説明

トラックボールを備えた電子機器

【課題】トラックボールユニットを具備した電子機器においてボールと機器筐体との隙間を排除しながら操作性を阻害せず騒音を抑止し得る携帯用電子機器を提供する。
【解決手段】携帯用電子機器1であって、回動自在に配設されるボール10aと、電気基板14上に実装されボールの回転を検出する検出手段(16,17)と、ボール及び検出手段を内部に収納するユニット筐体(12,13)と、ユニット筐体の内部に収納されたボールをユニット筐体の内部における一方向へ向けて押圧する弾性環状部材15とからなるトラックボールユニットを具備し、弾性環状部材は環状内周部から内側に向けて突出する複数の腕部15aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラックボールを備えた電子機器、詳しくは携帯可能で小型の電子機器に適用されるトラックボールの保持機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯可能でかつ小型に構成された電子機器については、さまざまな種類のものが実用化されており、また広く普及している。このような小型の電子機器では、使用者が各種の操作を行うための操作部材として各種の形態の操作部材が複数設けられているのが普通である。例えば、従来の小型電子機器における操作部材の一つとしてトラックボールと呼ばれる操作部材がある。
【0003】
このトラックボールとは、球体(以下、ボールという)を手指等で回転操作し、その回転方向や速さ等をセンサ等を用いて読み取らせることにより、操作量に応じて操作指示を行うというものである。このようなトラックボールにおいては、常にボールがスムーズに回転することが望ましい。そのために、従来のトラックボールでは、ボールと、このボールを保持する筐体側の保持部との間に若干の隙間(クリアランス)を設けて構成されるのが普通である。
【0004】
しかしながら、携帯に適するように小型に構成された電子機器に、トラックボールを適用した場合、ボールと筐体側の保持部との間に隙間が設けられていると、機器を持ち運ぶ際にボールが隙間の間で移動して筐体側保持部に当接することによって騒音、いわゆるカタカタ音等が発生することがあり、機器の品位を落としてしまうという問題が生じる。この場合において、その電子機器が録音機能を備えた機器である場合には、機器携帯中の録音動作中に、ボールが移動することに起因する音(カタカタ音等)がノイズとして録音されてしまうという問題点もある。
【0005】
そこで、従来の電子機器においては、このようなカタカタ音等を解消若しくは抑止するために種々の手段が考えられている。例えば、ボールと筐体側保持部との間の隙間(クリアランス)を極力小さくするように構成したり、ボールサイズを小型化したり、ボールの材質を比重の軽い素材を用いてボール自体の重量を軽減させる等といった工夫が行われている。
【0006】
また、例えば特開2005−284967号公報等には、ボールを上方に向けて付勢するバネ部材を設け、該バネ部材の付勢力によってボールを筐体のカバー部材の内側面に押し付ける構成により、ボールと筐体との間の隙間をなくすという構成が開示されている。この構成では、ボールを回転操作させると、バネ部材が若干撓むことによってボールが下方に移動する。これによって、ボールが内部に設けられる回転ローラを回転させることによって操作指示が行なわれるようになっている。
【0007】
近年の小型電子機器におけるトラックボールにおいては、回転ローラによる検出よりも非接触タイプの光学センサーで検出するものが主流となっている。光学センサーの場合は回転ローラーが不要になるが、その代わりに筐体の下側に受け部が必要になる。筐体の受け部とトラックボールは擦れるため、筐体は耐摩耗性と摺動性が必要であり、その条件を満たすために高価な材料が必要とされ、このことはコストアップの要因になる。しかしながら、上記の条件を満たさない場合、例えば耐摩耗性が低い材料では削れカスが光学センサーとトラックボールとの間に介在し、センサー感度が低下してしまうことがある。また、摺動性が悪いと操作感を損なってしまうことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−284967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、従来の小型電子機器におけるトラックボールにおいて、カタカタ音等を抑止するための上記手段のうち、ボールと筐体側保持部との間の隙間を小さく構成した場合、カタカタ音を小さくすることはできるが、これを完全に消音することはできない。また、隙間をなくすとボールの回転操作を阻害してしまう傾向がある。そこで、ボールの回転操作を阻害することなく、隙間を小さく抑えるように構成するためには、高度な部品精度や組立精度が要求されることになるので、機器の高コスト化の一因になってしまうという問題点がある。
【0010】
