説明

トルクコントロール機能付き管継手

【課題】本発明は配管部材をねじ込み接続する際にねじ込み初めは小さなトルクでねじ込みができ、適正なねじ込み量に近づくと急激に締め付けトルクが上昇することで、当該適正な締め付け量に近づいたことを感知でき、ねじ込み完了するトルクコントロール機能付きの管継手の提供を目的とする。
また、管継手に螺合するパイプの先端ねじ部の切削油の有無に関わらず、安定した締め付けトルクを得ることができる配管接続方法の提供を目的とする。
【解決手段】ねじ込み接続する管継手であって、めねじ部又はおねじ部に予め塗布した潤滑性シール剤の塗布範囲を、ねじ込み先端側から標準ねじ込み山数nに対して0.1n〜0.9nまでに設定することでねじ込み途中から締め付けトルクが急激に上昇し、過締めを防止したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はねじ込み式の配管部材において、ねじ込み量の適正化を図るのに有効な管継手に関し、特に潤滑性シール剤をねじ部に予め塗布した管継手に係る。
【背景技術】
【0002】
水、油、蒸気、空気、ガス等の流体の輸送、供給等に用いられる一般配管のねじ込み接続において、ねじ込み量の適正化を目的に国土交通省から「機械設備工事管理指針:国土交通省大臣官房官庁営繕部監修」が発行されている。
図4にその平成19年版に記載されているねじ径の呼びに対するねじ込み山数の目安と標準締め付けトルクを示す。
なお、表[ ]で示した数値はねじ込み量を示す。
配管作業の現場によっては標準締め付けトルクに従って、ねじ込み作業を行うことができない場合があり、その際にはねじ込み山数の目安に基づいてねじ込み作業を行っているのが実状である。
【0003】
金属製管継手の製造方法としてはこれまで切削加工により、ねじ部を形成する切削ねじが主流であったが、近年は転造ローラ(転造ダイス)を用いてねじ部を塑性加工する転造ねじを形成したものが増えている。
転造ねじは金属組織中に、塑性変形時に発生したファイバーフローが残存し、加工硬化も伴い、強度等の機械的な特性に優れる。
このようにねじ加工に切削ねじと転造ねじの主に二種類が存在するが、ねじ部の形成工法が相異することから、ねじ込み時の締め付けトルクに差が生じている。
一方、ねじ接合部のシール性を確保する目的で、巻き付け使用するテープ状のシール材又は塗布して使用する液状のシール剤がこれまで主に使用されてきたが、これらのシール材(剤)はねじ込み接続直前に施すことが必要であることから作業性が悪く、近年継手のねじ部に予めシール剤を塗布及び乾燥させておくプレコートタイプのシール剤の使用が増している。
そこで、本発明者は、(切削ねじ,転造ねじ)×(シールテープ,液状シール剤,プレコートシール剤)の組み合せにてねじ込み山数及び締め付けトルクの関係を詳細に調査した。
その結果、潤滑性のプレコートシール剤を用いると、前記「機械設備工事管理指針」に記載されている目安のねじ込み山数までねじ込んでも標準締め付けトルクの約1/2以下に低下し、その低下する度合いは切削ねじよりも転造ねじの方が大きく、標準締め付けトルクまで締め付けると過締め付けの状態になることが判明した。
例えば、図6に示すような内側に略円筒状の樹脂製コア13を取り付けるとともに内面を樹脂被覆14した管端防食継手12等にあっては、めねじ部の奥側までプレコートタイプのシール剤を塗布すると締め付けトルクが低下し、標準トルクまで締め付けると鋼管11の先端でコア13が脱落あるいは破損する恐れがあった。
【0004】
また、ねじ込み配管において、継手に螺合接続するパイプの先端部にねじ部を切削又は転造等の加工方法にて行うが、その際に切削油等を用いている。
パイプのねじ部に付着した切削油はウエス等で簡易的に拭き取ったものと、脱脂剤を用いて完全に除去したものが存在する。
本発明者の調査では、このパイプ側のねじ部の切削油の付着の有無によって締め付けトルクに大きな差が生じることが明らかになった。
【0005】
本出願人が先行調査を実施した結果、本発明に類似するものは発見されなかった。
特許文献1に、テーパーねじ部の奥側に平行ねじ部を形成することで余剰シール剤がはみ出さないようにした技術を開示するが、シール剤にてねじ込み量や締め付けトルクの適正化を図ったものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−51690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は配管部材をねじ込み接続する際にねじ込み初めは小さなトルクでねじ込みができ、適正なねじ込み量に近づくと急激に締め付けトルクが上昇することで、当該適正な締め付け量に近づいたことを感知でき、ねじ込み完了するトルクコントロール機能付きの管継手の提供を目的とする。
また、管継手に螺合するパイプの先端ねじ部の切削油の有無に関わらず、安定した締め付けトルクを得ることができる配管接続方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るトルクコントロール機能付き管継手は、ねじ込み接続する管継手であって、めねじ部又はおねじ部に予め塗布した潤滑性シール剤の塗布範囲を、ねじ込み先端側から標準ねじ込み山数nに対して0.1n〜0.9nまで設定することでねじ込み途中から締め付けトルクが急激に上昇することで過締めを防止したことを特徴とする。
