説明

トリアリールメタン系及びローダミン系顔料組成物並びにこれらを用いた顔料分散体

【課題】 耐光性及び耐熱性に優れた、トリアリールメタン構造及び/又はローダミン構造を有するレーキ顔料並びにこれを用いた顔料分散体を提供する。
【解決手段】
トリアリールメタン構造及び/又はローダミン構造を有するレーキ顔料から選択される未処理顔料を、置換若しくは非置換のアリールスルホン酸及び置換若しくは非置換のアリールカルボン酸からなる群から選択される有機酸で処理したことを特徴とする顔料組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアリールメタン系及びローダミン系顔料組成物に関し、より詳細には、耐光性及び耐熱性に優れたトリアリールメタン系及びローダミン系顔料組成物並びにこれらを用いた顔料分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、トリアリールメタン系の染料および顔料は、トナー、インクジェット用インク、カラーフィルタなどに用いられてきた(特許文献1〜4)。
【0003】
しかし、トリアリールメタン系の染料および顔料には、フタロシアニン顔料等と比べると、耐熱性、耐光性が劣るという欠点があった。そこで、この欠点を解消するための試みが為されている。例えば、トリフェニルメタン染料を含むポリマーを用いたカラーフィルタの開発が試みられている(特許文献5)。また、トリアリールメタンと有機酸との塩などを用いる試みが為されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−006659号公報
【特許文献2】特開昭61−036758号公報
【特許文献3】国際公開第2002/100959号
【特許文献4】特開平11−223720号公報
【特許文献5】特開2000−162429号公報
【特許文献6】特開2006−306933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記で得られるトリアリールメタン系顔料の耐光性及び耐熱性は未だ不十分であり、製造工程も複雑であり、実用化には至っていないのが実情である。
【0006】
そこで、本発明の目的は、耐光性及び耐熱性に優れたトリアリールメタン系顔料組成物及びこれを用いた顔料分散体を提供し、更に、耐光性及び耐熱性に優れたローダミン系顔料組成物及びこれを用いた顔料分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、トリアリールメタン構造を有するレーキ顔料及びローダミン構造を有するレーキ顔料をアリール基を有するスルホン酸又はカルボン酸で処理することにより、大幅に顔料の耐光性及び耐熱性を向上させることを見出したことに基づいて為されたものである。
【0008】
即ち、本発明の顔料組成物は、化1で表されるトリアリールメタン構造及び/又は化3で表されるローダミン構造を有するレーキ顔料から選択される未処理顔料を、置換若しくは非置換のアリールスルホン酸及び置換若しくは非置換のアリールカルボン酸からなる群から選択される有機酸で処理したことを特徴とする。
【0009】
【化1】

【0010】
ここで、化1において、R1、R2、R3、R4は、互いに独立して、−H、−CH3、C25、−Ph(フェニル基)、−PhCH3、−CH2Ph(SO3・1/2Ba)、又は−CH2Ph(SO3・1/2Al)であり、Rは、化2に示す置換又は非置換のフェニル基又はナフチル基であり、
【0011】
【化2】

【0012】
化2において、R5は、−H、−NHCH3、−N(CH32、−N(C252、−NHPh、又は−NHPh(CH3)(SO3H)若しくはその塩、R6は、−H、−Cl、又は−SO3H若しくはその塩、R7は、−NHC25であり、
【0013】
【化3】

