トナーの製造方法及びトナー
【課題】吐出孔の詰まりを防止でき、トナー組成液の連続的な吐出が実現できることで非常に高い生産性を期待でき、感光体フィルミング現象を抑制できる。
【解決手段】本発明のトナーの製造方法では、トナー組成液14を吐出するためのトナー吐出孔19がトナー組成液14が供給される液柱共鳴流路18を構成する部材の一部に開孔されている。液柱共鳴流路18にはトナー組成液14に振動を付与する振動発生手段20が設けられている。このトナー組成液14には、少なくとも樹脂、着色剤、離型剤、ポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とを少なくとも含むグラフト重合体を含有するトナー組成物を溶媒に溶解又は分散されている。液柱共鳴流路内のトナー組成液14に振動発生手段20によって振動を付与して液柱共鳴流路内に液柱共鳴による定在波を形成し定在波の腹となる領域に形成されたトナー吐出孔19からトナー組成液14を吐出する。
【解決手段】本発明のトナーの製造方法では、トナー組成液14を吐出するためのトナー吐出孔19がトナー組成液14が供給される液柱共鳴流路18を構成する部材の一部に開孔されている。液柱共鳴流路18にはトナー組成液14に振動を付与する振動発生手段20が設けられている。このトナー組成液14には、少なくとも樹脂、着色剤、離型剤、ポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とを少なくとも含むグラフト重合体を含有するトナー組成物を溶媒に溶解又は分散されている。液柱共鳴流路内のトナー組成液14に振動発生手段20によって振動を付与して液柱共鳴流路内に液柱共鳴による定在波を形成し定在波の腹となる領域に形成されたトナー吐出孔19からトナー組成液14を吐出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトナーの製造方法及びトナーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トナーの製造方法の一つとして粉砕法が知られている。この粉砕法は従来から行われている一般的なトナーの製造方法である。この粉砕法によれば、先ずトナー組成物を二本のロールや二軸の押し出し機などにより溶融混練する。この溶融混練したトナー組成物を冷却した後、粗粉砕処理、微粉砕処理、分級処理を行う。必要に応じてヘンシェルミキサーなどで流動化剤などの外添剤の混合処理を行う。上記粗粉砕処理ではロートプレックスやパルペライザーを用い、上記微粉砕処理ではジェットミルやターボミルを用いる。また、上記分級処理ではエルボジェットや各種の風力分級装置等の公知の製造装置を用いている。
【0003】
粉砕法以外の他のトナー製造方法として噴霧法が知られている。噴霧法は、多流体スプレー吐出孔噴霧機や回転円盤型噴霧機等を用いてトナー組成液を気相中で液滴化する方法である。上記多流体スプレー吐出孔噴霧機は、液体を加圧して吐出孔から噴霧する一流体吐出孔(加圧吐出孔)噴霧機や液体と圧縮気体を混合して噴霧する装置である。上記回転円盤型噴霧機は回転する円盤を用いて液体を遠心力により液滴化する装置である。そして、そのような噴霧法では、噴霧と乾燥を同時に行うスプレードライシステムという市販の装置を用いることができる。このスプレードライシステムを用いても十分な乾燥ができない場合は、流動床乾燥等の二次乾燥を行い、必要に応じてヘンシェルミキサーなどで流動化剤などの外添剤の混合を行う。
【0004】
また、上記粉砕法以外のさらに他のトナー製造方法として噴射造粒法が知られている。この噴射造粒法は、上記噴霧法のように液体を滴化して固化させる部分は同一であるが、異なる部分は振動発生手段を用いてトナーと同程度の直径を持つ吐出孔から液滴を吐出する点である。この噴射造粒法は従来よりいくつか提案されている。その一つとして、特許文献1には加圧室を一方向に加圧してノズルから液柱を発生させ、微弱な超音波振動によって液柱を分断して液滴化し、これを乾燥固化してトナー化するトナー製造方法及びその装置が提案されている。この特許文献1のトナー製造装置では、トナー組成液収容器から供給された液滴噴射ユニットの加圧室内のトナー組成液に対して一方向に加圧して貫通孔より液柱を形成する。そして、形成された液柱に振動発生手段によって微小な振動を与えてレイリー分裂を誘起させて均一な液滴を形成している。そして、その液滴を固化させてトナー母体粒子を製造する。このようなレイリー分裂方式は、液を加圧して吐出させるため、振動発生手段による微弱な振動を発生させるだけでよく、低い電圧で粒子化することが可能であるというメリットがある。
【0005】
更に、上記噴射造粒法を用いた他の従来例としての特許文献2によれば、ヘッド部ではトナー原料を貯留する原料貯留部に貯留されている原料全体を均一に加圧して吐出させる加圧パルス動作が行われ、吐出孔からトナー原料が吐出される。以下特許文献2に開示されている液滴吐出の原理について図12を用いて概説する。図12中には原料貯留部内の圧力値も併記してある。特許文献2における液滴吐出方法は原料貯留部内で以下に示す3つの状態を繰り返す動作を行い、間欠的に液滴を形成する方法である。ヘッド部は第一の状態として、吐出信号が入力されていない、即ち図12の(a)に示すように、圧電体に変形が生じず、原料貯留部には容積変化が生じず、吐出孔から原料液は吐出されない状態にある。次に、第二の状態として、吐出信号が入力され、図12の(b)、(c)に示すように、圧電体が原料貯留部内部側に変位し、原料貯留部の体積が減少する。このとき、原料貯留部全体内の圧力が均一に瞬間的に高まり、吐出孔から液滴が吐出される。このとき、原料貯留部と連通し、かつ原料液を収容するフィーダーと呼ばれる原料収容部(図示せず)側にも原料が流れている。次に、第三の状態として、1液滴の原料の吐出が終了した後、図12の(d)、(e)に示すように、電圧の印加を停止し、圧電素子はほぼ元の形状に戻る。このとき、原料貯留部内の原料液には負圧力が作用し、吐出量に見合った量の原料液が原料収容部から原料貯留部へ流れて供給される。
【0006】
一方、電子写真式複写機においては、乾式のトナー像が転写された紙などの媒体に加熱用のローラやベルト等が接触して媒体上のトナー像を加熱溶融する。これによりトナー像を媒体上に定着している。このような定着方法は、熱効率が良いため一般的によく行われている定着方法である。この定着方法において加熱用のローラやベルトの温度が高すぎると、トナーが過剰に溶融して加熱用のローラやベルトに融着する現象であるホットオフセットが発生する。このホットオフセットの発生を防止するため、従来より加熱用のローラやベルトにシリコーンオイルなどの離型オイルを塗布し、トナーが過剰に溶融しても加熱用のローラやベルトに融着しないようにしている。
【0007】
しかし、離型オイルを塗布する方法では、オイルタンク、オイル塗布装置を必要となるため、装置が複雑になり、かつ大型となる。また、コピー用紙、OHP用フィルム等にオイルが付着することが不可避となる。そのため、オイルが付着したコピー用紙に水性インクで筆記しても水性インクを弾いて加筆性が悪くなったり、OHPを用いて投影した場合OHP用フィルムに付着したオイルによって映像の色調が悪くなるという課題があった。そこで、加熱用のローラやベルトにオイル塗布しないでトナーの融着を防ぐ方法として、トナー自体にワックス等の離型剤を添加する方法がいくつか提案されている。その中の一例として、特許文献3には、特定の示差走査熱量(DSC:Differential scanning calorimetry)の吸熱ピークを有するワックスを含有するトナーが提案されている。また、他の例として、特許文献4には、離型剤として、キャンデリラワックス、高級脂肪酸系ワックス、高級アルコール系ワックス、植物系天然ワックス(カルナバワックス、ライスワックス)、モンタン系エステルワックス等を用いることが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1では、貯留部における液を一方向に加圧して吐出孔から吐出した液柱に振動発生手段によるレイリー分裂を作用させて液滴を形成している。そのため、形成される液滴の径が吐出孔の径より2倍程度となってしまう。小粒径のトナーを製造しようとすると、吐出孔の径を小粒径の半分程度まで小さくする必要がある。また、上記特許文献1では、加圧室内のトナー組成液に対して一方向に加圧している。これらのことから、顔料や必要に応じて添加される離型剤などの固形分散体などがノズル内部に詰まってしまう課題があった。
【0009】
また、上記特許文献2は、原料貯留部内で三つの状態を繰り返す動作を行って原料液を間欠的に吐出する方法である。この動作において吐出した分だけ減少した原料液を原料貯留部内に供給した後、原料液が吐出されない第一の状態に戻る。そのため、この第一の状態の時間に相当するトナーの生産量分だけ生産量は減少し、生産性が低下するという問題があった。
【0010】
更に、上記特許文献3、4のワックス等の離型剤は樹脂に比べて柔らかく付着性が高い。そのため、このような付着性が高い離型剤を含有するトナーを用いた現像工程において感光体にトナー像を形成して記録媒体に転写した後の感光体上に、添加された上記離型剤が付着して残存することがある。そして、付着した離型剤が感光体の表面を汚染するという感光体フィルミング現象が起こりやすくなるという課題があった。
【0011】
本発明は以上の課題に鑑みなされたものであり、その目的は吐出孔の詰まりを防止でき、トナー組成液の連続的な吐出が実現できることで非常に高い生産性を期待でき、感光体フィルミング現象を抑制できるトナーの製造方法及びトナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、少なくとも1つの吐出孔から液体を吐出して液滴化する液滴吐出工程と、上記液滴を固化する固化工程と、を有するトナーの製造方法であって、上記液体は、少なくとも、樹脂、着色剤、離型剤、ポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とを少なくとも含むグラフト重合体を含有するトナー組成物を溶媒に溶解又は分散させた上記トナー組成液であり、上記液滴吐出工程は、上記吐出孔が形成された液柱共鳴液室内の上記トナー組成液に振動を付与して液柱共鳴による定在波を形成し、該定在波の腹となる領域に形成された上記吐出孔から上記トナー組成液を吐出して液滴化することを特徴とするトナーの製造方法である。
また、請求項2の発明は、請求項1記載のトナーの製造方法において、上記定在波の腹となる領域の少なくとも1つに対して、複数の上記トナー吐出孔が形成されていることを特徴とするものである。
更に、請求項3の発明は、請求項1又は2に記載のトナーの製造方法において、上記グラフト重合体の添加量が、上記離型剤100重量部に対して、10〜150重量部の範囲であることを特徴とするものである。
更に、請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のトナーの製造方法において、上記ビニル系樹脂は、スチレン、(メタ)アクリル酸アルキルエステル又は(メタ)アクリロニトリルのいずれかを少なくとも含むことを特徴とするものである。
また、請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のトナーの製造方法によって製造されたことを特徴とするトナーである。
更に、請求項6の発明は、請求項5記載のトナーにおいて、上記トナーの個数平均粒径に対する上記トナーの重量平均粒径の比である上記トナーの粒度分布が1.00〜1.15の範囲であることを特徴とするものである。
また、請求項7の発明は、請求項5又は6に記載のトナーにおいて、上記トナーの重量平均粒径が1〜10[μm]の範囲であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明においては、液柱共鳴による定在波の腹と呼ばれる高い圧力が発生する圧力分布が液柱共鳴流路に形成される。この圧力分布は一方的に加圧されているのではないため、吐出孔の径を小さくしても吐出孔が詰まることがない。また、液柱共鳴による定在波の腹になる領域に吐出孔を設け、高い圧力によって吐出孔からトナー組成液が連続的に吐出されることにより、トナーの生産性が高くなる。更に、トナー組成液に、ポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とを少なくとも含むグラフト重合体を含有させることで、トナーに添加された離型剤と高い親和性があるというグラフト重合体の機能によってグラフト重合体と離型剤との結合が強くなる。このため、現像工程で離型剤が感光体に付着しにくくなり、感光体フィルミング現象を抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吐出孔の詰まりを防止でき、トナー組成液の連続的な吐出が実現できることで非常に高い生産性を期待でき、感光体フィルミング現象を抑制できるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係るトナー製造装置の全体構成を示す断面図である。
【図2】図1の液滴形成ユニットにおける液滴吐出ヘッドの構成を示す断面図である。
【図3】図1の液滴形成ユニットの構成を示すA−A’線断面図である。
【図4】N=1、2、3の場合の速度及び圧力変動の定在波を示す概略図である。
【図5】N=4、5の場合の速度及び圧力変動の定在波を示す概略図である。
【図6】液滴形成ユニットにおける液滴吐出ヘッド内の液柱共鳴流路で生じる液柱共鳴現象の様子を示す概略図である。
【図7】実際の液滴吐出の様子を示す図である。
【図8】駆動周波数と液滴吐出速度周波数特性を示す特性図である。
【図9】各ノズルにおける印加電圧と吐出速度の関係を示す特性図である。
【図10】各ノズルにおける印加電圧と液滴直径の関係を示す特性図である。
【図11】液滴吐出ヘッドの実施例を示す図である。
【図12】従来のトナー製造装置におけるトナー液滴ヘッドにおける液滴動作の様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の一実施の形態に係るトナー製造装置の全体構成を示す断面図である。図2は図1の液滴形成ユニットにおける液滴吐出ヘッドの構成を示す断面図である。図3は図1の液滴形成ユニットの構成を示すA−A’線断面図である。図1に示す本実施の形態のトナー製造装置1は、主に、液滴形成ユニット10及び乾燥捕集ユニット30を含んで構成されている。液滴形成ユニット10は、吐出孔によって外部と連通する液噴射領域を有する液室であって後述する条件下のもとで液柱共鳴定在波が発生する液柱共鳴流路内のトナー組成液を液滴として吐出孔から噴射する液滴化手段である液滴吐出ヘッド11を複数配列して構成されている。各液滴吐出ヘッド11の両側には液滴吐出ヘッド11から吐出したトナーの液滴が乾燥捕集ユニット30側に流出されるように図示していない気流発生手段によって発生する気流が通る気流通路12が設けられている。また、液滴形成ユニット10は、トナー原料であるトナー組成液14を収容する原料収容器13と、原料収容器13に収容されているトナー組成液14を液供給管16を通して液滴吐出ヘッド11内の後述する液共通供給路17に供給し、更に液戻り管22を通って原料収容器13に戻すために液供給管16内のトナー組成液14を圧送する液循環ポンプ15とを含んで構成されている。更に、液滴吐出ヘッド11は、図2に示すように、液共通供給路17及び液柱共鳴流路18を含んで構成されている。液柱共鳴流路18は、長手方向の両端の壁面のうち一方の壁面に設けられた液共通供給路17と連通されている。また、液柱共鳴流路18は、両端の壁面と連結する壁面のうち一つの壁面にトナー液滴21を吐出するトナー吐出孔19と、トナー吐出孔19と対向する壁面に設けられ、かつ液柱共鳴定在波を形成するために高周波振動を発生する振動発生手段20とを有している。なお、振動発生手段20には、図示していない高周波電源が接続されている。
【0017】
また、図1に示す乾燥捕集ユニット30は、チャンバ31及びトナー捕集部32を含んで構成されている。チャンバ31内では、図示していない気流発生手段によって発生する気流と下降気流33が合流した大きな下降気流が形成されている。液滴噴射ユニット10の液滴吐出ヘッド11から噴射されたトナー液滴21は、重力よってのみではなく、下降気流33によっても下方に向けて搬送されるため、噴射されたトナー液滴21が空気抵抗によって減速されることを抑制できる。これにより、トナー液滴21を連続的に噴射したときに、前に噴射されたトナー液滴21が空気抵抗によって減速し、後に噴射されたトナー液滴21が前に噴射されたトナー液滴21に追い付くことで、トナー液滴21同士が合着して一体となり、トナー液滴21の粒径が大きくなることを防止できる。なお、気流発生手段として、上流部分に送風機を設けて加圧する方法と、トナー捕集部32より吸引して減圧する方法のいずれを採用することもできる。また、トナー捕集部32には、鉛直方向に平行な軸周りに回転するような回転気流を発生させる回転気流発生装置(図示せず)が配置されている。更に、トナー捕集部32には、チャンバ31と連通するトナー捕集チューブ34を通った乾燥・固化されたトナー粒子を貯留するトナー貯留部35を有している。
【0018】
次に、本発明のトナー製造装置におけるトナー製造工程について概説する。
図1に示す原料収容器13に収容されているトナー組成液14は、当該トナー組成液14を循環させるための液循環ポンプ15によって液供給管16を通って、図3に示す液滴形成ユニット10の液共通供給路17内に流入し、図2に示す液滴吐出ヘッド11の液柱共鳴流路18に供給される。そして、トナー組成液14が充填されている液柱共鳴流路18内には、振動発生手段20によって発生する液柱共鳴定在波により圧力分布が形成される。そして、液柱共鳴定在波において振幅の大きな部分であって圧力変動が大きい、定在波の腹となる領域に配置されているトナー吐出孔19からトナー液滴21が吐出される。この液柱共鳴による定在波の腹となる領域とは、圧力定在波の圧力変動が液を吐出するのに十分な大きさの振幅を有する領域である。好ましくは、圧力定在波の振幅が極大となる位置(速度定在波としての節)から極小となる位置に向かって±2/3波長までの範囲であり、より好ましくは±1/4波長の範囲である。定在波の腹となる領域であれば、吐出孔が複数で開口されていても、それぞれからほぼ均一な液滴を形成することができ、更には効率的に液滴の吐出を行うことができ、吐出孔の詰まりも生じ難くなる。なお、液共通供給路17を通過したトナー組成液14は液戻り管22を流れて原料収容器13に戻される。トナー液滴21の吐出によって液柱共鳴流路18内のトナー組成液14の量が減少すると、液柱共鳴流路18内の液柱共鳴定在波の作用による吸引力が作用し、液共通供給路17から供給されるトナー組成液14の流量が増加する。そして、液柱共鳴流路18内にトナー組成液14が補充される。また、液柱共鳴流路18内にトナー組成液14が補充されると、液共通供給路17を通過するトナー組成液14の流量が元に戻る。そして、液供給管16及び液戻り管22には装置内を循環するトナー組成液14の流れが再び形成された状態となる。一方、液滴噴射ユニット10の液滴吐出ヘッド11から噴射されたトナー液滴21は、図1に示すように、重力よってのみではなく、図示していない気流発生手段によって発生する気流が気流通路12を通り形成される下降気流33によって下方に向けて搬送される。次に、トナー捕集部32における図示していない回転気流発生装置が発生させる回転気流と下降気流33とによって、トナー捕集部32を構成する円錐状内壁面に沿って螺旋気流が形成される。そして、トナー粒子はその螺旋気流にのって層流状態で乾燥、固化される。乾燥、固化されたトナー粒子はトナー捕集チューブ34を通ってトナー貯留部35に収納される。
【0019】
なお、液滴吐出ヘッド11における液柱共鳴流路18は、金属やセラミックス、シリコンなどの駆動周波数において液体の共鳴周波数に影響を与えない程度の高い剛性を持つ材質により形成されるフレームがそれぞれ接合されて形成されている。また、図2に示すように、液柱共鳴流路18の長手方向の両端の壁面間の長さLは、後述するような液柱共鳴原理に基づいて決定される。また、図3に示す液柱共鳴流路18の幅Wは、液柱共鳴に余分な周波数を与えないように、液柱共鳴流路18の長さLの2分の1より小さいことが望ましい。更に、液柱共鳴流路18は、生産性を飛躍的に向上させるために1つの液滴形成ユニット10に対して複数配置されているほうが好ましい。その範囲に限定はないが、100〜2000個の液柱共鳴流路18が備えられた1つの液滴形成ユニットであれば操作性と生産性が両立でき、もっとも好ましい。また、液柱共鳴流路毎に、液供給のための流路が液共通供給路17から連通接続されており、液共通供給路17には複数の液柱共鳴流路18と連通している。
【0020】
また、液滴吐出ヘッド11における振動発生手段20は所定の周波数で駆動できるものであれば特に制限はないが、圧電体を、弾性板に貼りあわせた形態が望ましい。弾性板は、圧電体が接液しないように液柱共鳴流路の壁の一部を構成している。圧電体は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電セラミックスが挙げられるが、一般に変位量が小さいため積層して使用されることが多い。この他にも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の圧電高分子や、水晶、LiNbO3、LiTaO3、KNbO3等の単結晶などが挙げられる。更に、振動発生手段20は、1つの液柱共鳴流路毎に個別に制御できるように配置されていることが望ましい。また、上記の1つの材質のブロック状の振動部材を液柱共鳴流路の配置にあわせて、一部切断し、弾性板を介してそれぞれの液柱共鳴流路を個別制御できるような構成が望ましい。
【0021】
更に、トナー吐出孔19の開口部の直径は、1[μm]〜40[μm]の範囲であることが望ましい。1[μm]より小さいと、形成される液滴が非常に小さくなるためトナーを得ることができない場合がある。また、トナーの構成成分として顔料などの固形微粒子が含有された構成の場合、トナー吐出孔19において閉塞を頻繁に発生して生産性が低下する恐れがある。また、40[μm]より大きい場合、トナー液滴の直径が大きく、これを乾燥固化させる。所望のトナー粒子径3〜6μmを得る場合、有機溶媒でトナー組成を非常に希薄な液に希釈する必要がある場合があり、一定量のトナーを得るために乾燥エネルギーが大量に必要となってしまい、不都合となる。また、図3からわかるように、トナー吐出孔19を液柱共鳴流路18内の幅方向に設ける構成を採用することは、トナー吐出孔19の開口を多数設けることができ、よって生産効率が高くなるために好ましい。また、トナー吐出孔19の開口配置によって液柱共鳴周波数が変動するため、液柱共鳴周波数は液滴の吐出を確認して適宜決定することが望ましい。
【0022】
次に、本発明のトナー製造装置における液滴形成ユニットによる液滴形成のメカニズムについて説明する。
先ず、図2の液滴吐出ヘッド11内の液柱共鳴流路18において生じる液柱共鳴現象の原理について説明すると、液柱共鳴流路内のトナー組成液の音速をcとし、振動発生手段20から媒質であるトナー組成液に与えられた駆動周波数をfとした場合、液体の共鳴が発生する波長λは、
λ=c/f ・・・(式1)
の関係にある。
【0023】
また、図2の液柱共鳴流路18において固定端側のフレームの端部から液共通供給路17側の端部までの長さをLとする。更に、液共通供給路17側のフレームの端部の高さh1(=約80[μm])は連通口の高さh2(=約40[μm])の約2倍あり当該端部が閉じている固定端と等価であるとした両側固定端の場合には、長さLが波長λの4分の1の偶数倍に一致する場合に共鳴が最も効率的に形成される。つまり、次の式2で表現される。
L=(N/4)λ ・・・(式2)
(但し、Nは偶数)
【0024】
更に、両端が完全に開いている両側開放端の場合にも上記式2が成り立つ。
同様にして、片方側が圧力の逃げ部がある開放端と等価で、他方側が閉じている(固定端)の場合、つまり片側固定端又は片側開放端の場合には、長さLが波長λの4分の1の奇数倍に一致する場合に共鳴が最も効率的に形成される。つまり、上記式2のNが奇数で表現される。
【0025】
最も効率の高い駆動周波数fは、上記式1と上記式2より、
f=N×c/(4L) ・・・(式3)
と導かれる。しかし、実際には、液体は共鳴を減衰させる粘性を持つために無限に振動が増幅されるわけではなく、Q値を持ち、後述する式4、式5に示すように、式3に示す最も効率の高い駆動周波数fの近傍の周波数でも共鳴は発生する。
【0026】
図4にN=1、2、3の場合の速度及び圧力変動の定在波の形状(共鳴モード)を示し、かつ図5にN=4、5の場合の速度及び圧力変動の定在波の形状(共鳴モード)を示す。本来は疎密波(縦波)であるが、図4及び図5のように表記することが一般的である。実線が速度定在波、点線が圧力定在波である。例えば、N=1の片側固定端の場合を示す図4の(a)からわかるように、速度分布の場合閉口端で速度分布の振幅がゼロとなり、開口端で振幅が最大となり、直感的にわかりやすい。液柱共鳴流路の長手方向の両端の間の長さをLとしたとき、液体が液柱共鳴する波長をλとし、整数Nが1〜5の場合に定在波が最も効率よく発生する。また、両端の開閉状態によっても定在波パターンは異なるため、それらも併記した。後述するが、トナー吐出孔の開口や供給側の開口の状態によって、端部の条件が決まる。なお、音響学において、開口端とは長手方向の媒質(液)の移動速度がゼロとなる端であり、逆に圧力は極大となる。閉口端においては、逆に媒質の移動速度がゼロとなる端と定義される。閉口端は音響的に硬い壁として考え、波の反射が発生する。理想的に完全に閉口、もしくは開口している場合は、波の重ね合わせによって図4及び図5のような形態の共鳴定在波を生じる。しかし、トナー吐出孔数、トナー吐出孔の開口位置によっても定在波パターンは変動する。上記式3より求めた位置からずれた位置に共鳴周波数が現れるが、適宜駆動周波数を調整することで安定吐出条件を作り出すことができる。例えば、液体の音速cが1,200[m/s]、液柱共鳴流路の長さLが1.85[mm]で、両端に壁面が存在する。そして、両側固定端と完全に等価のN=2の共鳴モードを用いた場合、上記式(2)より、最も効率の高い共鳴周波数は324kHzと導かれる。他の例では、液体の音速cが1,200[m/s]、液柱共鳴流路の長さLが1.85[mm]で、上記と同じ条件を用い、両端に壁面が存在する。そして、両側固定端と等価のN=4の共鳴モードを用いた場合、上記式(2)より、最も効率の高い共鳴周波数は648kHzと導かれ、同じ構成の液柱共鳴流路においても、より高次の共鳴を利用することができる。
【0027】
なお、図1及び図2に示す本実施の形態の液滴形成ユニットの液滴吐出ヘッドにおける液柱共鳴流路は、両端が閉口端状態と等価であるか、トナー吐出孔の開口の影響で、音響的に軟らかい壁として説明できるような端部であることが周波数を高めるためには好ましいが、それに限らず開放端であってもよい。ここでのトナー吐出孔の開口の影響とは、音響インピーダンスが小さくなり、特にコンプライアンス成分が大きくなることを意味する。よって、図4の(b)及び図5の(a)のような液柱共鳴流路の長手方向の両端に壁面を形成する構成は、両側固定端の共鳴モード、そしてトナー吐出孔側が開口とみなす片側開放端の全ての共鳴モードが利用できるために、好ましい構成である。
【0028】
また、トナー吐出孔の開口数、開口配置位置、トナー吐出孔の断面形状も駆動周波数を決定する因子となり、駆動周波数はこれに応じて適宜決定することができる。例えばトナー吐出孔の数を多くすると、徐々に固定端であった液柱共鳴流路の先端の拘束が緩くなり、ほぼ開口端に近い共鳴定在波が発生し、駆動周波数は高くなる。更に、最も液供給路側に存在するトナー吐出孔の開口配置位置を起点に緩い拘束条件となる。また、トナー吐出孔の断面形状がラウンド形状となったりフレームの厚さによる吐出孔の体積が変動したり、実際上の定在波は短波長となり、駆動周波数よりも高くなる。このように決定された駆動周波数で振動発生手段に電圧を与えたとき、振動発生手段が変形し、駆動周波数にて最も効率よく共鳴定在波を発生する。また、共鳴定在波が最も効率よく発生する駆動周波数の近傍の周波数でも液柱共鳴定在波は発生する。つまり、液柱共鳴流路の長手方向の両端間の長さをL、液供給側の端部に最も近いトナー吐出孔までの距離をLeとしたとき、L及びLeの両方の長さを用いて下記式4及び式5で決定される範囲の駆動周波数fを主成分とした駆動波形を用いて振動発生手段を振動させる。そして、液柱共鳴を誘起して液滴をトナー吐出孔から吐出することが可能である。
【0029】
N×c/(4L)≦f≦N×c/(4Le) ・・・(式4)
N×c/(4L)≦f≦(N+1)×c/(4Le) ・・・(式5)
【0030】
なお、液柱共鳴流路の長手方向の両端間の長さLと、液供給側の端部に最も近いトナー吐出孔までの距離Leの比がLe/L>0.6であることが好ましい。
【0031】
以上説明した液柱共鳴現象の原理を用いて、図2の液柱共鳴流路18において液柱共鳴圧力定在波が形成され、液柱共鳴流路18の一部に配置されたトナー吐出孔19において連続的に液滴吐出が発生するのである。なお、定在波の圧力が最も大きく変動する位置(液柱共鳴定在波の腹)にトナー吐出孔19を配置すると、吐出効率が高くなり、低い電圧で駆動することができる点で好ましい。また、トナー吐出孔19は1つの液柱共鳴流路18に1つでも構わないが、複数個配置することが生産性の観点から好ましい。具体的には、2〜100個の間であることが好ましい。100個を超えた場合、100個のトナー吐出孔19から所望のトナー液滴を形成させようとすると、振動発生手段20に与える電圧を高く設定する必要が生じ、振動発生手段20としての圧電体の挙動が不安定となる。また、複数のトナー吐出孔19を開孔する場合、トナー吐出孔間のピッチは20[μm]以上、液柱共鳴流路の長さ以下であることが好ましい。トナー吐出孔間のピッチが20[μm]より大きい場合、隣あうトナー吐出孔より放出された液滴同士が衝突して大きな滴となってしまう確率が高くなり、トナーの粒径分布悪化につながる。
【0032】
