
【0004】
また、廃食油などの油脂類を用いた軽油代替燃料化技術として、エステル交換法(FAME)が実用化され広く採用され(例えば特許文献2参照)、他の方法として水素化法(例えば特許文献3参照)、流動床式接触分解(FCC)法(例えば特許文献4参照)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−231497号公報
【特許文献2】特開2008−1856号公報
【特許文献3】特開2007−153928号公報
【特許文献4】特開2007−177193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような軽油代替燃料化技術あるいはディーゼル燃料製造装置では、以下に挙げるような問題点や課題が生じることがあった。
(i)一般的に、固定床方式の接触分解法においては、反応器内の加熱部(加熱管、ヒータなど)に近い箇所の触媒については、反応が進みやすい高温化にあるためコークの堆積量が比較的多く、それにより再生工程において再生用空気の流路に偏りが生じ十分に触媒を再生ができず、そのまま反応と再生を繰り返すとコークの塊が生じて触媒機能が損なわれるとともに、伝熱阻害を引き起こす(一度塊になると燃焼速度が極めて遅くなり、実質的に再生不能となる)。さらにはコークの堆積した触媒上では目的とする反応速度が著しく低下するとともに、軽油以外の遊離脂肪酸や炭素数の少ない炭化水素が副生し、品質が低下するという問題が生じる。
(ii)また、固定床方式における課題に対し、循環流動床方式をとることにより触媒が反応器と再生器を移動しコークがすみやかに燃焼除去する方法が採られる。このとき、流動床であるためコーク除去量や再生温度が均一に行われるが、設備が大規模で付帯設備も必要になることから、バイオディーゼル燃料製造のような小規模向けの技術には不向きである。また、反応器および再生器の構造が複雑であり、熱バランス的にも小規模設備には不向きである。さらに、触媒の磨耗ロスによる触媒の補充と触媒粉の廃棄が必要となるという課題があった。
(iii)図6(A)のような製造方法においては、図6(B)のような触媒を攪拌する反応器内の攪拌羽根が不可欠であり、攪拌することにより再生工程での再生不均化やコーク塊化を抑制することができる一方、攪拌羽根と触媒の接触や触媒同士の接触による触媒の磨耗・粉化は不可避となり、触媒の補充および触媒粉末の抜出の問題が生じる。
(iv)また、エステル交換法は反応速度が遅く、石油由来のメタノールが必要であり、副生成物であるグリセリンの処理や水洗工程で発生する排水処理などの問題がある。水素化法は、反応速度が速く、軽油としての品質は高いものの、水素源や高圧ガス設備を必要とし、さらに副生成物として水が発生することや、合成油がパラフィンであることから低温流動性が劣るなどの問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、原料油から分解油を作製する接触分解反応において、反応に伴い発生するコークを速やかに除去し、高い触媒効率を維持できるように、充填された触媒を均一かつ効率的に再生可能な反応器を構成し、より高い収量の分解油が得られるディーゼル燃料製造用反応器、さらに、より高い収量のディーゼル燃料が得られるディーゼル燃料製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下に示すディーゼル燃料製造用反応器およびこれを用いたディーゼル燃料製造システムによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
本発明は、固体触媒が充填された触媒層を有する反応槽を備え、接触分解法によって原料油から炭化水素からなる分解油を製造する反応器において、
前記反応槽の周囲に設けられた第1加熱部、前記触媒層内に設けられた第2加熱部、からなる加熱部と、少なくとも、前記触媒層の周回部に設けられたプレートA、前記触媒層の下部に設けられたプレートB、前記第2加熱部の周囲に設けられたプレートC、からなる気液が流通可能なプレート部と、前記触媒層の上部に設けられた第1空間,前記プレートAと前記反応槽の内面との間に設けられた第2空間,前記プレートBと前記反応槽の内面との間に設けられた第3空間,前記プレートCと前記第2加熱部との間に設けられた第4空間、からなり各々所定の容積を有する空間部と、前記反応槽に設けられた再生ガス導入部、ガス排出部、からなる触媒再生処理部と、を備え、
前記再生ガス導入部からの再生ガスの一部が、前記第1〜3空間のいずれかあるいはいくつかの空間および第4空間を介して前記触媒層に給送されることによって、前記触媒が再生されることを特徴とする。
【0010】
接触分解反応における反応効率を上げるには、触媒層の均一な反応温度および原料油との均一な接触の確保が不可欠であるとともに、固体触媒(以下「触媒」という)の再生工程における触媒層の均一な再生温度(コークの燃焼反応温度の確保を含む)および再生ガスの均一な触媒表面への流通と十分な接触時間の確保が重要となる。特に、触媒表面に付着するコークは、接触分解反応時の反応温度が高いほど生成しやすいとの発明者の知見から、加熱部近傍での再生の効率化が重要な課題となる。本発明は、こうした課題に対し、
(a)触媒の加熱を、触媒層の周囲からだけではなく、触媒層内部に加熱部を設けて加熱することによって、その均一化を図る
