説明

トナー用低温定着性及び耐ブロッキング性改善剤

【課題】
トナーの低温定着性、耐ブロッキング性、印字耐久性を改善すること、及び低温定着性、耐ブロッキング性、印字耐久性を改善するポリグリセリン脂肪酸エステルを含有するバインダー樹脂、及びバインダー樹脂を含有し、低温定着性、耐ホットオフセット性、耐ブロッキング性、印字耐久性に優れたトナーを提供することを目的とする。
【解決手段】
トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が50重量%以上であり、且つトリグリセリン、及びテトラグリセリンの各々の濃度が10重量%〜70重量%の範囲であるポリグリセリンと、炭素数が16〜22の飽和脂肪酸とから構成されるポリグリセリン脂肪酸エステルをトナーに配合することにより、トナーの低温定着性、耐ホットオフセット性、耐ブロッキング性、印字耐久性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真などにおいて、静電荷像の現像に使用するトナーの低温定着性、耐ホットオフセット性、耐ブロッキング性、及び印字耐久性を改善するポリグリセリン脂肪酸エステル及びこれを含有するトナー用バインダー樹脂、及びトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による普通紙のコピー機、レーザープリンターなどの現像剤として、トナーが用いられている。トナーの製造方法には、機械的粉砕法、重合法、粉霧乾燥法などがあり、それぞれ特徴を持っている。しかし、安全性、品質の安定性、生産効率の面で、全体の8割から9割のトナーは機械的粉砕法で生産されている。機械的粉砕法とは、バインダー樹脂中に結着樹脂や着色剤などの各成分を溶融混練させ、粉砕、分級してトナーを製造する方法であるが、粉砕法で製造されたトナーは、最終的に機械的な力で微粒子化されるため、トナー粒子の粒径が不均一となる。粒径が不均一であると、トナーの流動性や摩擦帯電性が悪化するため、良好な繊細画像は得られにくい欠点を持つ。一方、重合法は粒子の均一性を向上できる方法であり、均一な球形のトナーが得られるため、従来の粉砕法トナーよりも高性能の機能を有するトナーを製造できる方法として、近年普及してきている。重合法とは、分散安定剤を含有する水系分散媒体中で、重合性単量体、着色剤、帯電制御剤、離型剤などを含有する単量体混合物を重合することによりトナーを得る方法であり、スチレン−アクリル系の樹脂の場合では、乳化重合法、懸濁重合法などの製法が知られており、ポリエステル系の樹脂の場合では、エステル伸長重合法、溶解懸濁法、CM(ケミカルミリング法)などが知られている。
【0003】
ところで、最近パソコンの普及と共に、レーザープリンター、デジタル複合機用のトナーとして、省エネルギー化に寄与できること、印字及び複写の高速化に対応できること、フルカラー化に対応できること、環境対応型であることなどトナーに要求される項目が高度なものになってきている。コピー機やプリンターで最もエネルギーを消費する部分はトナーの紙への定着工程であるが、一般に、この定着工程では、ヒーターを内包する定着ローラと加圧ローラの間に転写材を通して、熱と圧力の併用で定着を行なう熱ローラ定着方式が採用されている。しかしながら、熱ローラ定着方式では、ローラと転写材上のトナーが圧着するため、溶融したトナーがローラ表面に付着して後続の転写材を汚す、いわゆるオフセット現象が生じ易くなる。
【0004】
また、熱ローラ定着方式を採用する定着工程では、通常、定着ローラの温度を150℃以上にする必要があり、エネルギー源として多くの電力を消費する。近年、画像形成装置における、消費電力の低減化、印字速度及び複写速度の高速化への要求の高まりにより、定着時の定着ローラの温度(定着温度)を下げることが求められている。
【0005】
上記画像形成装置の消費電力の低減化、及び高速化の要請に対し、定着ローラの温度が、低温でも転写材に定着可能なトナー(低温定着化トナー)の設計が検討されている。例えば、トナーを構成する樹脂として、低分子量の成分を有する樹脂を用いる試み、低融点の成分を有する樹脂を用いる試み等が行われてきた。
【0006】
しかしながら、トナーを構成する樹脂の分子量や融点を低下させ過ぎてしまうと、トナーの定着工程においては、トナーの低温定着化は可能となるが、オフセット現象は改善されない。さらに、トナーの保存時においては、トナー粒子同士が融着する、いわゆるブロッキングという現象が引き起こされ、トナーの保存性を悪化させる問題も生じる。
【0007】
このため、トナーの保存時においては、トナーの保存性(耐ブロッキング性)を保ち、トナーの定着工程においては、低温定着化を可能とし(低温定着性)、オフセット現象が発生せず(耐オフセット性)、大量の印刷を行なってもカブリの発生がない(印字耐久性)などの印字性能に優れたトナーの開発が求められている。
【0008】
