説明

トマトの一段密植栽培方法

【課題】果実品質の低下、出荷果数減少、成熟日数長期化、作業効率の低下や薬剤散布効果が不十分になってしまうことを防止できるトマトの一段密植栽培方法を提供する。
【解決手段】複数のトマトの苗を定植した後に、主茎4を第1花房より上方に2本目の枝葉12の基端部と3本目の枝葉の基端部との間にて、又は上記3本目の枝葉の基端部と第2花房の枝の基端部との間にて摘心するとともに、第1花房より上方の枝葉11、12を上方に押し上げて、線状体50又は網状体からなる整枝手段5により、その先端部が基端部よりも上方に位置するように固定した状態で上記第1花房の各花を育成して、開花させた後に、当該各花の受粉等により果実を実らせるトマトの一段密植栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1花房の一段の花房のみを着生させて、この花房を構成するそれぞれの花を開花させた後に、各花の受粉等によって果実を実らせて収穫するトマトの一段密植栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トマトの栽培は、一般的に、播種して育苗した苗を、30〜50cm間隔で第1花房を同一方向に向けて定植させた後、約半年間の栽培によって上下方向に6段〜12段の花房をそれぞれ着生させて、これら花房を構成するそれぞれの花を開花させた後に、各花の受粉等によって果実を実らせる。このようにして、各段の花房を構成する花から果実が実ることによって、それぞれ果実の集合体である6段〜12段の果房が構成されており、次いで、トマトの栽培は、これら果房を構成する果実をそれぞれ育成して、収穫することにより行われている。
中には、トマトの栽培方法として、20段〜30段の花房を着生させて、上述の方法と同様に果房を実らせることにより、一年近くかけて果実を収穫するいわゆる長段取りと称される手法もある。
【0003】
しかしながら、上述のような6段〜30段の果実を収穫するトマトの栽培は、樹勢を長期間安定的に維持するための栽培管理が難しく、果実の空洞化や小玉果が多発して、収量や品質を低下させてしまうという問題があるとともに、栽培中に病害虫が蔓延すると、栽培が続けられなくなるリスクがあるため、定期的な防除が必要であるという欠点があった。また、果房の段数が増加した分だけ、高所での作業が増えるという欠点もあった。
【0004】
これに対して、トマトの栽培方法としては、栽培管理が容易な一段の果房だけを実らせる一段密植栽培があるものの、この一段密植栽培は、栽培期間が約1ヶ月〜3ヶ月と短いことから、6段〜30段の場合と同等数の果実を実らせるために作付け回数や一作あたりの栽植本数を多くする必要があり、季節を問わず大量の苗を必要とする。このため、特に、高温期や低温期の育苗等が難しい上に、大量の苗を育成するのにコストが嵩んでしまうことから、この一段密植栽培は、利用されてこなかった。
【0005】
しかしながら、近年、本発明者らは、特許文献1に示すように、台木および穂木の育成と接ぎ木苗の養生とを可能にした人工照明装置を用いた苗生産装置を開発することにより、通年に亘っての苗生産を容易にするとともに、イニシャルコストおよびランニングコストの低減を可能にした。これにより、このトマトの一段密植栽培は、その利用が現実的なものとなった。
【0006】
ところが、トマトの一段密植栽培では、苗を狭い間隔で定植するために、図3に示すように、第1花房の上方の枝葉11、12、13のみならず、隣接する主茎4の枝葉11、12、13が花房やそれが生育した果房10の上方に覆い被さって果房10等に日光が当たらなくなってしまう。その結果、空洞果の増加、果実7の内部における維管束に黒いすじが入ってしまうスジクサレ果の増加、果実7の色艶の低下や果実7の糖分、ビタミンおよび酸の含有量低下等の果実7の品質低下を招きうるという問題がある。さらには、トマトの一段密植栽培では、上記果実7の品質低下に加えて、育成途中での落果やハイイロカビ病など果実7に発生する病害による出荷果数減少の問題や、日陰の果実7の肥大速度の低下や着色の遅れによる開花から収穫までの成熟日数長期化の問題もある。
【0007】