次に、液滴形成ユニットにおける液滴吐出ヘッド内の液柱共鳴流路で生じる液柱共鳴現象の様子について当該様子を示す図6を用いて説明する。なお、同図において、液柱共鳴流路内に記した実線は液柱共鳴流路内の固定端側から液共通供給路側の端部までの間の任意の各測定位置における速度をプロットした速度分布を示す。また、液共通供給路側から液柱共鳴流路への方向を+とし、その逆方向を−とする。また、液柱共鳴流路内に記した点線は液柱共鳴流路内の固定端側から液共通供給路側の端部までの間の任意の各測定位置における圧力値をプロットした圧力分布を示し、大気圧に対して正圧を+とし、負圧は−とする。また、正圧であれば図中の下方向に圧力が加わることになり、負圧であれば図中の上方向に圧力が加わることになる。更に、図6において、上述したように液共通供給路側が開放されているが液共通供給路17と液柱共鳴流路18とが連通する開口の高さ(図2に示す高さh2)に比して固定端となるフレームの高さ(図2に示す高さh1)が約2倍以上である。そのため、液柱共鳴流路18はほぼ両側固定端であるという近似的な条件のもとでの速度分布及び圧力分布の時間的なそれぞれの変化を示している。
【0033】
図6の(a)は液滴吐出時の液柱共鳴流路18内の圧力波形と速度波形を示している。また、図6の(b)は液滴吐出直後の液引き込みを行った時の液柱共鳴流路18内の圧力波形と速度波形を示している。これらの図6の(a),(b)に示すように、液柱共鳴流路18におけるトナー吐出孔19が設けられている流路内での圧力は極大となっている。液柱共鳴流路18内のトナー組成液の流れは、液共通供給路17側へ流れる方向となっており、速度は小さい。その後、図6の(c)に示すように、トナー吐出孔19付近の正の圧力は小さくなり、負圧の方向へ移行する。液柱共鳴流路18内のトナー組成液の流れは、図6の(a),(b)と液共通供給路17側へ流れる方向で変わらないが、速度は極大となる。
【0034】
そして、図6の(d)に示すように、トナー吐出孔19付近の圧力は極小になる。液柱共鳴流路18内のトナー組成液の流れは、液共通供給路17側から液柱共鳴流路18へ流れる方向に変わる。速度は小さい。このときから液柱共鳴流路18へのトナー組成液14の充填が始まる。その後、図6の(e)に示すように、トナー吐出孔19付近の負の圧力は小さくなり、正圧の方向へ移行する。液柱共鳴流路18内のトナー組成液の流れは、図6の(d)と液共通供給路17側へ流れる方向で変わらないが、速度は極大となる。この時点で、トナー組成液14の充填が終了する。そして、再び、図6の(a)に示すように、液柱共鳴流路18の液滴吐出領域の正の圧力が極大となって、トナー吐出孔19から液滴21が吐出される。このように、液柱共鳴流路内には振動発生手段の高周波駆動によって液柱共鳴による定在波が発生する。また、圧力が最も大きく変動する位置となる液柱共鳴による定在波の腹に相当する液滴吐出領域にトナー吐出孔19が配置されている。このようなことから、当該腹の周期に応じてトナー液滴21がトナー吐出孔19から連続的に吐出される。
【0035】
次に、実際に液柱共鳴現象によって液滴が吐出された構成の一例について説明する。この一例は、図2において液柱共鳴流路18の長手方向の両端間の長さLが1.85[mm]、N=2の共鳴モードである。また、第一から第四のトナー吐出孔がN=2モード圧力定在波の腹の位置にトナー吐出孔を配置し、駆動周波数を340[kHz]のサイン波で行った吐出をレーザーシャドウグラフィ法にて撮影した様子を図7に示す。同図からわかるように、非常に径の揃った、速度もほぼ揃った液滴の吐出が実現している。また、図8は駆動周波数290[kHz]〜395[kHz]の同一振幅サイン波にて駆動した際の液滴速度周波数特性を示す特性図である。同図からわかるように、第一〜第四のノズルにおいて駆動周波数が340[kHz]付近では各ノズルからの吐出速度が均一となって、かつ最大吐出速度となっている。この特性結果から、液柱共鳴周波数の第二モードである340[kHz]において、液柱共鳴定在波の腹の位置で均一吐出が実現していることがわかる。また、図8の特性結果から、第一モードである130[kHz]においての液滴吐出速度ピークと、第二モードである340[kHz]においての液滴吐出速度ピークとの間では液滴は吐出しないという液柱共鳴の特徴的な液柱共鳴定在波の周波数特性が液柱共鳴流路内で発生していることがわかる。
【0036】
また、図9は各ノズルにおける印加電圧と吐出速度の関係を示す特性図であり、図10は各ノズルにおける印加電圧と液滴直径の関係を示す特性図である。両図からわかるように、印加電圧に対して吐出速度も液滴直径も単調増加の傾向にあった。よって、吐出速度及び液滴直径は印加電圧に依存するため、印加電圧を調整することにより、所望の吐出速度、あるいは所望のトナー粒子の径に応じた液滴直径を調整することができる。
【0037】
<トナー>
本発明のトナーは、上述した、本発明のトナー製造方法により製造されたトナーである。本発明のトナーは、離型剤及びポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とからなるグラフト重合体を含有していることが特徴であるが、それ以外のトナー材料は、従来の電子写真用トナーと同じものが使用できる。すなわち、スチレンアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオール系樹脂、エポキシ系樹脂、等のトナーバインダーを各種有機溶媒に溶解し、着色剤を分散、かつ、離型剤及び前記グラフト重合体を分散又は溶解し、これを前記トナー製造方法により微小液滴とし乾燥固化させることで、目的とするトナー粒子を作製することが可能である。また、上記材料を熱溶融混練し得られた混練物を各種溶媒に一度溶解乃至分散した液を、前記トナー製造方法により微小液滴とし乾燥固化させることで、目的のトナーを得ることも可能である。離型剤及び前記グラフト重合体をトナー中に添加することにより、耐オフセット性が向上するとともに、離型剤の分散粒径を微小化できるとともに再凝集することを防止できるためトナー吐出孔の詰まりを防止することができる。
【0038】
本発明のトナーは、長期にわたって安定した画像を維持するために粒度分布(重量平均粒径/個数平均粒径)が、1.00〜1.15の範囲にあることが好ましい。また、本発明のトナーは、高解像度で、高精細・高品質な画像を形成するために重量平均粒径が1〜10[μm]であることが好ましい。
【0039】
〔樹脂〕
前記樹脂としては、少なくとも結着樹脂が挙げられる。
前記結着樹脂としては、特に制限はなく、通常使用される樹脂を適宜選択して使用することができるが、例えば、スチレン系単量体、アクリル系単量体、メタクリル系単量体等のビニル重合体、これらの単量体又は2種類以上からなる共重合体、ポリエステル系重合体、ポリオール樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、テルペン樹脂、クマロンインデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、石油系樹脂、などが挙げられる。
【0040】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−フエニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−アミルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−へキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−クロルスチレン、3,4−ジクロロスチレン、m−ニトロスチレン、o−ニトロスチレン、p−ニトロスチレン等のスチレン、又はその誘導体、などが挙げられる。
【0041】
アクリル系単量体としては、例えば、アクリル酸、あるいはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸n−ドデシル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸、又はそのエステル類、などが挙げられる。
【0042】
メタクリル系単量体としては、例えば、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のメタクリル酸又はそのエステル類、などが挙げられる。
【0043】
前記ビニル重合体、又は共重合体を形成する他のモノマーの例としては、以下の(1)〜(18)が挙げられる。(1)エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のモノオレフイン類;(2)ブタジエン、イソプレン等のポリエン類;(3)塩化ビニル、塩化ビニルデン、臭化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;(4)酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;(5)ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類;(6)ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン等のビニルケトン類;(7)N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物;(8)、ビニルナフタリン類;(9)アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等のアクリル酸若しくはメタクリル酸誘導体等;(10)マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アルケニルコハク酸、フマル酸、メサコン酸の如き不飽和二塩基酸;(11)マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、アルケニルコハク酸無水物の如き不飽和二塩基酸無水物;(12)マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノエチルエステル、シトラコン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、アルケニルコハク酸モノメチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、メサコン酸モノメチルエステルの如き不飽和二塩基酸のモノエステル;(13)ジメチルマレイン酸、ジメチルフマル酸の如き不飽和二塩基酸エステル;(14)クロトン酸、ケイヒ酸の如きα,β−不飽和酸;(15)クロトン酸無水物、ケイヒ酸無水物の如きα,β−不飽和酸無水物;(16)該α,β−不飽和酸と低級脂肪酸との無水物、アルケニルマロン酸、アルケニルグルタル酸、アルケニルアジピン酸、これらの酸無水物及びこれらのモノエステルの如きカルボキシル基を有するモノマー;(17)2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類;(18)4−(1−ヒドロキシ−1−メチルブチル)スチレン、4−(1−ヒドロキシ−1−メチルへキシル)スチレンの如きヒドロキシ基を有するモノマー。
【0044】
本発明に係るトナーにおいて、結着樹脂のビニル重合体、又は共重合体は、ビニル基を2個以上有する架橋剤で架橋された架橋構造を有していてもよい。この場合に用いられる架橋剤としては、芳香族ジビニル化合物として、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、などが挙げられる。アルキル鎖で結ばれたジアクリレート化合物類として、例えば、エチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,5−ペンタンジオールジアクリレート、1,6へキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、これらの化合物のアクリレートをメタクリレートに代えたもの、などが挙げられる。エーテル結合を含むアルキル鎖で結ばれたジアクリレート化合物類として、例えば、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール#400ジアクリレート、ポリエチレングリコール#600ジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、これらの化合物のアクリレートをメタアクリレートに代えたもの、などが挙げられる。
【0045】
その他、芳香族基及びエーテル結合を含む鎖で結ばれたジアクリレート化合物、ジメタクリレート化合物も挙げられる。ポリエステル型ジアクリレート類として、例えば、商品名MANDA(日本化薬社製)が挙げられる。
【0046】
多官能の架橋剤としては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、オリゴエステルアクリレート及び以上の化合物のアクリレートをメタクリレートに代えたもの、トリアリルシアヌレート、トリアリルトリメリテートが挙げられる。
【0047】
これらの架橋剤は、他のモノマー成分100質量部に対して、0.01〜10質量部用いることが好ましく、0.03〜5質量部用いることがより好ましい。これらの架橋性モノマーのうち、トナー用樹脂に定着性、耐オフセット性の点から、芳香族ジビニル化合物(特にジビニルベンゼン)、芳香族基及びエーテル結合を1つ含む結合鎖で結ばれたジアクリレート化合物類が好適に挙げられる。これらの中でも、スチレン系共重合体、スチレン−アクリル系共重合体となるようなモノマーの組み合わせが好ましい。
【0048】
本発明のビニル重合体又は共重合体の製造に用いられる重合開始剤としては、例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート、1,1'−アゾビス(1−シクロへキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)−イソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−フェニルアゾ−2',4'−ジメチル−4'−メトキシバレロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルプロパン)、メチルエチルケトンパ−オキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、シクロへキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、2,2−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ブタン、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジークミルパーオキサイド、α−(tert−ブチルパーオキシ)イソプロピルべンゼン、イソブチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、m−トリルパーオキサイド、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルへキシルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシカーボネート、ジ−エトキシイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシカーボネート、アセチルシクロへキシルスルホニルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルへキサレート、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチル−オキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ−tert−ブチルパーオキシイソフタレート、tert−ブチルパーオキアリルカーボネート、イソアミルパーオキシ−2−エチルへキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキシへキサハイドロテレフタレート、tert−ブチルパーオキシアゼレート、などが挙げられる。
【0049】
結着樹脂がスチレン−アクリル系樹脂の場合、樹脂成分のテトラヒドロフラン(THF)に可溶分のGPCによる分子量分布で、分子量3千〜5万(数平均分子量換算)の領域に少なくとも1つのピークが存在する。また、分子量10万以上の領域に少なくとも1つのピークが存在する樹脂が、定着性、オフセット性、保存性の点で好ましい。また、THF可溶分としては、分子量分布10万以下の成分が50〜90%となるような結着樹脂が好ましく、分子量5千〜3万の領域にメインピークを有する結着樹脂がより好ましく、5千〜2万の領域にメインピークを有する結着樹脂が最も好ましい。
【0050】
ポリエステル系重合体を構成するモノマーとしては、以下のものが挙げられる。
2価のアルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、又は、ビスフェノールAにエチレンオキシド、プロピレンオキシド等の環状エーテルが重合して得られるジオール、などが挙げられる。
【0051】
ポリエステル樹脂を架橋させるためには、3価以上のアルコールを併用することが好ましい。
前記3価以上の多価アルコールとしては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、例えば、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタトリオール、グリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、などが挙げられる。
【0052】
ポリエステル系重合体を形成する酸成分としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のべンゼンジカルボン酸類又はその無水物、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等のアルキルジカルボン酸類又はその無水物、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アルケニルコハク酸、フマル酸、メサコン酸等の不飽和二塩基酸、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、アルケニルコハク酸無水物等の不飽和二塩基酸無水物、などがあげられる。また、3価以上の多価カルボン酸成分としては、トリメット酸、ピロメット酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシ−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、テトラ(メチレンカルボキシ)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、エンポール三量体酸、又はこれらの無水物、部分低級アルキルエステル、などが挙げられる。
【0053】
結着樹脂がポリエステル系樹脂の場合は、樹脂成分のTHF可溶成分の分子量分布で、分子量3千〜5万の領域に少なくとも1つのピークが存在するのが、トナーの定着性、耐オフセット性の点で好ましい。また、THF可溶分としては、分子量10万以下の成分が60〜100[%]となるような結着樹脂も好ましい。更に、分子量5千〜2万の領域に少なくとも1つのピークが存在する結着樹脂がより好ましい。
【0054】
結着樹脂がポリエステル樹脂の場合、その酸価としては、0.1[mgKOH/g]〜100[mgKOH/g]の範囲であることが好ましい。また、0.1[mgKOH/g]〜70[mgKOH/g]の範囲であることがより好ましく、0.1[mgKOH/g]〜50[mgKOH/g]の範囲であることが最も好ましい。
【0055】
本発明において、結着樹脂の分子量分布は、THFを溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。
【0056】
本発明に係るトナーに使用できる結着樹脂としては、前記ビニル重合体成分及びポリエステル系樹脂成分の少なくともいずれか中に、これらの両樹脂成分と反応し得るモノマー成分を含む樹脂も使用することができる。ポリエステル系樹脂成分を構成するモノマーのうちビニル重合体と反応し得るものとしては、例えば、フタル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸又はその無水物、などが挙げられる。ビニル重合体成分を構成するモノマーとしては、カルボキシル基又はヒドロキシ基を有するものや、アクリル酸若しくはメタクリル酸エステル類が挙げられる。
【0057】
また、ポリエステル系重合体、ビニル重合体とその他の結着樹脂を併用する場合、全体の結着樹脂の酸価が0.1〜50[mgKOH/g]を有する樹脂を60[質量%]以上有するものが好ましい。
【0058】
本発明において、トナー組成物の結着樹脂成分の酸価は、以下の方法により求め、基本操作はJIS K−0070に準ずる。
(1)試料は予め結着樹脂(重合体成分)以外の添加物を除去して使用するか、結着樹脂及び架橋された結着樹脂以外の成分の酸価及び含有量を予め求めておく。試料の粉砕品0.5〜2.0[g]を精秤し、重合体成分の重さをW[g]とする。例えば、トナーから結着樹脂の酸価を測定する場合は、着色剤又は磁性体等の酸価及び含有量を別途測定しておき、計算により結着樹脂の酸価を求める。
(2)300[ml]のビーカーに試料を入れ、トルエン/エタノール(体積比4/1)の混合液150[ml]を加え溶解する。
(3)0.1[mol/l]のKOHのエタノール溶液を用いて、電位差滴定装置を用いて滴定する。
(4)この時のKOH溶液の使用量をS[ml]とし、同時にブランクを測定し、この時のKOH溶液の使用量をB[ml]とし、以下の式で算出する。ただしfはKOHのファクターである。
酸価[mgKOH/g]=[(S−B)×f×5.61]/W
【0059】
トナーの結着樹脂及び結着樹脂を含む組成物は、トナー保存性の観点から、ガラス転移温度(Tg)が35〜80[℃]の範囲であるのが好ましく、40〜75[℃]の範囲であるのがより好ましい。Tgが35[℃]より低いと高温雰囲気下でトナーが劣化しやすく、また定着時にオフセットが発生しやすくなることがある。また、Tgが80[℃]を超えると、定着性が低下することがある。
【0060】
〔着色剤〕
前記着色剤としては、特に制限はなく、通常使用される樹脂を適宜選択して使用することができるが、例えば、カーボンブラック、ニグロシン染料、鉄黒、ナフトールイエローS、ハンザイエロー(10G、5G、G)、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、黄土、黄鉛、チタン黄、ポリアゾイエロー、オイルイエロー、ハンザイエロー(GR、A、RN、R)、ピグメントイエローL、ベンジジンイエロー(G、GR)、パーマネントイエロー(NCG)、バルカンファストイエロー(5G、R)、タートラジンレーキ、キノリンイエローレーキ、アンスラザンイエローBGL、イソインドリノンイエロー、ベンガラ、鉛丹、鉛朱、カドミウムレッド、カドミウムマーキュリレッド、アンチモン朱、パーマネントレッド4R、パラレッド、ファイセーレッド、パラクロルオルトニトロアニリンレッド、リソールファストスカーレットG、ブリリアントファストスカーレット、ブリリアントカーンミンBS、パーマネントレッド(F2R、F4R、FRL、FRLL、F4RH)、ファストスカーレットVD、ベルカンファストルビンB、ブリリアントスカーレットG、リソールルビンGX、パーマネントレッドF5R、ブリリアントカーミン6B、ポグメントスカーレット3B、ボルドー5B、トルイジンマルーン、パーマネントボルドーF2K、ヘリオボルドーBL、ボルドー10B、ボンマルーンライト、ボンマルーンメジアム、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、ローダミンレーキY、アリザリンレーキ、チオインジゴレッドB、チオインジゴマルーン、オイルレッド、キナクリドンレッド、ピラゾロンレッド、ポリアゾレッド、クロームバーミリオン、ベンジジンオレンジ、ペリノンオレンジ、オイルオレンジ、コバルトブルー、セルリアンブルー、アルカリブルーレーキ、ピーコックブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー、ファストスカイブルー、インダンスレンブルー(RS、BC)、インジゴ、群青、紺青、アントラキノンブルー、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ、コバルト紫、マンガン紫、ジオキサンバイオレット、アントラキノンバイオレット、クロムグリーン、ジンクグリーン、酸化クロム、ピリジアン、エメラルドグリーン、ピグメントグリーンB、ナフトールグリーンB、グリーンゴールド、アシッドグリーンレーキ、マラカイトグリーンレーキ、フタロシアニングリーン、アントラキノングリーン、酸化チタン、亜鉛華、リトボン及びこれらの混合物、などが挙げられる。
【0061】
前記着色剤の含有量としては、トナーに対して1〜15[質量%]の範囲が好ましく、3〜10[質量%]の範囲がより好ましい。
【0062】
本発明に係るトナーで用いる着色剤は、樹脂と複合化されたマスターバッチとして用いることもできる。マスターバッチの製造またはマスターバッチとともに混練されるバインダー樹脂としては、先にあげた変性、未変性ポリエステル樹脂の他に、例えば、ポリスチレン、ポリp−クロロスチレン、ポリビニルトルエンなどのスチレン及びその置換体の重合体;スチレン−p−クロロスチレン共重合体、スチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−ビニルナフタリン共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−アクリル酸オクチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン−α−クロルメタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルメチルケトン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−インデン共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸エステル共重合体などのスチレン系共重合体;ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、エポキシ樹脂、エポキシポリオール樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸樹脂、ロジン、変性ロジン、テルペン樹脂、脂肪族叉は脂環族炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂、塩素化パラフィン、パラフィンワックス、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0063】
前記マスターバッチは、マスターバッチ用の樹脂と着色剤とを高せん断力をかけて混合、混練して得る事ができる。この際、着色剤と樹脂の相互作用を高めるために、有機溶剤を用いる事ができる。また、いわゆるフラッシング法と呼ばれる着色剤の、水を含んだ水性ペーストを、樹脂と有機溶剤とともに混合混練し、着色剤を樹脂側に移行させ、水分と有機溶剤成分を除去する方法も、着色剤のウエットケーキをそのまま用いる事ができる。そのため、乾燥する必要がなく、好適に使用される。混合混練するには、3本ロールミル等の高せん断分散装置が好適に使用される。
【0064】
前記マスターバッチの使用量としては、結着樹脂100質量部に対して、0.1〜20質量部の範囲が好ましい。
【0065】
また、前記マスターバッチ用の樹脂は、酸価が30[mgKOH/g]以下、アミン価が1〜100の範囲で、着色剤を分散させて使用することが好ましい。また、酸価が20[mgKOH/g]以下、アミン価が10〜50の範囲で、着色剤を分散させて使用することがより好ましい。酸価が30[mgKOH/g]を超えると、高湿下での帯電性が低下し、顔料分散性も不十分となることがある。また、アミン価が1未満であるとき、及び、アミン価が100を超えるときにも、顔料分散性が不十分となることがある。なお、酸価はJIS K0070に記載の方法により測定することができ、アミン価はJIS K7237に記載の方法により測定することができる。
【0066】
また、分散剤は、顔料分散性の点で、結着樹脂との相溶性が高いことが好ましく、具体的な市販品としては、「アジスパーPB821」、「アジスパーPB822」(味の素ファインテクノ社製)、「Disperbyk−2001」(ビックケミー社製)、「EFKA−4010」(EFKA社製)、などが挙げられる。
【0067】
前記分散剤の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるスチレン換算重量での、メインピークの極大値の分子量で、500〜100000の範囲が好ましい。また、顔料分散性の観点から、3000〜100000の範囲がより好ましい。特に、5000〜50000が好ましく、5000〜30000が最も好ましい。分子量が500未満であると、極性が高くなり、着色剤の分散性が低下することがあり、分子量が100000を超えると、溶剤との親和性が高くなり、着色剤の分散性が低下することがある。
【0068】
前記分散剤の添加量は、着色剤100質量部に対して1〜200質量部であることが好ましく、5〜80質量部であることがより好ましい。1質量部未満であると分散能が低くなることがあり、200質量部を超えると帯電性が低下することがある。
【0069】
<ワックス>
本発明で用いるトナー組成液は、結着樹脂、着色剤とともにワックスを含有する。
ワックスとしては、特に制限はなく、通常使用されるものを適宜選択して使用することができるが、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、サゾールワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス、酸化ポリエチレンワックス等の脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物又はそれらのブロック共重合体、キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう等の植物系ワックス、みつろう、ラノリン、鯨ろう等の動物系ワックス、オゾケライト、セレシン、ペテロラタム等の鉱物系ワックス、モンタン酸エステルワックス、カスターワックスの等の脂肪酸エステルを主成分とするワックス類。脱酸カルナバワックスの等の脂肪酸エステルを一部又は全部を脱酸化したもの、などが挙げられる。
