説明

トルク伝達装置

【課題】軸方向にコンパクトなトルク伝達装置を提供する。
【解決手段】駆動源のトルクで回転する入力部材4と、トルクを負荷側へ伝達する出力部材30と、入力部材4に対して同軸かつ独立回転可能なトルク伝達部材10と、トルク伝達部材10の回転軸に対して偏心した偏心部材9と、偏心部材9の中心軸周りに回転可能な錘7と、入力部材4と錘7を連結する連結部材6、19と、出力部材30の外周側かつ偏心部材9の内周側に設けられ、かつ回転しない筒状の固定部材31と、偏心部材9の内周と出力部材30の外周の間に設けられ、一の方向に回転するとき締結する第1ワンウェイクラッチ11と、偏心部材9の内周と固定部材31の外周の間に設けられ、他の方向に回転しようとするときに締結する第2ワンウェイクラッチ12と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達経路に介在して、駆動源の出力を車輪側に伝達するトルク伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の出力を車輪等の負荷に伝達する伝達装置として、特許文献1には、内燃機関で発生した駆動力を入力する入力部と、入力部に装着された偏心構造部と、伝達装置の出力を車輪へ伝達する出力部と、を備えるものが記載されている。この伝達装置では、内燃機関と入力部の間及び出力部と負荷の間に第1ワンウェイクラッチが、内燃機関と入力部との間に第2ワンウェイクラッチが、それぞれ介装されている。
【0003】
偏心構造部は、入力部に回転可能に支持されたブラケットと、このブラケットに回転可能に装着された少なくとも一組の錘を含んで構成されている。そして、入力軸の回転にともなって錘が回転することで発生する遠心力は、作用する方向が周期的に変化して振動する、入力部を回転させるトルクに変換される。このように、回転軸に対して偏心した錘を回転させて振動トルクを生じさせるものを、振動トルク変換機(Oscillating Torque Converter 以下、OTCと省略する。)と呼ぶ。
【0004】
偏心構造部で発生したトルクは、作用する方向が周期的に変化する。そこで、偏心構造部と出力軸との間に第1ワンウェイクラッチを介装させることで、トルクを一方向にのみ作用させる構造としている。また、第2ワンウェイクラッチを設けることで、内燃機関に対して、内燃機関の運転時における回転方向に対して逆方向のトルクが伝達されない構造としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−518168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のトルク伝達装置は、第2ワンウェイクラッチ、偏心構造部、及び第1ワンウェイクラッチが、それぞれ別の機構として形成されており、各機構を軸方向に並べて配置する構成となっている。このため、トルク伝達装置としてみた場合に、軸方向へ大型化しがちである。
【0007】
そこで、本発明では、軸方向にコンパクトな、錘の遠心力をトルクに変換して伝達するトルク伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のトルク伝達装置は、駆動源のトルクにより回転する入力部材と、トルクを負荷側へ伝達する出力部材と、入力部材の回転軸と同軸かつ入力部材に対して独立して回転可能なトルク伝達部材と、を備える。また、トルク伝達部材の外周に中心軸がトルク伝達部材の回転軸に対して偏心した状態で固定支持される偏心部材と、偏心部材に偏心部材の中心軸周りにそれぞれ回転可能に支持される少なくとも一対の錘と、入力部材と錘を連結する連結部材と、を備える。さらに、出力部材の外周側かつ偏心部材の内周側に設けられ、外部に固定されることで回転しない筒状の固定部材を備える。そして、偏心部材の内周と出力部材の外周の間に設けられ、偏心部材が出力部材に対して一の方向に回転するときに締結する第1ワンウェイクラッチと、偏心部材の内周と固定部材の外周の間に設けられ、偏心部材が固定部材に対して他の方向に回転しようとするときに締結する第2ワンウェイクラッチとを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第1ワンウェイクラッチ及び第2ワンウェイクラッチが、偏心軸や錘と軸方向位置が重なるように配置されるので、これらを軸方向に直列に配置する場合に比べて、装置の軸方向長さを大幅に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態に係るトルク伝達装置の断面図である。
