説明

デバイス及びその製造方法

【課題】デバイス製造時における変形が低減され、接着剤を使用することなく強固な接合が可能であり、かつ、デバイス製造時に流路の化学修飾が可能なデバイスの提供。
【解決手段】2枚の接合された基板を含み、前記2枚の基板の対向する側の表面の少なくとも一方に凹部が形成されていることにより流路が形成されているデバイスであって、前記2枚の基板が、架橋剤(A)を介した共有結合により接合しており、前記流路の内壁表面に前記架橋剤(A)が露出しているデバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロチップデバイス(マイクロ流体デバイス)を用いて、遺伝子解析、臨床診断、薬物スクリーニング等の化学、生化学、薬学、医学、獣医学の分野における分析や化合物の合成等が行われている。マイクロチップデバイスを用いることで、例えば、従来の分析に比べて、必要な試薬の量を低減できたり、分析時間を短縮できたり、等の利点がある。例えば、血清中の蛋白質であるAFP、プロトロンビンなどを分析する方法や、別の例としては、マイクロチップで行うキャピラリ電気泳動法によってヘモグロビンA1c(HbA1c)を分離分析する方法などが提案されている(特許文献1)。そして、電気泳動法を用いて安定型ヘモグロビンA1cを高精度に測定するために、イオン性ポリマーを泳動路の内面に固定化し、かつ、硫酸化多糖類を含有する緩衝液を使用することを含む、ヘモグロビンA1cの測定方法も開示されている(特許文献2)。
【0003】
マイクロチップデバイスは、主にガラス基板を用いて製造されてきたが、衝撃により破損しやすい問題や、輸送時及び廃棄時におけるその重量の問題等があり、軽量で破損しにくく、かつ安価である樹脂基板の利用が進んでいる。微細流路を有する樹脂成型品の接合技術には、接着剤を使用するものや、該樹脂の溶融温度以上での融着などがある。しかしながら、接着剤や溶融した樹脂が微細流路内に入り込むことによる流路の変形や閉塞の問題がある。これらの問題を解決するため、さまざまな接合技術が開発されている。
【0004】
特許文献3には、プラスチック表面を酸化処理する工程、及び酸化処理によって生成した含酸素官能基を還元処理する工程を有するプラスチック基板が記載されている。特許文献4には、真空紫外線を照射して前処理を行い、ついで基板を積層し塑性変形温度未満までの温度に加熱し、あるいは加熱することなく加圧して両者を接合することによって、樹脂製微小流路化学デバイスを製造する方法が記載されている。特許文献5には、同一の組成を持った紫外光透過性高分子材料同士であって、液状と固体との形状を用意し、当接し加熱処理により接合する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2008/029685
【特許文献2】特許4129054号公報
【特許文献3】特開2005−121443号公報
【特許文献4】特開2006−187730号公報
【特許文献5】特開2007−237484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイクロチップデバイスの製造において、基板の接合面の剥離は、流路から分析試料が漏れる原因となる。流路が微細なため、微量の漏れであっても流路内の流動特性、例えば流速や流体圧力等に影響を及ぼすことから、強固な接合強度が求められる。また、流路の変形や流路の面精度等も流動特性に影響を与える原因となる。
【0007】
また、マイクロチップデバイスの流路内面への化学修飾は、一般に、流路が形成されてから処理されており、手順が複雑になるという問題がある。流路内面への化学修飾は、キャピラリ流路内の電気浸透流(EOF)を発生させるため、あるいは、電気浸透流の発生を抑制するために好ましい場合がある。また、流路内面への分析試料の付着や吸着を抑制するために流路内面への化学修飾が好ましい場合がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、デバイス製造時における変形が低減され、接着剤を使用することなく基板間の強固な接合が可能であり、かつ、デバイス製造時に流路の化学修飾が可能なデバイス、及び前記デバイスの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一態様として、2枚の接合された基板を含み、前記2枚の基板の対向する側の表面の少なくとも一方に凹部が形成されていることにより流路が形成されているデバイスであって、前記2枚の基板が、架橋剤(A)を介した共有結合により接合しており、前記流路の内壁表面に前記架橋剤(A)が露出しているデバイスに関する。
【0010】
本発明は、その他の態様として、2枚の接合された基板を含み、前記2枚の基板の対向する側の表面の少なくとも一方に凹部が形成されていることにより流路が形成されているデバイスの製造方法であって、前記2枚の基板の対向する表面に架橋剤(A)を接触させ、重ね合わせて前記2枚の基板間で反応させることにより、前記2枚の基板が前記架橋剤(A)を介して共有結合により接合し、かつ、前記流路の内壁表面に前記架橋剤(A)が露出している構成とすることを含むデバイスの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基板間が架橋剤(A)により共有結合で接合されるため、接着剤を使用することなく基板間が強固に接合され、流路の変形が抑制されたデバイスを提供できる。また、本発明によれば、接合に使用された架橋剤(A)が流路の内面に露出しているデバイスを提供できる。また、本発明によれば、デバイス製造時に流路内の化学修飾が可能なデバイスの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るデバイスの基板の概略平面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るデバイスの構成概略図である。図2Aは平面図、図2Bは図2AのX−X断面図、図2Cは図2AのY−Y断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るデバイスの製造方法の一例を示す模式図である。
【図4】基板表面の修飾状態の一例(図4A)及び基板の接合状態の一例(図4B)を説明する概略図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るデバイスの構成概略図である。図5Aは概略模式図、図5Bは図5AのII-II断面図、図5Cは図5AのIV-IV断面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係るデバイスの構成概略図である。図6Aは概略模式図、図6Bは図6AのII-II断面図、図6Cは図6AのIV-IV断面図である。
【図7】本発明の第4の実施形態に係るデバイスの構成概略図である。図7Aは上面図、図7Bは図7AのII-II断面図である。
【図8】本発明の第5の実施形態に係るデバイスの構成概略図である。図8Aは、断面図、図8Bは図8AのIII-III断面図である。
【図9】本発明のデバイスを用いた測定方法に用いられうる分析装置の一例を示す構成概略図である。
【図10】実施例2の結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、2枚の基板を貼り合わせることにより流路を備えるデバイスを製造する方法において、架橋剤をデバイス製造時における基板の接合と流路の修飾の双方に利用することで、基板間の強固な接合と流路の変形抑制と流路の修飾とが可能になるという知見に基づく。
【0014】
すなわち、本発明は、一態様として、2枚の接合された基板を含み、前記2枚の基板の対向する側の表面の少なくとも一方に凹部が形成されていることにより流路が形成されているデバイスであって、前記2枚の基板が、架橋剤(A)を介した共有結合により接合しており、前記流路の内壁表面に前記架橋剤(A)が露出しているデバイス(以下、「本発明のデバイス」ともいう。)に関する。
【0015】
