説明

トルクリミッタ

【課題】永久磁石とヒステリシス材の固定を含めて、手間とコストをかけることなく製造できるトルクリミッタを提供する
【解決手段】トルクリミッタ10は、円筒状外周部にインサート成形により設けられた永久磁石13を有する第1回転体と、円筒状外周部に対向する円筒状内周部にインサート成形により設けられたヒステリシス材23を有していて、第1回転体と同軸状で互いに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転体とからなり、第2回転体は軸方向の一端側に開口部を有し、開口部を塞ぐ蓋22と、第2回転体の前記開口部近傍の内周部に突出して設けられた突出部24とを含み、蓋22は、突出部24で保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば複写機やプリンター・ファクシミリ等の給紙分離装置に用いられるトルクリミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のトルクリミッタが、たとえば、特許第3316793号公報(特許文献1)や特許第3316794号公報(特許文献2)に記載されている。同公報によれば、トルクリミッタにおいて、永久磁石と永久磁石を保持する摺動性樹脂との固着は、接着剤をもちいて行われている。
【0003】
また、特開2004−239357号公報(特許文献3)や、特開2002−5188号公報(特許文献4)によれば、永久磁石と軸の固着廻り止め手段として、挿入または圧入で物理的に勘合する方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3316793号公報(段落番号0009等)
【特許文献2】特許第3316794号公報(段落番号0008等)
【特許文献3】特開2004−239357号公報(段落番号0011等)
【特許文献4】特開2002−5188号公報(段落番号0011等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トルクリミッタは、樹脂部材を主体で構成されているため、従来は、その組立てには、圧入、溶着、引っ掛けを有する嵌め込みが行われている。ハウジングと蓋の固着においては、圧入の場合は両者に圧力がかかってしまう。溶着の場合は被溶着物に合わせた専用のホーンが必要となる。また、溶着時には条件設定を慎重に行わないと超音波のストレスによりクラックが発生する。製品設計においても、強度を考慮した形状、寸法が必要になる。このような問題を避けるために、蓋とハウジングとを嵌め込み形式とする場合がある。
【0006】
図5は、フック102を有する蓋101をハウジング103に嵌め込む形式のトルクリミッタ100を示す図である。ここでは、ハウジング103内に設けられるロータ軸部分については図示を省略している。図5を参照して、蓋101はその下部にフック102を有し、このフック102がハウジング103の外周に設けられた孔104に係合される。このような形式のトルクリミッタにおいては、ハウジング103および蓋101にアンダーカット部が生じ、ハウジング103および蓋101の成形においてスライドを有する金型が必要となり、費用がかさむ。
【0007】
この発明は上記のような問題点に鑑みてなされたもので、永久磁石とヒステリシス材の固定を含めて、手間とコストをかけることなく製造できるトルクリミッタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るトルクリミッタは、円筒状外周部にインサート成形により設けられた永久磁石を有する第1回転体と、円筒状外周部に対向する円筒状内周部にインサート成形により設けられたヒステリシス材を有していて、第1回転体と同軸状で互いに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転体とからなり、第2回転体は軸方向の一端側に開口部を有し、開口部を塞ぐ蓋と、第2回転体の前記開口部近傍の内周部に突出して設けられた突出部とを含み、蓋は、突出部で保持される。
【0009】
好ましくは、第2回転体の内周部に設けられる永久磁石またはヒステリシス材は、第1回転体側に突出して設けられ、蓋は、第2回転体の内周部に突出して設けられた永久磁石またはヒステリシス材と突出部とで保持される。
【0010】
さらに好ましくは、第2回転体の開口部近傍の内周部には、内周面に沿った溝が設けられ、蓋は溝で保持される。この場合、蓋の外径は第2回転体の内周部の径よりも大きくてもよい。
【0011】
この発明の一つの実施の形態によれば、蓋の外径は第2回転体の内周部の径よりも小さい。
【0012】
突出部は第2回転体の内周部において、軸方向内部から開口部側に向かって滑らかに突出していてもよいし、突出部の断面は半円形状であってもよい。