このような課題を解決するワックスとして、特許文献1では、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリン骨格の重合度が4〜10のものが用いられており、トナー中へワックスが安定して分散するため、低温定着性と耐ブロッキング性が両立できるとされている。また、特許文献2においても、4官能から8官能までの多価アルコールとして、2量体から6量体のポリグリセリンが用いられており、さらには、ジグリセリンの含有割合が10重量%以下、ヘキサグリセリンの含有割合が15重量%以上のものが好ましいとされている。しかし、これらのポリグリセリン脂肪酸エステルにおいても、バインダー樹脂への分散が依然不充分であり、低温定着性が改善されても耐ブロッキング性が不充分である場合や、耐ブロッキング性が優れていても低温定着性の改善効果が不充分である場合が存在した。
【0009】
さらに、特許文献3では、エステルワックスの1成分が80重量%以上である2〜6価の多価アルコールエステルから構成されるものが用いられている。特にペンタエリスリトールエステルについて詳細に示されており、高純度の多価アルコールエステルとすることによりシャープメルトな融解特性を持ち、低温定着性と耐ブロッキング性に効果を及ぼすとされている。この2〜6価の高純度な多価アルコール脂肪酸エステルにおいては、樹脂との相溶性が高い成分、及び樹脂の弾性を低下させる成分が増加し過ぎる傾向があり、低温定着性と耐ブロッキング性は改善されるものの、耐ホットオフセット性が劣るという問題が生じ、近年の省エネルギー化、或いは高速印刷化に伴うトナーへの高い要望を満足するには至らなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−89909号公報
【特許文献2】特開2008−225094号公報
【特許文献3】特開2002−212142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、トナーの製造方法、樹脂の種類に関わらず、バインダー樹脂中にワックスが適度に微分散され、これにより、トナーの定着温度を低下させると同時に、高温時のオフセットが生じず、さらに耐ブロッキングを防止する効果に優れたポリグリセリン脂肪酸エステルを提供することである。さらに、本発明は低温定着性、耐ホットオフセット性、耐ブロッキング性、印字耐久性を改善するポリグリセリン脂肪酸エステルを含有するバインダー樹脂及びバインダー樹脂を含有し、これらの機能に優れたトナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するために、本発明者が鋭意研究を重ねた結果、トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が50重量%以上であるポリグリセリンと、炭素数が16〜22の飽和脂肪酸とから構成されるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることによって、上記の課題を解決することができるという知見を見出した。さらに、上記ポリグリセリンは、トリグリセリン、及びテトラグリセリンの各々の濃度が10重量%〜70重量%の範囲であることによって、より優れた機能のトナーを提供できることを見出した。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルをトナー樹脂に特定量配合することにより、トナー樹脂のガラス転移温度を低下させることなく、メルトインデックスを大きく向上することができ、さらに高温時のオフセットが生じないため、低温定着性、耐ホットオフセット性、耐ブロッキング性、さらに印字耐久性に優れたトナーが得られ、電子複写機の省エネルギー化に適しており、さらには高速印刷用画像形成装置に好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルは、炭素数が16〜22の飽和脂肪酸から構成されるが、構成脂肪酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸が挙げられ、これらを単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
本発明で使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルに用いられるポリグリセリンは、グリセリンの脱水縮合反応、グリシドール、エピクロルヒドリン、グリセリンハロヒドリン等のグリセリン類縁物質を用いての合成、あるいは合成グリセリンのグリセリン蒸留残分からの回収等によって得られるが、一般的には、グリセリンに少量のアルカリ触媒を加えて200℃以上の高温に加熱し、精製する水を除去しながら重縮合させる方法によって得られる。反応は逐次的な分子間脱水反応により、順次高重合体が生成するが、反応組成物は均質なものではなく、未反応グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等の複雑な混合組成物となり、反応温度が高いほど、あるいは反応時間が長いほど反応は高重合度側にシフトする。また、未反応のグリセリンは減圧蒸留による蒸留が可能であり、ジグリセリンは分子蒸留による蒸留が可能であるため、一般的にはジグリセリンは高純度品が使用され、それ以上の重合度のポリグリセリンは、複雑な多成分の混合物や、グリセリン、ジグリセリンを蒸留した残分が使用される。
【0017】
