説明

トルク計測装置およびその計測方法

【課題】接続不良に起因する出力トルクの波形成分の乱れを定量的に評価し、接続不良の有無を確実に判定することで、被計測対象の出力トルクを正確かつ高精度に計測することのできるトルク計測装置およびその計測方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るトルク計測装置10は、被計測対象1の出力部2と接続される接続部11を有し、出力部2に接続部11を接続した状態で回転駆動力を付与する回転駆動部12と、被計測対象1の出力トルク波形を計測するトルク波形計測部13とを具備したものにおいて、トルク波形計測部13で計測した出力トルク波形の周波数解析を行う周波数解析部14と、周波数解析部14の解析結果に基づいて、出力部2と接続部11との接続不良の有無を判定する接続良否判定部15とをさらに具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク計測装置およびその計測方法に関し、特に、非計測対象となる動力伝達機関の出力部に外部から回転駆動力を付与した際の出力トルクを計測するトルク計測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンなどの製造工場においては、エンジン組立て完了後に、クランキング検査と呼ばれるエンジンの組付け良否判定を行う検査が行われている。この検査は、エンジンの出力部となるクランクシャフトを回転駆動させた際に計測されるトルクの大きさに基づいてエンジンの組付け良否判定を行う検査であり、近年では、燃料を入れずに外部からモータ等でクランクシャフトを強制的に回転させ、その際の出力トルクを計測することでエンジンの回転テストを行う、いわゆるモータリングベンチが、環境面の向上、付帯設備の削減、ランニングコスト低減などの理由で多く採用されている。
【0003】
ところで、上記検査時に実際に計測されるトルクの値は、個々の構成部品の仕上げ精度や当該部品間の組付け精度等といったロット(製造ライン)に共通の事象だけでなく、組付けミスや摺動部への異物の介在といった個別の事象についても影響を受ける。よって、上記事象のうち外乱となる事象については、それを極力取り除いた状態で、被計測対象が本来的に有する回転抵抗(出力トルク)を正確に計測、評価するための技術が提案されている。
【0004】
例えば下記特許文献1には、トルク計測領域を微小回転領域に設定し、この微小回転領域内でクランクシャフトを正逆方向に複数回揺動させてトルク計測を行うと共に、予め取得しておいた良品の場合の計測トルクの最大トルク値と、実際に計測したトルク波形から得られる最大トルク値とを比較することで、軸受部への異物の噛込みの有無を判定し、噛込み無しと判定されたワークについてのみ引き続きクランキングトルクを計測する方法が提案されている。
【0005】
また、下記特許文献2には、実際に計測した出力トルクの波形を、軸受面の真円度、回転振れに起因すると考えられる緩やかなうねり状の成分、すなわち低周波成分と、軸受面の仕上げ精度、圧痕、混入した異物等の存在に起因すると考えられる時間的に短いスパイク状の成分、すなわち高周波成分とに分割し、然る後、分割した各々の波形成分の最大値、最小値を予め設定した出力トルクの上限値、下限値と比較することで、不良の有無を判定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−38762号公報
【特許文献2】特開平10−307080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述の良否判定検査は、例えばクランクシャフトをモータ等の回転軸(スピンドル)側に接続した状態で実施されるが、この接続状態の良否が計測されるトルク値に影響を及ぼすことが分かってきた。すなわち、最近では、更なる燃費向上要求に対応して、クランクシャフトの回転抵抗の一層の低減化を図る取組みがなされており、各低減化対策の評価のために、回転テスト時に用いるトルク計にも従来に比べて計測精度に優れたものが使用されるようになっている。このような事情もあり、従来であれば、視認可能な程度に検出されることのなかった、接続不良に起因した波形成分が確認されるようになっている。そのため、例えばクランクシャフトとモータスピンドル側との間で芯ずれが生じた状態で上記検査が行われた場合、当該エンジン系が本来的に有する回転抵抗を反映した出力トルク波形に、芯ずれに起因する他の波形成分が付加された状態で、実際の出力トルク波形が計測されることがあり、被計測対象が本来的に有する回転特性(回転抵抗等)を正確に反映したトルク計測ができていないことが分かってきた。上記理由から、この接続不良に起因した波形成分を排除した上で、正確かつ高精度なトルク計測を行う必要性が高まっている。
