説明

デスケーリング装置

【課題】デスケーリング用ヘッダーにおいて、隣接するノズル用連通孔間の壁部の強度を確保したまま、隣接するノズル用連通孔間の距離を小さくすることができるデスケーリング装置を提供する。
【解決手段】デスケーリング装置1は、デスケーリング用ヘッダー10の内径面と外壁面との間に形成され、水供給用通路11と、複数のデスケーリングノズル20の各々に設けられたノズル孔との間を連通させる複数のノズル用連通孔12を備える。各ノズル用連通孔12は、ヘッダー10の内径側を、水供給用通路11の中心軸CLが延びる方向を短径とするとともに水供給用通路11の円周方向を長径とした楕円形状12aとし、ヘッダー10の外壁側を、真円形状12bとし、ヘッダー10の内径側から外壁側に向けて楕円形状から真円形状に連続的に変化する形状で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被圧延材の表面酸化鉄(スケール)を除去するデスケーリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被圧延材の圧延ラインでは、被圧延材を酸化性雰囲気の加熱炉に装入し、通常1100〜1300℃の温度域で数時間加熱した後に熱間圧延する。熱間圧延の際には、加熱時に生成した一次スケールおよび加熱炉から抽出後に生成する二次スケールが被圧延材の表面に生じる。このようなスケールが除去されずに被圧延材が圧延されると、スケールが製品である鋼板の表面に食い込み、スケール疵となって残る。このスケール疵は、鋼板の表面性状を著しく損なうとともに、曲げ加工時にクラック発生の起点となるため、製品品質に重大な影響を及ぼす。
【0003】
このため、従来にあっては、被圧延材の表面に生成されたスケールを除去する技術として、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。
特許文献1に記載されたデスケーリングノズルは、ノズルから水を吐出させて被圧延材表面のスケールを除去するためのものであり、ノズルが、先端部の凹面又は凹部で開口した吐出孔と、この吐出孔から延びるテーパ部と、このテーパ部に連なる径大部とで構成されたノズル孔を備えているものである。
【0004】
ところで、特許文献1に記載されたようなデスケーリングノズルは、例えば、図6に示すデスケーリング装置に用いられるのが一般的である。図6は、従来例のデスケーリング装置を示し、(A)はデスケーリング装置の模式図、(B)は(A)の矢印6B−6Bから見た図である。
図6(A)に示すデスケーリング装置101は、有底円筒管状なすデスケーリング用ヘッダー10と、デスケーリング用ヘッダー10にアダプタ121を介して取付けられた複数のデスケーリングノズル120とを備えている。
【0005】
ここで、デスケーリング用ヘッダー110は、中心軸CLを中心とした断面円形状で中心軸CLが延びる方向に沿って片端(図6(A)における左端)から右方に延びる水供給用通路111を備えている。水供給用通路111は、デスケーリング用ヘッダー110の左端に開口し、右方において閉鎖され、その開口側が図示しない水供給源に接続されている。デスケーリング用ヘッダー110は、水供給用通路111の中心軸CLが被圧延材130の幅方向に延びるように設置されている。
【0006】
また、複数のデスケーリングノズル120は、図6(A)に示すように、デスケーリング用ヘッダー110の外径面に、水供給用通路111の中心軸CLに沿って、即ち被圧延材130の幅方向に沿って取り付けられる。各デスケーリングノズル120は、水供給用通路111の中心軸CLが延びる方向に対して直交する方向に被圧延材130に向けて取り付けられ、噴射水が被圧延材130の全幅を覆うように取り付けられている。隣接するデスケーリングノズル120の配置ピッチはP2となっている。
【0007】
そして、デスケーリング用ヘッダー110の内径面と外径面との間には、図6(A)、(B)に示すように、水供給用通路111と、デスケーリングノズル120に設けられたノズル孔(図示せず)との間を連通させる複数のノズル用連通孔112が形成されている。このノズル用連通孔112は、図6(B)に示すように、デスケーリング用ヘッダー110の内径側(水供給用通路111側)からデスケーリング用ヘッダー110の外径側(デスケーリングノズル120側)にかけて同一の直径を有する真円形状で形成されている。
