説明

トリメチルアルミニウムの製造方法

【課題】安価で操作性に優れ、かつ不純物、特に塩素濃度の低い高純度トリメチルアルミニウムの製造方法を提供すること。
【解決手段】炭化水素溶媒中でアルカリ金属を加熱、融解、攪拌してアルカリ金属分散液を作製し、これにメチルアルミニウムクロリドを混合し、反応、熟成して得られたトリメチルアルミニウムを蒸留により得るトリメチルアルミニウムの製造方法において、該炭化水素溶媒中でのアルカリ金属の加熱、融解、攪拌を、炭化水素溶媒に対しアルカリ金属が融解した後、更に該アルカリ金属の融点以上の温度で、1時間以上攪拌処理を行い、これにメチルアルミニウムクロリドを混合し、反応、熟成し、得られた反応生成物よりトリメチルアルミニウムを蒸留により得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリメチルアルミニウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリメチルアルミニウムは、半導体、アルミニウムメッキ、ポリオレフィン製造の重合触媒の各分野において多様な使用が可能なためにその重要性は増加している。
【0003】
半導体分野において、トリメチルアルミニウムは、重要な化合物半導体材料であるほか、他の化合物半導体材料であるトリメチルガリウムやトリメチルインジウムなどを製造する上でのメチル化材として使用されており、重要な基幹原料となっている。そのため、品質としては高純度であることが要求され、かつ安価であることが望まれる。
【0004】
高純度トリメチルアルミニウムの製造方法としては金属Liを用いた方法(特許文献1)、Al/Li合金を用いた方法(特許文献2)などが知られているが、工業的には、通常、セスキクロリド法が用いられている。反応は下記式(1)
3Me3−xAlCl + 3xNa →
(3−x)MeAl + xAl + 3xNaCl (1)
(式中、xは、1≦x≦2の関係を満たす実数で表す。)により、炭化水素溶媒中、金属ナトリウムを用いてメチルアルミニウムクロリドを還元することで行われる。
【0005】
この反応は、ナトリウムとメチルアルミニウムクロリドとの固−液相反応であるため、ナトリウム表面に析出する反応副生成物(Al,NaCl) による不活性効果に基づき、反応は抑制されることが知られている。また、メチルアルミニウムクロリドを完全に使用するために、過剰量のナトリウムを使用すると、下記式(2)
4MeAl + Na → 3Na[AlMe]+Al (2)
により、極めて高い温度で融解する錯化合物を形成することから収率はさらに減少することも知られている。いずれの場合も反応器中にはナトリウムが多く残存することとなり、廃棄物処理問題、安全性の問題が指摘されている。
【0006】
この問題を解決する方法として、炭化水素溶媒中、メチルアルミニウムセスキクロリドとほぼ当量のナトリウム分散液とを反応させることによりトリメチルアルミニウムが収率75%以上で得られる方法が知られている(特許文献3)。
【0007】
しかしながら、該方法は先に記載の方法に比較し、廃棄物処理問題も少なく、反応収率も優れた方法ではあるが、この方法では、合成過程においてメチルアルミニウムクロリドとナトリウムとの反応液で粘性上昇が起こり、攪拌不十分により、得られるトリメチルアルミニウム中の塩素濃度が増加するという問題点がある。トリメチルアルミニウム中に含まれる塩素濃度が高いと、これを原料として用いて形成するAlを含む薄膜の組成が目的のものと異なったり、薄膜の結晶構造を損なう恐れがあると言われており、通常150ppm以下、好ましくは100ppm以下の塩素濃度のものが望まれている。
【0008】
【特許文献1】US5380895
【特許文献2】特許3334881号