加えて、この一段密植栽培では、枝葉11、12、13が互いに覆い被さって群落をなすため、他の葉の陰に入ってしまっている陰葉が光合成能力の低下により早期に黄化する等の寿命の短命化によって果実7の収量低下や品質低下の原因となり得る。また、この群落による風通しの悪化は、群落内部が蒸れてハカビ病やハイイロカビ病等の葉の病気が発生し易くなるだけでなく、周囲の二酸化炭素濃度が低いまま維持されてしまうことから各葉の光合成能力の低下により果実7の収量低下や品質低下の原因となる。さらに、この一段密植栽培では、果房10が葉の陰に隠れてしまうため、果実7を探し難くなることから、収穫の作業効率が低下するだけでなく、葉の裏面への薬剤の散布が非常に難しくなることから、薬剤が葉の裏面全体に行き渡らず、薬剤の散布効果が不十分になってしまうという欠点がある。
【0008】
【特許文献1】特再公表2006−000005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、果実品質の低下、出荷果数減少、成熟日数長期化、作業効率の低下や薬剤散布効果が不十分になってしまうことを防止できるトマトの一段密植栽培方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、果実品質の低下、出荷果数減少、成熟日数長期化、作業効率の低下や薬剤散布効果が不十分になってしまう全ての原因が、果房に上方の枝葉や隣接する主茎の枝葉が覆い被さって、果房等や陰葉に日光が当たらないことや、群落内部が蒸れてしまうことによるものであることを見出し、以下の請求項1および2に係る本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、請求項1に記載の本願発明に係るトマトの一段密植栽培方法は、複数のトマトの苗を定植した後に、主茎を、第1花房より上方に2本目の枝葉の基端部と3本目の枝葉の基端部との間にて、又は上記3本目の枝葉の基端部と第2花房の枝の基端部との間にて摘心するとともに、上記第1花房より上方の枝葉を、その先端部が基端部よりも上方に位置するように固定した状態で上記第1花房の各花を育成して、開花させた後に、当該各花から果実を実らせることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のトマトの一段密植栽培方法において、上記第1花房より上方の枝葉を、その先端側を上方に押し上げて、線状体又は網状体からなる整枝手段により、上記先端部が基端部よりも上方に位置するように固定した状態で上記第1花房の各花を育成することを特徴とするものである。
ここで、線状体とは、紐、針金や棒等の線状のものを意味しており、網状体とは、網の他に、複数本の上記紐等の線状体を結ぶ等により形成した網状のものを含む意味である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のトマトの一段密植栽培方法において、複数のトマトの苗を上記第1花房が同一方向に向くように定植した後に、上記主茎を、上記第1花房より上方に3本目の枝葉の基端部と第2花房の枝の基端部との間にて摘心するとともに、上記第1花房より上方に2本目の枝葉と3本目の枝葉とを、上記複数のトマトの苗の定植方向に沿って上記主茎を挟む両側にそれぞれ設けられた上記整枝手段により固定した状態で上記第1花房の各花を育成して、開花させた後に、当該各花から果実を実らせることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1〜3に記載のトマトの一段密植栽培方法によれば、第1花房より上方の枝葉を、その先端部が基端部よりも上方に位置するように固定した状態で、第1花房の各花を育成したため、これらの枝葉が第1花房やそれが生育した第1果房の上に被さることを防止でき、その結果、第1果房に日光を充分に当てることができ、果房等に対する日光の照射量不足を原因とする空洞果等の果実品質の低下、落果等による出荷果数の減少、成熟日数の長期化を防止することができる。
【0015】
加えて、第1花房より上方の枝葉を、その先端部が基端部よりも上方に位置するように固定することによって、第1花房より上方に2本目や3本目の枝葉が、同1本目や2本目の枝葉の上に被さることにより生じるこれらの葉の光合成能力の低下による果実品質の低下を抑制できる。
