説明

トリグリセリド高含有低密度リポタンパク質を認識する自己抗体に対するモノクローナル抗体およびこれを産生するハイブリドーマ

【課題】 TG−rich LDLに係る研究開発において、重要なツールとしての機能を果たし得る、TG−rich LDLを認識する自己抗体に対するモノクローナル抗体を提供するとともに、そのモノクローナル抗体を用いてTG−rich LDLを簡便かつ高感度に検出するキット、およびTG−rich LDLを認識する自己抗体を簡便かつ高感度に検出する方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係るモノクローナル抗体は、トリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体に対し特異的に反応する。本発明に係るモノクローナル抗体によれば、TG−rich LDLをはじめとする酸化LDLが関与する様々な疾患の解明、治療、診断、評価などを、より効果的かつ簡便に行うことができるとともに、薬効に優れた医薬組成物の開発に寄与し、提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体に対するモノクローナル抗体、そのモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、そのモノクローナル抗体を含んでなるTG−rich LDL検出用キットおよび被験者から採取した血清に含まれ、かつTG−rich LDLを認識する自己抗体を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)は、少なくとも肝疾患患者血清中に出現する低密度リポタンパク質(Low Density Lipoprotein;LDL)である。TG−rich LDLは中性脂肪であるトリアシルグリセロール(トリグリセリド、トリ−O−アシルグリセリン;TG,TAG)の含有量が高いことを特徴とし、この点で、コレステロールの含有量が高い正常なLDL(native−LDL)とは異なるリポタンパク質である。肝疾患の進行に伴いTG−rich LDLの血清中濃度は増加し、肝疾患の末期では血清中に存在するリポタンパク質の大部分を占めるのに対し、超低密度リポタンパク質(VLDL)、native−LDLおよび高密度リポタンパク質(HDL)の血清中濃度は極端に減少する(非特許文献1)。
【0003】
また、TG−rich LDLは培養マクロファージを泡沫化する。そして、TG−rich LDLによるマクロファージ泡沫化率と酸化LDLの一種であるマロンジアルデヒド修飾LDL(MDA−LDL)の血清中濃度とが正比例すること(非特許文献1)、健常者血漿中には過酸化TGがほとんど検出されないのに対し、肝疾患患者血漿中には、過酸化TGの著しい増加が見られること(非特許文献2)などから、TG−rich LDLは酸化LDLの一種であるとされている。
【0004】
すなわち、TG−rich LDLは、肝疾患のみならず酸化LDLが関与する種々の疾患に係る重要な物質であると考えられ、基礎医学、臨床医学、創薬などの分野においてさらなる研究が要求されているが、その合成経路、代謝経路などについては未だ不明な点が多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nagasaka H.ら、J.Pediatr、第146巻、第329〜335頁、2005年
【非特許文献2】Hui SP.ら、Lipids、第38巻、第1287〜1292頁、2003年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、TG−rich LDLに係る研究開発において、重要なツールとしての機能を果たし得る、TG−rich LDLを認識する自己抗体に対するモノクローナル抗体を提供するとともに、そのモノクローナル抗体を用いてTG−rich LDLを簡便かつ高感度に検出するキット、およびTG−rich LDLを認識する自己抗体を簡便かつ高感度に検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、TG−rich LDLを免疫原としてハイブリドーマを作製し、選択されたハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体が、肝疾患患者血清中に存在するTG−rich LDLを認識する自己抗体と特異的に反応することを見出し、下記の各発明を完成した。
【0008】
(1)トリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体に対し特異的に反応するモノクローナル抗体。
【0009】
(2)自己抗体がヒトの自己抗体である、(1)に記載のモノクローナル抗体。
【0010】
(3)トリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)が肝疾患患者から採取された血清に含まれるトリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)である、(1)または(2)に記載のモノクローナル抗体。
【0011】
(4)自己抗体がIgG、IgAおよびIgMからなる群より選ばれる1または2である、(1)から(3)のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
【0012】
(5)受領番号がNITE AP−895であるハイブリドーマにより産生される、(1)から(4)のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
【0013】
(6)(1)から(5)のいずれかに記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【0014】
(7)受領番号がNITE AP−895である、(6)に記載のハイブリドーマ。
【0015】
(8)(1)から(5)のいずれかに記載のモノクローナル抗体を含んでなる、トリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)検出用キット。
【0016】
(9)被験者から採取した血清に含まれ、かつトリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体を検出する方法であって、トリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体に対し特異的に反応するモノクローナル抗体を、被験者から採取した血清に含まれ、かつトリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体に特異的に反応させて複合体を形成させる工程と、前記複合体を検出する工程とを有する、前記方法。
【0017】
(10)被験者から採取した血清に含まれ、かつトリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体を検出する方法であって、トリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体に対し特異的に反応するモノクローナル抗体を担体に固着する工程と、担体に固着した前記モノクローナル抗体を、被験者から採取した血清に含まれ、かつトリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体に特異的に反応させて複合体を形成させる工程と、前記複合体を検出する工程とを有する、前記方法。
【0018】
(11)自己抗体がヒトの自己抗体である、(9)または(10)に記載の方法。
【0019】
(12)モノクローナル抗体が、肝疾患患者から採取された血清に含まれ、かつトリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体に対し特異的に反応するモノクローナル抗体である、(9)から(11)のいずれかに記載の方法。
【0020】
(13)自己抗体がIgG、IgAおよびIgMからなる群より選ばれる1または2である、(9)から(12)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るモノクローナル抗体、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、モノクローナル抗体を含んでなるTG−rich LDL検出用キットおよびTG−rich LDLを認識する自己抗体を検出する方法によれば、TG−rich LDLをはじめとする酸化LDLが関与する様々な疾患の解明、治療、診断、評価などを、より効果的かつ簡便に行うことができるとともに、薬効に優れた医薬組成物の開発に寄与し、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】上下左側の図は、いずれも、血清から超遠心により分離した総リポタンパク質画分について、ゲル濾過クロマトグラフィーを行った図である。一方、上下右側の図は、いずれも、ゲル濾過クロマトグラフィーを行って得られた各溶出液における各脂質の濃度を測定した結果を示す図である。図中、TCは総コレステロール、PLはリン脂質、FCは遊離コレステロール、TGは中性脂肪を示す。また、いずれの図も、横軸はフラクションすなわちサイズを示し、横軸のプラス方向(右方向)に位置するほどサイズが小さいことを示す。
