説明

トレッド用ゴム組成物、トレッドおよびタイヤ

【課題】未加硫時の加工性に優れ、低い転がり抵抗と高い耐チッピング性を有するタイヤを作製することができるトレッド用ゴム組成物、このトレッド用ゴム組成物を用いて形成されたトレッドおよびタイヤを提供する。
【解決手段】ゴム成分と、ゴム成分100質量部に対して、20質量部以上80質量部以下のカーボンブラックと、10質量部以上80質量部以下のシリカと、0.2質量部以上5質量部以下のシランカップリング剤と、0.1質量部以上5質量部以下の長鎖アルキルアンモニウム塩であるアルコキシ基含有化合物を含有するトレッド2用ゴム組成物、このトレッド用ゴム組成物を用いて形成されたトレッドおよびタイヤ1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド用ゴム組成物、トレッドおよびタイヤに関し、特に、未加硫時の加工性に優れ、低い転がり抵抗と高い耐チッピング性を有するタイヤを作製することができるトレッド用ゴム組成物、このトレッド用ゴム組成物を用いて形成されたトレッドおよびタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの転がり抵抗を低減するために、タイヤのトレッド用ゴム組成物の作製方法として、溶液重合スチレンブタジエンゴム(溶液重合SBR:SSBR)を配合する方法、または補強用充填剤としてカーボンブラックよりも多くシリカを用いる方法がよく知られている。
【0003】
しかしながら、溶液重合SBRを配合する方法、またはシリカを多く配合する方法により得られたトレッド用ゴム組成物は、加硫後のゴムの破断強度および伸びが低下し、チッピングが生じやすく(耐チッピング性能に劣り)、トレッドの欠けが生じるという問題があった。
【0004】
また、カーボンブラックやシリカ等の充填剤を多量に配合する方法も考えられるが、未加硫時のトレッド用ゴム組成物の硬さが上昇しやすくなるために、未加硫時の加工性が悪化するという問題があった。
【0005】
たとえば、特許文献1には、澱粉と可塑剤との複合材を含有させたトレッド用ゴム組成物が開示されている。
【特許文献1】特開2003−192832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1に開示されたトレッド用ゴム組成物においては、加硫後のゴムの伸びが十分ではなく、このトレッド用ゴム組成物を用いて作製したトレッドを有するタイヤの耐チッピング性が悪くなるという問題があった。
【0007】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、未加硫時の加工性に優れ、低い転がり抵抗と高い耐チッピング性を有するタイヤを作製することができるトレッド用ゴム組成物、このトレッド用ゴム組成物を用いて形成されたトレッドおよびタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ゴム成分と、ゴム成分100質量部に対して、20質量部以上80質量部以下のカーボンブラックと、10質量部以上80質量部以下のシリカと、0.2質量部以上5質量部以下のシランカップリング剤と、0.1質量部以上5質量部以下のアルコキシ基含有化合物とを含み、アルコキシ基含有化合物が下記の式(1)で表わされる化合物であるトレッド用ゴム組成物である。
【0009】
【化1】

【0010】
また、本発明は、上記のトレッド用ゴム組成物から形成されたトレッドである。
さらに、本発明は、上記のトレッドを用いて製造されたタイヤである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、未加硫時の加工性に優れ、低い転がり抵抗と高い耐チッピング性を有するタイヤを作製することができるトレッド用ゴム組成物、このトレッド用ゴム組成物を用いて形成されたトレッドおよびタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0013】
<ゴム成分>
本発明に用いられるゴム成分としては、従来から公知のゴム成分を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、たとえば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、溶液重合SBR(SSBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、ポリクロロプレン(CR)等のゴムを単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