(b)原料油や再生ガスの導入あるいは導出を所定の空間および気液が流通可能なプレートを介して行なうことによって、原料油や再生ガスの偏流を抑制し、触媒との接触を均一に行なうとともに、かかるプレートを抵抗として所定の接触時間を確保する
(c)特に、触媒層内部に設けられた加熱部の近傍は、プレートを介して設けられた空間(第4空間)によって再生ガスの流通抵抗を少なくし、コーク堆積量が多い触媒表面に対して優先的に再生ガスとの接触を図ることによって、付着・蓄積したコークを効率よく除去し、塊化を抑制する
ことによって、高い触媒効率を維持できるように、充填された触媒を均一かつ効率的に再生可能な反応器を構成し、より高い収量の分解油が得られるディーゼル燃料製造用反応器を提供することができる。
【0011】
本発明は、上記反応器であって、前記第プレートA〜Cのいずれかあるいはいくつかのプレート部が、分散機能を有する多孔の仕切板で構成され、触媒層内部での流通の均一性を高めることを特徴とする。
触媒層における原料油あるいは再生ガスと触媒の均一な接触の確保が重要であることは、既述の通りである。特に再生ガスは、微小の流通抵抗の相違によって偏流を形成しやすいことから、本発明の構成においてプレート部は、重要な役割を果す。具体的には、プレート部を多孔の仕切板で構成し、その分散機能を利用することによって、触媒層内部での均一な流通を確保し、原料油や再生ガスの偏流を抑制し、触媒との接触を均一に行なうことができる。
【0012】
本発明は、上記反応器であって、前記第2加熱部が、加熱部材を有する板形状体で構成され、前記触媒層に対して縦方向に板形状体が配設されることを特徴とする。
触媒層における温度の均一性は、原料油の接触分解反応だけではなく、触媒の再生時のコークの燃焼反応等に大きく影響する。本発明は、触媒層内部への加熱部の配設とともに、加熱部の形状を検討した結果得られた知見であって、板形状体により加熱部の伝熱面積を広くすることによって、触媒層内により均一な温度分布を形成することができる。また、板形状体を触媒層に対して縦方向に配設することによって、気液の流れが規制され、分散され均一化された流れと相俟って、偏流のない、均一に加熱された円滑な流通を形成することができる。
【0013】
本発明は、上記反応器であって、前記再生ガス導入部が、前記1〜4空間のいずれかあるいはいくつかの空間に設けられた第1ガス導入部、前記触媒層に挿入された複数のノズルを有する第2ガス導入部から構成され、前記第1ガス導入部から前記第1〜3空間のいずれかあるいはいくつかの空間および第4空間を介して、または/および前記第2ガス導入部から、前記再生ガスを前記触媒層に給送することによって、前記触媒の再生を行うことを特徴とする。
触媒層における再生ガスと触媒の均一な接触の確保は重要であることは、既述の通りである。特に触媒の粒径が小さい場合や充填量が多い場合には、再生ガスの流通に伴う微小の流通抵抗の相違を発生し、偏流を形成しやすいことから、本発明の構成においては、さらに触媒層に複数のノズルを挿入し、再生ガスを給送することによって、触媒層内部での触媒と再生ガスとの接触をより均等に行うことができる。
【0014】
本発明は、上記反応器であって、前記触媒層が、重畳する複数の触媒層に分割され、各触媒層の間に、上層のプレートBと下層の触媒層の上部に設けられたプレートDから形成される、1または2以上の第5空間を有することを特徴とする。
触媒層内部での原料油および再生ガスの流れは、長期の使用に伴い、特定の流路への偏流が形成される。本発明は、重畳する複数に分割された触媒層を形成することによって、各触媒層単位の接触分解反応効率および再生効率の向上を図った。つまり、原料油および再生ガスの流れを短縮することによって偏流を減少させると同時に、1の触媒層を通過した原料油および再生ガスが、触媒層間に設けられた空間によって緩衝された後、さらに次の触媒層に導入されることによって、触媒層全体として非常に高い均一性を確保することができ、最小容量の触媒層によって高い接触分解反応効率および再生効率を確保することが可能となる。
【0015】
本発明は、上記反応器であって、前記再生ガス中の酸素濃度が、1〜10%であることを特徴とする。
触媒は、主として、その表面に付着・蓄積したコークを効率よく燃焼させて除去することによって再生することができる。この燃焼反応に伴い発生する反応熱は、触媒を加熱することから、多量のコークが付着した触媒表面では、局部的に過熱状態を形成する虞がある。過熱状態の形成は、触媒の耐熱温度を超える場合には、触媒特性のみならず触媒自体の破損となり、それ以内の温度の場合にあっても、触媒特性の劣化を生じさせることとなる。本発明は、こうした燃焼反応の助燃剤となる再生ガス中の酸素濃度を抑制することによって、こうした過熱の防止を図るもので、空気を基準に実証した結果、上記範囲が好ましいことが判った。
【0016】
本発明は、上記のいずれかの反応器を用いたディーゼル燃料製造システムであって、
原料油を貯留する原料タンクと、前記反応器で得られた前記分解油から軽質油を分離する第1分留器と、前記第1分留器で得られた前記軽質油から軽油留分を回収する第2分留器と、前記第2分留器で回収された軽油留分を冷却して製品油にする冷却器と、前記原料タンクから前記反応器に供給される前記原料油を、前記冷却器、前記第2分留器および第1分留器の順に熱媒体として利用してから前記反応器に供給可能にする原料油供給ラインを備え、
