説明

トルイジン化合物の製造方法

【課題】フルアジナムは、優れた農薬活性成分であり、有用性が高いことから、簡単な処理操作、低コストで、環境にも配慮した手法で、効率よく、目的にかなった形態で、それを製造することが求められている。
【解決手段】(1)アルカリ成分、溶媒として、第三級アルコール類から選択されたものの存在下に、ACTFとDCDNBTFとを反応させる工程、(2)反応混合物を酸で中和又は酸性
にする工程からなる方法により、工業的に有利な反応系を利用でき且つ簡単な操作で、目的物を優れた収率で得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬の有効成分である3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジン(一般名:フルアジナム, fluazinam)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第4,331,670号明細書(特許文献1)には、塩基及び溶媒の存在下に、2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジンと2,4−ジクロロ−3,5−ジニトロベンゾトリフルオライドとを反応させ、3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンを製造する方法が記載されている。そこには、塩基としてアルカリ金属の水酸化物、炭酸化物、水素化物、又はアルカリ土類金属の水酸化物及び炭酸化物が例示されている。また、溶媒としてジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン(THF)、スルホラン及びジオキサンのような非プロトン性極性溶媒が例示されて
いる。
【0003】
国際公開第2007/060662号パンフレット(特許文献2)には、上記米国特許
第4,331,670号明細書(特許文献1)に記載の方法において、溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)を用いる方法が記載されている。その特許文献2は、MIBKは水の溶解性が低いことから、当該反応の間に存在する水の量を最小化せしめて、加水分解副生物の量を減少せしめ、収率を増加させるとか、当該反応で生成したりする水や試薬自体に存在する水の高濃度のものは、加水分解副生物の量を増加せしめ、かくして収率を低下せしめると記載している。さらに、該特許文献2では、試薬に対する溶媒の比率は、約10%w/vより大きいものであるとか、好ましい溶媒は、純粋なMIBK(例えば、少なくとも約98%の純度のもの)又は2%より少ない水を含有する再循環されたMIBKであることが記載され、その実施例2では、2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジンと2,4−ジクロロ−3,5−ジニトロベンゾトリフルオライドと1.6%の水を含有するMIBK共沸物との混合物中に固体のKOH(3.5mol eq.)を添加したものを反応に付して、目的物フ
ルアジナムを製造していることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,331,670号明細書(USP4,331,670)
【特許文献2】国際公開第2007/060662号パンフレット(WO 2007/060662)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フルアジナムは、優れた農薬活性成分であり、有用性が高いことから、簡単な処理操作、低コストで、環境にも配慮した手法で、効率よく、目的にかなった形態で、それを製造することが求められている。特に、工業的な製造におけるコスト面、反応操作面、安全面などの観点から好ましい手法の提供についての需要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、より効率的で且つ工業的に利点の多い、3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンの製造法につき、その反応条件、反応操作などについて広範な検討を行ったところ、第三ブチルアルコールなどの第三級アルコール類を使用することにより、様々な利点が得られ、反応時の収率に優れ、しかも、反応後の操作、生成物の分離、精製、取得に好都合であることなどの知見を得て、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、次なるものを提供している。
〔1〕 (1)塩基物質としてアルカリ金属の水酸化物、その炭酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物及びその炭酸化物からなる群から選択されたアルカリ成分、溶媒として、第三級アルコール類(第三ブチルアルコール)からなる群から選択されたもの及び前記アルカリ成分を実質的に溶解するに十分な量の水の存在下に、2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン(ACTF)と2,4−ジクロロ−3,5−ジニトロベンゾトリフルオライド(DCDNBTF)とを反応させる工程、