【0008】
このようなデスケーリング装置101において、被圧延材130の表面に形成されたスケールを除去する際には、水供給源から図6(A)における矢印Xで示す方向(水供給用通路111の中心軸CLが延びる方向)に水供給用通路111内に水が送水され、その水が各ノズル用連通孔112を通って各デスケーリングノズル120から被圧延材130の表面上に噴射される。その際、各デスケーリングノズル120からの噴射水の噴射角は図6(A)に示すようにθ2であり、ノズル先端から噴射水の被圧延材当たり面の端部までの距離がD2となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4084295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、このようなデスケーリング装置101において、デスケーリングの効率を高めるため、最近の製鉄業界では高圧水(14.71MPa(150kg/cm)以上の水圧を有する水)でデスケーリングを行うようになってきた。
このような高圧水でデスケーリングを行う際に、問題となるのはデスケーリング用ヘッダー110における機械的強度が弱い部分の損傷や破壊であり、特に、ノズル用連通孔112の部分(隣接するノズル用連通孔112間の壁部分)が最も薄肉で応力集中がり、損傷や破壊のおそれがある。水圧が高くなれば高くなるほど、十分な強度を確保する必要があるため、薄肉部を厚肉にするために隣接するノズル用連通孔112間の距離を大きくする必要がある。
【0011】
ノズル用連通孔112の孔径を維持したまま隣接するノズル用連通孔112間の距離を大きくすると、ノズル用連通孔112の配列ピッチが大きくなるので、被圧延材130の幅方向を覆うデスケーリングノズル120の数が減るため、各デスケーリングノズル120の噴射角を、低圧水の場合よりも大きくして被圧延材130の全幅の噴射範囲をカバーする必要がある。各デスケーリングノズル120の噴射角を大きくすると、ノズル先端から噴射水の被圧延材当たり面の端部までの距離が低圧水の場合よりも大きくなり、各デスケーリングノズル120から噴射される噴射水の衝突圧が小さくなり、デスケーリング効率が悪くなってしまう問題があった。
【0012】
一方、隣接するノズル用連通孔112間の距離は、デスケーリングノズル120を取り付ける構造上の理由から一定の値よりも小さくすることはできないが、低圧水(14.71MPa(150kg/cm)より小さい水圧を有する水)でデスケーリングを行う際には強度は問題とならなかった。
従って、本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、デスケーリング用ヘッダーにおいて、隣接するノズル用連通孔間の壁部の強度を確保したまま、隣接するノズル用連通孔間の距離を小さくすることができるデスケーリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に係るデスケーリング装置は、管状に形成されるとともに、中心軸を中心とした断面円形状で中心軸が延びる方向に沿って延びる水供給用通路を有し、該水供給用通路の中心軸が被圧延材の幅方向に沿うように設置されたデスケーリング用ヘッダーと、該デスケーリング用ヘッダーの外壁面に前記水供給用通路の中心軸に沿って所定ピッチで取り付けられた複数のデスケーリングノズルと、前記デスケーリング用ヘッダーの内径面と外壁面との間に形成され、前記水供給用通路と、前記複数のデスケーリングノズルの各々に設けられたノズル孔との間を連通させる複数のノズル用連通孔とを備え、水を前記水供給用通路に送水し、当該水が前記水供給用通路から前記各ノズル用連通孔を通って前記各デスケーリングノズルから前記被圧延材の表面に向けて噴射されるデスケーリング装置において、前記各ノズル用連通孔は、前記デスケーリング用ヘッダーの内径側を、前記水供給用通路の中心軸が延びる方向を短径とするとともに前記水供給用通路の円周方向を長径とした楕円形状とし、前記デスケーリング用ヘッダーの外壁側を、真円形状とし、前記デスケーリング用ヘッダーの内径側から外壁側に向けて楕円形状から真円形状に連続的に変化する形状で形成されていることを特徴としている。