【図2】健常者(N)および肝疾患末期患者(P)の血清について、アガロースゲル電気泳動を行った結果を示す図である。
【図3】G11−2抗体および抗アポリポタンパクB−IgG抗体を用いて、TG−rich LDLおよびnative−LDLを固着させたELISAを行った結果を示す図である。
【図4】磁気ビーズ固定G11−2抗体に特異的に反応した抗原について、SDS−PAGEを行った結果を示す図である。
【図5】血清から超遠心により分離した上層画分、中層画分および下層画分について、G11−2抗体を固着させたELISAを行った結果を示す図である。
【図6】検出抗体として抗ヒトIgG Fcγ抗体、抗ヒトIgA(α)抗体、抗ヒトIgM Fc5μ抗体および抗ヒトIgG+A+M抗体を用いて、G11−2抗体を固着させたELISAを行った結果を示す図である。
【図7】凍結融解をそれぞれ0回、1回、2回、3回、4回、5回および6回行った血清サンプルについて、G11−2抗体を固着させたELISAを行った結果を示す図である。
【図8】健常者および肝疾患患者の血清について、アガロースゲル電気泳動を行った結果を示す図である。
【図9】健常者、軽中度群および重度群の血清について、G11−2抗体を固着させたELISAを行い測定した吸光度の値を、健常者群、軽中度群および重度群の群別に集計した結果を示す図である。
【図10a】健常者、脂質異常症患者および肝疾患患者の血清について、G11−2抗体を固着させたELISAを行った結果を示す図である。
【図10b】各サンプルの吸光度の測定値を、各サンプルの血清中LDL−C濃度の値で除した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るTG−rich LDLを認識する自己抗体に対するモノクローナル抗体、そのモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、そのモノクローナル抗体を含んでなるTG−rich LDL検出用キットおよび被験者から採取した血清に含まれ、かつTG−rich LDLを認識する自己抗体を検出する方法について詳細に説明する。本発明に係るモノクローナル抗体は、TG−rich LDLを認識する自己抗体に対し特異的に反応する。
【0024】
本発明におけるTG−rich LDLは、native−LDLと比較してTGの重量割合が大きいLDLである。また、本発明においてTG−rich LDLは、酸化LDLの性質を有しており、マクロファージを泡沫化するLDLである。このようなTG−rich LDLには、中間比重リポタンパク質{Intermediate Density Lipoprotein;IDL(ミッドバンドともいい、分画としてIDLに相当するレムナントリポタンパク質を含む趣旨である)}の他、small dense LDL(sd−LDL、変性LDL)といわれる、粒子径が25.5nm以下であり、比重で分画した場合に1.040〜1.063のLDLに相当するリポタンパク質が含まれる。
【0025】
ここで、TG−rich LDLにおけるTGの重量割合について測定した結果の典型例を図1および表1に示す。図1の上下左側の図は、それぞれ、健常者(上図)および肝疾患患者(下図)の血清から超遠心法により分離した総リポタンパク質画分について、280nmの吸光度を測定しながらゲル濾過クロマトグラフィーを行った結果を示す図であり、図1の上下右側の図は、それぞれ、健常者(上図)および肝疾患患者(下図)の血清から超遠心法により分離した総リポタンパク質画分についてゲル濾過クロマトグラフィーを行い、得られた各溶出液について各脂質の濃度を測定した結果を示す図である。一方、表1は、肝疾患患者4名および健常者7名について上記の方法により各脂質の濃度を測定し、平均値と標準偏差を算出した結果を示している。
【0026】
【表1】

【0027】
図1の上下左側の図に示すように、肝疾患患者においてはVLDLおよびHDLが消失し、native−LDLと同様の粒子サイズを有するTG−rich LDLが高濃度に存在する。その高濃度に存在するTG−rich LDLにおけるTGの重量割合は、図1右側および表1に示すように、native−LDLにおけるTGの重量割合と比較して明らかに大きい。しかしながら、表1に示すように、TG−rich LDLにおける各脂質重量割合の標準偏差の値が大きいことから、TG−rich LDLにおけるTGの重量割合には、ある程度のばらつきがあることがわかる。
【0028】
また、TG−rich LDLの粒子サイズは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法などにより測定することにより、native−LDLに近似した結果が得られるが、被験者の個体差や疾患の重症度などにより、ある程度異なる場合がある。
【0029】
TG−rich LDLの電荷については、アガロースゲル電気泳動法などにより測定することにより、native−LDLに近似した結果またはnative−LDLと比較してやや負電荷であることを示す結果が得られるが、被験者の個体差や疾患の重症度などにより、ある程度異なる場合がある。
【0030】
TG−rich LDLは、肝疾患患者の血清から採取されるが、肝疾患のみならず、種々の疾患、特に、酸化ストレスの関与する疾患の患者やその罹患が疑われる者の血清に存在すると考えられている。そのような疾患としては、例えば、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝線維症、FIC1欠損(良性反復性肝内胆汁うっ滞症、バイラー病)、BSEP欠損(進行性家族性肝内胆汁うっ滞症)などを含む先天性胆汁うっ滞性疾患、脂肪性肝炎などの肝疾患の他、高コレステロール血症、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセリド血症などの脂質異常症、脳梗塞、虚血性心疾患、大動脈瘤、腎硬化症、閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化性疾患、糖尿病、高血圧症などを挙げることができる。
【0031】
自己抗体は一般に、自己の生体内で産生されたタンパク質や細胞、組織などの物質を抗原とする抗体のことをいい、自己免疫疾患の他、種々の癌などの場合に生体内で産生されることが確認されている。
【0032】
本発明において自己抗体としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、サル(ヒトを除く霊長目)、ヤギ、イヌ、ブタ、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ニワトリなどの哺乳類や鳥類の自己抗体を挙げることができるが、ヒトの自己抗体であることが好ましい。また、自己抗体のクラスとしては、IgG、IgA、IgM、IgDおよびIgEのいずれも挙げることができるが、血清中の濃度が比較的大きいIgG、IgAまたはIgMであることが好ましい。
【0033】
本発明において、「認識する」は、「相互作用する」、「結合する」、「反応する」と交換可能に用いられ、「反応する」もまた、「相互作用する」、「結合する」、「認識する」と交換可能に用いられる。また、本発明において、抗体が、ある特定の抗原(免疫原)に対し「特異的に反応する」とは、前記特定抗原に対して反応性があることが明らかであればよい。前記特定抗原に対し「特異的に反応する」とは、他の抗原に全く反応しない場合も含むが、他の抗原に対し反応する場合も含む。
【0034】
また、本発明に係るモノクローナル抗体は、Fab領域において抗原と特異的に反応する。すなわち、本発明に係るモノクローナル抗体1分子には、抗原と特異的に反応する部位が2箇所存在するため、本発明に係るモノクローナル抗体1分子が特異的に反応する自己抗体は1または2である。よって本発明における自己抗体はIgG、IgA、IgM、IgDおよびIgEからなる群より選ばれる1または2であり、IgG、IgAおよびIgMからなる群より選ばれる1または2であることが好ましい。
【0035】
次に、本発明に係るハイブリドーマは、本発明に係るモノクローナル抗体を産生する。本発明に係るハイブリドーマの作製は、当業者により適宜選択可能な任意の方法を用いて行うことができる。そのような方法としては、例えば、ハイブリドーマ法(Nature、第256巻、第495−497頁、1975年)、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Immunology Today、第4巻、第72頁、1983年)およびEBV−ハイブリドーマ法(MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY、第77−96頁、Alan R.Liss,Inc.,1985年)などの方法の他、下記(i)〜(iv)のステップを有する方法を挙げることができる。