なかでも、ゴム成分としては、溶液重合SBR(SSBR)とポリブタジエンゴム(BR)との混合ゴムを用いることが好ましい。この場合には、本発明のトレッド用ゴム組成物からなるトレッドを用いて製造されたタイヤの特性が良好となる傾向にある。
【0015】
また、ゴム成分として、溶液重合SBR(SSBR)とポリブタジエンゴム(BR)との混合ゴムを用いる場合には、溶液重合SBR(SSBR)とポリブタジエンゴム(BR)との混合比率(質量比率)は、(溶液重合SBR(SSBR)の混合質量)/(ポリブタジエンゴム(BR)の混合質量)が50/50〜60/40であることが好ましく、65/35〜70/30であることがより好ましい。
【0016】
<カーボンブラック>
本発明に用いられるカーボンブラックとしては従来から公知のカーボンブラックを限定なく用いることができ、たとえば、SAF、ISAF、HAF、FEF等のカーボンブラックを用いることができる。
【0017】
また、本発明のトレッド用ゴム組成物には、カーボンブラックが、上記のゴム成分100質量部に対して20質量部以上80質量部以下含有される。カーボンブラックの含有量が上記のゴム成分100質量部に対して20質量部未満である場合には本発明のトレッド用ゴム組成物からなるトレッドを用いて製造されたタイヤの特性の一部が不十分となり、80質量部を超える場合にも本発明のトレッド用ゴム組成物からなるトレッドを用いて製造されたタイヤの特性の一部が不十分となる。
【0018】
また、カーボンブラックの含有量は、上記のゴム成分100質量部に対して25質量部以上70質量部以下であることが好ましく、30質量部以上60質量部以下であることがより好ましい。カーボンブラックの含有量が、上記のゴム成分100質量部に対して25質量部以上70質量部以下である場合、特に30質量部以上60質量部以下である場合には、本発明のトレッド用ゴム組成物からなるトレッドを用いて製造されたタイヤの特性が良好となる傾向にある。
【0019】
なお、本発明において、異なる種類のカーボンブラックを2種以上組み合わせて用いた場合のカーボンブラックの含有量は、その2種以上のカーボンブラックの総含有量を意味する。
【0020】
<シリカ>
本発明に用いられるシリカとしては従来から公知のシリカを限定なく用いることができ、たとえば、乾式法により得られるシリカ(無水ケイ酸)および/または湿式法により得られるシリカ(含水ケイ酸)等を用いることができる。
【0021】
また、本発明のトレッド用ゴム組成物には、シリカが、上記のゴム成分100質量部に対して10質量部以上80質量部以下含有される。シリカの含有量が上記のゴム成分100質量部に対して10質量部未満である場合にはシリカの添加による本発明のトレッド用ゴム組成物からなるトレッドを用いて製造されたタイヤの特性の向上効果が不十分となり、80質量部を超えるとシリカの添加による本発明のトレッド用ゴム組成物からなるトレッドを用いて製造されたタイヤの一部の特性の低下が現れてくる。
【0022】
また、シリカの含有量は、上記のゴム成分100質量部に対して20質量部以上80質量部以下であることが好ましく、30質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。シリカの含有量が、上記のゴム成分100質量部に対して20質量部以上80質量部以下である場合、特に30質量部以上80質量部以下である場合には、本発明のトレッド用ゴム組成物からなるトレッドを用いて製造されたタイヤの特性が良好となる傾向にある。
【0023】
また、シリカのBET法による窒素吸着比表面積は、100m2/g以上300m2/g以下であることが好ましく、150m2/g以上250m2/g以下であることがより好ましい。シリカのBET法による窒素吸着比表面積が100m2/g以上300m2/g以下である場合、特に150m2/g以上250m2/g以下である場合には、本発明のトレッド用ゴム組成物からなるトレッドを用いて製造されたタイヤの特性が良好となる傾向にある。
【0024】
なお、シリカのBET法による窒素吸着比表面積は、ASTM−D−4820−93に準拠した方法により測定することができる。
【0025】
また、本発明において、異なる種類のシリカを2種以上組み合わせて用いた場合のシリカの含有量は、その2種以上のシリカの総含有量を意味する。
【0026】
<シランカップリング剤>
本発明に用いられるシランカップリング剤としては、従来から公知のものを用いることができ、たとえば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリメトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等のスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシラン等のクロロ系が挙げられる。なお、上記のシランカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
