説明

トリアルキルアルミニウムの製造方法

【課題】高純度のトリアルキルアルミニウムを提供することである。
【解決手段】酸素を有するトリアルキルアルミニウムと、ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムとを接触させるトリアルキルアルミニウムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトリアルキルアルミニウムに関する。特に、例えば化合物半導体用Al系膜と言ったAl系膜の形成に用いられるトリアルキルアルミニウムに関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体は、半導体発光ダイオード、レーザ、或は赤外検知器等の分野において有用に用いられる。そして、有機金属化合物を気相成長させて得られる化合物半導体の品質は、原料である有機金属化合物の不純物によって大きな影響を受ける。
【0003】
例えば、化合物半導体の気相成長原料の一つであるトリアルキルアルミニウム(例えば、トリメチルアルミニウム)における酸素(O)は、未だ、解決できない大きな問題の一つである。
【0004】
すなわち、トリメチルアルミニウムは酸素や水分と敏感に反応し、発火・発煙が起きる。この為、トリアルキルアルミニウムにおける酸素不純物には、酸素や水分に限られず、酸素(O)を含んだ(有する)化合物、例えばアルミニウムアルコキシド[(CHAl−O−CH]のような形態のものも含まれる。
【0005】
さて、酸素分子(O)の混入であれば、このような不純物は、例えば蒸留操作によって簡単に除去できる。或は、脱気操作によって簡単に除去できる。水(HO)の混入であれば、例えば乾燥剤による脱水操作によって簡単に除去できる。
【0006】
ところが、アルミニウムアルコキシド[(CHAl−O−CH]のような形態で混入した酸素原子(O)は、簡単には除去できない。特に、トリメチルアルミニウムの場合、混入した酸素含有化合物は、その共沸現象により、精密蒸留を以ってしても、分離が困難である。
【0007】
そこで、還元剤との反応によって、酸素化合物を除去する方法が考えられる。
【0008】
前記方法における還元剤には、Li,Na等のアルカリ金属系の還元剤が知られている。しかしながら、アルカリ金属は、半導体デバイスに欠陥を引き起こす。従って、アルカリ金属の使用は避けられるべきである。
【0009】
アルカリ土類金属も還元剤として知られている。そして、アルカリ土類金属系の還元剤も還元能力が強い。例えば、ジメチルマグネシウムは、蒸気圧が極めて低い為、反応後の蒸留による分離が容易である。しかしながら、ジメチルマグネシウムは、トリアルキルアルミニウムと錯体を形成する。この為、トリアルキルアルミニウムの製造(精製)にジメチルマグネシウムを用いた場合、蒸留操作では、分離が出来ない。
【0010】
その他の族にも還元性を示す物が認められる。しかしながら、高い蒸気圧を持つ為、還元反応後において蒸留操作を施しても、分離が困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明が解決しようとする課題は、高純度のトリアルキルアルミニウムを提供することである。
例えば、トリアルキルアルミニウム中の酸素含有化合物(不純物)を除去できる技術を提供することである。更には、酸素含有化合物(不純物)を還元反応によって除去した後、還元剤として用いた化合物とトリアルキルアルミニウムとを簡単に分離できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題を解決する為の研究が、鋭意、押し進められて行く中に、本発明者は、ビスシクロペンタジエニルマグネシウムによって、トリアルキルアルミニウム中の酸素濃度が低下することを見出すに至った。更に、ビスシクロペンタジエニルマグネシウムはトリアルキルアルミニウムと錯体を形成しない事が判明し、蒸留によってビスシクロペンタジエニルマグネシウムとの分離が可能であることも判った。
【0013】
このような知見に基づいて本発明が達成されたものである。
【0014】
すなわち、前記の課題は、
酸素を有するトリアルキルアルミニウムと、ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムとを接触させる
ことを特徴とするトリアルキルアルミニウムの製造方法によって解決される。
【0015】
例えば、酸素を有するトリアルキルアルミニウムと、ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムとを、混合処理することを特徴とするトリアルキルアルミニウムの製造方法によって解決される。
【0016】
或いは、酸素を有するトリアルキルアルミニウムと、ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムとを、還流処理することを特徴とするトリアルキルアルミニウムの製造方法によって解決される。
【0017】
