説明

デジタル秤及び計測方法

【課題】 チャンネル切り替え時に起因する誤差を低減し、精度の高い荷重の測定を行うようにすること。
【解決手段】 第1〜第4のロードセル21〜24において出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換する際に、順次高速で第1〜第4のロードセル21〜24を切り替えるとともに、一つの第1〜第4のロードセル21〜24のうち一つからの出力を変換するときには、複数サンプリングに時分割して最初の所定数を利用しないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば多点式秤における各センサ出力を順次繰り返し高速で読み込むようにしたデジタル秤及び計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、デジタル秤で用いられているAD(アナログデジタル)変換器には、たとえば図5に示すようなPWM(帰還形パルス幅変調)方式によるものがある(特許文献1参照)。
【0003】
すなわち、AD変換器は、入力端子TM1から被測定アナログ電圧である入力電圧Exが入力されると、演算増幅器1により、その入力電圧Exと、分周器5からの変調信号電圧±Ecと、スイッチSW1,SW2を介しての基準電圧±Esとを含めた積分動作が行われる。ここで、演算増幅器1とコンデンサC1とにより積分器が構成されている。
【0004】
ここで、入力電圧Exが取り込まれない状態では、比較器2及びインバータ3のPWM出力が1周期に対して丁度デューティ比50で、系は平衡状態にある(入力0の状態)。この状態で入力電圧Exが取り込まれると、系は1周期当たりの積分器に流入する電流の平均値が0になるように動作する。
【0005】
よって、基準電圧±Esのそれぞれを印加するスイッチSW1,SW2の開閉時間の割合が当然に変化することになる。すなわち、スイッチSW1,SW2の開閉を制御するパルス幅であるパルス幅変調出力が入力電圧Exによって変調を受けたことになる。
【0006】
ここで、スイッチSW1を制御するパルスについて着目すると、そのパルスが1になっている期間は、入力電圧Exの大きさに対応したものとなっているので、この期間だけゲート4を開いてクロックパルスを通過させてやれば、そのクロックの数は入力電圧Exの大きさに対応したものとなる。したがって、図5に示す回路は、AD変換器として利用することができる。
【0007】
このようなPWM制御方式によるAD変換器は、その精度が基準電圧±Esと抵抗器Rx,R1,R2とにのみ依存し、他の積分器の定数には依存せず、また比較器2の感度や不感帯も精度に影響を及ぼさないなどの利点を有するものとなっている。なお、図5中、符号4はアンドゲートであり、符号6はクロックパルス発生器である。
【特許文献1】特開昭57−49866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、このようなAD変換器では、計測初期において基準電圧±Esが過渡状態にあり不安定となる課題がある。そこで、特許文献1に開示の技術にあっては、計測期間を時分割して、不安定と想定される最初の数サンプリングを使用しないようにしている。
【0009】
しかし、上述のAD変換器にあっては、測定対象は単一チャンネルからの入力を想定しており、複数のチャンネルのデータを基に一つの荷重を計測する態様に関してはなんら開示はない。
【0010】
このようなことから、簡易的に比較的高速で、複数チャンネルでの測定を元に荷重を高精度で測定することができる装置の開発が求められていた。
【0011】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上記課題を解決することができるデジタル秤及び計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のデジタル秤は、荷重に応じたアナログの電気信号を出力する複数の荷重変換器と、これらの複数の荷重変換器の出力を順次高速で切り替えて取得する信号選択手段と、該信号選択手段において取得されたアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、該AD変換器にて変換されたデジタル信号を積算し、積算結果を元に荷重を算出する荷重算出手段とを有することを特徴とする。
また、前記信号選択手段は、前記複数の荷重変換器の検出出力を高速で切り替えて取得する処理を複数サイクル行い、前記荷重算出手段は、前記複数サイクルにわたる検出出力を積算するようにすることができる。
また、前記信号選択手段は、一つの前記荷重変換器につき、複数サンプリング数の検出出力を1サイクルにおける検出出力として連続して取得し、前記荷重算出手段は、前記複数サンプリング数の検出出力のうち、最初の所定サンプリング数の検出出力を積算しないようにすることができる。