また、本発明に用いられるシランカップリング剤は、上記のゴム成分100質量部に対して0.2質量部以上5質量部以下含有される。シランカップリング剤の含有量が上記のゴム成分100質量部に対して0.2質量部未満である場合にはシリカとシランカップリング剤との反応性が小さくなり、5質量部を超えるとシランカップリング剤の未反応分が多く残りやすく、ロール密着等の工程上の問題が発生する傾向にある。
【0028】
また、シランカップリング剤の含有量は、上記のゴム成分100質量部に対して0.2質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.25質量部以上3質量部以下であることがより好ましい。
【0029】
なお、本発明において、異なる種類のシランカップリング剤を2種以上組み合わせて用いた場合のシランカップリング剤の含有量は、その2種以上のシランカップリング剤の総含有量を意味する。
【0030】
<アルコキシ基含有化合物>
本発明に用いられるアルコキシ基含有化合物としては、下記の式(1)で表わされるアルコキシ基含有化合物が用いられる。
【0031】
【化2】

【0032】
また、アルコキシ基含有化合物は、上記のゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下含有される。アルコキシ基含有化合物の含有量が上記のゴム成分100質量部に対して0.1質量部未満である場合にはアルコキシ基含有化合物の配合量が少なくなすぎてアルコキシ基含有化合物の配合効果が十分に得られず、5質量部を超えると未反応物の残渣が多くなって加硫速度を大きく変化させてしまう。
【0033】
また、アルコキシ基含有化合物の含有量は、上記のゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上3質量部以下であることがより好ましい。
【0034】
本発明のトレッド用ゴム組成物にはシリカが含有されているが、シリカの表面には酸性基の強いシラノール基が多量に存在しており、これが加硫反応の遅延および未加硫時のゴム組成物の硬化(ムーニー粘度の上昇)を生じさせて未加硫時の加工性に悪影響を与える。また、シリカと未反応のシランカップリング剤の一部がロールに付着すること等によっても未加硫時の加工性が阻害される。
【0035】
しかしながら、本発明においては、上記のアルコキシ基含有化合物中のエトキシ基(−C25OH)がシリカの表面のシラノール基と反応し、1モルのアルコキシ基含有化合物で3個のシラノール基と反応して3モルの水を発生させる。すなわち、本発明においては、従来のシリカとシランカップリング剤との反応に加えて、未反応のシリカとアルコキシ基含有化合物との反応により、未反応のシリカの表面におけるシラノール基の量を低減することができるため、加硫反応の遅延および未加硫時のゴム組成物の硬化を抑止することができる。よって、上記のアルコキシ基含有化合物は加硫反応を促進させる働きを有すると考えられる。また、シリカを配合した場合に用いられる特殊な加硫促進剤D(グアニジン系)を用いずに、一般的な加硫促進剤(スルフェンアミド系)への置き換えも可能となる。
【0036】
また、シリカとアルコキシ基含有化合物との反応により、加硫後のゴム組成物の物性(転がり抵抗性および耐チッピング性)を優れたものとすることができる。さらに、上記のアルコキシ基含有化合物の添加により、シランカップリング剤の配合量を低減することができるため、未反応のシランカップリング剤がロールに付着するといった問題の発生を抑えることができる。
【0037】
また、上記のアルコキシ基含有化合物は少量の添加であっても本発明のトレッド用ゴム組成物の表面に溶け出してロールの表面に被膜を形成するため、未反応のシランカップリング剤のロールへの付着を抑止できる効果を有する。
【0038】
また、上記のアルコキシ基含有化合物中の水酸基(−OH)はシリカの分散に有効である。また、上記のアルコキシ基含有化合物中に存在する二重結合により、上記のアルコキシ基含有化合物は上記のゴム成分との相溶性が高く、本発明のトレッド用ゴムのムーニー粘度を低下させることができる。したがって、本発明のトレッド用ゴム組成物においては、上記のアルコキシ基含有化合物の添加により、上記のゴム成分とシリカとカーボンブラックとの分散性を向上させて未加硫時のゴム組成物の硬化を抑止できる。
【0039】
<その他成分>