【0036】
(i)まず、免疫原を調製する。免疫原は、どのような方法により調製してもよいが、本発明においては、血清からTG−rich LDL画分を分離した後、限外濾過により濃縮し、続いて透析することにより調製することができる。なお、この場合において、TG−rich LDLを認識する自己抗体は血清から分離したTG−rich LDL画分に含まれる。
【0037】
ここで、血清にTG−rich LDLが含まれることを確認する方法としては、当業者により適宜選択可能な方法を挙げることができるが、そのような方法として、アガロースゲル電気泳動法を挙げることができる。本発明においては、被験者血清および健常者血清をアガロースゲル電気泳動に供することにより、被験者血清においてα位のバンドが検出されないか、あるいは著しく減少し、かつ健常者血清と比較して陽極側に移動した位置でβ位のバンドが検出された場合に、その被験者血清にはTG−rich LDLが含まれると判定することができる。
【0038】
また、血清からTG−rich LDL画分を分離する方法としては、当業者により適宜選択可能な方法を挙げることができるが、そのような方法としては、例えば、既報(Chiba H.ら、J.Lipid Res.、第38巻、第1204−1216頁、1997年/Hirano T.ら、J.Atherosclerosis and Thrombosis、第12巻、第67〜72頁、2005年)に従い、密度勾配遠心法を用いて血清から分離した総リポタンパク質画分をゲル濾過クロマトグラフィーに供することにより、TG−rich LDL画分を分離する方法を挙げることができる。
【0039】
(ii)次に、分離したTG−rich LDL画分を免疫原として動物を免疫する。免疫は、適宜常法を用いて行うことができる。また、免疫の対象となる動物は特に限定されないが、例えば、マウス、ラット、サル(ヒトを除く霊長目)、ヤギ、イヌ、ブタ、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ニワトリなどを挙げることができる。
【0040】
(iii)続いて、免疫した動物から抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、例えば、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞などを挙げることができる。さらに、ハイブリドーマを得るため、採取した抗体産生細胞を他の細胞と融合させる。抗体産生細胞を採取する方法および細胞の融合方法は、当業者が適宜選択可能な方法を挙げることができる。また、抗体産生細胞に融合させる細胞としては、増殖能力の強い細胞を用いることが好ましく、例えば、一般に入手可能なミエローマ細胞の細胞株を使用することができる。なお、使用する細胞株は、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。
【0041】
(iv)次に、作製したハイブリドーマから、TG−rich LDLを認識する自己抗体に対し特異的に反応するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングする。スクリーニングは、ELISA法やイムノブロット法などの常法を用いて、当業者が適宜選択可能な手法により行うことができる。ELISA法を用いてスクリーニングする場合は、例えば、TG−rich LDLおよびnative−LDLを固着させたELISAをハイブリドーマの培養上清について行い、適当な標識をした抗(免疫動物)抗体によりELISAの反応を検出し、TG−rich LDLに対して反応が大きいとともにnative−LDLに対して反応が小さい培養上清を特定することにより、ハイブリドーマを特定することができる。なお、血清に由来するTG−rich LDLにはTG−rich LDLを認識する自己抗体が付着していると考えられるため、TG−rich LDLを固着させたELISAをスクリーニングに用いることができる。
【0042】
上記(i)〜(iv)のステップを有する方法により得られたハイブリドーマを本発明に係るハイブリドーマとすることができるが、クローニングないしスクリーニングをさらに行うことにより細胞を純化し、本発明に係るハイブリドーマとすることができる。そのようなクローニングないしスクリーニング方法としては、例えば、限界希釈法、トリプシン濾紙法、ペニシリンキャップ法などの方法を挙げることができる。
【0043】
また、このようにして得られたハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体を本発明に係るモノクローナル抗体とすることができる他、前記方法のステップ(iii)において採取される抗体産生細胞が産生するモノクローナル抗体を本発明に係るモノクローナル抗体とすることができる。ハイブリドーマまたは抗体産生細胞からモノクローナル抗体を抽出する方法としては、例えば、細胞培養法や腹水形成法などの常法を挙げることができる。抽出したモノクローナル抗体は、例えば、硫安塩析法、HPLC、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択し、またはこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0044】
得られたモノクローナル抗体のクラスの判定は、適宜常法に従って行うことができ、例えば、免疫した動物がマウスの場合は、IsoStripマウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(Roche社)などを用いて行うことができる。なお、本発明に係るモノクローナル抗体のクラスは、IgG、IgA、IgM、IgDおよびIgEのいずれも用いることができる。
【0045】
本発明に係るモノクローナル抗体は、必要に応じて、ビオチン、放射性同位元素、蛍光物質、酵素などにより標識して用いることができる。また、必要に応じて、ポリスチレン製プレート、ポリプロピレン製プレート、シリコン製プレート、ポリスチレン製マイクロビーズ、磁気ビーズ、ラテックス粒子などの担体に固着させて用いることができる。
【0046】
また、本発明に係るモノクローナル抗体は、必要に応じて、ヒト免疫グロブリン産生能を有する動物に免疫することにより、ヒト抗体として得ることができる他、遺伝子工学的手法を用いて、免疫動物由来の可変部とヒト由来の定常部とからなるキメラ抗体として得ることもでき、免疫動物由来の超可変部を有し、それ以外の抗体部分はヒト由来であるヒト化抗体として得ることもできる。
【0047】
なお、本発明に係るモノクローナル抗体として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに2010年2月2日付で受領されており、受領番号がNITE AP−895であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体を挙げることができるが、これに限定されるものではない。同様に、本発明に係るハイブリドーマとして、上記の受領番号がNITE AP−895であるハイブリドーマを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0048】
次に、本発明は、本発明に係るモノクローナル抗体を含んでなるTG−rich LDL検出用キットを提供する。本発明に係るモノクローナル抗体はTG−rich LDLを認識する自己抗体に対して特異的に反応するため、本発明に係るモノクローナル抗体を用いてこの自己抗体を検出することにより、この自己抗体が認識するTG−rich LDLを検出することができることから、本発明に係るキットは、TG−rich LDLを検出することを目的として使用することができる。酸化LDLの一種であるとされているTG−rich LDLは、保管中に酸化が進行して壊れるなどの虞がある不安定な物質であるのに対し、免疫グロブリンタンパク質である自己抗体は、長期保存および凍結融解を繰り返しても高感度に検出することができる安定な物質であることから、本発明に係るTG−rich LDL検出用キットにより簡便かつ高感度なアッセイが可能となる。
【0049】
なお、本発明に係るキットは、二次抗体、標識物質その他の免疫学的検出手段の実施に有用な物質、緩衝液、器具など、その特徴を損なわない限りにおいて、その構成物として含んでもよい。
【0050】
さらに本発明は、被験者から採取した血清に含まれ、かつTG−rich LDLを認識する自己抗体を検出する方法を提供する。なお、本発明に係る自己抗体の検出方法には、本発明に係る自己抗体の検出方法を損なわない限り、インキュベート工程や洗浄工程などを含んでいてもよい。