若しくは、酸素を有するトリアルキルアルミニウムを、ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウム中に通すことを特徴とするトリアルキルアルミニウムの製造方法によって解決される。
【0018】
又は、酸素を有する気相状態のトリアルキルアルミニウムを、ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウム中に通すことを特徴とするトリアルキルアルミニウムの製造方法によって解決される。
【0019】
又、上記トリアルキルアルミニウムの製造方法であって、好ましくは、トリアルキルアルミニウムとビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムとの接触工程後に蒸留工程を有することを特徴とするトリアルキルアルミニウムの製造方法によって解決される。
【0020】
又、上記トリアルキルアルミニウムの製造方法であって、好ましくは、トリアルキルアルミニウムとビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムとの接触工程後に濾過工程を有することを特徴とするトリアルキルアルミニウムの製造方法によって解決される。
【0021】
又、上記トリアルキルアルミニウムの製造方法によって得られたトリアルキルアルミニウムによって解決される。
【発明の効果】
【0022】
Oを持つ不純物成分が少ない高純度なトリアルキルアルミニウムが簡単に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】トリアルキルアルミニウムの製造装置(精製装置)の概略図
【図2】トリアルキルアルミニウムの製造装置(精製装置)の概略図
【図3】トリアルキルアルミニウムの製造装置(精製装置)の概略図
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明はトリアルキルアルミニウムの製造方法(精製方法)である。この方法は、酸素を有するトリアルキルアルミニウム(例えば、不純物成分としてOを有するトリアルキルアルミニウム)と、ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムとを接触させる工程を有する。例えば、酸素を有するトリアルキルアルミニウムと、ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムとを、処理する工程を有する。例えば、酸素を有するトリアルキルアルミニウムと、ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムとを、混合処理する工程を有する。若しくは、酸素を有するトリアルキルアルミニウムと、ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムとを、還流処理する工程を有する。或いは、酸素を有するトリアルキルアルミニウムを、ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウム中に通す工程を有する。又は、酸素を有する気相状態(又は液相状態)のトリアルキルアルミニウムを、ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウム中に通す工程を有する。好ましくは、上記接触工程後に、蒸留工程及び/又は濾過工程を有する。
【0025】
トリアルキルアルミニウムはRAl又はRR’R”Al(R,R’,R”はアルキル基。R,R’,R”は同一でも異なるものでも良い。)で表される化合物である。例えば、(CHAl,(CAl,(CAl,(CAl,(CHAlC,(CAlCH等のトリアルキルアルミニウムが代表的なものとして挙げられる。好ましいアルキル基は炭素数が7以下の炭化水素基である。更に好ましいアルキル基は炭素数が4以下の炭化水素基である。アルキル基は、全てが同一のものでも異なるものでも良い。尚、酸素を有するトリアルキルアルミニウム(RAl,RR’R”Al)とは、前記R,R’,R”がRO,R’O,R”Oの如きのアルコキシド基に代わった構造の化合物が代表的な例として挙げられる。例えば、RR’AlOR”等で表される化合物である。
【0026】
ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムは、例えば下記の一般式[I]で表される化合物である。
一般式[I]

尚、上記一般式[I]中、R〜R10は、H又はアルキル基である。好ましいアルキル基は炭素数が7以下の炭化水素基である。更に好ましいアルキル基は炭素数が4以下の炭化水素基である。
【0027】
特に好ましいビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムとしては、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム、ビスメチルシクロペンタジエニルマグネシウム、ビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム、ビスイソプロピルシクロペンタジエニルマグネシウム、ビスターシャリーブチルシクロペンタジエニルマグネシウム、ビスペンタメチルシクロペンタジエニルマグネシウムが挙げられる。
