説明

トランス

【課題】 製造性が良いとともに、特性がばらつき難く、しかも、コアの損傷を防止することが可能なトランスを提供する。
【解決手段】 トランス1は、コア6と、コイル11,13と、樹脂部材15を具備する。コア6はフェライトの圧粉体からなる。このコア6を、磁芯部7の一端に第1鍔部8を一体に設け、磁芯部7の他端に第2鍔部9を一体に設けて形成する。コイル11,13を、磁芯部7に巻き付けて第1、第2の鍔部間に配置する。樹脂部材15は、樹脂材に磁性粉末を混ぜてなりコア6とともに閉磁路16を形成する。この樹脂部材15を、コイルを取り巻くように鍔部8,9間を埋めたコイル埋設部15aと、この埋設部に一体に形成されて第1鍔部8の周面に被着された第1カバー部15bと、コイル埋設部15aに一体に形成されて第2鍔部9の周面に被着された第2カバー部15cとを有した構成としたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話のような携帯機器等に搭載されるトランスに関する。
【背景技術】
【0002】
直流重畳特性の改善又は直流に対する低抵抗化を可能とするために、ドラムコアと、コイルと、磁性粉末入り樹脂層を備えたチョークコイルが、従来技術として知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ドラムコイルは磁芯部の両端に円板状の鍔部を設けてなり、コイルは磁芯部に巻装されている。磁性粉末入り樹脂層は、コイルを取り巻くように塗布されてドラムコアに固着され、コイルを埋設して鍔部間に設けられている。磁性粉末入り樹脂層の外径はドラムコアの鍔部の径より小さく、こうした磁性粉末入り樹脂層を設けたことによって閉磁路が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−67081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のチョークコイルは、コイルを埋めた磁性粉末入り樹脂層が、ドラムコアの鍔部間にのみ限定して設けられた構成であるため、製造性が良くないとともに、磁性粉末入り樹脂層を各部均一に設け難い。つまり、ドラムコアの鍔部間が周方向に連続した溝を形成していて、この溝の底がコイルで形成されているため、ドラムコアの周方向に沿って磁性粉末入り樹脂層を前記溝内に直接塗布する作業が面倒である。これとともに、塗布量や塗布速度のばらつきにより、ドラムコアの周方向の各位置で樹脂の半径方向の幅、言い換えれば、コイルに接した樹脂層の内周面と樹脂層の外周面との間の寸法が各部でばらつき易いため、前記閉磁路の各部の磁路断面積がばらつく。
【0006】
このように従来の構成では、製造性が良くないとともに、閉磁路の磁路断面積のばらつきに伴ってインダクタンス特性がばらつき易い、という課題がある。更に、従来の構成では磁性粉末入り樹脂層はドラムコアの鍔部を覆っていないので、圧粉体からなるドラムコアの鍔部を磁性粉末入り樹脂層で保護することができない、という課題がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、製造性が良いとともに、特性がばらつき難く、しかも、コアの損傷を防止することが可能なトランスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、フェライトの圧粉体からなり、磁芯部の一端に第1鍔部が一体に形成されるとともに前記磁芯部の他端に第2鍔部が一体に形成されたコアと、前記磁芯部に巻き付けられて前記第1、第2の鍔部間に配置されたコイルと、樹脂材に磁性粉末を混ぜてなるとともに、前記コイルを取り巻くように前記鍔部間を埋めたコイル埋設部、この埋設部に一体に形成されて前記第1鍔部の周面に被着された第1カバー部、及び前記コイル埋設部に一体に形成されて前記第2鍔部の周面に被着された第2カバー部を有して、前記コアとともに閉磁路を形成する樹脂部材と、を具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製造性が良いとともに、特性がばらつき難く、しかも、コアの損傷を防止することが可能なトランスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(A)は本発明の第1の実施形態に係るトランスを示す平面図である。(B)は図1(A)中F1−F1線に沿って示す断面図である。
