説明

トナーの製造方法

【課題】短時間で効率良く、ポリエステル樹脂とラジカル重合性単量体とのハイブリッド化が進み、高温で十分な弾性率が確保され、オフセットや光沢過多の問題を解消し、折り目部分のトナー剥離すなわち定着強度不足のないトナーを得ることができるトナーの製造方法を提供する。
【解決手段】多価アルコール及び不飽和多価カルボン酸が縮合してなるポリエステル樹脂を水系媒体中に分散し、ポリエステル樹脂粒子分散液を調整する工程と、ビニル重合性単量体及びラジカル重合開始剤を前記ポリエステル樹脂粒子分散液に添加した後、ラジカル重合反応させ、ポリエステル樹脂にビニル重合性単量体が反応した樹脂からなる樹脂粒子の分散液を調整する工程と、少なくとも前記ポリエステル樹脂にビニル重合性単量体が反応した樹脂からなる樹脂粒子と、着色剤粒子の分散液とを混合し、前記樹脂粒子及び着色剤粒子を凝集してトナー粒子を形成する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を採用するプリンタ等においては省エネルギー化が課題として挙げられ、低温で定着が可能ないわゆる低温定着性を備えたトナーのニーズが高まっている。
従来、低温定着を可能とするためには、よりシャープメルト性の高い結着樹脂をトナーに用いることが、効果的な方法の1つとして知られている。ポリエステル樹脂はそのような特性を持つ結着樹脂として優れている。
ポリエステル樹脂をトナー用結着樹脂として用いる場合、架橋剤により架橋を進め高温での弾性率を付与するのが一般的である。それにより定着でのホットオフセットを防止し、過度な光沢が出ないよう制御している。
【0003】
ポリエステル樹脂の架橋剤としては、3価以上の多価カルボン酸を用いることが一般的である(例えば、特許文献1参照)。その他には、ヘキサメチレンテトラミン又は多価金属化合物を用いる場合が開示されているが(例えば、特許文献2参照)、いずれも架橋点の親水性が強く、帯電の湿度依存性が過大である問題があった。
【0004】
一方、フマル酸ユニットなど二重結合を有するポリエステル樹脂にスチレンなどラジカル重合性単量体とラジカル重合開始剤を添加し、ポリエステル樹脂とスチレン系樹脂の一部を反応させ、架橋された樹脂に近い熱特性を目指したハイブリッド樹脂の技術が開示されている。
例えば、特許文献3では、反応釜の中で、フマル酸を含むポリエステル用モノマーを135℃まで加温、攪拌しつつ、滴下ロートよりビニル系樹脂の単量体及び重合開始剤を1時間かけて滴下し、この間にラジカル重合反応を進行させ、その後、230℃でポリエステル縮合反応を完結させている。
また、特許文献4では、ポリエステルモノマーを210℃まで加熱しながら縮重合反応を行うことにより、低架橋度ポリエステル樹脂を製造し、引き続き、キシレン、ポリエステル樹脂、スチレン系モノマーを添加した後、ラジカル重合開始剤であるt−ブチルハイドロパーオキサイドを滴下する。その温度でさらに10時間保持してラジカル重合反応を完結し、ハイブリッド樹脂を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−289401号公報
【特許文献2】特開平5−027478号公報
【特許文献3】特開平7−120976号公報
【特許文献4】特開2000−56511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のように、ポリエステル樹脂中の二重結合とスチレンなどのラジカル重合性単量体が反応することは、効率が低く、実用上、目的とする弾性率特性を得るには、従来のポリエステル架橋剤を併用する必要があり、問題を残していた。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、短時間で効率良く、ポリエステル樹脂とラジカル重合性単量体とのハイブリッド化が進み、従来のポリエステル用架橋剤を用いなくても、高温で十分な弾性率が確保され、オフセットや光沢過多の問題を解消し、しかも折り目部分のトナー剥離すなわち定着強度不足のないトナーを得ることができるトナーの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明によれば、多価アルコール及び不飽和多価カルボン酸が縮合してなるポリエステル樹脂を水系媒体中に分散し、ポリエステル樹脂粒子分散液を調整する工程と、
ビニル重合性単量体及びラジカル重合開始剤を前記ポリエステル樹脂粒子分散液に添加した後、ラジカル重合反応させ、ポリエステル樹脂にビニル重合性単量体が反応した樹脂からなる樹脂粒子の分散液を調整する工程と、
