説明

トレッド用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】ウェットグリップ性能を改善できるトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】天然ゴムを含むゴム成分Aと、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂とを含有するマスターバッチ1、並びに、ジエン系合成ゴムを含むゴム成分Bと、α−メチルスチレン系樹脂及び/又はテルペンフェノール系樹脂とを含有するマスターバッチ2を混合して得られるトレッド用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド用ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の高速化に伴い、タイヤに要求される特性は年々厳しくなり、走行中のブレーキ、トラクション、コーナリング中のグリップ特性など様々な特性が要求され、ウェット路面でのグリップ性能もその1つとして取り上げられている。
【0003】
ウェット路面でのタイヤのグリップ性能は一般にヒステリシスロスの高いトレッドゴムを採用することで改善され、例えば、芳香族系石油樹脂(C9留分による樹脂)、クロマンインデン樹脂、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、ロジン樹脂、フェノール系樹脂、石油系樹脂(C5留分による樹脂)などの各種レジンをトレッドゴムに配合することによる改善が試みられている。
【0004】
例えば特許文献1には、混練り工程においてスチレンブタジエンゴム、フィラーなどの配合材料とロジンエステル樹脂を同時に混合して作製したトレッド用ゴム組成物が開示されている。しかし、ウェットグリップ性能の更なる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−248056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決し、ウェットグリップ性能を改善できるトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、天然ゴムを含むゴム成分Aと、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂とを含有するマスターバッチ1、並びに、ジエン系合成ゴムを含むゴム成分Bと、α−メチルスチレン系樹脂及び/又はテルペンフェノール系樹脂とを含有するマスターバッチ2を混合して得られるトレッド用ゴム組成物に関する。
【0008】
上記ジエン系合成ゴムがスチレンブタジエンゴムであることが好ましい。
【0009】
上記マスターバッチ1に含まれるテルペン系樹脂及びロジン系樹脂の合計含有量が上記ゴム成分A100質量部に対して1〜20質量部であり、上記マスターバッチ2に含まれるα−メチルスチレン系樹脂及びテルペンフェノール系樹脂の合計含有量が上記ゴム成分B100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましい。
【0010】
上記マスターバッチ1及び2がフィラーを含むことが好ましい。
【0011】
上記テルペン系樹脂がα−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、β−ピネン/リモネン樹脂及び水素添加テルペン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
上記α−メチルスチレン系樹脂がα−メチルスチレンの単独重合体及び/又はα−メチルスチレンとスチレンとの共重合体であることが好ましい。
【0013】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、予め調製した特定のゴム成分とレジンを含むマスターバッチ1及び2を混合して得られるトレッド用ゴム組成物であるので、ウェットグリップ性能を改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のトレッド用ゴム組成物は、天然ゴム(NR)を含むゴム成分Aと、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂とを含有するマスターバッチ1、並びに、ジエン系合成ゴムを含むゴム成分Bと、α−メチルスチレン系樹脂及び/又はテルペンフェノール系樹脂とを含有するマスターバッチ2を混合して得られる。上記マスターバッチ1及び2を予めそれぞれ調製し、これらを混合することにより得られるゴム組成物であるため、同じ配合材料を同時に混合して得られるものに比べて、ウェットグリップ性能を更に向上できる。
【0016】
(マスターバッチ1)
上記マスターバッチ1は、天然ゴムを含むゴム成分Aと、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂とを含有する。
NRとしては特に限定されず、例えば、NR、SIR20、RSS♯3、TSR20、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(HPNR)など、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。なお、上記A中のNR以外のゴム成分としては、後述するジエン系合成ゴムなどが挙げられる。