その上、第1果房と枝葉との間に空間が形成されるため、風通しの悪化を抑制することができ、さらには、第1果房の下の枝葉にも充分に日光を当てることができるため、第1花房の育成を促進させることができるとともに、容易に薬剤を第1花房の上方の枝葉や下方の枝葉における葉の裏面全体に散布することができる。
【0016】
また、上述のように第1花房より上方の枝葉を残しても、これらの枝葉によって日光が遮られることや風通しが悪化することを抑制できるため、第1花房より上方に2本目の枝葉と3本目の枝葉との間にて、又は、3本目の枝葉と第2花房との間にて主茎を摘心することにより、第1花房より上方の2本又は3本の枝葉を残して、これらの枝葉の葉による光合成によって、果実の収量や品質を向上させることができる。
【0017】
特に、請求項2に記載の発明によれば、第1花房より上方の枝葉を、その先端側を上方に押し上げて、線状体又は網状体からなる整枝手段により、その先端部が基端部よりも上方に位置するように固定したため、上記枝葉を安定的に固定することができ、さらには、整枝手段によって、日光が遮られることや通気性が阻害されることを防止して、上述の果実品質の低下等を効果的に防止できるため、効率的にトマトを栽培することができる。
【0018】
また、請求項3に記載の発明のように、複数のトマトの苗を第1花房が同一方向に向くように定植することによって、全ての苗の枝葉が同一方向に伸びて、特に、第1花房より直ぐ上方の1本目の枝葉が主茎を中心に第1花房の伸びる方向に対して約180℃の方向となる同一方向に伸びる。このため、1本目の枝葉を整枝手段によって固定することなく、そのままの状態に放置しても、1本目の枝葉がそのトマトの苗や隣接するトマトの苗における第1花房の上方に被さることもないため、主茎を上記第1花房より上方に3本目の枝葉の基端部と第2花房の枝の基端部との間にて摘心して、第1花房より上方に2本目の枝葉と3本目の枝葉とを、その先端部が基端部よりも上方に位置するように整枝手段によって固定することにより、全ての枝葉や花房に日光を十分に当てることができ、風通しの悪化を抑制できる。従って、定植方向に沿って主茎を挟む両側にそれぞれ設けられた整枝手段によって2本目の枝葉または3本目の枝葉の一方ずつを固定でき、それによって、全ての枝葉や花房に日光を十分に当てることも、風通しの悪化を抑制することもでき、3本目の枝葉を残して、より多くの葉による光合成によって果実の収量や品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明に係るトマトの一段密植栽培方法の一実施形態について、図1および図2を用いて説明する。
本実施形態のトマトの一段密植栽培方法は、まずトマトの苗を、南北方向に向けて設置された細長状の湛液式水耕ベット9に、第1花房の枝14が主茎4から西(同一方位)に向けて水耕ベット9と直交して伸びるように、10cm〜20cmの間隔で定植する。
【0020】
ここで、各花房の直ぐ上方の1本目の枝葉11は、主茎4を中心に各花房の枝14が伸びる方向に対して約180℃の方向に伸びる特性、すなわち、東側に伸びる特性を有する。また、同上方に2本目の枝葉12は、主茎4を中心に1本目の枝葉11に対して時計回り又は反時計回りに約90℃の方向に、同3本目の枝葉13は、主茎4を中心に2本目の枝葉12に対して約180℃の方向にそれぞれ伸びる特性を有している。これにより、2本目および3本目の枝葉12、13が主茎4を中心に花房の枝14が伸びる方向に対して約90℃の方向にそれぞれ伸びる。
【0021】
次いで、トマトの苗を育成することにより、第1花房の最も主茎4側に位置する1番花が開花するため、この1番花の開花後の3日目〜7日目の間に、第1花房の上方の2本の枝葉11、12を残すように、主茎4を上記第1花房より上方に2本目の枝葉12の基端部と3本目の枝葉13の基端部との間にて摘心した後、側芽を摘み取りつつ各花房を育成する。
次ぎに、第1花房が開花した日から8日〜12日後に、これらの枝葉11、12の先端側を、上方に押し上げて整枝手段5に固定させる。その間にも、第1花房の各花が次々に開花する。
【0022】
なお、整枝手段5は、水耕ベット9の東側および西側に、それぞれ地際部から50cm〜70cmの範囲内の所定の高さに設置した。