(2)反応生成物である3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンと溶媒とを含有する混合物を酸で中和又は酸性にする工程、
からなる3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンの製造方法。
〔2〕 前記塩基物質が水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである上記〔1〕に記載の方法。
〔3〕 溶媒が第三ブチルアルコールである上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕 酸が塩酸である上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一に記載の方法。
〔5〕 酸が硫酸である上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一に記載の方法。
〔6〕 (1)の工程において、前記アルカリを実質的に溶解するに十分な量の水を存在せしめる上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一に記載の方法。
〔7〕 (1)の工程において、35〜50%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液を2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン1モルに対し2モル以上、好ましくは6〜10モル存在せしめるか、またはそれに相当する量の水酸化ナトリウム水溶液、固体の水酸化ナトリウム及び水の混合物を存在せしめる上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一に記載の方法。
〔8〕 (1)の工程において、水と溶媒との総量に対して、7%以上の水、好ましくは14.8〜79%の水、さらに好ましくは20〜40%の水を存在させる上記〔1〕〜〔7〕のいずれか一に記載の方法。
〔9〕 (1)の工程において、2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン1モル当り、0.8〜1.2モル、好ましくは1〜1.05モルの2,4−ジクロロ−3,5−ジニトロベンゾトリフルオライドを使用する上記〔1〕〜〔8〕のいずれか一に記載の方法。
〔10〕 (1)の工程において、2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン100g当り、50〜1000gの溶媒、好ましくは100〜700gの溶媒を使用する上記〔1〕〜〔9〕のいずれか一に記載の方法。
〔11〕 (2)の工程において、反応混合物を分液し、有機相を酸で中和又は酸性にする上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一に記載の方法。
〔12〕 (2)の工程において、酸を使用してpHを2〜7、好ましくは5〜6に調整する上記〔1〕〜〔5〕及び〔11〕のいずれか一に記載の方法。
〔13〕 (2)の工程において、反応生成物である3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンと溶媒とを含有する混合物に水を加えた後、酸で中和又は酸性にして生成物の結晶を析出させることを特徴とする上記〔1〕〜〔5〕、〔11〕及び〔12〕のいずれか一に記載の方法。
〔14〕 (2)の工程において、シードとして生成物のα型結晶の存在下に結晶を析出させる上記〔1〕〜〔5〕及び〔11〕〜〔13〕のいずれか一に記載の方法。
【0008】
〔15〕 3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンである生成物の精製法であり、析出した結晶を含水イソプロパノールで洗浄し、夾雑物が低減され且つより精製された
状態の生成物を得ることを特徴とする生成物の精製方法。
〔16〕 析出した結晶を水で洗浄後、含水イソプロパノールで洗浄する上記〔15〕に記載の精製方法。
〔17〕 3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンである生成物を、減圧下で乾燥することを特徴とする生成物の乾燥法。
〔18〕 300mmHg以下の減圧下で乾燥する上記〔17〕に記載の生成物の乾燥法。
〔19〕 200mmHg以下の減圧下で乾燥する上記〔17〕に記載の生成物の乾燥法。
〔20〕 生成物を、115℃以下の温度の下で乾燥する上記〔17〕〜〔19〕のいずれか一に
記載の生成物の乾燥法。
〔21〕 生成物を、70℃以下の温度の下で乾燥する上記〔17〕〜〔19〕のいずれか一に記載の生成物の乾燥法。