【0070】
前記ワックスの例としては、更に、パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸、あるいは更に直鎖のアルキル基を有する直鎖アルキルカルボン酸類等の飽和直鎖脂肪酸、プランジン酸、エレオステアリン酸、バリナリン酸等の不飽和脂肪酸、ステアリルアルコール、エイコシルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウピルアルコール、セリルアルコール、メシリルアルコール、あるいは長鎖アルキルアルコール等の飽和アルコール、ソルビトール等の多価アルコール、リノール酸アミド、オレフィン酸アミド、ラウリン酸アミド等の脂肪酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸ビスアミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N'−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N'−ジオレイルセパシン酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド類、m−キシレンビスステアリン酸アミド、N,N−ジステアリルイソフタル酸アミド等の芳香族系ビスアミド、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸金属塩、脂肪族炭化水素系ワックスにスチレンやアクリル酸等のビニル系モノマーを用いてグラフト化させたワックス、ベヘニン酸モノグリセリド等の脂肪酸と多価アルコールの部分エステル化合物、植物性油脂を水素添加することによって得られるヒドロキシル基を有するメチルエステル化合物が挙げられる。
【0071】
より好適な例としては、オレフィンを高圧下でラジカル重合したポリオレフィン、高分子量ポリオレフィン重合時に得られる低分子量副生成物を精製したポリオレフィン、低圧下でチーグラー触媒、メタロセン触媒の如き触媒を用いて重合したポリオレフィン、放射線、電磁波又は光を利用して重合したポリオレフィン、高分子量ポリオレフィンを熱分解して得られる低分子量ポリオレフィン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ジントール法、ヒドロコール法、アーゲ法等により合成される合成炭化水素ワックス、炭素数1個の化合物をモノマーとする合成ワックス、水酸基又はカルボキシル基の如き官能基を有する炭化水素系ワックス、炭化水素系ワックスと官能基を有する炭化水素系ワックスとの混合物、これらのワックスを母体としてスチレン、マレイン酸エステル、アクリレート、メタクリレート、無水マレイン酸の如きビニルモノマーでグラフト変性したワックスが挙げられる。
【0072】
また、これらのワックスを、プレス発汗法、溶剤法、再結晶法、真空蒸留法、超臨界ガス抽出法又は溶液晶析法を用いて分子量分布をシャープにしたものがある。また、低分子量固形脂肪酸、低分子量固形アルコール、低分子量固形化合物、その他の不純物を除去したものも好ましく用いられる。
【0073】
前記ワックスの融点としては、定着性と耐オフセット性のバランスを取るために、70〜140[℃]の範囲であることが好ましく、70〜120[℃]の範囲であることがより好ましい。70[℃]未満では耐ブロッキング性が低下することがあり、140[℃]を超えると耐オフセット効果が発現しにくくなることがある。
【0074】
また、2種以上の異なる種類のワックスを併用することにより、ワックスの作用である可塑化作用と離型作用を同時に発現させることができる。可塑化作用を有するワックスの種類としては、例えば融点の低いワックス、分子の構造上に分岐のあるものや極性基を有する構造のもの、などが挙げられる。離型作用を有するワックスとしては、融点の高いワックスが挙げられ、その分子の構造としては、直鎖構造のものや、官能基を有さない無極性のものが挙げられる。使用例としては、2種以上の異なるワックスの融点の差が10[℃]〜100[℃]のものの組み合わせや、ポリオレフィンとグラフト変性ポリオレフィンの組み合わせ、などが挙げられる。
【0075】
2種のワックスを選択する際には、同様構造のワックスの場合は、相対的に、融点の低いワックスが可塑化作用を発揮し、融点の高いワックスが離型作用を発揮する。この時、融点の差が10〜100[℃]の範囲の場合に、機能分離が効果的に発現する。10[℃]未満では機能分離効果が表れにくいことがあり、100[℃]を超える場合には相互作用による機能の強調が行われにくいことがある。このとき、機能分離効果を発揮しやすくなる傾向があることから、少なくとも一方のワックスの融点が70〜120[℃]の範囲であることが好ましく、70〜100[℃]の範囲であることがより好ましい。
【0076】
前記ワックスは、相対的に、枝分かれ構造のものや官能基の如き極性基を有するものや主成分とは異なる成分で変性されたものが可塑作用を発揮する。また、より直鎖構造のものや官能基を有さない無極性のものや未変性のストレートなものが離型作用を発揮する。好ましい組み合わせとしては、エチレンを主成分とするポリエチレンホモポリマー又はコポリマーとエチレン以外のオレフィンを主成分とするポリオレフィンホモポリマー又はコポリマーの組み合わせ、ポリオレフィンとグラフト変成ポリオレフィンの組み合わせ、アルコールワックス、脂肪酸ワックス又はエステルワックスと炭化水素系ワックスの組み合わせ、フイシャートロプシュワックス又はポリオレフィンワックスとパラフィンワックス又はマイクロクリスタルワックスの組み合わせ、フィッシャトロプシュワックスとポルリオレフィンワックスの組み合わせ、パラフィンワックスとマイクロクリスタルワックスの組み合わせ、カルナバワックズ、キャンデリラワックス、ライスワックス又はモンタンワックスと炭化水素系ワックスの組み合わせが挙げられる。
【0077】
いずれの場合においても、トナー保存性と定着性のバランスをとりやすくなることから、トナーのDSC測定において観測される吸熱ピークにおいて、70〜110[℃]の範囲に最大ピークのピークトップ温度があることが好ましく、70〜110[℃]の範囲に最大ピークを有しているのがより好ましい。
【0078】
前記ワックスの総含有量としては、結着樹脂100質量部に対し、0.2〜20質量部の範囲が好ましく、0.5〜10質量部の範囲がより好ましい。
【0079】
本発明では、DSCにおいて測定されるワックスの吸熱ピークの最大ピークのピークトップの温度をもってワックスの融点とする。
【0080】
前記ワックス又はトナーのDSC測定機器としては、高精度の内熱式入力補償型の示差走査熱量計で測定することが好ましい。測定方法としては、ASTM D3418−82に準じて行う。本発明に用いられるDSC曲線は、1回昇温、降温させ前履歴を取った後、温度速度10[℃/min]で、昇温させた時に測定されるものを用いる。
【0081】
(グラフト重合体)
本発明で用いられるポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とからなるグラフト重合体は、ポリオレフィン樹脂の少なくとも一部がビニル系樹脂による変性部でグラフトされた構造を有する。本発明のトナーにおいて、トナーに含まれる離型剤は、その少なくとも一部がグラフト重合体中に内包されているか付着している。離型剤及びグラフト重合体を含有するトナー組成物を溶解又は分散し液状としたトナー組成液中で、グラフト重合体は微細化した離型剤の移動や再凝集を抑制する。これは、グラフト重合体のポリオレフィン樹脂部分が離型剤と親和性が高く、ビニル系樹脂部分がバインダー樹脂と親和性が高いため、分散剤的な効果を生じるためと推測される。トナー組成液中でのグラフト重合体及び離型剤の分散径は、詰まりの点からトナー吐出孔開口径の1/2以下であることが好ましい。
【0082】
ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィン類としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセン、1−ドデセン、1−オクタデセンなどが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、オレフィン類の重合体、オレフィン類の重合体の酸化物、オレフィン類の重合体の変性物、オレフィン類と共重合可能な他の単量体との共重合物などが挙げられる。オレフィン類の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、プロピレン/1−ヘキセン共重合体などが挙げられる。オレフィン類の重合体の酸化物としては、上記オレフィン類の重合体の酸化物等が挙げられる。オレフィン類の重合体の変性物としては、例えば、前記例示したオレフィン類の重合体のマレイン酸誘導体付加物などが挙げられる。マレイン酸誘導体としては、例えば無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸ジメチル等が挙げられる。
【0083】
また、熱減成型ポリオレフィンも好ましく用いることができる。熱減成型ポリオレフィンとしては、重量平均分子量(Mw)50000〜5000000の範囲のポリオレフィン樹脂(例えばポリエチレン及びポリプロピレン)を熱減成して得られるポリオレフィンが挙げられる。熱減成は通常250〜450℃の範囲で行われる。熱減成後の、数平均分子量(Mn)から導かれる分子数に対応する1分子当たりの二重結合含有率は、30〜70%の範囲が好ましい。
【0084】
オレフィン類と共重合可能な他の単量体との共重合物としては、例えば、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸アルキルエステル等の単量体と、オレフィン類との共重合体などが挙げられる。前記不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸などが挙げられる。前記不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、例えば、炭素原子数1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、炭素原子数1〜18のマレイン酸アルキルエステルなどが挙げられる。
【0085】
本発明において用いるポリオレフィン系樹脂は、ポリマー構造がポリオレフィンの構造を有していればよく、モノマーが必ずしもオレフィン構造を有している必要はない。例えば、ポリメチレン(サゾールワックス等)等も使用することができる。これらポリオレフィン系樹脂のうち、好ましいものは、オレフィン類の重合体、熱減成型ポリオレフィン、オレフィン類の重合体の酸化物、オレフィン類の重合体の変性物であり、さらに好ましくは、ポリエチレン、ポリメチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体及びその熱減成品、酸化型ポリエチレン、酸化型ポリプロピレン、マレイン化ポリプロピレン等であり、特に好ましいものは、ポリエチレン及びポリプロピレンである。
【0086】
ポリオレフィン樹脂の軟化点は、通常60〜170℃の範囲であり、好ましくは70〜150℃の範囲である。また、数平均分子量は通常数平均分子量が500〜20000の範囲であり、重量平均分子量は800〜100000の範囲である。また、好ましくは数平均分子量は1000〜15000の範囲であり、重量平均分子量は1500〜60000の範囲である。更に好ましくは、数平均分子量は1500〜10000の範囲であり、重量平均分子量は2000〜30000の範囲である。
【0087】
ポリオレフィン樹脂の少なくとも一部に変性部をグラフトさせるためのビニル系モノマーとしては、従来公知のものが使用できる。具体的には、スチレン系モノマー[スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、p−アセトキシスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、フェニルスチレン、ベンジルスチレンなど]、不飽和カルボン酸のアルキル(炭素数1〜18)エステル[メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなど]、ビニルエステル系モノマー[酢酸ビニルなど]、ビニルエーテル系モノマー[ビニルメチルエーテルなど]、ハロゲン元素含有ビニル系モノマー[塩化ビニルなど]、ジエン系モノマー(ブタジエン、イソブチレン等)、(メタ)アクリロニトリル、シアノスチレンなど不飽和ニトリル系モノマー及びこれらの併用が挙げられる。これらのうち好ましいものはスチレン系モノマー、不飽和カルボン酸アルキルエステル、(メタ)アクリロニトリル及びその併用であり、特に好ましいのは、スチレン及びスチレンと(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリロニトリルの併用である。
【0088】
また、ビニル系樹脂のSP値(ソルビリティーパラメーター)としては10.0〜11.5(cal/cm3)1/2が好ましい。これは、バインダー樹脂のSP値を考慮して調整する。なお、SP値は公知のFedors法で算出することができる。
【0089】
ビニル系樹脂の分子量は、数平均分子量で1500〜100000の範囲であり、重量平均分子量で5000〜200000の範囲である。また、好ましいのは数平均分子量で2500〜50000の範囲であり、重量平均分子量で6000〜100000の範囲である。特に好ましいのは数平均分子量で2800〜20000の範囲であり、重量平均分子量で7000〜50000の範囲である。
【0090】
ビニル系樹脂のTg(ガラス転移点)は通常40〜90℃の範囲であり、好ましいのは45〜80℃の範囲であり、特に好ましいのは50〜70℃の範囲である。Tgが40℃以上で保存性が良好となり、90℃以下の場合低温定着性が良好になる。
【0091】
本発明で用いられるグラフト重合体は、ポリオレフィン樹脂が少なくともビニル系樹脂でグラフトされた構造をし、従来公知の方法により製造することができる。即ち、グラフト重合体の主鎖を構成するポリオレフィン樹脂を有機溶媒に溶解させ、この溶液に、側鎖を構成するビニル樹脂用のビニルモノマーを添加する。そして、これらのポリオレフィン樹脂とビニルモノマーを、有機溶媒中で、有機過酸化物等の重合開始剤の存在下でグラフト重合反応させる。ポリオレフィン樹脂とビニルモノマーの質量比は、フィルミング防止の観点から好ましくは1〜30:70〜99、より好ましくは2〜27:83〜98である。
【0092】
前記のグラフト重合によって得られるグラフト重合体には、未反応のポリオレフィン樹脂及びビニルモノマー同士の重合により生成したグラフトしていないビニル樹脂が混入する。一方、本発明の場合、これらのポリオレフィン樹脂及びビニル樹脂は、グラフト重合体から分離除去する必要はなく、グラフト重合体はそれらの成分を含む混合樹脂として好ましく用いることができる。この混合樹脂において、そのポリオレフィン樹脂の含有量は、5[質量%]以下、好ましくは3[質量%]以下である。また、そのビニル樹脂の含有量は10[質量%]以下、好ましくは5[質量%]以下である。本発明の場合、この混合樹脂中のグラフト重合体の割合は、85[質量%]以上、好ましくは90[質量%]以上に規定するのがよい。前記混合樹脂中のグラフト重合体樹脂の割合や、その分子量及びビニルポリマーの分子量等は、反応原料の仕込み比や重合反応温度、反応時間等の条件によって適宜調節することができる。
【0093】
本発明で用いるグラフト重合体の具体例としては、以下のポリオレフィン系樹脂(A)及びビニル系樹脂(B)から構成されるものなどが挙げられる。
(1)(A):酸化型ポリプロピレン、(B):スチレン/アクリロニトリル共重合体
(2)(A):ポリエチレン/ポリプロピレン混合物、(B):スチレン/アクリロニトリル共重合体
(3)(A):エチレン/プロピレン共重合体、(B):スチレン/アクリル酸/アクリル酸ブチル共重合体
(4)(A):ポリプロピレン、(B):スチレン/アクリロニトリル/アクリル酸ブチル/マレイン酸モノブチル共重合体
(5)(A):マレイン酸変性ポリプロピレン、(B):スチレン/アクリロニトリル/アクリル酸/アクリル酸ブチル共重合体
(6)(A):マレイン酸変性ポリプロピレン、(B):スチレン/アクリロニトリル/アクリル酸/アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体
(7)(A):ポリエチレン/マレイン酸変性ポリプロピレン混合物、(B):アクリロニトリル/アクリル酸ブチル/スチレン/マレイン酸モノブチル共重合体
【0094】
前記グラフト重合体の製造方法としては、例えば、まずポリオレフィン系樹脂等のワックスを、トルエン、キシレン等の溶剤に溶解又は分散させる。そして、100〜200[℃]に加熱した後、ビニルモノマーをパーオキサイド系開始剤とともに滴下重合後、溶剤を留去してグラフト重合体を得る方法が挙げられる。前記パーオキサイド系開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド、ターシャリブチルパーオキシドベンゾエートなどが挙げられる。前記パーオキサイド系開始剤の量は、反応原料の質量に基づき適宜調整することができ、通常、反応原料中0.2〜10[質量%]の範囲であり、0.5〜5[質量%]の範囲が好ましい。
【0095】
前記グラフト重合体には、未反応のポリオレフィン系樹脂及びビニルモノマー同士の重合により生成したビニル系樹脂が混入していても構わない。本発明の場合、これらのポリオレフィン系樹脂及びビニル系樹脂は、グラフト重合体から分離除去する必要はなく、グラフト重合体は、それらの成分を含む混合樹脂として好ましく用いることができる。
【0096】
前記グラフト重合体を構成する各成分の量は、生成したグラフト重合体の質量に基づき適宜調整することができ、ポリオレフィン系樹脂は、通常、グラフト重合体中1〜90[質量%]の範囲であり、5〜80[質量%]の範囲が好ましい。また、ビニル系樹脂は、通常、グラフト重合体中10〜99[質量%]の範囲であり、20〜95[質量%]の範囲が好ましい。
【0097】
また、未反応のポリオレフィン系樹脂及びビニル系樹脂を含めたグラフト重合体の添加量は、離型剤の分散安定性の面から、離型剤100質量部に対し、通常5〜300質量部の範囲であり、10〜150質量部の範囲が好ましい。
【0098】
更に、ポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とからなるグラフト重合体の添加量が離型剤100質量部に対して、10〜150質量部の範囲であり、ビニル系樹脂がスチレン及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリロニトリルから選ばれる少なくとも1種を含む。これにより、ワックス等の離型剤の微分散及び凝集抑制効果が確実なものとなり、さらにトナー吐出孔詰り防止効果を確実なものとすることができる。
【0099】
(磁性体)
本発明で使用できる磁性体としては、例えば、(1)マグネタイト、マグヘマイト、フェライトの如き磁性酸化鉄、及び他の金属酸化物を含む酸化鉄、(2)鉄、コバルト、ニッケル等の金属、又は、これらの金属とアルミニウム、コバルト、銅、鉛、マグネシウム、錫、亜鉛、アンチモン、ベリリウム、ビスマス、カドミウム、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウム等の金属との合金。(3)及びこれらの混合物、などが用いられる。
【0100】
磁性体として具体的に例示すると、Fe3O4、γ−Fe2O3、ZnFe2O4、Y3Fe5O12、CdFe2O4、Gd3Fe5O12、CuFe2O4、PbFe12O、NiFe2O4、NdFe2O、BaFe12O19、MgFe2O4、MnFe2O4、LaFeO3、鉄粉、コバルト粉、ニッケル粉、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも特に、四三酸化鉄、γ−三二酸化鉄の微粉末が好適に挙げられる。
【0101】
また、異種元素を含有するマグネタイト、マグヘマイト、フェライト等の磁性酸化鉄、又はその混合物も使用できる。異種元素を例示すると、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、ゲルマニウム、ジルコニウム、錫、イオウ、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、などが挙げられる。好ましい異種元素としては、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、又はジルコニウムから選択される。異種元素は、酸化鉄結晶格子の中に取り込まれていてもよいし、酸化物として酸化鉄中に取り込まれていてもよいし、又は表面に酸化物あるいは水酸化物として存在していてもよいが、酸化物として含有されているのが好ましい。
【0102】
前記異種元素は、磁性体生成時にそれぞれの異種元素の塩を混在させ、pH調整により、粒子中に取り込むことができる。また、磁性体粒子生成後にpH調整、あるいは各々の元素の塩を添加しpH調整することにより、粒子表面に析出することができる。
【0103】
前記磁性体の使用量としては、結着樹脂100質量部に対して、磁性体10〜200質量部が好ましく、20〜150質量部がより好ましい。これらの磁性体の個数平均粒径としては、0.1〜2[μm]が好ましく、0.1〜0.5[μm]がより好ましい。前記個数平均径は、透過電子顕微鏡により拡大撮影した写真をデジタイザー等で測定することにより求めることができる。
【0104】
また、磁性体の磁気特性としては、10Kエルステッド印加での磁気特性がそれぞれ、抗磁力20〜150エルステッド、飽和磁化50〜200[emu/g]、残留磁化2〜20[emu/g]のものが好ましい。前記磁性体は、着色剤としても使用することができる。
【0105】
(帯電制御剤)
本発明のトナーには、必要に応じて帯電制御剤を含有してもよい。帯電制御剤としては公知のものが全て使用でき、例えばニグロシン系染料、トリフェニルメタン系染料、クロム含有金属錯体染料、モリブデン酸キレート顔料、ローダミン系染料、アルコキシ系アミン、4級アンモニウム塩(フッ素変性4級アンモニウム塩を含む)、アルキルアミド、燐の単体又は化合物、タングステンの単体又は化合物、フッ素系活性剤、サリチル酸金属塩、及びサリチル酸誘導体の金属塩等が挙げられる。具体的にはニグロシン系染料のボントロン03、第四級アンモニウム塩のボントロンP−51、含金属アゾ染料のボントロンS−34、オキシナフトエ酸系金属錯体のEー82、サリチル酸系金属錯体のE−84、フェノール系縮合物のE−89(以上、オリエント化学工業社製)、第四級アンモニウム塩モリブデン錯体のTP−302、TP−415(以上、保土谷化学工業社製)、第四級アンモニウム塩のコピーチャージPSY VP2038、トリフェニルメタン誘導体のコピーブルーPR、第四級アンモニウム塩のコピーチャージ NEG VP2036、コピーチャージ NX VP434(以上、ヘキスト社製)、LRA−901、ホウ素錯体であるLR−147(日本カ一リット社製)、銅フタロシアニン、ペリレン、キナクリドン、アゾ系顔料、その他スルホン酸基、カルボキシル基、四級アンモニウム塩等の官能基を有する高分子系の化合物などが挙げられる。
【0106】
本発明において帯電制御剤の使用量は、バインダー樹脂の種類、必要に応じて使用される添加剤の有無、分散方法を含めたトナー製造方法によって決定される。一義的に限定されるものではないが、好ましくはバインダー樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲で用いられ、好ましくは、0.2〜5質量部の範囲である。帯電制御剤の使用量が10質量部を超える場合、トナーの帯電性が大きすぎて画像濃度の低下を招くことがある。これらの帯電制御剤、離型剤はマスターバッチ、樹脂とともに溶融混練することもできるし、もちろん有機溶剤に溶解、分散する際に加えてもよい。
【0107】
<流動性向上剤>
本発明に係るトナーには、流動性向上剤を添加してもよい。該流動性向上剤は、トナー表面に添加することにより、トナーの流動性を改善(流動しやすくなる)するものである。
【0108】
前記流動性向上剤としては、例えば、カーボンブラック、フッ化ビニリデン微粉末、ポリテトラフルオロエチレン微粉末の如きフッ素系樹脂粉末、湿式製法シリカ、乾式製法シリカの如き微粉末シリカ、微粉未酸化チタン、微粉未アルミナ、それらをシランカップリング剤、チタンカップリング剤若しくはシリコーンオイルにより表面処理を施した処理シリカ,処理酸化チタン,処理アルミナ、などが挙げられる。これらの中でも、微粉末シリカ、微粉未酸化チタン、微粉未アルミナが好ましく、また、これらをシランカップリング剤やシリコーンオイルにより表面処理を施した処理シリカが更に好ましい。
【0109】
前記流動性向上剤の粒径としては、平均一次粒径として、0.001〜2[μm]であることが好ましく、0.002〜0.2[μm]であることがより好ましい。
【0110】
前記微粉末シリカは、ケイ素ハロゲン化含物の気相酸化により生成された微粉体であり、いわゆる乾式法シリカ又はヒュームドシリカと称されるものである。
【0111】
ケイ素ハロゲン化合物の気相酸化により生成された市販のシリカ微粉体としては、例えば、AEROSIL(日本アエロジル社商品名、以下同じ)−130、−300、−380、−TT600、−MOX170、−MOX80、−COK84:Ca−O−SiL(CABOT社商品名)−M−5、−MS−7、−MS−75、−HS−5、−EH−5、Wacker HDK(WACKER−CHEMIE社商品名)−N20 V15、−N20E、−T30、−T40:D−CFineSi1ica(ダウコーニング社商品名):Franso1(Fransi1社商品名)、などが挙げられる。
【0112】
更には、ケイ素ハロゲン化合物の気相酸化により生成されたシリカ微粉体を疎水化処理した処理シリカ微粉体がより好ましい。処理シリカ微粉体において、メタノール滴定試験によって測定された疎水化度が好ましくは30〜80[%]の値を示すようにシリカ微粉体を処理したものが特に好ましい。疎水化は、シリカ微粉体と反応あるいは物理吸着する有機ケイ素化合物等で化学的あるいは物理的に処理することによって付与される。好ましい方法としては、ケイ素ハロゲン化合物の気相酸化により生成されたシリカ微粉体を有機ケイ素化合物で処理する方法がよい。
【0113】
有機ケイ素化合物としては、ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、ビニルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ジメチルビニルクロロシラン、ジビニルクロロシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、へキサメチルジシラン、トリメチルシラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、アリルジメチルクロロシラン、アリルフェニルジクロロシラン、ベンジルジメチルクロロシラン、ブロモメチルジメチルクロロシラン、α−クロルエチルトリクロロシラン、β−クロロエチルトリクロロシラン、クロロメチルジメチルクロロシラン、トリオルガノシリルメルカプタン、トリメチルシリルメルカプタン、トリオルガノシリルアクリレート、ビニルジメチルアセトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、へキサメチルジシロキサン、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン、1,3−ジフエニルテトラメチルジシロキサン及び1分子当り2から12個のシロキサン単位を有し、未端に位置する単位にそれぞれSiに結合した水酸基を0〜1個含有するジメチルポリシロキサン等がある。更に、ジメチルシリコーンオイルの如きシリコーンオイルが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0114】
流動性向上剤の個数平均粒径としては、5〜100[nm]になるものが好ましく、5〜50[nm]になるものがより好ましい。
【0115】
BET法で測定した窒素吸着による比表面積としては、30[m2/g]以上が好ましく、60〜400[m2/g]がより好ましい。表面処理された微粉体としては、20[m2/g]以上が好ましく、40〜300[m2/g]がより好ましい。
【0116】
これらの微粉体の適用量としては、トナー粒子100質量部に対して0.03〜8質量部が好ましい。
【0117】
(クリーニング性向上剤)
記録紙等にトナーを転写した後、静電潜像担持体や一次転写媒体に残存するトナーの除去性を向上させるためのクリーニング性向上剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸等の脂肪酸金属塩、ポリメチルメタクリレート微粒子、ポリスチレン微粒子等のソープフリー乳化重合によって製造されたポリマー微粒子などを挙げることかできる。ポリマー微粒子は比較的粒度分布が狭く、重量平均粒径が0.01〜1μmのものが好ましい。これらの流動性向上剤やクリーニング性向上剤等はトナーの表面に付着ないし固定化させて用いられるため、外添剤とも呼ばれており、トナーに外添する方法としては各種の粉体混合機等が用いられる。粉体混合機としては、例えば、V型混合機、ロッキングミキサー、レーディゲミキサー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサーなどが挙げられ、固定化も行う場合に用いる粉体混合機としては、ハイブリタイザー、メカノフュージョン、Qミキサー等が挙げられる。
【0118】
(キャリア)
