説明

データ消去方法及びそのプログラム

【課題】磁気ディスク装置が磁気ディスクに同心円状に設けられた複数のトラックに所定回数(2回以上)の上書きを終えるまでのデータ消去作業時間を短縮する。
【解決手段】磁気ヘッド31を消去対象トラックに対する読み書き位置へ移動させる頭出しステップ(S4)と、磁気ヘッド31を読み書き位置に留めて消去対象トラックに前記所定回数の上書きを完遂する消去ステップ(S5)とを交互に繰り返し、この間、磁気ディスク装置1が、前記上書きに用いる消去用データを外部の情報処理装置3から受信するデータ転送ステップ(S3)と、頭出しステップ(S4)及び消去ステップ(S5)のうちの実行可能なステップとを並行するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気ディスク装置の磁気ディスクからデータを消去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置の廃棄時には、磁気ディスクに記憶させている全データを消去することが推奨されている。そのデータ消去方法として、理論上、残留磁気の除去に効果的とされているデータで上書きする方法がある。磁気ディスクには、複数のトラックが同心円状に設けられている。全データを消去する場合、これら複数のトラックに上書きを行うことになる。この上書き時、磁気ディスク装置は、磁気ヘッドを消去対象トラックに対する読み書き位置に移動させるステップと、その消去対象トラックに対する1回の上書きを完遂するステップとを交互に繰り返すことにより、複数のトラックに1回の上書きを終える(特許文献1)。
【0003】
上書き回数が1回だけだと、磁気ディスクに元データの痕跡が残る可能性があり、これを防ぐため、上書きを複数回行うことが望ましい。その消去方式としてGutmann方式、各種の軍関連規格等が知られており、用途に適した消去方式が採用されている。所定回数(2回以上)の上書きを行う場合、磁気ディスク装置は、複数のトラックに1回の上書きを終えた後、最初の消去対象トラックに磁気ヘッドを戻して再び同様に1回の上書きを順次に行う消去サイクルを所定回数になるまで繰り返し、複数のトラックに所定回数の上書きを行う。所定回数を多くするほど、残留磁気からの元データ復元は困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−210469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上書き回数を多くすると、上書き開始から複数のトラックに所定回数の上書きを終えるまでのデータ消去作業時間が長くなる。磁気ディスクの大容量化が急速に進んだこともあり、企業等において情報セキュリティ対策に関わる管理者は、データ消去作業時間を考慮して上書き回数や消去方式を選択するようになった。特に、35回の上書きを行うGutmann方式は、その上書き回数の突出した多さから非常に長い時間を要するため、採用が難しくなっている。
【0006】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、磁気ディスク装置が磁気ディスクに同心円状に設けられた複数のトラックに所定回数(2回以上)の上書きを終えるまでのデータ消去作業時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するこの発明は、磁気ディスク装置が磁気ディスクに同心円状に設けられた複数のトラックに所定回数(ただし、2回以上とする)の上書きを行うデータ消去方法において、前記磁気ディスク装置が、磁気ヘッドを消去対象トラックに対する読み書き位置へ移動させる頭出しステップと、前記磁気ヘッドを前記読み書き位置に留めて前記消去対象トラックに前記所定回数の上書きを完遂する消去ステップとを交互に繰り返すことを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、磁気ヘッドを消去対象トラックに対する読み書き位置へ移動させる頭出しステップと、消去対象トラックに所定回数の上書きを完遂する消去ステップとを交互に繰り返すようにしたため、所定回数の上書きを完遂したトラックに再び上書きすることはない。したがって、この発明に係るデータ消去方法は、所定回数が如何に多くとも、各トラックに磁気ヘッドを1回だけ移動させるだけでよい。一方、従来方法においては、各トラックに磁気ヘッドを所定回数(2回以上)移動させている。すなわち、この発明に係るデータ消去方法は、各トラックに磁気ヘッドを移動させる回数を(所定回数−1)回減らすことができ、その分、シーク時間及び回転待ち時間が減るため、データ消去作業時間を短縮することができる。