【0008】
ここで、上記特許文献1に記載の計測方法は、軸受部への異物の噛込みの有無を判定するための手段であり、検出しようとする事象が異なる。また、噛込み有無の判定は、実際に計測したトルク値の最大値を良品の場合のそれと比較することで行うものであり、被計測対象とトルク計測装置との接続不良に起因するトルク波形の変化が、トルクの最大値や最小値に現れないような場合には、これを検出することは難しい。
【0009】
上記特許文献2は、要因の異なる不良をそれぞれ正確に評価するために、出力トルク波形を低周波成分と高周波成分とに分割しているが、上記ワークと計測装置との接続不良は不良要因には含まれていないし、想定もされていない。むしろ、この計測技術においては、出力トルク波形を、低周波成分と高周波成分とに分割することで、計測したトルク波形の上限値と下限値との比較評価では拾いきれないスパイク状の波形成分を取り出して、当該波形成分に対応する不良の存否を正確かつ漏れなく判定することを目的としており、本願とはその判定対象が異なる。また、上記特許文献2に記載の計測技術についても、直接的に計測したトルク波形を、高周波成分と低周波成分とを分割し、然る後、分割した各々のトルク波形の最大値、最小値の基準値との比較により、各周波数成分に対応した不良の有無を判定している点は上記特許文献1と何ら変わらない。そのため、上記特許文献1と同様、被計測対象とトルク計測装置との接続不良に起因するトルク波形の変化が、トルクの最大値や最小値に現れないような場合には、これを検出することは難しい。以上より、従来の計測技術では、被計測対象とトルク計測装置との接続不良に起因する波形成分の乱れを定量的に評価することは難しい。
【0010】
以上の事情に鑑み、接続不良に起因する出力トルクの波形成分の乱れを定量的に評価し、接続不良の有無を確実に判定することで、被計測対象の出力トルクを正確かつ高精度に計測することのできるトルク計測装置およびその計測方法を提供することを、本発明により解決すべき技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題の解決は、本発明に係るトルク計測装置により達成される。すなわち、この計測装置は、被計測対象の出力部と接続される接続部を有し、出力部に接続部を接続した状態で回転駆動力を付与する回転駆動部と、被計測対象の出力トルク波形を計測するトルク波形計測部とを具備したものにおいて、トルク波形計測部で計測した出力トルク波形の周波数解析を行う周波数解析部と、周波数解析部の解析結果に基づいて、出力部と接続部との接続不良の有無を判定する接続良否判定部とをさらに具備した点をもって特徴付けられる。
【0012】
このように、本発明は、従来のように計測された出力トルク波形の大きさ(振幅)に基づき不良の有無を判定するのではなく、計測された出力トルク波形の周波数解析結果に基づき、特定の不良の有無を判定することを特徴とする。すなわち、本発明者らは、上記接続不良に起因して生じる波形成分が、一見すると計測された出力トルク波形に埋もれてしまう程度の周波数成分であることを見出し、これを出力トルク波形の周波数解析により明確化することを想到するに至ったものである。従って、上記構成のトルク計測装置によれば、トルク波形計測部で被計測対象の出力トルク波形を計測し、当該計測した出力トルク波形に対して周波数解析を行う。これにより、計測された出力トルク波形の周波数分布が得られる。この際、計測対象となるエンジンやミッション等は、それぞれに固有の振動系を有することから、この種の不良がない場合には、一定の振動特性、言い換えると一定の周波数分布を示す。従って、例えば実験レベルないし解析レベルで正常な被計測対象の周波数分布を求めておき、これを接続良否判定部において、実際に計測した出力トルク波形の周波数分布と比較することにより、上記接続不良の有無を正確に判定することができる。これにより、その都度、実際に計測した出力トルク(波形)が、接続不良を含むものか否かを判別することができる。そして、上記接続不良が含まれると判定された場合には、被計測対象とトルク計測装置とを接続し直し、上記接続状態は良好との判定結果が出るまで、出力トルク波形の計測、周波数解析、上記接続不良の有無の判定工程を繰り返し行う。これにより、上記接続不良に起因する波形成分を含まない出力トルク波形を計測することができ、より正確かつ高精度なトルク計測を行うことが可能となる。