【図2】(A)は本発明の第2の実施形態に係るトランスを示す平面図である。(B)は図2(A)中F2−F2線に沿って示す断面図である。(C)は第2の実施形態に係るトランスが備えるコアを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の第1の実施形態について、図1(A)及び図1(B)を参照して詳細に説明する。
【0012】
図中符号1は携帯電話に搭載される昇圧用のトランスを示している。このトランス1は、台座2と、コア6と、一次コイル11と、二次コイル13と、樹脂部材15を具備している。
【0013】
台座2は、平面視形状が例えば四角形をなす台座本体3に、一対の第1絡げ端子4及び一対の第2絡げ端子5を取付けて構成されている。
【0014】
台座本体3は、電気絶縁性の合成樹脂の成形品であって、位置決め部3aを有している。位置決め部3aは例えば台座本体3の互いに平行な一対の側縁部の肉厚を他の部位より厚くすることによって形成されている。そのため、位置決め部3aを横切る方向に沿う台座本体3の断面において、台座本体3の位置決め部3a間の部位は図1(B)に示すように凹んでいる。
【0015】
第1絡げ端子4は一方の位置決め部3aから側方に突設されている。第2絡げ端子5は他方の位置決め部3aから側方にかつ第1絡げ端子4とは逆向きに突設されている。
【0016】
コア6は、フェライトの粉末を圧縮成型してなる圧粉体からなり、図1(B)に示すように磁芯部7と、第1鍔部8と、第2鍔部9とを有した、ドラムコアである。
【0017】
磁芯部7は例えば角柱状である。第1鍔部8は磁芯部7の軸方向一端に一体に形成されていて、この第1鍔部8の中央部に磁芯部7の軸方向一端が繋がっている。同様に、第2鍔部9は磁芯部7の軸方向他端に一体に形成されていて、この第2鍔部9の中央部に磁芯部7の軸方向他端が繋がっている。第1鍔部8及び第2鍔部9の平面視形状は、台座本体3の形状に見合っていて、図1(A)に示すように略四角形状である。これとともに、第1鍔部8及び第2鍔部9は略同じ大きさに形成されている。
【0018】
コア6は、その第2鍔部8を位置決め部3a間に嵌め合わされてこれら位置決め部3aによって台座本体3に対し適正位置に位置決めされている。このコア6は台座本体3の上面に接着剤を用いて固定されている。第2鍔部8の厚みは位置決め部3aの厚みより厚い。
【0019】
図1(B)に示すように一次コイル11と二次コイル13は共に磁芯部7の周囲に設けられて第1鍔部8と第2鍔部9との間に配置されている。一次コイル11は磁芯部7に巻き付けられている。二次コイル13は一次コイル11を介して磁芯部7に巻き付けられており、したがって、二次コイル13は一次コイル11の外周に巻き付けられている。二次コイル13の外周の大きさは第1鍔部8及び第2鍔部9の大きさより小さい。このため、次に説明する樹脂部材15が装着される前の状態では、二次コイル13の外周を底とする環形の溝(図示しない)が第1鍔部8と第2鍔部9との間に形成されるようになっている。一次コイル11の図示しない端末部は第1絡げ端子4に絡げられた上で半田付けにより接続されている。同様に、二次コイル13の図示しない端末部も第2絡げ端子5に絡げられた上で半田付けにより接続されている。
【0020】
樹脂部材15は、樹脂材に磁性粉末を混ぜてなり、図1(B)に点線で代表して示す閉磁路16をコア6とともに形成して設けられている。樹脂材は、熱硬化性の合成樹脂、例えばエポキシ樹脂であり、磁性粉末には、Ni−Znフェライト粉末やMn−Znフェライト粉末等が用いられている。
【0021】
この樹脂部材15は、コイル埋設部15aと、第1カバー部15bと、第2カバー部15cと、第3カバー部15dを有している。
【0022】
コイル埋設部15aは、前記溝に満たされて二次コイル13を取り巻くように第1鍔部8と第2鍔部9との間を埋めて設けられている。第1カバー部15bは、コイル埋設部15aに一体に形成されてコア6の第1鍔部8の周面に被着して設けられている。第2カバー部15cは、コイル埋設部15aに一体に形成されてコア6の第2鍔部9の周面に被着して設けられている。なお、正確には、第2鍔部9の周面のうちで前記位置決め部3aから食み出した部位の周面に、第2カバー部15cが被着されている。第3カバー部15dは、第1鍔部8の端面8aに被着されていて、その周部は第1カバー部15bに一体に繋がっている。第1カバー部15b、第2カバー部15c、及び第3カバー部15dは、いずれもコイル埋設部15aより薄肉であり、第1カバー部15bと第2カバー部15cはコイル埋設部15aを境に磁芯部7の軸方向に沿って互に反対方向に突出して設けられている。