【0014】
また、本発明のうち請求項2に係るデスケーリング装置は、請求項1記載のデスケーリング装置において、前記各ノズル用連通孔の楕円形状は、隣接するノズル用連通孔間のピッチPを50〜100mmとし、仮想の真円形状のノズル用連通孔を想定し、その直径dを10〜50mmとした場合において、短半径aと長半径bとの関係が、a:b=1:2〜5となるように設定されることを特徴としている。ここで、「仮想の真円形状のノズル用連通孔」とは、デスケーリング装置に存在はしないが、前記隣接するノズル用連通孔間のピッチPよりも小さい任意の直径を有する真円形状のノズル用連通孔を仮に想定したものを意味する。
更に、本発明のうち請求項3に係るデスケーリング装置は、請求項1又は2記載のデスケーリング装置において、前記水供給用通路に送水される水が14.71MPa以上の圧力を有する高圧水であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明のうち請求項1に係るデスケーリング装置によれば、各ノズル用連通孔は、デスケーリング用ヘッダーの内径側を、水供給用通路の中心軸が延びる方向を短径とするとともに水供給用通路の円周方向を長径とした楕円形状とし、デスケーリング用ヘッダーの外壁側を、真円形状とし、デスケーリング用ヘッダーの内径側から外壁側に向けて楕円形状から真円形状に連続的に変化する形状で形成されているので、各ノズル用連通孔のデスケーリング用ヘッダーの内径側において短径側の応力集中係数が小さくなる。このため、ノズル用連通孔におけるヘッダー内径側の短径側の壁縁にかかる応力が小さくなるので、隣接するノズル用連通孔間の壁部の強度を確保したまま、隣接するノズル用連通孔間の距離を小さくすることができる。従って、高圧水を用いた場合でも、隣接するノズル用連通孔間の距離を、ノズル用連通孔が真円で低圧水を用いた場合とほぼ同じに維持できる。このため、ノズル用連通孔を真円とした場合において、高圧水を用いる際に隣接するノズル用連通孔間の薄肉部の強度を確保するために、隣接するノズル用連通孔間の距離を大きくせざるを得ない場合と比較して、ノズルの先端から噴射水の被圧延材当たり面の幅方向端部までの距離を小さくでき、衝突圧を大きくでき、デスケーリング効率を向上させることができる。
【0016】
また、本発明のうち請求項2に係るデスケーリング装置によれば、請求項1記載のデスケーリング装置において、前記各ノズル用連通孔の楕円形状は、隣接するノズル用連通孔間のピッチPを50〜100mmとし、仮想の真円形状のノズル用連通孔を想定しその直径dを10〜50mmとした場合において、短半径aと長半径bとの関係が、a:b=1:2〜5となるように設定されるので、各ノズル用連通孔のデスケーリング用ヘッダーの内径側を真円とする場合よりも、短径側の応力集中係数が確実に小さくなり、各ノズル用連通孔における短径側の壁縁にかかる応力を確実に小さくすることができるとともに、ノズル用連通孔における長径側の壁縁にかかる応力が高くなりすぎるのを確実に防止することができる。
【0017】
更に、本発明のうち請求項3に係るデスケーリング装置によれば、請求項1又は2記載のデスケーリング装置において、前記水供給用通路に送水される水が14.71MPa以上の圧力を有する高圧水であるので、衝突圧をより大きくでき、デスケーリング効率を一層向上させることができる。この際に、各ノズル用連通孔のデスケーリング用ヘッダーの内径側において短径側の応力集中係数が小さくなっているため、ノズル用連通孔におけるヘッダー内径側の短径側の壁縁にかかる応力を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るデスケーリング装置の実施形態を示し、(A)は模式図、(B)は(A)における矢印1B−1Bから見た図である。
【図2】図1に示すデスケーリング装置において、水供給用通路の中心軸に対して直交する方向から切断した状態のノズル近傍の断面図である。
【図3】図1に示すデスケーリング装置において、(A)はノズル用連通孔をデスケーリング用ヘッダーの内径側から見た平面図、(B)はノズル用連通孔の正面図、(C)はノズル用連通孔をデスケーリング用ヘッダーの外径側から見た底面図である。
【図4】ノズル用連通孔の楕円形状を説明するための図である。