少なくとも前記ポリエステル樹脂にビニル重合性単量体が反応した樹脂からなる樹脂粒子と、着色剤粒子の分散液とを混合し、前記樹脂粒子及び着色剤粒子を凝集してトナー粒子を形成する工程と、を含むことを特徴とするトナーの製造方法が提供される。
【0008】
請求項2の発明によれば、前記ビニル重合性単量体が、(メタ)アクリル酸を含むことを特徴とする請求項1に記載のトナーの製造方法が提供される。
請求項3の発明によれば、前記不飽和多価カルボン酸がフマル酸であることを特徴とする請求項1に記載のトナーの製造方法が提供される。
請求項4の発明によれば、前記不飽和多価カルボン酸がイタコン酸であることを特徴とする請求項1に記載のトナーの製造方法が提供される。
請求項5の発明によれば、前記ラジカル重合開始剤が、水溶性ラジカル重合開始剤であることを特徴とする請求項1に記載のトナーの製造方法が提供される。
請求項6の発明によれば、前記水溶性ラジカル重合開始剤が、過硫酸カリウムであることを特徴とする請求項5に記載のトナーの製造方法が提供される。
請求項7の発明によれば、前記ポリエステル樹脂にビニル重合性単量体が反応した樹脂からなる樹脂粒子の体積基準のメディアン径が、50〜300nmであることを特徴とする請求項1に記載のトナーの製造方法が提供される。
請求項8の発明によれば、前記着色剤粒子の体積基準のメディアン径が10〜300nmであることを特徴とする請求項2に記載のトナーの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、短時間で効率よくハイブリッド化が進む。従来のポリエステル用架橋剤を用いなくても、高温で十分な弾性率が確保され、オフセットや光沢過多の問題を解消し、しかも折り目部分のトナー剥離すなわち定着強度不足のないトナーを得ることができる。
ここで、メカニズムは以下のように推察している。
本発明では、ポリエステル樹脂を水系媒体中に分散し、前記ポリエステル樹脂粒子分散液を調整する工程を設ける。このとき、ポリエステル樹脂の(比)表面積が拡大する。
ビニル重合性単量体及びラジカル重合開始剤を前記ポリエステル樹脂粒子分散液に添加したときには、ビニル重合性単量体及びラジカル重合開始剤は、水系媒体中を比較的自由に移動できるため、ポリエステル樹脂粒子の表面をラジカルがアタックする頻度(確率)が高まる。従来技術では、反応釜の中で粘度の高いポリエステル樹脂やポリエステルモノマー中でのラジカルがアタックする頻度・確率は、攪拌機構の観点から制限され、本願ほど効率良いハイブリッド化ができなかった。
さらに、ハイブリッド化の効率が高まったため、ポリエステル樹脂自体に水和を促進する架橋剤を添加する必要がなくなったため、帯電の湿度依存性が縮小し、湿度による現像・転写特性の変動が改善され、画像・画質が安定する。
また、ハイブリッド化の効率が高まったことは、樹脂の分子鎖分岐点密度が高まり、分子鎖の絡みあいが促進され、トナー画像が折り目にあっても破断すること無く、高い定着強度を示すと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るトナーの製造方法について説明する。
本発明のトナーの製造方法は、多価アルコール及び不飽和多価カルボン酸が縮合してなるポリエステル樹脂を水系媒体中に分散し、ポリエステル樹脂粒子分散液を調整する工程と、ビニル重合性単量体及びラジカル重合開始剤を前記ポリエステル樹脂粒子分散液に添加した後、ラジカル重合反応させ、ポリエステル樹脂にビニル重合性単量体が反応した樹脂からなる樹脂粒子の分散液を調整する工程と、少なくとも前記ポリエステル樹脂にビニル重合性単量体が反応した樹脂からなる樹脂粒子と、着色剤粒子の分散液とを混合し、前記樹脂粒子及び着色剤粒子を凝集してトナー粒子を形成する工程と、を含む。
【0011】
トナーの製造には、結着樹脂、着色剤の他、必要に応じて離型剤、外添剤等が用いられる。
〈結着樹脂〉
結着樹脂としてはビニル重合性単量体が反応したポリエステル樹脂が用いられる。本願の製造方法に用いるポリエステル樹脂は、公知の2価以上のアルコール成分と、公知の2価以上の不飽和カルボン酸成分による重合反応によって得られるポリエステル樹脂のうち、非結晶性を有するものである。
【0012】