前記原料油供給ラインは、前記原料油を下流側に供給するための原料油供給ポンプと、前記冷却器と前記第2分留器との間に設置されて前記原料油を加熱する第1予熱器と、前記第2分留器と前記第1分留器との間に設置されて前記原料油を加熱する第2予熱器と、を有することを特徴とする。
上記反応器は、上記(a)〜(c)という基本機能を有するもので、本発明は、こうした優れた機能を生かすことによって、原料油からより高い収量の分解油を作製し、さらにより高い収量のディーゼル燃料が得られるディーゼル燃料製造システムを構成することができる。また、熱媒体として原料油を用い、冷却器、第2分留器および第1分留器の順に熱利用する構成としたことで、分留器と冷却器の冷却熱量により原料油の予熱量をまかなうことができ、消費熱量を低減できる。また、原料油の予熱により、各分留器内の温度幅が小さくなるとともに、運転立ち上げ時から定常運転まで安定した温度制御が可能となる。このように従前にないエネルギー効率の高いディーゼル燃料製造システムを構成することができる。
【0017】
本発明は、上記ディーゼル燃料製造システムであって、前記第2分留器で前記軽質油から前記軽油留分を回収した残りの分留残り分を燃焼するための燃焼器と、前記燃焼器で前記分留残り分を燃焼して排出される燃焼排ガスの一部を前記反応器へ前記再生ガスとして供給する燃焼排ガス供給ラインと、前記燃焼排ガス供給ラインに設置された送り込み手段による燃焼排ガス供給量を制御するガス供給量制御部と、をさらに備えることを特徴とする。
この構成によれば、第2分留器で分離された分留残り分を燃焼器で燃焼して得た燃焼排ガスの一部を触媒の再生ガスとして有効に利用することができる。つまり、本発明に係るディーゼル燃料製造システムにおいて生じた余剰の炭化水素成分を燃焼処理して清浄な燃焼排ガスとして排出するとともに、こうして得られた燃焼排ガスは、空気よりも酸素濃度が低いガスであり、反応器の再生ガスとして有効に利用したものである。燃焼排ガスを利用しており、空気を希釈して再生ガスとして利用しなくてよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る反応器の基本構成を例示する全体構成図。
【図2】本発明に係る反応器の第2構成例を示す構成図。
【図3】本発明に係る反応器の第3構成例を示す構成図。
【図4】本発明に係る反応器を用いたディーゼル燃料製造システムの1の構成例を示す構成図。
【図5】本発明に係る反応器を用いたディーゼル燃料製造システムの他の構成例を示す構成図。
【図6】従来技術に係る廃食油を原料としてディーゼル燃料油を得るために使用される装置を例示する全体構成図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。本発明に係る反応器(以下「反応器」という)は、触媒(固体触媒)が充填された触媒層を有する反応槽を備え、接触分解法によって原料油から炭化水素からなる分解油を製造する。反応槽の周囲に設けられた第1加熱部、触媒層内に設けられた第2加熱部、からなる加熱部と、少なくとも、触媒層の周回部に設けられたプレートA、触媒層の下部に設けられたプレートB、第2加熱部の周囲に設けられたプレートC、からなる通気可能なプレート部と、触媒層の上部に設けられた第1空間,プレートAと反応槽の内面との間に設けられた第2空間,プレートBと反応槽の内面との間に設けられた第3空間,プレートCと第2加熱部との間に設けられた第4空間、からなり各々所定の容積を有する空間部と、反応槽に設けられた再生ガス導入部、ガス排出部、からなる触媒再生処理部と、を備え、再生ガス導入部からの再生ガスの一部が、第1〜3空間のいずれかあるいはいくつかの空間および第4空間を介して触媒層に給送されることによって、触媒が再生されることを特徴とする。
【0020】
<反応器の第1構成例>
反応器の1つの実施態様として、第1構成例の概略全体構成を、図1(A)および(B)に示す。反応器10の正面からの断面を図1(A)に、上面からのXX断面を図1(B)に示す。反応器10は、原料油から分解油を作製する触媒が充填された触媒層2,原料油が反応槽1に導入される導入部3,気相の分解油が供出される供出部4,液相の残渣が排出される排出部5,再生ガスが反応槽1に導入される再生ガス導入部6、触媒の再生に使用された再生ガス(排ガス)が排出されるガス排出部7を有する反応槽1を備える。反応器10には、安定した分解反応を形成する反応温度を維持するために、反応槽1の周囲に加熱手段(第1加熱部H1)が設けられるとともに、触媒層2の内部に第2加熱部H2が設けられる。触媒層2上部には、導入部3から導入された原料油が、広く拡散するように噴射される噴射部3aが設けられている。触媒層2の周囲には、気液が流通可能なプレート部(プレートA〜C)が配設され、触媒層2と所定の容積を有する空間部(第2〜4空間S2〜S4)の仕切りを形成するとともに、層内の原料油および再生ガスの均一な流通を形成する。このとき、プレートA〜Cに加えて、触媒層2の上部に、触媒層2と第1空間S1の仕切りを形成するプレートDを設けることによって、さらに原料油の均一な流通を形成することができる。
【0021】
反応器10は、分解反応の使用条件(圧力)に耐えうる金属製の圧力容器が好ましく、一般に、縦型円筒状の炭素鋼またはステンレス(SUS)製の耐圧容器が用いられる。また、反応槽1,触媒層2やプレートA〜C(加えてプレートDを含む)あるいは空間S1〜S4の配置や寸法、または加熱部H1,H2の容量や配置等、反応器10の構成は、原料油の導入量や特性(油の種類や用途等),反応条件および経済的な条件(反応器10の大きさ)から決定される。