各整枝手段5は、すべてのトマトの主茎4からそれぞれ東側又は西側に5cm〜10cm離間した第1の位置と、同様に15cm〜25cm離間した第2の位置とに紐50が水耕ベット9と平行かつ水平に配設されている。そして、第1の位置と第2の位置とに設置された紐50は、両者の間に5cm〜15cmの間隔をあけて配設されており、各整枝手段5は、それぞれ第1の位置に設置された紐50と第2の位置に設置された紐50との2条の紐50によって構成されている。
【0023】
従って、第1花房の直ぐ上方の1本目の枝葉11が花房の枝14に対して180℃の方向に、すなわち、水耕ベット9の東側の整枝手段5の方向に伸びる。
このため、1本目の枝葉11の先端側を、上方に押し上げることにより、東側の整枝手段5に固定させる。
【0024】
他方、第1花房より上方に2本目の枝葉12が花房の枝14に対して約90℃の方向に、すなわち、水耕ベット9に沿って南北方向にそれぞれ伸びる。このため、2本目の枝葉12は、単に、上方に押し上げても、その先端部が整枝手段5と離間して位置することにより、整枝手段5に固定させられないことがある。
【0025】
その場合には、2本目の枝葉12の先端側を、隣接する主茎4やその枝葉11、12の間から整枝手段5に向けて、東側又は西側に向けて押し込みつつ、上方に押し上げて整枝手段5に固定させ、より好ましくは、西側に向けて押し込みつつ、上方に押し上げて西側の整枝手段5に固定させる。
すると、1本目の枝葉11が東側の整枝手段5に固定され、2本目の枝葉12が西側の整枝手段5に固定されるため、枝葉11、12同士の重なりが防止される。
【0026】
これにより、1本目および2本目の枝葉11、12は、整枝手段5により、その先端部が基端部よりも上方に位置するように固定される。このため、第1花房の上方の枝葉11、12が垂下することにより、花房の上方に覆い被さって日光を遮ることや、枝葉11、12同士が被さることによる陰葉の光合成不足が防止される。
さらには、第1花房の上方の枝葉11、12や第1花房のみならず、その下の枝葉18にも充分に日光が当たることから、第1花房の生育が促される。
【0027】
そして、第1花房の各花の受粉等によって果実7が実り、これらの果実7の集合体である第1果房10が構成された後に、十分に日光を浴びて生育した第1果房10の各果実7を収穫する。
【0028】
上述のトマトの一段密植栽培方法によれば、複数のトマトの苗を南北方向に設置された水耕ベット9に定植した後に、第1花房の上方の2本の枝葉11、12を、その先端側を上方に押し上げて、整枝手段5により、その先端部が基端部よりも上方に位置するように固定したため、すべての枝葉11、12、花房及びこれが生育した果房10並びにその下の枝葉18が充分に日光を浴びることができる。
このため、枝葉11、12の日射量不足や花房および果房10の日射量不足を原因とする空洞果等の果実7の収量低下や品質低下、落果等による出荷果数の減少、成熟日数の長期化を効果的に防止することができる。
【0029】
特に、1本目の枝葉11を東側の整枝手段5に、2本目の枝葉12を西側の整枝手段5に固定することによって、1本目の枝葉11の上方に2本目の枝葉12が被さることを防止できるため、1本目の枝葉11の陰葉の光合成能力の低下による寿命の短命化によって、果実7の収量低下や品質低下を招くことを防止できる。
【0030】
さらには、各枝葉11、12を、その大きさ等にあわせて、第1の位置の紐50の上方から第2の位置の紐50の下方に配置することによって、又は両者の紐50の間から第2の位置の紐50の上方に配置することによって固定することができる。
このため、枝葉11、12と果房10との間に空間を設けて通気性を積極的に確保できるだけでなく、整枝手段5によって、日光が遮られることや通気性が阻害されることを防止できる上に、整枝手段5により葉の裏面全体への薬剤散布が阻害されることもなく、栽培管理を効率的に行うことができる。
【0031】
次いで、本発明に係るトマトの一段密植栽培方法のその他の実施形態について、図3および図4を用いて説明する。
なお、上述の実施形態と同一の構成については、同一の符号を用いることにより説明を簡略する。
【0032】