ポリグリセリンの組成分析は、一例として、ポリグリセリン試料を約0.5g、及び内部標準物質としてパルミチン酸メチル(1級試薬;キシダ化学)を約0.05g精秤し、ピリジン(特級試薬;キシダ化学)約1.8mlにこれらを溶解させ、次いで、この溶液20μlに対してTMS−HT(試薬;東京化成工業)を0.2ml注入し、温浴にて反応後に上澄み液1μLを下記の分析に供することで判定される。
【0018】
ガスクロマトグラフ:GC−14B(島津製作所製)
カラム:OV−1(GLサイエンス製、内径3mm、長さ1.5m)
カラム温度:100℃〜350℃(昇温速度10℃/min)
キャリアーガス:窒素(50ml/min)
注入部温度:350℃
検出器温度:350℃
検出器:FID
【0019】
本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルのポリグリセリンは、トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が50重量%以上であり、好ましくは65重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。50重量%未満のポリグリセリンを用いた場合では、分子量分布が広いポリグリセリン脂肪酸エステルとなり、トナー用バインダー樹脂に対する分散性が低下し、低温定着性と耐ブロッキング性の両立が困難となる。
【0020】
さらに、トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が50重量%以上のポリグリセリンについて、トリグリセリン、及びテトラグリセリンの各々の濃度が10重量%〜70重量%の範囲であり、さらに好ましくは20重量%〜70重量%である。これらの下限範囲を外れる組成の場合では、前記同様にポリグリセリン脂肪酸エステルの分子量分布が広くなることにより、トナー用バインダー樹脂に対する分散性が低下し、低温定着性と耐ブロッキング性の両立が困難な傾向となる。一方、上限範囲を外れる組成の場合では、樹脂との相溶化成分が増加し過ぎることにより、低温定着性は改善されるものの、耐ホットオフセット性が低下する傾向が生じる。また、上限範囲を外れる組成のポリグリセリンを製造するには、複数の蒸留工程が必要となるため、非常に不経済なものとなる。
【0021】
さらに、これに加えて、ジグリセリン濃度が10重量%以下、ヘキサグリセリン以上のポリグリセリン濃度が15重量%未満であることが好ましい。ジグリセリン濃度が10%を超えると、バインダー樹脂に対する相溶性が増大し、メルトインデックスの低下、またはガラス転移温度の低下の何れかが生じやすくなる。一方、ヘキサグリセリン以上のポリグリセリン濃度が15重量%を超える場合では、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしての分子量が大きくなりすぎるため、バインダー樹脂に対する相溶性が低下し、また、均一な分散状態が得られず、低温定着性と耐ブロッキング性の両立が困難となりやすい。
【0022】
本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルを合成するための触媒は、塩基性触媒と酸性触媒が挙げられる。塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが好ましい。また、酸性触媒としては、(オルト)リン酸、ポリリン酸、及び、2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト、オレイルアシッドホスフェイト、ステアリルアシッドホスフェイトなどの酸性リン酸エステルの何れかが好ましく、これらを単独で使用しても二種類以上を併用しても良い。この他に酸性触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、また、塩化第一スズ、塩化第二スズ、ジブチルスズビス(2−エチルヘキサノエート)、ジブチルスズジアセテート、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタンなどのルイス酸触媒、クエン酸、リンゴ酸、乳酸などの脂肪族ヒドロキシ酸、さらにサリチル酸、没食子酸などの芳香族ヒドロキシ酸などが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0023】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率は60%〜100%であることが好ましく、さらに好ましくは80%〜100%である。エステル化率が60%未満の場合では、バインダー樹脂との相溶性が大き過ぎることからガラス転移温度の低下が生じやすく、耐ブロッキング性の悪化に繋がる、あるいは使用量に制限が出てくるなどの問題が生じやすい。ここで、エステル化率とは、末端基分析法による水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)、このポリグリセリンが有する水酸基数(n+2)、ポリグリセリンに付加している脂肪酸のモル数(M)としたとき、(M/(n+2))×100=エステル化率(%)で算出される値である。また、水酸基価とは、ポリグリセリンに含まれる水酸基数の大小の指標となる数値であり、1gのポリグリセリンに含まれる遊離ヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸化カリウムのミリグラム数は、社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法(I)、2003年度版」に準じて算出される。また、平均重合度は、末端基分析法による水酸基価から算出されるポリグリセリンの平均重合度(n)である。詳しくは、次式(式1)および(式2)から平均重合度が算出される。