【図5】ノズル用連通孔を真円形状とした場合と、ノズル用連通孔をデスケーリング用ヘッダーの内径側を楕円形状とした場合との発生応力を比較するためのグラフである。
【図6】従来例のデスケーリング装置を示し、(A)はデスケーリング装置の模式図、(B)は(A)の矢印6B−6Bから見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本発明に係るデスケーリング装置の実施形態を示し、(A)は模式図、(B)は(A)における矢印1B−1Bから見た図である。図2は、図1に示すデスケーリング装置において、水供給用通路の中心軸に対して直交する方向から切断した状態のノズル近傍の断面図である。図3は、図1に示すデスケーリング装置において、(A)はノズル用連通孔をデスケーリング用ヘッダーの内径側から見た平面図、(B)はノズル用連通孔の正面図、(C)はノズル用連通孔をデスケーリング用ヘッダーの外径側から見た底面図である。
【0020】
図1に示すデスケーリング装置1は、例えば、熱間圧延ラインにおける加熱炉の出側、粗圧延機の入側、あるいは仕上圧延機の入側に設置され、14.71MPa以上の圧力を有する高圧水を用いて被圧延材30上のスケールを除去するものである。デスケーリング装置1は、被圧延材30の上側と下側に設置され、被圧延材30に対して上下から被圧延材30の表面(上面及び裏面)に向けて水を噴射する。
【0021】
ここで、デスケーリング装置1は、図示しない水供給源に接続されているデスケーリング用ヘッダー(以下、単にヘッダーという)10と、ヘッダー10にアダプタ21を介して取り付けられた複数のデスケーリングノズル(以下、単にノズルという)20とを備えている。
ヘッダー10は、有底円筒管状に形成され、内部に中心軸CLを中心とした断面円形状で中心軸CLが延びる方向に沿って片端(図1(A)における左端)から右方に延びる水供給用通路11を有している。水供給用通路11は、ヘッダー10の左端に開口し、右方において閉鎖され、その開口側が図示しない水供給源に接続されている。ヘッダー10は、水供給用通路11の中心軸CLが被圧延材130の幅方向に延びるように設置されている。
【0022】
また、複数のノズル20は、図1(A)に示すように、ヘッダー10の外径面(外壁面)に、アダプタ21を介して水供給用通路111の中心軸CLに沿って、即ち被圧延材30の幅方向に沿って取り付けられる。各ノズル20は、水供給用通路11の中心軸CLが延びる方向に対して直交する方向に被圧延材30に向けて取り付けられ、噴射水が被圧延材30の全幅を覆うように取り付けられている。隣接するノズル20の配置ピッチはP1となっている。
【0023】
そして、ヘッダー10の内径面と外径面との間には、水供給用通路11と、複数のノズル20の各々に設けられたノズル孔との間を連通させる複数のノズル用連通孔12が形成されている。隣接するノズル用連通孔12の配列ピッチもP1となっている。
【0024】
また、各ノズル用連通孔12は、図1(B)、図2、及び図3に示すように、ヘッダー10の内径側を、水供給用通路11の中心軸CLが延びる方向を短径とし、水供給用通路11の円周方向を長径とした楕円形状12aとしてある。また、各ノズル用連通孔12は、図1(B)、図2、及び図3に示すように、ヘッダー10の外径側を、真円形状12bとし、ヘッダー10の内径側から外径側に向けて楕円形状12aから真円形状12bに連続的に変化する形状で形成してある。真円形状12bの直径は楕円形状12aの短径と同じ大きさである。なお、図2及び図3に示すように、各ノズル用連通孔12のヘッダー外径側には、アダプタ21を取り付けるためのアダプタ取付凹部13が形成されている。
【0025】
ここで、各ノズル20の取付け構造を図2を参照して簡単に説明する。各ノズル20は、ノズル孔を有する略円筒体で形成され、その先端側に外側に突出する取付フランジ20aを備えている。アダプタ21は、ヘッダー10の外形側に溶接22されるとともに、ノズル20を収容可能な略円筒形状のアダプタ本体21aと、アダプタ本体21aに螺合する略円筒形状のキャップ21bとからなっている。各ノズル20の取付けにおいては、アダプタ21のアダプタ本体21aをアダプタ取付凹部13に嵌め込んでから溶接22を施工し、アダプタ本体21aをヘッダー10の外形側に取り付ける。次いで、ノズル20を、アダプタ本体21aの先端側からアダプタ本体21a内に収容するとともに、キャップ21bを先端側からアダプタ本体21aに螺合することによりキャップ21bとアダプタ本体21aとの間でノズル20の取付フランジ20aを挟持する。これにより、各ノズル20は、アダプタ21に取り付けられる。