【0017】
テルペン系樹脂は、テルペン化合物をモノマーとして重合された樹脂を意味する。テルペン化合物は、一般にイソプレン(C)の重合体で、モノテルペン(C1016)、セスキテルペン(C1524)、ジテルペン(C2032)などに分類されるテルペンを基本骨格とする化合物であり、例えば、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α−フェランドレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノレン、1,8−シネオール、1,4−シネオール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオールなどが挙げられる。
【0018】
テルペン系樹脂としては、上述したテルペン化合物を原料とするα−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、β−ピネン/リモネン樹脂などのテルペン樹脂の他、テルペン樹脂に水素添加処理した水素添加テルペン樹脂も挙げられる。なかでもNRへの相溶性という理由から、リモネン、α−ピネン及びβ−ピネンからなる群より選択される少なくとも1種の重合体が好ましく、ピネン樹脂がより好ましい。
テルペン系樹脂は、後述するフェノール系化合物に由来する単位を持たないものであってもよい。
【0019】
テルペン系樹脂としては、たとえばアリゾナケミカル社製のTRB115、TR1115T、TR90などの市販品を好適に用いることができる。
【0020】
テルペン系樹脂のSP値は、好ましくは9以下、より好ましくは8以下である。上記範囲内のSP値を持つ樹脂を使用することで、NRとの相溶性が向上し、ウェットグリップ性能を改善できる。
【0021】
テルペン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上である。該Tgは、好ましくは95℃以下、より好ましくは85℃以下である。上記範囲内のTgを持つ樹脂を使用することで、NRとの相溶性が向上し、ウェットグリップ性能を改善できる。
【0022】
テルペン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは200〜1000である。上記範囲内のMwを持つ樹脂を使用することで、NRとの相溶性が向上し、ウェットグリップ性能を改善できる。
【0023】
ロジン系樹脂としては、松脂を加工することにより得られるアビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマール酸、ピマール酸、イソピマール酸、デヒドロアビエチン酸などの樹脂酸を主成分とするガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどの天然産のロジン樹脂(重合ロジン)の他、水素添加ロジン樹脂、マレイン酸変性ロジン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂などの変性ロジン樹脂、ロジングリセリンエステルなどのロジンエステル、ロジン樹脂を不均化することによって得られる不均化ロジン樹脂などがあげられる。なかでも、NRとの相溶性が高く、ウェットグリップ性能の改善効果が大きいという理由からロジンエステルが好ましい。
【0024】
ロジン系樹脂としては、たとえば荒川化学工業(株)のKE364C、SE−L、SE−A18、アリゾナケミカル社のRR120、RE10L、RE80HP、RE100Lなどの市販品を好適に用いることができる。
【0025】
ロジン系樹脂のSP値は、好ましくは9〜10である。上記範囲内のSP値を持つ樹脂を使用することで、NRとの相溶性が向上し、ウェットグリップ性能を改善できる。
【0026】
ロジン系樹脂のMwは、好ましくは200〜1000である。上記範囲内のMwを持つ樹脂を使用することで、NRとの相溶性が向上し、ウェットグリップ性能を改善できる。
【0027】
なお、本明細書において、SP(Solubility Parameter)値とは、Fedors法によって算出される値である。Tgは、JIS−K7121に従い、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製の示差走査熱量計(Q200)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定した値である。Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用い、標準ポリスチレンより換算した値である。
【0028】
マスターバッチ1において、テルペン系樹脂及びロジン系樹脂の合計含有量は、ゴム成分A100質量部に対して好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは5質量部以上である。1質量部未満であると、ウェットグリップ性能を充分に改善できないおそれがある。該含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。20質量部をこえると、耐摩耗性能が著しく低下する傾向がある。
【0029】
上記マスターバッチ1は、フィラーを含有することが好ましい。これにより、マスターバッチ作製(混練)中のスリップを抑制でき、レジンの分散性が高まるため、ウェットグリップ性能を改善できる。
【0030】