〔22〕 水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選択されたアルカリ成分、溶媒として、第三級アルコール類の存在下に、2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジンと2,4−ジクロロ−3,5−ジニトロベンゾトリフルオライドとを反応させることを特徴とする3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジン又はその塩の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジンと2,4−ジクロロ−3,5−ジニトロベンゾトリフルオライドとを反応させて3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンを製造する方法において、工業的に有利な反応系を利用でき且つ簡単な操作で、目的物を優れた収率で得ることができるだけでなく、効率よく且つ工業的に有利に単離精製処理を行うことができる。本発明の方法は、目的物を高い収率で製造することができるので、工業的な実施面で従来法に比し有利である。また、反応後の操作、生成物の分離、精製、取得においても、工業的な製造法として、コスト面、操作面、安全面などの観点から、非常に優れている。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記(1)の工程は、十分なアルカリ濃度の下で行うことが必要である。アルカリの濃度はできるだけ高濃度又は高アルカリの条件下で行うことが好まれる。塩基物質としてはアルカリ金属の水酸化物、その炭酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物又はその炭酸化物のアルカリ成分が挙げられ、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。アルカリとしては、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選択されたものを工業的には好適に使用できる。水酸化ナトリウムは、比較して工業的に安価であることから特に好ましい。塩基物質として水酸化ナトリウムを代表例として使用した場合を以下に便宜的に説明するが、水酸化ナトリウムに代りその他塩基物質をアルカリとして同様
に使用することもできる。
【0011】
上記(1)の工程において、一概に規定できないが、一般に第三アルコール100g当り
、5g以上のアルカリ成分を存在することができる。例えば、第三ブチルアルコール100g
当り、5g以上、好ましくは8 g以上、より好ましくは10 g以上の水酸化ナトリウムが、反
応系内に存在するようにすることができる。典型的な場合では、反応系内には、溶媒としての第三ブチルアルコール100g当り、10〜50g、好ましくは12〜30g、より好ましくは13〜20gの水酸化ナトリウムのようなアルカリが、反応系内に存在するようにすることができ
る。
【0012】
上記(1)の工程においては、前記アルカリを実質的に溶解するに十分な量の水を存在せしめることが可能であるし、好適でもある。上記(1)の工程において、2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン1モル当り、アルカリ成分を2モル以上、
好ましくは6〜10モル、例えば30〜50%の水酸化ナトリウム水溶液2モル以上、好ましくは6〜10モル、又はそれに相当する水酸化ナトリウムのようなアルカリ及び水が、反応系内に存在するようにすることができる。上記の反応系内の水酸化ナトリウム水溶液のようなアルカリ水溶液の濃度は、望ましくは35〜50%であり、さらに望ましくは37〜48%である。上記水溶液又はそれに相当する水酸化ナトリウムのようなアルカリ及び水を反応系内に存在させるには、予め所定の濃度に調製した水酸化ナトリウム水溶液のようなアルカリ水溶液の使用が含まれることは勿論であるが、水を含むリサイクル溶媒などの原料を反応に使用する場合には、それらに含まれる水分量を考慮し、固体の水酸化ナトリウムのようなアルカリ及び水を使用して、反応槽内で上記水溶液に相当するものとなるよう調製することも可能であり、そのような態様も含まれる。例えば、水酸化ナトリウム水溶液のようなアルカリ水溶液の反応系内での濃度は、目的生成物を単離処理に付す場合に反応系内に水酸化ナトリウムのようなアルカリの結晶あるいは固体状態の水酸化ナトリウムのようなアルカリが存在することの無いような範囲であれば、より高い濃度とすることも許容される。
【0013】
上記(1)の工程における反応系は、水を使用しない条件下でも反応が行われるが、好ましくは当該(1)の工程における反応系では、実質的な量の水の存在下で反応が行われる。該反応系内の実質的な量の水とは、上記したように水酸化ナトリウムなどのアルカリが、反応終了後目的生成物を単離処理に付す場合に、結晶あるいは固体状態のものが存在して、濾過などの固液分離処理や水を加えて溶解させるなどの処理が必要となることがないようにするに十分な量を指してよく、例えば、水と有機溶媒との総量に対して、7%以上、好ましくは14.8〜79%の水を存在させるものであってよく、典型的な場合、20〜40%の水を存在させる。
【0014】