【0051】
本発明に係る自己抗体を検出する方法は、被験者から採取した血清に含まれ、かつTG−rich LDLを認識する自己抗体を検出する方法であって、
(i)TG−rich LDLを認識する自己抗体に対し特異的に反応するモノクローナル抗体を、被験者から採取した血清に含まれ、かつTG−rich LDLを認識する自己抗体に特異的に反応させて複合体を形成させる工程(複合体形成工程)
(ii)前記複合体を検出する工程(検出工程)
以上(i)および(ii)の工程を有する。
【0052】
(i)複合体形成工程において複合体を形成させる方法としては、当業者が適宜選択可能な任意の方法を挙げることができる。そのような方法としては、例えば、モノクローナル抗体を含む溶液と血清とを混合させて複合体を形成させる方法の他、血清成分を担体に固着させてモノクローナル抗体を含む溶液と反応させる方法、モノクローナル抗体を担体に固着させて血清と反応させる方法などを挙げることができる。
【0053】
(ii)検出工程において複合体を検出する方法としては、ELISA法、間接抗体法、ラテックス凝集法、比濁法、CLEIA法などの常法の他、例えば、モノクローナル抗体あるいは血清成分に予め標識をし、この標識を検出する方法を挙げることができる。
【0054】
次に、本発明に係る自己抗体を検出する方法の異なる態様は、被験者から採取した血清に含まれ、かつTG−rich LDLを認識する自己抗体を検出する方法であって、
(i)TG−rich LDLを認識する自己抗体に対し特異的に反応するモノクローナル抗体を担体に固着する工程(固着工程)
(ii)担体に固着した前記モノクローナル抗体を、被験者から採取した血清に含まれ、かつTG−rich LDLを認識する自己抗体に特異的に反応させて複合体を形成させる工程(固着複合体形成工程)
(iii)前記複合体を検出する工程(固着複合体検出工程)
以上(i)〜(iii)の工程を有する。
【0055】
(i)固着工程において、モノクローナル抗体を固着する担体は任意のものを用いることができ、そのような担体としては、例えば、上述の、本発明に係るモノクローナル抗体を固着させて用いることができる担体と同様のものを挙げることができる。また、固着する方法は特に限定されず、用いる担体により適宜設定して行うことができる。
【0056】
(ii)固着複合体形成工程および(iii)固着複合体検出工程における、固着複合体を形成させる方法および固着複合体を検出する方法としては、上述の(i)複合体形成工程および(ii)検出工程と同様の方法を挙げることができる。
【0057】
本発明に係るTG−rich LDL検出用キットおよびTG−rich LDLを認識する自己抗体を検出する方法は、肝疾患のみならず酸化LDLが関与する種々の疾患の解明、診断、重症度の評価、治療効果の評価の他、リポタンパク質の酸化度の評価などに用いることが可能である。
【0058】
以下、本発明に係るTG−rich LDLを認識する自己抗体に対するモノクローナル抗体、そのモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、そのモノクローナル抗体を含んでなるTG−rich LDL検出用キットおよび被験者から採取した血清に含まれ、かつTG−rich LDLを認識する自己抗体を検出する方法について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0059】
<実施例1>TG−rich LDLを免疫原とするモノクローナル抗体の作製
(1)アガロースゲル電気泳動によるTG−rich LDLの確認
肝疾患末期患者1名および健常者1名から採取した血液を室温で1時間静置した後、3500rpm、4℃の条件下で10分間遠心分離を行うことにより、肝疾患末期患者血清および健常者血清を得た。得られた血清を1.5μLずつアガロースゲル(ユニバーサルゲル/8;ヘレナ研究所社)に塗布し、pH8.6、イオン強度0.06のバルビタール緩衝液中において、100V、150Wで45分間電気泳動を行った後、ドライヤーを用いてゲルを乾燥させた。続いて、0.03%(w/v)のFat Red 7B(ヘレナ研究所社)を含むメタノール20mLにTritonX−100を2滴加え、さらに0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を4mL加えることにより調製した染色液に、乾燥させたゲルを10分間浸漬して染色を行った後、75%(v/v)メタノール水溶液に10秒間浸漬することにより脱色を行った。
【0060】
図2に示すように、健常者血清(N)ではHDLに相当するα位およびLDLに相当するβ位にそれぞれバンドが検出された。一方、肝疾患末期患者血清(P)ではα位のバンドは検出されなかった。また、健常者血清(N)のβ位のバンドに比して、肝疾患末期患者血清(P)では陽極側に移動した位置でβ位のバンドが検出された。これらの結果から、この肝疾患末期患者血清にはHDLが含まれず、かつ、TG−rich LDLが含まれることが確認された。
【0061】
(2)免疫原の調製
[2−1]密度勾配遠心法による総リポタンパク質画分の分離
本実施例(1)でTG−rich LDLが含まれることが確認された肝疾患末期患者血清について、既報(Chiba H.ら、J.Lipid Res.、第38巻、第1204−1216頁、1997年/Hirano T.ら、J.Atherosclerosis and Thrombosis、第12巻、第67〜72頁、2005年)に従い密度勾配遠心法を行い、総リポタンパク質画分を得た。具体的には、本実施例(1)の肝疾患末期患者血清に5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB;和光純薬工業社)および EDTA−2Na(同仁化学研究所社)をそれぞれ0.7mmol/Lおよび2.7mmol/L(pH7.4)となるよう加え、さらに適量の臭化カリウム(関東化学社)を加えることにより比重dがd=1.225kg/Lとなるように調製し、サンプル溶液とした。続いて、0.20mol/Lの塩化ナトリウム、0.27mmol/LのEDTA−2Na(pH7.4)および1mmol/Lの水酸化ナトリウムを含む水溶液(d=1.006kg/L)に、適量の臭化カリウム(関東化学社)を加えることにより比重dがd=1.225kg/Lとなるように調製し、比重液とした。サンプル溶液12mLを遠心管(40PA;日立工機社)に入れ、比重液を満たし、超遠心機himac CP60E ultracentrifuge(日立工機社)およびローターRPV−50T rotor(日立工機社)を用いて、40000rpm、15℃の条件下で18時間遠心分離を行って、上層(d<1.225kg/L)を総リポタンパク質画分として回収した。回収した総リポタンパク画分約8mLを、アミコン攪拌式セルModel 8050(ミリポア社)および限外濾過膜アミコンXM50(ミリポア社)を用いて添付の使用書に従い、窒素ガス雰囲気下で2〜3mLに濃縮した。
【0062】
[2−2]ゲル濾過クロマトグラフィーによるTG−rich LDL画分の分離
本実施例(2)[2−1]の総リポタンパク質画分について、既報(Chiba Hら、J.Lipid Res.、第38巻、第1204〜1216頁、1997年/Hirano T.ら、J.Atherosclerosis and Thrombosis、第12巻、第67〜72頁、2005年)に従ってゲル濾過クロマトグラフィーを行い、TG−rich LDL画分を得た。具体的には、以下の器具、試薬および条件を用いて、280nmの吸光度を計測しながらゲル濾過クロマトグラフィーを行い、溶出液を3mLずつ分取した。
【0063】
サンプル;本実施例(2)[2−1]の総リポタンパク画分2〜3mL(カラム負荷量)
カラム ;Sepharose CL−4B(GEヘルスケア社)
緩衝液 ;0.15mol/LのNaCl、0.27mmol/LのEDTA−2Na および3mmol/LのNaNを含む5mmol/LのTris−HCl 緩衝液(pH7.4)200mL
条件 ;クロマトチャンバー 4℃
流速 0.15mL/分
【0064】
分取した溶出液のうち、吸光度のピークの前後9mL(3mL×3分画)ずつ溶出液を集め、TG−rich LDL画分18mL(3mL×6分画)を得た。
【0065】
[2−3]TG−rich LDL画分の濃縮および透析
本実施例(2)[2−2]のTG−rich LDL画分18mLを、アミコン攪拌式セルModel 8050(ミリポア社)および限外濾過膜アミコンXM50(ミリポア社)を用いて添付の使用書に従い、窒素ガス雰囲気下で2〜3mLに濃縮した。その後、リン酸緩衝液(PBS)を透析液として、透析膜(セルロースチューブ20/32;三光純薬社)を用いて、4℃で一晩透析し、TG−rich LDL溶液2〜3mLを得た。透析中、透析液の交換を3回行った。
【0066】
[2−4]TG−rich LDL溶液のタンパク質濃度測定