【0013】
また、本発明に係るトルク計測装置は、接続良否判定部が、周波数解析部による周波数解析で得た出力トルク波形の周波数分布と、被計測対象の固有振動数およびその倍数成分からなる周波数分布とを比較し、比較結果に基づいて、接続不良の有無を判定するものであってもよい。
【0014】
本発明者らが、上記周波数解析を行い、上記接続不良と周波数分布との関係についてさらに精査したところ、上記接続不良に起因して生じる波形成分の周波数と、この種の被計測対象(エンジン等)の固有振動数およびその倍数成分とが同程度のオーダーの振幅強度を有し、また、上記接続不良に起因する波形成分の周波数が、上記固有振動数およびその倍数成分が存在する比較的低い周波数帯域に含まれることを知得するに至った。従い、この知見に基づき、計測した出力トルク波形の周波数分布と、被計測対象の固有振動数およびその倍数成分からなる周波数分布とを比較することで、上記接続不良の有無を容易に判定することができる。例えば、上記固有振動数とその倍数成分との間に相応の大きさの周波数が現れた場合、これを上記接続不良に起因する波形成分の周波数とみなすことができ、これにより、接続不良と判定することができる。
【0015】
また、前記課題の解決は、本発明に係るトルク計測方法によっても達成される。すなわち、この計測方法は、被計測対象の出力部に回転駆動部の接続部を接続し、回転駆動部から出力部に回転駆動力を付与する駆動力付与工程と、回転駆動力を付与した際の被計測対象の出力トルク波形を計測するトルク波形計測工程とを具備した方法において、トルク波形計測工程で得た出力トルク波形の周波数解析を行う周波数解析工程と、周波数解析工程で得た解析結果に基づいて、出力部と接続部との接続不良の有無を判定する接続良否判定工程とをさらに具備した点をもって特徴付けられる。
【0016】
この計測方法によれば、既に述べた本発明に係るトルク計測装置と同様に、計測された出力トルク波形の周波数分布が得られる。そして、この周波数分布を、接続良否判定工程において、予め求めておいた正常な被計測対象の周波数分布と比較することにより、上記接続不良の有無を正確に判定することができる。これにより、その都度、実際に計測した出力トルク(波形)が、接続不良を含むものか否かを判別することができる。そして、上記接続不良が含まれると判定された場合には、被計測対象とトルク計測装置とを接続し直し、上記接続状態は良好との判定結果が出るまで、出力トルク波形の計測、周波数解析、上記接続不良の有無の判定工程を繰り返し行う。これにより、上記接続不良に起因する波形成分を含まない出力トルク波形を計測することができ、より正確かつ高精度なトルク計測を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明に係るトルク計測装置およびその計測方法によれば、接続不良に起因する出力トルクの波形成分の乱れを定量的に評価し、接続不良の有無を確実に判定することで、被計測対象の出力トルクを正確かつ高精度に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るトルク計測装置の概要を説明するための模式図である。
【図2】図1に示すトルク計測装置の接続部と、被計測対象の出力部との接続状態が良好な場合の出力トルク波形の一例を示したものであって、(a)はその場合の接続部と出力部との接続状態、(b)は出力トルク波形をそれぞれ模式的に示す図である。
【図3】図1に示すトルク計測装置の接続部と、被計測対象の出力部との接続状態が不良である場合の出力トルク波形の一例を示したものであって、(a)はその場合の接続部と出力部との接続状態、(b)は出力トルク波形をそれぞれ模式的に示す図である。
【図4】接続部と出力部との接続状態が良好な場合の出力トルク波形を周波数解析することにより得られた周波数分布を模式的に示した図である。
【図5】接続部と出力部との接続状態が不良である場合の出力トルク波形を周波数解析することにより得られた周波数分布の一例を模式的に示した図である。