上記(1)の工程において、2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン1モル当り、0.8〜1.2モルの2,4−ジクロロ−3,5−ジニトロベンゾトリフルオライドを使用することができる。好適な場合では、2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン1モル当り、1〜1.05モルの2,4−ジクロロ−3,5−ジニトロベンゾトリフルオライドを使用することができる。(1)の反応は、2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジンと2,4−ジクロロ−3,5−ジニトロベンゾトリフルオライドとの縮合反応であり、二つの出発物質は、理論的には当モル量使用されるが、後者の若干量のロスを考慮して、上記の割合で使用することが望ましい。しかしながら、上記の範囲を逸脱することは可能である。
【0015】
上記(1)の工程において、2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン100g当り、50〜1000gの溶媒、好ましくは100〜700gの溶媒を使用することができる。本発明の方法に使用される溶媒は、第三級アルコール類(例えば、第三
ブチルアルコール、第三アミルアルコールなど)から選択されたものである。それらの溶媒の使用は、(1)の反応において、高い反応収率をもたらし、適しているのみならず、本発明の方法において目的物を取得するまでの操作に多大なる簡便性をも与える。それらの溶媒は、水との混和性を有したり、低い沸点の共沸混合物を形成するものでもある。
【0016】
上記(1)の工程における反応槽への原料及び溶媒の投入順序などの反応操作は、この反応が発熱反応であること、また、2,4−ジクロロ−3,5−ジニトロベンゾトリフルオライドが加水分解を受け易い物質であることなどを考慮し、決定されるであろう。最良と考えられる手順は、反応槽へまず2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジンと一定量の溶媒とを投入し、混合し、次に水酸化ナトリウム水溶液のようなアルカリ水溶液及び/又は固体の水酸化ナトリウムのようなアルカリを投入し、必要があればさらに溶液中の塩基濃度を調整するための溶媒及び/又は水を投入し、混合し、それらの混合物を一旦5〜30℃に冷却し、そこに溶媒に溶解した2,4−ジクロロ−3,5−ジニトロベンゾトリフルオライドを投入するというものであるが、それらは使用する反応原料の経済性、反応条件などによって、適宜変更されてもよい。
【0017】
この反応の反応温度は10〜40℃、望ましくは15〜35℃である。反応時間は、0.5〜5時間程度、望ましくは1.0〜3.5時間程度である。反応は、窒素、アルゴンなどの不
活性ガスの雰囲気下で反応を行うことができる。反応の進行及び終了は、HPLCなどの測定機器によって確認することができる。反応の終了後、反応混合物中の過剰の塩基を失活させるため、及び反応生成物のナトリウム塩のようなアルカリ塩をフリー体にするために、反応混合物を酸で中和又は酸性にする。
【0018】
上記(2)の工程において、(1)の反応の終了後の反応混合物を中和又は酸性にするために、酸を使用する。使用することができる酸の種類及びその濃度は、(1)の反応の終了後に反応混合物を中和又は酸性にすることができるものであればいずれのものでもよいが、工業的に入手が容易な塩酸又は硫酸が好ましい。酸の使用量は、反応混合物を中和又は酸性にすることができる量である。高濃度の酸を使用する場合には、反応槽に予め水を添加してもよい。例えば、上記(2)の工程においては、(1)の工程の終了後の反応混合物をpH2〜7、好ましくはpH5〜6に調整するものであってよい。
【0019】
また、(2)の工程においては、(1)の工程の終了後の反応混合物をそのまま中和又は酸性にすることもできるし、あるいは、該反応混合物を分液した後、有機相を酸で中和又は酸性にすることもできる。(1)の反応に一定量の水を用いている場合、反応混合物は、有機層と水層とに分かれる。本発明の方法では、反応生成物は、ナトリウム塩のようなアルカリ塩として生成するが、有機層に含まれるので、反応後に反応混合物を分液しても生成物をロスすることがない。また、その分液の前に一定量の水を反応槽に加え分液すると、この段階で過剰の水酸化ナトリウムのようなアルカリ及び反応によって生じた塩化ナトリウムなどの塩を取り除くことができる。その後に有機相を酸で中和又は酸性にすると、反応系の体積の増大をもたらさず、好都合である。
【0020】
(2)の工程では、反応生成物である3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンと溶媒とを含有する混合物を中和又は酸性にすることにより、該生成物の結晶を水中に析出させることができる。
【0021】
(2)の工程における溶媒は、上記(1)の反応の溶媒である。溶媒は、10〜65℃の温度で留去することができる。また、溶媒の留去は、減圧下に行うこともできる。留去された溶媒は、典型的な場合、水との共沸混合物として回収され、本発明の方法において、リサイクル使用することができる。
【0022】