【0022】
プレートA〜Dは、流通可能な板体で構成される。原料油や再生ガスの偏流を抑制し、触媒との接触を均一に行なうことができる。例えば粒径φ3mmの触媒を用いた場合にはφ2mmの孔を有する開口率40%のパンチングメタルなどが用いられる。このとき、プレートA〜Dのいずれかあるいはいくつかのプレート部が、多孔の仕切板で構成され、整流層として機能させることによって、整流された原料油や原料ガスが触媒層2に導人され、触媒層2内部での流通の均一性を高めることができる。具体的には、焼結金属板などの金属製あるいはセラミック製の多孔板であり、触媒粒子より十分に小さい孔を多数有するものを用いることによって、再生ガスの高い分散機能を得ることができる。ただし、原料油や原料ガスを均一に分散させる程度に孔の細かいものとし、プレートA〜Dの圧損が過大とならない程度が好ましい。
【0023】
〔分解油の作製機能〕
原料油は、導入部3を介して反応槽1に導入され、噴射部3aによって触媒層2の上部全体に広く噴射される。噴射された原料油は、空間S1において噴霧状に拡散しながら、プレートDが設けられた場合には、気液が流通可能なプレートDにおいてさらに分散して触媒層2に移送される。噴射部3aによる拡散と相俟って、触媒層2の上層全体に原料油を分散し、原料油の偏流を抑制し、触媒層2全体に触媒との接触を均一に行なうことができる。触媒層2上層に移送された原料油は、触媒層2内を通過しながら加熱された触媒と接触することによって、分解反応により炭化水素からなる分解油に変換される。このとき、その一部が触媒表面に微量のコークを発生させ、付着される。変換された分解油の多くは、高温条件で軽質油および軽油留分を含む気相成分となり、再度プレートD,空間S1を介して供出部4からディーゼル燃料作製の次工程の処理装置(図示せず)に給送される。変換された分解油の液相の残渣は、触媒層2下部に設けられたプレートBを介して空間S3に貯留され、所定量貯留後あるいは連続的に排出部5から排出される。分解油の気相成分の給送は、例えば、後段に設けられた吸引手段(図示せず)によって行うことができる。あるいは、別途搬送用のキャリアガス(例えば窒素ガス、水蒸気、オフガス等の不活性ガスを用いることが好ましい)を導入して給送することができる。このキャリアガスは、運転中連続して供給されてもよく、運転状況に応じて供給されてもよい。
【0024】
導入される原料油は、例えば、廃食油、植物系油脂、動物系油脂、各種鉱物油を単体または混合したものである。廃食油としては、例えば、てんぷら油、から揚げ油等である。植物系油脂としては、菜種油、大豆油、ゴマ油、紅花油、綿実油、米油、落花生油、ひまわり油、とうもろこし油、オリーブ油、パーム油、ココナッツ油、ジャトロファ油、ピーナッツ油等が挙げられる。動物系油脂としては、例えば、牛脂(ヘット)、豚油(ラード)等が挙げられる。鉱物油としては、炭化水素系の各種鉱物油が挙げられる。原料油は、触媒の被毒や流路の閉塞等を防止するために、予め除塵あるいは脱水等の前処理が施された状態で、反応槽1に導入されることが好ましい。
【0025】
接触分解法で用いられる触媒は、無機系の固体触媒が好ましい。特に、アルカリ金属系あるいはアルカリ土類金属系の金属化合物を触媒として用いた場合には、油脂のエステル結合部を開裂する脱炭酸分解反応により、軽油性状の分解油と二酸化炭素、プロパンなどの軽質ガスに分解することができ、従来のエステル交換法のようにアルコールや苛性カリなどの薬品類が不要で、グリセリンや廃水など廃棄物の発生がなく、市販軽油と同等のバイオディーゼル燃料を製造することができるなどの特徴を有する。分解油として、例えば炭素数9〜20のオレフィン・パラフィンを主成分とする炭化水素混合物を得ることができる。具体的な触媒としては、例えばゼオライト、イオン交換樹脂、石灰、クレー、金属酸化物、金属炭酸塩、SiO−MgOやSiO−CaO等の複合酸化物または担持金属酸化物等が挙げられ、特にSiO−MgOの担持金属酸化物が好ましい。このSiO−MgOの担持金属酸化物を用いた場合、得られるディーゼル燃料(軽油)の収率が60%以上となり好ましい。触媒の形状は、流通抵抗が小さく表面積が十分に確保できれば、特に制限されず、例えば粒径φ2〜5mmの粒状体やペレット状体等が用いられる。また、反応器10ではプレート部によって触媒を固定する方法を例示したが、特にこれに制限されず、固定部材に触媒を固定して、固定式触媒反応器10を構成する等種々の態様が可能であることはいうまでもない。
【0026】
反応器10での接触分解法の反応温度は、例えばアルカリ金属系あるいはアルカリ土類金属系触媒を用いた場合、約400〜500℃に設定されることが好ましく、約400〜450℃が、より好ましい。400℃未満では反応効率が低下することがあり、500℃を超えると分解反応に伴う反応熱によって触媒表面に局部的な過熱が生じ、触媒の劣化を生じることがある。触媒層2の温度は、反応槽1の周囲に設けられた第1加熱部H1と触媒層2の内部に設けられた第2加熱部H2による加熱を制御することによって維持され、その均一化を図ることができる。このとき、第2加熱部H2の近傍において、プレートCを介して第4空間が設けられたことによって、第2加熱部H2近傍の触媒表面でのコークの発生を抑制することができる。また、加熱部H1,H2の構成は、特に制限されず、例えば、電気ヒータ、バーナ、または熱風、スチーム、廃ガス廃熱等を用いた熱交換器等が挙げられる。