【0026】
このようなデスケーリング装置1において、被圧延材30の表面に形成されたスケールを除去する際には、水供給源から図1(A)における矢印Xで示す方向(水供給用通路11の中心軸CLが延びる方向)に水供給用通路11内に水が供給され、その水が各ノズル用連通孔12を通って各ノズル20から被圧延材30の表面上に噴射される。
【0027】
ここで、各ノズル用連通孔12において、ヘッダー10の内径側を、水供給用通路11の中心軸CLが延びる方向を短径とし、水供給用通路11の円周方向を長径とした楕円形状12aとすることにより、各ノズル用連通孔12のヘッダー10の内径側を真円とする場合よりも、短径側の応力集中係数が小さくなる。このため、ノズル用連通孔12における短径側の壁縁にかかる応力が小さくなるので、隣接するノズル用連通孔12間の壁部の強度を確保したまま、隣接するノズル用連通孔12間の距離を小さくすることができる。従って、高圧水を用いた場合でも、隣接するノズル用連通孔12間の距離を、ノズル用連通孔が真円で低圧水を用いた場合とほぼ同じに維持できる。このため、図6に示すように、ノズル用連通孔112を真円とした場合において、高圧水を用いる際に隣接するノズル用連通孔112間の薄肉部の強度を確保するために、隣接するノズル用連通孔112間の距離を大きくせざるを得ない場合と比較して、ノズル20の先端から噴射水の被圧延材当たり面の幅方向端部までの距離を小さくでき、衝突圧を大きくでき、デスケーリング効率を向上させることができる。
【0028】
そして、隣接するノズル用連通孔12間の距離は、図6に示す隣接するノズル用連通孔112間の距離よりも小さいので、隣接するノズル用連通孔12の配列ピッチP1は、隣接するノズル用連通孔112間の配列ピッチP2よりも小さい。従って、被圧延材30の全幅を噴射するために設置されるノズル20の数もノズル120の数よりも多く、各ノズル20からの噴射水の噴射角θ1も各ノズル120からの噴射水の噴射角θ2よりも小さい。
【0029】
また、ノズル20の先端から噴射水の被圧延材当たり面の幅方向端部までの距離D1も、ノズル120の先端から噴射水の被圧延材当たり面の幅方向端部までの距離D2よりも小さい。
ここで、図1及び図6を参照して、ノズル用連通孔を真円からヘッダー10の内径側を楕円形状とした場合に、ノズル20の先端から噴射水の被圧延材当たり面の幅方向端部までの距離D1が、ノズル120の先端から噴射水の被圧延材当たり面の幅方向端部までの距離D2よりも小さくなることについて説明する。
【0030】
図6(A)に示すように、ノズル120の先端から被圧延材130までの距離は、ノズル用連通孔112を真円とした場合、ノズル120の先端から噴射水の被圧延材当たり面の幅方向端部までの距離はD2、噴射水の噴射角はθ2であるので、D2COS(θ2/2)で表わせる。一方、図1(A)に示すように、ノズル用連通孔12のヘッダー10の内径側を楕円形状とした場合、ノズル20の先端から被圧延材30までの距離は、ノズル20の先端から噴射水の被圧延材当たり面の幅方向端部までの距離はD1、噴射水の噴射角はθ1であるので、D1COS(θ1/2)で表わせる。ノズル120の先端から被圧延材130までの距離とノズル20の先端から被圧延材30までの距離は等しいので、D2COS(θ2/2)=D1COS(θ1/2)となる。
従って、D2/D1=COS(θ1/2)/COS(θ2/2)が成立する。ここで、前述したように、各ノズル20からの噴射水の噴射角θ1は各ノズル120からの噴射水の噴射角θ2よりも小さいので、D2はD1よりも大きく、D1はD2よりも小さくなる。
【0031】
次に、図4を参照して、各ノズル用連通孔12におけるヘッダー10の内径側の楕円形状12aについて説明する。
