説明

トリクロロシラン製造装置

【課題】反応流体から金属シリコン粉末やその酸化物、不純物成分を効率的に除去して、不純物の少ないトリクロロシランを得る。
【解決手段】反応炉2内に供給された金属シリコン粉末を塩化水素ガスによって流動させながら反応させ、この反応により生成されたトリクロロシランを浄化しながら取り出すトリクロロシラン製造装置1において、反応炉2に接続されたトリクロロシラン浄化系5に、反応炉2から排出されるトリクロロシランを含む反応流体中の粗粒子を分離して捕集する粗粒子分離手段21と、該粗粒子分離手段21で捕集された粗粒子を反応炉2内に戻す粗粒子回収系25と、粗粒子分離手段21を通過した反応流体中の微小粒子を除去するフィルター27とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属シリコン粉末を塩化水素ガスによって流動させながら反応させてトリクロロシランを製造するトリクロロシラン製造装置及びトリクロロシラン製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高純度のシリコンを製造するための原料として使用されるトリクロロシラン(SiHCl3)は、純度98%程度の金属シリコン粉末(Si)と塩化水素ガス(HCl)とを反応させることで製造される。
このトリクロロシラン製造装置として、例えば特許文献1に示されるものがある。このトリクロロシラン製造装置は、反応炉と、この反応炉の底部に金属シリコン粉末を供給する原料供給手段と、この金属シリコン粉末と反応される塩化水素ガスを導入するガス導入手段とを備え、反応炉内の金属シリコン粉末を塩化水素ガスによって流動させながら反応させ、生成したトリクロロシランを含む反応流体を反応炉の上部から取り出すようになっている。取り出された反応流体は精製されてトリクロロシランの純度が高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−59221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、反応炉内から排出される流体には、トリクロロシランとともに未反応のガスや金属シリコン粉末やその酸化物、原料の金属シリコン粉末に含まれていた不純物成分の塩化物等が含まれる。このため、これら金属シリコン粉末やその酸化物、不純物成分を除去する必要がある。これら金属シリコン粉末やその酸化物、不純物成分を反応流体から除去する場合、フィルターを使用するのが一般的であるが、トリクロロシラン生成に伴う反応流体が高温状態となっているため、フィルターの損傷が激しく、頻繁な交換が必要であった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、反応流体から金属シリコン粉末やその酸化物、不純物成分を効率的に除去して、不純物の少ないトリクロロシランを得るとともに、フィルターの耐久性を高めたトリクロロシラン製造装置及び製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のトリクロロシラン製造装置は、反応炉内に供給された金属シリコン粉末を塩化水素ガスによって流動させながら反応させ、この反応により生成されたトリクロロシランを浄化しながら取り出すトリクロロシラン製造装置において、前記反応炉に接続されたトリクロロシラン浄化系に、前記反応炉から排出される前記トリクロロシランを含む反応流体中の粗粒子を分離して捕集する粗粒子分離手段と、該粗粒子分離手段で捕集された粗粒子を前記反応炉内に戻す粗粒子回収系と、前記粗粒子分離手段を通過した反応流体中の微小粒子を除去するフィルターとが設けられていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明のトリクロロシラン製造方法は、反応炉内で金属シリコン粉末を塩化水素ガスによって流動させながら反応させ、この反応により生成されたトリクロロシランを浄化しながら取り出すトリクロロシラン製造方法であって、前記反応炉から排出される前記トリクロロシランを含む反応流体中の粗粒子を粗粒子分離手段により分離して捕集し、該粗粒子を前記反応炉に戻すとともに、前記粗粒子を除去した後の前記反応流体から粗粒子よりも小さい微小粒子をフィルターにより除去することを特徴とする。
【0008】
すなわち、反応炉からの反応流体中の粗粒子をまず捕集する。この粗粒子は大半が未反応金属シリコン粉末であるため、これを反応炉に戻す。そして、この粗粒子を捕集した後の反応流体から粗粒子よりも小さい微小粒子を除去する。この微小粒子は、原料である金属シリコン粉末に不純物として含まれていたAl、Fe、Ni、Ca等の塩化物であり、固体状、ガス状のものが混在している。これらの塩化物の大部分をフィルターにより除去することにより、不純物の少ないトリクロロシランを得ることができる。
