説明

トサカノリの養殖方法

【課題】本発明は、トサカノリ養殖を効率化し、さらにトサカノリを高品質化することを可能として、事業レベルの養殖方法を提供することを課題とする。
【解決手段】トサカノリ藻体を3〜4g程度の大きさに切り、貝類養殖に用いられる直径45cmの円柱状の網かごに100g程度を固定せずに入れる。最大の成長を引き出すため、1月〜3月上旬までは水深1mで養殖し、藻体の色彩を良くするため、3月から収穫までは水深5〜10mで養殖する。本発明の養殖方法は、トサカノリ成長が極めて早く、高品質のトサカノリが生産可能で、網かごを交換するだけと養殖管理が簡単であり、事業レベルでのトサカノリ養殖を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効率化・高品質化するための、トサカノリの養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紅藻綱スギノリ目ミリン科の海藻であるトサカノリは日本中南部の太平洋岸ならびに九州西岸が主な生息域であり、特に外洋に面した潮通しの良い海底3〜15mに成育しており、同海域で主に潜水により漁獲されている。また、赤・青・白に調色して海藻サラダや刺身のつまとして利用され、海藻類の中では極めて高価な種類であり、特に赤みの強いものが綺麗な赤色の商品に調色できることから良質とされる。
【0003】
トサカノリの養殖はこれまでに様々な養殖技術について検討がなされている。非特許文献1には陸上水槽内でトサカノリ母藻より胞子を採取し、ノリ網に付着させ、その後ノリ網を海中において試験栽培を試みられている。特許文献1にはトサカノリ胞子の効率的な放出方法が、特許文献2にはトサカノリ胞子の着生方法が記載されており、特許文献3にはトサカノリ胞子を陸上水槽で網かご等の栽培苗床に付着させる方法が記載されている。これらは主にトサカノリ胞子から種苗を得る方法であり、トサカノリ養殖のごく初期の工程でしかない。
【0004】
特許文献4にはトサカノリの未成熟葉体を成熟しない条件下で培養することで、夏期に枯死流出することを防ぎ、翌年の養殖に種苗として利用する方法が記されている。また、非特許文献2には組織培養することによって得られるカルス細胞を至適条件下で室内培養することにより、胞子を経ずにトサカノリ種苗を得ることができる方法が記されている。これらの技術は主にトサカノリの種苗を得ることを目的に開発された技術であり、これらも主にトサカノリ養殖のごく初期の工程でしかない。
【0005】
特許文献3、特許文献4ならびに非特許文献2では養殖方法も一部記されているものの、効率的な養殖方法の検討は十分になされていなかった。さらに、同文献にはトサカノリを網かごやロープに固定した状態や、網、網かごおよびロープに胞子付けされた状態で養殖を行なっているので、網かごやトサカノリに海水中に生息する生物(他の海藻や無脊椎動物)が付着し、トサカノリの成長が低下したり、固定しているため網かごの交換に時間を要したり、交換できないという問題があった。
【0006】
養殖する水深については特許文献4では水深0.2〜10m、好ましくは1.5〜5mと、非特許文献2には2〜5mと記載されているが、文献中では特に詳細に検討されていない。また、特許文献3では夏期には7〜20m好ましくは10mが、春期には3〜10mが好ましいと記載されている。ここでの夏期の養殖水深は胞子を高水温や台風から守るための手段として、水深を深くすることを提案しており、この夏期のトサカノリは微視的な時期であり、通常トサカノリの養殖期間は晩秋から初夏までの藻体が巨視的な時期であるので、この文献でも詳細に検討されていない。これら文献における養殖水深で養殖すると、十分な成長が得られなかったり、トサカノリの品質が低下したりする問題があった。
【非特許文献1】「トサカノリ」水産学シリーズ88 食用藻類の栽培、恒星社厚生閣、1992年 p.124−132
【特許文献1】特開昭62−40227公報
【特許文献2】特開平5−41929公報
【特許文献3】特開平13−2003−81公報
【特許文献4】特開平11−113434公報
【非特許文献2】「紅藻類」水産学シリーズ113 有用海藻のバイオテクノロジー、恒星社厚生閣、1997年 p.39−51
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、トサカノリ養殖を効率化し、さらにトサカノリを高品質化することを可能として、事業レベルの養殖方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために、第一発明は、トサカノリの養殖水深を養殖開始から3月上旬までは浅くし、それ以降深くすることにより、最大の成長量を引き出すことを特徴とするトサカノリの養殖方法である。第二発明はトサカノリの養殖水深を養殖開始から3月上旬までは浅くし、それ以降深くすることにより、トサカノリの色調を調整して、高品質品に仕上げることを特徴とするトサカノリの養殖方法である。
【発明の効果】
【0009】
第一発明または第二発明によれば、トサカノリの成長が極めてよく、さらには赤味の強い高品質のトサカノリを養殖することが可能となった。これにより、これまでの技術では採算性の低かったトサカノリ養殖の生産効率を飛躍的に高めることが可能となり、トサカノリ養殖を現場レベルで普及することが出来るため、需要を満たすだけのトサカノリを安定供給できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係るトサカノリの養殖方法について実施例および実験例に基づいて説明する。
【実施例】
【0011】
実施例1、1月にトサカノリ藻体を1〜10g、好ましくは3〜4g程度の大きさに切り、貝類養殖に用いられる直径45cmの円筒円錐状の網かごに50〜300g、好ましくは100g程度を固定せずに入れる。この時のトサカノリは[特許文献1]、[特許文献2]および[特許文献3]の技術で胞子から成長させた藻体、[特許文献4]の技術を利用した越夏藻体、[非特許文献2]の技術を利用したカルスから成長させた藻体、あるいは天然のトサカノリでもよい。養殖する施設は貝類養殖用の延縄式養殖筏で良く、貝類が養殖されている所ではこれを季節的に利用することも可能である。
【0012】
天然のトサカノリを用いて、1月25日から水深1,3,5,7,5,10mで養殖を開始し、藻体の湿重量を約20日ごとに測定した。1月25日を1として、藻体の成長率を表1に示す。また、同じデータから20日ごとの成長率を表2に示す。なお、網かごは20日ごとに新しいものに交換し、藻体の成長にともない網かごに収容しきれなくなった場合は網かごを増やして、分けて養殖した。直径45cmの円柱状の網かご1つあたり、収容できる藻体は約800g程度であった。水深別の養殖成績をみると、水深1mでは120日間で17倍以上に成長したが、水深10mでは11倍ほどであり、水深が浅いほど成長が良いことがわかった。また、20日ごとの成長を詳細にみると、3月5日までは水深の浅い方が成長率は良かったが、それ以降の時期では水深による成長率の差はほとんどなかった。
【0013】
【表1】