本発明のトナーは、キャリアと混合して2成分現像剤として使用してもよい。キャリアとしては、通常のフェライト、マグネタイト等のキャリアも樹脂コートキャリアを使用することができる。前記樹脂コートキャリアは、キャリアコア粒子とキャリアコア粒子表面を被覆(コート)する樹脂である被覆材からなる。被覆材に使用する樹脂としては、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体等のスチレン−アクリル系樹脂、アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合体等のアクリル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、モノクロロトリフルオロエチレン重合体、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素含有樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、アミノアクリレート樹脂が好適に挙げられる。この他にも、アイオモノマー樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等のキャリアの被覆(コート)材として使用できる樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0119】
また、樹脂中に磁性粉が分散されたバインダー型のキャリアコアも用いることができる。樹脂コートキャリアにおいて、キャリアコアの表面を少なくとも樹脂被覆剤で被覆する方法としては、樹脂を溶剤中に溶解又は懸濁せしめて塗布したキャリアコアに付着せしめる方法、あるいは単に粉体状態で混合する方法が適用できる。前記樹脂コートキャリアに対する樹脂被覆材の使用割合は適宜決定すればよいが、樹脂コートキャリア100質量部に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜1質量%がより好ましい。
【0120】
2種以上の混合物の被覆(コート)材で磁性体を被覆する使用例としては、(1)酸化チタン微粉体100質量部に対してジ、メチルジクロロシランとジメチルシリコンオイル(質量比1:5)の混合物12質量部で処理したもの、(2)シリカ微粉体100質量部に対して、ジメチルジクロロシランとジメチルシリコーンオイル(質量比1:5)の混合物20質量部で処理したものなどが挙げられる。前記樹脂中、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、含フッ素樹脂とスチレン系共重合体との混合物、シリコーン樹脂が好適に使用され、特にシリコーン樹脂が好ましい。
【0121】
前記含フッ素樹脂とスチレン系共重合体との混合物としては、例えば、ポリフッ化ビニリデンとスチレン−メタクリ酸メチル共重合体との混合物、ポリテトラフルオロエチレンとスチレン−メタクリル酸メチル共重合体との混合物、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合(共重合体質量比10:90〜90:10)とスチレン−アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体(共重合質量比10:90〜90:10)とスチレン−アクリル酸2−エチルヘキシル−メタクリル酸メチル共重合体(共重合体質量比20〜60:5〜30:10:50)との混合物などが挙げられる。シリコーン樹脂としては、含窒素シリコーン樹脂及び含窒素シランカップリング剤と、シリコーン樹脂とが反応することにより生成された、変性シリコーン樹脂が挙げられる。
【0122】
キャリアコアの磁性材料としては、例えば、フェライト、鉄過剰型フェライト、マグネタイト、γ−酸化鉄等の酸化物や、鉄、コバルト、ニッケルのような金属、又はこれらの合金を用いることができる。また、これらの磁性材料に含まれる元素としては、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウム、銅、鉛、マグネシウム、スズ、亜鉛、アンチモン、ベリリウム、ビスマス、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウムが挙げられる。これらの中でも特に、銅、亜鉛、及び鉄成分を主成分とする銅−亜鉛−鉄系フェライト、マンガン、マグネシウム及び鉄成分を主成分とするマンガン−マグネシウム−鉄系フェライトが好適に挙げられる。
【0123】
前記キャリアの体積抵抗値としては、キャリアの表面の凹凸度合い、被覆する樹脂の量を調整して106〜1010Ω・cmにするのがよい。前記キャリアの粒径としては、4〜200μmのものが使用できるが、10〜150μmが好ましく、20〜100μmがより好ましい。特に、樹脂コートキャリアは、50%粒径が20〜70μmであることが好ましい。2成分系現像剤では、キャリア100質量部に対して、本発明のトナー1〜200質量部で使用することが好ましく、キャリア100質量部に対して、トナー2〜50質量部で使用するのがより好ましい。
【0124】
本発明のトナーを用いた現像方法は、従来の電子写真法に使用する静電潜像担持体が全て使用できる。例えば、有機静電潜像担持体、非晶質シリカ静電潜像担持体、セレン静電潜像担持体、酸化亜鉛静電潜像担持体、などが好適に使用可能である。
【0125】
以下、実施例により本発明について詳細に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
(グラフト重合体製造例−1)
温度計及び攪拌機の付いたオートクレーブ反応槽中に、キシレン480質量部、低分子量ポリエチレン(三洋化成工業(株)製、サンワックスLEL−400:軟化点128℃)100質量部を入れて充分溶解させ、窒素置換した後、スチレン755質量部、アクリロニトリル100質量部、アクリル酸ブチル45質量部、アクリル酸21質量部、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート36質量部及びキシレン100質量部の混合溶液を、170℃で3時間かけて滴下し重合し、さらにこの温度で0.5時間保持した。次いで脱溶剤を行い、数平均分子量:3300、重量平均分子量:18000、ガラス転移点:65.0℃、ビニル系樹脂のSP値11.0(cal/cm3)1/2のグラフト重合体(W−1)を得た。
【0126】
(グラフト重合体製造例−2)
温度計及び攪拌機の付いたオートクレーブ反応槽中に、キシレン450質量部、低分子量ポリプロピレン(三洋化成工業(株)製、ビスコール440P:軟化点153℃)200部を入れて充分溶解させ、窒素置換した後、スチレン280質量部、メタクリル酸メチル520質量部、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート32.3質量部及びキシレン120質量部の混合溶液を、150℃で2時間かけて滴下し重合し、さらにこの温度で1時間保持した。次いで脱溶剤を行い、数平均分子量:3300、重量平均分子量:16000、ガラス転移点:58.8℃、ビニル系樹脂のSP値10.2(cal/cm3)1/2のグラフト重合体(W−2)を得た。
【0127】
(グラフト重合体製造例−3)
温度計及び攪拌機の付いたオートクレーブ反応槽中に、キシレン450質量部、低分子量ポリプロピレン及び低分子量ポリエチレン混合物(クラリアント社製、Licocene1302:軟化点78.9℃)150質量部を入れて充分溶解させ、窒素置換後、スチレン200部、メタクリル酸メチル460部、アクリロニトリル140質量部、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート35質量部及びキシレン120質量部の混合溶液を、150℃で2時間かけて滴下し重合し、さらにこの温度で1時間保持した。次いで脱溶剤を行い、数平均分子量:2400、重量平均分子量:14000、ガラス転移点:88.5℃、ビニル系樹脂のSP値11.5(cal/cm3)1/2のグラフト重合体(W−3)を得た。
【0128】
(実施例1)
−着色剤分散液の調製−
先ず、着色剤としての、カーボンブラック分散液を調製した。カーボンブラック(Regal400、Cabot社製)20質量部及び顔料分散剤(アジスパーPB821、味の素ファインテクノ社製)2質量部を、酢酸エチル78質量部に、攪拌羽を有するミキサーを使用して一次分散させた。得られた一次分散液を、ダイノーミルを用いて強力なせん断力により細かく分散し、凝集体を完全に除去した二次分散液を調製した。更に、0.45μmの細孔を有するフィルター(PTFE社製)を通過させ、サブミクロン領域まで分散させたカーボンブラック分散液を調製した。
【0129】
−ワックス分散液の調製−
撹拌羽と温度計をセットした容器に、カルナバワックス6.25質量部及び酢酸エチル75質量部を仕込み、85℃に加温し20分間撹拌しカルナバワックスを溶解させた後、急冷しカルナバワックスの微粒子を析出させた。この分散液に、グラフト重合体(W−1)の固形分20質量%酢酸エチル溶液18.75質量部(カルナバワックス100質量部に対してグラフト重合体60質量部)を加え、0.3mmφのジルコニアビーズを充填したビーズミル(アシザワファインテック社製、LMZ06)を用いて強力なせん断力によりさらに細かく分散して平均粒径0.29μmのワックス分散液(WD−1)を得た。ワックスの粒径はマイクロトラック粒度分析計「Nanotrac150」を用いて測定した。
【0130】
−トナー組成液の調製−
結着樹脂としてのポリエステル樹脂(重量平均分子量32000)の固形分20質量%酢酸エチル溶液471質量部、前記カーボンブラック分散液50質量部、ワックス分散液(WD−1)128質量部及び酢酸エチル531質量部を、攪拌羽を有するミキサーを使用し混合し、トナー組成液を調製した。このトナー組成液を48時間静置しておいてもカーボンブラック及びワックス粒子が凝集沈降することはなかった。
【0131】
−トナーの作製−
得られたトナー組成液を、図11に示す液滴吐出ヘッドを有する図1のトナー製造装置を用いて以下のような条件で、液滴を吐出させる。その後、該液滴を乾燥固化し、サイクロン捕集した後さらに35℃にて48時間二次乾燥することにより、トナー母体粒子を作製した。
【0132】
〔トナー作製条件〕
分散液比重 :ρ=1.1[g/cm3]
トナー吐出孔穴径 :7.5[μmφ]
乾燥エアー温度 :40[℃]
駆動周波数 :395[kHz]
印加電圧 :10.0[V]
【0133】
このトナー母体粒子100質量部に対して疎水性シリカ(H2000、クラリアントジャパン社製)1.0質量部を、ヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)を用いて外添処理を行い、ブラックトナーaを得た。
【0134】
このトナーの粒度を測定した結果を表1に示す。重量平均粒径(Dw)は4.9[μm]、でありDw/Dnは1.01であり非常にシャープな粒度分布であった。
なお、トナーの作製は連続して6時間行ったが、トナー吐出孔が詰まることはなかった。
【0135】
−キャリアの作製−
シリコーン樹脂(オルガノストレートシリコーン) 100質量部
トルエン 100質量部
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン 5質量部
カーボンブラック 10質量部
上記混合物をホモミキサーで20分間分散し、コート層形成液を調製した。このコート層形成液を、流動床型コーティング装置を用いて、粒径50μmの球状マグネタイト1000質量部の表面にコーティングして磁性キャリアを得た。
【0136】
−現像剤の作製−
トナーa4質量部及び上記磁性キャリア96質量部をボールミルで混合して二成分現像剤1を作製し、ホットオフセット性及びフィルミング性の評価を行った。評価結果を下記の表1に示す。ホットオフセット性及びフィルミング性ともに良好であった。
【0137】
[評価方法]
<粒度分布>
本発明のトナーの重量平均粒径(Dw)及び個数平均粒径(Dn)は、粒度測定器(「マルチサイザーIII」、ベックマンコールター社製)を用い、アパーチャー径100μmで測定し、解析ソフト(Beckman Coulter Mutlisizer 3 Version3.51)にて解析を行った。具体的にはガラス製100mlビーカーに10質量%界面活性剤(アルキルベンゼンスフォン酸塩ネオゲンSC−A、第一工業製薬社製)を0.5ml添加する。そして、各トナー0.5g添加しミクロスパーテルでかき混ぜ、次いでイオン交換水80mlを添加した。得られた分散液を超音波分散器(W−113MK−II、本多電子社製)で10分間分散処理した。前記分散液を、前記マルチサイザーIIIを用い、測定用溶液としてアイソトンIII(ベックマンコールター社製)を用いて測定を行った。測定は装置が示す濃度が8±2%になるように前記トナーサンプル分散液を滴下した。本測定法は粒径の測定再現性の点から前記濃度を8±2%にすることが重要である。この濃度範囲であれば粒径に誤差は生じない。チャンネルとしては、2.00〜2.52[μm]未満;2.52〜3.17[μm]未満;3.17〜4.00[μm]未満;4.00〜5.04[μm]未満;5.04〜6.35[μm]未満;6.35〜8.00[μm]未満;8.00〜10.08[μm]未満;10.08〜12.70[μm]未満;12.70〜16.00[μm]未満;16.00〜20.20[μm]未満;20.20〜25.40[μm]未満;25.40〜32.00[μm]未満;32.00〜40.30[μm]未満の13チャンネルを使用し、粒径2.00[μm]〜40.30[μm]未満の粒子を対象とした。トナー粒子又はトナーの体積及び個数を測定後、体積分布と個数分布を算出する。得られた分布から、トナーの重量平均粒径(Dw)、個数平均粒径(Dn)を求めることができる。粒度分布の指標としては、トナーの重量平均粒径(Dw)を個数平均粒径(Dn)で除したDw/Dnを用いる。完全に単分散であれば1となり、数値が大きいほど分布が広いことを意味する。
【0138】
<ホットオフセット性>
現像剤を、市販の複写機(イマジオネオ455、リコー社製)に入れ、リコー社製タイプ6000ペーパーを用いて定着温度を低温から高温に変化させながら画像を出力する。そして、画像の光沢度が低下した温度もしくは画像にオフセット画像が見られた場合をオフセット発生温度とした。評価結果を下記の表1に示す。オフセット発生温度が200[℃]以上である場合を○、200℃未満である場合を×として評価した。
【0139】
<フィルミング性>
現像剤を、市販の複写機(イマジオネオ455、リコー社製)に入れ、画像占有率7%の印字率でリコー社製タイプ6000ペーパーを用いて連続ランニングテストを実施した。2万枚、5万枚及び10万枚後の感光体上フィルミング、及びフィルミングに伴う異常画像(ハーフトーン濃度ムラ)の有無を評価した。フィルミングの発生はランニング枚数が多いほど不利である。以下の評価基準で評価した結果を下記の表1に示す。表中の○は10万枚でも発生せず、△は5万枚で発生、×は2万枚で発生をそれぞれ示す。
【0140】
(実施例2)
上記実施例1において、カルナバワックスを合成エステルワックス(WEP−5、日本油脂社製)に替えた以外は、全て上記実施例1と同様にしてトナー及び現像剤を作製した。なお、ワックスの平均粒径は0.31μmであり、トナー組成液を48時間静置しておいてもカーボンブラック及びワックス粒子が凝集沈降することはなかった。実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりは発生せず、非常にシャープな粒度分布であり、ホットオフセット性及びフィルミング性は良好であった。
【0141】
(実施例3)
上記実施例1において、樹脂をスチレンとアクリル酸ブチル共重合体(重量平均分子量51000)に替える。ワックスをパラフィンワックス(HNP−9、日本精蝋社製)に変えた以外は、全て上記実施例1と同様にしてトナー及び現像剤を作製した。なお、ワックスの平均粒径は0.39μmであり、トナー組成液を48時間静置しておいてもカーボンブラック及びワックス粒子が凝集沈降することはなかった。上記実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりは発生せず、非常にシャープな粒度分布であり、ホットオフセット性及びフィルミング性は良好であった。
【0142】
(実施例4)
上記実施例1においてグラフト重合体(W−1)をグラフト重合体(W−2)に替えた以外は、全て上記実施例1と同様にしてトナー及び現像剤を作製した。なお、ワックスの平均粒径は0.32μmであり、トナー組成液を48時間静置しておいてもカーボンブラック及びワックス粒子が凝集沈降することはなかった。上記実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりは発生せず、非常にシャープな粒度分布であり、ホットオフセット性及びフィルミング性は良好であった。
【0143】
(実施例5)
上記実施例1においてグラフト重合体(W−1)をグラフト重合体(W−3)に替えた以外は、全て上記実施例1と同様にしてトナー及び現像剤を得た。なお、ワックスの平均粒径は0.30μmであり、トナー組成液を48時間静置しておいてもカーボンブラック及びワックス粒子が凝集沈降することはなかった。上記実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりは発生せず、非常にシャープな粒度分布であり、ホットオフセット性及びフィルミング性は良好であった。
【0144】
(実施例6)
上記実施例1においてグラフト重合体(W−1)の量がワックス100質量部に対して60質量部であったのを10質量部に替えた以外は、全て上記実施例1と同様にしてトナー及び現像剤を得た。
【0145】
ワックス分散液の調製は以下のようにして行った。撹拌羽と温度計をセットした容器に、カルナバワックス9.09質量部及び酢酸エチル90質量部を仕込み、85℃に加温し20分間撹拌してカルナバワックスを溶解させた後、急冷し、カルナバワックスの微粒子を析出させた。この分散液に、グラフト重合体(W−1)の固形分20質量%酢酸エチル溶液4.55質量部を加え、上記実施例1と同様にワックス分散液を調製した。なお、ワックスの平均粒径は0.41μmであった。
【0146】
トナー組成液の調製は、結着樹脂としてのポリエステル樹脂(重量平均分子量32000)の固形分20質量%酢酸エチル溶液491質量部、上記実施例1で調製したカーボンブラック分散液50質量部、ワックス分散液88質量部及び酢酸エチル551質量部を、攪拌羽を有するミキサーを使用して混合することにより、行った。このトナー組成液を48時間静置しておいてもカーボンブラックが凝集沈降することはなかったが、ワックス粒子は若干凝集沈降が見られた。
【0147】
上記実施例1と同様にトナーを作製したが若干のトナー吐出孔の詰まりを生じ、トナーの重量平均粒径(Dw)は5.1[μm]、でありDw/Dnは1.06とやや粒度分布が広くなった。上記実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。ホットオフセット性は良好であったが、5万枚複写後、僅かなフィルミングが認められた。
【0148】
(実施例7)
上記実施例1においてグラフト重合体(W−1)の量がワックス100質量部に対して60質量部であったのを150質量部に替えた以外は、全て上記実施例1と同様にしてトナー及び現像剤を得た。
【0149】
ワックス分散液の調製は以下のようにして行った。撹拌羽と温度計をセットした容器に、カルナバワックス4.0質量部及び酢酸エチル66.0質量部を仕込み、85[℃]に加温し20分間撹拌しカルナバワックスを溶解させた後、急冷し、カルナバワックスの微粒子を析出させた。この分散液に、グラフト重合体(W−1)の固形分20[質量%]酢酸エチル溶液30.0質量部を加え、上記実施例1と同様にワックス分散液を調製した。なお、ワックスの平均粒径は0.25[μm]であった。
【0150】
トナー組成液の調製は、結着樹脂としてのポリエステル樹脂(重量平均分子量32000)の固形分20[質量%]酢酸エチル溶液435質量部、上記実施例1で調製したカーボンブラック分散液50質量部、ワックス分散液200質量部及び酢酸エチル495質量部を、攪拌羽を有するミキサーを使用して混合することにより、行った。このトナー組成液を48時間静置しておいてもカーボンブラック及びワックス粒子が凝集沈降することはなかった。
【0151】
上記実施例1と同様にトナーを作製したが、トナー吐出孔の詰まりは発生せず、トナーの重量平均粒径(Dw)は4.7[μm]、Dw/Dnは1.01と非常にシャープな粒度分布であった。上記実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりは発生せず、非常にシャープな粒度分布であり、ホットオフセット性及びフィルミング性は良好であった。
【0152】
(比較例1)
上記実施例1においてワックス分散液を添加せず、トナー組成液の調製において、結着樹脂としてのポリエステル樹脂(重量平均分子量32000)の固形分20[質量%]酢酸エチル溶液531質量部、上記実施例1で調製したカーボンブラック分散液53.64質量部及び酢酸エチル595.36質量部に替えた以外は、全て上記実施例1と同様にしてトナー及び現像剤を作製した。上記実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりは発生せず、非常にシャープな粒度分布であり、フィルミング性は良好であったが、ホットオフセット性は不良であった。
【0153】
(比較例2)
上記実施例1においてグラフト重合体(W−1)を添加せずに、カルナバワックス10質量部及び酢酸エチル90質量部にてワックス分散液を作製する。そして、トナー組成液の調製において、結着樹脂としてのポリエステル樹脂(重量平均分子量32000)の固形分20[質量%]酢酸エチル溶液495質量部、上記実施例1で調製したカーボンブラック分散液50質量部、ワックス分散液80質量部及び酢酸エチル555質量部に替えた以外は、全て上記実施例1と同様にしてトナー及び現像剤を得た。なお、このトナー組成液は、静置後8時間でワックス粒子が凝集沈降してしまった。上記実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりが発生し、トナーの粒度分布が広くなり、ホットオフセット性は良好であったが、フィルミング性は良好ではなかった。
【0154】
(比較例3)
上記実施例2においてグラフト重合体(W−1)を添加せずに、合成エステルワックス(WEP−5、日本油脂社製)10質量部及び酢酸エチル90質量部にてワックス分散液を作製する。そして、トナー組成液の調製において、結着樹脂としてのポリエステル樹脂(重量平均分子量32000)の固形分20[質量%]酢酸エチル溶液495質量部、上記実施例1で調製したカーボンブラック分散液50質量部、ワックス分散液80質量部及び酢酸エチル555質量部に替えた以外は、全て上記実施例2と同様にしてトナー及び現像剤を得た。なお、このトナー組成液は、静置後8時間でワックス粒子が凝集沈降してしまった。このトナー及び現像剤を用いて上記実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりが発生し、トナーの粒度分布が広くなり、ホットオフセット性は良好であったが、フィルミング性は良好でなかった。
【0155】
(比較例4)
上記実施例3においてグラフト重合体(W−1)を添加せずに、パラフィンワックス(HNP−9、日本精蝋社製)10質量部及び酢酸エチル90質量部にてワックス分散液を作製し、トナー組成液の調製において、結着樹脂としてのスチレンとアクリル酸ブチル共重合体(重量平均分子量51000)の固形分20[質量%]酢酸エチル溶液495質量部、上記実施例1で調製したカーボンブラック分散液50質量部、ワックス分散液80質量部及び酢酸エチル555質量部に替えた以外は、全て上記実施例3と同様にしてトナー及び現像剤を得た。なお、このトナー組成液は、静置後8時間でワックス粒子が凝集沈降してしまった。このトナー及び現像剤を用いて上記実施例1と同様の評価を行った。結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりが発生し、トナーの粒度分布が広くなり、ホットオフセット性は良好であったが、フィルミング性は良好ではなかった。
【0156】
【表1】
【0157】
以上説明したように、図2に示すような液滴吐出ヘッドでは液柱共鳴流路内のトナー組成液14に振動発生手段20によって振動を付与して液柱共鳴流路内に液柱共鳴による定在波が形成される。そして、液柱共鳴流路18を構成する部材の一部に定在波の腹となる領域が高い圧力となる。このように液柱共鳴流路18内には液柱共鳴による定在波の圧力分布が形成されている。つまり本実施形態では一方向に圧力を加えていない。これにより、トナー吐出孔19の径を小さくしてもトナー組成液がトナー吐出孔19に詰まることがなくなる。また、トナー吐出孔19からトナー組成液14を連続的に吐出することができることにより、トナーの生産性が高くなる。また、本実施形態におけるトナー組成液14には、ポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とを少なくとも含むグラフト重合体が含有されている。このグラフト重合体はトナーに添加される離型剤との親和性が高いという機能を有している。そのため、トナー組成液に含有されたグラフト重合体に離型剤が結合することにより、現像工程において離型剤が感光体の表面に付着しにくくなる。これにより、感光体フィルミング現象を抑制することができる。
【0158】
また、本実施形態によれば、図2の上記液柱共鳴流路18に形成される定在波の腹となる領域がある。この領域の少なくとも1つに対して複数の上記トナー吐出孔19が形成される。この定在波の腹となる領域は、定在波の圧力変動が上記トナー組成液19を吐出するのに十分な大きさの振幅を有する領域である。よって、この定在波の腹となる領域に上記トナー吐出孔19を設けることで、ほぼ均一なトナー液滴を形成することができ、更には高い圧力変動によるトナー液滴の吐出を行うことができトナー吐出孔19の詰まりも生じ難くなり、生産性の低下を防止できる。
【0159】
更に、本実施形態によれば、上述の実施例6及び上記実施例7の各記載からトナー組成物に含有されたグラフト重合体の添加量が離型剤100重量部に対して10〜150重量部の範囲であるとすることで、離型剤の分散安定性が向上するため感光体フィルミング現象をより一層抑制できる。
【0160】
また、本実施形態によれば、グラフト重合体に含有されたビニル系樹脂が、スチレン、(メタ)アクリル酸アルキルエステル又は(メタ)アクリロニトリルのいずれかを少なくとも含むことで、ワックス等の離型剤の微分散及び凝集抑制の効果が向上し、上記トナー吐出孔19の詰りをより一層防止でき、生産性の低下を防いでいる。
【0161】
更に、本実施形態によれば、図1に示すトナー製造装置1を用いて、少なくとも、樹脂、着色剤、離型剤、ポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とを少なくとも含むグラフト重合体を含有するトナー組成物を溶媒に溶解又は分散させられたトナー組成液からトナーを製造する。その製造されたトナーには、少なくとも離型剤、ポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とを少なくとも含むグラフト重合体が含有されるため、このトナーを用いて現像工程を行ってもトナーに含まれた離型剤が感光体に付着しにくくなり感光体フィルミング現象を抑制できる。
【0162】
また、本実施形態によれば、上記トナーの個数平均粒径に対する上記トナーの重量平均粒径の比である上記トナーの粒度分布が1.00〜1.15の範囲であることとして粒度分布が狭く、トナーの形状のバラツキが小さいトナーを提供でき、生産性を向上できる。更に、このような粒度分布の範囲にするためには上記トナーの重量平均粒径を1〜10[μm]の範囲とすることで、トナーの形状のバラツキが小さくでき生産性の向上が期待できる。
【符号の説明】
【0163】
1;トナー製造装置、10;液滴形成ユニット、11;液滴吐出ヘッド、
12;気流通路、13;原料収容器、14;トナー組成液、15;液循環ポンプ、
16;液供給管、17;液共通供給路、18;液柱共鳴流路、
19;トナー吐出孔、20;振動発生手段、21;トナー液滴、22;液戻り管、
30;乾燥捕集ユニット、31;チャンバ、32;トナー捕集部、
33;下降気流、34;トナー捕集チューブ、35;トナー貯留部。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0164】
【特許文献1】特開2007−199463号公報
【特許文献2】特許第3786034号公報
【特許文献3】特開平7−84401号公報
【特許文献4】特開平5−341577号公報
【技術分野】
【0001】
本発明はトナーの製造方法及びトナーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トナーの製造方法の一つとして粉砕法が知られている。この粉砕法は従来から行われている一般的なトナーの製造方法である。この粉砕法によれば、先ずトナー組成物を二本のロールや二軸の押し出し機などにより溶融混練する。この溶融混練したトナー組成物を冷却した後、粗粉砕処理、微粉砕処理、分級処理を行う。必要に応じてヘンシェルミキサーなどで流動化剤などの外添剤の混合処理を行う。上記粗粉砕処理ではロートプレックスやパルペライザーを用い、上記微粉砕処理ではジェットミルやターボミルを用いる。また、上記分級処理ではエルボジェットや各種の風力分級装置等の公知の製造装置を用いている。
【0003】
粉砕法以外の他のトナー製造方法として噴霧法が知られている。噴霧法は、多流体スプレー吐出孔噴霧機や回転円盤型噴霧機等を用いてトナー組成液を気相中で液滴化する方法である。上記多流体スプレー吐出孔噴霧機は、液体を加圧して吐出孔から噴霧する一流体吐出孔(加圧吐出孔)噴霧機や液体と圧縮気体を混合して噴霧する装置である。上記回転円盤型噴霧機は回転する円盤を用いて液体を遠心力により液滴化する装置である。そして、そのような噴霧法では、噴霧と乾燥を同時に行うスプレードライシステムという市販の装置を用いることができる。このスプレードライシステムを用いても十分な乾燥ができない場合は、流動床乾燥等の二次乾燥を行い、必要に応じてヘンシェルミキサーなどで流動化剤などの外添剤の混合を行う。