【0014】
化3において、R8、R9、R10、R11は、互いに独立して−H、又はアルキル基であり、R12は、−H、アルキル基、又は置換若しくは非置換のフェニル基である。
【0015】
本発明の顔料分散体は、上記顔料組成物を用い、分散処理を施すことにより得られる顔料分散体である。
【0016】
また、本発明の顔料分散体は、化1で表されるトリアリールメタン構造及び/又は化3で表されるローダミン構造を有するレーキ顔料から選択される未処理顔料を、置換若しくは非置換のアリールスルホン酸及び置換若しくは非置換のアリールカルボン酸からなる群から選択される有機酸の存在下に分散処理することによっても得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のトリアリールメタン系及びローダミン系顔料組成物は、アリールスルホン酸又はアリールカルボン酸で処理することにより、顔料粒子の表面に何らかの状態変化を起こさせ、これを用いて顔料分散体を調製し、この分散体を用いて例えばカラーフィルタを作製すれば、耐光性及び耐熱性に優れた塗膜が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において使用されるトリアリールメタン系顔料は、前述の化1に示す化学構造式のイオンを有するレーキ顔料であり、具体的には、C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー1:2、C.I.ピグメントブルー9、C.I.ピグメントブルー14、C.I.ピグメントブルー24、C.I.ピグメントバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット3:1、C.I.ピグメントバイオレット3:3、C.I.ピグメントバイオレット27、C.I.ピグメントバイオレット39、C.I.ピグメントブルー78、C.I.ピグメントグリーン1、C.I.ピグメントグリーン2、C.I.ピグメントグリーン4、C.I.ピグメントブルー56、C.I.ピグメントブルー56:1、C.I.ピグメントブルー61、C.I.ピグメントブルー61:1、C.I.ピグメントブルー62等のレーキ顔料が挙げられる。
【0019】
また、本発明において使用されるローダミン系顔料は、前述の化3に示す化学構造式のイオンを有するレーキ顔料であり、具体的には、ピグメントバイオレット1、ピグメントバイオレット1:1、ピグメントバイオレット2、ピグメントバイオレット2:2、ピグメントバイオレット81、ピグメントレッド81:1、ピグメントレッド81:2、ピグメントレッド81:3、ピグメントレッド81:4、ピグメントレッド169、ピグメントレッド173等のレーキ顔料が挙げられる。
【0020】
トリアリールメタン系顔料及び/又はローダミン系顔料におけるレーキ剤としては、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、リンタングステンモリブデン酸、フェロシアニン銅、シリコンモリブデン酸、アルミニウムを例示することができる。
【0021】
本発明において、トリアリールメタン系顔料及び/又はローダミン系顔料を処理するための有機酸は、置換若しくは非置換のアリールスルホン酸及び/又は置換若しくは非置換のアリールカルボン酸である。ここで、置換若しくは非置換のアリールスルホン酸とは、置換基を有し若しくは置換基を有していないアリール基を有するスルホン酸をいい、置換若しくは非置換のアリールカルボン酸とは、置換基を有し若しくは置換基を有していないアリール基を有するカルボン酸をいう。置換若しくは非置換のアリールスルホン酸としては、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メチルベンゼンスルホン酸、ジメチルベンゼンスルホン酸などのアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ジアルキルナフタレンスルホン酸などが挙げられ、さらに、ピリジンスルホン酸などヘテロ環を含むものでもよい。また、いずれにおいてもアミノ基やヒドロキシル基で置換されてもよく、ナトリウム、カルシウムやカリウムなどの塩でもよい。これらの酸の具体例として、化4に示す、2−ナフタレンスルホン酸ナトリウム、2−ナフタレンスルホン酸水和物、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−sec−ブチル−4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、パラスチレンスルホン酸ナトリウム、3−メチル−1−(4−スルホフェニル)−5−ピラゾロン等を挙げることができる。また、置換若しくは非置換のアリールカルボン酸としては、安息香酸(ベンゼンカルボン酸)、フタル酸、トリメリット酸、ナフトエ酸(ナフタレンカルボン酸)、化4に示すナフタレン−2,3−ジカルボン酸のようなナフタル酸(ナフタレンジカルボン酸)、また、メチル安息香酸、ジメチル安息香酸、サリチル酸(ヒドロキシ安息香酸)、フタロン酸(2−(カルボキシカルボニル)安息香酸)、ヒドロキシナフタレンカルボン酸、などの置換されたものや、さらにこれらのナトリウム、カルシウムやカリウムなどの塩でもよい。
【0022】
【化4】