本発明で得られる目的物の結晶、例えば、(2)の工程で析出する3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジン(一般名:フルアジナム, fluazinam)の結晶は、ザペス
ティサイドマニュアル(The Pesticide Manual Thirteenth Edition)などに掲載されて
いる公知の化合物であり、融点115-117℃の淡黄色結晶の形態のものである。それをα型
結晶と呼ぶ。α型結晶と異なり、より低い融点を有する結晶形のものをβ型結晶と呼ぶ。製品管理の観点から、α型のものを安定して製造することが求められる。
【0023】
上記(2)の工程において、シードとして生成物のα型結晶の存在下に結晶を析出させることができる。
【0024】
上記(2)の工程において水中に析出した結晶は、通常行われるろ過操作によって容易に取得することができる。
(2)の工程で析出する3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンの結晶は、含水イソプロパノールで洗浄することにより、より精製された形態の製品とすることができる。本洗浄による精製法においては、出発物質は、一旦、水で洗浄後に、含水イソプロパノールで洗浄処理することもできる。本洗浄処理で使用される含水イソプロパノールの水分の含有量は、目的物たる3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンの結晶を実質的に溶解しないような範囲で、適宜選択できる。イソプロパノール(IPA)中の水の量
が少ないと目的物たる3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンの結晶が溶解するので好ましくなく、代表的な場合、90%以下のイソプロパノール水、好ましくは85%以下のイソプロパノール水が使用される。含水イソプロパノールの使用量は、例えば、出発の目的物の結晶100gあたり50〜500g、好ましくは100〜200gを使用する。
【0025】
次に、(2)の工程で析出する3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンの結晶は、含水イソプロパノールで洗浄した場合の結果を示すと、出発結晶(PhOH体, 0.25; 不純物1, 0.63; 不純物2, 0.80; その他の不純物, 2.27; 目的物, 96.05)を85%イソ
プロパノール水で洗浄すると、洗浄後結晶(PhOH体, 0; 不純物1, 0; 不純物2, 0; そ
の他の不純物, 0.74; 目的物, 99.26)が得られる。ここで、PhOH体は、2,4−ジクロ
ロ−3,5−ジニトロベンゾトリフルオライド(DCDNBTF)が分解したもの、不純物1は、
2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン(ACTF)、不純物2は、DCDNBTFで、目的物とは、3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリ
ジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンである。
【0026】
上記で得られた3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンである生成物は、好適に、減圧下で乾燥されて、高純度の乾燥された生成物を与える。本生成物の乾燥法では、目的物の分解を生起せしめない条件から適宜最適な条件を選ぶことが可能であり、例えば、300mmHg以下の減圧下で乾燥するとか、200mmHg以下の減圧下で乾燥することを行うことができる。また、本乾燥法では、生成物を、例えば、115℃以下の温度の下で乾燥した
り、70℃以下の温度の下で乾燥することができる。本乾燥法により、効率よく、農薬の活性成分として良好な純度の製品、安定な性状の製品とすることが可能である。
こうして得られた結晶は、各種の補助剤とともに、粉剤、水和剤、懸濁剤などの形態に製剤され、製品となる。
本明細書中の第三アルコールは、第三級アルコール又は三級アルコールとも言われ、同
様に、第三ブチルアルコールは、第三級ブチルアルコール又は三級ブチルアルコールとも言われるし、第三アミルアルコールは、第三級アミルアルコール又は三級アミルアルコールとも言われる。
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例1】
【0027】
撹拌機、温度計、滴下ロートを備えた四つ口フラスコに、2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン(ACTF) 24.8g(純度99%、0.125mol)及び第三ブチルアル
コール 96gを仕込み、引き続き、撹拌下99%NaOH 15.2g(0.375mol)を加えた。上記混合物
を約10℃迄冷却し、2,4−ジクロロ−3,5−ジニトロベンゾトリフルオライド(DCDNBTF)粉末40.48g(純度98.3%、0.131mol)を30℃以下を維持して添加し、その後約3時間室
温で反応させた。
反応混合物に水50gを加え、70%硫酸15gでpHが5〜6になるまで中和し、結晶化した。