【特許文献3】特開昭48−15831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、安価で操作性に優れ、かつ不純物、特に塩素濃度が低い高純度トリメチルアルミニウムの製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は鋭意検討の結果、炭化水素溶媒中、アルカリ金属を加熱、融解、攪拌によりアルカリ金属分散液を作製し、これにメチルアルミニウムクロリドを混合し、反応を経て得られたトリメチルアルミニウムを蒸留により取り出す工程において、メチルアルミニウムクロリドを混合する前のアルカリ金属分散液に着眼し、これを特定条件で簡単な前処理を行うことにより、本発明の目的とする高純度トリメチルアルミニウムを安価で、操作性よく得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、炭化水素溶媒中でアルカリ金属を加熱、融解、攪拌してアルカリ金属分散液を作製し、これにメチルアルミニウムクロリドを混合し、反応、熟成して得られる反応生成物より蒸留によりトリメチルアルミニウムを製造する方法において、該炭化水素溶媒中でのアルカリ金属の加熱、融解、攪拌を、炭化水素溶媒に対しアルカリ金属が融解した後、更に該アルカリ金属の融点以上の温度で1時間以上攪拌処理を行い、これにメチルアルミニウムクロリドを混合し、反応、熟成し、得られた反応生成物よりトリメチルアルミニウムを蒸留により得ることを特徴とするトリメチルアルミニウムの製造方法を提供するにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、化合物半導体材料として、また、化合物半導体材料のメチル化材としての重要な基幹原料であるトリメチルアルミニウムを操作性よく高純度で提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本発明における高純度トリメチルアルミニウムの製造方法は、炭化水素溶媒中、アルカリ金属を加熱、融解、攪拌によりアルカリ金属分散液を作製し、これにメチルアルミニウムクロリドを混合し、反応、熟成を経て得られたトリメチルアルミニウムを蒸留により取り出す工程よりなり、該炭化水素溶媒中でのアルカリ金属の加熱、融解、攪拌を、炭化水素溶媒に対しアルカリ金属が融解した後、更に該アルカリ金属の融点以上の温度で、1時間以上、普通には100分以上攪拌処理を行い、次いでこれにメチルアルミニウムクロリドを混合することを特徴とする。
【0014】
前記反応溶媒としては、上記トリメチルアルミニウムの製造において用いられている公知の炭化水素溶媒であれば特に限定はされないが、トリメチルアルミニウムを合成する上で疎水性かつ反応性の乏しい飽和炭化水素または芳香族炭化水素が好ましい。さらに好ましくは、蒸留単離時におけるトリメチルアルミニウムへの混入、合成における使用安全性の面から高沸点で揮発性が低く、室温で液体であるものの適用が推奨される。
【0015】
該飽和炭化水素としては、特に限定はされないが、沸点が150℃以上260℃未満、及び、融点若しくは凝固点が10℃以下のものが好ましい。上記、飽和炭化水素としては、炭素数が8以上20以下の置換もしくは非置換の直鎖飽和炭化水素であっても、置換もしくは非置換の環状飽和炭化水素であってもよい。また、パラフィン油或いはそれらの混合物が含まれていてもよい。
【0016】
上記飽和炭化水素の具体例としては、n−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、n−トリデカン、n−テトラデカン、シクロオクタン、シクロデカン、o−メンタン、m−メンタン、p−メンタン、ビシクロヘキシル、パラフィン類C2n+2(n≧8)がある。ドデカン、トリデカンは、沸点が200℃以上で、かつ凝固点が0℃以下であることより、蒸留時の精製効果が高く、操作上の取り扱い易さからさらに好ましい。
【0017】
該芳香族炭化水素としては、Rが水素原子、メチル基又は、炭素数2から8のアルキル基、シクロアルキル基、アルキレン基から選ばれる原子もしくは基をそれぞれ独立に有する下記、式(3)で示されるArの炭素数6の化合物が挙げられる。
Ar (3)
【0018】
該芳香族炭化水素のRである炭素数2から8のアルキル基としては、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、ネオヘキシル、tert−ヘキシル、n−ヘプチル、イソヘプチル、ネオヘプチル、tert−ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、ネオオクチル、tert−オクチル基が挙られる。
【0019】