【0004】
また、上記粉砕法以外のさらに他のトナー製造方法として噴射造粒法が知られている。この噴射造粒法は、上記噴霧法のように液体を滴化して固化させる部分は同一であるが、異なる部分は振動発生手段を用いてトナーと同程度の直径を持つ吐出孔から液滴を吐出する点である。この噴射造粒法は従来よりいくつか提案されている。その一つとして、特許文献1には加圧室を一方向に加圧してノズルから液柱を発生させ、微弱な超音波振動によって液柱を分断して液滴化し、これを乾燥固化してトナー化するトナー製造方法及びその装置が提案されている。この特許文献1のトナー製造装置では、トナー組成液収容器から供給された液滴噴射ユニットの加圧室内のトナー組成液に対して一方向に加圧して貫通孔より液柱を形成する。そして、形成された液柱に振動発生手段によって微小な振動を与えてレイリー分裂を誘起させて均一な液滴を形成している。そして、その液滴を固化させてトナー母体粒子を製造する。このようなレイリー分裂方式は、液を加圧して吐出させるため、振動発生手段による微弱な振動を発生させるだけでよく、低い電圧で粒子化することが可能であるというメリットがある。
【0005】
更に、上記噴射造粒法を用いた他の従来例としての特許文献2によれば、ヘッド部ではトナー原料を貯留する原料貯留部に貯留されている原料全体を均一に加圧して吐出させる加圧パルス動作が行われ、吐出孔からトナー原料が吐出される。以下特許文献2に開示されている液滴吐出の原理について図12を用いて概説する。図12中には原料貯留部内の圧力値も併記してある。特許文献2における液滴吐出方法は原料貯留部内で以下に示す3つの状態を繰り返す動作を行い、間欠的に液滴を形成する方法である。ヘッド部は第一の状態として、吐出信号が入力されていない、即ち図12の(a)に示すように、圧電体に変形が生じず、原料貯留部には容積変化が生じず、吐出孔から原料液は吐出されない状態にある。次に、第二の状態として、吐出信号が入力され、図12の(b)、(c)に示すように、圧電体が原料貯留部内部側に変位し、原料貯留部の体積が減少する。このとき、原料貯留部全体内の圧力が均一に瞬間的に高まり、吐出孔から液滴が吐出される。このとき、原料貯留部と連通し、かつ原料液を収容するフィーダーと呼ばれる原料収容部(図示せず)側にも原料が流れている。次に、第三の状態として、1液滴の原料の吐出が終了した後、図12の(d)、(e)に示すように、電圧の印加を停止し、圧電素子はほぼ元の形状に戻る。このとき、原料貯留部内の原料液には負圧力が作用し、吐出量に見合った量の原料液が原料収容部から原料貯留部へ流れて供給される。
【0006】
一方、電子写真式複写機においては、乾式のトナー像が転写された紙などの媒体に加熱用のローラやベルト等が接触して媒体上のトナー像を加熱溶融する。これによりトナー像を媒体上に定着している。このような定着方法は、熱効率が良いため一般的によく行われている定着方法である。この定着方法において加熱用のローラやベルトの温度が高すぎると、トナーが過剰に溶融して加熱用のローラやベルトに融着する現象であるホットオフセットが発生する。このホットオフセットの発生を防止するため、従来より加熱用のローラやベルトにシリコーンオイルなどの離型オイルを塗布し、トナーが過剰に溶融しても加熱用のローラやベルトに融着しないようにしている。
【0007】
しかし、離型オイルを塗布する方法では、オイルタンク、オイル塗布装置を必要となるため、装置が複雑になり、かつ大型となる。また、コピー用紙、OHP用フィルム等にオイルが付着することが不可避となる。そのため、オイルが付着したコピー用紙に水性インクで筆記しても水性インクを弾いて加筆性が悪くなったり、OHPを用いて投影した場合OHP用フィルムに付着したオイルによって映像の色調が悪くなるという課題があった。そこで、加熱用のローラやベルトにオイル塗布しないでトナーの融着を防ぐ方法として、トナー自体にワックス等の離型剤を添加する方法がいくつか提案されている。その中の一例として、特許文献3には、特定の示差走査熱量(DSC:Differential scanning calorimetry)の吸熱ピークを有するワックスを含有するトナーが提案されている。また、他の例として、特許文献4には、離型剤として、キャンデリラワックス、高級脂肪酸系ワックス、高級アルコール系ワックス、植物系天然ワックス(カルナバワックス、ライスワックス)、モンタン系エステルワックス等を用いることが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1では、貯留部における液を一方向に加圧して吐出孔から吐出した液柱に振動発生手段によるレイリー分裂を作用させて液滴を形成している。そのため、形成される液滴の径が吐出孔の径より2倍程度となってしまう。小粒径のトナーを製造しようとすると、吐出孔の径を小粒径の半分程度まで小さくする必要がある。また、上記特許文献1では、加圧室内のトナー組成液に対して一方向に加圧している。これらのことから、顔料や必要に応じて添加される離型剤などの固形分散体などがノズル内部に詰まってしまう課題があった。
【0009】
また、上記特許文献2は、原料貯留部内で三つの状態を繰り返す動作を行って原料液を間欠的に吐出する方法である。この動作において吐出した分だけ減少した原料液を原料貯留部内に供給した後、原料液が吐出されない第一の状態に戻る。そのため、この第一の状態の時間に相当するトナーの生産量分だけ生産量は減少し、生産性が低下するという問題があった。
【0010】
更に、上記特許文献3、4のワックス等の離型剤は樹脂に比べて柔らかく付着性が高い。そのため、このような付着性が高い離型剤を含有するトナーを用いた現像工程において感光体にトナー像を形成して記録媒体に転写した後の感光体上に、添加された上記離型剤が付着して残存することがある。そして、付着した離型剤が感光体の表面を汚染するという感光体フィルミング現象が起こりやすくなるという課題があった。
【0011】
本発明は以上の課題に鑑みなされたものであり、その目的は吐出孔の詰まりを防止でき、トナー組成液の連続的な吐出が実現できることで非常に高い生産性を期待でき、感光体フィルミング現象を抑制できるトナーの製造方法及びトナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、少なくとも1つの吐出孔から液体を吐出して液滴化する液滴吐出工程と、上記液滴を固化する固化工程と、を有するトナーの製造方法であって、上記液体は、少なくとも、樹脂、着色剤、離型剤、ポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とを少なくとも含むグラフト重合体を含有するトナー組成物を溶媒に溶解又は分散させた上記トナー組成液であり、上記液滴吐出工程は、上記吐出孔が形成された液柱共鳴液室内の上記トナー組成液に振動を付与して液柱共鳴による定在波を形成し、該定在波の腹となる領域に形成された上記吐出孔から上記トナー組成液を吐出して液滴化することを特徴とするトナーの製造方法である。
また、請求項2の発明は、請求項1記載のトナーの製造方法において、上記定在波の腹となる領域の少なくとも1つに対して、複数の上記トナー吐出孔が形成されていることを特徴とするものである。
更に、請求項3の発明は、請求項1又は2に記載のトナーの製造方法において、上記グラフト重合体の添加量が、上記離型剤100重量部に対して、10〜150重量部の範囲であることを特徴とするものである。
更に、請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のトナーの製造方法において、上記ビニル系樹脂は、スチレン、(メタ)アクリル酸アルキルエステル又は(メタ)アクリロニトリルのいずれかを少なくとも含むことを特徴とするものである。
また、請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のトナーの製造方法によって製造されたことを特徴とするトナーである。
更に、請求項6の発明は、請求項5記載のトナーにおいて、上記トナーの個数平均粒径に対する上記トナーの重量平均粒径の比である上記トナーの粒度分布が1.00〜1.15の範囲であることを特徴とするものである。
また、請求項7の発明は、請求項5又は6に記載のトナーにおいて、上記トナーの重量平均粒径が1〜10[μm]の範囲であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明においては、液柱共鳴による定在波の腹と呼ばれる高い圧力が発生する圧力分布が液柱共鳴流路に形成される。この圧力分布は一方的に加圧されているのではないため、吐出孔の径を小さくしても吐出孔が詰まることがない。また、液柱共鳴による定在波の腹になる領域に吐出孔を設け、高い圧力によって吐出孔からトナー組成液が連続的に吐出されることにより、トナーの生産性が高くなる。更に、トナー組成液に、ポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とを少なくとも含むグラフト重合体を含有させることで、トナーに添加された離型剤と高い親和性があるというグラフト重合体の機能によってグラフト重合体と離型剤との結合が強くなる。このため、現像工程で離型剤が感光体に付着しにくくなり、感光体フィルミング現象を抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吐出孔の詰まりを防止でき、トナー組成液の連続的な吐出が実現できることで非常に高い生産性を期待でき、感光体フィルミング現象を抑制できるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係るトナー製造装置の全体構成を示す断面図である。
【図2】図1の液滴形成ユニットにおける液滴吐出ヘッドの構成を示す断面図である。
【図3】図1の液滴形成ユニットの構成を示すA−A’線断面図である。
【図4】N=1、2、3の場合の速度及び圧力変動の定在波を示す概略図である。
【図5】N=4、5の場合の速度及び圧力変動の定在波を示す概略図である。
【図6】液滴形成ユニットにおける液滴吐出ヘッド内の液柱共鳴流路で生じる液柱共鳴現象の様子を示す概略図である。
【図7】実際の液滴吐出の様子を示す図である。
【図8】駆動周波数と液滴吐出速度周波数特性を示す特性図である。
【図9】各ノズルにおける印加電圧と吐出速度の関係を示す特性図である。
【図10】各ノズルにおける印加電圧と液滴直径の関係を示す特性図である。
【図11】液滴吐出ヘッドの実施例を示す図である。
【図12】従来のトナー製造装置におけるトナー液滴ヘッドにおける液滴動作の様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の一実施の形態に係るトナー製造装置の全体構成を示す断面図である。図2は図1の液滴形成ユニットにおける液滴吐出ヘッドの構成を示す断面図である。図3は図1の液滴形成ユニットの構成を示すA−A’線断面図である。図1に示す本実施の形態のトナー製造装置1は、主に、液滴形成ユニット10及び乾燥捕集ユニット30を含んで構成されている。液滴形成ユニット10は、吐出孔によって外部と連通する液噴射領域を有する液室であって後述する条件下のもとで液柱共鳴定在波が発生する液柱共鳴流路内のトナー組成液を液滴として吐出孔から噴射する液滴化手段である液滴吐出ヘッド11を複数配列して構成されている。各液滴吐出ヘッド11の両側には液滴吐出ヘッド11から吐出したトナーの液滴が乾燥捕集ユニット30側に流出されるように図示していない気流発生手段によって発生する気流が通る気流通路12が設けられている。また、液滴形成ユニット10は、トナー原料であるトナー組成液14を収容する原料収容器13と、原料収容器13に収容されているトナー組成液14を液供給管16を通して液滴吐出ヘッド11内の後述する液共通供給路17に供給し、更に液戻り管22を通って原料収容器13に戻すために液供給管16内のトナー組成液14を圧送する液循環ポンプ15とを含んで構成されている。更に、液滴吐出ヘッド11は、図2に示すように、液共通供給路17及び液柱共鳴流路18を含んで構成されている。液柱共鳴流路18は、長手方向の両端の壁面のうち一方の壁面に設けられた液共通供給路17と連通されている。また、液柱共鳴流路18は、両端の壁面と連結する壁面のうち一つの壁面にトナー液滴21を吐出するトナー吐出孔19と、トナー吐出孔19と対向する壁面に設けられ、かつ液柱共鳴定在波を形成するために高周波振動を発生する振動発生手段20とを有している。なお、振動発生手段20には、図示していない高周波電源が接続されている。
【0017】
また、図1に示す乾燥捕集ユニット30は、チャンバ31及びトナー捕集部32を含んで構成されている。チャンバ31内では、図示していない気流発生手段によって発生する気流と下降気流33が合流した大きな下降気流が形成されている。液滴噴射ユニット10の液滴吐出ヘッド11から噴射されたトナー液滴21は、重力よってのみではなく、下降気流33によっても下方に向けて搬送されるため、噴射されたトナー液滴21が空気抵抗によって減速されることを抑制できる。これにより、トナー液滴21を連続的に噴射したときに、前に噴射されたトナー液滴21が空気抵抗によって減速し、後に噴射されたトナー液滴21が前に噴射されたトナー液滴21に追い付くことで、トナー液滴21同士が合着して一体となり、トナー液滴21の粒径が大きくなることを防止できる。なお、気流発生手段として、上流部分に送風機を設けて加圧する方法と、トナー捕集部32より吸引して減圧する方法のいずれを採用することもできる。また、トナー捕集部32には、鉛直方向に平行な軸周りに回転するような回転気流を発生させる回転気流発生装置(図示せず)が配置されている。更に、トナー捕集部32には、チャンバ31と連通するトナー捕集チューブ34を通った乾燥・固化されたトナー粒子を貯留するトナー貯留部35を有している。
【0018】
次に、本発明のトナー製造装置におけるトナー製造工程について概説する。
図1に示す原料収容器13に収容されているトナー組成液14は、当該トナー組成液14を循環させるための液循環ポンプ15によって液供給管16を通って、図3に示す液滴形成ユニット10の液共通供給路17内に流入し、図2に示す液滴吐出ヘッド11の液柱共鳴流路18に供給される。そして、トナー組成液14が充填されている液柱共鳴流路18内には、振動発生手段20によって発生する液柱共鳴定在波により圧力分布が形成される。そして、液柱共鳴定在波において振幅の大きな部分であって圧力変動が大きい、定在波の腹となる領域に配置されているトナー吐出孔19からトナー液滴21が吐出される。この液柱共鳴による定在波の腹となる領域とは、圧力定在波の圧力変動が液を吐出するのに十分な大きさの振幅を有する領域である。好ましくは、圧力定在波の振幅が極大となる位置(速度定在波としての節)から極小となる位置に向かって±2/3波長までの範囲であり、より好ましくは±1/4波長の範囲である。定在波の腹となる領域であれば、吐出孔が複数で開口されていても、それぞれからほぼ均一な液滴を形成することができ、更には効率的に液滴の吐出を行うことができ、吐出孔の詰まりも生じ難くなる。なお、液共通供給路17を通過したトナー組成液14は液戻り管22を流れて原料収容器13に戻される。トナー液滴21の吐出によって液柱共鳴流路18内のトナー組成液14の量が減少すると、液柱共鳴流路18内の液柱共鳴定在波の作用による吸引力が作用し、液共通供給路17から供給されるトナー組成液14の流量が増加する。そして、液柱共鳴流路18内にトナー組成液14が補充される。また、液柱共鳴流路18内にトナー組成液14が補充されると、液共通供給路17を通過するトナー組成液14の流量が元に戻る。そして、液供給管16及び液戻り管22には装置内を循環するトナー組成液14の流れが再び形成された状態となる。一方、液滴噴射ユニット10の液滴吐出ヘッド11から噴射されたトナー液滴21は、図1に示すように、重力よってのみではなく、図示していない気流発生手段によって発生する気流が気流通路12を通り形成される下降気流33によって下方に向けて搬送される。次に、トナー捕集部32における図示していない回転気流発生装置が発生させる回転気流と下降気流33とによって、トナー捕集部32を構成する円錐状内壁面に沿って螺旋気流が形成される。そして、トナー粒子はその螺旋気流にのって層流状態で乾燥、固化される。乾燥、固化されたトナー粒子はトナー捕集チューブ34を通ってトナー貯留部35に収納される。
【0019】
なお、液滴吐出ヘッド11における液柱共鳴流路18は、金属やセラミックス、シリコンなどの駆動周波数において液体の共鳴周波数に影響を与えない程度の高い剛性を持つ材質により形成されるフレームがそれぞれ接合されて形成されている。また、図2に示すように、液柱共鳴流路18の長手方向の両端の壁面間の長さLは、後述するような液柱共鳴原理に基づいて決定される。また、図3に示す液柱共鳴流路18の幅Wは、液柱共鳴に余分な周波数を与えないように、液柱共鳴流路18の長さLの2分の1より小さいことが望ましい。更に、液柱共鳴流路18は、生産性を飛躍的に向上させるために1つの液滴形成ユニット10に対して複数配置されているほうが好ましい。その範囲に限定はないが、100〜2000個の液柱共鳴流路18が備えられた1つの液滴形成ユニットであれば操作性と生産性が両立でき、もっとも好ましい。また、液柱共鳴流路毎に、液供給のための流路が液共通供給路17から連通接続されており、液共通供給路17には複数の液柱共鳴流路18と連通している。
【0020】
また、液滴吐出ヘッド11における振動発生手段20は所定の周波数で駆動できるものであれば特に制限はないが、圧電体を、弾性板に貼りあわせた形態が望ましい。弾性板は、圧電体が接液しないように液柱共鳴流路の壁の一部を構成している。圧電体は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電セラミックスが挙げられるが、一般に変位量が小さいため積層して使用されることが多い。この他にも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の圧電高分子や、水晶、LiNbO3、LiTaO3、KNbO3等の単結晶などが挙げられる。更に、振動発生手段20は、1つの液柱共鳴流路毎に個別に制御できるように配置されていることが望ましい。また、上記の1つの材質のブロック状の振動部材を液柱共鳴流路の配置にあわせて、一部切断し、弾性板を介してそれぞれの液柱共鳴流路を個別制御できるような構成が望ましい。
【0021】
更に、トナー吐出孔19の開口部の直径は、1[μm]〜40[μm]の範囲であることが望ましい。1[μm]より小さいと、形成される液滴が非常に小さくなるためトナーを得ることができない場合がある。また、トナーの構成成分として顔料などの固形微粒子が含有された構成の場合、トナー吐出孔19において閉塞を頻繁に発生して生産性が低下する恐れがある。また、40[μm]より大きい場合、トナー液滴の直径が大きく、これを乾燥固化させる。所望のトナー粒子径3〜6μmを得る場合、有機溶媒でトナー組成を非常に希薄な液に希釈する必要がある場合があり、一定量のトナーを得るために乾燥エネルギーが大量に必要となってしまい、不都合となる。また、図3からわかるように、トナー吐出孔19を液柱共鳴流路18内の幅方向に設ける構成を採用することは、トナー吐出孔19の開口を多数設けることができ、よって生産効率が高くなるために好ましい。また、トナー吐出孔19の開口配置によって液柱共鳴周波数が変動するため、液柱共鳴周波数は液滴の吐出を確認して適宜決定することが望ましい。
【0022】
次に、本発明のトナー製造装置における液滴形成ユニットによる液滴形成のメカニズムについて説明する。
先ず、図2の液滴吐出ヘッド11内の液柱共鳴流路18において生じる液柱共鳴現象の原理について説明すると、液柱共鳴流路内のトナー組成液の音速をcとし、振動発生手段20から媒質であるトナー組成液に与えられた駆動周波数をfとした場合、液体の共鳴が発生する波長λは、
λ=c/f ・・・(式1)
の関係にある。
【0023】
また、図2の液柱共鳴流路18において固定端側のフレームの端部から液共通供給路17側の端部までの長さをLとする。更に、液共通供給路17側のフレームの端部の高さh1(=約80[μm])は連通口の高さh2(=約40[μm])の約2倍あり当該端部が閉じている固定端と等価であるとした両側固定端の場合には、長さLが波長λの4分の1の偶数倍に一致する場合に共鳴が最も効率的に形成される。つまり、次の式2で表現される。
L=(N/4)λ ・・・(式2)
(但し、Nは偶数)
【0024】
更に、両端が完全に開いている両側開放端の場合にも上記式2が成り立つ。
同様にして、片方側が圧力の逃げ部がある開放端と等価で、他方側が閉じている(固定端)の場合、つまり片側固定端又は片側開放端の場合には、長さLが波長λの4分の1の奇数倍に一致する場合に共鳴が最も効率的に形成される。つまり、上記式2のNが奇数で表現される。
【0025】
最も効率の高い駆動周波数fは、上記式1と上記式2より、
f=N×c/(4L) ・・・(式3)
と導かれる。しかし、実際には、液体は共鳴を減衰させる粘性を持つために無限に振動が増幅されるわけではなく、Q値を持ち、後述する式4、式5に示すように、式3に示す最も効率の高い駆動周波数fの近傍の周波数でも共鳴は発生する。
【0026】
図4にN=1、2、3の場合の速度及び圧力変動の定在波の形状(共鳴モード)を示し、かつ図5にN=4、5の場合の速度及び圧力変動の定在波の形状(共鳴モード)を示す。本来は疎密波(縦波)であるが、図4及び図5のように表記することが一般的である。実線が速度定在波、点線が圧力定在波である。例えば、N=1の片側固定端の場合を示す図4の(a)からわかるように、速度分布の場合閉口端で速度分布の振幅がゼロとなり、開口端で振幅が最大となり、直感的にわかりやすい。液柱共鳴流路の長手方向の両端の間の長さをLとしたとき、液体が液柱共鳴する波長をλとし、整数Nが1〜5の場合に定在波が最も効率よく発生する。また、両端の開閉状態によっても定在波パターンは異なるため、それらも併記した。後述するが、トナー吐出孔の開口や供給側の開口の状態によって、端部の条件が決まる。なお、音響学において、開口端とは長手方向の媒質(液)の移動速度がゼロとなる端であり、逆に圧力は極大となる。閉口端においては、逆に媒質の移動速度がゼロとなる端と定義される。閉口端は音響的に硬い壁として考え、波の反射が発生する。理想的に完全に閉口、もしくは開口している場合は、波の重ね合わせによって図4及び図5のような形態の共鳴定在波を生じる。しかし、トナー吐出孔数、トナー吐出孔の開口位置によっても定在波パターンは変動する。上記式3より求めた位置からずれた位置に共鳴周波数が現れるが、適宜駆動周波数を調整することで安定吐出条件を作り出すことができる。例えば、液体の音速cが1,200[m/s]、液柱共鳴流路の長さLが1.85[mm]で、両端に壁面が存在する。そして、両側固定端と完全に等価のN=2の共鳴モードを用いた場合、上記式(2)より、最も効率の高い共鳴周波数は324kHzと導かれる。他の例では、液体の音速cが1,200[m/s]、液柱共鳴流路の長さLが1.85[mm]で、上記と同じ条件を用い、両端に壁面が存在する。そして、両側固定端と等価のN=4の共鳴モードを用いた場合、上記式(2)より、最も効率の高い共鳴周波数は648kHzと導かれ、同じ構成の液柱共鳴流路においても、より高次の共鳴を利用することができる。
【0027】
なお、図1及び図2に示す本実施の形態の液滴形成ユニットの液滴吐出ヘッドにおける液柱共鳴流路は、両端が閉口端状態と等価であるか、トナー吐出孔の開口の影響で、音響的に軟らかい壁として説明できるような端部であることが周波数を高めるためには好ましいが、それに限らず開放端であってもよい。ここでのトナー吐出孔の開口の影響とは、音響インピーダンスが小さくなり、特にコンプライアンス成分が大きくなることを意味する。よって、図4の(b)及び図5の(a)のような液柱共鳴流路の長手方向の両端に壁面を形成する構成は、両側固定端の共鳴モード、そしてトナー吐出孔側が開口とみなす片側開放端の全ての共鳴モードが利用できるために、好ましい構成である。
【0028】
また、トナー吐出孔の開口数、開口配置位置、トナー吐出孔の断面形状も駆動周波数を決定する因子となり、駆動周波数はこれに応じて適宜決定することができる。例えばトナー吐出孔の数を多くすると、徐々に固定端であった液柱共鳴流路の先端の拘束が緩くなり、ほぼ開口端に近い共鳴定在波が発生し、駆動周波数は高くなる。更に、最も液供給路側に存在するトナー吐出孔の開口配置位置を起点に緩い拘束条件となる。また、トナー吐出孔の断面形状がラウンド形状となったりフレームの厚さによる吐出孔の体積が変動したり、実際上の定在波は短波長となり、駆動周波数よりも高くなる。このように決定された駆動周波数で振動発生手段に電圧を与えたとき、振動発生手段が変形し、駆動周波数にて最も効率よく共鳴定在波を発生する。また、共鳴定在波が最も効率よく発生する駆動周波数の近傍の周波数でも液柱共鳴定在波は発生する。つまり、液柱共鳴流路の長手方向の両端間の長さをL、液供給側の端部に最も近いトナー吐出孔までの距離をLeとしたとき、L及びLeの両方の長さを用いて下記式4及び式5で決定される範囲の駆動周波数fを主成分とした駆動波形を用いて振動発生手段を振動させる。そして、液柱共鳴を誘起して液滴をトナー吐出孔から吐出することが可能である。
【0029】
N×c/(4L)≦f≦N×c/(4Le) ・・・(式4)
N×c/(4L)≦f≦(N+1)×c/(4Le) ・・・(式5)
【0030】
なお、液柱共鳴流路の長手方向の両端間の長さLと、液供給側の端部に最も近いトナー吐出孔までの距離Leの比がLe/L>0.6であることが好ましい。
【0031】
以上説明した液柱共鳴現象の原理を用いて、図2の液柱共鳴流路18において液柱共鳴圧力定在波が形成され、液柱共鳴流路18の一部に配置されたトナー吐出孔19において連続的に液滴吐出が発生するのである。なお、定在波の圧力が最も大きく変動する位置(液柱共鳴定在波の腹)にトナー吐出孔19を配置すると、吐出効率が高くなり、低い電圧で駆動することができる点で好ましい。また、トナー吐出孔19は1つの液柱共鳴流路18に1つでも構わないが、複数個配置することが生産性の観点から好ましい。具体的には、2〜100個の間であることが好ましい。100個を超えた場合、100個のトナー吐出孔19から所望のトナー液滴を形成させようとすると、振動発生手段20に与える電圧を高く設定する必要が生じ、振動発生手段20としての圧電体の挙動が不安定となる。また、複数のトナー吐出孔19を開孔する場合、トナー吐出孔間のピッチは20[μm]以上、液柱共鳴流路の長さ以下であることが好ましい。トナー吐出孔間のピッチが20[μm]より大きい場合、隣あうトナー吐出孔より放出された液滴同士が衝突して大きな滴となってしまう確率が高くなり、トナーの粒径分布悪化につながる。
【0032】
次に、液滴形成ユニットにおける液滴吐出ヘッド内の液柱共鳴流路で生じる液柱共鳴現象の様子について当該様子を示す図6を用いて説明する。なお、同図において、液柱共鳴流路内に記した実線は液柱共鳴流路内の固定端側から液共通供給路側の端部までの間の任意の各測定位置における速度をプロットした速度分布を示す。また、液共通供給路側から液柱共鳴流路への方向を+とし、その逆方向を−とする。また、液柱共鳴流路内に記した点線は液柱共鳴流路内の固定端側から液共通供給路側の端部までの間の任意の各測定位置における圧力値をプロットした圧力分布を示し、大気圧に対して正圧を+とし、負圧は−とする。また、正圧であれば図中の下方向に圧力が加わることになり、負圧であれば図中の上方向に圧力が加わることになる。更に、図6において、上述したように液共通供給路側が開放されているが液共通供給路17と液柱共鳴流路18とが連通する開口の高さ(図2に示す高さh2)に比して固定端となるフレームの高さ(図2に示す高さh1)が約2倍以上である。そのため、液柱共鳴流路18はほぼ両側固定端であるという近似的な条件のもとでの速度分布及び圧力分布の時間的なそれぞれの変化を示している。
【0033】
図6の(a)は液滴吐出時の液柱共鳴流路18内の圧力波形と速度波形を示している。また、図6の(b)は液滴吐出直後の液引き込みを行った時の液柱共鳴流路18内の圧力波形と速度波形を示している。これらの図6の(a),(b)に示すように、液柱共鳴流路18におけるトナー吐出孔19が設けられている流路内での圧力は極大となっている。液柱共鳴流路18内のトナー組成液の流れは、液共通供給路17側へ流れる方向となっており、速度は小さい。その後、図6の(c)に示すように、トナー吐出孔19付近の正の圧力は小さくなり、負圧の方向へ移行する。液柱共鳴流路18内のトナー組成液の流れは、図6の(a),(b)と液共通供給路17側へ流れる方向で変わらないが、速度は極大となる。
【0034】
そして、図6の(d)に示すように、トナー吐出孔19付近の圧力は極小になる。液柱共鳴流路18内のトナー組成液の流れは、液共通供給路17側から液柱共鳴流路18へ流れる方向に変わる。速度は小さい。このときから液柱共鳴流路18へのトナー組成液14の充填が始まる。その後、図6の(e)に示すように、トナー吐出孔19付近の負の圧力は小さくなり、正圧の方向へ移行する。液柱共鳴流路18内のトナー組成液の流れは、図6の(d)と液共通供給路17側へ流れる方向で変わらないが、速度は極大となる。この時点で、トナー組成液14の充填が終了する。そして、再び、図6の(a)に示すように、液柱共鳴流路18の液滴吐出領域の正の圧力が極大となって、トナー吐出孔19から液滴21が吐出される。このように、液柱共鳴流路内には振動発生手段の高周波駆動によって液柱共鳴による定在波が発生する。また、圧力が最も大きく変動する位置となる液柱共鳴による定在波の腹に相当する液滴吐出領域にトナー吐出孔19が配置されている。このようなことから、当該腹の周期に応じてトナー液滴21がトナー吐出孔19から連続的に吐出される。
【0035】
次に、実際に液柱共鳴現象によって液滴が吐出された構成の一例について説明する。この一例は、図2において液柱共鳴流路18の長手方向の両端間の長さLが1.85[mm]、N=2の共鳴モードである。また、第一から第四のトナー吐出孔がN=2モード圧力定在波の腹の位置にトナー吐出孔を配置し、駆動周波数を340[kHz]のサイン波で行った吐出をレーザーシャドウグラフィ法にて撮影した様子を図7に示す。同図からわかるように、非常に径の揃った、速度もほぼ揃った液滴の吐出が実現している。また、図8は駆動周波数290[kHz]〜395[kHz]の同一振幅サイン波にて駆動した際の液滴速度周波数特性を示す特性図である。同図からわかるように、第一〜第四のノズルにおいて駆動周波数が340[kHz]付近では各ノズルからの吐出速度が均一となって、かつ最大吐出速度となっている。この特性結果から、液柱共鳴周波数の第二モードである340[kHz]において、液柱共鳴定在波の腹の位置で均一吐出が実現していることがわかる。また、図8の特性結果から、第一モードである130[kHz]においての液滴吐出速度ピークと、第二モードである340[kHz]においての液滴吐出速度ピークとの間では液滴は吐出しないという液柱共鳴の特徴的な液柱共鳴定在波の周波数特性が液柱共鳴流路内で発生していることがわかる。