また、前記AD変換器は、PWM方式のAD変換器であるようにすることができる。
本発明の計測方法は、荷重に応じたアナログの電気信号を出力する複数の荷重変換器の出力を順次高速で切り替えて取得する信号選択工程と、該取得されたアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換工程と、該変換されたデジタル信号を積算し、積算結果を元に荷重を算出する荷重算出工程とを有することを特徴とする。
本発明のデジタル秤及び計測方法では、信号選択手段により、複数の荷重変換器の出力が順次高速で切り替えて取得され、AD変換器により、信号選択手段において取得されたアナログ信号がデジタル信号に変換され、荷重算出手段により、該AD変換器にて変換されたデジタル信号が積算され、その積算結果を元に荷重が算出される。
すなわち、複数の荷重変換器において出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換する際に、順次高速で複数の荷重変換器を切り替えるとともに、一つの荷重変換器からの出力を変換するときには、複数サンプリングに時分割して最初の所定数を利用しないため、チャンネル切り替え時に起因する誤差が低減されることになる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のデジタル秤及び計測方法によれば、複数の荷重変換器において出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換する際に、順次高速で複数の荷重変換器を切り替えるとともに、一つの荷重変換器からの出力を変換するときには、複数サンプリングに時分割して最初の所定数を利用しないようにしたので、チャンネル切り替え時に起因する誤差を低減でき、精度の高い荷重の測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明のデジタル秤の実施形態について説明する。なお、本実施形態では、デジタル秤の一態様として体重計について説明する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る体重計10の外観を示す図である。また、図2は、体重計10の機能ブロック図である。これらの図に示すように、体重計10は、計測センサ20と、計測制御部30と、表示部40とを備える。
【0016】
計測センサ20は、第1のロードセル21と、第2のロードセル22と、第3のロードセル23と、第4のロードセル24とを備える。第1〜第4のロードセル21〜24は、荷重をアナログ形式の電気信号(以下、単に「アナログ信号」ともいう)に変換して出力する荷重変換器であり、図1に示すように正方形の4つの頂点になるように配置されている。
【0017】
具体的には、第1のロードセル21は正方形の左上に配置され、第2のロードセル22は右上に配置され、第3のロードセル23は右下に配置され、第4のロードセル24は左下に配置されている。この構成により、計測センサ20の第1〜第4のロードセル21〜24は、それぞれ第1〜第4チャンネルのアナログ信号を出力する。
【0018】
また、計測制御部30は、セレクタ50と、AD変換器31と、演算処理部32と、セレクタ制御部34とを備える。
【0019】
セレクタ50は、計測センサ20の第1のロードセル21から第4のロードセル24が出力するアナログ信号のうち一つの信号を時分割して順次選択してAD変換器31へ出力する。
【0020】
AD変換器31は、セレクタ50が選択した第1のロードセル21から第4のロードセル24のいずれかが出力するアナログ信号をデジタル信号に変換する。このAD変換器31は、PWM方式のAD変換器であり、ここでは、たとえば5120サンプル/秒の解像度でアナログ信号をデジタル信号に変換する。なお、AD変換器31自体の構成は、公知の技術で実現でき、たとえば図5の従来技術で示したAD変換器が例示される。
【0021】
なお、AD変換器31は、図3に示すように、変換後の信号として、20サンプリングのデジタル信号を一つのまとまりとして扱い、1チャンネル当たり、20サンプリング分のデジタル信号に変換すると、次のチャンネルのアナログ信号のデジタル信号への変換へ移る。
【0022】
具体的には、セレクタ50が計測開始前の電圧Vo又は電圧V4の第4のロードセル24を選択している状態から、電圧V1の第1のロードセル21の選択へ切り替わると、第1のロードセル21は、第1のロードセル21のアナログ信号を20サンプリングだけ変換して、次に第2のロードセル22のアナログ信号(電圧V2)の20サンプリングの変換へ移り、さらに、第3のロードセル23のアナログ信号の20サンプリングの変換に移り、最後に第4のロードセル24のアナログ信号の20サンプリングの変換に移る。