フィラーとしては特に限定されず、タイヤ用ゴム組成物において通常用いられるものを使用できるが、なかでも、優れたウェットグリップ性能が得られるという点から、シリカ、カーボンブラックが好ましく、シリカがより好ましい。
【0031】
上記シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0032】
上記シリカのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは40m/g以上、より好ましくは50m/g以上である。40m/g未満では、破壊特性が低下する傾向がある。該NSAは、好ましくは220m/g以下、より好ましくは200m/g以下である。220m/gをこえると、低発熱性、混練加工性が悪化する傾向がある。また、レジンの分散性が悪化し、本発明の効果が良好に得られない傾向がある。
なお、本明細書において、シリカのチッ素吸着比表面積は、ASTMD3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0033】
上記カーボンブラックとしては特に限定されず、例えば、GPF、HAF、ISAF、SAFなど、タイヤ工業において一般的なものを用いることができる。
【0034】
上記カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは30m/g以上、より好ましくは70m/g以上である。30m/g未満では、充分な補強性が得られない傾向がある。該NSAは、好ましくは250m/g以下、より好ましくは150m/g以下である。250m/gをこえると、粘度が非常に高くなって混練加工性が悪化したり、低燃費性が悪化する傾向がある。また、レジンの分散性が悪化し、本発明の効果が良好に得られない傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのNSAは、JIS K6217、7頁のA法によって求められる。
【0035】
マスターバッチ1において、フィラーの含有量は、ゴム成分A100質量部に対して好ましくは5質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上である。5質量部未満であると、スリップを抑制できないためレジンの分散性が高まらず、フィラー配合によるウェットグリップ性能改善効果が得られない傾向がある。該含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。100質量部をこえると、粘度が上昇するためレジンの分散性が悪化し、本発明の効果が良好に得られない傾向がある。
【0036】
(マスターバッチ2)
マスターバッチ2は、ジエン系合成ゴムを含むゴム成分Bと、α−メチルスチレン系樹脂及び/又はテルペンフェノール系樹脂とを含有する。
【0037】
ジエン系合成ゴムとしては、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)などがあげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、α−メチルスチレン系樹脂及び/又はテルペンフェノール系樹脂との相溶性が高く、本発明の効果が良好に得られるという理由から、BR、SBRが好ましく、SBRが特に好ましい。SBRを用いた場合はこれとα−メチルスチレン系、テルペンフェノール系樹脂との相溶性が良好で、またNRとテルペン系、ロジン系樹脂との相溶性も良好である。そのため、各マスターバッチにおいて高いレジン分散性が得られ、これらを混合して得られたゴム組成物に優れたウェットグリップ性能を付与できると推察される。
【0038】
SBRとしては特に限定されず、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)などが挙げられ、なかでも、優れたウェットグリップ性能が得られるという点から、S−SBRが好ましい。
【0039】
SBRの結合スチレン量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。該結合スチレン量は、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。結合スチレン量を上記範囲内とすることにより、良好なウェットグリップ性能が得られる。
なお、スチレン量は、H−NMR測定により算出できる。
また、上記B中のジエン系合成ゴム以外のゴム成分としては、前述のNRなどが挙げられる。
【0040】
上記α−メチルスチレン系樹脂としては、α−メチルスチレンの単独重合体、α−メチルスチレンとスチレンとの共重合体などが好適である。
【0041】
α−メチルスチレン系樹脂としては、たとえばアリゾナケミカル社のSA85、SA100、SA120、SA140、eastman chemical社のR2336などの市販品を好適に用いることができる。
【0042】
α−メチルスチレン系樹脂のSP値は、好ましくは9〜10である。上記範囲内のSP値を持つ樹脂を使用することで、SBRとの相溶性が向上し、ウェットグリップ性能を改善できる。
【0043】
α−メチルスチレン系樹脂の軟化点は、好ましくは30℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは75℃以上である。該軟化点は、好ましくは100℃以下、より好ましくは92℃以下、更に好ましくは88℃以下である。上記範囲内の軟化点を持つ樹脂を使用することで、SBRとの相溶性が向上し、ウェットグリップ性能を改善できる。