【0009】
前記上書きに用いる消去用データは、例えば、外部の情報処理装置から前記磁気ディスク装置に転送することができる。前記のデータ転送を採用する場合、消去対象トラックの上書き完遂に要する消去用データの転送総量は、消去対象トラックに所定回数の上書きを連続で行う分、従来方法よりも多くなる。
【0010】
そこで、前記磁気ディスク装置が、前記上書きに用いる消去用データを外部の情報処理装置から受信するデータ転送ステップと、前記頭出しステップ及び前記消去ステップのうちの実行可能なステップとを並行することが好ましい。頭出しステップ及び消去ステップの実行に要する作業時間は、前記転送総量を前記磁気ディスク装置に転送し終えるまでのデータ転送時間よりも十分に長い。したがって、データ転送ステップと、頭出しステップ及び消去ステップとを並行させれば、前記データ転送時間の増加がデータ消去作業時間に影響することはない。
【0011】
この発明に係るデータ消去方法は、前記磁気ディスク装置にこの発明に係るデータ消去方法を実行させるためのプログラムにより実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上に述べたように、この発明は、磁気ヘッドを消去対象トラックに対する読み書き位置へ移動させる頭出しステップと、前記磁気ヘッドを読み書き位置に留めて前記消去対象トラックに所定回数(2回以上)の上書きを完遂する消去ステップとを交互に繰り返すことにより、データ消去作業完了までに各トラックに対して磁気ヘッドを1回移動させるだけで済むため、磁気ディスク装置が磁気ディスクに同心円状に設けられた複数のトラックに前記所定回数(2回以上)の上書きを終えるまでのデータ消去作業時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施形態に係るデータ消去方法のフローチャート
【図2】この発明の実施形態に係るデータ消去方法を実行する磁気ディスク装置の動作の概念図
【図3】この実施形態に係るデータ消去方法を実行するためのシステム構成を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施形態に係るデータ消去方法を添付図面に基いて説明する。図3に示すように、実施形態に係るデータ消去方法を実行するためのシステムは、磁気ディスク装置1、磁気ディスク装置1にデータ消去方法を実行させるためのプログラムが記録されたCD−ROMやDVD−ROMといった媒体2、媒体2からプログラムを読み出し、そのプログラムに従って動作する情報処理装置3とからなる。情報処理装置3がプログラムに従って磁気ディスク装置1にデータ消去処理を実効させるための命令を送り、この命令に従って磁気ディスク装置1が実施形態に係るデータ消去方法を実行するようになっている。
【0015】
磁気ディスク装置1は、磁気ディスク、ディスク駆動機構、磁気ヘッド及びそれに付随する制御機構を含む装置であり、例えば、IDE、SCSI、SATA等の規格に準拠したハードディスクドライブである。図2に示すように、磁気ディスク装置1に備わる磁気ディスク10には、複数のトラック11、12・・・13が同心円状に設けられている。最外周のトラック11に代表図示するように、複数のトラック11、12・・・13のそれぞれは、セクタ21、22・・・23に分割されている。磁気ヘッド31は、アクセスアーム32に取り付けられている。磁気ディスク装置1は、ディスク駆動機構による磁気ディスク10の回転を制御すると共に、その回転中、制御機構によりアクセス機構の駆動を制御することにより磁気ヘッド31を任意の1つのトラック11、12・・・13に対する読み書き位置へ移動させることができる。この移動完了後、磁気ディスク装置1は、磁気ディスク10の回転で読み書き対象のセクタが磁気ヘッド31の読み書き位置に達すると、磁気ヘッド31によるセクタの読み書きを実行することができる。
【0016】
磁気ディスク装置1は、情報処理装置3からの命令に従って、情報処理装置3から送信された所定の消去用データを複数のトラック11、12・・・13に書き込み、所定回数(ただし、2回以上とする)の上書きを複数のトラック11、12・・・13の全セクタに行うことにより、消去前に磁気ディスク10に書き込まれた全ユーザデータを消去する。
以下、Gutmann方式を採用し、前記所定回数を35回としたときを例に図1に示すフローチャートに基づいて具体的に説明する(なお、以下、ハードウェアに関する符号は、図2、3中に示した符号を用いるので、適宜に参照のこと)。
【0017】
情報処理装置3に対して磁気ディスク装置1のデータ消去処理の開始命令が入力されると、情報処理装置3は、媒体2に記録されたプログラムに従って、磁気ディスク10のトラック数を磁気ディスク装置1から取得する(S1)。