【0023】
このように、第1のロードセル21から第4のロードセル24までそれぞれ1回ずつ順次行う一連の処理を1サイクルとする。そして、AD変換器31は、16サイクルの変換処理を行う。
【0024】
演算処理部32は、AD変換器31で変換されたデジタル信号を積分して、その積分値に対応する荷重を、計測対象の荷重として表示部40へ通知する。積分値と荷重の対応関係は、所定の式として演算処理部32が記憶してもよいし、所定のテーブルにその対応関係を記述して記憶してもよい。
【0025】
ここでは、図3に示すように、AD変換器31は、アナログ信号を1チャンネル当たり、20サンプリングのデジタル信号に変換するが、演算処理部32は、その20サンプリングのデジタル信号のうち最初の4サンプリングは無効として使用せず、たとえば5番目〜20番目のサンプリングのデジタル信号を有効なデータとして積分する。
【0026】
これは、各チャンネル(21〜24)の出力配分が変化し過渡状態が変化することから、過渡状態の受ける可能性が高いサンプリングと想定されるデジタル信号を除外するためである。ここでは、後述するように、2番目のサンプリングまで過渡状態の影響を受けることが実験で確認できているので、さらにマージンを考慮して5番目以降のサンプリングを積算対象としている。
【0027】
また、演算処理部32は、AD変換器31における16サイクルの処理について、全ての変換後のデジタル信号、つまり、4チャンネル×16サンプリング×16サイクル=1024個のデジタル信号を積算する。上述のように、AD変換器31の解像度が、5120サンプリング/秒であり上述の1024サンプリングの変換には、理論上0.2秒しか処理時間がかからない。また、演算処理部32における積分処理も、積分値に対応する荷重計算も非常に負荷の軽い処理である。第1のロードセル21から第4のロードセル24への切り替えは、非常に高速となる。
【0028】
そして、演算処理部32は、積算した値を重量換算して表示部40に通知する。表示部40は、たとえば液晶パネルなどであり、演算処理部32からその通知を受けて計測対象の荷重を表示する。
【0029】
キャリブレーション部33は、第1のロードセル21から第4のロードセル24の校正を行う。校正手順として、ユーザは、第1のロードセル21から第4のロードセル24が作る正方形の中央部分に所定の質量の荷重をおいて、第1のロードセル21から第4のロードセル24が出力する信号の値が同じになるように調整する。
【0030】
セレクタ制御部34は、セレクタ50に時分割による選択動作を行わせる。具体的には、上述のように、AD変換器31はチャンネル当たりは20サンプリングのデジタル変換処理を行う。したがって、セレクタ制御部34は、AD変換器31があるチャンネルについて20サンプリングのデジタル変換処理を終了すると、次のチャンネルに接続を変更する。
【0031】
なお、演算処理部32やセレクタ制御部34は、たとえば、CPU(Central Processing Unit;中央演算装置)等のLSI(大規模集積回路)やメモリ、及びそのメモリに記憶されてそれぞれの機能を実行するプログラムにより実現される。
【0032】
以上の構成の体重計10について、図4により、検出精度に関するための実験結果を説明する。ここでは、偏置誤差と標準偏差についての実験を行っている。
【0033】
まず、偏置誤差(右側の軸)については、第1〜第4のロードセル21〜24で形成される正方形の1辺を30cmとして、正方形の中心より30mm前方に偏置して100kg重の荷重をかけたときの誤差を示している。
【0034】
第1〜第4のロードセル21〜24の加算対象となるデジタル信号のサンプリング回数を変えて計測している。図4で、加算回数20とあるのは、20サンプリングを全て加算して荷重を算出していることを示している。加算回数16とあるのは、1番目から4番目までのサンプリングを除外し、5番目以降の16サンプリングを加算していることである。
【0035】
加算回数が「20」の場合、誤差が95.4g(0.095%)であり、「19」の場合、誤差は22.4g(0.022%)である。加算対象が3番目のサンプリング以降である加算回数「18」の場合、誤差は、前述の2例と比べ大きく減り、4g(0.004%)である。加算回数が「17」「16」の場合も、誤差は10g(0.01%)未満である。
【0036】
この結果から、20サンプリングのうち、最初の2サンプリングを除外して加算すれば、検出精度が大きく向上するのが確認できた。したがって、上述した体重計10では、マージンをとって4番目までのサンプリングを積算対象から除外しており、過渡状態の影響を排除できるため、この体重計10は、非常に高精度な荷重(体重)検出を行うことができる。
【0037】