反応液を冷却し、内温が約20℃以下で、得られたスラリーを減圧でろ過し、ケーキを水100g及び85%イソプロパノール水(IPA aq.) 80gで洗浄した。得られた黄色結晶を60℃で乾燥して45.58gの3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジン(mp. 117〜119.5℃)を得た。
【実施例2】
【0028】
撹拌機、温度計、滴下ロートを備えた四つ口フラスコに、ACTF 24.8g(純度99%、0.125mol)及び10%含水第三ブチルアルコール 106.6gを仕込み、引き続き、撹拌下48%NaOH水溶液 80.6gおよびフレークNaOH 2.6g(純度99%)を加えた。上記混合物を約10℃迄冷却し、DCDNBTF粉末39.60g(純度99.2%、0.129mol)を30℃以下を維持して添加し、その後約1時間室温で反応させた。
反応混合物に水25gを加え、下層の水相を分液除去した。第三ブチルアルコール層に再
度、水54gを加えた後、70%硫酸を滴下してpHを5〜6に中和し、結晶化した。さらに水50gを加えて内温が60℃となる迄、減圧(150mmHg)で第三ブチルアルコールを留去した。残渣をゆっくりと冷却し、内温が約20℃となったところで、得られたスラリーを減圧でろ過し、ケーキを水100g及び85%IPA aq. 80gで洗浄した。得られた黄色結晶を60℃で乾燥して45.00gの3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンを得た。
【実施例3】
【0029】
攪拌機、温度計、滴下ロートを備えた四つ口フラスコに、ACTF24.8g(純度99%、0.125mo1)及び10%含水第三ブチルアルコール106.6gを仕込み、引き続き、攪拌下48%Na0H水溶液 80.6g及びフレークNaOH2.6g(純度99%)を加えた。上記混合物を約20℃まで冷却し、DCDNBTF粉末40.0g(純度98.3%、0.129mo1)を30℃以下を維持して添加し、その後約1時間20℃から30℃で反応させた。
反応混合物に水73.7gを加え、水層を分液除去した。第三ブチルアルコール層を湯浴中
で加熱し、そこへ55℃〜60℃を維持しながら5%硫酸をゆっくり(1.0mL/min程度)滴下してpHを5〜6に中和し、結晶化させた。その際、結晶が析出し始めた時点で(pH=8程度)0.05gのα型結晶をシードとして添加した。滴下終了後、55℃〜60℃で30分攪拌し結晶を成熟させ
た。
反応液を冷却し、内温が20℃以下で得られたスラリーを減圧で濾過し、ケーキを水101.7g及び85%イソプロパノール(IPA)aq.66.6gで洗浄した。得られた黄色結晶を60℃で乾燥して42.0gの3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−
α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンを得た。
【実施例4】
【0030】
攪拌機、温度計、滴下ロートを備えた四つ口フラスコに、ACTF19.9g(純度99%、0.10mol)及び10%含水第三ブチルアルコール85.2gを仕込み、引き続き、攪拌下48%NaOH水溶液 64.5g及びフレークNaOH2.1g(純度99%)を加えた。上記混合物を約20℃まで冷却し、DCDNBTF粉末32.0g(純度98.3%、0.103mo1)を30℃以下を維持して添加し、その後約1時間20℃から30℃で反応させた。
反応混合物に水59.0gを加え、水層を分液除去した。10%硫酸を60℃に加熱し、そこへ0.04gのα型結晶をシードとして添加した。そこへ第三ブチルアルコール層を55℃〜60℃を
維持しながらゆっくり(1.0mL/min程度)滴下してpHを5〜6に中和し、結晶化させた。滴下
終了後、55℃〜60℃で30分攪拌し結晶を成熟させた。
反応液を冷却し、内温が20℃以下で得られたスラリーを減圧で濾過し、ケーキを水81.4g及び85%イソプロパノール(IPA)aq.53.3gで洗浄した。得られた黄色結晶を60℃で乾燥し
て34.4gの3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−
α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンを得た。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、効率的且つ工業的に優れた手法で、収率良く且つ高純度の農薬活性成分たるフルアジナムを得ることができるし、また、合成反応系からの目的物の単離精製処理、さらには乾燥製品の製造も、効率的且つ低コストで、簡単な操作で行うことを可能にしているので、工業的な生産手法として大変優れている。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)塩基物質としてアルカリ金属の水酸化物、その炭酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物及びその炭酸化物からなる群から選択されたアルカリ成分、溶媒として、第三級アルコール類の存在下に、2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジンと2,4−ジクロロ−3,5−ジニトロベンゾトリフルオライドとを反応させる工程、