本発明のデバイスは、架橋剤(A)を介した共有結合により接合されているから、基板間の接合が強固であるという効果を奏する。また、接合が従来の加圧接合や溶融接合の条件よりも穏やかな圧力や温度で行えるから、流路の変形が抑制されているという効果を奏し得る。さらに、前記架橋剤(A)は流路内面に露出しているため、前記架橋剤(A)による流路内面の化学修飾がデバイスの製造時(とりわけ、基板の接合時)に同時に行えることができる。このため、例えば、流路がキャピラリである場合、電気浸透流の発生の制御がデバイスの製造時(とりわけ、基板の接合時)に同時に行えるという効果を奏し得る。
【0016】
[基板]
本発明のデバイスにおいて使用する基板の材料としては、無機材料及び有機材料が使用でき、特に限定されるものではないが、例えば、樹脂基板、石英基板、ガラス基板等が挙げられる。これら中でも、取り扱い性及び安価の観点から、樹脂基板が好ましい。樹脂基板の材料としては、流路の成型が容易で変形しにくいものが好ましく、例えば、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、流路の成型が容易で変形しにくいという観点から、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニリデン、環状ポリオレフィン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスチレン等が好ましく使用でき、ポリメタクリル酸メチルがより好ましい。また、場合によっては、本発明のデバイスにおいて使用する2基板の材料が異なっても良い。例えば、無機材料と有機材料の組合せや、異なる有機材料の組合せなどが挙げられる。無機材料と有機材料の組合せとしては特に制限されるものではないが、石英基板と熱可塑性樹脂の組合せなどが挙げられる。異なる有機材料の組合せとしては特に制限されるものではないが、アクリル樹脂と環状ポリオレフィンの組合せなどが挙げられる。
【0017】
本発明のデバイスにおいて使用する基板は、2枚の対向する側の表面の少なくとも一方に凹部が形成される基板である。この凹部が対向する側の基板表面で覆われることで流路が形成される。凹部の寸法は後述する流路に対応させることが好ましい。基板表面の凹部の形成方法は、特に制限されず、成型、エッチング、切削加工などにより形成できる。また、基板には、必要に応じて貫通孔が形成されていてもよい。基板の対向する側の表面には、後述する官能基(D)、官能基(C)、架橋剤(B)、及び/又は架橋剤(A)が導入されていることが好ましい。基板の厚みや大きさは適宜調整・選択できる。
【0018】
[流路]
本発明のデバイスは、凹部を有する基板が接合されることで形成される流路を備える。前記流路の寸法、長さ、形状は特に制限されない。流路の一実施形態としては、キャピラリが挙げられる。キャピラリとしては、流路断面の外接円の直径が例えば140μm以下、一般的に20〜70μmの流路が挙げられる。流路の断面の形状は、矩形、半円形、台形、円形、楕円形であってもよい。また、流路の形状は、直線に限らず、端部に分岐路を有する等任意に設定することができる。例えば、十文字形状、T字形状、Y字形状、X字形状等があり、また、それらを組み合わせた形状でもよい。
【0019】
本発明のデバイスにおける流路は、内壁表面に架橋剤(A)が露出している。したがって、前記流路がキャピラリであり、前記架橋剤(A)をイオン性とした場合、前記流路に水溶液を配置し電圧を印加することにより、電気浸透流を発生できる。一方、前記架橋剤(A)を中性のものとすれば、流路内の電気浸透流の発生及びその影響を抑制できる。
【0020】
本明細書において「架橋剤(A)が(基板等の表面に)露出する」とは、架橋剤(A)の官能基の1つ又は2つ以上が、他の分子と、好ましくは基板上の分子と、共有結合を形成している状態で、架橋剤(A)が基板表面に固定化されることをいう。また、本明細書において、架橋剤(A)、架橋剤(B)、官能基(C)及び官能基(D)はそれぞれ、他の分子と反応する前のものに加え、特に言及がない場合、他の分子と反応した後の状態のもの、及び、反応性の官能基が不活化されているものも含みうる。
【0021】
[デバイス]
本発明のデバイスは、流路を備えるから、試料の分析装置、分析用具、又は分析チップとして利用できる。本発明のデバイスは、混合、抽出、相分離の操作や化学反応を行わせ、必要に応じで物質を生成させる装置、用具、又はチップとして利用できる。
【0022】
本発明のデバイスは、一実施形態において、試料の分離分析法に使用することができ、より具体的には、キャピラリ電気泳動法のマイクロチップとすることができる。前記試料としては、特に制限されるものではなく、試料原料から調製したものあるいは該原料そのものがあげられる。前記試料原料としては、特に制限されるものではなく、例えば、水溶液の試料、生体試料、及び食品等が挙げられる。生体試料としては、特に制限されるものではなく、例えば、血液、血液中の成分を含む血液由来物等、菌等の培養液、植物等の抽出液等が挙げられる。血液中の成分としては、例えば、血清、血漿、赤血球、白血球、及び血小板等が挙げられる。血液としては、生体から採取された血液が挙げられる。赤血球成分を含む血液由来物としては、血液から分離又は調製されたものであって赤血球成分を含むものが挙げられ、例えば、血漿が除かれた血球画分や、血球濃縮物、血液又は血球の凍結乾燥物、全血を溶血処理した溶血試料、遠心分離血液、自然沈降血液、洗浄血球などを含む。分析対象としては、特に制限されるものではないが、例えば、ヌクレオチド鎖(例えば、オリゴヌクレオチド鎖、ポリヌクレオチド鎖)、染色体、ペプチド鎖(例えば、C−ペプチド、アンジオテンシンI等)、蛋白質(例えば、ヘモグロビン、ヘモグロビンA1c、免疫グロブリンA、免疫グロブリンE、免疫グロブリンG、免疫グロブリンM、アルブミン、これらの分解産物等)、酵素(例えば、アミラーゼ、アルカリホスファターゼ、γ−グルタミルトランスファラーゼ、リパーゼ、クレアチンキナーゼ、乳酸脱水素酵素、グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)、細菌(例えば、結核菌、肺炎球菌、ブドウ球菌、大腸菌、ヘリコバクター・ピロリ等)、ウイルス(例えばヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、HBV、HCV、HIV等)、真菌(例えば、カンジダ、クリプトコッカス等)、微生物に由来するタンパク質又はペプチド或いは糖鎖抗原、アレルギーの原因となる各種アレルゲン(例えば、ハウスダスト、ダニ、スギ・ヒノキ・ブタクサ等の花粉、エビ・カニ等の動物、卵白等の食物、真菌、昆虫、薬剤、化学物質等に由来するアレルゲン等)、脂質(例えば、リポタンパク質等)、腫瘍マーカータンパク抗原(例えば、PSA、PGI等)、糖鎖抗原(例えば、AFP、hCG、トランスフェリン、IgG、サイログロブリン、CA19−9、前立腺特異抗原、癌細胞が産生する特殊な糖鎖を有する腫瘍マーカー糖鎖抗原等)、糖鎖(例えば、ヒアルロン酸、β−グルカン、上記糖鎖抗原等が有する糖鎖等)、ホルモン(例えば、T3、T4、TSH、インシュリン、LH等)、化学物質(例えば、ノニルフェノール、4−オクチルフェノール、ベンゾフェノン等の環境ホルモン)等が挙げられる。
【0023】
[架橋剤(A)]
本明細書において、架橋剤(A)は、本発明のデバイスにおける2枚の基板間の接合を仲介するものであり、かつ、本発明のデバイスの流路の内壁表面に露出しているものである。本発明のデバイスの基板の接合状態の一実施形態を図4に示す。図4において、左側Aが流路内壁表面に架橋剤(A)が露出している状態の概略図であり、右側Bが基板と基板とが架橋剤(A)を介して接合している状態の概略図である。なお、図4で示すアミノ化コンドロイチン硫酸は、架橋剤(A)の好ましい一例であり、その他の好ましい一例としては、アミノ化ヘパリン等が挙げられる。
【0024】
架橋剤(A)は、一実施形態において、製造の容易性の観点から、架橋剤(B)を介して基板表面上の官能基(C)と結合するものであることが好ましく、基板間の接合を強固にする観点から、前記架橋剤(A)と前記架橋剤(B)とは共有結合し、前記架橋剤(B)と前記官能基(C)とは共有結合するものであることが好ましい。なお、前記架橋剤(A)は、前記架橋剤(B)と共有結合可能な官能基(D)を複数有することが好ましい。一分子の架橋剤(A)が異なる基板の前記架橋剤(B)とそれぞれ結合することにより、2枚の基板の強固な結合が可能となる。
【0025】
また、前記架橋剤(A)は、その他の実施形態において、ビニル基等の二重結合を含み、ビニル基等の二重結合を含む架橋剤(B)と共重合可能なモノマーであってもよい。