【0013】
また、突出部は、開口部の周囲に連続して設けられてもよいし、断続的に設けられてもよい。
【発明の効果】
【0014】
この発明においては、インサート成形により設けられた永久磁石を有する第1回転体と、円筒状外周部に対向する円筒状内周部にインサート成形により設けられたヒステリシス材を有しているとともに、蓋は、第2回転体の開口部近傍の内周部に設けられた突出部で保持されるため、蓋を保持するために第2回転体に孔を設ける必要が無い。
【0015】
その結果、永久磁石とヒステリシス材の固定を含めて、スライドを有する金型等が不用となり、手間とコストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一実施の形態に係るトルクリミッタの断面図である。
【図2】図1においてIIで示した部分の拡大図である。
【図3】図1においてIII−IIIで示した部分の矢視図である。
【図4】図1においてIIで示した部分の他の実施例を示す図である。
【図5】従来のトルクリミッタを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1はこの発明の一実施の形態に係るトルクリミッタ10を示す要部断面図である。図1を参照して、トルクリミッタ10は、図示のない駆動用のシャフトに止めネジ(図示なし)を介して一体的に回転するようにされた、円筒状外周部を有する第1回転体11と、第1回転体11の円筒外周部に対向する円筒状内周部を有する第2回転体20とを含む。
【0018】
第1回転体11は、ロータ軸12と、ロータ軸12の外周部にインサート成形等により設けられた円筒状の永久磁石13とを含む。
【0019】
第2回転体20は、ハウジング21と蓋22とを含む。ハウジング21と蓋22とは、第1回転体11と、軸摺動部14a,14bで摺動する。ハウジング21の内周面には、円筒状の永久磁石13の外周部に対向する円筒体であるヒステリシス材(半硬質磁石)23が設けられている。ヒステリシス材23は、ハウジング21の内周面にインサート成形されており、ハウジング21の内周面からロータ軸方向に突出している。また、その軸方向の長さは、永久磁石13の長さに等しい。
【0020】
ハウジング21はその一方端に円形の開口部24を有し、開口部24は、軸方向に突出した突出部25で構成されている。図2(A)は、図1においてIIで示す部分の拡大図であり、図3は、図1において、矢印III-IIIで示す部分の矢視図である。図2(
A)に示すように、突出部25は、断面が半円形状である。蓋22はこの突出部25の半円形状に沿って嵌め込み後固定する構造とする。すなわち、蓋22は、この突出部25と、ハウジング21の内周面から軸方向に突出しているヒステリシス材23とで挟まれて固定される。また、この突出部25は開口部24全体に設けられてもよいし(図3(A))、円周上に断続的に設けてもよい(図3(B))。
【0021】
蓋22は全体として円錐台形状であり、下部に円柱状部を有するため、突出部25の傾斜に沿って容易にこの間に嵌め込まれる。また、円錐台の上面の径は突出部25によって形成される開口部の開口寸法より小さく、下面の径は突出部25によって形成される開口部の開口寸法より大きく、ハウジング21の内周部の径よりも小さい。
【0022】
以上のように、この実施の形態においては、ハウジング21を、スライド構造をとらなくても成形可能な形状としたため、金型のコストを抑えることができるとともに、脱型作業も容易になる。
【0023】
この場合、ハウジング21の内周に設けられた突出部25はアンダーカットとなり、成形工程において脱型不良となる。しかしながら、この場合は、ハウジング21を形成する樹脂とその金型の境界にヒステリシス材23を配置することにより、アンダーカットを設けても脱型可能となる。これは、ヒステリシス材23がハウジング21の内周部に突出しているため、アンダーカットの量をへらせることや、ヒステリシス材23は金型と溶着しないため、ヒステリシス材23と一体になったハウジング21を金型から取り出すのが容易であるためである。
【0024】
また、上記のように蓋22とハウジング21との溶着工程が不要となり、ハウジング21、蓋22、ロータ軸12の樹脂部位を同材質でも異材質でも選択可能となった。特に、蓋22とロータ軸12とが同材質の場合は、ハウジング21と蓋22の溶着時に摺動部が影響を受け好ましくなかったが、この構成であればそのような心配もない。
【0025】
なお、この突出部の形状は図2(A)に示したものに限らず、図2(B)に示すように、軸方向内部側のみにR形状が設けられていてもよい。
【0026】