(式1)分子量=74n+18
(式2)水酸基価=56110(n+2)/分子量
【0024】
本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルの酸価は特に限定はされないが、5mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が5mgKOH/gを超えるとバインダー樹脂に対する分散性が低下する要因となり、トナーの低温定着性や耐ブロッキング性の悪化に繋がり所望の性能が得られない、あるいは使用量に制限が出てくるなどの問題が生じる可能性がある。ここで、酸価とは、試料1g中に含まれている遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数をいい、社団法人日本油化学会編纂、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法(I)、2003年度版」に準じて算出される。
【0025】
本発明におけるバインダー樹脂として、スチレン・アクリル共重合樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂など、及びこれらを数種複合する樹脂、さらには生分解性樹脂などが挙げられるがこれに限定するものではない。
【0026】
本発明のトナーとは、乾式トナー、液体トナーの何れであっても良い。乾式トナーの場合は、着色剤や荷電制御剤、離型剤などをバインダー樹脂中に分散させたものが一般的であり、それが1成分トナーまたは2成分トナーであっても良い。さらには磁性を有するものであっても非磁性であっても良い。また、必要であれば二酸化ケイ素、金属石鹸、ポリオレフィンワックスなどのトナー用添加剤を配合しても良い。また、液体トナーの場合も同様に、着色剤、荷電制御剤に加え、キャリアとしての炭化水素油や植物油、また、これらに樹脂を分散させる為の分散剤などが配合されたものが一般的であり、1成分トナー、2成分トナー、磁性、非磁性などを問わない。
【0027】
また、本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルが使用できるトナーの製造方法であるが、機械的粉砕法、粉霧乾燥法、重合法、マイクロカプセル法など限定されることなく適用することができる。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。尚、今回使用したポリグリセリンは、下記の合成例に示すポリグリセリンA〜Iを用いた。以下、本発明の実施例及び比較例を示す。ただし、%は重量基準であり、エステル化率は上述の計算式により算出される値である。
【0029】
(ポリグリセリンA〜Iの合成)
温度計、撹拌装置を付した四ツ口フラスコに精製グリセリン(阪本薬品工業株式会社製)、及び触媒として水酸化ナトリウムを添加し、窒素気流下にて250℃で反応させ、ポリグリセリン組成物を得た。次いで、この組成物を減圧蒸留して表1に示すポリグリセリンA〜Gを得た。なお、減圧蒸留工程を実施しないものとして、ポリグリセリンH、及びIを得た。
【0030】
【表1】

【0031】
(ポリグリセリン脂肪酸エステル(PGFE)1〜9の合成)
ポリグリセリンAを112.6gとステアリン酸283.7g、ベヘン酸339.7gを反応容器に入れ、水酸化ナトリウムを添加し、窒素気流下にて245℃で反応させ、平均エステル化率が約95%、酸価が3.0mgKOH/gであるポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)を得た。以下同様に、ポリグリセリンと脂肪酸の種類、及びポリグリセリンに対する脂肪酸のモル比率、触媒の種類を変化させてPGFE2〜9を製造し、表2に示した。
【0032】
(ペンタエリスリトール脂肪酸エステル(PE4S)の合成)
ペンタエリスリトール75.9gとステアリン酸666.2gを反応容器に入れ、窒素気流下にて240℃で反応させ、平均エステル化率が100%、酸価が4.7mgKOH/gであるペンタエリスリトールステアレート(PE4S)を得た。
【0033】
【表2】

【0034】
(実施例1)
スチレン80.5部及びn−ブチルアクリレート19.5部からなるコア用単量体と、カーボンブラック7部、帯電防止剤1部、ジビニルベンゼン0.3部、ポリメタクリル酸エステルマクロモノマー0.5部、ポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)15部を添加、混合、溶解してコア用重合性単量体組成物を得た。コア用重合性単量体組成物の調整は全て室温で行った。
【0035】