【0027】
ここで、第2加熱部H2が、図1(A),(B)に示すように、加熱部材を有する板形状体で構成され、触媒層2に対して縦方向に板形状体が配設されることが好ましい。板形状体により加熱部の伝熱面積を広くすることによって、触媒層内により均一な温度分布を形成することができる。また、板形状体を触媒層に対して縦方向に配設することによって、気液の流れが規制され、分散され均一化された流れと相俟って、偏流のない、均一に加熱された円滑な流通を形成することができる。
【0028】
〔触媒の再生機能〕
原料油の分解反応に使用された触媒表面には、主として分解反応の副生成物であるコークが付着する。触媒表面におけるコークの堆積は、触媒機能の低下を招くとともに、コークの塊化に伴い触媒の再生機能が損なわれ再生できなくなることから、所定期間の使用後に再生処理を行う必要がある。反応器10においては、酸素を所定量含む再生ガスを触媒層2に導入し、主としてコークを酸化,燃焼させて除去することによって、再生できるとの知見を得た。
【0029】
ここで、再生ガスは、酸素濃度が1〜10%であることが好ましく、5〜10%がより好ましい。触媒表面での燃焼反応に伴い発生する反応熱は、触媒を加熱することから、多量のコークが付着した触媒表面では、局部的に過熱状態を形成する虞がある。過熱状態の形成は、触媒の耐熱温度を超える場合には、触媒特性のみならず触媒自体の破損となり、それ以内の温度の場合にあっても、触媒特性の劣化を生じさせることとなる。こうした過熱状態の発生は、燃焼反応の助燃剤となる再生ガス中の酸素濃度を抑制することによって行うことができる。空気を基準に実証した結果、1%未満においては燃焼反応が十分に行われず、コークの残留に伴う触媒特性の劣化が見られた、10%を超えた場合には、触媒層2内の局部過熱の発生が見られた。具体的な再生ガスとしては、例えば空気と窒素ガスとの混合ガスや燃焼排ガス等を用いることができる。このとき、再生ガス中の酸素濃度を測定することが好ましい。
【0030】
再生ガス導入部6から反応槽1に導入された再生ガスは、第2〜4空間S2〜S4,プレートA〜Cを介して触媒層2に給送される。再生ガスが触媒層2内を通過しながら加熱された触媒と接触することによって、触媒表面のコークは、酸化反応(燃焼反応)により二酸化炭素(CO)や水(HO)に変換され、触媒活性を回復させることができる。触媒2内を通過し、COやHOを含む再生ガス(排ガス)は、プレートD,第1空間S1を介し、ガス排出部7から排出される。なお、再生ガス導入部6は、第3空間S3に設けられる構成だけではなく、第1,2,4空間S1,S2,S4のいずれか、あるいは複数の空間に設けられる構成とすることができる。
【0031】
プレートA〜Dのいずれかあるいはいくつかは、上記のようにガス分散機能を有する多孔の仕切板で構成される。そのガス分散機能を利用することによって、触媒層2内部での均一なガス流を確保することができる。また、多孔の仕切板は、ガス流に対して流通抵抗として機能することから、触媒層2内部の流通抵抗とともに、触媒層2内部の圧力を上げ(滞留時間を増やし)、再生ガスと触媒との所定の接触時間を確保し、反応効率の向上にも寄与する。
【0032】
反応槽1において、プレートBによって整流された第3空間S3からの原料ガスが、下面全体から触媒層2に導人され、加熱状態で触媒と接触しながら層内を上昇する。触媒表面のコークとの燃焼反応(発熱反応)によって加温され、触媒層2上層の加温に寄与する。プレートAによって整流された第2空間S2からの原料ガスは、側面から触媒層2に導人され、第3空間S3からの原料ガスと合流し加熱状態で触媒と接触しながら層内を上昇する。第1加熱部H1からの温熱を触媒層2に迅速に伝える機能を有し、触媒層2の温度の安定化に寄与する。プレートCによって整流された第4空間S4からの原料ガスは、中心部から触媒層2に導人され、第3空間S3からの原料ガスと合流し加熱状態で触媒と接触しながら層内を上昇する。第2加熱部H2からの温熱を触媒層2に迅速に伝える機能を有し、触媒層2の温度の安定化に寄与する。特に、触媒層2に対して縦方向に板形状体の第2加熱部H2が配設されることによって、その機能はより高められる。
【0033】
〔反応器の第2構成例〕
反応器10の他の構成例として、再生ガスが、再生ガス導入部6(第1ガス導入部)からだけではなく、触媒層2に挿入された複数のノズル8aを有する第2ガス導入部8からも導入される構成(第2構成例)を、図2に示す。再生ガスを、触媒層2内の複数箇所から給送することによって、触媒層2内の触媒に対して万遍なく再生を行うことが好ましい。触媒表面に付着したコークのばらつきによる再生ガスの偏流を防止することができるとともに、特に触媒の粒径が小さい場合や充填量が多い場合には、再生ガスの流通に伴う微小の流通抵抗の相違を発生し、偏流を形成しやすいことから、さらに触媒層2内の複数箇所から再生ガスを給送することによって、触媒層内部での触媒と再生ガスとの接触をより均等に行うことができる。
【0034】
〔反応器の第3構成例〕