【図2】本実施形態に係るトルク伝達装置の、錘部分の正面図である。
【図3】トルク伝達装置の動きを説明するための図である。
【図4A】θがゼロ〜180度の場合におけるトルクについて説明するための図である。
【図4B】θが180〜360度の場合におけるトルクについて説明するための図である。
【図5】偏心量を吸収するための構造の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係るトルク伝達装置OTCの断面図である。図2はトルク伝達装置OTCの錘7部分の正面図である。
【0013】
トルク伝達装置OTCは、内燃機関や電動モータ等といった駆動源から入力された駆動力を、ドライブシャフト等を介することで車輪等の負荷に伝達する装置である。
【0014】
トルク伝達装置OTCは、駆動源から入力されるトルクにより回転軸周りに回転するヨーク4と、変速機または車体等に固定される筒状の固定軸31を備える。ヨーク4には筒状のトルク伝達軸10がベアリング13を介して回転可能に、かつヨーク4の回転軸と同軸に支持されている。固定軸31の内周側には、出力軸30がベアリング32を介して回転可能かつヨーク4の回転軸と同軸に支持されている。また、出力軸30は、ベアリング20を介してトルク伝達軸10の内周側にも回転可能かつヨーク4の回転軸と同軸に支持されている。出力軸30とトルク伝達軸10の間には、ベアリング20の他に第1ワンウェイクラッチ11が介装されている。固定軸31とトルク伝達軸10は少なくとも一部がヨーク4の回転軸方向で重なり、重なる部分については、固定軸31の方がトルク伝達軸10より小径である。そして重なる部分において、固定軸31とトルク伝達軸10の間には第2ワンウェイクラッチ12が介装されている。
【0015】
第1ワンウェイクラッチ11は、後述する振動トルクが入力回転と同方向(以下、この方向を正の方向とする)に作用する場合に締結して、その振動トルクを出力軸30に伝達する。振動トルクが負の方向に作用する場合、第2ワンウェイクラッチ12が締結してトルク伝達軸10が固定軸31に固設されて回転が止められるとともに、第1ワンウェイクラッチ11の締結が解除されるので出力軸30はそれまでの回転の慣性で回転を続ける。
【0016】
トルク伝達軸10の外周部には、偏心軸9Aと偏心軸9Bが、ヨーク4の回転軸方向に並んで固定されている。偏心軸9Aと偏心軸9Bの偏心方向は180°ずれている。偏心軸9Aには、ベアリング16Aを介して錘7Aが回転可能に支持されている。同様に、偏心軸9Bにはベアリング16Bを介して錘7Bが回転可能に支持されている。
【0017】
錘7Aは、錘7Aをヨーク4の回転軸方向に貫通するピン孔33を備える。そして、ピン孔33に挿通されたピン19Aの両端はヨーク4に固定される。錘7Bについても同様に、ピン19Bが挿通している。
【0018】
ピン孔33のヨーク4の回転軸方向から見た開口部は、図2に示すようにピン19A、19Bが摺動可能な長穴形状となっている。
【0019】
偏心軸9A、9Bの、トルク伝達軸10の回転軸に対する偏心量は等しいが、偏心方向はトルク伝達軸10を挟んで反対方向である。すなわち、錘7の数をN個とした場合に、ヨーク4の回転方向で360/N度間隔の各方向に分布する回転軸まわりのイナーシャの大きさが等しくなるように複数の錘7を設ける。
【0020】
なお、以下の説明において、個別の錘または偏心軸を示す場合にはそれぞれ7A、7B、または9A、9Bとして区別し、両者を総称する場合には単に7または9とする。後述するヨークシャフト5、リンク6についても同様とする。
【0021】
錘7は、ベアリング16に嵌合している側が、相対的に軸方向長さが短い薄部17A、リンク6に連結される側が、相対的に軸方向長さが長い厚部17Bとなっている。
【0022】
錘7Aと錘7Bは同形状であり、トルク伝達装置OTCが停止した状態では互いの厚部17Bが偏心軸9の中心軸を挟んで反対側に位置するよう配置される。また、錘7Aは厚部17Bが負荷側に伸びる向きで、錘7Bは厚部17Bが駆動源側に伸びる向きで、互いの薄部17A同士が軸方向に対向するよう接近して配置される。ただし、厚部17Bは、一対となる錘7をトルク伝達軸10方向で接近させた場合に、他方の薄部17Aと干渉しないように設定する。