本実施例(2)[2−3]のTG−rich LDL溶液について、既報に従い、Lowry変法を用いてタンパク質濃度を測定した(Markwell MA.ら、Anal.Biochem.、第87巻、第206〜210頁、1978年)。具体的には、2%(w/v)の炭酸ナトリウム、0.4%(w/v)の水酸化ナトリウム、0.16%(w/v)の酒石酸塩および1%(w/v)のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む水溶液を調製し、この水溶液と4%(w/v)の硫酸銅水溶液とを体積比100:1に混合した溶液を反応溶液として調製した。また、脱イオン水に等量のフェノール試薬(フォーリン・チオカルト試薬;和光純薬社)を混合してフォーリン・チオカルト試薬液を調製した。また、500μg/mLの牛血清アルブミン(BSA)水溶液を標準溶液として調製した。本実施例(2)[2−3]のTG−rich LDL溶液および標準溶液それぞれ1mLに、調製した反応溶液を3mLずつ加えて室温で30分間インキュベートした。続いて、調製したフォーリン・チオカルト試薬液300μLを強く撹拌しながら加えた後、室温で45分間インキュベートした。その後、660nmの吸光度をそれぞれ測定した。標準溶液の測定値との比較から、本実施例(2)[2−3]のTG−rich LDL溶液のタンパク質濃度を算出した。
【0067】
[2−5]TG−rich LDL溶液のタンパク質濃度調製
本実施例(2)[2−4]で算出した結果に基づき、本実施例(2)[2−3]のTG−rich LDL溶液のタンパク質濃度を、PBSを用いて1mg/mLに調製した後、4℃で保存した。
【0068】
(3)TG−rich LDLを免疫原としたマウスへの免疫およびハイブリドーマの作製
実施例(2)[2−5]の0.5〜1mg/mLのTG−rich LDL溶液0.1mLを孔径0.45mmのフィルター(DISMIC−25CS;ADVANTEC社)に通した後、常法に従って、百日咳菌アジュバントを注射したBALB/cマウスに3回腹腔内注射することにより免疫を行った。その後、常法に従って、免疫したマウスから脾臓細胞を採取し、50%ポリエチレングリコール1500(Roche社)を用いてマウスミエローマ細胞株P3U1と融合させてハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマは、常法に従って、ペニシリン/ストレプトマイシン、10%(w/v)のウシ胎児血清(FCS)およびHAT溶液を含むRPMI1640培地を用いて、コロニーが確認できるまで約10日間培養した。
【0069】
(4)TG−rich LDLおよびnative−LDLを固着させたELISAによるハイブリドーマのスクリーニング
[4−1]native−LDL画分の調製
本実施例(2)[2−1]、[2−2]、[2−3]、[2−4]および[2−5]に記載の方法に従って、健常者血清からnative−LDL溶液を調製した。
【0070】
[4−2]TG−rich LDLおよびnative−LDLを固着させたELISA
本実施例(2)[2−5]のTG−rich LDL溶液および本実施例(4)[4−1]のnative−LDL溶液を、PBSを用いてそれぞれ20μg/mLに希釈した後、96穴プレート(Nunc MaxiSorp;Nalge Nunc International社)に50μL/ウェル入れて、4℃で一晩インキュベートすることによりTG−rich LDLおよびnative−LDLをそれぞれプレート上に固着させた。液体を除去して1%(w/v)BSAを含むPBSを150μL/ウェル入れ、37℃で2時間インキュベートすることによりブロッキングを行った後、0.05%(v/v)のTween20を含むPBS(0.05%Tween−PBS)を用いて4回洗浄した。続いて、本実施例(3)の、各コロニーの培養上清を、TG−rich LDLを固着させたウェルおよびnative−LDLを固着させたウェルに50μL/ウェル入れて、室温で1時間反応させた後、0.05%Tween−PBSを用いて4回洗浄した。続いて、PBSで500倍に希釈したビオチン標識ラット抗マウスk鎖(Zymed Laboratories社)を50μL/ウェルずつ入れ、室温で1時間反応させた後、0.05%Tween−PBSを用いて4回洗浄した。その後、0.05%Tween−PBSで500倍に希釈したアルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジン(ALP−SA;Zymed Laboratories社)を50μL/ウェル入れて室温で30分間反応させた後、0.05%Tween−PBSを用いて4回洗浄した。次に、0.5mmol/LのMgClを含む10mmol/LのDiethanolamine溶液を用いて1mg/mLに調製したDisodium p−nitrophenyl phosphate hexahydrate(和光純薬社)を100μL/ウェル入れて、室温で30分間発色反応を行った。続いて、マイクロプレートリーダー(Bio−Rad Laboratories社)を用いて、主波長405nmおよび副波長600nmで吸光度を測定した。TG−rich LDLを固着させたウェルにおいて吸光度が大きく、かつnative−LDLを固着させたウェルにおいて吸光度が小さい培養上清を特定することにより、コロニーの選択を行った。
【0071】
[4−3]限界希釈法によるクローニングおよびスクリーニング
本実施例(4)[4−2]で選択したコロニーの細胞を、96穴プレートに1個/ウェルとなるように播き、ペニシリン−ストレプトマイシン、10%(v/v)のFCS、Hypoxanthine、ThymidineおよびHybridoma Fusion Cloning Supplement(Roche社)を含むRPMI1640培地(10%FCS−HT−HFCS−RPMI1640)を用いて培養を行った。これらの培養上清について、本実施例(4)[4−2]に記載の方法に従い、再度ELISAを行い、TG−rich LDLを固着させたウェルにおいて吸光度が大きく、かつnative−LDLを固着させたウェルにおいて吸光度が小さい培養上清を特定することにより、クローンの選択を行った。その結果得られた2つのハイブリドーマを、それぞれG11−2およびD12−5と命名した。
【0072】
(5)G11−2抗体およびD12−5抗体の精製
常法に従って、2,6,10,14‐テトラメチル‐2‐ペンタデセン酸(プリステン)を注射したマウスの腹腔内に、本実施例(4)のG11−2およびD12−5をそれぞれ接種して培養し、G11−2が産生するモノクローナル抗体(G11−2抗体)およびD12−5が産生するモノクローナル抗体(D12−5抗体)をそれぞれ含む腹水を得た。
【0073】
得られた腹水について、常法に従い飽和硫安(飽和硫酸アンモニウム)沈殿法を行って、粗モノクローナル抗体溶液を得た。具体的には、得られた腹水を氷冷しながら、等量の硫酸アンモニウムをゆっくりと滴下して加えた後、遠心分離を行って上清を除去した。続いて沈殿物に50%飽和硫酸アンモニウム溶液を加えて再度遠心して上清を除去することで洗浄を行い、沈殿物をPBSに溶解して粗G11−2抗体溶液および粗D12−5抗体溶液とした。
【0074】
続いて、粗G11−2抗体溶液および粗D12−5抗体溶液それぞれ300μLについて、以下の器具・機器、溶離液および条件を用いて常法に従ってHPLC法を行い、溶出液を0.5mLずつ分取することにより、100μg/mL精製G11−2抗体溶液を約10mL、100μg/mL精製D12−5抗体溶液を約15mL、それぞれ得た。
【0075】
カラム;Superose 6 10/300 GL(GEヘルスケア社)
溶離液;50mmol/L NaPB溶液(pH7.2)
システムコントローラ;CBM−20A(島津製作所社)
送液ポンプ:LC−20AD(島津製作所社)
オートサンプラー;SIL−20A(島津製作所社)
カラムオーブン;CTO−20AC(島津製作所社)
検出器;SPD−20A(島津製作所社)
条件;流速 0.5mL/分
検出波長 280nm
【0076】
<実施例2>G11−2抗体およびD12−5抗体のクラス判定
IsoStripマウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(Roche社)を用いて、添付の使用書に従い、イムノクロマトグラフィー法により実施例1(5)のG11−2抗体およびD12−5抗体のクラス判定を行った。その結果、G11−2抗体のクラスはIgMであり、D12−5抗体のクラスはIgGであることが明らかになった。
【0077】
<実施例3>G11−2抗体の抗原解析
(1)TG−rich LDLおよびnative−LDLを固着させたELISA
[1−1]G11−2抗体のビオチン標識