この場合、粗粒子も含めてフィルターによって捕捉しようとすると、高温状態の粗粒子の衝突によりフィルターに穿孔等の損傷が生じるおそれがあるが、予め粗粒子を粗粒子分離手段により捕集しておくことにより、フィルターの損傷を防止することができる。逆に、すべての粒子を捕集するのは設計上困難である。
【0009】
本発明において、前記粗粒子分離手段は、5〜50μmの範囲内で設定される所定粒径を超える粗粒子を捕集し、該所定粒径以下の微小粒子を通過させるようにするとよい。
後段のフィルターに径の大きい粒子が流れて、その熱によってフィルターを損傷させたり、摩耗等によって劣化が進行しないように、5〜50μmの範囲内において、反応流体の流通速度や温度等によって適切な粒径を設定する。不純物成分は、径の小さい微粒子にも多く付着しており、予め粗粒子分離手段で粗粒子を捕集しておくことにより、不純物成分をフィルターで効率的に除去することができる。
【0010】
本発明のトリクロロシラン製造装置において、前記フィルターは、ポリテトラフルオロエチレンの織物を用いたフィルター又はポリテトラフルオロエチレンを連続多孔質体としてなるメンブレンフィルターを有するものとするとよい。
ポリテトラフルオロエチレンによって高い耐熱性を発揮するので、フィルターとしての耐久性をより高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粗粒子分離手段による粗粒子の捕集とフィルターによる微小粒子の除去とを組み合わせたことにより、反応流体から金属シリコン粉末やその酸化物、不純物成分を効率的に除去して、不純物の少ないトリクロロシランを得ることができるとともに、予め粗粒子分離手段によって粗粒子を捕集した後、微小粒子をフィルターによって除去するようにしており、フィルターの損傷や摩耗等を防止して、耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るトリクロロシラン製造装置の一実施形態を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
このトリクロロシラン製造装置1は、反応炉2と、この反応炉2に原料として金属シリコン粉末を供給する原料供給手段3と、その金属シリコン粉末と反応させられる塩化水素ガス(HCl)を導入するガス導入手段4と、生成されたトリクロロシランガスを含む反応流体を浄化しながら取り出すトリクロロシラン浄化系5とが備えられた構成とされている。
反応炉2は、大部分がストレートの円筒状をなす上下方向に沿う胴体部6と、この胴体部6の下端に連結された底部7と、胴体部6の上端に連結された大径部8とから構成されている。この場合、胴体部6と大径部8とは相互に連通状態とされるが、胴体部6と底部7との間は水平な隔壁9によって仕切られている。また、胴体部6内には、内部を加熱する伝熱管10、流動を制御する制御棒11が設けられている。
【0014】
原料供給手段3は、反応炉2の胴体部6の下部に接続された原料供給管12を介してフィードホッパー13から金属シリコン粉末を供給するようになっており、塩化水素ガス(HCl)をキャリアガスとした気流移送によって金属シリコン粉末を供給する構成である。
ガス導入手段4は、ガス供給管14を介して反応炉2の底部7内に塩化水素ガスを導入する構成である。反応炉2の胴体部6と底部7とを区画している隔壁9には、これを上下方向に貫通する多数の噴出部材15が設けられており、底部7に導入された塩化水素ガスはこれら噴出部材15の上端開口から胴体部6内に噴出されるようになっている。そして、胴体部6の下部に供給された金属シリコン粉末が底部7から噴出される塩化水素ガスによって流動されながら反応してトリクロロシランを生成するのである。
【0015】
一方、トリクロロシラン浄化系5には、反応炉2から排出される反応流体の中から比較的径の大きい粗粒子を捕集する粗粒子分離手段としてのサイクロン21と、このサイクロン21を経由した後の反応流体から粗粒子よりも小さい微小粒子を除去するフィルター装置22とが設けられている。
サイクロン21は、下部がコーン状に形成されたサイクロン筒23を有しており、このサイクロン筒23内に流体を接線方向に流入させることにより旋回流を生じさせ、その遠心力によって粗粒子を気流から分離し、内周壁面を伝って下方へ落下させて、タンク24に捕集するようになっている。一方、微小粒子についてはコーン部分で反転させ、中心部を上昇して気流とともに外部へ流出させる構成である。