また、ボールの重量を軽減することによって、カタカタ音等を抑止しようとする手段では、適用することのできる材質に制限が生じてしまう問題点がある。また、トラックボールは、ボールサイズが大きいほど良好な操作性を得られる傾向があるので、ボールを小型化する手段では、操作性を悪化させてしまうという問題点が生じる。
【0011】
さらに、上記特開2005−284967号公報等に開示されている構成では、ボールはバネ部材によって筐体カバー部材内面に対して常に当接した状態となるため、ボールを回転操作する際、該ボールト回転ローラとを接触させるためバネ部材の付勢力に抗してボールを下方に押し下げる力量と比較的に大きなストロークが必要となる。したがって、この構成を採った場合、操作感を阻害してしまうという問題点がある。また、光センサーを使用する仕様のものでは、その光束路を阻害してしまう等の問題点もある。
【0012】
本発明は、上述した点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、トラックボールユニットを具備し携帯可能で小型の電子機器において、トラックボールと機器筐体との隙間(クリアランス)を簡単な構成でなくしながら、操作性を阻害することなく、いわゆるカタカタ音等の騒音を抑止することのできる電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の一態様の電子機器は、携帯用電子機器であって、回動自在に配設されるボールと、電気基板上に実装され上記ボールの回転を検出する検出手段と、上記ボール及び上記検出手段を内部に収納するユニット筐体と、上記ユニット筐体の内部に収納された上記ボールを上記ユニット筐体の内部における一方向へ向けて押圧する弾性環状部材とからなるトラックボールユニットを具備し、上記弾性環状部材は、環状内周部から内側に向けて突出する腕部が形成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、トラックボールユニットを具備し携帯可能で小型の電子機器において、トラックボールと機器筐体との隙間(クリアランス)を簡単な構成でなくしながら、操作性を阻害することなく、いわゆるカタカタ音等の騒音を抑止することのできる電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態の電子機器を示す外観斜視図、
【図2】図1の電子機器に適用されるトラックボールユニットのみを取り出して示す外観斜視図、
【図3】図2のトラックボールユニットを分解して示す分解斜視図、
【図4】図2のトラックボールユニットの縦断面図、
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図示の実施の形態によって本発明を説明する。
【0017】
まず、本発明の一実施形態の電子機器の概要を説明する。本実施形態の電子機器1は、録音機能を備えた外部機器(不図示)、例えばパーソナルコンピュータ等の外部機器との間で例えばUSBによる接続である有線接続を行って、音声等の録音を行う際に使用されるマイクロフォンとしての携帯用電子機器である。さらに言い換えるとトラックボール付きUSBマイクと言ってもよい。なお、本実施形態で示す例では、外部機器との接続を有線接続とするものを示しているが、これ以外の接続手段、例えば無線接続によるものであってもよい。
【0018】
また、以下の説明に用いる各図面においては、各構成要素を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各構成要素毎に縮尺を異ならせて示している場合がある。したがって、本発明は、これらの図面に記載された構成要素の数量,構成要素の形状,構成要素の大きさの比率及び各構成要素の相対的な位置関係は、図示の形態のみに限定されるものではない。
【0019】
図1に示す携帯用電子機器(以下、単に電子機器という)1は、箱型形状の筐体2と、この筐体2の一面(図1において主に示される面;以下、この面を上面という)に配設される複数の操作部材11と、筐体2の他の面から延出される接続ケーブル3(図1では基端部のみを図示している)と、筐体2の内部に設けられる複数の電気的構成部材(図1では不図示)等によって主に構成される。
【0020】
筐体2の上面に設けられる複数の操作部材のうち、当該上面の略中央部分に配設される操作部材は、ポインティングデバイスの一種であるトラックボールユニット10(詳細構成は後述する)の一部であるボール10aである。また、上記ボール10a以外の複数の操作部材11としては、例えば録音ボタン(REC),再生ボタン(PLAY),停止ボタン(STOP),再生送りボタン(FF),再生戻しボタン(REW)等である。これら複数の操作部材11は、例えば押圧操作式のものやスライド操作式のものが適用されている。
【0021】
上記複数の操作部材11が配設されている筐体2の上面と同一面上の所定の部位には、複数の孔の集合からなるマイク用孔部1aとスピーカ用孔部1bとが形成されている。これらマイク用孔部1a,スピーカ用孔部1bは、筐体2の内部に設けられるマイク,スピーカにそれぞれ対応する位置に形成されている。