【0023】
上記のように、第1ワンウェイクラッチ11をトルク伝達軸10と出力軸30との間に、第2ワンウェイクラッチ12を固定軸31とトルク伝達軸10との間に、それぞれ配置した。これにより、トルク伝達装置OTCの軸方向長さを、2つの錘と2つのワンウェイクラッチを回転軸方向に直列に並べる場合に比べて、大幅に短縮することができる。
【0024】
なお、図1に示すように、一対の錘7を軸方向に接近させて配置することができるようになり、トルク伝達装置OTCを軸方向に小型化できる。また、上述したように厚部17Bを設けることで、偏心軸9の中心軸から離れた位置の質量分布が増大し、偏心軸9周りに回転させたときに発生する遠心力も増大するので、限られたレイアウト制約のもとでも、より大きなトルクを伝達することができる。
【0025】
さらに、錘7Aと錘7Bが同形状なので、部品点数を低減することができる。
【0026】
次に、上記のトルク伝達装置OTCの動作について説明する。
【0027】
駆動源から回転が入力されると、ヨーク4が回転軸を中心として回転し、ヨーク4にピン19を介して連結されている錘7も回転する。ただし、錘7は偏心軸9の中心を回転軸として回転する。すなわち、錘7が回転することで生じる遠心力は、トルク伝達軸10の径方向からずれた方向に作用することとなり、トルク伝達軸10を回転させるトルクが発生する。このトルク発生のメカニズムについては後述する。
【0028】
ここで、図3を参照して各部品の動きについて説明する。図3は、図2と同様に錘7部分を正面から見た図である。トルク伝達軸10の回転軸をO、ピン19の中心軸をB、錘7の重心をC、偏心軸9の中心をDとする。また、CからB方向のベクトルをR2、DからC方向のベクトルをR3、OからD方向のベクトルをR4、ベクトルR3とベクトルR4のなす角をθとする。
【0029】
ピン19の中心軸Bは、入力回転とは異なる角速度ωin2で運動し、その軌跡は回転軸Oを中心とすると、真円にはならない。錘7の重心Cも同様である。これらの軌跡が真円にならないのは、トルク伝達軸10と偏心軸9の中心が偏心しているためである。偏心しているにもかかわらずトルク伝達軸10及び偏心軸9が回転できるのは、ピン19がピン孔33に沿ってスライドすることで、偏心量を吸収するからである。中心軸B及び重心Cの軌跡は、偏心軸9の中心Dを中心とすると真円となる。
【0030】
なお、トルク伝達軸10と偏心軸9の偏心量を吸収する構造は、上述したものに限られない。例えば、図5に示すように、ピン19とヨーク4を、リンク6を介して連結するようにしてもよい。リンク6はヨークシャフト5を介してヨーク4に回転自由に支持されるものとする。この場合、リンク6がヨークシャフト5及びピン19を軸として回転することで偏心量を吸収することができる。
【0031】
偏心軸9の中心Dは、トルク伝達軸10の回転と等しい角速度で運動し、その軌跡は回転軸Oを中心とする真円となる。
【0032】
角θはベクトルR3とベクトルR4のなす角なので、ベクトルの内積の式(1)から求めることができる。
【0033】
【数1】

【0034】
次に、トルク伝達軸10を回転させるトルクが発生するメカニズムについて説明する。
【0035】
図4A及び図4Bは、遠心力FとトルクTの関係を示す図である。なお、ここでは簡単の為、錘7がリンク6による制限を受けずに回転できるものとしている。
【0036】
錘7が回転することで発生する遠心力は、式(2)で表される。
【0037】
【数2】

【0038】
図4A、図4Bに示すように、遠心力Fは、偏心軸9の中心Dに、ベクトルR3方向に作用する。そして、回転軸Oには、式(3)で表されるトルクTが作用することになる。
【0039】
【数3】

【0040】
ベクトルR3が図中のY軸と一致する状態のθをゼロ度とし、図中の時計回り方向を正とすると、θがゼロから180度の間にある場合には、図4Aに示すように、トルクTは図中の時計回り方向、つまり正の方向に作用する。一方、θが180度から360度の間にある場合には、図4Bに示すように、トルクTは反時計回り方向、つまり負の方向に作用する。
【0041】
このように、トルクTは錘7が回転することによって、その大きさ及び作用方向が周期的に変化する。この変化は、式(3)から明らかなように、正弦波で表すことができる。