次に、この発明の他の実施の形態について説明する。図4(A)および(B)は、この発明の他の実施の形態に係る蓋22を保持する構成を示す図であり、先の実施の形態における図2(A)および(B)に対応する。先の実施の形態においては、蓋22は突出部25と、ハウジング21の内周面から軸方向に突出しているヒステリシス材23とで挟まれて保持されていた。これに対して、この実施の形態においては、ハウジング21の内周面には突出部25から連続して形成された溝26が設けられる。ここで、蓋22の下面の径をハウジング21の内周部の径よりも大きくすれば、蓋22は溝26で保持される。この構成であれば、蓋22はこの溝26で保持されるため、蓋22の位置決めが確実になる。
【0027】
なお、ここでは、溝26の軸方向下端部はヒステリシス材23の上端部に一致しているが、これは一致していなくてもよい。
【0028】
また、上記実施の形態においては、ハウジング21の内周部に突出して設けられたヒステリシス材と突出部とで蓋を保持する場合について説明したが、これに限らず、蓋をハウジングの内周部、または内周部に設けられた溝で保持できる構成であればよく、ハウジングの開口部近傍に、軸方向に相互に間隔を開けた突出部または溝を形成し、これによって形成された保持部で蓋を勘合するようにしてもよい。
【0029】
また、その形状も成形時を考慮して脱型方向に対してR形状、または滑らかに突出した形状であればよい。
【0030】
また、上記実施の形態においては、ハウジングの内周部にヒステリシス材を設けた場合について説明したが、これに限らず、ハウジングの内周部に永久磁石を設けても同様である。
【0031】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この発明に係るトルクリミッタは、手間とコストのかけることなく製造が可能であるため、トルクリミッタとして有利に使用される。
【符号の説明】
【0033】
10 トルクリミッタ、11 第1回転体、12 ロータ軸、13 永久磁石、20 第2回転体、21 ハウジング、22 蓋、23 ヒステリシス材、24 開口部、25 突出部、26 溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状外周部にインサート成形により設けられた永久磁石を有する第1回転体と、
前記円筒状外周部に対向する円筒状内周部にインサート成形により設けられたヒステリシス材を有していて、前記第1回転体と同軸状で互いに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転体とからなり、
前記第2回転体は軸方向の一端側に開口部を有し、
前記開口部を塞ぐ蓋と、
前記第2回転体の前記開口部近傍の内周部に突出して設けられた突出部とを含み、
前記蓋は、前記突出部で保持される、トルクリミッタ。
【請求項2】
前記第2回転体の内周部に設けられる永久磁石またはヒステリシス材は、前記第1回転体側に突出して設けられ、
前記蓋は、前記第2回転体の内周部に突出して設けられた永久磁石またはヒステリシス材と前記突出部とで保持される、請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項3】
前記第2回転体の前記開口部近傍の内周部には、内周面に沿った溝が設けられ、
前記蓋は前記溝で保持される、請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項4】
前記蓋の外径は前記第2回転体の内周部の径よりも小さい、請求項1または2に記載のトルクリミッタ。
【請求項5】
前記蓋の外径は前記第2回転体の内周部の径よりも大きい、請求項3に記載のトルクリミッタ。
【請求項6】
前記突出部は第2回転体の内周部において、軸方向内部から前記開口部側に向かって滑らかに突出する、請求項2から5のいずれかに記載のトルクリミッタ。
【請求項7】
前記突出部の断面は半円形状である、請求項1から6のいずれかに記載のトルクリミッタ。
【請求項8】
前記突出部は、前記開口部の周囲に連続して設けられる、請求項1から7のいずれかに記載のトルクリミッタ。
【請求項9】
前記突出部は、前記開口部の周囲に断続的に設けられる、請求項1から7のいずれかに記載のトルクリミッタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−67924(P2012−67924A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−3980(P2012−3980)
【出願日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【分割の表示】特願2007−125795(P2007−125795)の分割
【原出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000114710)ヤマウチ株式会社 (82)