本実施形態のトマトの一段密植栽培方法は、まずトマトの苗を、南北方向に向けて設置された細長状の湛液式水耕ベット9に、第1花房の枝14が主茎4から東(同一方向)に向けて水耕ベット9と直交して伸びるように、10cm〜20cmの間隔で定植する。
【0033】
ここで、各花房の直ぐ上方の1本目の枝葉11は、主茎4を中心に各花房の枝14が伸びる方向に対して約180℃の方向に伸びる特性、すなわち、西側に伸びる特性を有する。また、同上方に2本目の枝葉12は、主茎4を中心に1本目の枝葉11に対して時計回り又は反時計回りに約90℃の方向に、同3本目の枝葉13は、主茎4を中心に2本目の枝葉12に対して約180℃の方向にそれぞれ伸びる特性を有している。これにより、2本目および3本目の枝葉12、13が主茎4を中心に花房の枝14が伸びる方向に対して約90℃の方向にそれぞれ伸びる。
【0034】
次いで、トマトの苗を育成することにより、第1花房の最も主茎4側に位置する1番花が開花するため、この1番花の開花日からその後7日の間に、第1花房の上方の3本の枝葉11、12、13を残すように、主茎4を上記第1花房より上方に3本目の枝葉13の基端部と第2花房の枝の基端部との間にて摘心した後、側芽を摘み取りつつ各花房を育成する。
次ぎに、第1花房が開花した日から8日〜12日後に、これらの枝葉12、13の先端側を、上方に押し上げて整枝手段5に固定させる。その間にも、第1花房の各花が次々に開花する。
【0035】
なお、整枝手段5は、水耕ベット9の東側および西側に、それぞれ地際部から55cm〜75cmの範囲内の所定の高さに設置した。
各整枝手段5は、すべてのトマトの主茎4からそれぞれ東側又は西側に5cm〜10cm離間した第1の位置と、同様に15cm〜25cm離間した第2の位置とに紐50が水耕ベット9と平行かつ水平に配設されている。そして、第1の位置と第2の位置とに設置された紐50は、両者の間に5cm〜15cmの間隔をあけて配設されており、各整枝手段5は、それぞれ第1の位置に設置された紐50と第2の位置に設置された紐50との2条の紐50によって構成されている。
【0036】
従って、花房の枝14に対して180℃の方向に伸びる第1花房の直ぐ上方の1本目の枝葉11はそのままの状態に放置して、花房の枝14に対して約90℃の方向の北または南方向に伸びる第1花房より上方に2本目の枝葉12を、トマトの主茎から東側又は西側の整枝手段5に固定するとともに、花房の枝14に対して約90℃の方向の南または北方向に伸びる第1花房より上方に3本目の枝葉13を、トマトの主茎から西側又は東側の整枝手段5に固定する。
【0037】
その際、枝葉12、13は、単に、上方に押し上げても、その先端部が整枝手段5と離間して位置することにより、整枝手段5に固定させられないことがある。
その場合には、2本目の枝葉12の先端側を、隣接する主茎4やその枝葉12、13の間から整枝手段5に向けて東側に向けて押し込みつつ上方に押し上げて東側の整枝手段5に固定させるとともに、3本目の枝葉13の先端側を、隣接する主茎4やその枝葉12、13の間から整枝手段5に向けて西側に向けて押し込みつつ上方に押し上げて西側の整枝手段5に固定させる等して、整枝手段5に向けて押し込みつつ上方に押し上げることにより固定する。
すると、2本目の枝葉12が東側の整枝手段5に固定され、3本目の枝葉13が西側の整枝手段5に固定されるため、2本目の枝葉12と3本目の枝葉13とが異なる整枝手段5に固定されて枝葉12、13同士の重なりが防止される。
【0038】
これにより、2本目および3本目の枝葉12、13は、整枝手段5により、その先端部が基端部よりも上方に位置するように固定されるとともに、1本目の枝葉14が第1花房の茎14が伸びる方向に対して主茎4を中心に約180℃の方向に伸びるため、第1花房の上方の枝葉11、12、13が垂下することにより、花房の上方に覆い被さって日光を遮ることや、枝葉11、12同士が被さることによる陰葉の光合成不足が防止される。
さらには、第1花房の上方の枝葉11、12、13や第1花房のみならず、その下の枝葉18にも充分に日光が当たることから、第1花房の生育が促されるとともに、枝葉11、12に加えて、枝葉13の光合成によって果実の収量や品質を向上させることができる。
【0039】