【0036】
また、図9は各ノズルにおける印加電圧と吐出速度の関係を示す特性図であり、図10は各ノズルにおける印加電圧と液滴直径の関係を示す特性図である。両図からわかるように、印加電圧に対して吐出速度も液滴直径も単調増加の傾向にあった。よって、吐出速度及び液滴直径は印加電圧に依存するため、印加電圧を調整することにより、所望の吐出速度、あるいは所望のトナー粒子の径に応じた液滴直径を調整することができる。
【0037】
<トナー>
本発明のトナーは、上述した、本発明のトナー製造方法により製造されたトナーである。本発明のトナーは、離型剤及びポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とからなるグラフト重合体を含有していることが特徴であるが、それ以外のトナー材料は、従来の電子写真用トナーと同じものが使用できる。すなわち、スチレンアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオール系樹脂、エポキシ系樹脂、等のトナーバインダーを各種有機溶媒に溶解し、着色剤を分散、かつ、離型剤及び前記グラフト重合体を分散又は溶解し、これを前記トナー製造方法により微小液滴とし乾燥固化させることで、目的とするトナー粒子を作製することが可能である。また、上記材料を熱溶融混練し得られた混練物を各種溶媒に一度溶解乃至分散した液を、前記トナー製造方法により微小液滴とし乾燥固化させることで、目的のトナーを得ることも可能である。離型剤及び前記グラフト重合体をトナー中に添加することにより、耐オフセット性が向上するとともに、離型剤の分散粒径を微小化できるとともに再凝集することを防止できるためトナー吐出孔の詰まりを防止することができる。
【0038】
本発明のトナーは、長期にわたって安定した画像を維持するために粒度分布(重量平均粒径/個数平均粒径)が、1.00〜1.15の範囲にあることが好ましい。また、本発明のトナーは、高解像度で、高精細・高品質な画像を形成するために重量平均粒径が1〜10[μm]であることが好ましい。
【0039】
〔樹脂〕
前記樹脂としては、少なくとも結着樹脂が挙げられる。
前記結着樹脂としては、特に制限はなく、通常使用される樹脂を適宜選択して使用することができるが、例えば、スチレン系単量体、アクリル系単量体、メタクリル系単量体等のビニル重合体、これらの単量体又は2種類以上からなる共重合体、ポリエステル系重合体、ポリオール樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、テルペン樹脂、クマロンインデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、石油系樹脂、などが挙げられる。
【0040】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−フエニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−アミルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−へキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−クロルスチレン、3,4−ジクロロスチレン、m−ニトロスチレン、o−ニトロスチレン、p−ニトロスチレン等のスチレン、又はその誘導体、などが挙げられる。
【0041】
アクリル系単量体としては、例えば、アクリル酸、あるいはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸n−ドデシル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸、又はそのエステル類、などが挙げられる。
【0042】
メタクリル系単量体としては、例えば、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のメタクリル酸又はそのエステル類、などが挙げられる。
【0043】
前記ビニル重合体、又は共重合体を形成する他のモノマーの例としては、以下の(1)〜(18)が挙げられる。(1)エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のモノオレフイン類;(2)ブタジエン、イソプレン等のポリエン類;(3)塩化ビニル、塩化ビニルデン、臭化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;(4)酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;(5)ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類;(6)ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン等のビニルケトン類;(7)N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物;(8)、ビニルナフタリン類;(9)アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等のアクリル酸若しくはメタクリル酸誘導体等;(10)マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アルケニルコハク酸、フマル酸、メサコン酸の如き不飽和二塩基酸;(11)マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、アルケニルコハク酸無水物の如き不飽和二塩基酸無水物;(12)マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノエチルエステル、シトラコン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、アルケニルコハク酸モノメチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、メサコン酸モノメチルエステルの如き不飽和二塩基酸のモノエステル;(13)ジメチルマレイン酸、ジメチルフマル酸の如き不飽和二塩基酸エステル;(14)クロトン酸、ケイヒ酸の如きα,β−不飽和酸;(15)クロトン酸無水物、ケイヒ酸無水物の如きα,β−不飽和酸無水物;(16)該α,β−不飽和酸と低級脂肪酸との無水物、アルケニルマロン酸、アルケニルグルタル酸、アルケニルアジピン酸、これらの酸無水物及びこれらのモノエステルの如きカルボキシル基を有するモノマー;(17)2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類;(18)4−(1−ヒドロキシ−1−メチルブチル)スチレン、4−(1−ヒドロキシ−1−メチルへキシル)スチレンの如きヒドロキシ基を有するモノマー。
【0044】
本発明に係るトナーにおいて、結着樹脂のビニル重合体、又は共重合体は、ビニル基を2個以上有する架橋剤で架橋された架橋構造を有していてもよい。この場合に用いられる架橋剤としては、芳香族ジビニル化合物として、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、などが挙げられる。アルキル鎖で結ばれたジアクリレート化合物類として、例えば、エチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,5−ペンタンジオールジアクリレート、1,6へキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、これらの化合物のアクリレートをメタクリレートに代えたもの、などが挙げられる。エーテル結合を含むアルキル鎖で結ばれたジアクリレート化合物類として、例えば、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール#400ジアクリレート、ポリエチレングリコール#600ジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、これらの化合物のアクリレートをメタアクリレートに代えたもの、などが挙げられる。
【0045】
その他、芳香族基及びエーテル結合を含む鎖で結ばれたジアクリレート化合物、ジメタクリレート化合物も挙げられる。ポリエステル型ジアクリレート類として、例えば、商品名MANDA(日本化薬社製)が挙げられる。
【0046】
多官能の架橋剤としては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、オリゴエステルアクリレート及び以上の化合物のアクリレートをメタクリレートに代えたもの、トリアリルシアヌレート、トリアリルトリメリテートが挙げられる。
【0047】
これらの架橋剤は、他のモノマー成分100質量部に対して、0.01〜10質量部用いることが好ましく、0.03〜5質量部用いることがより好ましい。これらの架橋性モノマーのうち、トナー用樹脂に定着性、耐オフセット性の点から、芳香族ジビニル化合物(特にジビニルベンゼン)、芳香族基及びエーテル結合を1つ含む結合鎖で結ばれたジアクリレート化合物類が好適に挙げられる。これらの中でも、スチレン系共重合体、スチレン−アクリル系共重合体となるようなモノマーの組み合わせが好ましい。
【0048】
本発明のビニル重合体又は共重合体の製造に用いられる重合開始剤としては、例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート、1,1'−アゾビス(1−シクロへキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)−イソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−フェニルアゾ−2',4'−ジメチル−4'−メトキシバレロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルプロパン)、メチルエチルケトンパ−オキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、シクロへキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、2,2−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ブタン、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジークミルパーオキサイド、α−(tert−ブチルパーオキシ)イソプロピルべンゼン、イソブチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、m−トリルパーオキサイド、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルへキシルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシカーボネート、ジ−エトキシイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシカーボネート、アセチルシクロへキシルスルホニルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルへキサレート、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチル−オキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ−tert−ブチルパーオキシイソフタレート、tert−ブチルパーオキアリルカーボネート、イソアミルパーオキシ−2−エチルへキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキシへキサハイドロテレフタレート、tert−ブチルパーオキシアゼレート、などが挙げられる。
【0049】
結着樹脂がスチレン−アクリル系樹脂の場合、樹脂成分のテトラヒドロフラン(THF)に可溶分のGPCによる分子量分布で、分子量3千〜5万(数平均分子量換算)の領域に少なくとも1つのピークが存在する。また、分子量10万以上の領域に少なくとも1つのピークが存在する樹脂が、定着性、オフセット性、保存性の点で好ましい。また、THF可溶分としては、分子量分布10万以下の成分が50〜90%となるような結着樹脂が好ましく、分子量5千〜3万の領域にメインピークを有する結着樹脂がより好ましく、5千〜2万の領域にメインピークを有する結着樹脂が最も好ましい。
【0050】
ポリエステル系重合体を構成するモノマーとしては、以下のものが挙げられる。
2価のアルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、又は、ビスフェノールAにエチレンオキシド、プロピレンオキシド等の環状エーテルが重合して得られるジオール、などが挙げられる。
【0051】
ポリエステル樹脂を架橋させるためには、3価以上のアルコールを併用することが好ましい。
前記3価以上の多価アルコールとしては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、例えば、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタトリオール、グリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、などが挙げられる。
【0052】
ポリエステル系重合体を形成する酸成分としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のべンゼンジカルボン酸類又はその無水物、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等のアルキルジカルボン酸類又はその無水物、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アルケニルコハク酸、フマル酸、メサコン酸等の不飽和二塩基酸、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、アルケニルコハク酸無水物等の不飽和二塩基酸無水物、などがあげられる。また、3価以上の多価カルボン酸成分としては、トリメット酸、ピロメット酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシ−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、テトラ(メチレンカルボキシ)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、エンポール三量体酸、又はこれらの無水物、部分低級アルキルエステル、などが挙げられる。
【0053】
結着樹脂がポリエステル系樹脂の場合は、樹脂成分のTHF可溶成分の分子量分布で、分子量3千〜5万の領域に少なくとも1つのピークが存在するのが、トナーの定着性、耐オフセット性の点で好ましい。また、THF可溶分としては、分子量10万以下の成分が60〜100[%]となるような結着樹脂も好ましい。更に、分子量5千〜2万の領域に少なくとも1つのピークが存在する結着樹脂がより好ましい。
【0054】
結着樹脂がポリエステル樹脂の場合、その酸価としては、0.1[mgKOH/g]〜100[mgKOH/g]の範囲であることが好ましい。また、0.1[mgKOH/g]〜70[mgKOH/g]の範囲であることがより好ましく、0.1[mgKOH/g]〜50[mgKOH/g]の範囲であることが最も好ましい。
【0055】
本発明において、結着樹脂の分子量分布は、THFを溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。
【0056】
本発明に係るトナーに使用できる結着樹脂としては、前記ビニル重合体成分及びポリエステル系樹脂成分の少なくともいずれか中に、これらの両樹脂成分と反応し得るモノマー成分を含む樹脂も使用することができる。ポリエステル系樹脂成分を構成するモノマーのうちビニル重合体と反応し得るものとしては、例えば、フタル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸又はその無水物、などが挙げられる。ビニル重合体成分を構成するモノマーとしては、カルボキシル基又はヒドロキシ基を有するものや、アクリル酸若しくはメタクリル酸エステル類が挙げられる。
【0057】
また、ポリエステル系重合体、ビニル重合体とその他の結着樹脂を併用する場合、全体の結着樹脂の酸価が0.1〜50[mgKOH/g]を有する樹脂を60[質量%]以上有するものが好ましい。
【0058】
本発明において、トナー組成物の結着樹脂成分の酸価は、以下の方法により求め、基本操作はJIS K−0070に準ずる。
(1)試料は予め結着樹脂(重合体成分)以外の添加物を除去して使用するか、結着樹脂及び架橋された結着樹脂以外の成分の酸価及び含有量を予め求めておく。試料の粉砕品0.5〜2.0[g]を精秤し、重合体成分の重さをW[g]とする。例えば、トナーから結着樹脂の酸価を測定する場合は、着色剤又は磁性体等の酸価及び含有量を別途測定しておき、計算により結着樹脂の酸価を求める。
(2)300[ml]のビーカーに試料を入れ、トルエン/エタノール(体積比4/1)の混合液150[ml]を加え溶解する。
(3)0.1[mol/l]のKOHのエタノール溶液を用いて、電位差滴定装置を用いて滴定する。
(4)この時のKOH溶液の使用量をS[ml]とし、同時にブランクを測定し、この時のKOH溶液の使用量をB[ml]とし、以下の式で算出する。ただしfはKOHのファクターである。
酸価[mgKOH/g]=[(S−B)×f×5.61]/W
【0059】
トナーの結着樹脂及び結着樹脂を含む組成物は、トナー保存性の観点から、ガラス転移温度(Tg)が35〜80[℃]の範囲であるのが好ましく、40〜75[℃]の範囲であるのがより好ましい。Tgが35[℃]より低いと高温雰囲気下でトナーが劣化しやすく、また定着時にオフセットが発生しやすくなることがある。また、Tgが80[℃]を超えると、定着性が低下することがある。
【0060】
〔着色剤〕
前記着色剤としては、特に制限はなく、通常使用される樹脂を適宜選択して使用することができるが、例えば、カーボンブラック、ニグロシン染料、鉄黒、ナフトールイエローS、ハンザイエロー(10G、5G、G)、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、黄土、黄鉛、チタン黄、ポリアゾイエロー、オイルイエロー、ハンザイエロー(GR、A、RN、R)、ピグメントイエローL、ベンジジンイエロー(G、GR)、パーマネントイエロー(NCG)、バルカンファストイエロー(5G、R)、タートラジンレーキ、キノリンイエローレーキ、アンスラザンイエローBGL、イソインドリノンイエロー、ベンガラ、鉛丹、鉛朱、カドミウムレッド、カドミウムマーキュリレッド、アンチモン朱、パーマネントレッド4R、パラレッド、ファイセーレッド、パラクロルオルトニトロアニリンレッド、リソールファストスカーレットG、ブリリアントファストスカーレット、ブリリアントカーンミンBS、パーマネントレッド(F2R、F4R、FRL、FRLL、F4RH)、ファストスカーレットVD、ベルカンファストルビンB、ブリリアントスカーレットG、リソールルビンGX、パーマネントレッドF5R、ブリリアントカーミン6B、ポグメントスカーレット3B、ボルドー5B、トルイジンマルーン、パーマネントボルドーF2K、ヘリオボルドーBL、ボルドー10B、ボンマルーンライト、ボンマルーンメジアム、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、ローダミンレーキY、アリザリンレーキ、チオインジゴレッドB、チオインジゴマルーン、オイルレッド、キナクリドンレッド、ピラゾロンレッド、ポリアゾレッド、クロームバーミリオン、ベンジジンオレンジ、ペリノンオレンジ、オイルオレンジ、コバルトブルー、セルリアンブルー、アルカリブルーレーキ、ピーコックブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー、ファストスカイブルー、インダンスレンブルー(RS、BC)、インジゴ、群青、紺青、アントラキノンブルー、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ、コバルト紫、マンガン紫、ジオキサンバイオレット、アントラキノンバイオレット、クロムグリーン、ジンクグリーン、酸化クロム、ピリジアン、エメラルドグリーン、ピグメントグリーンB、ナフトールグリーンB、グリーンゴールド、アシッドグリーンレーキ、マラカイトグリーンレーキ、フタロシアニングリーン、アントラキノングリーン、酸化チタン、亜鉛華、リトボン及びこれらの混合物、などが挙げられる。
【0061】
前記着色剤の含有量としては、トナーに対して1〜15[質量%]の範囲が好ましく、3〜10[質量%]の範囲がより好ましい。
【0062】
本発明に係るトナーで用いる着色剤は、樹脂と複合化されたマスターバッチとして用いることもできる。マスターバッチの製造またはマスターバッチとともに混練されるバインダー樹脂としては、先にあげた変性、未変性ポリエステル樹脂の他に、例えば、ポリスチレン、ポリp−クロロスチレン、ポリビニルトルエンなどのスチレン及びその置換体の重合体;スチレン−p−クロロスチレン共重合体、スチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−ビニルナフタリン共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−アクリル酸オクチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン−α−クロルメタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルメチルケトン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−インデン共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸エステル共重合体などのスチレン系共重合体;ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、エポキシ樹脂、エポキシポリオール樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸樹脂、ロジン、変性ロジン、テルペン樹脂、脂肪族叉は脂環族炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂、塩素化パラフィン、パラフィンワックス、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0063】
前記マスターバッチは、マスターバッチ用の樹脂と着色剤とを高せん断力をかけて混合、混練して得る事ができる。この際、着色剤と樹脂の相互作用を高めるために、有機溶剤を用いる事ができる。また、いわゆるフラッシング法と呼ばれる着色剤の、水を含んだ水性ペーストを、樹脂と有機溶剤とともに混合混練し、着色剤を樹脂側に移行させ、水分と有機溶剤成分を除去する方法も、着色剤のウエットケーキをそのまま用いる事ができる。そのため、乾燥する必要がなく、好適に使用される。混合混練するには、3本ロールミル等の高せん断分散装置が好適に使用される。
【0064】
前記マスターバッチの使用量としては、結着樹脂100質量部に対して、0.1〜20質量部の範囲が好ましい。
【0065】
また、前記マスターバッチ用の樹脂は、酸価が30[mgKOH/g]以下、アミン価が1〜100の範囲で、着色剤を分散させて使用することが好ましい。また、酸価が20[mgKOH/g]以下、アミン価が10〜50の範囲で、着色剤を分散させて使用することがより好ましい。酸価が30[mgKOH/g]を超えると、高湿下での帯電性が低下し、顔料分散性も不十分となることがある。また、アミン価が1未満であるとき、及び、アミン価が100を超えるときにも、顔料分散性が不十分となることがある。なお、酸価はJIS K0070に記載の方法により測定することができ、アミン価はJIS K7237に記載の方法により測定することができる。
【0066】
また、分散剤は、顔料分散性の点で、結着樹脂との相溶性が高いことが好ましく、具体的な市販品としては、「アジスパーPB821」、「アジスパーPB822」(味の素ファインテクノ社製)、「Disperbyk−2001」(ビックケミー社製)、「EFKA−4010」(EFKA社製)、などが挙げられる。
【0067】
前記分散剤の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるスチレン換算重量での、メインピークの極大値の分子量で、500〜100000の範囲が好ましい。また、顔料分散性の観点から、3000〜100000の範囲がより好ましい。特に、5000〜50000が好ましく、5000〜30000が最も好ましい。分子量が500未満であると、極性が高くなり、着色剤の分散性が低下することがあり、分子量が100000を超えると、溶剤との親和性が高くなり、着色剤の分散性が低下することがある。
【0068】
前記分散剤の添加量は、着色剤100質量部に対して1〜200質量部であることが好ましく、5〜80質量部であることがより好ましい。1質量部未満であると分散能が低くなることがあり、200質量部を超えると帯電性が低下することがある。
【0069】
<ワックス>
本発明で用いるトナー組成液は、結着樹脂、着色剤とともにワックスを含有する。
ワックスとしては、特に制限はなく、通常使用されるものを適宜選択して使用することができるが、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、サゾールワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス、酸化ポリエチレンワックス等の脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物又はそれらのブロック共重合体、キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう等の植物系ワックス、みつろう、ラノリン、鯨ろう等の動物系ワックス、オゾケライト、セレシン、ペテロラタム等の鉱物系ワックス、モンタン酸エステルワックス、カスターワックスの等の脂肪酸エステルを主成分とするワックス類。脱酸カルナバワックスの等の脂肪酸エステルを一部又は全部を脱酸化したもの、などが挙げられる。
【0070】
前記ワックスの例としては、更に、パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸、あるいは更に直鎖のアルキル基を有する直鎖アルキルカルボン酸類等の飽和直鎖脂肪酸、プランジン酸、エレオステアリン酸、バリナリン酸等の不飽和脂肪酸、ステアリルアルコール、エイコシルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウピルアルコール、セリルアルコール、メシリルアルコール、あるいは長鎖アルキルアルコール等の飽和アルコール、ソルビトール等の多価アルコール、リノール酸アミド、オレフィン酸アミド、ラウリン酸アミド等の脂肪酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸ビスアミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N'−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N'−ジオレイルセパシン酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド類、m−キシレンビスステアリン酸アミド、N,N−ジステアリルイソフタル酸アミド等の芳香族系ビスアミド、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸金属塩、脂肪族炭化水素系ワックスにスチレンやアクリル酸等のビニル系モノマーを用いてグラフト化させたワックス、ベヘニン酸モノグリセリド等の脂肪酸と多価アルコールの部分エステル化合物、植物性油脂を水素添加することによって得られるヒドロキシル基を有するメチルエステル化合物が挙げられる。
【0071】
より好適な例としては、オレフィンを高圧下でラジカル重合したポリオレフィン、高分子量ポリオレフィン重合時に得られる低分子量副生成物を精製したポリオレフィン、低圧下でチーグラー触媒、メタロセン触媒の如き触媒を用いて重合したポリオレフィン、放射線、電磁波又は光を利用して重合したポリオレフィン、高分子量ポリオレフィンを熱分解して得られる低分子量ポリオレフィン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ジントール法、ヒドロコール法、アーゲ法等により合成される合成炭化水素ワックス、炭素数1個の化合物をモノマーとする合成ワックス、水酸基又はカルボキシル基の如き官能基を有する炭化水素系ワックス、炭化水素系ワックスと官能基を有する炭化水素系ワックスとの混合物、これらのワックスを母体としてスチレン、マレイン酸エステル、アクリレート、メタクリレート、無水マレイン酸の如きビニルモノマーでグラフト変性したワックスが挙げられる。
【0072】