各ノズル用連通孔12の楕円形状12aは、図4において、隣接するノズル用連通孔12間のピッチPを50〜100mmとし、仮想の真円形状のノズル用連通孔を想定し、その直径dを10〜50mmとした場合において、短半径aと長半径bとの関係が、a:b=1:2〜5となるように設定される。ここで、「仮想の真円形状のノズル用連通孔」とは、デスケーリング装置に存在はしないが、前記隣接するノズル用連通孔12間のピッチPよりも小さい任意の直径を有する真円形状のノズル用連通孔を仮に想定したものを意味する。
【0032】
このような形状に楕円形状を設定をする方法について述べると、先ず、仮想の真円形状のノズル用連通孔12を想定し(図4において上下真中の図を参照)、その応力集中を考える。
当該真円形状のノズル用連通孔12において、ヘッダー10の水供給通路の中心軸が延びる方向のA部でのヘッダー10の断面を考えたとき、ノズル用連通孔12の分だけヘッダー10の肉厚が減少しており(図4における上の図を参照)、ヘッダー10の肉厚は図中の斜線部のみとなる。従って、このA部でのヘッダー断面を考えたときのヘッダー肉厚の断面充填率nを次のように設定する。
=(P−d)/P …(1)
【0033】
ここで、Pは隣接するノズル用連通孔12間のピッチ、dは仮想の真円形状のノズル用連通孔12の直径である。
また、当該真円形状のノズル用連通孔12において、ヘッダー10の水供給通路の中心軸が延びる方向と直交する水供給通路の円周方向のB部でのヘッダー10の断面を考えたとき、そのヘッダー肉厚の断面充填率nを次のように設定する。
=(1+n)/2=(2P−d)/2P …(2)
【0034】
そして、A部でのヘッダー肉厚の断面充填率nとB部での断面充填率nの逆数分だけヘッダー10の内径部応力σが応力集中すると考える。ここで、A部は円孔の応力集中係数である3を考慮し、B部は円周方向力に対しては円孔の応力集中はしないと考えると、A部の応力σA0、B部の応力σB0はそれぞれ以下のように設定できる。
σA0=3×1/n×σ=3(P−d)/P×σ …(3)
σB0=1/n×σ=2P/(2P−d)×σ …(4)
【0035】
次に、楕円形状のノズル用連通孔12(図4において下の図を参照)の応力集中を考えると、楕円形状のノズル用連通孔12において、ヘッダー10の水供給通路の中心軸が延びる方向のA部での応力σ(ノズル用連通孔12における短径側の壁縁にかかる応力)及びヘッダー10の水供給通路の中心軸が延びる方向と直交する水供給通路の円周方向のB部での応力σ(ノズル用連通孔12における長径側の壁縁にかかる応力)が最も小さくなるのは、σ=σのときである。
σ=σ …(6)
【0036】
また、楕円孔の応力集中の基礎式(機械工学便覧A4)より、楕円形状の短半径をa、長半径をb、真円形状のノズル用連通孔12におけるA部での応力σA0、真円形状のノズル用連通孔12におけるB部での応力σB0とすると、以下の式が成立する。
σ/σA0=1+2(a/b) …(8)
σ/σB0=1+2(b/a) …(9)
【0037】
この(8)式及び(9)式より、以下の(10)式及び(11)式が導かれる。
σ=(1+2(a/b))σA0 …(10)
σ=(1+2(b/a))σB0 …(11)
(6)式及び(10)、(11)式より、以下の(12)式が導かれる。
(1+2(a/b))σA0=(1+2(b/a))σB0 …(12)
【0038】
この(12)式を変形して、以下の(13)式が導かれる。
σB0/σA0=〔a/b〕〔(b+2a)/(a+2b)〕 …(13)
そして、(3)式、(4)式、及び(13)式より、σA0とσB0を消去し、一般的なヘッダーの仕様である、隣接するノズル用連通孔12間のピッチPを50〜100mmとし、仮想の真円形状のノズル用連通孔12の直径dを10〜50mmとした場合、短半径aと長半径bとの関係が、a:b=1:2〜5となる。
【0039】
このように、各ノズル用連通孔12の楕円形状を、隣接するノズル用連通孔12間のピッチPを50〜100mmとし、仮想の真円形状のノズル用連通孔を想定しその直径dを10〜50mmとした場合において、短半径aと長半径bとの関係が、a:b=1:2〜5となるように設定することにより、各ノズル用連通孔12のヘッダー10の内径側を真円とする場合よりも、短径側の応力集中係数が確実に小さくなり、ヘッダー10の水供給通路の中心軸が延びる方向のA部での応力σ、即ちノズル用連通孔12における短径側の壁縁にかかる応力を確実に小さくすることができるとともに、ヘッダー10の水供給通路の中心軸が延びる方向と直交する水供給通路の円周方向のB部での応力σ、即ちノズル用連通孔12における長径側の壁縁にかかる応力が高くなりすぎるのを確実に防止することができる。