【0022】
次に、上記トラックボールユニット10の詳細構成を、図2〜図4を用いて以下に説明する。
【0023】
本実施形態の電子機器1に適用されるトラックボールユニット10は、図に示すように、ビス18を用いて電気基板14上に固定配置されている。電気基板14は筐体2の内部に固設され、本電子機器1における各種の電気的構成部材を実装する基板である。
【0024】
トラックボールユニット10は、主操作部材であるボール10aと、ユニット筐体を構成する上カバー12(第2の部材)及び下カバー13(第1の部材)と、ボール10aの保持手段である弾性環状部材(ボール付勢部材,弾性部材)15と、レンズ16及びセンサ17等からなる検出手段等によって主に構成されている。
【0025】
なお、トラックボールユニット10自体の構成については、従来のトラックボールユニットと略同様の構成からなるものとして、その詳細な説明は省略し、本発明に直接関連する特徴的構成部分のみを以下に詳述する。
【0026】
即ち、本実施形態の電子機器1に適用されるトラックボールユニット10においては、ボール10aを保持する保持手段である弾性環状部材15の形状に特徴を有する。この弾性環状部材15は、耐摩耗性を有し摺動性を備えると共に弾性力を有するシート状部材によって、その全体的な概略形状は、センサ17からの発光光と反射光とを通過させるため中央に開口を有する略円環形状に形成されている。この弾性環状部材15の環状内周の直径は、ボール10aの直径よりも小径となるように形成されている。また、この弾性環状部材15の環状内周部には、内側に向けて突出するような形状の腕部15aが複数形成されている。なお、腕部15aは1つであってもよい。
【0027】
本実施形態においては、上記腕部15aは、図3に示すように、互いに対向する部位に二つ形成した例を示している。この腕部15aについては、この例に限られることはなく、一つ以上形成されておればよく、例えば三本以上形成するようにしてもよい。その場合において、複数設ける腕部15aの配置は、環状内周部に沿って等間隔に設けるようにするのが望ましい。また、上記実施形態では、腕部15aの形状は、図3に示すように、略矩形状としているが、この例に限られることはなく、例えば先端を半円形としたり、先端を鋭角とする略三角形状等としてもよい。
【0028】
上記弾性環状部材15は、本トラックボールユニット10を組み立てた状態とした時、下カバー13内の載置面13aに載置され、その上にボール(トラックボール)10aが載せられた状態になる。この状態で、上カバー12(第2の部材)は、ボール10a及び下カバー13の外面を覆うように配置される。この状態でボール10aとセンサ17との相対距離が維持される。このとき、下カバー13は、電気基板14上に固設されていて、該下カバー13によって、電気基板14上のレンズ16,センサ17(検出手段,検出素子)等の電気部材等が覆われている。
【0029】
下カバー13の底面及び上面のそれぞれには、所定のサイズ,形状を有する開口が形成されている。したがって、電気基板14上に実装された上記レンズ16,トラックボール10aの任意の方向の回転を検出するセンサ17(検出手段,検出素子)等の電気部材等は、下カバー13の底面側の開口から下カバー13内部の所定の部位に適宜露呈するように構成されている。これらの電気部材等は、下カバー13の上部に配設されるボール10aに対しては、上面側の開口を介して露呈されるように配置されている。
【0030】
このような形態で組み立てられた状態となった本トラックボールユニット10は、ボール10aの頂部側の一部が上カバー12の上部開口12aから突出状態で外部に露呈するように配設される。そして、この状態において、ボール10aは回動自在に保持されている。
【0031】
なお、トラックボールユニット10が、本電子機器1の内部の所定部位に配設された状態では、ボール10aの頂部側の一部は、図1に示すように、さらに機器筐体2の上面から若干突出して露呈した状態で配設される。そのために、筐体2の上面にはボール10aを外部に露呈させ、ボール10aを任意の方向に回転可能に保持するための貫通孔(ボール開口)が形成されている。
【0032】
この場合において、筐体2の貫通孔の直径は、ボール10aの直径よりも若干小径となるように形成されている。さらに、上カバー12の上部開口12aの直径も、ボール10aの直径よりも若干小径に形成されている。そのために、通常の状態では、ボール10aは、上部開口12a及び筐体2の貫通孔から外部に飛び出してしまうことがないように構成されている。
【0033】