【0018】
情報処理装置3は、複数のトラック11、12・・・13の中から最初の消去対象トラックを確定する(S2)。どのトラックから順番に消去対象とするかは、媒体2に記録されたプログラムに定められる。この例では、トラック番号の最も小さいトラック11からトラック番号の最も大きいトラック13へ順次に対象となっており、最初の消去対象トラックはトラック11であり、最後の消去対象トラックはトラック13である。磁気ディスクに設けられるトラック本数は、磁気ディスク装置の記憶容量や内部仕様によって製品間で様々に異なるが、消去対象順をこの例のトラック番号順にすれば、磁気ディスク装置のトラック本数に制限されることなく全トラックのデータ消去が可能である。なお、消去対象順はトラック番号順に限定されず、例えば、特定の1磁気ディスク装置に専用のデータ消去方法にする場合、トラック本数は1の値に定まるから、任意に定めることができる。
【0019】
磁気ディスク装置1にトラック11に対するデータ消去を命令し、磁気ディスク装置1との間で消去用データの転送処理を開始する(S3)。このデータ転送処理は、磁気ディスク装置1が1回目〜35回目の上書きに用いる全ての消去用データの受信を完了するまで自動的に継続される。すなわち、トラック11に対する1回目の上書きに用いる消去用データから転送が開始され、磁気ディスク装置1のバッファメモリに空き容量に応じて、順次、トラック11に対する2回目の上書きに用いる消去用データ・・・35回目の上書きに用いる消去用データの転送が完了するまで継続される。
【0020】
消去用データは、例えば、「0」又は「1」のみで構成されたパターンデータのように、特定のパターンデータとして媒体2に予め記録しておき、情報処理装置3が媒体2から読み出して磁気ディスク装置1に転送するように構成することができる。また、媒体2に記録されたプログラムのアルゴリズムに従って、情報処理装置3がランダム又は特定のパターンの消去用データを生成し、磁気ディスク装置1に転送するように構成することができる。
【0021】
また、磁気ディスク装置1は、(S3)の実行命令を受けて、磁気ヘッド31をトラック11に対する読み書き位置へ移動させ、トラック11の先頭セクタ21を待つ(S4)。ここで、「1回目の上書きを開始可能な最低限の消去用データ」とは、トラック11の先頭セクタ21に上書きすべき消去用データである。
【0022】
(S4)の内容の頭出しステップ後であって、(S3)のデータ転送ステップの実行によって1回目の上書きを開始可能な最低限の消去用データを受信した後、磁気ディスク装置1は、1回目の上書きに用いる消去用データをトラック11の先頭セクタ21へ書き込み、後続のセクタにも1回目の上書きを行う。磁気ディスク装置1は、1回目の消去用データを全セクタに書き込むと、引き続き、磁気ヘッド31をシークさせることなく、2回目の上書きに用いる消去用データをトラック11の先頭セクタ21から全セクタに書き込む。磁気ディスク装置1は、35回目の消去用データを全セクタに書き込むまで、磁気ヘッド31をシークさせることはなく、やがて35回目の上書きに用いる消去用データをトラック11の先頭セクタ21から全セクタに書込む(S5)。
【0023】
磁気ディスク装置1は、(S5)の内容の消去ステップによりトラック11の全セクタに35回の上書きを完遂する。なお、所定回数の上書きを行うデータ消去方法では、磁気消去装置によるデータ消去方法と異なり、全セクタの上書きに際し、磁気ディスク10に書き込まれたサーボ情報は上書きされない。
【0024】
情報処理装置3は、磁気ディスク装置1から(S5)の完了を通知された後、媒体2に記録されたプログラムに従って、消去対象トラックであったトラック11が最後の消去対象トラックであったか否かを照合する(S6)。照合の結果が「No」である場合、情報処理装置3は、(S2)に戻り、次のトラック番号を有するトラック12を次の消去対象トラックに確定し、以降、(S3)〜(S6)までの処理をトラック11のときと同様に繰り返す。やがて、トラック13に対する(S5)が完了した後の(S6)において、照合の結果が「Yes」になる。これにより、磁気ディスク10の複数のトラック11、12・・・13に35回の上書きが完了する。
【0025】