また、これらのワックスを、プレス発汗法、溶剤法、再結晶法、真空蒸留法、超臨界ガス抽出法又は溶液晶析法を用いて分子量分布をシャープにしたものがある。また、低分子量固形脂肪酸、低分子量固形アルコール、低分子量固形化合物、その他の不純物を除去したものも好ましく用いられる。
【0073】
前記ワックスの融点としては、定着性と耐オフセット性のバランスを取るために、70〜140[℃]の範囲であることが好ましく、70〜120[℃]の範囲であることがより好ましい。70[℃]未満では耐ブロッキング性が低下することがあり、140[℃]を超えると耐オフセット効果が発現しにくくなることがある。
【0074】
また、2種以上の異なる種類のワックスを併用することにより、ワックスの作用である可塑化作用と離型作用を同時に発現させることができる。可塑化作用を有するワックスの種類としては、例えば融点の低いワックス、分子の構造上に分岐のあるものや極性基を有する構造のもの、などが挙げられる。離型作用を有するワックスとしては、融点の高いワックスが挙げられ、その分子の構造としては、直鎖構造のものや、官能基を有さない無極性のものが挙げられる。使用例としては、2種以上の異なるワックスの融点の差が10[℃]〜100[℃]のものの組み合わせや、ポリオレフィンとグラフト変性ポリオレフィンの組み合わせ、などが挙げられる。
【0075】
2種のワックスを選択する際には、同様構造のワックスの場合は、相対的に、融点の低いワックスが可塑化作用を発揮し、融点の高いワックスが離型作用を発揮する。この時、融点の差が10〜100[℃]の範囲の場合に、機能分離が効果的に発現する。10[℃]未満では機能分離効果が表れにくいことがあり、100[℃]を超える場合には相互作用による機能の強調が行われにくいことがある。このとき、機能分離効果を発揮しやすくなる傾向があることから、少なくとも一方のワックスの融点が70〜120[℃]の範囲であることが好ましく、70〜100[℃]の範囲であることがより好ましい。
【0076】
前記ワックスは、相対的に、枝分かれ構造のものや官能基の如き極性基を有するものや主成分とは異なる成分で変性されたものが可塑作用を発揮する。また、より直鎖構造のものや官能基を有さない無極性のものや未変性のストレートなものが離型作用を発揮する。好ましい組み合わせとしては、エチレンを主成分とするポリエチレンホモポリマー又はコポリマーとエチレン以外のオレフィンを主成分とするポリオレフィンホモポリマー又はコポリマーの組み合わせ、ポリオレフィンとグラフト変成ポリオレフィンの組み合わせ、アルコールワックス、脂肪酸ワックス又はエステルワックスと炭化水素系ワックスの組み合わせ、フイシャートロプシュワックス又はポリオレフィンワックスとパラフィンワックス又はマイクロクリスタルワックスの組み合わせ、フィッシャトロプシュワックスとポルリオレフィンワックスの組み合わせ、パラフィンワックスとマイクロクリスタルワックスの組み合わせ、カルナバワックズ、キャンデリラワックス、ライスワックス又はモンタンワックスと炭化水素系ワックスの組み合わせが挙げられる。
【0077】
いずれの場合においても、トナー保存性と定着性のバランスをとりやすくなることから、トナーのDSC測定において観測される吸熱ピークにおいて、70〜110[℃]の範囲に最大ピークのピークトップ温度があることが好ましく、70〜110[℃]の範囲に最大ピークを有しているのがより好ましい。
【0078】
前記ワックスの総含有量としては、結着樹脂100質量部に対し、0.2〜20質量部の範囲が好ましく、0.5〜10質量部の範囲がより好ましい。
【0079】
本発明では、DSCにおいて測定されるワックスの吸熱ピークの最大ピークのピークトップの温度をもってワックスの融点とする。
【0080】
前記ワックス又はトナーのDSC測定機器としては、高精度の内熱式入力補償型の示差走査熱量計で測定することが好ましい。測定方法としては、ASTM D3418−82に準じて行う。本発明に用いられるDSC曲線は、1回昇温、降温させ前履歴を取った後、温度速度10[℃/min]で、昇温させた時に測定されるものを用いる。
【0081】
(グラフト重合体)
本発明で用いられるポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とからなるグラフト重合体は、ポリオレフィン樹脂の少なくとも一部がビニル系樹脂による変性部でグラフトされた構造を有する。本発明のトナーにおいて、トナーに含まれる離型剤は、その少なくとも一部がグラフト重合体中に内包されているか付着している。離型剤及びグラフト重合体を含有するトナー組成物を溶解又は分散し液状としたトナー組成液中で、グラフト重合体は微細化した離型剤の移動や再凝集を抑制する。これは、グラフト重合体のポリオレフィン樹脂部分が離型剤と親和性が高く、ビニル系樹脂部分がバインダー樹脂と親和性が高いため、分散剤的な効果を生じるためと推測される。トナー組成液中でのグラフト重合体及び離型剤の分散径は、詰まりの点からトナー吐出孔開口径の1/2以下であることが好ましい。
【0082】
ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィン類としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセン、1−ドデセン、1−オクタデセンなどが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、オレフィン類の重合体、オレフィン類の重合体の酸化物、オレフィン類の重合体の変性物、オレフィン類と共重合可能な他の単量体との共重合物などが挙げられる。オレフィン類の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、プロピレン/1−ヘキセン共重合体などが挙げられる。オレフィン類の重合体の酸化物としては、上記オレフィン類の重合体の酸化物等が挙げられる。オレフィン類の重合体の変性物としては、例えば、前記例示したオレフィン類の重合体のマレイン酸誘導体付加物などが挙げられる。マレイン酸誘導体としては、例えば無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸ジメチル等が挙げられる。
【0083】
また、熱減成型ポリオレフィンも好ましく用いることができる。熱減成型ポリオレフィンとしては、重量平均分子量(Mw)50000〜5000000の範囲のポリオレフィン樹脂(例えばポリエチレン及びポリプロピレン)を熱減成して得られるポリオレフィンが挙げられる。熱減成は通常250〜450℃の範囲で行われる。熱減成後の、数平均分子量(Mn)から導かれる分子数に対応する1分子当たりの二重結合含有率は、30〜70%の範囲が好ましい。
【0084】
オレフィン類と共重合可能な他の単量体との共重合物としては、例えば、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸アルキルエステル等の単量体と、オレフィン類との共重合体などが挙げられる。前記不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸などが挙げられる。前記不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、例えば、炭素原子数1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、炭素原子数1〜18のマレイン酸アルキルエステルなどが挙げられる。
【0085】
本発明において用いるポリオレフィン系樹脂は、ポリマー構造がポリオレフィンの構造を有していればよく、モノマーが必ずしもオレフィン構造を有している必要はない。例えば、ポリメチレン(サゾールワックス等)等も使用することができる。これらポリオレフィン系樹脂のうち、好ましいものは、オレフィン類の重合体、熱減成型ポリオレフィン、オレフィン類の重合体の酸化物、オレフィン類の重合体の変性物であり、さらに好ましくは、ポリエチレン、ポリメチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体及びその熱減成品、酸化型ポリエチレン、酸化型ポリプロピレン、マレイン化ポリプロピレン等であり、特に好ましいものは、ポリエチレン及びポリプロピレンである。
【0086】
ポリオレフィン樹脂の軟化点は、通常60〜170℃の範囲であり、好ましくは70〜150℃の範囲である。また、数平均分子量は通常数平均分子量が500〜20000の範囲であり、重量平均分子量は800〜100000の範囲である。また、好ましくは数平均分子量は1000〜15000の範囲であり、重量平均分子量は1500〜60000の範囲である。更に好ましくは、数平均分子量は1500〜10000の範囲であり、重量平均分子量は2000〜30000の範囲である。
【0087】
ポリオレフィン樹脂の少なくとも一部に変性部をグラフトさせるためのビニル系モノマーとしては、従来公知のものが使用できる。具体的には、スチレン系モノマー[スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、p−アセトキシスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、フェニルスチレン、ベンジルスチレンなど]、不飽和カルボン酸のアルキル(炭素数1〜18)エステル[メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなど]、ビニルエステル系モノマー[酢酸ビニルなど]、ビニルエーテル系モノマー[ビニルメチルエーテルなど]、ハロゲン元素含有ビニル系モノマー[塩化ビニルなど]、ジエン系モノマー(ブタジエン、イソブチレン等)、(メタ)アクリロニトリル、シアノスチレンなど不飽和ニトリル系モノマー及びこれらの併用が挙げられる。これらのうち好ましいものはスチレン系モノマー、不飽和カルボン酸アルキルエステル、(メタ)アクリロニトリル及びその併用であり、特に好ましいのは、スチレン及びスチレンと(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリロニトリルの併用である。
【0088】
また、ビニル系樹脂のSP値(ソルビリティーパラメーター)としては10.0〜11.5(cal/cm3)1/2が好ましい。これは、バインダー樹脂のSP値を考慮して調整する。なお、SP値は公知のFedors法で算出することができる。
【0089】
ビニル系樹脂の分子量は、数平均分子量で1500〜100000の範囲であり、重量平均分子量で5000〜200000の範囲である。また、好ましいのは数平均分子量で2500〜50000の範囲であり、重量平均分子量で6000〜100000の範囲である。特に好ましいのは数平均分子量で2800〜20000の範囲であり、重量平均分子量で7000〜50000の範囲である。
【0090】
ビニル系樹脂のTg(ガラス転移点)は通常40〜90℃の範囲であり、好ましいのは45〜80℃の範囲であり、特に好ましいのは50〜70℃の範囲である。Tgが40℃以上で保存性が良好となり、90℃以下の場合低温定着性が良好になる。
【0091】
本発明で用いられるグラフト重合体は、ポリオレフィン樹脂が少なくともビニル系樹脂でグラフトされた構造をし、従来公知の方法により製造することができる。即ち、グラフト重合体の主鎖を構成するポリオレフィン樹脂を有機溶媒に溶解させ、この溶液に、側鎖を構成するビニル樹脂用のビニルモノマーを添加する。そして、これらのポリオレフィン樹脂とビニルモノマーを、有機溶媒中で、有機過酸化物等の重合開始剤の存在下でグラフト重合反応させる。ポリオレフィン樹脂とビニルモノマーの質量比は、フィルミング防止の観点から好ましくは1〜30:70〜99、より好ましくは2〜27:83〜98である。
【0092】
前記のグラフト重合によって得られるグラフト重合体には、未反応のポリオレフィン樹脂及びビニルモノマー同士の重合により生成したグラフトしていないビニル樹脂が混入する。一方、本発明の場合、これらのポリオレフィン樹脂及びビニル樹脂は、グラフト重合体から分離除去する必要はなく、グラフト重合体はそれらの成分を含む混合樹脂として好ましく用いることができる。この混合樹脂において、そのポリオレフィン樹脂の含有量は、5[質量%]以下、好ましくは3[質量%]以下である。また、そのビニル樹脂の含有量は10[質量%]以下、好ましくは5[質量%]以下である。本発明の場合、この混合樹脂中のグラフト重合体の割合は、85[質量%]以上、好ましくは90[質量%]以上に規定するのがよい。前記混合樹脂中のグラフト重合体樹脂の割合や、その分子量及びビニルポリマーの分子量等は、反応原料の仕込み比や重合反応温度、反応時間等の条件によって適宜調節することができる。
【0093】
本発明で用いるグラフト重合体の具体例としては、以下のポリオレフィン系樹脂(A)及びビニル系樹脂(B)から構成されるものなどが挙げられる。
(1)(A):酸化型ポリプロピレン、(B):スチレン/アクリロニトリル共重合体
(2)(A):ポリエチレン/ポリプロピレン混合物、(B):スチレン/アクリロニトリル共重合体
(3)(A):エチレン/プロピレン共重合体、(B):スチレン/アクリル酸/アクリル酸ブチル共重合体
(4)(A):ポリプロピレン、(B):スチレン/アクリロニトリル/アクリル酸ブチル/マレイン酸モノブチル共重合体
(5)(A):マレイン酸変性ポリプロピレン、(B):スチレン/アクリロニトリル/アクリル酸/アクリル酸ブチル共重合体
(6)(A):マレイン酸変性ポリプロピレン、(B):スチレン/アクリロニトリル/アクリル酸/アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体
(7)(A):ポリエチレン/マレイン酸変性ポリプロピレン混合物、(B):アクリロニトリル/アクリル酸ブチル/スチレン/マレイン酸モノブチル共重合体
【0094】
前記グラフト重合体の製造方法としては、例えば、まずポリオレフィン系樹脂等のワックスを、トルエン、キシレン等の溶剤に溶解又は分散させる。そして、100〜200[℃]に加熱した後、ビニルモノマーをパーオキサイド系開始剤とともに滴下重合後、溶剤を留去してグラフト重合体を得る方法が挙げられる。前記パーオキサイド系開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド、ターシャリブチルパーオキシドベンゾエートなどが挙げられる。前記パーオキサイド系開始剤の量は、反応原料の質量に基づき適宜調整することができ、通常、反応原料中0.2〜10[質量%]の範囲であり、0.5〜5[質量%]の範囲が好ましい。
【0095】
前記グラフト重合体には、未反応のポリオレフィン系樹脂及びビニルモノマー同士の重合により生成したビニル系樹脂が混入していても構わない。本発明の場合、これらのポリオレフィン系樹脂及びビニル系樹脂は、グラフト重合体から分離除去する必要はなく、グラフト重合体は、それらの成分を含む混合樹脂として好ましく用いることができる。
【0096】
前記グラフト重合体を構成する各成分の量は、生成したグラフト重合体の質量に基づき適宜調整することができ、ポリオレフィン系樹脂は、通常、グラフト重合体中1〜90[質量%]の範囲であり、5〜80[質量%]の範囲が好ましい。また、ビニル系樹脂は、通常、グラフト重合体中10〜99[質量%]の範囲であり、20〜95[質量%]の範囲が好ましい。
【0097】
また、未反応のポリオレフィン系樹脂及びビニル系樹脂を含めたグラフト重合体の添加量は、離型剤の分散安定性の面から、離型剤100質量部に対し、通常5〜300質量部の範囲であり、10〜150質量部の範囲が好ましい。
【0098】
更に、ポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とからなるグラフト重合体の添加量が離型剤100質量部に対して、10〜150質量部の範囲であり、ビニル系樹脂がスチレン及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリロニトリルから選ばれる少なくとも1種を含む。これにより、ワックス等の離型剤の微分散及び凝集抑制効果が確実なものとなり、さらにトナー吐出孔詰り防止効果を確実なものとすることができる。
【0099】
(磁性体)
本発明で使用できる磁性体としては、例えば、(1)マグネタイト、マグヘマイト、フェライトの如き磁性酸化鉄、及び他の金属酸化物を含む酸化鉄、(2)鉄、コバルト、ニッケル等の金属、又は、これらの金属とアルミニウム、コバルト、銅、鉛、マグネシウム、錫、亜鉛、アンチモン、ベリリウム、ビスマス、カドミウム、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウム等の金属との合金。(3)及びこれらの混合物、などが用いられる。
【0100】
磁性体として具体的に例示すると、Fe3O4、γ−Fe2O3、ZnFe2O4、Y3Fe5O12、CdFe2O4、Gd3Fe5O12、CuFe2O4、PbFe12O、NiFe2O4、NdFe2O、BaFe12O19、MgFe2O4、MnFe2O4、LaFeO3、鉄粉、コバルト粉、ニッケル粉、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも特に、四三酸化鉄、γ−三二酸化鉄の微粉末が好適に挙げられる。
【0101】
また、異種元素を含有するマグネタイト、マグヘマイト、フェライト等の磁性酸化鉄、又はその混合物も使用できる。異種元素を例示すると、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、ゲルマニウム、ジルコニウム、錫、イオウ、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、などが挙げられる。好ましい異種元素としては、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、又はジルコニウムから選択される。異種元素は、酸化鉄結晶格子の中に取り込まれていてもよいし、酸化物として酸化鉄中に取り込まれていてもよいし、又は表面に酸化物あるいは水酸化物として存在していてもよいが、酸化物として含有されているのが好ましい。
【0102】
前記異種元素は、磁性体生成時にそれぞれの異種元素の塩を混在させ、pH調整により、粒子中に取り込むことができる。また、磁性体粒子生成後にpH調整、あるいは各々の元素の塩を添加しpH調整することにより、粒子表面に析出することができる。
【0103】
前記磁性体の使用量としては、結着樹脂100質量部に対して、磁性体10〜200質量部が好ましく、20〜150質量部がより好ましい。これらの磁性体の個数平均粒径としては、0.1〜2[μm]が好ましく、0.1〜0.5[μm]がより好ましい。前記個数平均径は、透過電子顕微鏡により拡大撮影した写真をデジタイザー等で測定することにより求めることができる。
【0104】
また、磁性体の磁気特性としては、10Kエルステッド印加での磁気特性がそれぞれ、抗磁力20〜150エルステッド、飽和磁化50〜200[emu/g]、残留磁化2〜20[emu/g]のものが好ましい。前記磁性体は、着色剤としても使用することができる。
【0105】
(帯電制御剤)
本発明のトナーには、必要に応じて帯電制御剤を含有してもよい。帯電制御剤としては公知のものが全て使用でき、例えばニグロシン系染料、トリフェニルメタン系染料、クロム含有金属錯体染料、モリブデン酸キレート顔料、ローダミン系染料、アルコキシ系アミン、4級アンモニウム塩(フッ素変性4級アンモニウム塩を含む)、アルキルアミド、燐の単体又は化合物、タングステンの単体又は化合物、フッ素系活性剤、サリチル酸金属塩、及びサリチル酸誘導体の金属塩等が挙げられる。具体的にはニグロシン系染料のボントロン03、第四級アンモニウム塩のボントロンP−51、含金属アゾ染料のボントロンS−34、オキシナフトエ酸系金属錯体のEー82、サリチル酸系金属錯体のE−84、フェノール系縮合物のE−89(以上、オリエント化学工業社製)、第四級アンモニウム塩モリブデン錯体のTP−302、TP−415(以上、保土谷化学工業社製)、第四級アンモニウム塩のコピーチャージPSY VP2038、トリフェニルメタン誘導体のコピーブルーPR、第四級アンモニウム塩のコピーチャージ NEG VP2036、コピーチャージ NX VP434(以上、ヘキスト社製)、LRA−901、ホウ素錯体であるLR−147(日本カ一リット社製)、銅フタロシアニン、ペリレン、キナクリドン、アゾ系顔料、その他スルホン酸基、カルボキシル基、四級アンモニウム塩等の官能基を有する高分子系の化合物などが挙げられる。
【0106】
本発明において帯電制御剤の使用量は、バインダー樹脂の種類、必要に応じて使用される添加剤の有無、分散方法を含めたトナー製造方法によって決定される。一義的に限定されるものではないが、好ましくはバインダー樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲で用いられ、好ましくは、0.2〜5質量部の範囲である。帯電制御剤の使用量が10質量部を超える場合、トナーの帯電性が大きすぎて画像濃度の低下を招くことがある。これらの帯電制御剤、離型剤はマスターバッチ、樹脂とともに溶融混練することもできるし、もちろん有機溶剤に溶解、分散する際に加えてもよい。
【0107】
<流動性向上剤>
本発明に係るトナーには、流動性向上剤を添加してもよい。該流動性向上剤は、トナー表面に添加することにより、トナーの流動性を改善(流動しやすくなる)するものである。
【0108】
前記流動性向上剤としては、例えば、カーボンブラック、フッ化ビニリデン微粉末、ポリテトラフルオロエチレン微粉末の如きフッ素系樹脂粉末、湿式製法シリカ、乾式製法シリカの如き微粉末シリカ、微粉未酸化チタン、微粉未アルミナ、それらをシランカップリング剤、チタンカップリング剤若しくはシリコーンオイルにより表面処理を施した処理シリカ,処理酸化チタン,処理アルミナ、などが挙げられる。これらの中でも、微粉末シリカ、微粉未酸化チタン、微粉未アルミナが好ましく、また、これらをシランカップリング剤やシリコーンオイルにより表面処理を施した処理シリカが更に好ましい。
【0109】
前記流動性向上剤の粒径としては、平均一次粒径として、0.001〜2[μm]であることが好ましく、0.002〜0.2[μm]であることがより好ましい。
【0110】
前記微粉末シリカは、ケイ素ハロゲン化含物の気相酸化により生成された微粉体であり、いわゆる乾式法シリカ又はヒュームドシリカと称されるものである。
【0111】
ケイ素ハロゲン化合物の気相酸化により生成された市販のシリカ微粉体としては、例えば、AEROSIL(日本アエロジル社商品名、以下同じ)−130、−300、−380、−TT600、−MOX170、−MOX80、−COK84:Ca−O−SiL(CABOT社商品名)−M−5、−MS−7、−MS−75、−HS−5、−EH−5、Wacker HDK(WACKER−CHEMIE社商品名)−N20 V15、−N20E、−T30、−T40:D−CFineSi1ica(ダウコーニング社商品名):Franso1(Fransi1社商品名)、などが挙げられる。
【0112】
更には、ケイ素ハロゲン化合物の気相酸化により生成されたシリカ微粉体を疎水化処理した処理シリカ微粉体がより好ましい。処理シリカ微粉体において、メタノール滴定試験によって測定された疎水化度が好ましくは30〜80[%]の値を示すようにシリカ微粉体を処理したものが特に好ましい。疎水化は、シリカ微粉体と反応あるいは物理吸着する有機ケイ素化合物等で化学的あるいは物理的に処理することによって付与される。好ましい方法としては、ケイ素ハロゲン化合物の気相酸化により生成されたシリカ微粉体を有機ケイ素化合物で処理する方法がよい。
【0113】
有機ケイ素化合物としては、ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、ビニルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ジメチルビニルクロロシラン、ジビニルクロロシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、へキサメチルジシラン、トリメチルシラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、アリルジメチルクロロシラン、アリルフェニルジクロロシラン、ベンジルジメチルクロロシラン、ブロモメチルジメチルクロロシラン、α−クロルエチルトリクロロシラン、β−クロロエチルトリクロロシラン、クロロメチルジメチルクロロシラン、トリオルガノシリルメルカプタン、トリメチルシリルメルカプタン、トリオルガノシリルアクリレート、ビニルジメチルアセトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、へキサメチルジシロキサン、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン、1,3−ジフエニルテトラメチルジシロキサン及び1分子当り2から12個のシロキサン単位を有し、未端に位置する単位にそれぞれSiに結合した水酸基を0〜1個含有するジメチルポリシロキサン等がある。更に、ジメチルシリコーンオイルの如きシリコーンオイルが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0114】
流動性向上剤の個数平均粒径としては、5〜100[nm]になるものが好ましく、5〜50[nm]になるものがより好ましい。
【0115】
BET法で測定した窒素吸着による比表面積としては、30[m2/g]以上が好ましく、60〜400[m2/g]がより好ましい。表面処理された微粉体としては、20[m2/g]以上が好ましく、40〜300[m2/g]がより好ましい。
【0116】
これらの微粉体の適用量としては、トナー粒子100質量部に対して0.03〜8質量部が好ましい。
【0117】
(クリーニング性向上剤)
記録紙等にトナーを転写した後、静電潜像担持体や一次転写媒体に残存するトナーの除去性を向上させるためのクリーニング性向上剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸等の脂肪酸金属塩、ポリメチルメタクリレート微粒子、ポリスチレン微粒子等のソープフリー乳化重合によって製造されたポリマー微粒子などを挙げることかできる。ポリマー微粒子は比較的粒度分布が狭く、重量平均粒径が0.01〜1μmのものが好ましい。これらの流動性向上剤やクリーニング性向上剤等はトナーの表面に付着ないし固定化させて用いられるため、外添剤とも呼ばれており、トナーに外添する方法としては各種の粉体混合機等が用いられる。粉体混合機としては、例えば、V型混合機、ロッキングミキサー、レーディゲミキサー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサーなどが挙げられ、固定化も行う場合に用いる粉体混合機としては、ハイブリタイザー、メカノフュージョン、Qミキサー等が挙げられる。
【0118】
(キャリア)
本発明のトナーは、キャリアと混合して2成分現像剤として使用してもよい。キャリアとしては、通常のフェライト、マグネタイト等のキャリアも樹脂コートキャリアを使用することができる。前記樹脂コートキャリアは、キャリアコア粒子とキャリアコア粒子表面を被覆(コート)する樹脂である被覆材からなる。被覆材に使用する樹脂としては、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体等のスチレン−アクリル系樹脂、アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合体等のアクリル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、モノクロロトリフルオロエチレン重合体、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素含有樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、アミノアクリレート樹脂が好適に挙げられる。この他にも、アイオモノマー樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等のキャリアの被覆(コート)材として使用できる樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0119】
また、樹脂中に磁性粉が分散されたバインダー型のキャリアコアも用いることができる。樹脂コートキャリアにおいて、キャリアコアの表面を少なくとも樹脂被覆剤で被覆する方法としては、樹脂を溶剤中に溶解又は懸濁せしめて塗布したキャリアコアに付着せしめる方法、あるいは単に粉体状態で混合する方法が適用できる。前記樹脂コートキャリアに対する樹脂被覆材の使用割合は適宜決定すればよいが、樹脂コートキャリア100質量部に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜1質量%がより好ましい。
【0120】
2種以上の混合物の被覆(コート)材で磁性体を被覆する使用例としては、(1)酸化チタン微粉体100質量部に対してジ、メチルジクロロシランとジメチルシリコンオイル(質量比1:5)の混合物12質量部で処理したもの、(2)シリカ微粉体100質量部に対して、ジメチルジクロロシランとジメチルシリコーンオイル(質量比1:5)の混合物20質量部で処理したものなどが挙げられる。前記樹脂中、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、含フッ素樹脂とスチレン系共重合体との混合物、シリコーン樹脂が好適に使用され、特にシリコーン樹脂が好ましい。
【0121】
前記含フッ素樹脂とスチレン系共重合体との混合物としては、例えば、ポリフッ化ビニリデンとスチレン−メタクリ酸メチル共重合体との混合物、ポリテトラフルオロエチレンとスチレン−メタクリル酸メチル共重合体との混合物、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合(共重合体質量比10:90〜90:10)とスチレン−アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体(共重合質量比10:90〜90:10)とスチレン−アクリル酸2−エチルヘキシル−メタクリル酸メチル共重合体(共重合体質量比20〜60:5〜30:10:50)との混合物などが挙げられる。シリコーン樹脂としては、含窒素シリコーン樹脂及び含窒素シランカップリング剤と、シリコーン樹脂とが反応することにより生成された、変性シリコーン樹脂が挙げられる。