【0009】
ここで標準ねじ込み山数nとは国土交通省から発行されている「機械設備工事管理指針」に記載されている具体的には図4に示した径の呼びに合せて定められている目安となるねじ込み山数の値をいう。
従って、潤滑性シール剤の塗布範囲をねじ込み先端側から標準ねじ込み山数nに対して0.1n〜0.9nまで設定するとは、例えば標準ねじ込み山数が6山の場合に、図1にて説明すると、めねじ部の標準ねじ込み山数約6山,標準ねじ込み量Lに対して、潤滑性シール剤の塗布範囲はねじ込み先端側から最小で0.6山まで塗布し、最大でねじ込み先端側から5.4山まで塗布するとの意味である。
従って、塗布寸法ではLが(0.1〜0.9)×Lの値になる。
【0010】
また、本発明でトルクコントロール機能とは図2にて説明すると、まず初めに手で締める(手締め位置)、次に工具で締め付ける際に初めは小さなトルクfにてねじ込みができるが、シール剤の塗布範囲を越えると急激に締め付けトルクfが上昇し、ねじ込みにブレーキがかかる現象をいう。
図2のグラフにてfは標準締め付けトルク、nは標準ねじ込み山数を示し、f(n)がブレーキのかかり始めるねじ込み山数を示し、シール剤の塗布範囲にて制御される(本発明管継手と表示したグラフ)。
これに対して、施工時にパイプのおねじ部にシールテープを巻くか液状シール材を塗布し、従来の管継手に接合した場合に曲線のグラフを示すように徐々に締め付けトルクが上昇する。
従って、従来の接合方法では最適なねじ込み量を管理することが難しい。
【0011】
ここでシール剤の塗布範囲が0.1n未満ではシール性に問題が生じ、0.9nを超えるとトルクコントロールがかかるタイミングが遅れ、過締め状態になる恐れがあるからである。
安定したトルクコントロールが得られ、塗布範囲を小さく抑えることで塗布量を少なく管理するには塗布範囲は0.2n〜0.6nまでが好ましい。
また、潤滑性のシール剤は均一に塗布しやすいフッ素系のシール剤が好ましい。
【0012】
フッ素系のシール剤をプレコートした管継手に接合するパイプ材の先端部のおねじ部に付着している切削油をウエスにて簡易的に拭き取ったもの(切削油付着有り)と脱脂剤にて切削油を完全に除去したもの(切削油付着無し)とをねじ込みトルク100[N・m]でねじ込み比較をした。
その結果、切削油付着材のパイプは約8.5山までねじ込まれたが、切削油付着無しのパイプは約6.5山までしかねじ込まれず、そのねじ込み山数に2山も差があった。
本発明者が対策案を検討した結果、フッ素系のシール剤を塗布及び乾燥させたプレコート皮膜はゴム質を有することから、従来の液状シール剤よりは摩擦抵抗が存在することが明らかになった。
そこで、管継手のプレコート表面に防錆油等のオイルを少量塗布した結果、パイプ材側のねじ部に切削油が付着しているいないに関わらず、締め付けトルクが安定することが明らかになった。
【0013】
即ち、本発明に係る配管接続方法は、請求項1又は2記載の管継手のねじ部に予め防錆油等のオイルを塗布し、パイプ材の先端部に加工したねじ部と螺合接続することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る管継手にあっては潤滑性のシール剤をねじ部の所定範囲に予め塗布し、乾燥させるプレコートタイプのシール剤を用いたことにより、従来のシールテープ等では転造ねじと切削ねじとに大きなトルク差(転造ねじの方が約1.5〜2.0倍高い)があったのに対して、その締め付けトルクの差が小さくなり、さらに塗布範囲を制御したことにより、ねじ加工の方法を問わずにトルクコントロール機能が現れ、標準ねじ込み山数と標準締め付けトルクを一致させることができる。
これにより現場でのねじ込み接続作業が容易になる。
また、管端防止継手にあっては、過締め付けによるコアの破損、脱落を防止できる。
さらに管継手のプレコート表面にオイルを塗布してパイプ材を配管接続すると、パイプ材側のねじ部に切削油が付着しているいないに関わらず、締め込みが安定する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ねじ部の標準ねじ込み山数とシール剤の塗布範囲を模式的に示す。
【図2】トルクコントロール機能の説明図を示す。
【図3】塗布範囲と締め付けトルクの測定結果を示す。
【図4】平成19年版「機械設備工事管理指針」に記載されている表を示す。
【図5】シール剤プレコートの表面にオイル(防錆油)を塗布したもの及び塗布しないものと、パイプ側の切削油有無による締め付けトルク比較結果を示す。
【図6】管端防食継手の断面例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、予備評価として呼び径25Aのめねじ管継手を転造ねじと切削ねじの両方を製作し、鋼管のおねじに対してねじ込み接合評価を実施した。
ねじ山n=6山が接合するようにシールテープを巻いたものと、フッ素系の潤滑性シール剤をめねじ側に塗布し、乾燥させたものをn=6山ねじ込み、締め付けトルクを評価した。