上記の一連の処理を磁気ヘッド31の動きで把握すると、図2中に示すように、先ず、磁気ヘッド31は、上記(S2)で確定した最初の消去対象トラックであるトラック11に対する頭出しステップ(S4)の実行により読み書き位置aへ移動させられる。磁気ヘッド31は、トラック11に対する消去ステップ(S5)を終えるまで読み書き位置aに留まる。そして、磁気ヘッド31は、(S2)で確定した次のトラック12に対する頭出しステップ(S4)の実行により読み書き位置bへ移動させられる。磁気ヘッド31は、トラック12に対する消去ステップ(S5)を終えるまで読み書き位置bに留まる。以後、(S2)で確定した次のトラックに対する頭出しステップ(S4)と消去ステップ(S5)とが交互に繰り返される度、磁気ヘッド31がトラック13に1トラック分ずつ近づき、最後に、磁気ヘッド31は、トラック13に対する頭出しステップ(S4)の実行により読み書き位置cへ移動させられる。磁気ヘッド31は、トラック13に対する消去ステップ(S5)を終えるまで読み書き位置cに留まる。
【0026】
上述のように、この実施形態に係るデータ消去方法によれば、磁気ディスク装置1が、磁気ヘッド31を消去対象トラックに対する読み書き位置へ移動させる頭出しステップ(S4)と、磁気ヘッド31を読み書き位置に留めて消去対象トラックに所定回数の上書きを完遂する消去ステップ(S5)とを交互に繰り返すため、所定回数の上書きを完遂したトラックに再び上書きすることはない。したがって、この実施形態に係るデータ消去方法は、所定回数が如何に多くとも、各トラックに対する磁気ヘッド31の頭出しステップ1回だけで済む。従来の方法と比較すると、この実施形態に係るデータ消去方法は、各トラックに磁気ヘッド31を移動させる回数を34回減らすことができ、その分、シーク時間及び回転待ち時間が減るため、データ消去作業時間を短縮することができる。
【0027】
また、この実施形態に係るデータ消去方法によれば、磁気ディスク装置1が外部の情報処理装置3から1回目〜35回目の上書きに用いる全ての消去用データを受信するデータ転送ステップ(S3)と、頭出しステップ(S4)とを並行し、さらにデータ転送ステップ(S3)と、頭出しステップ(S4)の実行後であって1回目の上書きを開始可能な最低限の消去用データを受信した後に消去ステップ(S5)とを並行するから、従来と比したデータ転送時間の増加がデータ消去作業時間に影響することはない。
【0028】
この発明に係るデータ消去方法は、実施形態のように媒体2に記録させたプログラムを情報処理装置3が実行することにより頭出しステップ(S4)、消去ステップ(S5)等の具体的内容に応じた実行命令を磁気ディスク装置1に送り、磁気ディスク装置1が頭出しステップ(S4)、消去ステップ(S5)を実行するように構成できる。また、媒体2にプログラムを記録することに代えて、頭出しステップ(S4)、消去ステップ(S5)等の具体的内容を記述したプログラムを、情報処理装置3に備わる不揮発記憶装置や補助記憶装置に格納し、又は磁気ディスク装置1のファームウェアとして実装し、そのプログラムを情報処理装置3又は磁気ディスク装置1が実行することにより磁気ディスク装置1が頭出しステップ(S4)、消去ステップ(S5)等を実行するように構成してもよい。これらのように、この発明に係るデータ消去方法を磁気ディスク装置1に実行させるための係るプログラムは、この発明を構成することになる。
【符号の説明】
【0029】
1 磁気ディスク装置
2 媒体
3 情報処理装置
10 磁気ディスク
11、12、13 トラック
21、22、23 セクタ
31 磁気ヘッド
32 アクセスアーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスク装置が磁気ディスクに同心円状に設けられた複数のトラックに所定回数(ただし、2回以上とする)の上書きを行うデータ消去方法において、
前記磁気ディスク装置が、磁気ヘッドを消去対象トラックに対する読み書き位置へ移動させる頭出しステップと、前記磁気ヘッドを前記読み書き位置に留めて前記消去対象トラックに前記所定回数の上書きを完遂する消去ステップとを交互に繰り返すことを特徴とするデータ消去方法。
【請求項2】
前記磁気ディスク装置が、前記上書きに用いる消去用データを外部の情報処理装置から受信するデータ転送ステップと、前記頭出しステップ及び前記消去ステップのうちの実行可能なステップとを並行する請求項1に記載のデータ消去方法。
【請求項3】
前記磁気ディスク装置に請求項1又は2に記載のデータ消去方法を実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−282677(P2010−282677A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134103(P2009−134103)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(302038718)株式会社エヌ・ティ・ティ ネオメイト (5)
【出願人】(591074585)エヌ・ティ・ティ アイティ株式会社 (21)