【図6】接続部と出力部との接続状態が不良である場合の出力トルク波形を周波数解析することにより得られた周波数分布の他の例を模式的に示した図である。
【図7】接続部と出力部との接続状態が不良である場合の出力トルク波形の他の例を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るトルク計測装置およびその計測方法の一実施形態を図1〜図7を参照して説明する。この実施形態では、エンジンをトルクの被計測対象、そのクランクシャフトを出力部として、クランキングトルクを計測する場合を例にとって、以下説明する。
【0020】
本発明の一実施形態に係るトルク計測装置10は、図1に示すように、被計測対象1の出力部2と接続される接続部11を有し、出力部2に接続部11を接続した状態で回転駆動力を付与する回転駆動部12と、被計測対象1の出力トルク波形を計測するトルク波形計測部13と、トルク波形計測部13で計測した出力トルク波形の周波数解析を行う周波数解析部14と、周波数解析部14の解析結果に基づいて、接続部11と出力部2との接続不良の有無を判定する接続良否判定部15とをさらに具備する。このうち、周波数解析部14と接続良否判定部15はコンピュータ16にプログラムとして内蔵されており、トルク波形計測部13で計測した出力トルク波形データをコンピュータ16側で受信し、受信したデータに基づき周波数解析部14による周波数解析、および接続良否判定部15による接続不良判定が行われるようになっている。
【0021】
回転駆動部12は、この実施形態ではモータ等からなり、そのスピンドルの先端には接続部11としての第1フランジ部が設けられている。また、被計測対象1としてのエンジンのクランクシャフト先端には、出力部2としての第2フランジ部が設けられており、これら双方のフランジ部を重ね合わせて連結することにより、回転駆動部12から所定の回転駆動力を接続部11を介して被計測対象1の出力部2(クランクシャフト)に付与できるようになっている。
【0022】
また、双方のフランジ部の連結に際しては、被計測対象1を保持した基台17の下方に、基台17を昇降させる昇降機構18が配設されており、この昇降機構18により基台17に保持した被計測対象1を上下動させることで、出力部2の回転軸芯X1と接続部11の回転軸芯X2を合わせた状態で、出力部2と接続部11とを連結できるようになっている。なお、図示は省略するが、基台17を水平方向に移動可能なスライド機構を設けることによって、上記軸芯合わせの精度向上を図るようにしてもよい。
【0023】
トルク波形計測部13は、例えば図1に示すように、被計測対象1の出力部2に連結される回転駆動部12のスピンドルに介設され、この場合、回転駆動部12からクランクシャフト(出力部2)に回転駆動力を付与した際のねじりトルクを出力トルクとして計測できるようになっている。
【0024】
周波数解析部14は、例えばFFT(高速フーリエ変換)プログラムを有しており、トルク波形計測部13で計測された出力トルク波形データに対してFFTを行うことにより、周波数分布としての振幅スペクトル(例えば後述する図4〜図6を参照)を得ることができるようになっている。
【0025】
また、接続良否判定部15は、周波数解析部14による解析結果に基づき、出力部2と接続部11との接続不良の有無を判定するものであり、この実施形態では、出力トルク波形にFFTを行うことで得た周波数分布を、予め実験レベルまたは解析レベルで求めておいた、接続不良のない状態での被計測対象1の出力トルク波形の周波数分布とを比較し、後述する所定の判定基準を満たした場合に、上記接続不良と判定するように設定されている。
【0026】
以下、本実施形態に係るトルク計測装置10を用いた被計測対象1の出力トルク計測作業の一例を説明する。
【0027】
まず、図1に示すように、回転駆動部12のスピンドル先端に設けた接続部11(第1フランジ部)を、被計測対象1(エンジン)のクランクシャフト先端に設けた出力部2(第2フランジ部)に重ね合わせて連結する。この際、昇降機構18等により基台17に保持した被計測対象1を上下動させ、出力部2の回転軸芯X1と接続部11の回転軸芯X2との芯合わせを行った上で、出力部2と接続部11とを連結する。このようにして、出力部2と接続部11とを動力伝達可能に接続した状態で、回転駆動部12から所定の回転駆動力(例えば、実際のエンジンの使用時に準じた回転数及びトルク)を接続部11を介して被計測対象1の出力部2(クランクシャフト)に付与すると共に(駆動力付与工程)、その際の出力トルクをトルク波形計測部13で計測する(トルク波形計測工程)。