【0026】
架橋剤(A)は、さらにその他の実施形態において、基板表面上の官能基(C)と直接共有結合してもよい。すなわち、架橋剤(B)を使用しない形態であってもよい。この形態において、架橋剤(A)は、前記官能基(C)と共有結合可能な官能基(D)を複数有することが好ましい。あるいは、前記架橋剤(A)は、ビニル基等の二重結合を含み、ビニル基等の二重結合を含む官能基(C)と共重合可能なモノマーであってもよい。
【0027】
架橋剤(A)において、架橋剤(B)、官能基(C)、及び/又は架橋剤(A)自身と結合をする官能基(D)としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、及びビニル基などが挙げられる。
【0028】
[架橋剤(A)の第1の実施形態]
架橋剤(A)の第1の実施形態としては、イオン性基含有多糖類が挙げられる。イオン性基としては、例えば、硫酸基、カルボン酸基、リン酸基及びアミノ基等が挙げられる。イオン性基含有多糖類としては、特に制限されるものではないが、例えば、硫酸基を有する多糖類、カルボン酸基を有する多糖類、リン酸基を有する多糖類、及びアミノ基を有する多糖類等が挙げられる。硫酸基を有する多糖類としては、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、カラギーナン等の硫酸基を有するグリコサミノグリカン等が挙げられる。カルボン酸基を有する多糖類としては、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、アルギン酸、ヒアルロン酸、ペクチン酸等のカルボン酸基を有するグリコサミノグリカン等が挙げられる。また、リン酸基を有する多糖類としては、乳酸菌等が生成するリン酸化多糖類等が挙げられる。アミノ基を有する多糖類としては、キトサン、キチン等が挙げられる。なお、グリコサミノグリカンがN−アセチル化されている場合には、脱N−アセチル化してアミノ化することが好ましい。脱アセチル化したグリコサミノグリカン(アミノ化グリコサミノグリカン)としては、例えば、アミノ化コンドロイチン硫酸、アミノ化ヘパリン等が挙げられる。コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸等は、ヒドラジンによる脱アセチル化によってアミノ化できる。また、ヘパリン及びヘパラン硫酸のアミノ化の方法としては、ピリニジウム塩等を用いた脱硫酸を用いる方法もある。第1の実施形態の架橋剤(A)の官能基(D)としては、カルボキシル基及びアミノ基が挙げられる。
【0029】
[脱N−アセチル化したコンドロイチン硫酸]
本明細書において、脱N−アセチル化したコンドロイチン硫酸とは、上述のとおり、コンドロイチン硫酸のN−アセチル基のアセチル基を除去し、アミノ基を持たせたコンドロイチン硫酸(アミノ化コンドロイチン硫酸)をいう。具体的には、ヒドラジン処理等を行ったコンドロイチン硫酸をいう。本発明に適した脱N−アセチル化コンドロイチン硫酸は、脱N−アセチル化率が、例えば5〜100%であり、好ましくは10〜50%であり、より好ましくは10〜25%である。
【0030】
[架橋剤(A)の第2の実施形態]
架橋剤(A)の第2の実施形態としては、ビニル系モノマーがあげられ、具体例としては特に制限されるものではないが、アクリル酸、ビニルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メチレンコハク酸、アリルスルホン酸、アクリルアミド、メタクリル酸、ターシャリーブチルアクリルアミドスルホン酸等のアクリルモノマーが挙げられる。第2の実施形態は、架橋剤(A)と、架橋剤(B)又は官能基(C)とが共重合する形態を含む。
【0031】
[架橋剤(A)の第3の実施形態]
架橋剤(A)の第3の実施形態としては、アミノ基含有ポリマーがあげられ、具体例としては特に制限されるものではないが、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリ(アクリルアミド,N,N’−ビスアクリルアミド)共重合物、アクリルアミド・アクリル酸共重合物、アクリルアミド・ビニルスルホン酸共重合物等が挙げられる。第3の実施形態の架橋剤(A)の官能基(D)としては、アミノ基、メトキシ基及びカルボキシル基が挙げられる。
【0032】
[架橋剤(B)]
本明細書において架橋剤(B)は、本発明のデバイスの一実施形態において前記架橋剤(A)と基板表面上の官能基(C)との結合を仲介するものであり、前記架橋剤(A)及び前記官能基(C)とそれぞれ共有結合するものである(図4)。
【0033】
[架橋剤(B)の第1の実施形態]
架橋剤(B)の第1の実施形態としては、前記架橋剤(A)の第1の実施形態に対応するものであって、例えば、両末端にアルデヒド基を有するジアルデヒド類、両末端にカルボン酸基を有するジカルボン酸類、両端末にアミノ基を有するジアミン類が挙げられる。架橋剤(B)の第1の実施形態の具体例としては、グルタルアルデヒド、フタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、5−ホルミルサリチルアルデヒド、ナフタレンジアルデヒド、グルタル酸、スペルミン、スペルミジン、プトレスシン等があげられる。
【0034】
[架橋剤(B)の第2の実施形態]
架橋剤(B)の第2の実施形態としては、前記架橋剤(A)の第2の実施形態に対応するものであって、例えば、アミノ基含有ビニル系モノマーが挙げられる。アミノ基含有ビニル系モノマーの具体例としては、アクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のアクリルアミドモノマーがあげられる。
【0035】
[官能基(C)]
本明細書において、官能基(C)は、本発明のデバイスの一実施形態において基板表面上に導入される官能基であって、前記架橋剤(B)と共有結合するものである(図4)。また、上述したとおり、官能基(C)は、その他の実施形態において、前記架橋剤(A)と直接共有結合するものであってもよい。
【0036】
官能基(C)としては、アミノ基、ビニル基、カルボキシル基、メトキシ基、アルデヒド基、及び水酸基が好ましく使用できる。官能基(C)がアミノ基、ビニル基、又はカルボキシル基の場合、基板表面上への導入は、定法によりアミノシラン化合物、ビニルシラン化合物、カルボキシシラン化合物等を用いて行うことができる。
【0037】
アミノ基の導入に好適なアミノシラン化合物としては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリス(ジメチルアミノ)クロロシラン、トリス(ジメチルアミノ)シランなどが挙げられる。
【0038】
ビニル基の導入に好適なビニルシラン化合物としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニル(トリフルオロメチル)ジメチルシランなどが挙げられる。
【0039】
カルボキシル基の導入に好適なカルボキシシラン化合物としては、特許4336970に記載されているような、p−メチルジエトキシシリルエチル安息香酸トリメチルシリル、p−ジメチルエトキシシリルエチル安息香酸トリメチルシリルなどが挙げられる。
【0040】
また、官能基(C)として、基板自身が持つ官能基を利用することができる。メトキシ基はポリメタクリル酸メチルなどが保有しており、カルボキシル基はポリアクリル酸などが保有している。
【0041】
官能基(C)の基板表面上への導入方法は、基板の材料に応じて決定してもよい。基板がポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂の場合には、メタクリル酸のアシル基に対する1、2級アミンの求核付加脱離反応により、基板表面上に官能基(C)を導入することができる。アミノ基の導入に好適な1、2級アミン化合物としては、例えば、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノ−2−プロパノール、ジアミノピリジンなどが挙げられる。ビニル基の導入に好適な1、2級アミン化合物としては、アクリルアミドなどが挙げられる。カルボキシル基の導入に好適な1、2級アミン化合物としては、例えば、4−アミノ−安息香酸、3−アミノ−安息香酸、3−アミノ−イソブチリックアシッドなどが挙げられる。その他には、基板表面を強アルカリ処理等することにより、ポリメタクリル酸メチル等が持つメタクリル酸基をカルボキシル基に変換することや、基板表面をVUV(真空紫外線)又はプラズマ等で処理することにより、アクリル樹脂が持つメチル基などをカルボキシル基に変換することで、カルボキシル基を導入することもできる。