(2)反応生成物である3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンと溶媒とを含有する混合物を酸で中和又は酸性にする工程、
からなる3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンの製造方法。
【請求項2】
前記塩基性物質が水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶媒が第三ブチルアルコールである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
酸が塩酸である請求項1〜3のいずれか一に記載の方法。
【請求項5】
酸が硫酸である請求項1〜3のいずれか一に記載の方法。
【請求項6】
(1)の工程において、前記アルカリ成分を実質的に溶解するに十分な量の水を存在せしめる請求項1〜5のいずれか一に記載の方法。
【請求項7】
(1)の工程において、35〜50%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液を2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン1モルに対し2モル以上存在せしめるか、またはそれに相当する量の水酸化ナトリウム水溶液、固体の水酸化ナトリウム及び水の混合物を存在せしめる請求項1〜6のいずれか一に記載の方法。
【請求項8】
(1)の工程において、水と溶媒との総量に対して、7%以上の水を存在させる請求項1〜7のいずれか一に記載の方法。
【請求項9】
(1)の工程において、2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン1モル当り、0.8〜1.2モルの2,4−ジクロロ−3,5−ジニトロベンゾトリフルオライドを使用する請求項1〜8のいずれか一に記載の方法。
【請求項10】
(1)の工程において、2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジン100g当り、50〜1000gの溶媒を使用する請求項1〜9のいずれか一に記載の方法。
【請求項11】
(2)の工程において、反応混合物を分液し、有機相を酸で中和又は酸性にする請求項1〜5のいずれか一に記載の方法。
【請求項12】
(2)の工程において、酸を使用してpHを2〜7に調整する請求項1〜5及び11のいずれか一に記載の方法。
【請求項13】
(2)の工程において、反応生成物である3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンと溶媒とを含有する混合物に水を加えた後、酸で中和又は酸性にして生成物の結晶を析出させることを特徴とする請求項1〜5、11及び12のいずれか一に記載の方法。
【請求項14】
(2)の工程において、シードとして生成物のα型結晶の存在下に結晶を析出させる請求
項1〜5及び11〜13のいずれか一に記載の方法。
【請求項15】
3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンである生成物の精製法であり、析出した結晶を含水イソプロパノールで洗浄し、夾雑物が低減され且つより精製された状態の生成物を得ることを特徴とする生成物の精製方法。
【請求項16】
析出した結晶を水で洗浄後、含水イソプロパノールで洗浄する請求項15に記載の精製方法。
【請求項17】
3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジンである生成物を、減圧下で乾燥することを特徴とする生成物の乾燥法。
【請求項18】
300mmHg以下の減圧下で乾燥する請求項17に記載の生成物の乾燥法。
【請求項19】
200mmHg以下の減圧下で乾燥する請求項17に記載の生成物の乾燥法。
【請求項20】
生成物を、115℃以下の温度の下で乾燥する請求項17〜19のいずれか一に記載の生成
物の乾燥法。
【請求項21】
生成物を、70℃以下の温度の下で乾燥する請求項17〜19のいずれか一に記載の生成物の乾燥法。
【請求項22】
水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選択されたアルカリ成分、溶媒として、第三級アルコール類の存在下に、2−アミノ−3−クロロ−5−トリフルオロメチルピリジンと2,4−ジクロロ−3,5−ジニトロベンゾトリフルオライドとを反応させることを特徴とする3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジン又はその塩の製造方法。


【公開番号】特開2009−221185(P2009−221185A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178338(P2008−178338)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】