説明

トマト果実の重量が大きくなるほどトマト果実の糖度を高める方法

【課題】本発明は、トマトの果実重量が大きくなっても糖度が低くならない、すなわち、トマト果実の重量が大きくなるほどトマト果実の糖度を高める方法を提供することを目的とする。
【解決手段】トマト果実の重量が大きくなるほど前記トマト果実の糖度を高めるには、トマトに対し、明期終了後、600〜700nmの波長域の赤色光の光強度が最も強い光を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トマト果実の重量が大きくなるほどトマト果実の糖度を高める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工光を用いて植物を照射する栽培方法が試みられている。例えば、特許文献1に開示された方法では、太陽光が照射されない時間帯で、発光波長が700〜800nmの遠赤色光を所定の光量子束密度以上になるように長日植物に連続照射することにより、長日植物の開花と草丈の成長を促進させる。特許文献2に開示された方法では、植物を照射する光源に含まれる青色光、赤色光及び遠赤色光の強度を調整することで、植物の栄養成分含有量を調整する。
【0003】
また、特許文献3に開示された方法では、発光波長が700〜760nmの遠赤色光を成育中の植物に照射することにより、植物の可食部の増量を図っている。特許文献4に開示された方法では、温室内に栽培されたブドウに対し、無加温状態で開花、結実、収穫の第1期作過程の終了後、休眠打破剤を散布し加温と合わせて人工光による補光を行い、年間2期作を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−95132号公報
【特許文献2】特開平08−205677号公報
【特許文献3】特開平08−275681号公報
【特許文献4】特開平11−155395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
植物の中でも、トマトはその果実を生食又は広範な料理に用いることができ、さらに、その果実中に種々の栄養素を含有するため人気がある。トマトは糖度の高いものが消費者に好まれる。しかしながら、一般的に果実重量と糖度間には負の相関関係があることが知られており、高糖度トマトの栽培において、例えば水分ストレスや塩分ストレスを植物体に与えると、糖度が高まる一方で果実重量が小さくなる(高知大学学術研究報告、第43巻、1994年、農学、pp33−40、Horticultural research、Japan、3、2、pp149−154)。一方、果実重量が大きなトマトは糖度が低く、大味となる。
【0006】
そこで、本発明は、トマトの果実重量が大きくなっても糖度が低くならないようにすること、すなわち、トマト果実の重量が大きくなるほどトマト果実の糖度を高める方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の、トマト果実の重量が大きくなるほどトマト果実の糖度を高める方法は、トマトに対し、明期終了後、600〜700nmの波長域の赤色光の光強度が最も強い光を照射することを含む。また、本発明は、明期終了後、600〜700nmの波長域の赤色光の光強度が最も強い光を照射することによって、果実の重量が大きいほど糖度が高いトマトの栽培方法を提供する。
【0008】
本発明者が、トマトへの特定波長の光の照射による影響を研究した結果、明期終了後、600〜700nmの波長域の赤色光の光強度が最も強い光を照射すると、果実重量が大きくなるほど果実糖度が高くなることを発見し、これらの発見をもとに本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0009】
すなわち、本発明によれば、トマト果実の重量が大きくなるほどトマト果実の糖度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の方法を利用した栽培装置を示す構成図である。
【図2】本発明の方法の工程を示す流れ図である。
【図3】本発明の方法の別の実施形態にかかる工程を示す流れ図である。
【図4】収穫したトマト果実の糖度分布を表す図である。
【図5】収穫したトマト果実の平均糖度を表す図である。
【図6】コントロール区のトマト果実の糖度と果実重量との相関関係を示す図である。
【図7】赤色光照射区のトマト果実の糖度と果実重量との相関関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0012】