【0042】
[共有結合]
本明細書において、共有結合としては、特に限定されるものではないが、アミノ基とアルデヒド基とのシッフ塩基形成、アミノ基とカルボキシル基とのアミド結合、二重結合間の共重合、及び水酸基とエポキシ基とのエーテル結合などが挙げられる。架橋剤(A)と架橋剤(B)又は官能基(C)との共有結合、及び、架橋剤(B)と官能基(C)との共有結合としては、特に限定されるものではないが、アミノ基とアルデヒド基とのシッフ塩基形成、アミノ基とカルボキシル基とのアミド結合、二重結合間の共重合、及び水酸基とエポキシ基とのエーテル結合などが挙げられる。
【0043】
本発明のデバイスにおける前記架橋剤(A)、前記架橋剤(B)、前記官能基(C)、及び前記官能基(D)の組み合わせとしては、下記表1に記載するものが挙げられるが、本発明はこのリストに限定されない。なお、下記表1において、結合(A−B)及び結合(B−C)はそれぞれ、架橋剤(A)及び架橋剤(B)間の結合形態、及び、架橋剤(B)及び官能基(C)間の結合形態を示す。なお、架橋剤(B)が空欄の場合は、架橋剤(B)を使用しない形態の組み合わせである。
【0044】
【表1】

【0045】
実施形態
以下に、本発明のデバイスの一実施形態を、図面を用いて説明するが、本発明はこの実施形態に限定されない。図1は、本発明のデバイスの一実施形態に係る基板の概略平面図である。図1Aはカバー側の樹脂基板10の平面図、図1Bはベース側の樹脂基板20の平面図である。図2は、本発明のデバイスの一実施形態の構成概略図である。図2Aは平面図、図2Bは図2AのX−X断面図、図2Cは図2AのY−Y断面図である。
【0046】
デバイス1は、2枚の基板(樹脂基板10及び樹脂基板20)を備える。樹脂基板10をカバー側とし、樹脂基板20をベース側とする。デバイス1は例えば矩形形状で、樹脂基板10と樹脂基板20を接合して製造する。デバイス1は、例えば一辺が10mmないし200mmの大きさとする。
【0047】
樹脂基板10、20は、熱可塑性樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂が用いられることが好ましい。また、熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニリデン、環状ポリオレフィン等であってもよく、これらは一例である。
【0048】
また、樹脂基板10、20は、溝や孔等の所定の凹部形状が形成されている。押出成型法、射出成型法、プレス成型法及び機械加工法の方法により所定の形状を作成することができる。複数の方法を用いてもよく、樹脂基板10と樹脂基板20とで異なる方法を用いてもよい。樹脂基板10、20は、成型性を考慮して、例えば、0.2〜5mmの厚みとする。
【0049】
ベース側の樹脂基板20は、流路用の溝21a、21b、21c、21d(以下、溝21と総称する)が形成されている。カバー側の樹脂基板10は、厚さ方向に貫通する孔11a、11b、11c、11d(以下、孔11と総称する)及び12a、12b、12c、12d(以下、孔12と総称する)が形成されている。孔11、12は、樹脂基板10と樹脂基板20を重ね合わせたときに、溝21の両端部に孔11及び孔12が配置される位置に形成される。
【0050】
樹脂基板10と樹脂基板20とを重ね合わせて接合したときに、樹脂基板20の溝21の開口部は樹脂基板10で覆われ、流路として機能する。分析の際は、予め樹脂基板10の孔11、12にチューブやノズル等を嵌合し、連通可能な状態としておき、孔11、12を介して流路へ分析試料等の導入や排出を行う。
【0051】
溝21は、分析試料や試薬の使用量を少なくできることや、形成における精度等を考慮して、流路の断面が矩形形状であって、矩形の一辺が10〜200μmの大きさとなるように設計する。流路の断面の形状は、半円形、台形、円形、楕円形であってもよい。例えば、図2Cのデバイス1の断面図において、1辺が40μmの正方形で流路が設計され、溝21は幅及び深さともに40μmの大きさで成型される。孔11、12は、分析装置や分析手法に合わせて大きさを決めればよく、例えば、直径2mm程度の円形とする。
【0052】
図5〜8は、本発明のデバイスのその他の実施形態を示す。図5〜8において、上記実施形態と同一又は類似の構成要素には、同一の符号を付している
【0053】
図5は、本発明のデバイスの第2の実施形態を示す。図5Aは、第2の実施形態のデバイスの概略構成図であり、図5Bは図5AのII−II断面図であり、図5Cは図5AのIV−IV断面図である。本第2の実施形態におけるデバイス1は、カバー側の樹脂基板10とベース側の樹脂基板20とが重ね合わせて接合された構造であって、位置決め領域2、溝(流路)21、孔11,12、発光側凹部5、及び受光側凹部6を含む。本第2の実施形態のデバイスは位置決め領域2を備えるため、デバイスの製造時には樹脂基板10,20の位置を正確に決定してこれらを貼り合わせることが可能であり、デバイスの使用時にはデバイスを分析装置に正確に装填することができる。デバイス1の大きさ、樹脂基板10,20の材質及び厚み、溝21の形状及び大きさは、上述と同様とすることができる。
【0054】
位置決め領域2は、デバイスの製造時及びデバイスの使用時において樹脂基板10,20又はデバイス1の位置を決定するために用いられるものであって、例えば、位置決め凹部51と位置決め面52とを含む。位置決め領域2として位置決め凹部51と位置決め面52とを用いることにより、より正確に位置決めをすることができる。位置決め凹部51は、樹脂基板10,20の長手方向の側面に形成し、幅方向に凹んだ形状とすることができる。位置決め凹部51は、例えば、図5Aに示すように、樹脂基板10,20の長手方向のそれぞれの側面に形成されていてもよい。位置決め面52は、樹脂基板10,20の長手方向に対して直交する面とすることができる。
【0055】
本第2の実施形態におけるデバイス1は、カバー側の樹脂基板10(図5における上面側)及びベース側の樹脂基板20(図5における下面側)のそれぞれにキャピラリ電気泳動法を用いた分析が可能な流路21が形成されている。すなわち、本第2の実施形態におけるデバイス1は、流路21を2つ含む形態である。それぞれの流路21には孔11,12、発光側凹部5、及び受光側凹部6が形成されている。
【0056】
発光側凹部5は、キャピラリ電気泳動法を用いた分析を行うための光が入射する部位であって、樹脂基板10,20において流路21上面に位置するように形成されている。発光側凹部5の形状は、樹脂基板10,20の表面から厚み方向に凹んだ形状となっている。発光側凹部5は、例えば、図5Cに示すように、外側凹部501、及び外側凹部501から樹脂基板10,20の厚み方向に凹んだ内側凹部502により構成されていてもよい。外側凹部501及び内側凹部502大きさは、樹脂基板10,20及び流路21の大きさ等に応じて適宜決定でき特に制限されるものではないが、例えば、外側凹部501は、断面が直径3mm程度の円形、深さが0.8mm程度、内側凹部502は、断面が直径0.6mm程度の円形、深さが0.2mm程度とすることができる。
【0057】
受光側凹部6は、キャピラリ電気泳動法を用いた分析を行うための光が出射する部位であって、発光側凹部5から入射した光を受光可能なように樹脂基板10,20に形成されている。受光側凹部6の形状は、樹脂基板10,20の表面から厚み方向に凹んだ形状となっている。発光側凹部6の形状は特に制限されるものではないが、略円錐台とすることができる。受光側凹部6の大きさは、樹脂基板10,20、流路21及び発光側凹部5の大きさ等に応じて適宜決定でき特に制限されるものではないが、例えば、開口部が直径2mm程度の円形、深さが0.13mm程度とすることができる。
【0058】