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物には、上記の材料以外にも、たとえば、タイヤ工業において一般的に用いられている酸化亜鉛、ステアリン酸、オイル、ワックス、老化防止剤、硫黄または加硫促進剤等の各種材料が適宜配合されていてもよい。
【0040】
ここで、酸化亜鉛としては、従来から公知のものを用いることができ、たとえば、三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号等を用いることができる。
【0041】
また、ステアリン酸としては、従来から公知のものを用いることができ、たとえば、日本油脂(株)製の椿等を用いることができる。
【0042】
また、オイルとしては、従来から公知のものを用いることができ、たとえば、プロセスオイル、植物油脂、またはこれらの混合物等を用いることができる。プロセスオイルとしては、たとえば、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等を用いることができる。植物油脂としては、たとえば、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等を用いることができる。
【0043】
また、ワックスとしては、従来から公知のものを用いることができ、たとえば、大内新興化学工業株式会社製のサンノックワックス等を用いることができる。
【0044】
また、老化防止剤としては、従来から公知のものを用いることができ、たとえば、住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)等を用いることができる。
【0045】
また、硫黄としては、従来から公知のものを用いることができ、たとえば、鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄等を用いることができる。
【0046】
また、加硫促進剤としては、従来から公知のものを用いることができ、たとえば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系またはアルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、若しくは、キサンテート系加硫促進剤のうち少なくとも一つを含有するもの等を用いることができる。スルフェンアミド系としては、たとえばCBS(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBBS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N’−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドなどのスルフェンアミド系化合物等を使用することができる。チアゾール系としては、たとえばMBT(2−メルカプトベンゾチアゾール)、MBTS(ジベンゾチアジルジスルフィド)、2−メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩、亜鉛塩、銅塩、シクロヘキシルアミン塩、2−(2,4−ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、2−(2,6−ジエチル−4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾール等のチアゾール系化合物を用いることができる。チウラム系としては、たとえばTMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、ジペンタメチレンチウラムヘキサスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系化合物を用いることができる。チオウレア系としては、たとえばチオカルバミド、ジエチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、ジオルトトリルチオ尿素などのチオ尿素化合物などを使用することができる。グアニジン系としては、たとえばジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、トリフェニルグアニジン、オルトトリルビグアニド、ジフェニルグアニジンフタレート等のグアニジン系化合物を用いることができる。