なお、軟化点とは、JIS K 6220に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0044】
α−メチルスチレン系樹脂のTgは、好ましくは28℃以上、より好ましくは38℃以上である。該Tgは、好ましくは58℃以下、より好ましくは48℃以下である。上記範囲内のTgを持つ樹脂を使用することで、SBRとの相溶性が向上し、ウェットグリップ性能を改善できる。
【0045】
α−メチルスチレン系樹脂のMwは、好ましくは500以上、より好ましくは800以上である。該Mwは、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下である。上記範囲内のMwを持つ樹脂を使用することで、SBRとの相溶性が向上し、ウェットグリップ性能を改善できる。
【0046】
テルペンフェノール系樹脂としては、上記テルペン化合物とフェノール系化合物とを原料とするテルペンフェノール樹脂が挙げられ、具体的には、上記テルペン化合物、フェノール系化合物及びホルマリンを縮合させた樹脂が挙げられる。なお、フェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノールなどが挙げられる。
【0047】
テルペンフェノール系樹脂としては、たとえばアリゾナケミカル社のTP115、TP300などの市販品を好適に用いることができる。
【0048】
テルペンフェノール系樹脂のSP値は、好ましくは9〜11である。上記範囲内のSP値を持つ樹脂を使用することで、SBRとの相溶性が向上し、ウェットグリップ性能を改善できる。
【0049】
テルペンフェノール系樹脂の軟化点は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上である。該軟化点は、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下である。上記範囲内の軟化点を持つ樹脂を使用することで、SBRとの相溶性が向上し、ウェットグリップ性能を改善できる。
【0050】
テルペンフェノール系樹脂のTgは、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上である。該Tgは、好ましくは65℃以下、より好ましくは60℃以下である。上記範囲内のTgを持つ樹脂を使用することで、SBRとの相溶性が向上し、ウェットグリップ性能を改善できる。
【0051】
テルペンフェノール系樹脂のMwは、好ましくは600〜1000である。上記範囲内のMwを持つ樹脂を使用することで、SBRとの相溶性が向上し、ウェットグリップ性能を改善できる。
【0052】
マスターバッチ2において、α−メチルスチレン系樹脂及びテルペンフェノール系樹脂の合計含有量は、ゴム成分B100質量部に対して好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは5質量部以上である。1質量部未満であると、ウェットグリップ性能を充分に改善できないおそれがある。該含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。20質量部をこえると、耐摩耗性能が著しく低下する傾向がある。
【0053】
上記マスターバッチ2は、マスターバッチ1と同様にフィラーを含有することが好ましい。これにより、ウェットグリップ性能を改善できる。フィラーとしては、マスターバッチ1と同様のものが使用でき、シリカを使用することが好ましい。
【0054】
マスターバッチ2において、フィラーの含有量は、ゴム成分B100質量部に対して好ましくは5質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上である。5質量部未満であると、スリップを抑制できないためレジンの分散性が高まらず、フィラー配合によるウェットグリップ性能改善効果が得られない傾向がある。該含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。100質量部をこえると、粘度が上昇するためレジンの分散性が悪化し、本発明の効果が良好に得られない傾向がある。
【0055】
マスターバッチ1及びマスターバッチ2の作製方法は、従来公知の混練り方法を特に限定されることなく使用でき、例えば、バンバリーミキサーなどの密閉式混練機、ニーダー、オープンロールなどを好適に用いることができる。
【0056】
マスターバッチ1及びマスターバッチ2の作製において、混練り条件は通常120〜180℃、2〜8分(より好ましくは140〜160℃、2〜5分)である。上記混練条件とすることにより、本発明の効果が良好に得られる。
【0057】
本発明のトレッド用ゴム組成物は、マスターバッチ1とマスターバッチ2とを混合して得られるものであり、例えば、マスターバッチ1及び2の混合工程を行い、次いで加硫工程を行うことで得ることができる。
【0058】
マスターバッチ1と2の混合工程では、混合時に別の配合材料を適宜配合してもよい。別の配合材料としては、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、ワックスを適宜配合することができる。また、マスターバッチ1〜2で配合されたシリカ、カーボンブラックなどのフィラーを更に添加してもよい。
【0059】