一方、本トラックボールユニット10は、上述したように上記弾性環状部材15が下カバー13内の載置面13aに載置され、その上にボール10aが載せられた状態で組み立てられている。換言すれば、上記弾性環状部材15は、ボール10aの下側に敷かれた状態になっている。このとき、弾性環状部材15の腕部15aは、図4に示すように、ボール10aが開口12aの内周の縁と弾性環状部材15とで挟まれて、下方に向けて若干撓んだ状態になる。このとき、ボール10aの最下点は、弾性環状部材15の内周内に侵入している。これと同時に、腕部15aの弾性力は、ボール10aを上方に向けて押し上げている状態でもある。したがって、この状態において、ボール10aは、上カバー12の上部開口12aの内周の縁に当接した状態になっている。つまり、弾性環状部材15の腕部15aの弾性力は、ボール10aと上部開口12aの内周縁部との間に隙間(クリアランス)が形成されることを抑止する役目をしている。したがって、ボール10aは、弾性環状部材15の腕部15aと上部開口12aの内周縁部との間に隙間無く保持されるので、使用者が該電子機器1を持ち歩いたとしても、カタカタ音等が発生することがない。
【0034】
一方、この状態で、使用者がボール10aを回転操作すると、弾性環状部材15の腕部15aを撓ませ、この反力である弾性力に抗してボール10a自体が若干押し下げられてスムースな回転が確保される。この場合において、弾性環状部材15は、摺動性を備えたシート状部材からなるので、その弾性力が操作性を阻害するほど大きなものではない。
【0035】
以上説明したように構成された一実施形態によれば、ボール10aを保持する弾性環状部材15の環状内周部から内側に向けて腕部15aを設け、その弾性力によってボール10aを上部開口12aの内周縁部に当接させることによって、ボール10aを保持するように構成した。この構成によって、電子機器1の携帯時等にボール10aが移動することで生じるカタカタ音等を抑止することができる。
【0036】
また、上記弾性環状部材15の腕部15aを設けることによって、ボール10aと上部開口12aとの間に隙間を形成しないように構成すると同時に、ボール10aを上部開口12aに押し当てている腕部15aの弾性力が、ボール10aの回転操作を阻害することもない。換言すれば、ボール10aの回転操作を阻害することなく、ボール10aと上部開口12aとの間の隙間を排除しながら良好な操作性を得ることができる。
【0037】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用を実施し得ることが可能であることは勿論である。さらに、上記実施形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせによって、種々の発明が抽出され得る。例えば、上記一実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題が解決でき、発明の効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、上記実施の形態で例示したマイクロフォン等の電子機器に限られることはなく、トラックボールを備え得る他の形態の電子機器、例えば携帯電話,ICレコーダ,電子手帳,パーソナルコンピュータ,ゲーム機器,テレビ,時計,GPS(Global Positioning System)を利用したナビゲーション機器,カメラ,双眼鏡,望遠鏡,顕微鏡等、各種の電子機器にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1……携帯用電子機器,2……筐体,3……接続ケーブル,10……トラックボールユニット,10a……ボール,11……操作部材,12……上カバー,12a……上部開口,13……下カバー,14……電気基板,15……弾性環状部材,15a……腕部,16……レンズ,17……センサ,18……ビス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラックボールを備えた電子機器であって、
回動自在に配設されるボールと、電気基板上に実装され上記ボールの回転を検出する検出手段と、上記ボール及び上記検出手段を内部に収納するユニット筐体と、上記ユニット筐体の内部に収納された上記ボールを上記ユニット筐体の内部における一方向へ向けて押圧する弾性環状部材と、からなるトラックボールユニットを具備し、
上記弾性環状部材は、環状内周部から内側に向けて突出する複数の腕部が形成されていることを特徴とするトラックボールを備えた電子機器。
【請求項2】
上記弾性環状部材は、上記ボールの下側に配置され、上記環状内周の直径が上記ボールの直径よりも小径となるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のトラックボールを備えた電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−101493(P2013−101493A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244765(P2011−244765)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(504371974)オリンパスイメージング株式会社 (2,647)
【Fターム(参考)】