標準偏差(左側の軸)については、演算処理部32が1チャンネルの1サイクルにおいて加算するサンプリング数と標準偏差の関係を示している。ここでは、3分間120kg重の一定荷重における各入力チャンネルのサンプリング数の標準偏差の平均を示している。加算回数、つまり加算するサンプリング数が、10サンプリング以上になれば、標準偏差が0.017%未満となり、サンプルのばらつきを抑えることができる。したがって、上述した体重計10は16サンプリングを加算しているので、サンプリングのばらつきを排除できるため、この観点でも、この体重計10は、非常に高精度な荷重(体重)検出を行うことができる。
【0038】
このように、本実施形態では、信号選択手段としてのセレクタ50により、複数の荷重変換器としての第1〜第4のロードセル21〜24の出力が順次高速で切り替えて取得され、AD変換器31により、セレクタ50において取得されたアナログ信号がデジタル信号に変換され、荷重算出手段としての演算処理部32により、該AD変換器31にて変換されたデジタル信号が積算され、その積算結果を元に荷重が算出されるようにした。
【0039】
すなわち、第1〜第4のロードセル21〜24において出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換する際に、順次高速で第1〜第4のロードセル21〜24を切り替えるとともに、一つの第1〜第4のロードセル21〜24のうち一つからの出力を変換するときには、複数サンプリングに時分割して最初の所定数を利用しないため、チャンネル切り替え時に起因する誤差を低減でき、精度の高い荷重の測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のデジタル秤の一実施形態に係る、体重計の平面図である。
【図2】図1の体重計の機能ブロック図である。
【図3】図1の体重計のAD変換器における信号変換処理について説明する図である。
【図4】図1の体重計のAD変換器の計測における標準偏差及び偏置誤差に関する実験結果を示した図である。
【図5】従来技術に係る、AD変換器の構成例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0041】
10 体重計
20 計測センサ
21 第1のロードセル(荷重変換器)
22 第2のロードセル(荷重変換器)
23 第3のロードセル(荷重変換器)
24 第4のロードセル(荷重変換器)
30 計測制御部
31 AD変換器
32 演算処理部(荷重算出手段)
33 キャリブレーション部
34 セレクタ制御部
40 表示部
50 セレクタ(信号選択手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷重に応じたアナログの電気信号を出力する複数の荷重変換器と、
これらの複数の荷重変換器の出力を順次高速で切り替えて取得する信号選択手段と、
該信号選択手段において取得されたアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
該AD変換器にて変換されたデジタル信号を積算し、積算結果を元に荷重を算出する荷重算出手段とを有する
ことを特徴とするデジタル秤。
【請求項2】
前記信号選択手段は、
前記複数の荷重変換器の検出出力を高速で切り替えて取得する処理を複数サイクル行い、
前記荷重算出手段は、前記複数サイクルにわたる検出出力を積算する
ことを特徴とする請求項1に記載のデジタル秤。
【請求項3】
前記信号選択手段は、一つの前記荷重変換器につき、複数サンプリング数の検出出力を1サイクルにおける検出出力として連続して取得し、
前記荷重算出手段は、前記複数サンプリング数の検出出力のうち、最初の所定サンプリング数の検出出力を積算しない
ことを特徴とする請求項2に記載のデジタル秤。
【請求項4】
前記AD変換器は、PWM方式のAD変換器であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のデジタル秤。
【請求項5】
荷重に応じたアナログの電気信号を出力する複数の荷重変換器の出力を順次高速で切り替えて取得する信号選択工程と、
該取得されたアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換工程と、
該変換されたデジタル信号を積算し、積算結果を元に荷重を算出する荷重算出工程とを有する
ことを特徴とする計測方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−36613(P2009−36613A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200668(P2007−200668)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【出願人】(000133179)株式会社タニタ (303)