【0023】
本発明におけるアリールスルホン酸及び/又はアリールカルボン酸による「処理」とは、上記未処理顔料の表面にこれらの酸をコーティングする処理を含み、典型的には、アリールスルホン酸及び/又はアリールカルボン酸の溶液に上記未処理顔料を投入し、所定の温度で所定時間攪拌した後、顔料を濾過して分離することをいう。この場合のスルホン酸及び/又はカルボン酸の溶液には、酢酸、クエン酸、ギ酸、シュウ酸等の酸を添加しておくことが好ましい。これらの酸を添加することにより、顔料表面のカチオン部分を活性化させてスルホン酸の吸着を促進し、顔料の分散性を向上させることができる。酢酸を添加する場合の好ましい濃度は、0.5質量%以上であって顔料が溶解しない範囲である。また、上記処理の温度は、60〜100℃の範囲が好ましい。
【0024】
本発明の分散体は、トリアリールメタン系顔料及び/又はローダミン系顔料をアリールスルホン酸及び/又はアリールカルボン酸で処理した顔料組成物を用いて溶媒に分散させたものである。分散の方法は、例えば、ペイントコンディショナー、サンドミル、アペックスミル、ディスパーマットを用いる方法を例示することができる。
【0025】
また、本発明においては、トリアリールメタン系顔料及び/又はローダミン系顔料の分散と同時にアリールスルホン酸及び/又はアリールカルボン酸による処理を行うこともできる。その場合のアリールスルホン酸及び/又はアリールカルボン酸の添加量は、未処理顔料100質量部に対して、1〜20質量部、好ましくは5〜20質量部である。具体的な分散方法は、上記の顔料組成物の分散方法と同様である。
【0026】
本発明の顔料組成物及び顔料分散体の調製に際して、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤の添加により、界面活性剤が顔料表面に吸着されて顔料の分散性が向上する。本発明において使用し得る界面活性剤としては、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、リグニンスルホン酸等のスルホン酸系のものを例示することができる。
【0027】
本発明の顔料分散体において使用し得る溶剤としては、一般に使用される溶剤であれば特に限定されるものではないが、一般に染料に比べて顔料が耐光性良好であるといわれているとおり、顔料を溶解させないもののほうが耐熱性・耐光性にとってより好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明について具体的な実施例に基づいて説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。なお、本明細書中における「部」及び「%」は、特に明示する場合を除いて、それぞれ「質量部」、「質量%」を表す。
【0029】
(実施例1)
表1に示すように、未処理のC.I.ピグメントブルー1を10部と、2−ナフタレンスルホン酸ナトリウム1部とを2.5%酢酸水溶液250部に投入し、ディスパーで十分撹拌した後、80℃に昇温し、2時間撹拌した。得られたスラリーをろ過し、沈殿を水洗した後、80℃一晩乾燥して目的の顔料組成物9.9部を得た。
【0030】
この顔料組成物を5部と、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート36.7部と、高分子系分散剤(BYK170、ビックケミー・ジヤパン社製)8.3部とを、φ0.5mmのジルコニアビーズとともにラッカー瓶に入れ、ペイントコンディショナーで1時間分散した後、アクリル樹脂(SPC−2000、昭和高分子(株))0.2部を加え、青色顔料分散体を得た。
【0031】
(実施例2〜11)
表1に示す各成分を用い、実施例1と同様にして実施例2〜11の青色顔料分散体を得た。なお、実施例9及び10においては、界面活性剤はC.I.ピグメントブルー1と2−ナフタレンスルホン酸ナトリウム1部とともに酢酸水溶液に投入した。
【0032】
(比較例1〜2)
表1に示す未処理顔料をそのまま使用し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート36.7部と、高分子系分散剤(BYK170、ビックケミー・ジヤパン社製)8.3部とを、φ0.5mmのジルコニアビーズとともにラッカー瓶に入れ、ペイントコンディショナーで1時間分散した後、アクリル樹脂(SPC−2000、昭和高分子(株))0.2部を加え、青色顔料分散体を得た。
【0033】
【表1】