その結果、シールテープを用いたものは転造ねじで73N・m,切削ねじで40N・mの値であり、転造ねじの方がトルクが高かった。
一方、潤滑性シール剤を用いたものは転造ねじで30N・m,切削ねじで26N・mといずれも締め付けトルクが減少し、転造ねじと切削ねじとの差が小さくなった。
しかも、標準締め付けトルク100N・mに対して1/3以下のトルクで締まるので、このままでは過締めの恐れが生じる。
【0017】
次に図3に示すようにめねじ部の先端部からのフッ素系のシール剤の塗布範囲を変化させたときのねじ込み山数n=6での締め付けトルクを評価した(5回測定の平均トルク値を示す)。
その結果、比較例12に示すように全く塗布しないものは締め付けが困難で塗布範囲がねじ込み先端側から0.1n〜0.9nまではトルクコントロール機能が作用し、比較例11,13のように全塗布したものよりも締め付けトルクが高くなる。
特に、塗布範囲をねじ込み先端側から奥に向けて標準山数に対して0.2n〜0.6nまで塗布すると、ねじ込み前半は手締めトルクも小さく締め付けが容易であり、ねじ込み後半にて急にトルクが上昇し過締めを有効に防止することが明らかになった。
図3の表に示すように、実施例2〜6の範囲では標準トルク100N・mの約±20%の範囲にあり、実施例7〜9よりも安定した締め付けトルクが得られる。
また、よび径が50A、150Aのような大口径の管継手ではシール剤なしでねじ込むとかじりが発生し、0.2n以上の塗布範囲が好ましいが塗布範囲が0.8nを越えると締め付けトルクが急激に小さくなった。
図6に、例としてエルボタイプの管端防食継手12の断面図を示す。
管端防食継手12の開口部内側には樹脂製のコア13を有し、開口部両側のコアの間は樹脂被覆部14となっている。
コア13とめねじ部12aとの間に、管11がねじ込み接合される。
管11は鋼材の外側を樹脂等の外周被覆部11b、内側を樹脂等の内周被覆部11aで防錆し、おねじ部11cとめねじ部12aの間にシール剤3をプレコートする。
この場合に、図6で下側の開口部に斜線で示したように、部分的にシール剤3をプレコートすることで、図6の上側の開口部に示したように、管11を螺合すると太い実線で示したシール剤の部分が途中で無くなり、急激に締め付けトルクが上昇するので、過締め付けによるコア13の破損を防止できる。
【0018】
図5に示す表は、呼び径32Aのシール剤をプレコートした管継手のプレコート表面にオイルとして本実験では防錆油を塗布したものと塗布しないものを準備し、一方パイプ材の先端部に切削油を用いておねじ部を切削加工し、切削油をウエスで軽く拭き取った切削油有りのものと、脱脂剤で切削油を完全に除去した切削油無しのものとを準備し、これらの締め付けトルクを測定した結果を示す。
締め付けトルクはねじ込み山数n=7のときのトルク値を示し、表に示した値は各2個測定したトルクの範囲である。
表に示した結果から、管継手のシール剤プレコート表面に防錆油を塗布しなかった場合にパイプ材のおねじ部に切削油が付着した切削油有りのものが締め付けトルク45〜70[N・m]であったのに対して、切削油を除去した切削油無しのものが165〜170[N・m]と非常に大きくなり、締め付けトルクに約100[N・m]も差があった。
この場合、ねじ込み量を締め付けトルクで管理すると切削油無しでねじ込み量が不足し、液やエアー漏れが発生する恐れがあり、逆に締め込み山数で管理すると締め付けトルクが大きくなり作業性が低下する。
これに対してプレコート表面にオイルを少量塗布したものは、パイプ材のおねじ部に切削油が付着していても付着していなくても標準ねじ込み山数n=7における締め付けトルクに差が少なかった。
これにより、管継手のプレコート表面にオイルを塗布した後にパイプ材を螺合接続すると締め付け量が安定する。
【符号の説明】
【0019】
1 めねじ部
2 おねじ部
3 シール剤
11 管
11a 内周被覆部
11b 外周被覆部
11c おねじ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ込み接続する管継手であって、
めねじ部又はおねじ部に予め塗布した潤滑性シール剤の塗布範囲を、
ねじ込み先端側から標準ねじ込み山数nに対して0.1n〜0.9nまでに設定することでねじ込み途中から締め付けトルクが急激に上昇し、過締めを防止したことを特徴とするトルクコントロール機能付き管継手。
【請求項2】
潤滑性シール剤の塗布範囲を標準ねじ込み山数nに対して0.2n〜0.6nまで設定したことを特徴とする請求項1記載のトルクコントロール機能付き管継手。
【請求項3】
請求項1又は2記載の管継手のねじ部に予め防錆油等のオイルを塗布し、パイプ材の先端部に加工したねじ部と螺合接続することを特徴とする配管接続方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−102867(P2012−102867A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120077(P2011−120077)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(391033724)シーケー金属株式会社 (32)
【Fターム(参考)】