Dimethylsulfoxide(和光純薬社)に、10mmol/LとなるようN−hydroxysuccinimide ester of biotin(EZ−Link NHS−Biotin Reagents;サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を溶解することによりビオチン標識液を調製した。100μg/mLのG11−2抗体溶液1mLに調製したビオチン標識液を2μL添加して、室温で10分間、振盪しながら反応させた。続いて、PBSを透析液として透析を行い、未反応のビオチンを除去した。その後、PBSを用いてタンパク質濃度が5μg/mLとなるよう調製して、ビオチン標識G11−2抗体を得た。
【0078】
[1−2]抗アポリポタンパクB抗体のビオチン標識
抗アポリポタンパクBポリクローナル抗体を含むヤギ抗血清(WatPa;Enterprises社)について、飽和硫安沈殿法で粗抗アポリポタンパクBポリクローナル抗体溶液を得た。具体的には、抗血清を氷冷しながら、等量の硫酸アンモニウムをゆっくりと滴下して加え、遠心分離を行って上清を除去した後、沈殿物に40%飽和硫酸アンモニウム溶液を加えて再度遠心して上清を除去することで洗浄を行い、沈殿物をPBSに溶解して粗抗アポリポタンパクBポリクローナル抗体溶液とした。
【0079】
続いて、常法に従ってアフィニティカラムクロマトグラフィー法を行った。具体的には、PBSで10倍希釈した粗抗アポリポタンパクBポリクローナル抗体溶液をアフィニティカラム(Protein G Sepharose 4 Fast Flow;GEヘルスケア社)に4℃、一晩ループして通過させ、カラムに抗アポリポタンパクBポリクローナル抗体を結合させて行った。送液ポンプにはペリスタルティックポンプ(SJ−1215;ATTO社)を用い、流速を約0.2mL/分とし、カラム内の溶液をPBSに置換・洗浄して、流速約0.2mL/分で0.1mol/LのGlycine−HCl(pH2.7)を流して抗体を溶出させ、その溶出液を0.5mLずつ分取した。
【0080】
速やかに1mol/LのTris−HCl(pH8.0)を溶出液に加えて中和を行い、各分画において波長280nmの吸光度を測定してタンパク質の存在した分画をプールした後、波長280nmの吸光度を測定してタンパク質濃度を算出し、4.7mg/mLの精製抗アポリポタンパクBポリクローナル抗体溶液約3.5mLを得た。その後、PBSを透析液として透析膜(セルロースチューブ20/32;三光純薬社)を用いて、4℃で一晩透析し、精製抗アポリポタンパクBポリクローナル抗体溶液約3.5mLを得た。透析中、透析液の交換を3回行った。
【0081】
続いて、本実施例(1)[1−1]に記載の方法に従って、抗アポリポタンパクB−IgG抗体のビオチン標識を行い、ビオチン標識抗アポリポタンパクB−IgG抗体を得た。ただし、反応時間は10分間に代えて4時間とした。
【0082】
(2)TG−rich LDLおよびnative−LDLを固着させたELISA
実施例1(4)[4−2]に記載の方法に従い、ELISAを行った。ただし、一次抗体として実施例1(3)の各コロニーの培養上清に代えて、本実施例(1)[1−1]のビオチン標識G11−2抗体および本実施例(1)[1−2]のビオチン標識抗アポリポタンパクB−IgG抗体をそれぞれ用いた。また、二次抗体は使用せず、発色反応は30分間に代えて10分間とし、吸光度測定の際の副波長は600nmに代えて620nmとした。その結果を図3に示す。
【0083】
図3に示すように、G11−2抗体を用いてTG−rich LDLを固着させたELISAを行った場合、吸光度は0.144であるのに対し、native−LDLを固着させたELISAを行った場合、吸光度は0.018であった。一方、抗アポリポタンパクB−IgG抗体を用いてTG−rich LDLを固着させたELISAを行った場合、吸光度は0.690であるのに対し、native−LDLを固着させたELISAを行った場合、吸光度は0.822であった。
【0084】
以上の結果から、G11−2とTG−rich LDL固相化ウェルとを用いてELISAを行った場合に強い発色が観察されることが確認された。すなわち、G11−2抗体を利用することにより、native−LDLと比較してTG−rich LDLを特異的に検出できることが示された。
【0085】
(2)磁気ビーズによる抗原の回収および抗原のSDS−PAGE
[2−1]G11−2抗体の磁気ビーズへの固定
実施例1(5)の100μg/mLのG11−2抗体溶液1mLに、2×10beads/mLの磁気ビーズ原液(Dynabeads M−280 Tosylactivated;Veritas社)165μLを添加し、攪拌しながら4℃で48時間反応させることにより、磁気ビーズ固定G11−2抗体溶液を調製した。
【0086】
[2−2]磁気ビーズ固定G11−2抗体に特異的に反応した抗原の回収
本実施例(2)[2−1]の磁気ビーズ固定G11−2抗体溶液を磁石にセットして上清を除去した後、5%のBSAを含むPBS1mLを用いて、室温で4時間ブロッキングを行った。続いて、磁石にセットして上清を除去した後、0.05%Tween−PBSを用いて振盪しながら10分間洗浄を行った。磁石にセットして上清を除去し、PBSを用いてさらに3回洗浄を行った後、磁石にセットして上清を除した。そこに、PBSで20倍希釈した肝疾患患者血清1mLおよびコントロールとしてPBS1mLをそれぞれ加え、室温にて1時間、インキュベートした。続いて、磁石にセットして上清を除去した後、PBSを用いて3回洗浄を行い、磁石にセットして上清を除去した後、0.1mol/LのGlycine−HCl(pH3.2)をそれぞれ加えて1分間ボルテックス処理することにより、磁気ビーズ固定G11−2抗体と抗原とを解離させた。その後、再度磁石にセットし、上清を回収した後、速やかに1mol/LのTris−HCl(pH8.0)を加えて中和を行った。
【0087】
[2−3]SDS−PAGEによる抗原の解析
4%(w/v)のSDS、20%(v/v)のglycerolおよび0.005%(w/v)のBromophenol Blueを含む0.126mol/LのTris−HCl(pH6.8)を変性用緩衝液として調製した。また、0.1%(w/v)のSDSおよび384mmol/Lのglycineを含む50mmol/Lのtris(hydroxymethyl)aminomethaneを泳動用緩衝液として調製した。続いて、本実施例(2)[2−2]で回収した、PBSを加えた場合の上清をサンプル1、本実施例(2)[2−2]で回収した、肝疾患患者血清を加えた場合の上清をサンプル2、実施例1(5)のG11−2抗体溶液をサンプル3および実施例1(5)のD12−5抗体溶液をサンプル4として、等量の変性用緩衝液をそれぞれのサンプルに加えて混合した後、90℃で5分間熱処理した。その後、3〜10%グラジエントゲル(ATTO社)がセットされ、調製した泳動用緩衝液が満たされた泳動槽(AE−6500;ATTO社)に、分子量マーカー(HiMark Pre−Stained and Unstained High Molecular Weight Protein Standards;インビトロジェン社)5μL、サンプル1、サンプル2、サンプル3およびサンプル4をそれぞれ10μL添加して、20mA、150Wで80分間電気泳動を行った。その後、銀染色試薬(2D−銀染色試薬・II;コスモ・バイオ社)を用いてゲルを染色した。その結果を図4に示す。
【0088】
図4に示すように、サンプル1では、約58kDaの位置にバンドが検出され、サンプル2では、原点、約170kDaの位置および約58kDaの位置にバンドが検出された。サンプル3では、原点の位置にバンドが検出され、サンプル4では、約170kDaの位置にバンドが検出された。
【0089】
約58kDaの位置のバンドは、サンプル1およびサンプル2で検出されたことから、血清に由来するものではなく、作製した磁気ビーズ由来のバックグラウンドであることが確認された。一方、原点のバンドは、サンプル2およびサンプル3で検出され、実施例2の結果よりG11−2抗体のクラスはIgMであることから、サンプル2にはIgMが含まれることが確認された。また、約170kDaの位置のバンドは、サンプル2およびサンプル4で検出され、実施例2の結果よりD12−5抗体のクラスはIgGであることから、サンプル2には、IgGおよびIgGと同等の分子量を有するIgAが含まれることが確認された。
【0090】
これらの結果から、肝疾患患者血清に含まれるG11−2抗体の抗原はIgM、IgGおよびIgAであることが明らかになった。
【0091】
(3)G11−2抗体を固着させたELISA
[3−1]密度勾配遠心による血清上層画分、中層画分および下層画分の調製
肝疾患患者2名(肝疾患1および肝疾患2とする)および健常者1名から血清を採取した。これらの血清それぞれ2mLについて、実施例1(2)[2−1]に記載の方法に従い、密度勾配遠心法を行った。ただし、超遠心機はhimac CP60E ultracentrifuge(日立工機社)に代えて、OptimaMAX ultracentrifuge(BECKMAN COULTER社)を用い、ローターはRPV−50T rotor(日立工機社)に代えてMLN−80(BECKMAN COULTER社)を用いた。また、遠心の際の回転数は50000rpmとし、遠心時間は20時間とした。遠心終了後、総リポタンパク質画分(d <1.225kg/L)として上層画分をそれぞれ2mLを回収し、さらに、中層画分をそれぞれ4mLおよび下層画分をそれぞれ2mL回収した。