【0034】
(評価)
[試験用ガラス塗板の作製]
顔料分散体を10cm四方のガラス板にスピンコーターを用いて塗布することにより、試験用ガラス塗板を作製した。
【0035】
[耐熱性の評価]
200℃に昇温したエアバス内にガラス塗板を静置し、1時間保持した。エアバス投入前後のガラス塗板の色差(△Eab)を測色計(CM3700D、コニカミノルタ製)を使用して測定した。比較例1及び2の分散体の塗板を標準資料として同時にエアバスに投入し、その色差を基準(1.00)とし、これに対する各ガラス塗板の色差の比率を表1に併せて示した。
【0036】
[耐光性の評価]
耐光性試験機(XL75型低温サイクルキセノンウェザーメーター、スガ試験機)を用いて180Wのキセノンランプ光に24時間暴露した。暴露前後のガラス塗板の色差(△Eab)を測色計(CM3700D、コニカミノルタ製)を使用して測定した。比較例1及び2に挙げた分散体の塗板を標準資料として同時にエアバスに投入し、その色差を基準(1.00)とし、これに対する各ガラス塗板の色差の比率を表1に併せて示した。
【0037】
[評価結果]
実施例1〜11の分散体を用いて作製した試験用ガラス塗板の色差(△Eab)の比率は、耐熱性及び耐光性の試験項目において何れも1より小さく、有機酸による処理を行わない各比較例の塗板に比較して耐熱性及び耐光性に優れていることが分かる。
【0038】
(実施例12〜13)
表2に示すように、未処理のC.I.ピグメントブルー1を4.65部と、2−ナフタレンスルホン酸ナトリウム0.35部と、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート36.7部と、高分子系分散剤(BYK170、ビックケミー・ジヤパン製)8.3部と、φ0.5mmジルコニアビーズとをラッカー瓶に入れ、ペイントコンディショナーで1時間分散した後、アクリル樹脂(SPC−2000、昭和高分子(株))0.2部を加えて、青色顔料分散体を得た。
【0039】
(比較例3〜4)
表2に示すように、未処理の顔料を使用し、有機酸を使用しなかったことを除いて実施例12〜13と同様にして青色顔料分散体を得た。
【0040】
(比較例5)
ベーシックブルー7の5.0gを水250gに撹拌溶解して、ベーシックブルー7の水溶液を作成した。これとは別に、ナフタレンスルホン酸Naの2.5gを水200gに80℃で撹拌溶解し、ナフタレンスルホン酸水溶液を作成した。50℃撹拌下で上記ベーシックブルー7の水溶液に上記ナフタレンスルホン酸水溶液を徐々に加え、さらに2時間撹拌し、析出物をろ過、乾燥、粉砕して顔料組成物を得た。
【0041】
【表2】

【0042】
(評価)
前述と同様にして試験用ガラス塗板を作製し、耐熱性及び耐光性の試験を前述と同様にして行った。その結果を表2に併せて示した。
【0043】
[評価結果]
実施例12〜13の分散体を用いて作製した試験用ガラス塗板の色差(△Eab)の比率は、耐熱性及び耐光性の試験項目において何れも1より小さく、有機酸による処理を行わない各比較例の塗板に比較して耐熱性及び耐光性に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のトリアリールメタン系及びローダミン系顔料組成物並びにこれらを用いた顔料分散体を使用すれば、優れた耐熱性及び耐光性を有する塗膜が得られるので、液晶表示装置やカラーフィルタ、有機ELデイスプレイ等のカラーフィルタ等の分野の他、トナー、インクジェットインクの分野で利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1で表されるトリアリールメタン構造及び/又は化3で表されるローダミン構造を有するレーキ顔料から選択される未処理顔料を、置換若しくは非置換のアリールスルホン酸及び置換若しくは非置換のアリールカルボン酸からなる群から選択される有機酸で処理したことを特徴とする顔料組成物。
【化1】

ここで、化1において、R1、R2、R3、R4は、互いに独立して、−H、−CH3、C25、−Ph、−PhCH3、−CH2Ph(SO3・1/2Ba)、又は−CH2Ph(SO3・1/2Al)であり、Rは、化2に示す置換又は非置換のフェニル基又はナフチル基であり、
【化2】

化2において、R5は、−H、−NHCH3、−N(CH32、−N(C252、−NHPh、又は−NHPh(CH3)(SO3H)若しくはその塩、R6は、−H、−Cl、又は−SO3H若しくはその塩、R7は、−NHC25であり、
【化3】

化3において、R8、R9、R10、R11は、互いに独立して−H、又はアルキル基であり、R12は、−H、アルキル基、又は置換若しくは非置換のフェニル基である。
【請求項2】
請求項1記載の顔料組成物を用いた顔料分散体。
【請求項3】
化1で表されるトリアリールメタン構造及び/又は化3で表されるローダミン構造を有するレーキ顔料から選択される未処理顔料を、置換若しくは非置換のアリールスルホン酸及び置換若しくは非置換のアリールカルボン酸からなる群から選択される有機酸の存在下に分散処理したことを特徴とする顔料分散体。

【公開番号】特開2011−21155(P2011−21155A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169327(P2009−169327)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000180058)山陽色素株式会社 (30)