孔11,12は、流路21への分析試料等の導入や排出に用いられるものであって、流路21の両端にそれぞれ形成されている。孔11,12には、キャピラリ電気泳動法に必要な電圧を印加するための電圧印加手段を挿入可能である。孔11,12の断面形状は特に制限されるものではないが、例えば、楕円形状、円形状等が挙げられる。孔11,12の大きさは特に制限されるものではないが、例えば、長手方向が5.6mm、短手方向が1.2mmとすることができる。
【0059】
図6は、本発明のデバイスの第3の実施形態を示す。図6Aは、第3の実施形態のデバイスの概略構成図であり、図6Bは図6AのII−II断面図であり、図6Cは図6AのIV−IV断面図である。本第3の実施形態のデバイス1は、デバイス1の側面であって、樹脂基板10と樹脂基板20との接合部付近に凹部13が形成されている以外は、第2の実施形態のデバイスの構成と同じである。凹部13は、デバイス1の側面の外周に沿って形成されている。本第3の実施形態のデバイスは位置決め領域2と凹部13とを備えるため、デバイスの製造時には樹脂基板10,20の位置をより正確に決定してこれらを貼り合わせることが可能であり、デバイスの使用時にはより正確に分析装置に装填することができる。
【0060】
図6Cに示すように、凹部13は、樹脂基板10,20の端面から樹脂基板10,20の内側(接合面方向)に向かって凹んだ形状となっている。具体的には、凹部13は、樹脂基板10と樹脂基板20との接合面の端縁を含む内側面と、内側面から樹脂基板10,20の端面(側面)方向に形成された底面とによって形成されている。凹部13の大きさは特に制限されるものではないが、例えば、凹部13の厚さ方向は0.1mm程度であり、凹部13の幅方向は1.0mm程度である。本発明において凹部13の形状は、図6Bに示す形状に限定されるものではなく、その他の形状としては、例えば、V字型、U字型等が挙げられる。
【0061】
図7は、本発明のデバイスの第4の実施形態を示す。図7Aは第4の実施形態のデバイスの上面図であり、図7Bは図7AのII−II断面図である。本第4の実施形態におけるデバイス1は、カバー側の樹脂基板10とベース側の樹脂基板20とが重ね合わせて接合された構造であって、流路21、発光側凹部5、受光側凹部6、及び孔11,12を含み、流路21には光透過部4が形成されている。樹脂基板10には発光側凹部5、孔11,12が形成され、樹脂基板20には受光側凹部6が形成されている。
【0062】
光透過部4は、吸光度測定のための光が透過する部分であり、光透過部4の上部(図7Bの上面側)に位置する樹脂基板10には発光側凹部5が形成されており、光透過部4の下部(図7Bの下面側)に位置する樹脂基板20には受光側凹部6が形成されている。光透過部4を分析対象が通過すると、発光部(図示せず)から光透過部4を透過して受光部(図示せず)へと向かう光の一部が特定成分によって吸光される。このときの光量の変化を検出する、いわゆる吸光度測定の原理によって、特定成分(例えば、HbA1c等)の濃度(通過量)が検出される。
【0063】
光透過部4の形状及び大きさは特に制限されるものではない。例えば、図7A及びBに示すように、光透過部4において、流路21の長手方向に対して直交する面(断面)の縦方向及び横方向の双方が流路21よりも大きい形態が挙げられる。このような形態によれば、光透過部4を透過する光の透過経路が長くなるため検出精度をより高めることができる。また、断面の縦方向及び横方向の双方が流路21よりも大きいことにより、流路21から光透過部4に向かう流れに乱れが生じることを抑制できる。
【0064】
光透過部4と流路21との間には、流路21の長手方向に沿って、その断面の大きさが流路21から光透過部4に向けて徐々に大きくなる領域(徐変領域)、及びその断面の大きさが光透過部4から流路21に向けて徐々に小さくなる領域(徐変領域)を含むことが好ましい。その傾斜角は特に制限されるものではないが、例えば、30度とすることができる。光透過部4の断面形状は特に制限されるものではないが、例えば、円形、楕円形、及び矩形等が挙げられる。流路21、光透過部4、及び徐変領域が矩形である場合は、流路21から光透過部4への流れの乱れを抑制する点から、それらの断面アスペクト比は0.8〜1.2が好ましく、より好ましくは1.0(正方形)である。流路21、光透過部4、及び徐変領域が円形又は楕円形である場合は、同様の点から、それらの断面アスペクト比は0.8〜1.2であることが好ましい。
【0065】
図8は、本発明の第5の実施形態を示す。図8Aは第5の実施形態のデバイスの断面図であり、図8Bは図8AのIII−III断面図である。本第5の実施形態におけるデバイス1は、カバー側の樹脂基板10とベース側の樹脂基板20とが重ね合わせて接合された構造であって、流路21、発光側凹部5、受光側凹部6、及び孔11,12を含む。樹脂基板10には発光側凹部5、孔11,12が形成され、樹脂基板20には受光側凹部6が形成され、発光側凹部5と受光側凹部6とによって挟まれた部分の流路21が光透過部4となる。
【0066】
流路21を形成する壁面において、血液等の試料の滞留を抑制する点から、樹脂基板10と樹脂基板20とが接触する部分の樹脂基板10,20の縁221a,221bは曲面であることが好ましく、より好ましくは縁221a,221bが全長にわたって曲面である。曲面の半径は、血液等の試料の滞留をさらに抑制し、分析精度を向上させる点から、例えば、5μm以下であり、好ましくは2μmである。また、曲面の半径は、流路21の大きさに応じて適宜決定することができ、例えば、流路21の断面の縦方向及び横方向の双方の長さの10%以下であることが好ましい。
【0067】
流路21を形成する壁面の隅部222a,222bは、血液等の試料の滞留を抑制し、分析精度を向上させる点から、曲面であることが好ましい。曲面の半径は、例えば、縁221a,221bの半径よりも大きいことが好ましい。
【0068】
孔11,12を形成する壁面において、血液等の試料の滞留を抑制する点から、樹脂基板10と樹脂基板20とが接触する部分の樹脂基板10の縁は曲面であることが好ましく、縁が全長にわたって曲面であることがより好ましい。曲面の半径は、流路21と同様である。
【0069】
なお、図8A及びBでは、樹脂基板10及び20の双方に溝が形成され、これらによって流路21が形成された形態を例示したが本発明はこれに限定されるものではない。例えば、樹脂基板20のみに溝が形成され、溝が形成された樹脂基板20と溝が形成されていない樹脂基板10とを張り合わせることにより流路21を形成してもよい。この場合、樹脂基板10と接触する部分の樹脂基板20の縁を曲面とすればよい。流路21の形状としては、特に限定されるものではないが、例えば、円形、矩形、U字型、及びV字型等が挙げられる。
【0070】
[デバイスの製造方法]
本発明は、その他の態様において、2枚の接合された基板を含み、前記2枚の基板の対向する側の表面の少なくとも一方に凹部が形成されていることにより流路が形成されているデバイスの製造方法であって、前記2枚の基板の対向する表面に架橋剤(A)を接触させ、重ね合わせて前記2枚の基板間で反応させることにより、前記2枚の基板が前記架橋剤(A)を介して共有結合により接合し、かつ、前記流路の内壁表面に前記架橋剤(A)が露出している構成とすることを含むデバイスの製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)に関する。
【0071】
本発明の製造方法によれば、本発明のデバイスが製造できる。また、本発明の製造方法によれば、基板間を架橋剤(A)により共有結合で接合するため、接着剤を使用することなく強固に基板を接合でき、流路の変形が抑制されたデバイスを提供できる。また、本発明の製造方法によれば、接合に使用した架橋剤(A)が流路の内面に露出しているデバイスを提供できる。また、本発明の製造方法によれば、デバイス製造時に流路内の化学修飾が可能となる。
【0072】
本発明の製造方法において、基板、流路、デバイス、架橋剤(A),(B)、及び、官能基(C),(D)については、上述及び上記表1のとおりである。
【0073】
本発明の製造方法の実施形態1として、以下の工程を含む製法が挙げられる。本実施形態1は、上記表1の組合せ例1、3、4及び7、好ましくは組合せ例1、3及び4に対応しうる製造方法といえる。
(1−a)基板表面へ官能基(C)を導入する。
(1−b)基板表面の官能基(C)に架橋剤(B)を接触させて反応させる。