アルコール成分としては、例えば1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール等の脂肪族ジオール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオールの他、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール等の3価以上の多価アルコール等が挙げられる。これらのアルコール成分は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
不飽和多価カルボン酸成分としては、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸がハイブリッド化を得心するために好ましく用いられる。
併用して良い多価カルボン酸成分としては、カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸エステル等が用いられ、好ましくは、カルボン酸成分として、ベンゼンジカルボン酸、飽和カルボン酸が用いられる。例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n−ドデシルコハク酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、コーヒー酸などの不飽和ヒドロキシカルボン酸モノマーをポリエステル用モノマーとしてハイブリッド化を促進してもよい。
【0014】
ポリエステル樹脂は、例えば上記アルコール成分と上記不飽和多価カルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中にて、120〜250℃の温度で縮重合することにより製造することができる。縮重合の際、必要に応じて公知のエステル化触媒を用いてもよい。
【0015】
本発明においては、上記不飽和ポリエステル樹脂とラジカル重合性モノマーとをラジカル重合反応させる。
〈重合性モノマー〉
重合性モノマーとしては、例えばスチレン、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸イソブチル、メタアクリル酸t−ブチル、メタアクリル酸n−オクチル、メタアクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸ステアリル、メタアクリル酸ラウリル、メタアクリル酸フェニル、メタアクリル酸ジエチルアミノエチル、メタアクリル酸ジメチルアミノエチル等のメタアクリル酸エステル誘導体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸エステル誘導体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン類;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリルアミド等のアクリル酸又はメタアクリル酸誘導体等のビニル系モノマーが挙げられる。これらのビニル系モノマーは、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
上記のうち、重合性モノマーとしては、スチレン、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メタアクリル酸メチル、メタクリル酸、アクリル酸が好ましく用いられる。スチレン、およびブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートは、疎水性モノマーであり、これらの組み合わせにより帯電性、トナーのガラス転移点を調整しやすい利点がある。また、メタクリル酸、アクリル酸は、親水性モノマーとして、ポリエステル樹脂とを含む樹脂粒子の分散液の分散安定性を向上させ、前記樹脂粒子の凝集径(凝集粒子の大きさ)を制御しやすいという利点がある。
【0017】
アクリル酸又はメタクリル酸を含有する重合性モノマーは、カルボキシル基のような電荷を帯びた解離性の官能基を持つ。ポリエステル樹脂を、このような重合性モノマーとラジカル重合させることにより、ポリエステル樹脂粒子の表面に上記解離性の官能基が配向し、ポリエステル樹脂粒子間で反発電荷が生じて、粒子の分散安定性が向上するものと考えられる。分散安定性の向上により、ポリエステル樹脂粒子の凝集速度が緩やかとなり、凝集粒子の粒子径や形状を制御しやすくなる。その結果、低温定着化のためにポリエステル樹脂を用いた場合も、トナーの粒度分布をシャープとし、形状を球状に整形することができ、転写抜けを防止することができる。
【0018】
〈着色剤〉
着色剤としては、カーボンブラック、磁性体、染料、顔料等の公知の着色剤を任意に用いることができる。