【0092】
[3−2]G11−2抗体を固着させたELISA
実施例1(5)のG11−2抗体について、PBSを用いてタンパク質濃度5μg/mLに希釈した。これを、96穴プレートNunc MaxiSorp(Nalge Nunc International社)に50μL/ウェル入れて、37℃で2時間インキュベートすることによりG11−2抗体をプレート上に固着させた。液体を除去して1%(w/v)BSAを含むPBSを150μL/ウェル入れ、37℃で2時間インキュベートすることによりブロッキングを行った後、0.05%Tween−PBSを用いて4回洗浄した。続いて、本実施例(3)[3−1]の上層画分、中層画分および下層画分をそれぞれ50μL/ウェル入れて、4℃で一晩反応させた後、0.05%Tween−PBSを用いて4回洗浄した。続いて、PBSで5000倍に希釈したビオチン標識ヤギ抗ヒトIgG+A+M抗体(Open Biosystems社)を50μL/ウェル入れ、室温で1時間反応させた後、0.05%Tween−PBSを用いて4回洗浄した。その後、0.05%Tween−PBSで500倍に希釈したALP−SA(Zymed Laboratories社)を50μL/ウェル入れて室温で30分間反応させた後、0.05%Tween−PBSを用いて4回洗浄した。次に、0.5mmol/LのMgClを含む10mmol/LのDiethanolamine溶液を用いて1mg/mLに調製したDisodium p−nitrophenyl phosphate hexahydrate(和光純薬社)を、100μL/ウェルずつ入れて室温で60分間発色反応を行った。続いて、マイクロプレートリーダー(Multiskan FC;サーモサイエンティフィックフィッシャー社)を用いて、主波長405nmおよび副波長620nmで吸光度を測定した。その結果を図5に示す。
【0093】
図5に示すように、肝疾患1の上層画分の吸光度は0.117、中層画分の吸光度は、0.047下層画分の吸光度は1.476であり、肝疾患2の上層画分の吸光度は0.01、中層画分の吸光度は0.01、下層画分の吸光度は0.901であった。一方、健常者の上層画分および中層画分の吸光度は0であり、下層画分の吸光度は0.343であった。
【0094】
これらの結果から、G11−2抗体の抗原は、肝疾患患者血清の下層画分に主に存在することが確認された。すなわち、G11−2抗体の抗原は、上層画分に存在するリポタンパク質ではなく、下層画分に主に存在する免疫グロブリンタンパク質であることが確認された。また、健常者では上層画分において反応が全く検出されない一方で、肝疾患患者では上層画分において反応が検出されたことから、G11−2抗体の抗原となる免疫グロブリンタンパク質は、リポタンパク質に結合することが確認された。
【0095】
以上より、G11−2抗体の抗原は、肝疾患患者血清に含まれるTG−rich LDLに結合する免疫グロブリンタンパク質すなわち自己抗体であることが確認された。また、この自己抗体は血清中において、その多くがTG−rich LDLに結合している状態ではなく、遊離の状態で存在することが確認された。
【0096】
<実施例4>G11−2抗体を固着させたELISAにおける検出抗体の検討
実施例3(3)[3−2]に記載の方法に従ってELISAを行った。ただし、サンプルは本実施例(3)[3−1]の上層画分、中層画分および下層画分に代えて肝疾患患者2名(以下、「肝疾患1」および「肝疾患2」とする)および健常者2名(以下、「健常者1」および「健常者2」とする)からそれぞれ採取した血清をPBSで100倍に希釈したものを用いた。また、検出抗体はPBSで5000倍に希釈したビオチン標識ヤギ抗ヒトIgG+A+M抗体(Open Biosystems社)に代えて、PBSで10万倍に希釈したビオチン標識マウス抗ヒトIgG Fcγ抗体(Jackson ImmunoResearch laboratories社)、PBSで1万倍に希釈したビオチン標識ヤギ抗ヒトIgA(α)抗体(Jackson ImmunoResearch laboratories社)、PBSで40万倍に希釈したビオチン標識ウサギ抗ヒトIgM Fc5μ抗体(Jackson ImmunoResearch laboratories社)およびPBSで10万倍に希釈したビオチン標識ヤギ抗ヒトIgG+A+M抗体(Open Biosystems社)を用いた。また、発色時間は30分とした。その結果を図6に示す。
【0097】
図6に示すように、検出抗体として抗ヒトIgG Fcγ抗体を用いた場合、肝疾患1および肝疾患2でいずれも吸光度の測定値は大きい一方で、健常者1および健常者2ではいずれも吸光度の測定値は小さい。検出抗体として抗ヒトIgA(α)抗体を用いた場合も同様であり、肝疾患患者1および肝疾患患者2でいずれも吸光度の測定値は大きい一方で、健常者1および健常者2ではいずれも吸光度の測定値は小さい。これに対し、検出抗体として抗ヒトIgM Fc5μ抗体を用いた場合は、肝疾患患者1で吸光度の測定値は大きく、肝疾患患者2および健常者1および健常者2ではいずれも同程度に吸光度の測定値は小さい。検出抗体として抗ヒトIgG+A+M抗体を用いた場合も同様であり、肝疾患患者1で吸光度の測定値は大きく、肝疾患患者2および健常者1および健常者2ではいずれも同程度に吸光度の測定値は小さい。
【0098】
これらの結果から、G11−2抗体を固着させたELISAは、検出抗体として抗ヒトIgG Fcγ抗体または抗ヒトIgA(α)抗体を用いた場合に、肝疾患特異的に反応することが確認された。
【0099】
<実施例5>血清サンプルの凍結融解試験
(1)血清サンプルの調製
肝疾患患者1名から血清を採取して7等分し、患者サンプル0、患者サンプル1、患者サンプル2、・・・患者サンプル6とした。また、健常者1名から血清を採取して同様に7等分し、健常者サンプル0、健常者サンプル1、健常者サンプル2、・・・健常者サンプル6とした。患者サンプル0および健常者サンプル0は4℃で保存し、患者サンプル1および健常者サンプル1は−80℃で一晩保存することにより凍結後、翌日融解した。患者サンプル2および健常者サンプル2は−80℃で一晩保存することにより凍結後、翌日融解することを2回繰り返した。同様に、患者サンプル3および健常者サンプル3は前述の凍結融解を3回繰り返し、患者サンプル4および健常者サンプル4は4回、患者サンプル5および健常者サンプル5は5回、患者サンプル6および健常者サンプル6は6回繰り返した。
【0100】
(2)G11−2抗体を固相とする(固着させた)ELISA
実施例3(3)[3−2]に記載の方法に従ってELISAを行った。ただし、サンプルは実施例(3)[3−1]の上層画分、中層画分および下層画分に代えて本実施例(1)の患者サンプル0〜患者サンプル6および健常者サンプル0〜健常者サンプル6の合計14サンプルをそれぞれ用いた。また、検出抗体はPBSで5000倍に希釈したビオチン標識ヤギ抗ヒトIgG+A+M抗体(Open Biosystems社)に代えて、PBSで10万倍に希釈したビオチン標識マウス抗ヒトIgG Fcγ抗体(Jackson ImmunoResearch laboratories社)を用いた。また、発色時間は30分とした。その結果を図7に示す。
【0101】
図7に示すように、患者サンプル0〜患者サンプル6の吸光度はいずれも約0.15であり、健常者サンプル0〜健常者サンプル6の吸光度はいずれも約0.025であった。この結果から、血清の凍結融解回数がいずれの場合も、肝疾患患者におけるELISAの吸光度および健常者のELISAの吸光度は変化しないことが確認された。すなわち、G11−2抗体の抗原である、肝疾患患者血清に含まれるTG−richLDLを認識する自己抗体は凍結融解を繰り返しても安定に存在することが確認された。
【0102】
<実施例6>G11−2抗体を固着させたELISAにおける反応性と肝疾患重症度の相関
(1)アガロースゲル電気泳動による肝疾患重症度の判定
肝疾患患者9名、健常者14名からそれぞれ血清を採取し、実施例1(1)に記載の方法に従ってアガロースゲル電気泳動を行った。健常者血清および肝疾患患者血清の典型的な泳動結果を図8に示す。
【0103】
図8に示すように、肝疾患患者血清のうち、α位のバンド(HDLに相当)が完全に欠失したものと欠失していないものがあった。そこでこの結果に基づき、健常者の泳動パターンに比して、α位のバンド(HDLに相当)が完全に欠失した肝疾患患者を重度群と判定し、α位のバンド(HDLに相当)が欠失していない肝疾患患者を軽中度群と判定したところ、肝疾患患者9名のうち6名が軽中度群であり、3名が重度群であった。
【0104】