該芳香族炭化水素のRである炭素数2から8のシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル基が挙げられる。
【0020】
該芳香族炭化水素のRである炭素数2から8のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン基が挙げられる。
【0021】
上記芳香族炭化水素の具体例としては、クメン、o−クメン、m−クメン、p−クメン、プロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1−フェニルペンタン、1−フェニルヘプタン、1−フェニルオクタン、1,2−ジエチルベンゼン、1,4−ジエチルベンゼン、メシチレン、1,3−ジ−tert−ブチルベンゼン、1,4−ジ−tert−ブチルベンゼン、ジ−n−ペンチルベンゼン、トリ−tert−ブチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、インダン、テトラリンがある。とりわけ、1−フェニルヘプタン、ジ−n−ペンチルベンゼン、テトラリンは、沸点が200℃以上、かつ凝固点が極めて低く、さらに引火点が70℃以上と高いことから、蒸留時の精製効果が高く、操作上の取り扱い易さ、安全性の面からより好ましい。
【0022】
本発明における炭化水素溶媒としては、特に、ドデカン、テトラリンは適度な粘性と沸点を兼ね備えているため、アルカリ金属分散液の作製が容易で、蒸留時における単離留分への混入も少ない。また、汎用の有機溶媒であることから、低コストで容易に入手できるため、反応溶媒としてより有益な効果をもたらすことが可能となる。
【0023】
本発明に用いられるアルカリ金属としては、特に限定はされないが、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムもしくはそれらからなる合金が好ましい。更にはナトリウムが、安定性と融点の点から取り扱いやすく、妥当なコストで容易に入手でき、分散液を作製することができることから好ましく用いられる。リチウムは空気中でも比較的安定であり、取り扱いは容易であるが、融点が180℃と高温であることから、本反応における分散液を作製する上で単体での使用は困難である。一方、カリウム、ルビジウム、セシウムについては融点が100℃以下であることから、分散液を作製する上で大変有利となるが、反応性の高さから取り扱いの点で極めて不利となる。
【0024】
本発明のアルカリ金属を加熱・融解を行う温度としては、前記使用するアルカリ金属が溶融する温度以上であれば特に限定はされないが、通常融点+50℃以内、好ましくは融点+30℃以内である。ナトリウムやカリウムは融点が低いが次工程であるメチルアルミニウムクロリドとの反応温度が通常110℃〜150℃であるので、融点がこの温度範囲以下のアルカリ金属はかかる温度範囲で融解、攪拌し、さらに本発明の特徴である攪拌保持をこの温度範囲で行ってもよく、これらは攪拌操作性、反応操作コストより適宜決定すればよい。
【0025】
本発明のアルカリ金属分散液において、アルカリ金属の添加量は、メチルアルミニウムクロリドに対して、化学量論当量より0モル%以上15モル%未満過剰であることが好ましい。量論当量である0モル%未満の場合は、未反応メチルアルミニウムクロリドが残存し、トリメチルアルミニウムの収率が悪化する。また、量論当量に対して15モル%以上過剰である場合、ナトリウム表面に析出する反応副生成物(Al,NaCl) による不活性効果による反応の抑制や、錯化合物の形成により収率が悪化する傾向がある。
【0026】
本発明のアルカリ金属分散液の攪拌時間は、炭化水素溶媒中のアルカリ金属が溶融した後、約1時間以上、普通には約100分以上、更に好ましくは約2時間以上攪拌保持する。加熱保持時間が100分を超えると得られるトリメチルアルミニウム中の塩素分が100ppm以下となり、2時間を超えると20ppm以下、通常10ppm以下となる。炭化水素溶媒に対し添加したアルカリ金属は、アルカリ金属が融点以上になれば金属にもよるが攪拌下、例えばナトリウムであれば5分もすれば溶解し、アルカリ金属は溶融分散する。それゆえ、従来は、溶融分散すれば直ちにメチルアルミニウムクロリドと混合し、反応に供していた。本発明における、上記アルカリ金属分散液の融解、攪拌保持時間の上限は特に制限されるものではなく、2時間、4時間、8時間の攪拌保持後も同様の効果が見られる。保持時間が短い場合には、後に行うメチルアルミニウムクロリドとアルカリ金属の反応において、反応液の粘性が上昇し、得られるトリメチルアルミニウム中の不純物が多く残存する傾向がある。また、8時間以上の場合は、トリメチルアルミニウムの合成時間が長くなりすぎるため不利となる。