黒の着色剤としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックの他、マグネタイト、フェライト等の磁性粉を用いることができる。
カラーの着色剤としては、C.I.ピグメントレッド5、同48:1、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同166、同177
、同178、同222、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同180、同185、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントブルー15;3、同60、同76等の顔料が挙げられる。また、C.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同68、同11、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82,同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同69、同70、同93、同95等の染料を挙げることができる。また、これらを混合してもよい。酸金属塩又はベンジル酸金属錯体等が挙げられる。
【0019】
外添剤としては、公知の疎水性シリカ、疎水性金属酸化物の他に、酸化セリウム粒子、チタン酸塩粒子、或いは炭素数20〜50の脂肪酸または、高級アルコール粒子を添加し併用することが耐フィルミング性の観点から好ましい。酸化セリウム粒子またはチタン酸塩粒子を添加する場合、耐フィルミング性を高める観点から個数平均粒径が150〜800nmのものを用いることが好ましい。
【0020】
〈トナーの製造方法〉
以下、本発明の製造方法について、具体例を挙げる。
(1)多価アルコール及び不飽和多価カルボン酸が縮合してなるポリエステル樹脂を分散し、ポリエステル樹脂粒子分散液を調整する工程
ポリエステル樹脂を酢酸エチル等の溶剤に溶解し、水系媒体中に分散機を用いて乳化分散させた後、脱溶剤処理をしてもよい。若しくは、溶剤を用いずに120℃以上の温度下で分散させてもよい。もしくは、特開2006-337995公報に開示されているように、ドデシ
ルベンゼンスルフォン酸などの強酸とともに水系媒体中で多価アルコールおよび不飽和多価カルボン酸の液滴を形成したのち、縮合させてなるポリエステル樹脂分散液を作製してもよい。
【0021】
(2)ビニル重合性単量体及びラジカル重合開始剤を前記ポリエステル樹脂粒子分散液に添加したのちラジカル重合し、ポリエステル樹脂にビニル重合性単量体が反応した樹脂からなる樹脂粒子の分散液を調整する工程
上記(1)のポリエステル樹脂粒子の分散液に、ラジカル重合性モノマー、重合開始剤を添加し、ポリエステル樹脂にビニル重合性単量体が反応した樹脂からなる樹脂粒子の分散液を調製する。このとき、重合体の分子量を調整するため、連鎖移動剤を添加してもよい。重合性モノマーは、ポリエステル樹脂に対し、質量比で5〜95%添加することが好ましく、特に好ましくは10〜50%添加することが好ましい。また、この工程において調整される分散液中の樹脂粒子は、その体積基準のメディアン径が50〜300nmであることが好ましい。
【0022】
重合開始剤としては、水溶性の重合開始剤であれば適宜用いることができる。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩などの水溶性ラジカル重合開始剤が本発明の効果を得るために好ましく用いられる。
連鎖移動剤としては、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。例えば、2−クロロエタノール、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン又はスチレンダイマー等が挙げられる。
【0023】
(3)着色剤を水系媒体中に分散させて得られた着色剤粒子の分散液を得る工程
機械的エネルギーによって油滴分散を行うが、その分散機としては特に限定されるものではなく、高速回転するローターを備えた攪拌装置クレアミックス(エムテクニック社製)、超音波分散機、機械式ホモジナイザー、キャビトロン、マントンゴーリン、圧力式ホモジナイザー等を用いることができる。
【0024】