【0028】
この際、例えば図2(a)に示すように、被計測対象1の出力部2と回転駆動部12の接続部11とが同軸状態、すなわち出力部2を有するクランクシャフトの回転軸芯X1と接続部11を有するスピンドルの回転軸芯X2とが完全に一致していれば、その際の出力トルク波形は、図2(b)に模式的に示すように、振幅が安定した波形を示す。これに対して、例えば図3(a)に示すように、出力部2を有するクランクシャフトの回転軸芯X1と接続部11を有するスピンドルの回転軸芯X2との間にずれGが生じている場合、その際の出力トルク波形は、図3(b)に模式的に示すように、図2(b)に示す芯ずれのない場合の出力トルク波形に、別のうねり成分が付加されたような波形を示す。
【0029】
そこで、計測した出力トルク波形に対して周波数解析を行うことにより、この実施形態ではFFTを行うことにより、各出力トルク波形の周波数分布を取得する(周波数解析工程)。ここで、例えば図4は、出力部2を有するクランクシャフトの回転軸芯X1と接続部11を有するスピンドルの回転軸芯X2とが完全に一致している場合の出力トルク波形(図2(b))を周波数解析して得た周波数分布の模式図であり、この被計測対象1の固有振動数fNとその倍数成分2fN,3fN…が大きく現れていることがわかる。これに対して、図5は、出力部2を有するクランクシャフトの回転軸芯X1と接続部11を有するスピンドルの回転軸芯X2との間にずれGが生じている場合の出力トルク波形(図3(b))を周波数解析して得た周波数分布の模式図である。これを見ると、被計測対象1の固有振動数fNとその倍数成分2fN,3fN…のほかに、これらと同レベルの振幅強度を有する周波数成分が現れていることがわかる。
【0030】
そこで、例えば実験レベルないし解析レベルで良好な接続状態で計測された被計測対象1の出力トルク波形を周波数解析して得た周波数分布、いわば図4に示す形態の周波数分布のマスターデータを求めておき、これを接続良否判定部15において、実際に計測した出力トルク波形の周波数分布と比較することにより、上記接続不良の有無を正確に判定する(接続良否判定工程)。具体的には、図5に示す周波数分布と、周波数分布のマスターデータ(図4を参照)と比較する。そして、前者のみに現れた周波数成分、この図示例では、固有振動数fNの倍数成分3fN,4fN間に現れた周波数成分が固有振動数fN,2fN…等と同程度の振幅強度を示していることから、この周波数成分を上記接続不良に起因する波形成分の周波数成分とみなし、接続不良と判定する。
【0031】
また、上述のように、被計測対象1の固有振動数fNおよびその倍数成分2fN,3fN…から外れた位置に相応の大きさの周波数成分が現れる場合だけでなく、例えば図6に示すように、上記固有振動数fNとその倍数成分2fN,3fN…の何れに重なった状態で周波数成分が現れる場合にも、マスターデータとの比較により、接続不良と判定される。これは、図4に示すように、回転軸芯X1,X2が一致した状態で接続されている場合の出力トルク波形を周波数解析して得た周波数分布においては、被計測対象1の固有振動数fNやその倍数成分2fN,3fNの大きさの比率がある程度決まっているためで、例えば図6に示すように、一部の固有振動数の倍数成分3fNが他の固有振動数fNやその倍数成分2fN,4fNに比べて大きく、全体としてマスターデータと分布形態が異なっている場合には、接続不良と判定される。
【0032】
以上のようにして、出力部2と接続部11との接続不良の有無を判定し、接続状態は良好との判定がなされた被計測対象1については、その出力トルク波形の振幅の大きさ、例えば振幅平均値TAに基づき、その回転抵抗を評価する(回転抵抗評価工程)。
【0033】
また、接続不良と判定された被計測対象1については、当該被計測対象1とトルク計測装置10とを接続し直し、上記接続状態は良好との判定結果が出るまで、この実施形態で言うと、回転軸芯X1,X2間の芯ずれGが実質的に零となるまで、出力トルク波形の計測工程、周波数解析工程、および接続状態の判定工程を繰り返し行う。これにより、上記接続不良に起因する波形成分を含まない、被計測対象1が本体有する回転特性(回転抵抗)を反映した出力トルク波形を正確に計測することができるので、被計測対象1(エンジン)の回転特性向上のための設計、ひいては燃費向上のための設計を円滑に進めることが可能となる。