他方、室温でイオン交換水250部に塩化マグネシウム9.5部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム5.8部を溶解した水溶液を攪拌下で徐々に添加して、水酸化マグネシウムコロイド分散液を調整した。この分散液の調整は全て室温で行った。上記コロイドの粒度分布をレーザー回折散乱法粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製)にて、体積累計が50%に相当する体積平均粒子径であるDv50(単位μm)を測定したところ、0.30μmであった。
【0036】
上記により得られた水酸化マグネシウムコロイド分散液に、室温で上記コア用重合性単量体組成物を投入し、液滴が安定するまで攪拌した。そこに重合開始剤としてt−ブチルパーオキシネオデカノエート6部添加後、インライン型分散機を用いて15,000rpmの回転数で30分間高せん断攪拌して、単量体混合物の液滴を造粒した。この造粒した単量体混合物の水分散液を10Lの反応器に入れ、60℃で重合反応を開始させた。次に、室温でメチルメタクリレート3部とイオン交換水30部を超音波乳化機にて微分散化処理して、シェル用重合性単量体の水分散液を得た。このシェル用重合性単量体と水溶性開始剤として過硫酸アンモニウム0.3部を蒸留水65部に溶解し、これを反応器に入れ、4時間重合を継続した後、反応を停止しトナー粒子の水分散液を得た。
【0037】
上記により得たコア・シェル型重合体粒子の水分散液を室温で攪拌しながら、硫酸により酸洗浄を行い、ろ過により水を分離した後、新たにイオン交換水500部を加えてスラリー化し、水洗浄を行った。その後、再度脱水と水洗浄を室温で数回繰り返し行って、固形分をろ過した後、乾燥機にて45℃で一昼夜乾燥を行い、重合体粒子を得た。この重合体粒子100部に、室温で疎水化処理したコロイダルシリカ0.6部を添加し、ヘンシルミキサーを用いて混合して重合法トナーを得た。
【0038】
(実施例2)
実施例1において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をポリグリセリンパルミテート(PGFE2)に替えた。それ以外は実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0039】
(実施例3)
実施例1において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をポリグリセリンステアレート(PGFE3)に替えた。それ以外は実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0040】
(実施例4)
実施例1において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をポリグリセリンベヘネート(PGFE4)に替えた。それ以外は実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0041】
(実施例5)
実施例1において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をポリグリセリンステアレート(PGFE5)に替えた。それ以外は実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0042】
(比較例1)
実施例1において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をポリグリセリンパルミテートステアレート(PGFE6)に替えた。それ以外は実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0043】
(比較例2)
実施例1において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をポリグリセリンパルミテートベヘネート(PGFE7)に替えた。それ以外は実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0044】
(比較例3)
実施例1において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をポリグリセリンステアレート(PGFE8)に替えた。それ以外は実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0045】
(比較例4)
実施例1において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をポリグリセリンベヘネート(PGFE9)に替えた。それ以外は実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0046】
(比較例5)
実施例1において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をペンタエリスリトールステアレート(PE4S)に替えた。それ以外は実施例1と同様にしてトナーを得た。
【0047】
(実施例6)