マスターバッチ1及び2の混合工程は特に限定されず、例えば、上記の成分を前述の混練り方法で混練りすることで実施できる。該混合工程の混練り条件は通常120〜180℃、2〜8分(より好ましくは140〜160℃、2〜8分)である。上記混練条件とすることにより、本発明の効果が良好に得られる。
【0060】
更に上記混合工程で得られた混練物、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤などを混練りし(仕上げ練り工程)、加硫することで本発明のゴム組成物が得られる。仕上げ練り工程、加硫工程は従来公知の方法にて実施できる。
【0061】
上述の方法にて得られた本発明のゴム組成物において、該ゴム組成物に含まれるゴム成分の総量100質量%中のNRの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。該含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。80質量%をこえると、ウェットグリップ性能の低下につながる傾向がある。
【0062】
本発明のゴム組成物は上記ジエン系合成ゴムを含み、前述のように該ジエン系合成ゴムとしてSBRが好適に使用される。ここで、上記ゴム組成物において、上記ゴム成分の総量100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。該含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0063】
また、上記ゴム組成物に含まれるゴム成分について、該ゴム成分の総量100質量%中のNR及びSBRの合計含有量は、本発明の効果が良好に得られるという点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
【0064】
上記ゴム組成物において、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、α−メチルスチレン系樹脂及びテルペンフェノール系樹脂の合計含有量は、ゴム成分の総量100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは5質量部以上である。1質量部未満では、ウェットグリップ性能を充分に改善できないおそれがある。該合計含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。20質量部をこえると、耐摩耗性能が著しく低下する傾向がある。
【0065】
上記ゴム組成物がシリカを含有する場合、シリカの含有量は、ゴム成分の総量100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは45質量部以上である。該含有量が10質量部未満では、シリカの配合による充分な効果が得られない傾向がある。また、該含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。該含有量が150質量部をこえると、シリカが分散しにくくなり、混練加工性が悪化する傾向がある。
【0066】
本発明では、シリカとともに、シランカップリング剤を使用することが好ましい。
シランカップリング剤としては特に限定されず、従来からタイヤ分野において汎用されているものを使用でき、例えば、スルフィド系、メルカプト系、ビニル系、アミノ系、グリシドキシ系、ニトロ系、クロロ系シランカップリング剤などが挙げられる。なかでも、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィド系を好適に使用できる。なお、シランカップリング剤の含有量は、ゴム組成物中のシリカの総量100質量部に対して4〜20質量部が好ましい。
【0067】
上記ゴム組成物がカーボンブラックを含有する場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分の総量100質量部に対して、好ましくは5〜20質量部である。該含有量を上記範囲内とすることにより、良好なウェットグリップ性能が得られる。
【0068】
本発明の空気入りタイヤは、未加硫のトレッド用ゴム組成物を用いて通常の方法で製造できる。すなわち、未加硫のゴム組成物を用いてトレッドを作製し、他の部材とともに貼り合わせ、タイヤ成型機上にて加熱加圧することにより製造できる。
【実施例】
【0069】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0070】
以下、実施例及び比較例で用いた各種薬品について説明する。
NR:RSS#3
SBR:日本ゼオン(株)製のニッポールNS116(溶液重合SBR、結合スチレン量:21質量%、Tg:−25℃)
テルペン系樹脂:アリゾナケミカル社製のTR5147(軟化点:120℃、Tg:80℃、Mw:620〜700)(リモネン、α−ピネン、β−ピネンまたはこれらの組合せの重合で得られる単位を含む樹脂)
ロジン系樹脂:荒川化学工業(株)製のKE364C(液状、Tg:−13℃、Mw:450〜650、ロジンエステル)
α−メチルスチレン系樹脂:アリゾナケミカル社製のSA85(軟化点:85℃、Tg:43℃、Mw:1000、α−メチルスチレンとスチレンとの共重合体)
テルペンフェノール系樹脂:アリゾナケミカル社製のTP115(軟化点:115℃、Tg:55℃、Mw:700〜900)(各種テルペン化合物と各種フェノール系化合物の重合で得られる単位を含む樹脂)