【0027】
本発明のアルカリ金属分散液を作成するための攪拌操作としては、溶融したアルカリ金属が小さい粒子になれば特に限定されない。攪拌速度としては、350rpm以上1000rpm未満であることが好ましい。350rpm未満ではアルカリ金属融解液をより小さい粒子にすることができず、また、後に行うメチルアルミニウムクロリドとアルカリ金属の反応において、メチルアルミニウムクロリドとアルカリ金属との反応が固−液反応であることから反応効率が低下する傾向がある。また、1000rpmよリ大きい場合では、攪拌時に液面が上昇しすぎるため、反応の容積効率が低下する傾向がある。
【0028】
本発明のメチルアルミニウムクロリドとしては、メチルアルミニウムセスキクロリド、ジメチルアルミニウム、メチルアルミニウムジクロリド、または、これら混合物が挙げられる。特にメチルアルミニウムセスキクロリドは、その製法が工業的な製法として確立されており、且つ安価に合成することが可能であることから好まれる。
【0029】
本発明におけるメチルアルミニウムクロリドとアルカリ金属との反応は、アルカリ金属分散液にメチルアルミニウムクロリドを加えることにより、発熱を伴い、直ちに進行する。このため、特に限定されるものではないが、滴下時の反応温度の上昇は大きくない方が好ましい。具体的には、滴下方法としては連続的に、又は一定量ごとに、且つ、反応温度が150℃以内に押さえるような速度であることが好ましい。この温度より高い場合、反応が暴走したり、得られたトリメチルアルミニウムが分解するなどの可能性がある。
【0030】
本発明におけるメチルアルミニウムクロリドとアルカリ金属との反応における熟成条件は、メチルアルミニウムクロリドとアルカリ金属との反応を完結させるために行う操作であり、この工程における条件は、特に限定されるものではない。好ましくは、110℃以上150℃以下で、2時間以上3時間以内で行うことが、得られるトリメチルアルミニウムの収率が高く、高純度である。反応時間が2時間未満であるとき、反応が完全に終了しないため、原料などが残留し、高純度なトリメチルアルミニウムが得られない傾向がある。また、3時間を越えると、ナトリウム表面に析出する反応副生成物(Al,NaCl) による不活性効果による反応の抑制や、錯化合物の形成により収率が悪化する傾向がある。また、熟成温度が100℃を下回ると、反応が完全に終了しないため、原料などが残留し、高純度なトリメチルアルミニウムが得られない可能性がある。150℃を超えると反応が暴走したり、得られたトリメチルアルミニウムが分解するなどの可能性がある。
【0031】
本発明のアルカリ金属とメチルアルミニウムクロリドとの反応により得られたトリメチルアルミニウムを含む反応生成物からトリメチルアルミニウムを単離する方法としては、蒸留することが一般的である。蒸留条件としては、常圧であっても、減圧であってもよく、生成したトリメチルアルミニウムを主に炭化水素溶媒から成る反応混合物から単離することができれば、温度、圧力はいずれの組み合わせでも構わない。蒸留温度としては110℃以上150℃未満が好ましく、圧力は前記温度に対してトリメチルアルミニウムが留出する圧力であれば良い。蒸留温度が110℃未満の場合、アルカリ金属が凝固し、蒸留の妨げとなり、また、150℃以上の場合、得られたトリメチルアルミニウムが熱分解し、収率を下げる可能性がある。
【0032】
上記した本発明方法によれば、メチルアルミニウムクロリドを混合する前のアルカリ金属分散液を、特定条件で簡単な前処理を行うことにより、安価で、操作性よく高純度トリメチルアルミニウムが得られる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例で更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、実施例、比較例においては以下の分析法を用いた。