ジチオカルバミン酸系としては、たとえばエチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ブチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジアミルジチオカルバミン酸亜鉛、ジプロピルジチオカルバミン酸亜鉛、ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛とピペリジンの錯塩、ヘキサデシル(またはオクタデシル)イソプロピルジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジアミルジチオカルバミン酸カドミウム等のジチオカルバミン酸系化合物を用いることができる。アルデヒド−アミン系またはアルデヒド−アンモニア系としては、たとえばアセトアルデヒド−アニリン反応物、ブチルアルデヒド−アニリン縮合物、ヘキサメチレンテトラミン、アセトアルデヒド−アンモニア反応物等のアルデヒド−アミン系またはアルデヒド−アンモニア系化合物等を用いることができる。イミダゾリン系としては、たとえば2−メルカプトイミダゾリン等のイミダゾリン系化合物等を用いることができる。キサンテート系としては、たとえばジブチルキサントゲン酸亜鉛などのキサンテート系化合物等を用いることができる。これらの加硫促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
<タイヤ>
本発明のトレッド用ゴム組成物は、上記のゴム成分、カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤およびアルコキシ基含有化合物等の材料をたとえば混練り等により混合することによって作製することができる。そして、上記の本発明のトレッド用ゴム組成物を未加硫の状態で押出し加工等することによって、タイヤのトレッドを形成することができる。
【0048】
また、上記のようにして本発明のトレッド用ゴム組成物を用いて作製されたトレッドを含むタイヤ部材をそれぞれ所定の位置に配置すること等によってグリーンタイヤを作製し、その後、グリーンタイヤの各タイヤ部材を構成するゴム組成物を加硫すること等によって、本発明のタイヤが製造される。
【0049】
図1に、本発明のタイヤの一例の左上部半分の模式的な断面図を示す。ここで、タイヤ1は、タイヤ1の接地面となるトレッド2と、トレッド2の両端からタイヤ半径方向内方に延びてタイヤ1の側面を構成する一対のサイドウォール3と、各サイドウォール3のタイヤ半径方向内方端に位置するビードコア5とを備える。また、ビードコア5,5間にはプライ6が架け渡されるとともに、このプライ6の外側かつトレッド2の内側にはベルト7が設置されている。
【0050】
プライ6は、たとえば、タイヤ赤道CO(タイヤ1の外周面の幅の中心をタイヤ1の外周面の周方向に1回転させて得られる仮想線)に対してたとえば70°〜90°の角度を為す複数のコードがゴム組成物中に埋設されたゴムシートから形成することができる。また、プライ6は、トレッド2からサイドウォール3を経てビードコア5の廻りをタイヤ軸方向の内側から外側に折り返されて係止される。
【0051】
ベルト7は、たとえば、タイヤ赤道COに対してたとえば40°以下の角度を為す複数のコードがゴム組成物中に埋設されたゴムシートから形成することができる。
【0052】
また、タイヤ1には、必要に応じてベルト7の剥離を抑止するためのバンド(図示せず)が設けられていてもよい。ここで、バンドは、たとえば、複数のコードがゴム組成物中に埋設されたゴムシートからなり、タイヤ赤道COとほぼ平行にベルト7の外側に螺旋巻きすることによって設置することができる。
【0053】
また、タイヤ1には、ビードコア5からタイヤ半径方向外方に延びるビードエイペックス8が形成されているとともに、プライ6の内側にはインナーライナー9が設置されており、プライ6の折返し部の外側はサイドウォール3およびサイドウォール3からタイヤ半径方向内方に延びるクリンチ4で被覆されている。
【0054】
なお、上記においては、本発明のタイヤ1として乗用車用のタイヤについて例示しているが、本発明はこれに限定されず、乗用車用、トラック用、バス用、重車両用等の各種車両に用いられるタイヤとすることができる。
【0055】
本発明のトレッド用ゴム組成物は、ゴム成分と、ゴム成分100質量部に対して、20質量部以上80質量部以下のカーボンブラックと、10質量部以上80質量部以下のシリカと、0.2質量部以上5質量部以下のシランカップリング剤と、0.1質量部以上5質量部以下のアルコキシ基含有化合物とを含んでいることから、本発明のトレッド用ゴム組成物は未加硫時においては加工性に優れるために容易にタイヤのトレッドを成形することができ、そのトレッドを用いて製造されたタイヤは、タイヤの転がり抵抗が低く、高い耐チッピング性を有するものとなる。
【0056】
したがって、本発明のトレッド用ゴム組成物はタイヤのトレッドの形成に用いられるのが好適である。
【実施例】
【0057】
<未加硫ゴム組成物の作製>