そして、第1花房の各花の受粉等によって果実7が実り、これらの果実7の集合体である第1果房10が構成された後に、十分に日光を浴びて生育した第1果房10の各果実7を収穫する。
【0040】
上述のトマトの一段密植栽培方法によれば、複数のトマトの苗を第1花房の枝14が主茎4から東に向けて伸びるように南北方向に設置された水耕ベット9に定植した後に、主茎4を上記第1花房より上方に3本目の枝葉13の基端部と第2花房の枝の基端部との間にて摘心して、第1花房より上方に2本目の枝葉12と3本目の枝葉13とを、その先端側を上方に押し上げて整枝手段5により、その先端部が基端部よりも上方に位置するように固定したため、すべての枝葉11、12、13を残しつつも枝葉11、12、13、花房及びこれが生育した果房10並びにその下の枝葉18が充分に日光を浴びることができ、より多くの葉による光合成によって果実の収量や品質を向上させることができる。
【0041】
また、整枝手段5によって、枝葉11、12、13と果房10との間に空間を設けて通気性を積極的に確保できるだけでなく、日光が遮られることや通気性が阻害されることを防止でき、さらには、整枝手段5や他の枝葉11、12、13により葉の裏面全体への薬剤散布が阻害されることもなく、栽培管理を効率的に行うことができる。
【0042】
なお、本発明は、上述の実施形態に何ら限定されるものでなく、例えば、整枝手段5は、紐50でなく、網によって構成されていてもよいものである。
【実施例】
【0043】
次いで、上述の一実施の形態に従ってトマトの苗を育成した実施例1と、その比較の対象としての比較例1と、その他の実施形態に従ってトマトの苗を育成した実施例2と、その比較の対象としての比較例2とを、それぞれ以下に説明する。
【0044】
[実施例1]
南北方向に設置された湛液式水耕ベット9内に、3月24日に5葉期程度まで生育したトマトの苗を12.5cmの間隔で定植して、育成した。
すると、定植後21日目の4月14日に第1花房の一番花が開花した。
【0045】
次いで、この開花日より5日後の4月19日に、第1花房の上方の2本の枝葉11、12を残すように、主茎4を、第1花房より上方に2本目の枝葉12の基端部と3本目の枝葉13の基端部との間にて摘心するとともに、整枝手段5を地際部から約60cmの高さに設置した。その際、第1の位置をすべての主茎4から10cm離間した位置として、第2の位置をすべての主茎4から20cm離間した位置として、両者の間に10cmの間隔をあけて2条の紐50を設置した。
【0046】
その後、第1花房の開花から10日後の4月24日に、これらの2本の枝葉11、12、を、それぞれ先端側を、手によって強制的に上方に押し上げて整枝手段5により、その先端部を基端部よりも上方に位置するように固定した状態で、第1花房を育成した。その間にも、第1花房の各花が次々に開花して、受粉等により果実7を実らせた。
次いで、この果実7を育成した後に収穫した。
【0047】
[比較例1]
まず、実施例1と同様に、湛液式水耕ベット9内に、5葉期程度まで生育したトマトの苗を定植して育成した。すると、定植後21日目に第1花房の一番花が開花した。
次いで、第1花房の開花日より5日後に、主茎4を、第1花房より上方に2本目の枝葉12の基端部と3本目の枝葉13の基端部との間にて摘心し、これらの枝葉11、12を上方に押し上げることなく、そのまま育成して、果房10の果実7を収穫した。
【0048】
すると、比較例1のトマトは、その一作の栽培期間が実施例1の場合と比較して、7日前後長くなり、その空洞果の発生も実施例1の場合と比較して10%程度増加してしまった。
【0049】
[実施例2]
南北方向に設置された湛液式水耕ベット9内に、4月18日に4葉期程度まで生育したトマトの苗を10cmの間隔で定植して育成した。その際、各苗の第1花房の枝14が主茎4から東に向けて伸びるように定植した。
すると、定植後22日目の5月10日に第1花房の一番花が開花した。
【0050】
次いで、この開花日当日の5月10日に、第1花房の上方の3本の枝葉11、12、13を残すように主茎4を上記第1花房より上方に3本目の枝葉13の基端部と第2花房の枝の基端部との間にて摘心するとともに、整枝手段5を地際部から約60cmの高さに設置した。その際、第1の位置をすべての主茎4から10cm離間した位置として、第2の位置をすべての主茎4から20cm離間した位置として、両者の間に10cmの間隔をあけて2条の紐50を設置した。