(2)G11−2抗体を固相とする(固着させた)ELISA
実施例3(3)[3−2]に記載の方法に従い、ELISAを行った。ただし、サンプルは実施例3(3)[3−1]の上層画分、中層画分および下層画分に代えて本実施例(1)の健常者群14名、軽中度群6名および重度群3名の血清合計23サンプルをPBSで100倍に希釈したものをそれぞれ用いた。また、検出抗体はPBSで5000倍に希釈したビオチン標識ヤギ抗ヒトIgG+A+M抗体(Open Biosystems社)に代えて、PBSで10万倍に希釈したビオチン標識マウス抗ヒトIgG Fcγ抗体(Jackson ImmunoResearch laboratories社)を用いた。また、発色時間は30分とした。吸光度の測定値を健常者群、軽中度群および重度群の群別に集計し、平均値を算出した。その結果を図9に示す。各群間の比較は、一元配置分散分析およびScheffeの方法による多重比較検定を行い、 P<0.05である場合に、統計学的に有意であるとした。
【0105】
図9に示すように、健常者群の吸光度は0.063±0.055であったのに対し、軽中度群の吸光度は0.083±0.034、重度群の吸光度は0.281±0.200であった。多重比較検定の結果、重度群と健常者群との間および重度群と健常者群との間はP<0.01で、有意差が認められた。一方、健常者群と軽中度群との間には有意差が認められなかった。
【0106】
これらの結果から、G11−2抗体を固相とする(固着させた)ELISAは、肝疾患患者において肝疾患の重症度診断に有用であることが確認された。
【0107】
<実施例7>脂質異常症患者血清に対するG11−2抗体を固相とする(固着させた)ELISAの反応性
(1)血清脂質項目の測定
健常者2名(健常者1および健常者2とする)、脂質異常症患者7名(脂質異常症1、脂質異常症2、・・・脂質異常症7とする)および肝疾患患者12名(肝疾患1、肝疾患2、・・・肝疾患12とする)から血清合計21サンプルを採取し、以下の試薬および日立自動分析装置7170(日立ハイテクノロジーズ社)を用いて添付のプロトコールに従い血清中脂質濃度を測定した。続いて、測定値を健常者、脂質異常症患者および肝疾患患者の別に集計して、平均値を算出した。その結果を表2に示す。
【0108】
総コレステロール(TC);コレステストCHO(積水メディカル社)
中性脂肪(TG);エクセライザ TG(積水メディカル社)
リン脂質(PL);ピュアオートS PL(積水メディカル社)
高密度リポタンパク質中のコレステロール(HDL−C);コレステストN HDL(積水メディカル社)
低密度リポタンパク質中のコレステロール(LDL−C);コレステスト LDL(積水メディカル社)
【0109】
【表2】

【0110】
(2)G11−2抗体を固着させたELISA
実施例3(3)[3−2]に記載の方法により、ELISAを行った。ただし、サンプルは実施例(3)[3−1]の上層画分、中層画分および下層画分に代えて本実施例(1)の健常者2名、脂質異常症患者7名および肝疾患患者12名の血清合計21サンプルをそれぞれPBSで100倍に希釈したものを用いた。また、検出抗体はPBSで5000倍に希釈したビオチン標識ヤギ抗ヒトIgG+A+M抗体(Open Biosystems社)に代えて、PBSで10万倍に希釈したビオチン標識マウス抗ヒトIgG Fcγ抗体(Jackson ImmunoResearch laboratories社)を用いた。また、発色時間は30分とした。その結果を図10aに示す。また、各サンプルの吸光度の測定値について、以下の式を用いて、本実施例(1)で測定した各サンプルのLDL−Cの血清中濃度で除した。その結果を図10bに示す。
【0111】
式;吸光度の測定値×10000/本実施例(1)で測定した血清中LDL−C濃度
【0112】
図10aに示すように、健常者1および健常者2の吸光度の測定値はいずれも小さい一方、脂質異常症1〜脂質異常症7の吸光度の測定値は、概ね健常者の吸光度の測定値と比べて大きい。特に、脂質異常症1の吸光度の測定値は肝疾患患者の吸光度の測定値と同程度に大きい。これに対し、肝疾患1〜肝疾患12の吸光度は、概ね健常者および脂質異常症患者の吸光度の測定値と比べて大きい。これらの結果から、G11−2抗体を固着させたELISAは、健常者では反応が小さい一方、脂質異常症患者および肝疾患患者では比較的反応が大きいことが確認された。
【0113】
また、図10bに示すように、各サンプルの吸光度の測定値を各サンプルの血清中LDL−C濃度で除したところ、肝疾患患者の測定値と健常者および脂質異常症患者の測定値との差が大きくなり、肝疾患患者の測定値が大きい一方、健常者および脂質異常症患者の測定値が小さくなった。この結果から、G11−2抗体を固着させたELISAの吸光度の測定値を血清中LDL−C濃度で除することにより、肝疾患特異的に大きな値となることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体に対し特異的に反応するモノクローナル抗体。
【請求項2】
自己抗体がヒトの自己抗体である、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
トリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)が肝疾患患者から採取された血清に含まれるトリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)である、請求項1または請求項2に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
自己抗体がIgG、IgAおよびIgMからなる群より選ばれる1または2である、請求項1から請求項3のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
受領番号がNITE AP−895であるハイブリドーマにより産生される、請求項1から請求項4のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項7】
受領番号がNITE AP−895である、請求項6に記載のハイブリドーマ。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のモノクローナル抗体を含んでなる、トリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)検出用キット。
【請求項9】
被験者から採取した血清に含まれ、かつトリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体を検出する方法であって、
トリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体に対し特異的に反応するモノクローナル抗体を、被験者から採取した血清に含まれ、かつトリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体に特異的に反応させて複合体を形成させる工程と、
前記複合体を検出する工程と
を有する、前記方法。
【請求項10】
被験者から採取した血清に含まれ、かつトリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体を検出する方法であって、
トリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体に対し特異的に反応するモノクローナル抗体を担体に固着する工程と、
担体に固着した前記モノクローナル抗体を、被験者から採取した血清に含まれ、かつトリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体に特異的に反応させて複合体を形成させる工程と、
前記複合体を検出する工程と
を有する、前記方法。
【請求項11】
自己抗体がヒトの自己抗体である、請求項9または請求項10に記載の方法。
【請求項12】
モノクローナル抗体が、肝疾患患者から採取された血清に含まれ、かつトリグリセリド高含有低密度リポタンパク質(TG−rich LDL)を認識する自己抗体に対し特異的に反応するモノクローナル抗体である、請求項9から請求項11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
自己抗体がIgG、IgAおよびIgMからなる群より選ばれる1または2である、請求項9から請求項12のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【公開番号】特開2011−157324(P2011−157324A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22076(P2010−22076)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】