この工程において調整される分散液中の着色剤粒子は、その体積基準のメディアン径が10〜300nmであることが好ましく、より好ましくは100〜200nm、さらに好ましくは100〜150nmである。例えば、上述の機械的エネルギーの大きさを調整することにより、体積基準のメディアン径を上記範囲内に制御することができる。
【0025】
(4)前記ポリエステル樹脂にビニル重合性単量体が反応した樹脂からなる樹脂粒子の分散液と着色剤粒子の分散液とを混合した水系媒体中に、凝集剤を添加し、温度調整することにより、樹脂粒子と着色剤粒子の凝集、融着を行いトナー粒子を形成する工程
凝集剤としては、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられる。これら塩類のアルカリ金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウム等が挙げられる。また、これら塩類のアルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。このうち、特に好ましいのはカリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムである。前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属の対イオン(塩を構成する陰イオン)としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、炭酸イオン、硫酸イオン等が挙げられる。
【0026】
離型剤を添加する場合、この工程において上記水系媒体中に離型剤粒子の分散液(ワックスエマルジョン)を添加し、樹脂粒子、着色剤粒子及び離型剤粒子を塩析、凝集させればよい。或いは、上記(2)の工程において離型剤粒子の分散液を添加し、樹脂粒子と離型剤粒子の分散液を調製しておき、(4)の工程において凝集させてもよい。
【0027】
(5)水系媒体からトナー粒子を濾別し、洗浄処理によって当該トナー粒子から界面活性剤等の不要物を除去する工程
(6)洗浄処理されたトナー粒子を乾燥処理する工程
(7)乾燥処理されたトナー粒子に外添剤を添加する工程
【実施例】
【0028】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
1.非結晶性ポリエステル樹脂(A−1)〜(A−5)の作製
<非結晶性ポリエステル樹脂(A−1)の作製>
(多価カルボン酸単量体)
フマル酸:2.1質量部
テレフタル酸:36質量部
イソフタル酸:5.2質量部
5-スルホイソフタル酸:0.66質量部
(多価アルコール単量体)
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンプロピレンオキサイド2モル付加物
:76質量部
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンエチレンオキサイド2モル付加物 :24質量部
攪拌装置、窒素導入管、温度センサー、精留塔を備えた反応容器に、上記多価カルボン酸単量体及び多価アルコール成分を仕込み、1時間を要して190℃まで上げ、反応系内が均一に攪拌されていることを確認した後、触媒Ti(OBu)4(多価カルボン酸単量
体全量に対し、0.003質量%)を投入した。
更に、生成する水を留去しながら同温度から6時間を要して240℃まで温度を上げ、240℃でさらに6時間脱水縮合反応を継続し重合を行い、非結晶性ポリエステル樹脂(A−1)を得た。得られた非結晶性ポリエステル樹脂(A−1)の樹脂の分子量をGPCにて測定したところ、数平均分子量3100(東ソー社製 HLC−8 120GPC、スチレン標準物質で換算)であった。また、示差走査熱量計(パーキンエルマー製 Diamond DSC:昇温速度10℃/min)にて得られた樹脂の熱特性を測定した結果、Tgは63℃であった。
【0030】
<非結晶性ポリエステル樹脂(A−2)の作製>
多価カルボン酸単量体分を下記に変更したこと以外、前記非結晶性ポリエステル樹脂(A−1)の作製と同様にして、非結晶性ポリエステル樹脂(A−2)を作製した。数平均分子量2900、Tgは66℃であった。
(多価カルボン酸単量体)
イタコン酸:2.4質量部
テレフタル酸:36質量部
イソフタル酸:5.2質量部
5-スルホイソフタル酸:0.66質量部
【0031】
<非結晶性ポリエステル樹脂(A−3)の作製>
多価カルボン酸単量体分を下記に変更したこと以外、前記非結晶性ポリエステル樹脂(A−1)の作製と同様にして、非結晶性ポリエステル樹脂(A−3)を作製した。数平均分子量3200、Tgは65℃であった。