このサイクロン21のタンク24と反応炉2の原料供給手段3におけるフィードホッパー13との間には、サイクロン21で捕集された粗粒子を反応炉2に戻すための粗粒子回収系25が設けられている。
【0016】
フィルター装置22は、サイクロン21の下流位置に設けられている。このフィルター装置22は、例えばバグフィルターが用いられており、ハウジング26内に、複数の筒状のフィルター27が吊り下げられ、ハウジング26下部から導入された流体が筒状フィルター27内に導かれ、該フィルター27を通過してハウジング26上部から排出され、トリクロロシラン精製系28に送り出される構成である。このフィルター装置22に使用されているフィルター27は、ポリテトラフルオロエチレンの織物を用いたフィルター又はポリテトラフルオロエチレンを微細な連続多孔質体としてなるメンブレンフィルターが使用されている。このメンブレンフィルターは融点が300℃以上であり、常用使用温度の上限は例えば260℃とされる。また、ハウジング26の上部には、フィルター27に振動を加える加振装置29が設けられており、フィルター27で捕捉されたダストを下方のダストホッパー30に払い落すことができるようになっている。払い落されたダストはダストホッパー30からダスト処理系31に送られる。
【0017】
また、このフィルター装置22には、その出口流路の開度を調整する弁35と、内部のフィルター27の温度を監視する温度検知手段36とが設けられている。
【0018】
次に、このように構成されたトリクロロシラン製造装置1を用いてトリクロロシランを製造する方法について説明する。
原料となる金属シリコン粉末は、平均粒径が100〜300μmであり、原料供給手段3のフィードホッパー13から反応炉2の胴体部6下部に供給される。このとき、塩化水素ガスが気流移送のキャリアガスとして用いられる。
また、ガス導入手段4により反応炉2の底部7に塩化水素ガスを導入する。塩化水素ガスは、反応炉2の隔壁9に配置された噴出部材15を介して胴体部6内に上方に向けて噴出され、胴体部6の下部に供給される金属シリコン粉末中に噴出される。
【0019】
このようにして反応炉2内の金属シリコン粉末に塩化水素ガスが噴出されることによって、金属シリコン粉末が反応炉2内を流動することになる。金属シリコン粉末が流動しながら塩化水素ガスと接触することで、金属シリコン粉末と塩化水素ガスとが所定温度で反応し、トリクロロシランのガスが生成される。
生成したトリクロロシランを含む反応流体は、反応炉2の上部からトリクロロシラン浄化系5に取り出される。この反応流体には、生成物であるトリクロロシランとともに、未反応の塩化水素ガス、金属シリコン粉末やその酸化物、原料の金属シリコン粉末に含まれていた不純物成分の塩化物等が含まれる。主な不純物としては、金属シリコン粉末に含まれているAl、Fe、Ni、Ca等の塩化物であり、FeCl2、AlCl3、NiCl2、CaCl2等が含まれる。主に、AlCl3(沸点182.7℃(755torr))はおよそ190℃程度以上ではガス状であるが、FeCl2、NiCl2、CaCl2は固体である。
【0020】
トリクロロシラン浄化系5においては、反応流体はまずサイクロン21に送られ、このサイクロン21で粗粒子が捕集される。この粗粒子としては、5〜50μmの範囲内で選択される径、例えば10μmの径よりも大きい粒子が対象とされ、その大部分は未反応の金属シリコン粉末である。そして、このサイクロン21で捕集された粗粒子は、タンク24から粗粒子回収系25を介して原料供給手段3のフィードホッパー13に戻される。
次にサイクロンを通過した反応流体はフィルター装置22に送られる。このフィルター装置22においては、サイクロン21で捕集されなかった10μm以下の微細な金属シリコン粉末及び不純物成分の塩化物等の微小粒子が捕捉される。不純物成分としては、前述した成分のうち、FeCl2、NiCl2、CaCl2などがフィルター27によって捕捉される。
【0021】
このようにしてサイクロン21及びフィルター装置22によって、反応流体から未反応の金属シリコン粉末やその酸化物、及び不純物成分が除去され、清浄化された反応流体が次工程のトリクロロシラン精製系28に送られるので、この精製系28において高純度のトリクロロシランを効率的に得ることができる。なお、前述した不純物成分のうち、AlCl3は、トリクロロシラン精製系28の前段での処理において除去される。
【0022】