【0042】
そして、上述した第1ワンウェイクラッチ11及び第2ワンウェイクラッチ12により、トルクTが正方向に作用する場合のみ出力軸30に出力が伝達される。
【0043】
より具体的には、正方向のトルクTが入力されている場合には、第1ワンウェイクラッチ11はトルク伝達軸10と出力軸30の相対回転を禁止し、第2ワンウェイクラッチ12はトルク伝達軸10を固定軸31に対して自由に回転させる。これにより、負荷にトルクが伝達される。
【0044】
一方、負方向のトルクTが入力されている場合には、第1ワンウェイクラッチ11はトルク伝達軸10に対して出力軸30を自由に回転させ、第2ワンウェイクラッチ12は固定軸31に対するトルク伝達軸10の差回転を禁止する。これにより、出力軸30はそれまでの回転の慣性で回転を続ける。また、出力軸30が車輪の連れ回りによって回転することも許容される。
【0045】
上記のような、錘7の回転による遠心力FをトルクTに変換して伝達する機構は、トルク伝達経路中で摩擦が発生するのはベアリング13、16と第1ワンウェイクラッチ11及び第2ワンウェイクラッチ12だけなので、伝達効率が高い。具体的には、一般的な車両のクラッチよりも高効率であることが知られている。
【0046】
また、錘7の遠心力を利用するので、一般的なトルクコンバータと同様に駆動力増幅作用も持ち合わせている。さらに、一般的なトルクコンバータと同様に、制御不要で速度比ゼロから1までカバーできる。
【0047】
以上のように本実施形態では、それぞれ反対方向のトルクを伝達する第1ワンウェイクラッチ11と第2ワンウェイクラッチ12とを備える。そして、第1ワンウェイクラッチ11は偏心軸9の内周と出力軸30の外周の間に設けられ、第2ワンウェイクラッチ12は偏心軸9の内周と固定軸31の外周の間に設けられている。すなわち、偏心軸9及び錘7等からなる振動トルクを発生させるための機構と、2つのワンウェイクラッチとを直列に配置する場合に比べて、軸方向長さを大幅に短縮することができる。
【0048】
また、固定軸31を車体または変速機に固定することで、固定軸31を固定する為のケースが不要となる。これにより、軸方向のみならず、径方向についても小型化を図ることができる。
【0049】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0050】
1 駆動源
2 負荷
3 ケース
4 ヨーク(入力部材)
5 ヨークシャフト
6 リンク(連結部材)
7 錘
9 偏心軸(偏心部材)
10 トルク伝達軸(トルク伝達部材)
11 第1ワンウェイクラッチ
12 第2ワンウェイクラッチ
16 ベアリング
19 ピン(連結部材)
30 出力軸(出力部材)
31 固定軸(固定部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源のトルクにより回転する入力部材と、
トルクを負荷側へ伝達する出力部材と、
前記入力部材の回転軸と同軸かつ前記入力部材に対して独立して回転可能なトルク伝達部材と、
前記トルク伝達部材の外周に中心軸が前記トルク伝達部材の回転軸に対して偏心した状態で固定支持される偏心部材と、
前記偏心部材に前記偏心部材の中心軸周りにそれぞれ回転可能に支持される少なくとも一対の錘と、
前記入力部材と前記錘を連結する連結部材と、
前記出力部材の外周側かつ前記偏心部材の内周側に設けられ、外部に固定されることで回転しない筒状の固定部材と、
前記偏心部材の内周と前記出力部材の外周の間に設けられ、前記偏心部材が前記出力部材に対して一の方向に回転するときに締結する第1ワンウェイクラッチと、
前記偏心部材の内周と前記固定部材の外周の間に設けられ、前記偏心部材が前記固定部材に対して他の方向に回転しようとするときに締結する第2ワンウェイクラッチと、
を備えることを特徴とするトルク伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−241871(P2012−241871A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115602(P2011−115602)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)