図1は本発明の方法を利用した栽培装置を示す構成図である。この図に示される栽培装置1は、トマト10を収容するための空間を形成した栽培室12と、栽培室12内に設置された主光源16と、補光用光源14と、タイマー付き電源18とを備える。
【0013】
図2は、本発明の方法にかかる全体処理を示す流れ図である。主光源16の点灯開始(S1)から主光源16の点灯終了(S2)までを明期という。ここで、主光源16は、トマトの光合成に必要な光を含む光であって、かつ、トマトの光補償点以上の強度である光を照射することができる光源である。ここで、「トマトの光合成に必要な光」とは、青色光と赤色光を含む光、すなわち400〜700nmの間の波長の光を含む光であり、好ましくは420〜470nmの間の波長の青色光と625〜690nmの間の波長の赤色光とを含む。ここで、青色光は440〜450nmの間の波長の光であることがより好ましく、赤色光は640〜680nmの間の波長の光であることがより好ましい。トマトの光補償点(光合成によるCO吸収速度と呼吸によるCO放出速度が同じになる光の強さ)以上の強度の光とは、400nm〜700nmの波長を用い、1日の平均気温が27℃の時、光合成光量子束密度で、総光強度50μmol・m−2・s−1以上、好ましくは500μmol・m−2・s−1以上、より好ましくは1000μmol・m−2・s−1以上の強度の光である。
【0014】
主光源16として、従来から用いられている光源を用いることができ、例えば、発光ダイオード(LED)、レーザー光(LD)、蛍光灯、高圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプを単独で又は複数組み合わせて用いることができる。また、主光源16は栽培室12の外に設けられていてもよい。主光源16は、人工光源でなくてもよく、太陽光単独または太陽光を人工光源に組み合わせて用いてもよい。主光源16として太陽光を単独で用いる場合、明期とは日の出から日の入りまでを指す。明期の長さは、人工光源を用いる場合であっても、太陽光を用いる場合であっても、10時間〜16時間であることが好ましいが、この範囲より長くても短くても差し支えない。明期が終了した後、再び明期を開始するまでの時間を暗期という。すなわち、図2中、S2から2回目のS1までの間が暗期である。
【0015】
補光用光源14からの光は、600〜700nmの波長域の赤色光の光強度が最も強い光である。600〜700nmの波長域の光の光強度が最も強い光とは、該光を波長ごとに分割したとき、光強度を600〜700nmの波長域で積分した値が、600〜700nmの波長域以外の波長の光の光強度よりも高いことを意味する。好ましくは、補光用光源14からの光は、補光用光源14からの光の総光強度を100%としたときに、600〜700nmの波長域の赤色光の光強度が好ましくは95%以上であり、より好ましくは98%以上であり、さらに好ましくは100%である。
【0016】
明期終了後、赤色光補光を行なうと、収穫されるトマト果実の重量が大きくなるほどそのトマト果実の糖度が高まる。したがって、重量が大きくかつ糖度が高いトマトを生産したい場合、600〜700nmの波長域の赤色光の光強度が最も強い光を照射すればよい。
【0017】
赤色光補光の光強度は、光補償点以上の光強度であってもよいが、光補償点以下の光強度であることが好ましい。赤色光補光で光補償点以下の光強度とは、光量子束密度で、50μmol・m−2・s−1以下であり、好ましくは40μmol・m−2・s−1以下である。
【0018】
補光用光源14として、従来から用いられている光源を用いることができ、例えば、発光ダイオード(LED)、レーザー光(LD)、蛍光灯、高圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプを用いることができる。図1中、主光源16と補光用光源14とを別々に設けてもよいし、出力波長を調節して主光源16を補光用光源14として併用してもよい。
【0019】
赤色光補光を、暗期の間に行い、明期の間には行わない場合、図2に示すように、主光源の点灯終了(S2)から次の主光源点灯開始(S1)までの間に、補光用光源の点灯を開始し(S3)、補光用光源の点灯を終了する(S4)。暗期である所定時間が経過した後、再び主光源の点灯を開始して(S1)、明期を開始する。主光源及び補光用光源の点灯時間は、タイマー付き電源18によって制御することができる。赤色光補光の時間は、特に限定されず、例えば、60分以下等の短い時間であっても本発明の方法による効果が得られる。
【0020】