表1に示す配合に従って、ゴム成分、カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、アルコキシ基含有化合物、オイル、ワックス、老化防止剤、ステアリン酸および酸化亜鉛を1.7Lのバンバリーミキサーを用いて5分間混練りした。そして、表1に示す配合に従って、このようにして得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて7分間混練りして、実施例1および実施例2ならびに比較例1のそれぞれの未加硫ゴム組成物を得た。
【0058】
なお、表1のゴムの欄に示されている数値は、SSBRとBRとの混合ゴムからなるゴム成分の混合比(質量比)が表わされており、表1の添加剤の欄に示されている数値は、上記のゴム成分の配合量を100質量部としたときの各添加剤の配合量が質量部で表わされている。また、アルコキシ基含有化合物としては、上記の式(1)で表わされるアルコキシ基含有化合物が用いられた。
【0059】
【表1】

【0060】
(注1)SSBR:旭化成(株)製の2530
(注2)BR:日本ゼオン(株)製の1220
(注3)カーボンブラック:東海カーボン(株)製のN220
(注4)シリカ:東ソー(株)製のVN3(BET法による窒素吸着比表面積:200m2/g)
(注5)シランカップリング剤:東レダウ(株)製の6062N
(注6)アルコキシ基含有化合物:バイエル(株)製のアクチプラストPP
(注7)オイル:出光興産(株)製のAH40
(注8)ワックス:日本精蝋(株)製の0355
(注9)老化防止剤:住友化学(株)製の6C
(注10)ステアリン酸:日本油脂(株)製のつばき
(注11)酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の
(注12)硫黄:鶴見化学工業(株)製
(注13)加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のDZ
<ムーニー粘度およびスコーチタイム測定>
上記のようにして作製した実施例1および実施例2ならびに比較例1のそれぞれの未加硫ゴム組成物について、JIS K 6300−1:2001の「未加硫ゴム−物理特性−第1部:ムーニー粘度計による粘度及びスコーチタイムの求め方」に準じて、それぞれムーニー粘度およびスコーチタイムを測定した。そして、下記の式(2)により、ムーニー粘度の測定値から比較例1の未加硫ゴム組成物に対するムーニー粘度の相対値(ムーニー粘度指数)を算出するとともに、下記の式(3)により、スコーチタイムの測定値から比較例1の未加硫ゴム組成物に対するスコーチタイムの相対値(スコーチタイム指数)を算出した。その結果を表1のムーニー粘度指数の欄およびスコーチタイム指数の欄にそれぞれ示す。
【0061】
表1のムーニー粘度の欄の数値が小さいほどムーニー粘度が低いことを示し、未加硫時の加工性に優れることを示している。また、スコーチタイムの欄の数値が小さいほどスコーチタイムが短いことを示しており、未加硫時の加工性に優れることを示している。
(ムーニー粘度指数)=100×(実施例1および実施例2ならびに比較例1のそれぞれの未加硫ゴム組成物のムーニー粘度の測定値)/(比較例1の未加硫ゴム組成物のムーニー粘度の測定値) …(2)
(スコーチタイム指数)=100×(実施例1および実施例2ならびに比較例1のそれぞれの未加硫ゴム組成物のスコーチタイムの測定値)/(比較例1の未加硫ゴム組成物のスコーチタイムの測定値) …(3)
<転がり抵抗試験>
上記のようにして作製した実施例1および実施例2ならびに比較例1のそれぞれの未加硫ゴム組成物を150℃で30分間加硫することによって、加硫ゴムシートをそれぞれ作製した。
【0062】
そして、上記のようにして作製した加硫ゴムシートから実施例1および実施例2ならびに比較例1のそれぞれの試験片を作製し、粘弾性スペクトロメータVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度30℃、初期歪み10%、動歪み2%の条件下で損失正接(tanδ)の測定を行なった。そして、下記の式(4)により、損失正接の測定値から比較例1の試験片に対する損失正接の相対値(転がり抵抗指数)を算出した。その結果を表1の転がり抵抗指数の欄に示す。
【0063】
表1の転がり抵抗指数の欄の数値が大きいほど転がり抵抗が小さくなり、低燃費化できることを示している。
(転がり抵抗指数)=100×(比較例1の試験片の損失正接の測定値)/(実施例1および実施例2ならびに比較例1のそれぞれの試験片の損失正接の測定値) …(4)
<切断時引張応力および切断時伸び試験>