(1−c)重ね合わす基板の一方に架橋剤(A)を塗布したのち、他方の基板を重ね合わせ、架橋剤(A)と架橋剤(B)との反応を行い、両基板を接合するとともに、形成される流路内部を架橋剤(A)で修飾する。
【0074】
以下に、(1−a)〜(1−c)工程を含むデバイスの製造方法について図3を参照しながら説明する。図3は、本実施形態1のデバイスの製造方法の一例を示す模式図である。
【0075】
上記(1−a)工程につき、アミノ基である官能基(C)を基板にアミノシラン化合物を用いて導入する実施形態を説明する。基板にアミノシラン化合物を用いてアミノ基を導入する方法は、当業者であれば従来技術により容易に行える。例えば、基板表面にOH基が存在する場合には、アミノシラン化合物を接触させるだけで官能基(C)(アミノ基)を該基板表面に導入できる。この時の反応条件は、例えば、10〜120℃、10〜600分である。
【0076】
一方、基板がアミノシラン化合物と反応性が低いアクリル樹脂等である場合、例えば、特開2005−121443号を参照してアミノ基を導入できる。すなわち、基板を真空紫外線、プラズマ処理、コロナ放電処理、フレーム処理、オゾン処理等によって酸化処理し、基板表面を活性化し(図3A)、アミノシラン化合物を反応させ、シラノールを形成させる方法である(図3B)。
【0077】
上記(1−b)工程につき、基板表面のアミノ基(官能基(C))にアルデヒド基を両末端に有するジアルデヒド(グルタルアルデヒド)(架橋剤(B))を接触させて反応させる実施形態につき説明する。この反応も当業者であれば適宜行える。例えば、10〜40℃のグルタルアルデヒド水溶液(0.1〜10重量%)にアミノ基導入した基板を浸漬し、30分〜2時間静置又は振とうすることで反応させることができる。
【0078】
上記(1−c)工程につき、グルタルアルデヒド(架橋剤(B))が導入された基板を、アミノ基を有する陰イオン性基含有多糖類(架橋剤(A))で接合する実施形態につき説明する。アルデヒド基が表面に導入された基板10及び20の少なくとも一方にアミノ基を有する陰イオン性基含有多糖類(0.1〜8重量%水溶液)を塗布して両基板を密着させる(図3(c)及び(d))。そして、20〜60℃、1〜1000000Pa(0.000001〜10kg/cm3)、好ましくは1〜100000Pa(0.000001〜1kg/cm3)で、30秒〜60分間、加温・加圧することで本発明のデバイスを得ることができる。
【0079】
脱アセチル化や脱硫酸の反応を制御することで、陰イオン性基含有多糖類のアミノ基の量を制御することもできる。アミノ基の量が多くなるとグルタルアルデヒド由来のアルデヒド基と反応できる場所が多くなり、接合の強度を高くできる。
【0080】
また、接合しない部分に残存するグルタルアルデヒドに由来するアルデヒド基は、必要に応じて不活性化することもできる。不活性化の方法としては、亜硫酸水素ナトリウムやアミド硫酸、水酸化ナトリウム等と接触させる方法がある。また、pH11以上にすることで、グルタルアルデヒドの架橋反応を促進し、アルデヒド基を無くすこともできる。
【0081】
本発明の製造方法の実施形態2として、以下の工程を含む製法が挙げられる。本実施形態2は、上記表1の組合せ例1、3、4及び7、好ましくは組合せ例1、3及び4に対応しうる製造方法といえる。
(2−a)基板表面へ官能基(C)を導入する。
(2−b)架橋剤(A)と架橋剤(B)とを接触させて反応させる。
(2−c)官能基(C)を導入した基板表面に、(2−b)工程で得られた架橋剤(A−B)結合物を塗布したのち、他方の基板を重ね合わせ、架橋剤(B)と官能基(C)との反応を行い、両基板を接合するとともに、形成される流路内部を架橋剤(A)で修飾する。
【0082】
上記(2−a)工程は上記(1−a)工程と同様である。上記(2−b)工程で得られる架橋剤(A−B)結合物は、例えば、コンドロイチン硫酸に複数のグルタルアルデヒドが結合したものであって、これを(2−c)工程において官能基(C)を導入した基板間に配置して反応させる。
【0083】
本発明の製造方法の実施形態3として、以下の工程を含む製法が挙げられる。本実施形態3は、上記表1の組合せ例1、3、4及び7、好ましくは組合せ例1、3及び4に対応しうる製造方法といえる。
(3−a)基板表面へ官能基(C)を導入する。
(3−b’)基板表面の官能基(C)に架橋剤(B)を接触させて反応させる。
(3−b’’)架橋剤(A)と架橋剤(B)とを接触させて反応させる。
(3−c)架橋剤(B)を導入した基板表面に、(3−b’’)工程で得られた架橋剤(A−B)結合物を塗布したのち、他方の基板を重ね合わせ、架橋剤(A)と架橋剤(B)との反応及び架橋剤(B)と官能基(C)との反応を行い、両基板を接合するとともに、形成される流路内部を架橋剤(A)で修飾する。
【0084】
本発明の製造方法の実施形態4として、以下の工程を含む製法が挙げられる。本実施形態4は、上記表1の組合せ例2、5、6、8〜10に対応しうる製造方法といえる。
(4−a)基板表面へ官能基(C)を導入する。
(4−b)官能基(C)を導入した基板表面に、架橋剤(A)を塗布したのち、他方の基板を重ね合わせ、架橋剤(A)と官能基(C)との反応を行い、両基板を接合するとともに、形成される流路内部を架橋剤(A)で修飾する。
【0085】
本発明の製造方法の実施形態5として、以下の工程を含む製法が挙げられる。実施形態5は、上記表1の組合せ例1、3、4及び7、好ましくは組合せ例7に対応しうる製造方法といえる。
(5−a)官能基(C)を有する基板表面に架橋剤(B)を接触させて反応させる。
(5−b)架橋剤(B)を導入した基板表面に架橋剤(A)を塗布したのち、他方の基板を重ね合わせ、架橋剤(A)と架橋剤(B)との反応を行い、両基板を接合するとともに、形成される流路内部を架橋剤(A)で修飾する。
【0086】
上記(5−a)工程の具体例としては、アクリル樹脂基板表面のメトキシ基(官能基(C))に対して、アクリルアミド(架橋剤(B))を接触させ、アルカリ条件下でアミノビニルを形成させて結合させることが挙げられる。そして、次の(5−b)工程において、ビニルスルホン酸(架橋剤(A))を塗布し、基板を重ね合わせたのち、共重合反応させることにより両基板を接合するとともに、形成される流路内部をビニルスルホン酸で修飾することが挙げられる。なお、前記共重合反応には、通常、重合開始剤を使用することが好ましい。前記重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の無機過酸化物、t−ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、パラメンタンパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾビスジイソブチルニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド等のアゾ系化合物が挙げられるが、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩が好ましい。また、重合促進剤として、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸第1鉄アンモニウム等を用いることもできる。
【0087】
本発明の製造方法の実施形態6として、以下の工程を含む製法が挙げられる。本実施形態6は、上記表1の組合せ例2、5、6、8〜10、好ましくは組合せ例8に対応しうる製造方法といえる。
(6−a)官能基(C)を有する基板表面に架橋剤(A)を塗布したのち、他方の基板を重ね合わせ、架橋剤(A)と官能基(C)との反応を行い、両基板を接合するとともに、形成される流路内部を架橋剤(A)で修飾する。
【0088】
上述の通り、本発明の製造方法によれば、本発明のデバイスを製造できる。したがって、本発明は、さらにその他の態様において、本発明の製造方法により製造されるデバイスに関する。本発明の製造方法により製造されるデバイスによれば、基板間が強固に接合されており、また流路の内壁表面に前記架橋剤(A)が露出しているため、電気浸透流の発生を制御することができる。
【0089】
[測定方法]
本発明は、さらにその他の態様において、本発明のデバイスを用いた試料の測定方法に関する。本発明の測定方法によれば、基板間が強固に接合されたデバイスを用いることから、安定した試料の測定を行うことができる。また、本発明の測定方法によれば、電気浸透流の発生が制御されたデバイスを用いることから、試料中の分析対象の測定精度を向上でき、好ましくは分析対象の分離精度の向上及び又は測定時間の短縮が可能となる。