(多価カルボン酸単量体)
テレフタル酸:37質量部
イソフタル酸:6質量部
5-スルホイソフタル酸:0.64質量部
【0032】
<非結晶性ポリエステル樹脂(A−4)の作製>
多価カルボン酸単量体分を下記に変更したこと以外、前記非結晶性ポリエステル樹脂(A−1)の作製と同様にして、非結晶性ポリエステル樹脂(A−4)を作製した。数平均分子量3500、Tgは61℃であった。
(多価カルボン酸単量体)
マレイン酸:9.8質量部
テレフタル酸:36質量部
【0033】
<非結晶性ポリエステル樹脂(A−5)の作製>
多価カルボン酸単量体分を下記に変更したこと以外、前記非結晶性ポリエステル樹脂(A−1)の作製と同様にして、非結晶性ポリエステル樹脂(A−5)を作製した。数平均分子量4400、Tgは58℃であった。
(多価カルボン酸単量体)
フマル酸:1.0質量部(もしくは5.8質量部)
テレフタル酸:36質量部
イソフタル酸:5.2質量部
5−スルホイソフタル酸:0.66質量部
【0034】
2.非結晶性ポリエステル樹脂(A−1)〜(A−5)の分散液の調製
<非結晶性ポリエステル樹脂(A−1)分散液の調製>
得られた非結晶性ポリエステル樹脂(A−1)を溶融状態のまま、キャビトロンCD1010(株式会社ユーロテック製)に毎分100質量部の速度で移送した。別途準備した水性媒体タンクには試薬アンモニア水をイオン交換水で希釈した0.37質量%濃度の希アンモニア水を入れ、熱交換器で160℃に加熱しながら毎分0.1リットルの速度で、上記溶融状態の非結晶性ポリエステル樹脂(A−1)と同時にキャビトロンCD1010(株式会社ユーロテック製)に移送した。キャビトロンCD1010を回転子の回転速度が60Hz,圧力が5kg/cm2の条件で運転し、体積基準のメディアン径が223n
m、固形分量が30質量部の非結晶性ポリエステル樹脂(A−1)分散液を得た。
【0035】
<非結晶性ポリエステル樹脂(A−2)分散液の調製>
非結晶性ポリエステル樹脂(A−2)も<結晶性ポリエステル樹脂(A−1)分散液の調製>と同様の方法で非結晶性ポリエステル樹脂(A−2)分散液を得た。体積基準のメディアン径が237nmであった。
【0036】
<非結晶性ポリエステル樹脂(A−3)分散液の調製>
非結晶性ポリエステル樹脂(A−3)も<結晶性ポリエステル樹脂(A−1)分散液の調製>と同様の方法で非結晶性ポリエステル樹脂(A−3)分散液を得た。体積基準のメディアン径が230nmであった。
【0037】
<非結晶性ポリエステル樹脂(A−4)分散液の調製>
非結晶性ポリエステル樹脂(A−4)も<結晶性ポリエステル樹脂(A−1)分散液の調製>と同様の方法で非結晶性ポリエステル樹脂(A−4)分散液を得た。体積基準のメディアン径が210nmであった。
【0038】
<非結晶性ポリエステル樹脂(A−5)分散液の調製>
非結晶性ポリエステル樹脂(A−5)も<結晶性ポリエステル樹脂(A−1)分散液の調製>と同様の方法で非結晶性ポリエステル樹脂(A−5)分散液を得た。体積基準のメディアン径が200nmであった。
【0039】
3.離型剤分散液の調整
<離型剤分散液1の調製>
・クエン酸トリベヘネートワックス(融点83.2℃):60部
・イオン性界面活性剤(ネオゲン RK、第一工業製薬):5部
・イオン交換水:240部
以上の成分を混合した溶液を95℃に加熱して、IKA製ウルトラタラックスT50にて十分に分散後、圧力吐出型ゴーリンホモジナイザーで分散処理し、体積平均径240nm、固形分量20質量%の離型剤分散液1を得た。
【0040】
4.樹脂粒子分散液1〜5の調製
<樹脂粒子分散液1の調製>
上記で得られた「非結晶性ポリエステル樹脂(A−1)分散液」 1450重量部と「離型剤分散液1」 650重量部とイオン交換水1250重量部に、過硫酸カリウム10.3質量部をイオン交換水210質量部に溶解させた重合開始剤溶液を添加し、80℃の温度条件下で、下記化合物からなる単量体混合液を2時間かけて滴下した。
スチレン 300.2質量部
n−ブチルアクリレート 113.1質量部
メタクリル酸 21.8重量部
n−オクチルメルカプタン 8.2質量部
滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌を行って重合を行い、重合終了後、28℃に冷却して「樹脂粒子分散液1」を作製した。「樹脂粒子分散液1」の重量平均分子量は19500であった。
【0041】
<樹脂粒子分散液2〜3の調製>