粉砕トナーの常法により、スチレン成分80%、メタクリル酸メチル5%、アクリル酸n−ブチル15%、架橋性モノマーであるジビニルベンゼン0.2%からなるビニル系共重合体を製造した。このビニル系共重合体25部、ポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)10部、マグネタイト60部、ポリプロピレンワックス2部、カーボンブラック2部、帯電防止剤1部をボールミルで粉砕混合した。その後、オープンロールミルで溶融混練し、冷却、粗粉砕後、ジェットミルで微粉砕してトナー用組成物を得た。さらに、このトナー用組成物に、疎水性シリカ微粉末0.3部を添加して粉砕法トナーを調製した。
【0048】
(実施例7)
実施例6において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をポリグリセリンパルミテート(PGFE2)に替えた。それ以外は実施例6と同様にしてトナーを得た。
【0049】
(実施例8)
実施例6において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をポリグリセリンステアレート(PGFE3)に替えた。それ以外は実施例6と同様にしてトナーを得た。
【0050】
(実施例9)
実施例6において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をポリグリセリンベヘネート(PGFE4)に替えた。それ以外は実施例6と同様にしてトナーを得た。
【0051】
(実施例10)
実施例6において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をポリグリセリンステアレート(PGFE5)に替えた。それ以外は実施例6と同様にしてトナーを得た。
【0052】
(比較例6)
実施例6において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をポリグリセリンパルミテートステアレート(PGFE6)に替えた。それ以外は実施例6と同様にしてトナーを得た。
【0053】
(比較例7)
実施例6において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をポリグリセリンパルミテートベヘネート(PGFE7)に替えた。それ以外は実施例6と同様にしてトナーを得た。
【0054】
(比較例8)
実施例6において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をポリグリセリンステアレート(PGFE8)に替えた。それ以外は実施例6と同様にしてトナーを得た。
【0055】
(比較例9)
実施例6において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をポリグリセリンベヘネート(PGFE9)に替えた。それ以外は実施例6と同様にしてトナーを得た。
【0056】
(比較例10)
実施例6において使用したポリグリセリンステアレートベヘネート(PGFE1)をペンタエリスリトールステアレート(PE4S)に替えた。それ以外は実施例6と同様にしてトナーを得た。
【0057】
(試験方法)
各実施例、及び比較例で得られた重合体粒子、及びトナー用組成物については、以下に示すポリグリセリン脂肪酸エステルの分散状態、メルトインデックス、ガラス転移温度の測定を実施した。また、トナーについては、以下に示す最低定着温度、ホットオフセット温度、耐ブロッキング性、印字耐久性の評価を実施した。重合法トナーの試験結果を表3に示した。また、粉砕法トナーの試験結果を表4に示した。
【0058】
(ポリグリセリン脂肪酸エステルの分散状態)
各実施例、及び比較例で得られた重合体粒子、及びトナー用組成物を金属コーティングし、エポキシ樹脂にて包括処理した後、超薄切片を作製した。次いで、四酸化ルテニウムにて染色後、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて、トナー樹脂に対するポリグリセリン脂肪酸エステルの分散状態を観察した。ポリグリセリン脂肪酸エステルの分散粒子径(μm)を測定した結果を表3、及び表4に示した。
【0059】
(メルトインデックス)
重合体粒子、及びトナー用組成物のMI値(メルトインデックス値)測定は、MELT INDEXER TYPE C−5059D(東洋精機製作所製)を用いて、試料5.0g、予熱時間360秒、試験時間600秒、試験温度125℃、試験荷重2.16kgf、A法(CUTT OFF法)の条件にて、JIS K−7210に準じて測定した。なお、トナー用組成物のMI値が1.0〜3.5g/10min、好ましくは1.2〜3.0g/10min、さらに好ましくは1.5〜2.8g/10minであることにより定着温度範囲の広いトナーを得ることができる。測定結果を表3、表4に示した。
【0060】
(ガラス転移温度)
トナー用組成物のガラス転移温度(Tg)の測定は、示差走査熱量計(Thermo Plus DSC8320、RIGAKU製)を用いて行った。アルミ製試料セルに試料と、対照物質としてα-アルミナをそれぞれ5mgずつ量り取り、窒素雰囲気下にて室温から140℃まで毎分5℃で昇温させた後、0℃まで毎分5℃で冷却させ、再び200℃まで毎分5℃の速度で昇温させた際の、二度目の昇温時における吸熱カーブ部分の接線と、ベースラインの延長線との交点からガラス転移温度を求めた。測定結果を表3、表4に示した。なお、ガラス転移温度が50℃以上、好ましくは55℃以上であることにより、耐ブロッキング性の良好なトナーを得ることができる。
【0061】