反応器10の第3構成例を、図3に示す。触媒層2が、重畳する複数の触媒層2a,2bに分割され、各触媒層2a,2bの間に、上層の触媒層2a下部のプレートBaと下層の触媒層2b上部のプレートDbから形成される第5空間S5を有する。粒径の小さな触媒や多量の触媒から構成される触媒層2内部では、原料油および再生ガスの流れは特定の流路への偏流が形成されやすく、長期の使用に伴い、触媒表面に付着したコークの量の相違によって偏流が形成されやすくなる。重畳する複数に分割された触媒層2a,2bを形成することによって、各触媒層2a,2b単位の接触分解反応効率および再生効率を向上させ、触媒層全体としての容量を小さくすることができる。また、触媒層2aまたは2bを通過した原料油あるいは再生ガスが、一旦空間S5によって緩衝された後、さらに次の触媒層2bまたは2aに導入されることによって、触媒層全体として非常に高い均一性を確保することができ、最小の容量によって高い接触分解反応効率および再生効率を確保することができる。
【0035】
また、各触媒層2a,2bについて、両方ともに第1構成例と同様の構造および各部位の機能とせずに、以下のように各触媒層2a,2bを異なる構成にすることができる。
(i)触媒層2bの容量を触媒層2aの容量よりも小さくし、触媒層2bにおいて、触媒層2aにおいて未処理の原料油を分解処理することができる。このとき、触媒層2bの温度を触媒層2aよりも高く(例えば50℃程度)することによって、さらに未処理の原料油を低減することができ、原料油中の高温分解成分の分解処理を行うことができる。
(ii)触媒層2a,2bの触媒の種類や形状を変更することによって、原料油の仕様に対応した反応槽1を構成することができる。つまり、原料油中の所定の主成分に対して効率の高い種類や形状の触媒で触媒層2aを構成し、他の成分に対して効率の高い種類や形状の触媒で触媒層2bを構成することによって原料油全体に対しての分解処理を行うことができる。
【0036】
<反応器を用いたディーゼル燃料製造システム>
次に、上記反応器を用いたディーゼル燃料製造システム(以下「本システム」という)を詳述する。本システムは、原料タンク、反応器、第1分留器、第2分留器、冷却器、および原料タンクから反応器に供給される原料油を、冷却器、第2分留器および第1分留器の順に熱媒体として利用してから反応器に供給可能にする原料油供給ラインを備え、該原料油供給ラインは、原料油供給ポンプ、第1予熱器、および第2予熱器を有することを特徴とする。本システムは、上記反応器の有する優れた機能有する反応器を生かすことによって、原料油からより高い収量の分解油を作製し、さらにより高い収量のディーゼル燃料を得ることができる。
【0037】
以下、本システムの一例として、図4に示す構成例に基づき、その詳細を説明する。本システムは、原料油を貯留する原料タンク20と、原料タンク20から供給される原料油を炭化水素からなる分解油に変換するための触媒を有する反応器10と、反応器10で得られた分解油から軽質油を分離する第1分留器31と、第1分留器31で得られた軽質油から軽油留分を回収する第2分留器32と、第2分留器32で回収された軽油留分を冷却して製品油にする冷却器40と、冷却器40で冷却されて液体となった製品油(ディーゼル燃料)を貯蔵する製品油タンク50を有する。そして、原料タンク20から反応器10に供給される原料油を、冷却器40、第2分留器32および第1分留器31の順に熱媒体として利用してから反応器10に供給可能にする原料油供給ラインLを備えている。この原料油供給ラインLにおいて、前段供給ラインL1は、原料油を下流側に供給するための原料油供給ポンプ60および冷却器40を通過し、中段の供給ラインL2は、冷却器40と第2分留器32との間に設置されて原料油を加熱する第1予熱器71および第2分留器32を通過し、後段の供給ラインL3は、第2分留器32と第1分留器31との間に設置されて原料油を加熱する第2予熱器72および第1分留器31を通過する。反応器10の再生は、上記第1〜3構成例と同様に行うことができる。
【0038】
具体的には、原料タンク20の原料油は常温(周辺環境温度)であり、常温のまま冷却器40の熱媒体として送られ、ここで、第2分留器32で得られた軽油留分(例えば150〜200℃)と熱交換されて第1予熱器71に送られる。冷却器40を通過し第1予熱器71に送られる原料油の温度は、例えば50〜80℃である。次いで、原料油は、第1予熱器71で加熱され(あるいは加熱されずに)、第2分留器32の熱媒体として送られ、ここで、第2分留器32内のガス成分(軽質油ガス)と熱交換されて第2予熱器72に送られる。第2分留器32を通過して第2予熱器72に送られる原料油の温度は、例えば150〜240℃である。次いで、原料油は、第2予熱器72で加熱され(あるいは加熱されずに)、第1分留器31の熱媒体として送られ、ここで、第1分留器31内のガス成分(気相の分解油)と熱交換されて反応器10に送られる。第1分留器31を通過し反応器10へ送られる原料油の温度は、例えば300〜350℃である。次いで、反応器10内の温度を例えば400〜450℃にして、原料油を触媒層2内の触媒に接触させて分解反応を行い、得られた気相の分解油は、分解油ガスラインLaを通じて第1分留器31へ送られる。第1分留器31に送られる気相の分解油の温度は、例えば380〜420℃である。次いで、気相の分解油は、第1分留器31内で分留されて軽質油ガスが得られ、この軽質油ガスは軽質油ガスラインLbを通じて第2分留器32へ送られる。第2分留器32へ送られる軽質油ガスの温度は、例えば250〜300℃である。第2分留器32において、軽質油ガスを軽油留分と分留残り分(例えば、可燃性ガス、ナフサ、灯油等)とに分離され、この分留残り分は分留残り分ラインLeを通じて第2分留器32から排出され、軽油留分(軽油留ガス)は、軽油留ガスラインLcを通じて冷却器40に送られる。冷却器40に送られる軽油留ガスの温度は、例えば150〜200℃である。次いで、軽油留ガスは、冷却器40内で冷却されて液体の製品油(ディーゼル燃料)が得られ、この製品油は、製品油ラインLdを通じて製品油タンク50に送られて回収される。このような原料油からディーゼル燃料を得るための、最適な処理・反応条件を設定することによって、高い収量の気相の分解油,軽質油ガス,軽油留ガスを作製し、さらにより高い収量のディーゼル燃料(製品油)を得ることができる。