【0028】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を説明する。但し、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
ビスシクロペンタジエニルマグネシウム[CpMg]を用いてトリメチルアルミニウム[TMAl:(CHAl]の精製を行った。
【0030】
すなわち、図1に示される装置が用いられた。尚、図1中、1は蒸留釜、2は蒸留塔、3は塔頂温度計、4は冷却器、5は流出物捕集器である。
【0031】
先ず、蒸留釜1に2gのCpMgが入れられた。この後、50gのTMAl(TMAlは不純物成分としてOを有する)が入れられた。
【0032】
この後、還流処理が行なわれた。そして、2時間後に留出塔頂温度125℃で留出したTMAlが捕集器5に捕集された。
【0033】
前記還流・蒸留処理後の蒸留釜1に残された溶液を観察した処、これは薄赤色に着色したものであった。
【0034】
上記還流・蒸留処理で精製された物をH−NMRで分析した。その結果は、処理前の物に比べて、CHO−Alのプロトンによるピーク強度が1/5以下に減少していた。かつ、CpMgに由来のピークは認められなかった。
【0035】
[実施例2]
実施例1において、CpMgの代わりにMeCpMg(ビスメチルシクロペンタジエニルマグネシウム)を用いた以外は同様に行なった。
その結果は同様なものであった。すなわち、処理前の物に比べて、CHO−Alのプロトンによるピーク強度が1/5以下に減少していた。かつ、MeCpMgに由来のピークは認められなかった。
【0036】
[実施例3]
実施例1において、CpMgの代わりにEtCpMg(ビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム)を用いた以外は同様に行なった。
その結果は同様なものであった。すなわち、処理前の物に比べて、CHO−Alのプロトンによるピーク強度が1/5以下に減少していた。かつ、EtCpMgに由来のピークは認められなかった。
【0037】
[実施例4]
実施例1において、CpMgの代わりにi-PrCpMg(ビスイソプロピルシクロペンタジエニルマグネシウム)を用いた以外は同様に行なった。
その結果は同様なものであった。すなわち、処理前の物に比べて、CHO−Alのプロトンによるピーク強度が1/5以下に減少していた。かつ、i-PrCpMgに由来のピークは認められなかった。
【0038】
[実施例5]
実施例1において、CpMgの代わりにt-BuCpMg(ビスターシャリーブチルシクロペンタジエニルマグネシウム)を用いた以外は同様に行なった。
その結果は同様なものであった。すなわち、処理前の物に比べて、CHO−Alのプロトンによるピーク強度が1/5以下に減少していた。かつ、t-BuCpMgに由来のピークは認められなかった。
【0039】
[実施例6]
実施例1において、CpMgの代わりにMeCpMg(ビスペンタメチルシクロペンタジエニルマグネシウム)を用いた以外は同様に行なった。
その結果は同様なものであった。すなわち、処理前の物に比べて、CHO−Alのプロトンによるピーク強度が1/4以下に減少していた。かつ、MeCpMgに由来のピークは認められなかった。
【0040】
[実施例7]
実施例1において、TMAlの代わりにTEAl(トリエチルアルミニウム)を用いた以外は同様に行なった。
その結果は同様なものであった。すなわち、処理前の物に比べて、CO−Alのプロトンによるピーク強度が1/4以下に減少していた。かつ、CpMgに由来のピークは認められなかった。
【0041】
[実施例8]
実施例1において、TMAlの代わりにTPAl(トリプロピルアルミニウム)を用いた以外は同様に行なった。
その結果は同様なものであった。すなわち、処理前の物に比べて、CO−Alのプロトンによるピーク強度が1/4以下に減少していた。かつ、CpMgに由来のピークは認められなかった。
【0042】
[実施例9]
実施例1において、TMAlの代わりにTBAl(トリブチルアルミニウム)を用いた以外は同様に行なった。
その結果は同様なものであった。すなわち、処理前の物に比べて、CO−Alのプロトンによるピーク強度が1/4以下に減少していた。かつ、CpMgに由来のピークは認められなかった。
【0043】
[実施例10]
実施例1において、TMAlの代わりにDMEAl(ジメチルエチルアルミニウム)を用いた以外は同様に行なった。その結果は同様なものであった。
【0044】
[実施例11]
図2に示される装置が用いられた。尚、図2中、1はTMAl(TMAlは不純物成分としてOを有する)が入れられた容器、2はCpMgが入れられた容器、3は捕集器、4は冷却器、5は配管、6は窒素ガスボンベである。