シリカ:エボニックデグサ杜製のウルトラシルVN3(平均一次粒子径:15nm、NSA:175m/g)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックI(N220、NSA:114m/g)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi75(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤(2):大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N’−ジフェニルグアニジン)
【0071】
実施例及び比較例
(マスターバッチの製造)
下記配合に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて150℃の条件下で3分間混練りし、混練り物(マスターバッチ(MB))を得た。
MB(1):NR50質量部、テルペン系樹脂5質量部
MB(2):NR50質量部、ロジン系樹脂5質量部
MB(3):SBR50質量部、α−メチルスチレン系樹脂5質量部
MB(4):SBR50質量部、テルペンフェノール系樹脂5質量部
MB(5):NR50質量部、テルペン系樹脂5質量部、シリカ20質量部
MB(6):NR50質量部、ロジン系樹脂5質量部、シリカ20質量部
MB(7):SBR50質量部、α−メチルスチレン系樹脂5質量部、シリカ20質量部
MB(8):SBR50質量部、テルペンフェノール系樹脂5質量部、シリカ20質量部
【0072】
表1に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、2軸オープンロールを用いて、80℃の条件下で3分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。更に、得られた未加硫ゴム組成物をキャップトレッドの形状に成形し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、150℃で30分間加硫することにより、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15)を製造した。
【0073】
得られた試験用タイヤを用いて、以下の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0074】
(ウェットグリップ性能指数)
上記試験用タイヤを装着した車両を用いて、湿潤アスファルト路面にて初速度100km/hからの制動距離を測定した。比較例1のウェットグリップ性能指数を100として、下記計算式により指数表示した。値が大きいほど、ウェットグリップ性能に優れることを示す。
(ウェットグリップ性能指数)=(比較例1の制動距離)/(各配合の制動距離)×100
【0075】
【表1】

【0076】
表1より、ゴム成分とレジンのマスターバッチを用いた実施例5〜8では、マスターバッチ化によりウェットグリップ性能の改善効果が得られ、更にシリカを混合したマスターバッチを用いた実施例1〜4では顕著な改善効果が発揮された。ゴム成分、レジン、フィラーを同時に混合した比較例2〜5ではレジンを配合していない比較例1に比べると改善効果は見られるが、不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムを含むゴム成分Aと、テルペン系樹脂及び/又はロジン系樹脂とを含有するマスターバッチ1、並びに、
ジエン系合成ゴムを含むゴム成分Bと、α−メチルスチレン系樹脂及び/又はテルペンフェノール系樹脂とを含有するマスターバッチ2
を混合して得られるトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ジエン系合成ゴムがスチレンブタジエンゴムである請求項1記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記マスターバッチ1に含まれるテルペン系樹脂及びロジン系樹脂の合計含有量が前記ゴム成分A100質量部に対して1〜20質量部であり、
前記マスターバッチ2に含まれるα−メチルスチレン系樹脂及びテルペンフェノール系樹脂の合計含有量が前記ゴム成分B100質量部に対して1〜20質量部である請求項1又は2記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
前記マスターバッチ1及び2がフィラーを含む請求項1〜3のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
前記テルペン系樹脂がα−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、β−ピネン/リモネン樹脂及び水素添加テルペン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
前記α−メチルスチレン系樹脂がα−メチルスチレンの単独重合体及び/又はα−メチルスチレンとスチレンとの共重合体である請求項1〜5のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−52028(P2012−52028A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195956(P2010−195956)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】