【0014】
【表2】

【0015】
実施例1における水深1m、5m、10mの実験終了時点での藻体の色を参考写真に示した。符号3の水深10mで養殖したトサカノリは符号1の水深1mで養殖したトサカノリより赤身が強く、符号2の水深5mで養殖したトサカノリは両水深で養殖したトサカノリの中間的な色彩であった。トサカノリは赤みが強い色彩の藻体ほど高品質品であり、高値で取引されることから、トサカノリ原藻の色彩として、5m以深で養殖すれば、概ね高品質のトサカノリを養殖できることが分かった。また、赤みの強いトサカノリにするためには5〜10mの水深で1ヶ月養殖すれば十分赤みが強くなる。したがって、養殖を開始した1月から3月上旬までは水深が浅いほど成長が良いので、水深1mで養殖し、3月から収穫するまでは水深による成長の差がなく、色彩も良くなる水深5〜10mで養殖すると、高成長ならびに高品質のトサカノリを養殖できる。
【0016】
実施例2、実施例1の方法(トサカノリを固定せずに網かごに入れ、1月〜3月上旬までは水深1mで養殖し、3月中旬から収穫までは水深5mで養殖する。)により、7漁場で漁場の違いによる成長率の差を表3に示した。最も成長の悪かったC漁場で25.87倍、最も成長の良かったG漁場では86.38倍に成長した。
【0017】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トサカノリの養殖水深を養殖開始から3月上旬までは浅くし、それ以降深くすることにより、最大の成長量を引き出すことを特徴とするトサカノリの養殖方法。
【請求項2】
トサカノリの養殖水深を養殖開始から3月上旬までは浅くし、それ以降深くすることにより、トサカノリの色調を調整して、高品質品に仕上げることを特徴とする請求項1に記載のトサカノリの養殖方法。

【公開番号】特開2008−92936(P2008−92936A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305962(P2006−305962)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(506378326)
【Fターム(参考)】