【0023】
前記構成のトランス1の樹脂部材15は、コア6の第1鍔部8と第2鍔部9との間に密に充填されたコイル埋設部15aだけではなく、コア6の周囲に溢れるように食み出して第1鍔部8及び第2鍔部9の周面に夫々被着された第1カバー部15b及び第2カバー部15cを有している。樹脂部材15はポッティング又は塗布によって設けられている。
【0024】
これらポッティング又は塗布は、コイル11,13が巻き付けられたコア6をその第1鍔部8が上向きとなるように配置した状態で、このコア6の周囲に樹脂部材15の形状を規制するための成形枠(図示しない)を配置して行われる。成形枠はその内面に樹脂部材15に対する剥離層を有している。この成形枠は、コア6の周面との間に、第1カバー部15b及び第2カバー部15cの厚みに相当する環形の隙間を形成し、かつ、下端部を台座2に接して配置される。それにより、成形枠と第2鍔部9の外周との間に形成された下位置の環形の隙間は台座2により下方から閉じられ、成形枠と第1鍔部8の外周との間に形成された上位置の環形の隙間は上方に開放されている。
【0025】
この状態で、磁性粉末が混ぜられた未硬化の樹脂部材を、ポッティング装置を用いてコア6の上方からポッティングによって滴下させて所定量供給することで、又は、同じく未硬化の樹脂部材を、上方に開放されている前記上位置の環形の隙間に、上方からディスペンサノズルを用いて所定量供給することで、コア6と成形枠との間の隙間に充填することができる。
【0026】
この場合、第2鍔部9と成形枠との間の下位置の隙間に対しては、それより上側に供給される未硬化の樹脂部材があることで、確実に前記下位置の隙間に未硬化の樹脂部材を密に充填できる。同様に、第1鍔部8と第2鍔部9との間に対しては、それより上側の第1鍔部8と成形枠との間の上位置の隙間に未硬化の樹脂部材が供給されることで、確実に第1鍔部8と第2鍔部9との間に未硬化の樹脂部材を密に充填できる。これにより、閉磁路16を形成するためのコイル埋設部15aの各部の磁路断面積がばらつくことがなくなる。更に、前記上位置の隙間に対しては、未硬化の樹脂部材の供給量が定量である限り、第1鍔部8の周面を覆った状態に充填できる。しかも、本実施形態では、第3カバー部15dに相当する分を含めて未硬化の樹脂部材が供給されるに伴い、この樹脂部材が前記上位置の隙間の上側にも供給されるので、この上位置の隙間に対しても密に未硬化の樹脂部材を充填できる。
【0027】
こうして定量の未硬化の樹脂部材が供給された後、成形枠ごと加熱用のオーブン等で加熱されて、未硬化の樹脂部材が硬化される。硬化された樹脂部材15はコア6及び両コイルに被着される。これにより、形成されたトランス1は、成形枠を分解して外すことにより取出される。
【0028】
以上のように樹脂部材15をポッティング又はディスペンサで塗布して設けたので、溶融させた樹脂を射出成形型に注入して樹脂部材を形成する場合と比較して、製造性が良い。これとともに、閉磁路16の形成を担うコイル埋設部15aは、コア6の第1鍔部8と第2鍔部9との間に未硬化の樹脂部材を直接供給して塗布するのではなく、既述のように第1鍔部8とこれを囲んで配設された成形枠との間の前記上位置の隙間を通して未硬化の樹脂部材が供給される。
【0029】
このため、未硬化の樹脂部材の供給量や供給速度のばらつきに拘らず、簡単に第1鍔部8と第2鍔部9との間に密に樹脂部材15を充填できる。これにより、二次コイル13の外周に接したコイル埋設部15aの内周面とコイル埋設部15aの外周面との間の寸法がばらつくことが抑制されて、閉磁路16の一部をなすコイル埋設部15aの磁路断面積がばらつきかないので、特性のばらつきも抑制できる。
【0030】
更に、製造されたトランス1は、その圧粉体からなるコア6の第1鍔部8及び第2鍔部9の周面に、夫々磁性粉末入りの樹脂部材15が被着されている。樹脂部材15が第1鍔部8及び第2鍔部9を包囲している。このため、樹脂部材15の第1カバー部15b及び第2カバー部15cによって、コア6の第1鍔部8及び第2鍔部9が損傷しないように保護することができる。加えて、第1の実施形態のトランス1は、樹脂部材15が第3カバー部15dを有しているので、コア6全体が樹脂部材15で覆われていて、外観が良い。
【0031】