このようなトリクロロシラン製造工程において、反応炉2から取り出される反応流体中の不純物は、径の小さい微小粒子に多く付着するため、フィルター装置22では径の小さい微小粒子を捕捉して、多くの不純物を除去することが好ましく、そのために、前段のサイクロン21でその微小粒子よりも大きい粗粒子を取り除いておくのである。このサイクロン21で微細な粒子まで捕集しようとすると、全体の処理速度が遅くなる。反面、サイクロン21で分離される粒子の径が大きいと、このサイクロン21を通過する反応流体中の粒子の径が大きくなり、その大きい粒子がフィルター27に衝突して、その熱によってフィルター27を損傷し、フィルター27としての捕捉機能を損なう原因になる。したがって、サイクロン21で粗粒子を除去した上で、フィルター27で微細粒子を捕集することにより、フィルター27を損傷することなく、処理を効率良く行うことができる。
【0023】
なお、フィルター装置22の圧損が大きくなったら、弁35を閉めた状態とし、加振装置29によって振動を加えることにより、フィルター27に付着したダストを払い落すことが行われる。払い落されたダストはダストホッパー30からダスト処理系31に送られて処理される。このフィルター装置22のメンテナンス作業のため、フィルター装置22は2系統が並列に設けられ、そのうちの1系統が払い落し作業中のときは、他のフィルター装置を運転状態として、連続的な操業を可能にしている。
【0024】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、粗粒子を捕集する手段としてサイクロンを用いたが、他の分離手段を用いてもよい。さらに、フィルターを振動することによってダストを払い落すようにしたが、逆方向から清浄気体を通過させる逆洗による方法としてもよい。
また、図1では、1基の反応炉にサイクロンを1台、フィルター装置を2台接続して、これを1ユニットとした例で示したが、複数の反応炉と、複数のサイクロンと、複数のフィルター装置とをそれぞれ接続状態とし、これらを適宜の組み合わせで使用されるようにしてもよい。
さらに、フィルター装置は加振装置によってダストを払い落す構成としたが、いわゆる逆洗方式により払い落す構成としてもよい。
【符号の説明】
【0025】
1 トリクロロシラン製造装置
2 反応炉
3 原料供給手段
4 ガス導入手段
5 トリクロロシラン浄化系
13 フィードホッパー
15 噴出部材
21 サイクロン(粗粒子分離手段)
22 フィルター装置
25 粗粒子回収系
27 フィルター
28 トリクロロシラン精製系
31 ダスト処理系
35 弁
36 温度検知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応炉内に供給された金属シリコン粉末を塩化水素ガスによって流動させながら反応させ、この反応により生成されたトリクロロシランを浄化しながら取り出すトリクロロシラン製造装置において、
前記反応炉に接続されたトリクロロシラン浄化系に、前記反応炉から排出される前記トリクロロシランを含む反応流体中の粗粒子を分離して捕集する粗粒子分離手段と、該粗粒子分離手段で捕集された粗粒子を前記反応炉内に戻す粗粒子回収系と、前記粗粒子分離手段を通過した反応流体中の微小粒子を除去するフィルターとが設けられていることを特徴とするトリクロロシラン製造装置。
【請求項2】
前記粗粒子分離手段は、5〜50μmの範囲内で設定される所定粒径を超える粗粒子を捕集し、該所定粒径以下の微小粒子を通過させることを特徴とする請求項1記載のトリクロロシラン製造装置。
【請求項3】
前記フィルターは、ポリテトラフルオロエチレンの織物を用いたフィルター又はポリテトラフルオロエチレンを連続多孔質体としてなるメンブレンフィルターを有することを特徴とする請求項1又は2記載のトリクロロシラン製造装置。
【請求項4】
反応炉内で金属シリコン粉末を塩化水素ガスによって流動させながら反応させ、この反応により生成されたトリクロロシランを浄化しながら取り出すトリクロロシラン製造方法であって、
前記反応炉から排出される前記トリクロロシランを含む反応流体中の粗粒子を粗粒子分離手段により分離して捕集し、該粗粒子を前記反応炉に戻すとともに、前記粗粒子を除去した後の前記反応流体から粗粒子よりも小さい微小粒子をフィルターにより除去することを特徴とするトリクロロシラン製造方法。
【請求項5】
前記粗粒子分離手段は、5〜50μmの範囲内で設定される所定粒径を超える粗粒子を捕集することを特徴とする請求項4記載のトリクロロシラン製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−148651(P2011−148651A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10703(P2010−10703)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】