【0051】
その後、第1花房の開花から2日後の5月12日に、2本の枝葉12、13の先端側をそれぞれ手によって強制的に上方に押し上げて、整枝手段5により、それらの先端部を基端部よりも上方に位置するように固定した状態で第1花房を育成した。その際、枝葉12と枝葉13とは東側または西側の異なる整枝手段5により固定された。
すると、第1花房の各花が次々に開花して、受粉等により果実7を実らせた。
次いで、この果実7を育成した後に収穫した。
【0052】
[比較例2]
まず、実施例2と同様に、湛液式水耕ベット9内に、4葉期程度まで生育したトマトの苗を10cm間隔で定植して育成した。但し、各苗の第1花房の枝14の伸びる方向を考慮せずに各苗によって枝14が異なる方向に伸びるように定植した。
すると、定植後22日目に第1花房の一番花が開花した。
次いで、第1花房の開花当日に、第1花房の上方の3本の枝葉11、12、13を残すように主茎4を上記第1花房より上方に3本目の枝葉13の基端部と第2花房の枝の基端部との間にて摘心するとともに、実施例2と同様の整枝手段5を設置した。
【0053】
その後、第1花房の開花から2日後の5月12日に、第1花房の直ぐ上方1本目の枝葉
11が隣接する苗の第1花房を遮蔽するため、1本目の枝葉11を含める枝葉11、12、13の先端側をそれぞれ強制的に上方に押し上げて、整枝手段5により、それらの先端部を基端部よりも上方に位置するように固定した状態で、第1花房を育成した。
すると、第1花房の各花が次々に開花して、受粉等により果実7を実らせ、これらの果実7を育成した後に収穫した。
【0054】
比較例2のトマトは、東側又は西側の整枝手段5によって枝葉11、12、13のうちの2本の枝葉が固定されていることから、それらの枝葉同士が相互遮蔽されて、葉の黄化が発生し、実施例2と比較して10%程度収量が減少した。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係るトマトの一段密植栽培方法を説明するための概念説明図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】その他の実施形態を説明するための概念説明図である。
【図4】図3の要部拡大図である。
【図5】トマトの苗を一般的な栽培方法によって育成した場合の特性を示す概念説明図である。
【符号の説明】
【0056】
4 主茎
5 整枝手段
11、12、18 枝葉
10 果房
50 紐

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のトマトの苗を定植した後に、主茎を、第1花房より上方に2本目の枝葉の基端部と3本目の枝葉の基端部との間にて、又は上記3本目の枝葉の基端部と第2花房の枝の基端部との間にて摘心するとともに、上記第1花房より上方の枝葉を、その先端部が基端部よりも上方に位置するように固定した状態で上記第1花房の各花を育成して、開花させた後に、当該各花から果実を実らせることを特徴とするトマトの一段密植栽培方法。
【請求項2】
上記第1花房より上方の枝葉を、その先端側を上方に押し上げて、線状体又は網状体からなる整枝手段により、上記先端部が基端部よりも上方に位置するように固定した状態で上記第1花房の各花を育成することを特徴とする請求項1に記載のトマトの一段密植栽培方法。
【請求項3】
複数のトマトの苗を上記第1花房が同一方向に向くように定植した後に、上記主茎を、上記第1花房より上方に3本目の枝葉の基端部と第2花房の枝の基端部との間にて摘心するとともに、上記第1花房より上方に2本目の枝葉と3本目の枝葉とを、上記複数のトマトの苗の定植方向に沿って上記主茎を挟む両側にそれぞれ設けられた上記整枝手段により固定した状態で上記第1花房の各花を育成して、開花させた後に、当該各花から果実を実らせることを特徴とする請求項1または2に記載のトマトの一段密植栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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