樹脂粒子分散液1の調製において「非結晶性ポリエステル樹脂(A−1)分散液」を「非結晶性ポリエステル樹脂(A−2)分散液」、「非結晶性ポリエステル樹脂(A−3)分散液」に変更したこと以外、前記樹脂粒子分散液1の作製と同様にして、樹脂粒子分散液2〜3を作製した。分子量はそれぞれ19000、19200であった。
【0042】
<樹脂粒子分散液4〜5の調製>
樹脂粒子分散液1の調製において「結晶性ポリエステル樹脂(A−1)分散液」を「非結晶性ポリエステル樹脂(A−4)分散液」、「非結晶性ポリエステル樹脂(A−5)分散液」に変更したこと以外、前記樹脂粒子分散液1の作製と同様にして、樹脂粒子分散液4〜5を作製した。分子量はそれぞれ16400、17600であった。
【0043】
5.着色剤微粒子分散液の作製
<着色剤微粒子分散液1の作製>
n−ドデシル硫酸ナトリウム11.5質量部をイオン交換水160質量部に撹拌、溶解し、C.I.Pigment Blue 15:3;25質量部を徐々に添加し、次いで、「クリアミックスWモーションCLM−0.8」(エムテクニック杜製)を用いて分散して体積基準のメディアン径が158nmである着色剤微粒子1を含有する着色剤微粒子分散液1を得た。
なお、体積基準のメディアン径は「MICROTRAC UPA 150」(HONEYWELL社製)により下記の測定条件で測定したものである。
[測定条件]
・サンプル屈折率:1.59
・サンプル比重:1.05(球状粒子換算)
・溶媒屈折率:1.33
・溶媒粘度:30℃にて0.797、20℃にて1.002
・測定セルにイオン交換水を入れ、ゼロ点調整を行った。
【0044】
6.トナー1〜トナー5の製造
<トナー1の製造>
樹脂として「樹脂粒子分散液1」400質量部(固形分換算)、イオン交換水1500質量部、「着色剤粒子分散液1」165質量部を、温度計、冷却管、窒素導入装置、及び、撹拌装置を設けたセパラブルフラスコに投入した。さらに、系内の温度を30℃に保った状態で水酸化ナトリウム水溶液(25質量%)を添加してpHを10に調整した。
次に、塩化マグネシウム・6水和物54.3質量部をイオン交換水54.3質量部に溶解させた水溶液を添加し、その後、系内の温度を60℃に昇温させて、樹脂粒子と着色剤粒子の凝集反応を開始した。
凝集反応開始後、定期的にサンプリングを行って、粒度分布測定装置「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)を用いて、粒子の体積基準におけるメディアン径(D50)が5.8μmになったときに、塩化マグネシウム・6水和物2質量部をイオン交換水2質量部に溶解した水溶液を10分間かけて添加した。粒子の体積基準におけるメディアン径(D50)が6μmになるまで、攪拌を継続した。
さらに、温度を60℃に保ち1時間攪拌を継続し、イミノカルボン酸化合物(9−2)を
20.1質量部添加した。
フロー式粒子像分析装置「FPIA-2100」(シスメックス社製)を用いてトナー粒子の円
形度を測定したところ、この時点でのトナー粒子の円形度が0.951であった。温度を65℃として4時間攪拌を継続し、トナー粒子の円形度が0.976に達したところで6℃/分の条件で30℃まで冷却し、反応を完結させた。
次いで、生成したトナー粒子分散液をバスケット型遠心分離機「MARK III型」(型式番号60×40)(松本機械製作社製)で固液分離して、トナーのウェットケーキを形成した。以後、ろ液の電気伝導度の値が15μS/cm以下になるまでトナーの洗浄と固液分離を繰り返した。
次いで、ウェットケーキを気流式乾燥機「フラッシュジェットドライヤー」(セイシン企業社製)に移し、水分量が0.5質量%になるまで乾燥処理した。なお、乾燥処理は40℃、20%RHの気流を吹き付けて行った。乾燥したトナーを24℃に法冷し、トナー100質量部に対し、疎水性シリカ1.0質量部をヘンシェルミキサーで混合した。回転翼の周速24m/sとし、20分間混合した後、400MESHの篩を通過させた。
得られたトナーを「トナー1」とする。
【0045】
<トナー2〜トナー5の製造>
下記表1に示すように、トナー1の製造において「樹脂粒子分散液1」を「樹脂粒子分散液2〜5」に変更した以外、前記トナー1の製造と同様にして、トナー2〜トナー5を作製した。
【表1】

【0046】
7.現像剤の調製
作製されたトナー1〜5のそれぞれに、シリコーン樹脂を被覆した体積平均粒径が60nmのフェライトキャリアを混合し、各トナーの現像剤を調製した。各現像剤におけるトナーの濃度が6質量%となるように混合した。
【0047】
8.評価実験