【0122】
キャリアコアの磁性材料としては、例えば、フェライト、鉄過剰型フェライト、マグネタイト、γ−酸化鉄等の酸化物や、鉄、コバルト、ニッケルのような金属、又はこれらの合金を用いることができる。また、これらの磁性材料に含まれる元素としては、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウム、銅、鉛、マグネシウム、スズ、亜鉛、アンチモン、ベリリウム、ビスマス、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウムが挙げられる。これらの中でも特に、銅、亜鉛、及び鉄成分を主成分とする銅−亜鉛−鉄系フェライト、マンガン、マグネシウム及び鉄成分を主成分とするマンガン−マグネシウム−鉄系フェライトが好適に挙げられる。
【0123】
前記キャリアの体積抵抗値としては、キャリアの表面の凹凸度合い、被覆する樹脂の量を調整して106〜1010Ω・cmにするのがよい。前記キャリアの粒径としては、4〜200μmのものが使用できるが、10〜150μmが好ましく、20〜100μmがより好ましい。特に、樹脂コートキャリアは、50%粒径が20〜70μmであることが好ましい。2成分系現像剤では、キャリア100質量部に対して、本発明のトナー1〜200質量部で使用することが好ましく、キャリア100質量部に対して、トナー2〜50質量部で使用するのがより好ましい。
【0124】
本発明のトナーを用いた現像方法は、従来の電子写真法に使用する静電潜像担持体が全て使用できる。例えば、有機静電潜像担持体、非晶質シリカ静電潜像担持体、セレン静電潜像担持体、酸化亜鉛静電潜像担持体、などが好適に使用可能である。
【0125】
以下、実施例により本発明について詳細に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
(グラフト重合体製造例−1)
温度計及び攪拌機の付いたオートクレーブ反応槽中に、キシレン480質量部、低分子量ポリエチレン(三洋化成工業(株)製、サンワックスLEL−400:軟化点128℃)100質量部を入れて充分溶解させ、窒素置換した後、スチレン755質量部、アクリロニトリル100質量部、アクリル酸ブチル45質量部、アクリル酸21質量部、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート36質量部及びキシレン100質量部の混合溶液を、170℃で3時間かけて滴下し重合し、さらにこの温度で0.5時間保持した。次いで脱溶剤を行い、数平均分子量:3300、重量平均分子量:18000、ガラス転移点:65.0℃、ビニル系樹脂のSP値11.0(cal/cm3)1/2のグラフト重合体(W−1)を得た。
【0126】
(グラフト重合体製造例−2)
温度計及び攪拌機の付いたオートクレーブ反応槽中に、キシレン450質量部、低分子量ポリプロピレン(三洋化成工業(株)製、ビスコール440P:軟化点153℃)200部を入れて充分溶解させ、窒素置換した後、スチレン280質量部、メタクリル酸メチル520質量部、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート32.3質量部及びキシレン120質量部の混合溶液を、150℃で2時間かけて滴下し重合し、さらにこの温度で1時間保持した。次いで脱溶剤を行い、数平均分子量:3300、重量平均分子量:16000、ガラス転移点:58.8℃、ビニル系樹脂のSP値10.2(cal/cm3)1/2のグラフト重合体(W−2)を得た。
【0127】
(グラフト重合体製造例−3)
温度計及び攪拌機の付いたオートクレーブ反応槽中に、キシレン450質量部、低分子量ポリプロピレン及び低分子量ポリエチレン混合物(クラリアント社製、Licocene1302:軟化点78.9℃)150質量部を入れて充分溶解させ、窒素置換後、スチレン200部、メタクリル酸メチル460部、アクリロニトリル140質量部、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート35質量部及びキシレン120質量部の混合溶液を、150℃で2時間かけて滴下し重合し、さらにこの温度で1時間保持した。次いで脱溶剤を行い、数平均分子量:2400、重量平均分子量:14000、ガラス転移点:88.5℃、ビニル系樹脂のSP値11.5(cal/cm3)1/2のグラフト重合体(W−3)を得た。
【0128】
(実施例1)
−着色剤分散液の調製−
先ず、着色剤としての、カーボンブラック分散液を調製した。カーボンブラック(Regal400、Cabot社製)20質量部及び顔料分散剤(アジスパーPB821、味の素ファインテクノ社製)2質量部を、酢酸エチル78質量部に、攪拌羽を有するミキサーを使用して一次分散させた。得られた一次分散液を、ダイノーミルを用いて強力なせん断力により細かく分散し、凝集体を完全に除去した二次分散液を調製した。更に、0.45μmの細孔を有するフィルター(PTFE社製)を通過させ、サブミクロン領域まで分散させたカーボンブラック分散液を調製した。
【0129】
−ワックス分散液の調製−
撹拌羽と温度計をセットした容器に、カルナバワックス6.25質量部及び酢酸エチル75質量部を仕込み、85℃に加温し20分間撹拌しカルナバワックスを溶解させた後、急冷しカルナバワックスの微粒子を析出させた。この分散液に、グラフト重合体(W−1)の固形分20質量%酢酸エチル溶液18.75質量部(カルナバワックス100質量部に対してグラフト重合体60質量部)を加え、0.3mmφのジルコニアビーズを充填したビーズミル(アシザワファインテック社製、LMZ06)を用いて強力なせん断力によりさらに細かく分散して平均粒径0.29μmのワックス分散液(WD−1)を得た。ワックスの粒径はマイクロトラック粒度分析計「Nanotrac150」を用いて測定した。
【0130】
−トナー組成液の調製−
結着樹脂としてのポリエステル樹脂(重量平均分子量32000)の固形分20質量%酢酸エチル溶液471質量部、前記カーボンブラック分散液50質量部、ワックス分散液(WD−1)128質量部及び酢酸エチル531質量部を、攪拌羽を有するミキサーを使用し混合し、トナー組成液を調製した。このトナー組成液を48時間静置しておいてもカーボンブラック及びワックス粒子が凝集沈降することはなかった。
【0131】
−トナーの作製−
得られたトナー組成液を、図11に示す液滴吐出ヘッドを有する図1のトナー製造装置を用いて以下のような条件で、液滴を吐出させる。その後、該液滴を乾燥固化し、サイクロン捕集した後さらに35℃にて48時間二次乾燥することにより、トナー母体粒子を作製した。
【0132】
〔トナー作製条件〕
分散液比重 :ρ=1.1[g/cm3]
トナー吐出孔穴径 :7.5[μmφ]
乾燥エアー温度 :40[℃]
駆動周波数 :395[kHz]
印加電圧 :10.0[V]
【0133】
このトナー母体粒子100質量部に対して疎水性シリカ(H2000、クラリアントジャパン社製)1.0質量部を、ヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)を用いて外添処理を行い、ブラックトナーaを得た。
【0134】
このトナーの粒度を測定した結果を表1に示す。重量平均粒径(Dw)は4.9[μm]、でありDw/Dnは1.01であり非常にシャープな粒度分布であった。
なお、トナーの作製は連続して6時間行ったが、トナー吐出孔が詰まることはなかった。
【0135】
−キャリアの作製−
シリコーン樹脂(オルガノストレートシリコーン) 100質量部
トルエン 100質量部
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン 5質量部
カーボンブラック 10質量部
上記混合物をホモミキサーで20分間分散し、コート層形成液を調製した。このコート層形成液を、流動床型コーティング装置を用いて、粒径50μmの球状マグネタイト1000質量部の表面にコーティングして磁性キャリアを得た。
【0136】
−現像剤の作製−
トナーa4質量部及び上記磁性キャリア96質量部をボールミルで混合して二成分現像剤1を作製し、ホットオフセット性及びフィルミング性の評価を行った。評価結果を下記の表1に示す。ホットオフセット性及びフィルミング性ともに良好であった。
【0137】
[評価方法]
<粒度分布>
本発明のトナーの重量平均粒径(Dw)及び個数平均粒径(Dn)は、粒度測定器(「マルチサイザーIII」、ベックマンコールター社製)を用い、アパーチャー径100μmで測定し、解析ソフト(Beckman Coulter Mutlisizer 3 Version3.51)にて解析を行った。具体的にはガラス製100mlビーカーに10質量%界面活性剤(アルキルベンゼンスフォン酸塩ネオゲンSC−A、第一工業製薬社製)を0.5ml添加する。そして、各トナー0.5g添加しミクロスパーテルでかき混ぜ、次いでイオン交換水80mlを添加した。得られた分散液を超音波分散器(W−113MK−II、本多電子社製)で10分間分散処理した。前記分散液を、前記マルチサイザーIIIを用い、測定用溶液としてアイソトンIII(ベックマンコールター社製)を用いて測定を行った。測定は装置が示す濃度が8±2%になるように前記トナーサンプル分散液を滴下した。本測定法は粒径の測定再現性の点から前記濃度を8±2%にすることが重要である。この濃度範囲であれば粒径に誤差は生じない。チャンネルとしては、2.00〜2.52[μm]未満;2.52〜3.17[μm]未満;3.17〜4.00[μm]未満;4.00〜5.04[μm]未満;5.04〜6.35[μm]未満;6.35〜8.00[μm]未満;8.00〜10.08[μm]未満;10.08〜12.70[μm]未満;12.70〜16.00[μm]未満;16.00〜20.20[μm]未満;20.20〜25.40[μm]未満;25.40〜32.00[μm]未満;32.00〜40.30[μm]未満の13チャンネルを使用し、粒径2.00[μm]〜40.30[μm]未満の粒子を対象とした。トナー粒子又はトナーの体積及び個数を測定後、体積分布と個数分布を算出する。得られた分布から、トナーの重量平均粒径(Dw)、個数平均粒径(Dn)を求めることができる。粒度分布の指標としては、トナーの重量平均粒径(Dw)を個数平均粒径(Dn)で除したDw/Dnを用いる。完全に単分散であれば1となり、数値が大きいほど分布が広いことを意味する。
【0138】
<ホットオフセット性>
現像剤を、市販の複写機(イマジオネオ455、リコー社製)に入れ、リコー社製タイプ6000ペーパーを用いて定着温度を低温から高温に変化させながら画像を出力する。そして、画像の光沢度が低下した温度もしくは画像にオフセット画像が見られた場合をオフセット発生温度とした。評価結果を下記の表1に示す。オフセット発生温度が200[℃]以上である場合を○、200℃未満である場合を×として評価した。
【0139】
<フィルミング性>
現像剤を、市販の複写機(イマジオネオ455、リコー社製)に入れ、画像占有率7%の印字率でリコー社製タイプ6000ペーパーを用いて連続ランニングテストを実施した。2万枚、5万枚及び10万枚後の感光体上フィルミング、及びフィルミングに伴う異常画像(ハーフトーン濃度ムラ)の有無を評価した。フィルミングの発生はランニング枚数が多いほど不利である。以下の評価基準で評価した結果を下記の表1に示す。表中の○は10万枚でも発生せず、△は5万枚で発生、×は2万枚で発生をそれぞれ示す。
【0140】
(実施例2)
上記実施例1において、カルナバワックスを合成エステルワックス(WEP−5、日本油脂社製)に替えた以外は、全て上記実施例1と同様にしてトナー及び現像剤を作製した。なお、ワックスの平均粒径は0.31μmであり、トナー組成液を48時間静置しておいてもカーボンブラック及びワックス粒子が凝集沈降することはなかった。実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりは発生せず、非常にシャープな粒度分布であり、ホットオフセット性及びフィルミング性は良好であった。
【0141】
(実施例3)
上記実施例1において、樹脂をスチレンとアクリル酸ブチル共重合体(重量平均分子量51000)に替える。ワックスをパラフィンワックス(HNP−9、日本精蝋社製)に変えた以外は、全て上記実施例1と同様にしてトナー及び現像剤を作製した。なお、ワックスの平均粒径は0.39μmであり、トナー組成液を48時間静置しておいてもカーボンブラック及びワックス粒子が凝集沈降することはなかった。上記実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりは発生せず、非常にシャープな粒度分布であり、ホットオフセット性及びフィルミング性は良好であった。
【0142】
(実施例4)
上記実施例1においてグラフト重合体(W−1)をグラフト重合体(W−2)に替えた以外は、全て上記実施例1と同様にしてトナー及び現像剤を作製した。なお、ワックスの平均粒径は0.32μmであり、トナー組成液を48時間静置しておいてもカーボンブラック及びワックス粒子が凝集沈降することはなかった。上記実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりは発生せず、非常にシャープな粒度分布であり、ホットオフセット性及びフィルミング性は良好であった。
【0143】
(実施例5)
上記実施例1においてグラフト重合体(W−1)をグラフト重合体(W−3)に替えた以外は、全て上記実施例1と同様にしてトナー及び現像剤を得た。なお、ワックスの平均粒径は0.30μmであり、トナー組成液を48時間静置しておいてもカーボンブラック及びワックス粒子が凝集沈降することはなかった。上記実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりは発生せず、非常にシャープな粒度分布であり、ホットオフセット性及びフィルミング性は良好であった。
【0144】
(実施例6)
上記実施例1においてグラフト重合体(W−1)の量がワックス100質量部に対して60質量部であったのを10質量部に替えた以外は、全て上記実施例1と同様にしてトナー及び現像剤を得た。
【0145】
ワックス分散液の調製は以下のようにして行った。撹拌羽と温度計をセットした容器に、カルナバワックス9.09質量部及び酢酸エチル90質量部を仕込み、85℃に加温し20分間撹拌してカルナバワックスを溶解させた後、急冷し、カルナバワックスの微粒子を析出させた。この分散液に、グラフト重合体(W−1)の固形分20質量%酢酸エチル溶液4.55質量部を加え、上記実施例1と同様にワックス分散液を調製した。なお、ワックスの平均粒径は0.41μmであった。
【0146】
トナー組成液の調製は、結着樹脂としてのポリエステル樹脂(重量平均分子量32000)の固形分20質量%酢酸エチル溶液491質量部、上記実施例1で調製したカーボンブラック分散液50質量部、ワックス分散液88質量部及び酢酸エチル551質量部を、攪拌羽を有するミキサーを使用して混合することにより、行った。このトナー組成液を48時間静置しておいてもカーボンブラックが凝集沈降することはなかったが、ワックス粒子は若干凝集沈降が見られた。
【0147】
上記実施例1と同様にトナーを作製したが若干のトナー吐出孔の詰まりを生じ、トナーの重量平均粒径(Dw)は5.1[μm]、でありDw/Dnは1.06とやや粒度分布が広くなった。上記実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。ホットオフセット性は良好であったが、5万枚複写後、僅かなフィルミングが認められた。
【0148】
(実施例7)
上記実施例1においてグラフト重合体(W−1)の量がワックス100質量部に対して60質量部であったのを150質量部に替えた以外は、全て上記実施例1と同様にしてトナー及び現像剤を得た。
【0149】
ワックス分散液の調製は以下のようにして行った。撹拌羽と温度計をセットした容器に、カルナバワックス4.0質量部及び酢酸エチル66.0質量部を仕込み、85[℃]に加温し20分間撹拌しカルナバワックスを溶解させた後、急冷し、カルナバワックスの微粒子を析出させた。この分散液に、グラフト重合体(W−1)の固形分20[質量%]酢酸エチル溶液30.0質量部を加え、上記実施例1と同様にワックス分散液を調製した。なお、ワックスの平均粒径は0.25[μm]であった。
【0150】
トナー組成液の調製は、結着樹脂としてのポリエステル樹脂(重量平均分子量32000)の固形分20[質量%]酢酸エチル溶液435質量部、上記実施例1で調製したカーボンブラック分散液50質量部、ワックス分散液200質量部及び酢酸エチル495質量部を、攪拌羽を有するミキサーを使用して混合することにより、行った。このトナー組成液を48時間静置しておいてもカーボンブラック及びワックス粒子が凝集沈降することはなかった。
【0151】
上記実施例1と同様にトナーを作製したが、トナー吐出孔の詰まりは発生せず、トナーの重量平均粒径(Dw)は4.7[μm]、Dw/Dnは1.01と非常にシャープな粒度分布であった。上記実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりは発生せず、非常にシャープな粒度分布であり、ホットオフセット性及びフィルミング性は良好であった。
【0152】
(比較例1)
上記実施例1においてワックス分散液を添加せず、トナー組成液の調製において、結着樹脂としてのポリエステル樹脂(重量平均分子量32000)の固形分20[質量%]酢酸エチル溶液531質量部、上記実施例1で調製したカーボンブラック分散液53.64質量部及び酢酸エチル595.36質量部に替えた以外は、全て上記実施例1と同様にしてトナー及び現像剤を作製した。上記実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりは発生せず、非常にシャープな粒度分布であり、フィルミング性は良好であったが、ホットオフセット性は不良であった。
【0153】
(比較例2)
上記実施例1においてグラフト重合体(W−1)を添加せずに、カルナバワックス10質量部及び酢酸エチル90質量部にてワックス分散液を作製する。そして、トナー組成液の調製において、結着樹脂としてのポリエステル樹脂(重量平均分子量32000)の固形分20[質量%]酢酸エチル溶液495質量部、上記実施例1で調製したカーボンブラック分散液50質量部、ワックス分散液80質量部及び酢酸エチル555質量部に替えた以外は、全て上記実施例1と同様にしてトナー及び現像剤を得た。なお、このトナー組成液は、静置後8時間でワックス粒子が凝集沈降してしまった。上記実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりが発生し、トナーの粒度分布が広くなり、ホットオフセット性は良好であったが、フィルミング性は良好ではなかった。
【0154】
(比較例3)
上記実施例2においてグラフト重合体(W−1)を添加せずに、合成エステルワックス(WEP−5、日本油脂社製)10質量部及び酢酸エチル90質量部にてワックス分散液を作製する。そして、トナー組成液の調製において、結着樹脂としてのポリエステル樹脂(重量平均分子量32000)の固形分20[質量%]酢酸エチル溶液495質量部、上記実施例1で調製したカーボンブラック分散液50質量部、ワックス分散液80質量部及び酢酸エチル555質量部に替えた以外は、全て上記実施例2と同様にしてトナー及び現像剤を得た。なお、このトナー組成液は、静置後8時間でワックス粒子が凝集沈降してしまった。このトナー及び現像剤を用いて上記実施例1と同様の評価を行った結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりが発生し、トナーの粒度分布が広くなり、ホットオフセット性は良好であったが、フィルミング性は良好でなかった。
【0155】
(比較例4)
上記実施例3においてグラフト重合体(W−1)を添加せずに、パラフィンワックス(HNP−9、日本精蝋社製)10質量部及び酢酸エチル90質量部にてワックス分散液を作製し、トナー組成液の調製において、結着樹脂としてのスチレンとアクリル酸ブチル共重合体(重量平均分子量51000)の固形分20[質量%]酢酸エチル溶液495質量部、上記実施例1で調製したカーボンブラック分散液50質量部、ワックス分散液80質量部及び酢酸エチル555質量部に替えた以外は、全て上記実施例3と同様にしてトナー及び現像剤を得た。なお、このトナー組成液は、静置後8時間でワックス粒子が凝集沈降してしまった。このトナー及び現像剤を用いて上記実施例1と同様の評価を行った。結果を下記の表1に示す。トナー組成液によるトナー吐出孔の詰まりが発生し、トナーの粒度分布が広くなり、ホットオフセット性は良好であったが、フィルミング性は良好ではなかった。
【0156】
【表1】
【0157】
以上説明したように、図2に示すような液滴吐出ヘッドでは液柱共鳴流路内のトナー組成液14に振動発生手段20によって振動を付与して液柱共鳴流路内に液柱共鳴による定在波が形成される。そして、液柱共鳴流路18を構成する部材の一部に定在波の腹となる領域が高い圧力となる。このように液柱共鳴流路18内には液柱共鳴による定在波の圧力分布が形成されている。つまり本実施形態では一方向に圧力を加えていない。これにより、トナー吐出孔19の径を小さくしてもトナー組成液がトナー吐出孔19に詰まることがなくなる。また、トナー吐出孔19からトナー組成液14を連続的に吐出することができることにより、トナーの生産性が高くなる。また、本実施形態におけるトナー組成液14には、ポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とを少なくとも含むグラフト重合体が含有されている。このグラフト重合体はトナーに添加される離型剤との親和性が高いという機能を有している。そのため、トナー組成液に含有されたグラフト重合体に離型剤が結合することにより、現像工程において離型剤が感光体の表面に付着しにくくなる。これにより、感光体フィルミング現象を抑制することができる。
【0158】
また、本実施形態によれば、図2の上記液柱共鳴流路18に形成される定在波の腹となる領域がある。この領域の少なくとも1つに対して複数の上記トナー吐出孔19が形成される。この定在波の腹となる領域は、定在波の圧力変動が上記トナー組成液19を吐出するのに十分な大きさの振幅を有する領域である。よって、この定在波の腹となる領域に上記トナー吐出孔19を設けることで、ほぼ均一なトナー液滴を形成することができ、更には高い圧力変動によるトナー液滴の吐出を行うことができトナー吐出孔19の詰まりも生じ難くなり、生産性の低下を防止できる。
【0159】
更に、本実施形態によれば、上述の実施例6及び上記実施例7の各記載からトナー組成物に含有されたグラフト重合体の添加量が離型剤100重量部に対して10〜150重量部の範囲であるとすることで、離型剤の分散安定性が向上するため感光体フィルミング現象をより一層抑制できる。
【0160】
また、本実施形態によれば、グラフト重合体に含有されたビニル系樹脂が、スチレン、(メタ)アクリル酸アルキルエステル又は(メタ)アクリロニトリルのいずれかを少なくとも含むことで、ワックス等の離型剤の微分散及び凝集抑制の効果が向上し、上記トナー吐出孔19の詰りをより一層防止でき、生産性の低下を防いでいる。
【0161】
更に、本実施形態によれば、図1に示すトナー製造装置1を用いて、少なくとも、樹脂、着色剤、離型剤、ポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とを少なくとも含むグラフト重合体を含有するトナー組成物を溶媒に溶解又は分散させられたトナー組成液からトナーを製造する。その製造されたトナーには、少なくとも離型剤、ポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とを少なくとも含むグラフト重合体が含有されるため、このトナーを用いて現像工程を行ってもトナーに含まれた離型剤が感光体に付着しにくくなり感光体フィルミング現象を抑制できる。
【0162】
また、本実施形態によれば、上記トナーの個数平均粒径に対する上記トナーの重量平均粒径の比である上記トナーの粒度分布が1.00〜1.15の範囲であることとして粒度分布が狭く、トナーの形状のバラツキが小さいトナーを提供でき、生産性を向上できる。更に、このような粒度分布の範囲にするためには上記トナーの重量平均粒径を1〜10[μm]の範囲とすることで、トナーの形状のバラツキが小さくでき生産性の向上が期待できる。
【符号の説明】
【0163】
1;トナー製造装置、10;液滴形成ユニット、11;液滴吐出ヘッド、
12;気流通路、13;原料収容器、14;トナー組成液、15;液循環ポンプ、
16;液供給管、17;液共通供給路、18;液柱共鳴流路、
19;トナー吐出孔、20;振動発生手段、21;トナー液滴、22;液戻り管、
30;乾燥捕集ユニット、31;チャンバ、32;トナー捕集部、
33;下降気流、34;トナー捕集チューブ、35;トナー貯留部。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0164】
【特許文献1】特開2007−199463号公報
【特許文献2】特許第3786034号公報
【特許文献3】特開平7−84401号公報
【特許文献4】特開平5−341577号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの吐出孔から液体を吐出して液滴化する液滴吐出工程と、上記液滴を固化する固化工程と、を有するトナーの製造方法であって、
上記液体は、少なくとも、樹脂、着色剤、離型剤、ポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とを少なくとも含むグラフト重合体を含有するトナー組成物を溶媒に溶解又は分散させた上記トナー組成液であり、
上記液滴吐出工程は、上記吐出孔が形成された液柱共鳴液室内の上記トナー組成液に振動を付与して液柱共鳴による定在波を形成し、該定在波の腹となる領域に形成された上記吐出孔から上記トナー組成液を吐出して液滴化することを特徴とするトナーの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のトナーの製造方法において、
上記定在波の腹となる領域の少なくとも1つに対して、複数の上記トナー吐出孔が形成されていることを特徴とするトナーの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のトナーの製造方法において、
上記グラフト重合体の添加量が、上記離型剤100重量部に対して、10〜150重量部の範囲であることを特徴とするトナーの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のトナーの製造方法において、
上記ビニル系樹脂は、スチレン、(メタ)アクリル酸アルキルエステル又は(メタ)アクリロニトリルのいずれかを少なくとも含むことを特徴とするトナーの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のトナーの製造方法によって製造されたことを特徴とするトナー。
【請求項6】
請求項5記載のトナーにおいて、
上記トナーの個数平均粒径に対する上記トナーの重量平均粒径の比である上記トナーの粒度分布が1.00〜1.15の範囲であることを特徴とするトナー。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のトナーにおいて、
上記トナーの重量平均粒径が1〜10[μm]の範囲であることを特徴とするトナー。
【請求項1】
少なくとも1つの吐出孔から液体を吐出して液滴化する液滴吐出工程と、上記液滴を固化する固化工程と、を有するトナーの製造方法であって、
上記液体は、少なくとも、樹脂、着色剤、離型剤、ポリオレフィン樹脂とビニル系樹脂とを少なくとも含むグラフト重合体を含有するトナー組成物を溶媒に溶解又は分散させた上記トナー組成液であり、
上記液滴吐出工程は、上記吐出孔が形成された液柱共鳴液室内の上記トナー組成液に振動を付与して液柱共鳴による定在波を形成し、該定在波の腹となる領域に形成された上記吐出孔から上記トナー組成液を吐出して液滴化することを特徴とするトナーの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のトナーの製造方法において、
上記定在波の腹となる領域の少なくとも1つに対して、複数の上記トナー吐出孔が形成されていることを特徴とするトナーの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のトナーの製造方法において、
上記グラフト重合体の添加量が、上記離型剤100重量部に対して、10〜150重量部の範囲であることを特徴とするトナーの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のトナーの製造方法において、
上記ビニル系樹脂は、スチレン、(メタ)アクリル酸アルキルエステル又は(メタ)アクリロニトリルのいずれかを少なくとも含むことを特徴とするトナーの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のトナーの製造方法によって製造されたことを特徴とするトナー。
【請求項6】
請求項5記載のトナーにおいて、
上記トナーの個数平均粒径に対する上記トナーの重量平均粒径の比である上記トナーの粒度分布が1.00〜1.15の範囲であることを特徴とするトナー。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のトナーにおいて、
上記トナーの重量平均粒径が1〜10[μm]の範囲であることを特徴とするトナー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図7】
【公開番号】特開2012−2940(P2012−2940A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136411(P2010−136411)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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