【0039】
ここで、反応器10においては、第1分留器31を通過した原料油は、導入部3を介して触媒層2の上部全体に広く噴射され、触媒層2内を通過しながら加熱された触媒と接触することによって、分解反応により炭化水素からなる分解油に変換される。得られた気相の分解油は、供出部4を介して供出され、分解油ガスラインLaを通じて第1分留器31へ送られる。また、反応器10の再生は、反応器10への原料油の供給を停止し、再生ガス導入部6から再生ガスを導入し、触媒を再生処理することによって行われる。再生ガス導入部6から導入された再生ガスは、触媒層2に給送される。再生ガスが触媒層2内を通過しながら加熱された触媒と接触することによって、触媒活性を回復させることができる。触媒2内を通過した排ガスは、ガス排出部7から排出される。
【0040】
なお、1の反応器10ではなく、2基の反応器10、10を並列に配置し、一方の反応器10で接触分解反応をさせて分解油の生成を行い、他方の反応器10で触媒の再生処理を行うように構成することが可能である。
【0041】
〔本システムの他の構成例〕
次に、上記本システムにおいて、第2分留器32で分離された分留残り分を燃焼器80で燃焼して得た燃焼排ガスの一部を、触媒の再生ガスとして利用した構成例を、図5に示す。第2分留器32で軽質油から軽油留分を回収した残りの分留残り分を燃焼するための燃焼器80と、燃焼器80で分留残り分を燃焼して排出される燃焼排ガスの一部を反応器10へ再生ガスとして供給する燃焼排ガス供給ラインLrと、燃焼排ガス供給ラインLrに設置されたファン61(送り込み手段に相当)による燃焼排ガス供給量を制御するガス供給量制御部(図示せず)と、をさらに備える。
【0042】
本システムにおいて、分留残り分には、例えば、可燃性ガス、ナフサ、灯油等が含まれる。これを燃焼器80で燃焼して得た燃焼排ガスは、空気よりも濃度が低いが、所定量の(1〜10%程度)酸素を含んでいる。従って、その一部を反応器10の再生ガスとして利用することができる。触媒の再生に燃焼排ガスを利用することで、触媒の耐熱温度を超える局所的な過大燃焼を抑制し、触媒全体を効果的に再生することができる。本システムにおいて生じた余剰の炭化水素成分を燃焼処理して清浄な燃焼排ガスとして排出するとともに、その一部を有効利用することによって、新たに空気を希釈して再生ガスを作製する必要がなく、資源・エネルギーを有効利用することができる。また、酸素以外の燃焼排ガス成分が冷却媒体として作用するため、再生ガスの供給量を増やすことができ、結果として、反応器10の触媒の再生を迅速に行うことができる。さらに、再生ガス量を増やすことにより、反応器10内の触媒層2内を通過する流速が増加し、触媒層2へのガス拡散が促進され、触媒全体を均等に再生することができる。
【0043】
ここで、燃焼器80には、例えばバーナ等を用いることができる。燃焼器80で分留残り分を燃焼し、燃焼排ガスを燃焼排ガスラインLfを通じて排出する。燃焼排ガスの一部は、燃焼排ガスラインLfから分岐した燃焼排ガス供給ラインLrに設けられたファン61によって、再生ガスとして反応器10へ給送される。再生ガスの供給量は、ファン61の回転速度(流速)を調整し、制御される(ガス供給量制御部に相当する)。反応器10の再生によって生じる排ガスは、排ガスラインLsを通じて燃焼器80に給送され、ここで燃焼処理することが好ましい。
【0044】
また、燃焼排ガスは、その酸素濃度が1〜10%、好ましくは5〜10%の範囲になるように燃焼器80において燃焼制御されることが望ましい。かかる場合に、例えば、燃焼排ガスラインLfに酸素濃度センサ90を取り付けて、この酸素濃度センサ90からの信号に応じて、燃焼器80の制御部が燃焼状態を制御する。また、燃焼排ガスの温度は、触媒に付着しているコークの燃焼を維持できるように、また触媒が過熱しないように、200〜500℃、好ましくは200〜300℃の範囲で反応器10に供給することが望ましい。
【実施例】
【0045】
〔実施例1〕
上記反応器の構成においては、プレート部が、触媒層、特に第2加熱部近傍の触媒層に対して大きな影響を与える。ここでは、第1構成例におけるプレートCの有無によって第2加熱部H2近傍の触媒層2中の触媒表面のコークの残量を実証し、その技術的効果を検証した。
【0046】
(1)実験条件
第1構成例に係る反応器について、第2加熱部H2近傍の仕切板(プレートC)の有無の各条件にて約100hrの原料油の反応処理を行い、再生処理後に、第2加熱部H2周辺の触媒表面におけるコークの残量の比較を行った。コークの測定は、CHN計(ヤナコ分析工業,CHNコーダー:MT−6)を用いて行った。