【0040】
なお、長半径bが短半径aの5倍よりも大きいと、楕円形状のノズル用連通孔12において、ヘッダー10の水供給通路の中心軸が延びる方向と直交する水供給通路の円周方向のB部での応力σが高くなりすぎてしまうおそれがある。
その一方、長半径bが短半径aの2倍よりも小さいと、楕円形状のノズル用連通孔12において、ヘッダー10の水供給通路の中心軸が延びる方向のA部での応力σが真円形状のノズル用連通孔12におけるA部での応力σA0に近くなりA部での応力σがあまり小さくならない可能性がある。
【0041】
従って、隣接するノズル用連通孔12間のピッチPを50〜100mmとし、仮想の真円形状のノズル用連通孔12の直径dを10〜50mmとした場合、短半径aと長半径bとの関係が、a:b=1:2〜5とすることが好ましい。
そして、ノズル用連通孔12を真円形状とした場合と、ノズル用連通孔12をヘッダー10の内径側を楕円形状12aとした場合との発生応力の比較を図5に示す。ここで、比較されるノズル用連通孔12を真円形状とした場合の直径dは36mm、隣接するノズル用連通孔12間のピッチPは65mmである。また、ノズル用連通孔12の楕円形状は、隣接するノズル用連通孔12間のピッチPを65mmとし、仮想の真円形状のノズル用連通孔を想定しその直径dを36mmとした場合において、短半径aを21mmとし、長半径を50mmに設定してある。
【0042】
図5を参照すると、ノズル用連通孔12をヘッダー10の内径側を楕円形状とし、ヘッダー10の水供給通路の中心軸が延びる方向のA部での応力σ、すなわちノズル用連通孔12における短径側の壁縁にかかる応力が、ノズル用連通孔12を真円形状とし、ノズル用連通孔12におけるA部での応力σA0に対して47%減少していることがわかる。
また、図5を参照すると、前述の(1)〜(13)式を用いて簡易な方法で短半径a及び長半径bを手計算により算出した値と、有限要素法(FEM)解析による解析値とがほぼ同じ値となることもわかる。
【0043】
なお、ノズル用連通孔12のヘッダー10の外径側は、アダプタ21を取り付ける構造上、溶接取付けである必要があるため、真円12bであると都合がよい。このため、各ノズル用連通孔12は、ヘッダー10の内径側を、水供給用通路11の中心軸CLが延びる方向を短径とするとともに水供給用通路11の円周方向を長径とした楕円形状とし、ヘッダー10の外壁側を、真円形状とし、ヘッダー10の内径側から外壁側に向けて楕円形状から真円形状に連続的に変化する形状で形成してある。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに種々の変更、改良を行うことができる。
例えば、各ノズル用連通孔12のヘッダー10の内径側の形状は、水供給用通路11の中心軸CLが延びる方向を短径とするとともに水供給用通路11の円周方向を長径とした楕円形状となっていればよく、楕円形状の設定として、隣接するノズル用連通孔間のピッチPを50〜100mmとし、仮想の真円形状のノズル用連通孔を想定し、その直径dを10〜50mmとした場合において、短半径aと長半径bとの関係が、a:b=1:2〜5となるように設定する必要は必ずしもない。
【0045】
また、水供給用通路11に送水される水は14.71MPa以上の圧力を有する高圧水である必要は必ずしもなく、14.71MPaよりも低い圧力を有する低圧水であってもよい。
更に、ヘッダー10は、管状に形成され、中心軸CLを中心とした断面円形状で中心軸CLが延びる方向に沿って延びる水供給用通路11を有するものであれば、必ずしも有底円筒管状に形成される必要はない。
【実施例】
【0046】
本発明の効果を検証すべく、図1に示す本発明例のデスケーリング装置1及び図6に示す比較例のデスケーリング装置101を用いて被圧延材30に対して水を噴射し、そのときの衝突圧をそれぞれ調査した。
本発明例のデスケーリング装置1及び比較例のデスケーリング装置101を用いて操業する際の共通の操業条件としては、デスケーリング圧力(水供給用通路に送水される水の圧力)を49.03MPa、ヘッダー水量(デスケーリング水量)を5.0m/min、被圧延材の厚さを30mm〜55mm、通板速度を0.67m/sとした。