アルミニウム濃度:メチルアルミニウムセスキクロリド、トリメチルアルミニウム等の試料をキシレンで希釈し、塩酸で加水分解後、標準試料添加による誘導結合プラズマ発光分析法(ICP発光分光分析法----使用機器:セイコー製SPS5000)を用い定量した。
塩素濃度:試料をキシレンで希釈、純水で加水分解後、標準試料添加によるイオンクロマトグラフ分析法(IC分析法----使用機器:ライオネクス製DX−120)を用い定量した。
金属不純物濃度:試料をキシレンで希釈、塩酸で加水分解後、標準試料添加による誘導結合プラズマ発光分析法(ICP発光分光分析法----使用機器:セイコー製SPS5000)により定量した。
【0034】
実施例1
〔メチルアルミニウムセスキクロリドの合成〕
メチルアルミニウムセスキクロリドは、熱電対、塩化メチル導入管を備えた500mL4つ口フラスコと還流管を備えた300mL4つ口フラスコとを空冷管で接続した反応装置を用いることで合成を行った。500mL4つ口フラスコにアルミニウム切削片(111.7g:コス21社製 99.999%)及び塩化アルミニウム(0.5g:STREM社製 99.99+%)を加え、装置内に塩化メチル(999.3g:日本特殊化学社製 ≧99.9%)を150ml/minの流量で導入後、160℃、34時間加熱することで、メチルアルミニウムセスキクロリドを得た。得られたメチルアルミニウムセクキクロリドはICP発光分光分析、IC分析により同定を行った。
収量:271.8g(収率:63.9%(アルミニウム基準))
アルミニウム含有率(ICP発光分光分析):3.6%
塩素含有率(IC分析):8.0%
【0035】
〔トリメチルアルミニウムの合成〕
還流用冷却管、蒸留用冷却管、メチルアルミニウムセスキクロリド滴下ロート、熱電対、攪拌機を備えた1000mL5つ口フラスコに、アルゴン置換を行った後、ナトリウム(78.2g:日本曹達社製 純度99.7%)及びドデカン(471.2g:ジャパンエナジー社製)を加え、110℃に加熱、400rpmの撹拌速度で攪拌し、ナトリウムを融解させた。ナトリウムは加熱開始後60分で融解した。次いで、400rpmの撹拌速度で110℃、2時間撹拌を行うことにより、ナトリウム分散液を得た。引き続き攪拌しながら、得られた分散液に上記方法で作製したメチルアルミニウムセスキクロリド(207.6グラム)を滴下した。さらに、反応フラスコ内容物を140℃で4時間加熱攪拌し熟成させた。最後に、140℃、133ミリバールの圧力で減圧蒸留を行ない、トリメチルアルミニウムを得た。得られたトリメチルアルミニウムはICP発光分光分析により同定を行った。その結果、収量:55.2g(収率:75.9%(メチルアルミニウムセスキクロリド基準))、アルミニウム含有率(ICP発光分光分析)は4.9%であった。得られたトリメチルアルミニウムの純度を表1に示す。尚、表1中の単位はwtppmである。
【0036】
実施例2
実施例1でのトリメチルアルミニウムの合成法において、ドデカンにナトリウムを融解した後のナトリウム分散液の加熱、攪拌保持時間を8時間にした他は実施例1と同様にしてトリメチルアルミニウムを得た。その結果、収量:59.9g(収率:81.8%(メチルアルミニウムセスキクロリド基準))、アルミニウム含有率(ICP発光分光分析)は5.0%であった。得られたトリメチルアルミニウムの純度を表1に示す。
【0037】
比較例1
実施例1でのトリメチルアルミニウムの合成法において、ナトリウム分散液を作成する工程である400rpmの撹拌速度で110℃、2時間の攪拌操作を行わず、ナトリウムが融解したナトリウム分散液にメチルアルミニウムセスキクロリドを滴下した他は、実施例1と同様にしてトリメチルアルミニウムを得た。その結果、収量:66.1g(収率:88.7%(メチルアルミニウムセスキクロリド基準))、アルミニウム含有率(ICP発光分光分析)は5.1%であった。得られたトリメチルアルミニウムの純度を表1に示す。
【0038】
実施例3
実施例1でのトリメチルアルミニウムの合成法において、ドデカンにナトリウムを融解した後のナトリウム分散液の加熱、攪拌保持時間を1時間にした他は、実施例1と同様にしてトリメチルアルミニウムを得た。その結果、収量:63.1g(収率:85.3%(メチルアルミニウムセスキクロリド基準))、アルミニウム含有率(ICP発光分光分析)は5.1%であった。得られたトリメチルアルミニウムの純度を表1に示す。