【0047】
(2)実証結果
各条件での触媒表面のコークの残量を、表1に示す。仕切板がない場合は、非常にコーク量が多い結果となった。一方、仕切板を設置した場合は、コーク量が大きく低下する結果となった。実際の触媒表面の状態も、前者ではコークが多く塊化しており、後者は触媒の形状(球状)のままであった。
【0048】
【表1】

【符号の説明】
【0049】
1 反応槽
2 触媒層
3 導入部
3a 噴射部
4 供出部
5 排出部
6 再生ガス導入部
7 ガス排出部
10 反応器
A〜D プレート
H1,H2 第1,2加熱部
S1〜S4 第1〜4空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体触媒が充填された触媒層を有する反応槽を備え、接触分解法によって原料油から炭化水素からなる分解油を製造する反応器において、
前記反応槽の周囲に設けられた第1加熱部、前記触媒層内に設けられた第2加熱部、からなる加熱部と、
少なくとも、前記触媒層の周回部に設けられたプレートA、前記触媒層の下部に設けられたプレートB、前記第2加熱部の周囲に設けられたプレートC、からなる気液が流通可能なプレート部と、
前記触媒層の上部に設けられた第1空間,前記プレートAと前記反応槽の内面との間に設けられた第2空間,前記プレートBと前記反応槽の内面との間に設けられた第3空間,前記プレートCと前記第2加熱部との間に設けられた第4空間、からなり各々所定の容積を有する空間部と、
前記反応槽に設けられた再生ガス導入部、ガス排出部、からなる触媒再生処理部と、
を備え、
前記再生ガス導入部からの再生ガスの一部が、前記第1〜3空間のいずれかあるいはいくつかの空間および第4空間を介して前記触媒層に給送されることによって、前記触媒が再生されることを特徴とするディーゼル燃料製造用反応器。
【請求項2】
前記プレートA〜Cのいずれかあるいはいくつかのプレート部が、分散機能を有する多孔の仕切板で構成され、触媒層内部での流通の均一性を高めることを特徴とする請求項1記載のディーゼル燃料製造用反応器。
【請求項3】
前記第2加熱部が、加熱部材を有する板形状体で構成され、前記触媒層に対して縦方向に板形状体が配設されることを特徴とする請求項1または2記載のディーゼル燃料製造用反応器。
【請求項4】
前記再生ガス導入部が、前記1〜4空間のいずれかあるいはいくつかの空間に設けられた第1ガス導入部、前記触媒層に挿入された複数のノズルを有する第2ガス導入部から構成され、
前記第1ガス導入部から前記第1〜3空間のいずれかあるいはいくつかの空間および第4空間を介して、または/および前記第2ガス導入部から、前記再生ガスを前記触媒層に給送することによって、前記触媒の再生を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のディーゼル燃料製造用反応器。
【請求項5】
前記触媒層が、重畳する複数の触媒層に分割され、各触媒層の間に、上層のプレートBと下層の触媒層の上部に設けられたプレートDから形成される、1または2以上の第5空間を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のディーゼル燃料製造用反応器。
【請求項6】
前記再生ガス中の酸素濃度が、1〜10%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のディーゼル燃料製造用反応器。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のディーゼル燃料製造用反応器を用いたディーゼル燃料製造システムであって、
原料油を貯留する原料タンクと、
前記反応器で得られた前記分解油から軽質油を分離する第1分留器と、
前記第1分留器で得られた前記軽質油から軽油留分を回収する第2分留器と、
前記第2分留器で回収された軽油留分を冷却して製品油にする冷却器と、
前記原料タンクから前記反応器に供給される前記原料油を、前記冷却器、前記第2分留器および第1分留器の順に熱媒体として利用してから前記反応器に供給可能にする原料油供給ラインを備え、
前記原料油供給ラインは、
前記原料油を下流側に供給するための原料油供給ポンプと、
前記冷却器と前記第2分留器との間に設置されて前記原料油を加熱する第1予熱器と、
前記第2分留器と前記第1分留器との間に設置されて前記原料油を加熱する第2予熱器と、を有することを特徴とするディーゼル燃料製造システム。
【請求項8】
前記第2分留器で前記軽質油から前記軽油留分を回収した残りの分留残り分を燃焼するための燃焼器と、前記燃焼器で前記分留残り分を燃焼して排出される燃焼排ガスの一部を前記反応器へ前記再生ガスとして供給する燃焼排ガス供給ラインと、前記燃焼排ガス供給ラインに設置された送り込み手段による燃焼排ガス供給量を制御するガス供給量制御部と、をさらに備えることを特徴とする請求項7記載のディーゼル燃料製造システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−219141(P2012−219141A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84661(P2011−84661)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【Fターム(参考)】