【0047】
また、本発明例のデスケーリング装置1を用いて操業する際の共通の操業条件としては、隣り合うノズル用連通孔間の距離を65mm、ノズル数を上側27本、下側27本、ヘッダーの幅を1755mm、各ノズル用連通孔のヘッダー内径側楕円形状をφ21×50mm、ヘッダー外径側真円形状をφ21mmとした。
また、比較例のデスケーリング装置1を用いて操業する際の共通の操業条件としては、隣り合うノズル用連通孔間の距離を130mm、ノズル数を上側14本、下側13本、ヘッダーの幅を上ヘッダー1820mm、下ヘッダー1690mm、各ノズル用連通孔の真円形状をφ36mmとした。
【0048】
その結果、本発明例のデスケーリング装置1を用いて操業した場合、隣り合うノズル用連通孔間の距離が65mm、噴射水の噴射角が34°で、ノズルの先端から噴射水の被圧延材当たり面の材料幅方向端部までの距離が11.9mm、そのときの衝突圧が4.43MPaN/mであった。
【0049】
一方、比較例のデスケーリング装置1を用いて操業した場合、隣り合うノズル用連通孔間の距離が130mm、噴射水の噴射角が58°で、ノズルの先端から噴射水の被圧延材当たり面の材料幅方向端部までの距離が13.0mm、そのときの衝突圧が3.84MPaであった。
従って、本発明例のデスケーリング装置1を用いて操業した場合の衝突圧は、比較例のデスケーリング装置1を用いて操業した場合の衝突圧に対し、〔(4.43/3.84)−1〕×100=15%高くなった。この結果、デスケーリング効率も15%上昇した。
【符号の説明】
【0050】
1 デスケーリング装置
10 デスケーリング用ヘッダー
11 水供給用通路
12 ノズル用連通孔
12a 楕円形状
12b 真円形状
13 アダプタ取付凹部
20 デスケーリングノズル
21 アダプタ
30 被圧延材
CL 水供給用通路の中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状に形成されるとともに、中心軸を中心とした断面円形状で中心軸が延びる方向に沿って延びる水供給用通路を有し、該水供給用通路の中心軸が被圧延材の幅方向に沿うように設置されたデスケーリング用ヘッダーと、該デスケーリング用ヘッダーの外壁面に前記水供給用通路の中心軸に沿って所定ピッチで取り付けられた複数のデスケーリングノズルと、前記デスケーリング用ヘッダーの内径面と外壁面との間に形成され、前記水供給用通路と、前記複数のデスケーリングノズルの各々に設けられたノズル孔との間を連通させる複数のノズル用連通孔とを備え、水を前記水供給用通路に送水し、当該水が前記水供給用通路から前記各ノズル用連通孔を通って前記各デスケーリングノズルから前記被圧延材の表面に向けて噴射されるデスケーリング装置において、
前記各ノズル用連通孔は、前記デスケーリング用ヘッダーの内径側を、前記水供給用通路の中心軸が延びる方向を短径とするとともに前記水供給用通路の円周方向を長径とした楕円形状とし、前記デスケーリング用ヘッダーの外壁側を、真円形状とし、前記デスケーリング用ヘッダーの内径側から外壁側に向けて楕円形状から真円形状に連続的に変化する形状で形成されていることを特徴とするデスケーリング装置。
【請求項2】
前記各ノズル用連通孔の楕円形状は、隣接するノズル用連通孔間のピッチPを50〜100mmとし、仮想の真円形状のノズル用連通孔を想定し、その直径dを10〜50mmとした場合において、短半径aと長半径bとの関係が、a:b=1:2〜5となるように設定されることを特徴とする請求項1記載のデスケーリング装置。
【請求項3】
前記水供給用通路に送水される水が14.71MPa以上の圧力を有する高圧水であることを特徴とする請求項1又は2記載のデスケーリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−103252(P2013−103252A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249156(P2011−249156)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)