(最低定着温度、ホットオフセット温度)
定着ロール部の温度を変化できるように改造した市販の非磁性一成分現像方式のプリンター(8枚機)を用いて、定着試験を行った。定着試験は、改造プリンターの定着ロールの温度を変化させて、それぞれの温度におけるトナーの定着率を測定し、温度−定着率の関係を求めることにより行った。定着率は、改造プリンターで印刷した試験用紙の黒ベタ領域において、テープ剥離操作前後の画像濃度の比率から計算した。すなわち、テープ剥離前の画像濃度をID前、テープ剥離後の画像濃度をID後とすると、定着率は次式から算出することができる。
定着率(%)=(ID後/ID前)×100
ここで、テープ剥離操作とは試験用紙の測定部分に粘着テープを貼り、一定圧力で付着させ、その後一定速度で紙に沿った方向に粘着テープを剥離する一連の操作である。また、画像濃度は、反射式画像濃度測定器を用いて測定した。この定着試験において、定着率80%の定着ロール温度を現像剤の最低定着温度として評価した。また、ホットオフセットの測定は、印刷された紙上にホットオフセットによる印刷汚れを確認できた温度をホットオフセット温度とし、定着ローラ温度230℃まで測定した。結果を表3、及び表4に示した。
【0062】
(耐ブロッキング性)
トナーを密閉可能な容器に入れて密閉した後、この容器を55℃の温度に保持した恒温水槽中に沈める。8時間経過した後、恒温水槽から容器を取り出し、容器内のトナーを42メッシュの篩上に移す。この際、容器内でのトナーの凝集構造を破壊しないように、容器内からトナーを静かに取り出し、かつ注意深く篩上に移す。そして、粉体測定機を用いて、強度4.5の条件で30秒間振動した後、篩上に残ったトナーの状態を観察した。トナー粒子に凝集(ケーキ化)が認められない場合を○で示し、僅かに凝集が認められる場合を△、凝集が認められる場合を×で示した。結果を表3、及び表4に示した。
【0063】
(印字耐久性)
トナー400gをトナーカートリッジに入れ、前述の改造プリンターを用いて、23℃、50RH%の環境下で、定着ロール部の温度を150℃に設定し、初期から16,000枚まで連続印字を行ない、反射式画像濃度測定機で測定した印字濃度が1.3以上で、かつ、白色度計(日本電色工業株式会社製)で測定した非画像部のカブリが15%以下の画質を維持できる連続印字枚数を調べ、16,000枚の連続印字が可能なものを○、10,000枚以上16,000枚未満で画質維持ができなくなるものを△、10,000枚未満で画質維持ができなくなるものを×で示した。結果を表3、及び表4に示した。
【0064】
(高温放置後の印字耐久性)
トナー400gをトナーカートリッジに入れ、このカートリッジをアルミ袋で密閉した後、50℃の温度に保持した恒温水槽の中に沈める。5日間経過した後、恒温水槽からカートリッジを取りだし、その後は前述と同様の方法で印字耐久性を試験した。結果を表3、及び表4に示した。
【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
本発明において、トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が50重量%以上であり、且つトリグリセリン、及びテトラグリセリンの各々の濃度が10重量%〜70重量%の範囲であるポリグリセリンと、炭素数が16〜22の飽和脂肪酸とから構成されるポリグリセリン脂肪酸エステルを添加したトナーは、低温定着性、耐ホットオフセット性、耐ブロッキング性、印字耐久性に優れることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のポリグリセリン脂肪酸エステルを特定量配合することにより、低温定着性、耐ホットオフセット性、耐ブロッキング性、印字耐久性に優れたトナーが得られることから、電子複写機の省エネルギー化に適しており、また、高画質、高速化が要望される高速印刷用画像形成装置に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が50重量%以上であるポリグリセリンと、炭素数が16〜22の飽和脂肪酸とから構成されるポリグリセリン脂肪酸エステルであることを特徴とするトナー用低温定着性及び耐ブロッキング性改善剤。
【請求項2】
トリグリセリン濃度とテトラグリセリン濃度の合計が50重量%以上であり、且つトリグリセリン、及びテトラグリセリンの各々の濃度が10重量%〜70重量%の範囲であるポリグリセリンから構成されることを特徴とする請求項1記載のトナー用低温定着性及び耐ブロッキング性改善剤。
【請求項3】
請求項1〜2記載の何れかのトナー用低温定着性改善剤及び耐ブロッキング性改善剤を含有するトナー用バインダー樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3記載のバインダー樹脂組成物を用いたトナー。

【公開番号】特開2012−13972(P2012−13972A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150785(P2010−150785)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(390028897)阪本薬品工業株式会社 (140)
【Fターム(参考)】