各トナー1〜トナー5の現像剤を、市販の複合機コニカミノルタビジネステクノロジーズ社製)に搭載した。そして、下記の各項目について評価試験を行い、その結果を下記の表2に示した。
<折り目定着性>
折り目定着性(強度)は、加熱ローラ表面温度を170℃にした時の用紙上の折り目におけるトナー画像の定着率を評価した。具体的には、トナーの定着画像を内面に向けて折り曲げた時、折り曲げ部分におけるトナー剥がれの程度を定着率として評価した。
測定方法は、べた画像部(画像濃度が0.8)を画像面を内側にして折り、3回指で擦った後、画像を開いて「JKワイパー(株式会社クレシア製)」で3回ふき取り、べた画像の折り目個所の折り曲げ前後の画像濃度から下記式により算出した値である。
定着率(%)=(折り曲げ後画像濃度)/(折り曲げ前画像濃度)×100
得られた定着率から、下記の様に折り目定着強度を評価し、80%以上を合格とした。
評価基準
優良:各温度で折り目の定着率が90〜100%となった。
良好:各温度で折り目の定着率が80〜90%未満となった。
不合格:折り目の定着率が80%未満となるものがあった。
【0048】
<湿度による帯電量差>
キャリア19gとトナー1gを20mlガラス製容器に入れ、毎分200回、振り角度45度、アーム50cmで20分間、下記の二つの環境(低温低湿環境、高温高湿環境)で振った後、ブローオフ法で帯電量を測定した。
低温低湿環境:10℃、10%RH雰囲気に設定
高温高湿環境:30℃、85%RH雰囲気に設定
低温低湿環境での帯電量と高温高湿環境での帯電量の差により、下記のようにランク評価した。
優良:2μC/g未満(優良)
良好:2μC/g〜8μC/g未満(良好)
実用可:8μC/g〜12μC/g未満(実用可)
不合格:12μC/g以上(実用不可)
【0049】
<湿度に対する画像の安定性>
L/L環境(10℃、15%RH)およびH/H環境(30℃、85%RH)においてC/W比20%の画像で100000枚の連続ランニングを行った後、画像白地部と感光体上のカブリを目視観察した。転写紙は明度92、厚さ80g/m2光沢紙を用いた。
良好◎:画像濃度低下およびカブリはいずれも発生していなかった
実用可○:画像濃度低下および/またはカブリは20倍のルーペで若干確認されるが、実用上問題のないレベルであった。
不合格×:画像濃度低下およびカブリが発生し、実用上問題があった。
【0050】
<ホットオフセット発生温度>
定着ローラ温度を5℃刻みに変化可能に評価機を改造し、ホットオフセット発生温度を調べた。厚さ80g/m2光沢紙を用い210℃でホットオフセットが発生しなければ合格とする。
【表2】

【0051】
以上の結果より、本発明例では、比較例に比べて、折り目定着性、湿度による帯電量差、湿度に対する画像の安定性及びホットオフセット発生温度の点で、いずれも優れていることが認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコール及び不飽和多価カルボン酸が縮合してなるポリエステル樹脂を水系媒体中に分散し、ポリエステル樹脂粒子分散液を調整する工程と、
ビニル重合性単量体及びラジカル重合開始剤を前記ポリエステル樹脂粒子分散液に添加した後、ラジカル重合反応させ、ポリエステル樹脂にビニル重合性単量体が反応した樹脂からなる樹脂粒子の分散液を調整する工程と、
少なくとも前記ポリエステル樹脂にビニル重合性単量体が反応した樹脂からなる樹脂粒子と、着色剤粒子の分散液とを混合し、前記樹脂粒子及び着色剤粒子を凝集してトナー粒子を形成する工程と、
を含むことを特徴とするトナーの製造方法。
【請求項2】
前記ビニル重合性単量体が、(メタ)アクリル酸を含むことを特徴とする請求項1に記載のトナーの製造方法。
【請求項3】
前記不飽和多価カルボン酸がフマル酸であることを特徴とする請求項1に記載のトナーの製造方法。
【請求項4】
前記不飽和多価カルボン酸がイタコン酸であることを特徴とする請求項1に記載のトナーの製造方法。
【請求項5】
前記ラジカル重合開始剤が、水溶性ラジカル重合開始剤であることを特徴とする請求項1に記載のトナーの製造方法。
【請求項6】
前記水溶性ラジカル重合開始剤が、過硫酸カリウムであることを特徴とする請求項5に記載のトナーの製造方法。
【請求項7】
前記ポリエステル樹脂にビニル重合性単量体が反応した樹脂からなる樹脂粒子の体積基準のメディアン径が、50〜300nmであることを特徴とする請求項1に記載のトナーの製造方法。
【請求項8】
前記着色剤粒子の体積基準のメディアン径が10〜300nmであることを特徴とする請求項2に記載のトナーの製造方法。