以上のように第1実施形態によれば、製造性が良いとともに、特性がばらつき難く、しかも、コア6の損傷を防止することが可能なトランス1を提供できる。又、このトランス1は、ドラムコアの外周にフェライト製のリングコアを嵌合させて閉磁路を形成する構成に比較して、部品数が少なく、かつ、コンパクトである。
【0032】
次に、図2(A)〜図2(C)を参照して本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、以下説明する事項を除いて第1実施形態と同様である。第1実施形態と機能が同じ構成については、第1実施形態と銅符号を付してその説明を省略する。
【0033】
第2実施形態のトランス1は台座に相当する部品を備えていない点で第1実施形態とは異なる。
【0034】
即ち、第2実施形態では、フェライトの圧粉体からなるコア6の第1鍔部8が、図2(B)に示すように周部に段差8bを有していて、図2(A)及び図2(C)に示すように略楕円形状に形成されている。また、コア6の磁芯部7は円柱状である。
【0035】
図2(B)及び図2(C)に示すようにコア6の第2鍔部9は、第1鍔部8より大きく平面視略四角形状に形成されていて、その裏面に溝9a,9bと仕切り部9cを有している。これら溝9a,9bと仕切り部9cは互に平行であり、仕切り部9cの両側に溝9a,9bが設けられている。これとともに、溝9a,9bの両端は夫々開放されている。
【0036】
更に、第2鍔部9にはめっき層からなる電極めっき部9dが四箇所設けられている。なお、図2(C)では、電極めっき部9dを識別し易くする都合上、電極めっき部9dにハッチングを付してこの電極めっき部9dが描かれている。図2(C)に示すように電極めっき部9dは、溝9a,9bの長手方向の端部、及び第2鍔部9の側面にわたって夫々設けられている。溝9a,9bの長手方向の一端部に設けられた電極めっき部9dには一次コイル11の端末部が溝9a,9b内において半田付けにより接続され、溝9a,9bの長手方向の他端部に設けられた電極めっき部9dには二次コイル13の端末部が溝9a,9b内において半田付けにより接続されるようになっている。こうした構成により、台座を用いないトランス1を構成できる。
【0037】
又、第2実施形態では、樹脂部材15が、第1実施形態で説明した第3カバー部に相当する構成を備えておらず、第1カバー部15bが第1鍔部8の周面及び段差8bに被着して設けられている。このため、第1鍔部8の端面8aは樹脂部材15で覆われることなく露出されている。
【0038】
以上説明した事項以外は第1実施形態と同じである。したがって、第2実施形態によれば、第1実施形態で既に説明した理由によって、製造性が良いとともに、特性がばらつき難く、しかも、樹脂部材15によってコア6の損傷を防止することが可能なトランス1を提供できる。更に、第2実施形態のトランス1は、既述のように台座を備えないので、第1実施形態のトランスと比較して、部品点数が少なく、構成が簡単で、かつ、コストを低減することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1…トランス、6…コア、7…磁芯部、8…第1鍔部、9…第2鍔部、11…一次コイル、13…二次コイル、15…樹脂部材、15a…コイル埋設部、15b…第1カバー部、15c…第2カバー部、16…閉磁路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライトの圧粉体からなり、磁芯部の一端に第1鍔部が一体に形成されるとともに前記磁芯部の他端に第2鍔部が一体に形成されたコアと、
前記磁芯部に巻き付けられて前記第1、第2の鍔部間に配置されたコイルと、
樹脂材に磁性粉末を混ぜてなるとともに、前記コイルを取り巻くように前記鍔部間を埋めたコイル埋設部、この埋設部に一体に形成されて前記第1鍔部の周面に被着された第1カバー部、及び前記コイル埋設部に一体に形成されて前記第2鍔部の周面に被着された第2カバー部を有して、前記コアとともに閉磁路を形成する樹脂部材と、
を具備することを特徴とするトランス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−109317(P2012−109317A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255203(P2010−255203)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(592074441)東京コイルエンジニアリング株式会社 (62)
【Fターム(参考)】