上記のようにして作製した加硫ゴムシートから実施例1および実施例2ならびに比較例1のそれぞれの試験片を作製し、JIS K 6251:2004の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて、切断時引張応力TBおよび切断時伸びEBを測定した。そして、下記の式(5)により、切断時引張応力TBの測定値から比較例1の試験片に対する切断時引張応力TBの相対値(切断時引張応力指数)を算出するとともに、下記の式(6)により、切断時伸びEBの測定値から比較例1の試験片に対する切断時伸びEBの相対値(切断時伸び指数)を算出した。その結果を表1の切断時引張応力指数の欄および切断時伸び指数の欄にそれぞれ示す。
【0064】
表1の切断時引張応力指数の欄の数値が大きいほど切断時引張応力が大きくなって耐チッピング性が高くなることを示している。また、表1の切断時伸び指数の欄の数値が大きいほど切断時伸びが大きくなって耐チッピング性が高くなることを示している。
(切断時引張応力指数)=100×(実施例1および実施例2ならびに比較例1のそれぞれの試験片の切断時引張応力TBの測定値)/(比較例1の試験片の切断時引張応力TBの測定値) …(5)
(切断時伸び指数)=100×(実施例1および実施例2ならびに比較例1のそれぞれの試験片の切断時伸びEBの測定値)/(比較例1の試験片の切断時伸びEBの測定値) …(6)
<評価>
表1に示すように、ゴム成分100質量部に対して上記の式(1)で表わされるアルコキシ基含有化合物を2.5質量部含有させた実施例1および実施例2の未加硫ゴム組成物は、当該アルコキシ基含有化合物を含まない比較例1の未加硫ゴム組成物と比べてムーニー粘度指数およびスコーチタイム指数のいずれも大幅に低減できている。したがって、実施例1および実施例2の未加硫ゴム組成物は、比較例1の未加硫ゴム組成物と比べて、未加硫時の加工性を大幅に向上できることが確認された。
【0065】
また、表1に示すように、ゴム成分100質量部に対して上記の式(1)で表わされるアルコキシ基含有化合物を2.5質量部含有させた実施例1および実施例2の未加硫ゴム組成物を加硫して得られた加硫ゴムは、当該アルコキシ基含有化合物を含まない比較例1の未加硫ゴム組成物を加硫して得られた加硫ゴムと比べて、転がり抵抗指数、切断時引張応力指数および切断時伸び指数をそれぞれ大幅に高くすることができる。したがって、実施例1および実施例2の未加硫ゴム組成物を用いてタイヤのトレッドを作製した場合には、比較例1の未加硫ゴム組成物を用いてタイヤのトレッドを作製した場合と比べて、タイヤの転がり抵抗を低くすることができるとともに、耐チッピング性を高めることができる。
【0066】
したがって、以上の結果から、実施例1および実施例2の未加硫ゴム組成物はタイヤのトレッド用ゴム組成物として用いられるのが好適であると考えられる。
【0067】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、未加硫時の加工性に優れ、低い転がり抵抗と高い耐チッピング性を有するタイヤを作製することができるトレッド用ゴム組成物、このトレッド用ゴム組成物を用いて形成されたトレッドおよびタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明のタイヤの一例の左上部半分の模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 タイヤ、2 トレッド、3 サイドウォール、4 クリンチ、5 ビードコア、6
プライ、7 ベルト、8 ビードエイペックス、9 インナーライナー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、前記ゴム成分100質量部に対して、20質量部以上80質量部以下のカーボンブラックと、10質量部以上80質量部以下のシリカと、0.2質量部以上5質量部以下のシランカップリング剤と、0.1質量部以上5質量部以下のアルコキシ基含有化合物と、を含み、
前記アルコキシ基含有化合物は、下記の式(1)で表わされる化合物であることを特徴とする、トレッド用ゴム組成物。
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載のトレッド用ゴム組成物から形成された、トレッド。
【請求項3】
請求項2に記載のトレッドを用いて製造された、タイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−96919(P2009−96919A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271321(P2007−271321)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】