【0090】
デバイスを用いた測定は、分離分析法により試料中の分析対象を分離することを含むことが好ましい。分離分析法としては、例えば、電気泳動法が挙げられ、中でもキャピラリ電気泳動法が好ましい。キャピラリ電気泳動としては、特に制限されるものではないが、例えば、動電クロマトグラフィー、キャピラリーゾーン電気泳動、ミセル動電クロマトグラフィー、キャピラリーゲル電気泳動等が挙げられる。本発明の測定方法において、試料及び分析対象は上述の通りである。
【0091】
本発明の測定方法について、分離分析法としてキャピラリ電気泳動法を用いた場合を例にとり説明する。但し、以下の説明は一例に過ぎず、本発明はこれに限定されないことはいうまでもない。
【0092】
まず、デバイスの流路(溝)に泳動液を充填する。泳動液の充填は、例えば、圧力又は毛細管現象等を利用することにより行うことができる。また、あらかじめ流路に泳動液が充填されたデバイスを使用してもよい。泳動液としては、例えば、試料及び分析対象の種類に応じて適宜決定することができる。
【0093】
つぎに、流路に形成された一方の孔に試料を導入し、流路の両端に位置する孔にそれぞれ配置された電極間に電圧を印加する。これにより、試料が導入された孔から他方の孔に向かって試料が移動する。流路の両端に印加する電圧は、特に限定されるものではなく、試料、分析対象及び泳動液等に応じて適宜決定でき、例えば、0.5〜10kVであり、好ましくは0.5〜5kVである。
【0094】
デバイスとして、流路の内壁表面に露出した架橋剤(A)がイオン性であるデバイスを使用した場合、電圧を印加することによって流路内に電気浸透流が発生する。流路の内壁表面に露出した架橋剤(A)が陰イオン性である場合、電気浸透流は+極から−極に向かう方向の流れとなる。このような電気浸透流を発生させることにより、−電荷を有する物質を含む試料を導入した孔に+極を配置した場合であっても、−電荷を有する物質を流路内に移動させて分離分析を行うことが可能となる。
【0095】
泳動液として、陰極性の高分子を含む泳動液を使用してもよい。これにより、泳動液中の陰極性の高分子が、試料中の+電荷を有する物質と電気的に結合するため、例えば、試料に含まれる物質間の+電荷の差が僅かであっても、これらを分離分析することができる。この場合、+電荷を有する物質と陰極性の高分子とが結合した物質の電荷は−電荷となるため、流路内に上記の+極から−極に向かう方向の電気浸透流を発生させることが好ましい。この態様は、例えば、分析対象がHbA1cである場合の測定に好ましく適用することができる。分析対象物がHbA1cである場合、陰極性の高分子としては、特に制限されるものではないが、例えば、陰イオン性基含有多糖類、又は陰イオン性基含有アクリルポリマー等が好ましく、より好ましくはカルボキシル基含有多糖類、スルホン酸基含有多糖類、カルボキシル基含有アクリルポリマー、又はスルホン酸基含有アクリルポリマーである。
【0096】
一方、デバイスとして、流路の内壁表面に露出した架橋剤(A)がイオン性を有しないデバイスを使用した場合、流路内での電気浸透流の発生が抑制された状態で、試料の分離分析を行うことができる。この態様は、例えは、ヘモグロビン種の分離を目的とする測定(特開2006−145537号公報)に好ましく適用することができる。
【0097】
そして、所定の位置において測定を行う。測定は、例えば、光学的手法により行うことができる。光学的手法としては、例えば、吸光度測定、透過度測定、反射率測定、及び蛍光測定等が挙げられる。測定波長は、例えば、試料及び分析対象等に応じて適宜決定できる。
【0098】
上記例では、デバイスの流路に泳動液を充填して測定を行う方法を例にとり説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、デバイスの流路にゲルを充填して分離分析を行ってもよい。充填するゲルとしては、特に制限されるものではないが、例えば、デバイスの流路の内壁表面に露出する架橋剤(A)と同じ又は類似の性状を有するものが好ましい。ポリアクリル酸からなるゲルを用いる場合には、例えば、デバイスの流路の内壁表面に露出する架橋剤(A)としてポリアクリル酸を主成分とする架橋剤を用いればよい。
【0099】
本発明の測定方法は、例えば、図9に示す分析装置を用いて行うことができる。図9は、本発明の測定方法に用いられうる分析装置の一例を示す概略図である。図9に示すように、分析装置Aは、試料容器91、試料導入用ノズル92、電圧印加手段93、及び分析手段94を備え、デバイス901を配置可能である。
【0100】
試料容器91及び試料導入用92は、デバイス901の一方の孔(例えば、孔911)に試料を導入するためのものである。
【0101】
電圧印加手段93は、電源部931、電極932,933を備える。電極932,933を、デバイス901の流路921の両端に形成された孔911,912にそれぞれ配置し、電源部931を用いて電極932,933間に電圧を印加することにより、流路921内でキャピラリ電気泳動を行うことができる。
【0102】
分析手段94は、発光部941、受光部942、光源部943及び検出部944により構成される。光源部943は、測定に用いる光を発生するためのものであって、例えば、レーザー素子又はLED素子等を備える。分析対象が例えばヘモグロビンである場合は、光源部943は、例えば、波長415nmの光を発生するものが好ましい。発光部941は、例えば、光ファイバー等を介して接続され、光源部943からの光が発光部941により検出部924に向けて照射される。受光部942は検出部924からの光を受光し、検出部944においてその受光した光を検出する。
【0103】
[分析システム]
本発明は、さらにその他の態様において、本発明のデバイスと、前記デバイスを装填するデバイス装填部を有し、前記デバイスを用いて試料中の分析を行う測定装置とを備える分析システムに関する。本発明の分析システムによれば、基板間が強固に接合された本発明のデバイスを備えることから、安定した試料の測定を行うことができる。
【0104】
本発明の分析システムを用いた分析対象の測定は、本発明の測定方法と同様である。また、本発明の分析システムにおける測定装置は、デバイスを装填するデバイス装填部を有し、かつ分離分析法を用いた分析を行う測定装置であれば特に制限されるものではなく、公知の測定装置が使用でき、例えば、上述した図9に示す構成の分析装置が使用できる。本発明の分析システムにおいて、デバイスは着脱可能であることが好ましい。
【実施例】
【0105】
(実施例1)
下記の基板を用いて、デバイスを作製した。
〔基板〕
図1A及びBに示すような一組のPMMA(ポリメタクリル酸メチル)製マイクロチップ基板を使用した。
【0106】
〔基板へのアミノ基の導入〕
下記条件で前記基板にアミノ基を導入した。
1.PMMA製基板に真空紫外線を照射した。
2.上記工程1で得られた照射後の基板を、2%3−アミノプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM903、信越シリコーン社製)水溶液中に30℃下で1時間浸漬した。
【0107】
〔基板へのグルタルアルデヒドの結合〕
下記条件でアミノ基を導入した基板にグルタルアルデヒドを導入した。
3.上記工程2で得られたアミノ基が導入された基板を、1%グルタルアルデヒド水溶液に浸漬し、37℃オーブン内で2時間反応させた。
【0108】
〔コンドロイチン硫酸による基板の接合と流路の修飾〕
4.上記工程3で得られたグルタルアルデヒド基由来のアルデヒド基が導入された基板に、アミノ基を導入したコンドロイチン硫酸(脱N−アセチル化コンドロイチン)を塗布し、上記工程3で得られたグルタルアルデヒド基由来のアルデヒド基が導入された他方の基板をのせ、加温加圧(60℃、20000Pa)により接合した。
【0109】
〔アミド硫酸による流路内残存グルタルアルデヒドの不活性化〕
5.上記工程4で得られたマイクロチップの流路内にアミド硫酸を通液し、37℃下で反応させた。
【0110】
〔結果〕