図3は、本発明の方法の別の実施形態にかかる全体処理の流れ図である。本発明の方法は、明期終了後に赤色光が照射されていればよく、明期の間に赤色光補光を開始することも可能である。明期の間に赤色光補光又は遠赤色光補光を開始する場合は、図3に示すように、主光源の点灯開始(S1)の後、補光用光源の点灯を開始し(S3)、S3の後、主光源の点灯を終了する(S2)。S2の後、補光用光源の点灯を終了する(S4)。暗期である所定時間が経過した後、再び主光源の点灯を開始して(S1)、明期を開始する。
【0021】
本発明のトマトの栽培方法は、明期終了後、赤色光補光を行うこと以外は、トマトの通常の栽培方法と同様の栽培方法を用いることができる。すなわち、潅水や施肥等は通常の栽培方法と同様の条件で行うことができる。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
トマト(品種:桃太郎)を、赤色光照射区とコントロール区との2区で、それぞれ表1に示す栽培条件で、明期12時間、暗期12時間の周期で栽培した。明期として、総光強度500μmol・m−2・s−1の人工光(青色LED光:50μmol・m−2・s−1、赤色LD光:450μmol・m−2・s−1)を照射した。赤色光照射区にはさらに、赤色光(赤色LD光:40μmol・m−2・s−1以下の光強度)を、明期終了後、暗期の最初の60分照射する赤色光補光を行なった。この赤色光補光を除いて、暗期には光を照射しなかった。照射した光の波長ピークはそれぞれ、青色LED光が465nm、赤色LD光が680nmである。光強度は光量子メーターLI−250A(LI−COR社)を用いて測定した。
【0023】
【表1】

【0024】
補光照射実験開始から120〜130日後、結実して赤くなったトマトを収穫した。収穫したトマトの1個1個について、電子天秤で重量を測定した。結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
また、収穫したトマトの1個1個について、屈折糖度計で糖度を測定した。図4にコントロール区と赤色光照射区の各トマトの糖度をプロットした糖度分布のグラフを、図5にコントロール区と赤色光照射区の各区のトマトの平均糖度のグラフを示す(コントロール区;n=17、赤色光照射区;n=32)。赤色光照射により、トマトの糖度が上昇した。
【0027】
さらに、得られた測定結果を、各トマト果実個体について、糖度を縦軸、果実重量を横軸としたグラフにプロットして、糖度と果実重量との相関関係の解析を行った。図6にコントロール区のトマト果実の糖度と果実重量との相関関係、図7に赤色光照射区のトマト果実の糖度と果実重量との相関関係を示す。
【0028】
図6に示すようにコントロール区のトマト果実では、各果実において、糖度と重量との間に負の相関関係があった(回帰直線:y=−0.0071x+4.8763、相関係数:r=−0.3685、n=17)。すなわち、コントロール区では、トマト果実の重量が大きくなるほど、糖度が低下していた。しかしながら、図7に示すように赤色光照射区のトマト果実では、各果実において、糖度と重量との間に正の相関関係があった(回帰直線:y=0.0194x+3.7232、相関係数:r=0.4797、n=32)。すなわち、赤色光照射区では、トマト果実の重量が大きくなるほど、糖度も高くなった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、重量が大きく、かつ、糖度の高いトマト果実を生産することができ、質量ともに優れた高付加価値のトマトを得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0030】
1…栽培装置、12…栽培室、10…トマト、14…補光用光源、16…主光源、18…タイマー付き電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマトに対し、明期終了後、600〜700nmの波長域の赤色光の光強度が最も強い光を照射することを含む、トマト果実の重量が大きくなるほど前記トマト果実の糖度を高める方法。
【請求項2】
明期終了後、600〜700nmの波長域の赤色光の光強度が最も強い光を照射することによって、果実の重量が大きいほど糖度が高いトマトを栽培する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−65601(P2012−65601A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213724(P2010−213724)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】