【0034】
なお、上述のように、接続不良と判定された後、上記接続状態は良好との判定結果が出るまで出力部2と接続部11との接続作業やトルク計測を繰り返し行う方法の他、上記接続不良に起因する周波数成分が、上記周波数解析により検出した周波数成分のみであることが明らかであれば、上記処理したデータに基づき、計測したトルク波形から接続不良に起因する波形成分を除去した波形を再構築し、これをもって被計測対象1本来の出力トルクを評価することも可能である。
【0035】
なお、既述のように、摺動部に異物が介在している場合、図7に示すように、いわゆるスパイク状の成分19が出力トルク波形に現れるため、これは上述の接続不良とは明確に区別することができる。また、図7に示す出力トルク波形に対して周波数解析を行い、周波数分布を取得した場合、スパイク状の成分19は、図4〜図6に示す形式の上記周波数分布には殆ど現れないか、もしくは、現れるとしても非常に高い周波数成分として現れるものと考えられる。これは、接続不良に起因する波形成分は、比較的低周波成分である固有振動数fN,2fN…を含む周波数帯域(〜102Hzオーダー)に含まれることが多く、周波数分布上でも明確に区別できるものと考えられるためである。
【0036】
また、上記実施形態では、一方の回転軸芯X1と他方の回転軸芯X2との間に所定の芯ずれGが生じている場合のトルク計測および接続良否判定を行う場合を例示したが、もちろん、これ以外の接続不良(一方の回転軸芯X1が他方の回転軸芯X2に対して傾いて接続されている場合など)が生じている場合にも、本発明を適用することが可能である。
【0037】
また、以上の説明では、エンジンをトルクの被計測対象1とし、かつそのクランクシャフトを出力部2として、クランキングトルクを計測する場合を例にとって説明したが、例えばミッションアセンブリなど、回転駆動力を外部から付与可能な出力部を有するものである限りにおいて、種々のアセンブリである動力伝達機関を本発明の適用対象(被計測対象)とすることが可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 被計測対象
2 出力部
10 トルク計測装置
11 接続部
12 回転駆動部
13 トルク波形計測部
14 周波数解析部
15 接続良否判定部
16 コンピュータ
18 昇降機構
N,2fN 固有振動数およびその倍数成分
A 振幅平均値
1,X2 回転軸芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測対象の出力部と接続される接続部を有し、前記出力部に前記接続部を接続した状態で回転駆動力を付与する回転駆動部と、前記被計測対象の出力トルク波形を計測するトルク波形計測部とを具備したトルク計測装置において、
前記トルク波形計測部で計測した出力トルク波形の周波数解析を行う周波数解析部と、
前記周波数解析部の解析結果に基づいて、前記出力部と前記接続部との接続不良の有無を判定する接続良否判定部とをさらに具備したことを特徴とするトルク計測装置。
【請求項2】
前記接続良否判定部は、前記周波数解析部による周波数解析で得た前記出力トルク波形の周波数分布と、前記被計測対象の固有振動数およびその倍数成分からなる周波数分布とを比較し、比較結果に基づいて、前記接続不良の有無を判定する請求項1に記載のトルク計測装置。
【請求項3】
被計測対象の出力部に回転駆動部の接続部を接続し、前記回転駆動部から前記出力部に回転駆動力を付与する駆動力付与工程と、前記回転駆動力を付与した際の前記被計測対象の出力トルク波形を計測するトルク波形計測工程とを具備したトルク計測方法において、
前記トルク波形計測工程で得た出力トルク波形の周波数解析を行う周波数解析工程と、
前記周波数解析工程で得た解析結果に基づいて、前記出力部と前記接続部との接続不良の有無を判定する接続良否判定工程とをさらに具備したことを特徴とするトルク計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−137406(P2012−137406A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290606(P2010−290606)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)