容器2には30gのCpMgが入れられている。そして、窒素ガスボンベ6から容器1内に窒素ガスが供給された。この供給された窒素ガスによるバブリングによって、容器1内のTMAlは気相状態で容器2内に送り込まれた。
この送り込まれたTMAlは、CpMgと接触しながら、容器2内を通過した。容器2を出たTMAlは、冷却器4で冷却され、容器3内に捕集された。
上記方法によるCpMgで精製されたTMAlをH−NMRで分析した。その結果は、処理(精製)前の物に比べて、CHO−Alのプロトンによるピーク強度が1/3以下に減少していた。かつ、CpMgに由来のピークは認められなかった。
【0045】
[実施例12]
図3に示される装置が用いられた。尚、図3中、1はTMAl(TMAlは不純物成分としてOを有する)が入れられた容器、2はCpMg充填容器、3は捕集器、4は濾過器、5は配管、6は窒素ガスボンベである。
容器2には30gのCpMgが入れられている。そして、窒素ガスボンベ6から容器1内に窒素ガスが供給された。この供給された窒素ガスによるバブリングによって、容器1内のTMAl(液体)はCpMg充填容器1内に圧送された。
この圧送された液体TMAlは、CpMgと接触しながら、CpMg層を通過した。そして、CpMg充填容器2を出た液体TMAlは、濾過器4で濾過され、容器3内に捕集された。
上記方法によるCpMgで精製されたTMAlをH−NMRで分析した。その結果は、処理(精製)前の物に比べて、CHO−Alのプロトンによるピーク強度が1/4以下に減少していた。かつ、CpMgに由来のピークは認められなかった。
【0046】
[比較例1]
実施例1において、CpMgの代わりにMeMg(ジメチルマグネシウム)を用いた以外は同様に行なった。
本比較例の場合、留出した液体に錯体[MeAlMg]が認められた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を有するトリアルキルアルミニウムと、ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムとを接触させる
ことを特徴とするトリアルキルアルミニウムの製造方法。
【請求項2】
酸素を有するトリアルキルアルミニウムと、ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムとを、混合処理する
ことを特徴とする請求項1のトリアルキルアルミニウムの製造方法。
【請求項3】
酸素を有するトリアルキルアルミニウムと、ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムとを、還流処理する
ことを特徴とする請求項1のトリアルキルアルミニウムの製造方法。
【請求項4】
酸素を有するトリアルキルアルミニウムを、ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウム中に通す
ことを特徴とする請求項1のトリアルキルアルミニウムの製造方法。
【請求項5】
酸素を有する気相状態のトリアルキルアルミニウムを、ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウム中に通す
ことを特徴とする請求項1のトリアルキルアルミニウムの製造方法。
【請求項6】
トリアルキルアルミニウムとビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムとの接触工程後に蒸留工程を有する
ことを特徴とする請求項1〜請求項5いずれかのトリアルキルアルミニウムの製造方法。
【請求項7】
トリアルキルアルミニウムとビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムとの接触工程後に濾過工程を有する
ことを特徴とする請求項1〜請求項6いずれかのトリアルキルアルミニウムの製造方法。
【請求項8】
ビスアルキルシクロペンタジエニルマグネシウムが、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム、ビスメチルシクロペンタジエニルマグネシウム、ビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム、ビスイソプロピルシクロペンタジエニルマグネシウム、ビスターシャリーブチルシクロペンタジエニルマグネシウム、ビスペンタメチルシクロペンタジエニルマグネシウムの群の中から選ばれる一つ又は二つ以上の化合物である
ことを特徴とする請求項1〜請求項7いずれかのトリアルキルアルミニウムの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項8いずれかのトリアルキルアルミニウムの製造方法によって得られたトリアルキルアルミニウム。


【図2】
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【図3】
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【図1】
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