上記工程5で得られたマイクロチップは、基板間が強固に接合されており流路の変形や流路からの液漏れがない良好なデバイスであった。また、電気浸透流を測定したところ、0.9mm/秒であった。電気浸透流は、陽極側に30mM塩化ナトリウム水溶液を満たし、陰極側及び流路(キャピラリー)に50mM塩化ナトリウム水溶液を満たし、1200V印加した時の電流値の変化を観測することで測定した。
【0111】
(実施例2)
図5に示すような形態のマイクロチップを用いて分離分析法(キャピラリー電気泳動法)によるHbA1cの測定を行った。
【0112】
〔マイクロチップ〕
マイクロチップは、基板としてはPMMA製基板を使用し、実施例1と同じ手順で製造した。
〔泳動液〕
100mmol/Lリンゴ酸及び10g/Lコンドロイチン硫酸Cを含む液を、アルギニンを用いてpH5.0に調整した。
〔試料〕
GHbトロール2X(Sysmex社)に泳動液を加えて溶解し、HbA1cを含む試料を調製した。
【0113】
〔EOF速度の測定〕
実施例1と同様の方法でEOF速度を測定した。EOF速度は、0.9mm/秒であった。
〔HbA1cの測定〕
マイクロチップの孔12に泳動液を導入し、毛細管現象により溝(キャピラリ)21に泳動液を充填した。ついで、マイクロチップの孔11に試料を導入した。電気泳動を行うために、マイクロチップの孔11に+極をセットし、マイクロチップの孔12に−極をセットし、1200Vで60秒間通電して測定を行った。HbA1cの測定は、マイクロチップの受光側凹部6の真下からLED(波長:415nm)を照射し、発光側凹部5の真上に光学検出器を設置して行った。得られた結果を図10に示す。
【0114】
〔結果〕
得られたマイクロチップは、基板間が強固に接合されており流路の変形や流路からの液漏れがない良好なデバイスであった。得られたマイクロチップはEOF速度が速いため、本実施例のマイクロチップは、HbA1cとその他のHb(ヘモグロビン)とを短時間で分離することができ、またその分離精度が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、例えば、成分分析、分離分析を行う医薬、食品、化学等の分野において有用である。
【符号の説明】
【0116】
1 デバイス
10 樹脂基板
11、11a、11b、11c、11d 孔
12、12a、12b、12c、12d 孔
20 樹脂基板
21、21a、21b、21c、21d 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の接合された基板を含み、前記2枚の基板の対向する側の表面の少なくとも一方に凹部が形成されていることにより流路が形成されているデバイスであって、
前記2枚の基板が、架橋剤(A)を介した共有結合により接合しており、
前記流路の内壁表面に前記架橋剤(A)が露出している、デバイス。
【請求項2】
前記流路がキャピラリであり、前記流路内に露出した前記架橋剤(A)がイオン性であり、前記流路に水溶液を配置し電圧を印加した場合に電気浸透流を発生可能な、請求項1記載のデバイス。
【請求項3】
前記架橋剤(A)は、架橋剤(B)を介して基板表面上の官能基(C)と結合しており、前記架橋剤(A)と前記架橋剤(B)とは共有結合し、前記架橋剤(B)と前記官能基(C)とは共有結合している、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記架橋剤(A)は、基板表面上の官能基(C)と結合しており、前記架橋剤(A)と前記官能基(C)とは共有結合している、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項5】
前記共有結合が、アミノ基とアルデヒド基とのシッフ塩基形成、アミノ基とカルボキシル基とのアミド結合、二重結合間の共重合、及び水酸基とエポキシ基とのエーテル結合からなる群から選択される共有結合である、請求項1から4のいずれかに記載のデバイス。
【請求項6】
前記架橋剤(A)は、イオン性基含有多糖類である、請求項1から5のいずれかに記載のデバイス。
【請求項7】
前記架橋剤(B)は、両末端にアルデヒド基を有するジアルデヒドである、請求項3記載のデバイス。
【請求項8】
前記官能基(C)は、アミノ基、カルボキシル基、メトキシ基、ビニル基、アルデヒド基、及び水酸基からなる群から選択される、請求項3又は4に記載のデバイス。
【請求項9】
前記デバイスは、分離分析用である、請求項1から8のいずれかに記載のデバイス。
【請求項10】
2枚の接合された基板を含み、前記2枚の基板の対向する側の表面の少なくとも一方に凹部が形成されていることにより流路が形成されているデバイスの製造方法であって、
前記2枚の基板の対向する表面に架橋剤(A)を接触させ、重ね合わせて前記2枚の基板間で反応させることにより、前記2枚の基板が前記架橋剤(A)を介して共有結合により接合し、かつ、前記流路の内壁表面に前記架橋剤(A)が露出している構成とすることを含む、デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記基板の表面に存在する官能基(C)に架橋剤(B)を接触させて反応させることにより、前記架橋剤(B)を前記基板表面に共有結合を介して導入すること、及び、
架橋剤(B)を導入した一組の基板の一方に架橋剤(A)を塗布し、他方の基板を重ね合わせて架橋剤(A)と架橋剤(B)との反応を行い、共有結合を介して両基板を接合するとともに、形成される流路内部を架橋剤(A)で修飾することを含む、請求項10記載のデバイスの製造方法。
【請求項12】
架橋剤(A)と架橋剤(B)とを接触させ、反応させて架橋剤結合物(A−B)とすること、及び、
官能基(C)を表面に有する一組の基板の一方に前記架橋剤結合物(A−B)を塗布し、他方の基板を重ね合わせて架橋剤(B)と官能基(C)との反応を行い、共有結合を介して両基板を接合するとともに、形成される流路内部を架橋剤(A)で修飾することを含む、請求項10記載のデバイスの製造方法。
【請求項13】
官能基(C)を表面に有する一組の基板の一方に前記架橋剤(A)を塗布し、他方の基板を重ね合わせて架橋剤(A)と官能基(C)との反応を行い、共有結合を介して両基板を接合するとともに、形成される流路内部を架橋剤(A)で修飾することを含む、請求項10記載のデバイスの製造方法。
【請求項14】
前記共有結合が、アミノ基とアルデヒド基とのシッフ塩基形成、アミノ基とカルボキシル基とのアミド結合、二重結合間の共重合、及び水酸基とエポキシ基とのエーテル結合からなる群から選択される共有結合である、請求項10から13のいずれかに記載のデバイスの製造方法。
【請求項15】
さらに、前記官能基(C)を対向する側の基板表面に導入することを含む、請求項11又は12に記載のデバイスの製造方法。
【請求項16】
前記架橋剤(A)は、イオン性基含有多糖類である、請求項10から15のいずれかに記載のデバイスの製造方法。
【請求項17】
前記架橋剤(B)は、両末端にアルデヒド基を有するジアルデヒドである、請求項11又は12に記載のデバイスの製造方法。
【請求項18】
前記官能基(C)は、アミノ基、カルボキシル基、メトキシ基、ビニル基、アルデヒド基、及び水酸基からなる群から選択される官能基である、請求項12、13及び15のいずれかに記載のデバイスの製造方法。
【請求項19】
請求項1から9のいずれかに記載のデバイスを用いて試料中の分析対象を測定することを含む、試料の測定方法。
【請求項20】
前記デバイスを用いた測定は、分離分析法により試料中の分析対象を分離することを含む、請求項19記載の測定方法。
【請求項21】
前記分離分析法は、キャピラリ電気泳動法である、請求項20記載の測定方法。
【請求項22】
前記デバイスの流路内に露出した前記架橋剤(A)がイオン性であり、
前記流路に電圧を印加し、電気浸透流を発生させることを含む、請求項21記載の測定方法。
【請求項23】
請求項1から9のいずれかに記載のデバイスと、
前記デバイスを装填するデバイス装填部を有し、前記デバイスを用いて試料中の分析を行う測定装置とを備える、分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−132894(P2012−132894A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207219(P2011−207219)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)