【0039】
実施例4
還流用冷却管、蒸留用冷却管、メチルアルミニウムセスキクロリド滴下ロート、熱電対、攪拌機を備えた500mL5つ口フラスコに、アルゴン置換を行った後、ナトリウム(39.0g:日本曹達社製 純度99.7%)及びドデカン(240.0g:ジャパンエナジー社製)を加え、110℃に加熱、400rpmの撹拌速度で攪拌し、ナトリウムを融解させた。ナトリウムは加熱開始後60分で融解した。次いで、400rpmの撹拌速度で110℃、1時間30分撹拌を行うことにより、ナトリウム分散液を得た。引き続き攪拌しながら、得られた分散液に上記方法で作製したメチルアルミニウムセスキクロリド(104.0グラム)を滴下した。さらに、反応フラスコ内容物を140℃で4時間加熱攪拌し熟成させた。最後に、140℃、133ミリバールの圧力で減圧蒸留を行ない、トリメチルアルミニウムを得た。得られたトリメチルアルミニウムはICP発光分光分析により同定を行った。その結果、収量:28.0g(収率:76.7%(メチルアルミニウムセスキクロリド基準))、アルミニウム含有率(ICP発光分光分析)は4.9%であった。得られたトリメチルアルミニウムの純度を表1に示す。
【0040】
表1

【産業上の利用可能性】
【0041】
上記、実施例から明らかな如く本発明によれば、工業的に操作性が容易で安価に高純度のトリメチルアルミニウムを得ることが可能であり、その産業上の価値は頗る大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素溶媒中でアルカリ金属を加熱、融解、攪拌してアルカリ金属分散液を作製し、これにメチルアルミニウムクロリドを混合し、反応、熟成して得られたトリメチルアルミニウムを蒸留により得るトリメチルアルミニウムの製造方法において、該炭化水素溶媒中でのアルカリ金属の加熱、融解、攪拌を、炭化水素溶媒に対しアルカリ金属が融解した後、更に該アルカリ金属の融点以上の温度で、1時間以上攪拌処理を行い、これにメチルアルミニウムクロリドを混合し、反応、熟成し、得られた反応生成物よりトリメチルアルミニウムを蒸留により得ることを特徴とするトリメチルアルミニウムの製造方法。
【請求項2】
メチルアルミニウムクロリドに対して、化学量論当量より0モル%以上15モル%未満過剰のアルカリ金属との反応を実施する、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
アルカリ金属がリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムから選ばれる少なくとも1種以上のアルカリ金属である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
アルカリ金属がナトリウムである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
メチルアルミニウムクロリドがメチルアルミニウムセスキクロリドである請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
炭化水素溶媒の沸点が150℃以上260℃未満、及び融点若しくは凝固点が10℃以下の飽和炭化水素または芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素溶媒である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
炭化水素溶媒がドデカン、テトラリンから選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素溶媒である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−263326(P2009−263326A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170236(P2008−170236)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】