説明

トレパニング工具

【課題】切り屑の巻き付きや詰まりを生ずることなく、切り屑を外部に効果的に排出する。
【解決手段】トレパニング工具の筒部の先端部に取り付けたブレード112には、切れ刃112c,すくい面112a及び逃げ面112bのみならず、チップブレーカ面112dが形成されている。チップブレーカ面112dは、すくい面112aに滑らかに連続しつつ凹面に湾曲した湾曲面をなしており、すくい面112aに沿い流れてきた切り屑gを、ブレード112の進行方向αの前方に押し出す。押し出された切り屑gは、被切削面W2等に衝突して分断され、巻き付きや詰まりを生ずることなく、外部に効果的に排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトレパニング工具に関するものであり、切削中に発生する切り屑を小さく分断することができるように工夫したものである。
【背景技術】
【0002】
穴あけ加工では、通常、ドリルなどの穿孔工具による加工が行われている。このようなドリルなどの穿孔工具により、厚肉部品に対して大径穴の穴あけ加工をする場合には、切り屑として除去する体積が大きくなるため、その穿孔に時間がかかる。
そのため、厚肉部品に対して大径穴の穴あけをする場合には、トレパニング工具を用いて、内部にコア(芯材)を残しつつくり抜くようにして、穴あけを行ったほうが、加工能率は高くなる。
【0003】
ここで従来のトレパニング工具の一般的な例を、その一部を断面にして示す図7、図7のVIII矢視図である図8、ワークに対して加工をしている状態を示す図9を参照して説明する。
【0004】
図7〜図9に示すように、トレパニング工具10では、円筒状の筒部11の先端部(図7では左側の端部)に、複数個のブレード12が取り付けられている。
このとき、図8(a)に示すように、各ブレード12が、筒部11の先端部において、周方向に沿い均等間隔に配置されていることもあるが、図8(b)に示すように、各ブレード12が、筒部11の先端部において、周方向に沿い不均等間隔に配置されていることもある。
【0005】
トレパニング工具10により穴あけ加工をするときには、トレパニング工具10を、その軸心Sを回転中心としてα方向に沿い回転させる。
このように回転しているトレパニング工具10の先端側(つまりブレード12)を、鋼材などのワークWに宛てがいつつ、トレパニング工具10を、その軸心Sに沿いβ方向に押し付けていくと、穴あけ加工を行うことができる(図9参照)。
【0006】
つまり、周方向に沿い回転している複数のブレード12によりワークWを切削し、しかも、回転している複数のブレード12がβ方向に徐々に進行していくため、複数のブレード12は螺旋状の経路に沿い切削しつつ進んでいく。この結果、筒部11の外周面11aの外側(外周側)にはリング状の円周溝Gが形成され、筒部11の内周面11bの内側(内周側)にはコア(芯材)W1が残る。
【0007】
このようにして穴あけ加工をしていくに伴い、連続して繋がった長い切り屑が発生する。この切り屑は、円周溝Gを通って外部に排出される。
【0008】
ワークWに対する穴あけ加工が進み、円周溝GがワークWの一端側(図9では右端側)から他端側(図9では左端側)にまで貫通したら、トレパニング工具10をワークWから引き抜く。そして、円柱状になったコア(芯材)W1も取り除く。
かかる作業により、ワークWに、直径がDとなっている大径穴を形成することができる。
【0009】
ここでブレード12の先端部に形成された刃部Cの構成を、図10を参照して説明する。図10は、図7及び図8のX矢視拡大図であり、ちょうど、トレパニング工具10の外側(外周側)からトレパニング工具10(筒部11の外周面11a)を見た状態の図である。
【0010】
図10に示すように、ブレード12の先端部には、すくい面12aと、逃げ面12bと、すくい面12aと逃げ面12bが交わってできる切れ刃12cによって、刃部Cが形成されている。
すくい面12aは、平らな平面となっており、刃部Cの切れ刃12cがワークWを切削することにより発生した切り屑gは、すくい面12aに沿って流れる。つまり、切り屑gは、切れ刃12がある部分を上流側として、切れ刃12から離れた部分(図10では上側)を下流側として、上流側から下流側に向かって(図10では上方に向かって)すくい面12aに沿って流れることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実開平3−87517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、トレパニング工具を用いて大径穴を形成する加工では、連続して繋がった長い切り屑gが発生しやすくなる。そして、発生した長いカールした切り屑gが、トレパニング工具10の筒部11の外周面11aに連続的に巻き付いたり、円周溝Gの中で詰まったりする、という問題があった。
【0013】
本発明は、上記従来技術に鑑み、発生した切り屑を短く分断することができ、これにより切り屑を外部に効果的に排出することができる、トレパニング工具を提供することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明の構成は、
円筒状の筒部と、前記筒部の先端部に取り付けられたブレードとを備えたトレパニング工具において、
前記ブレードの先端部には、
切れ刃,すくい面及び逃げ面のみならず、
切り屑の流れ方向に関して、前記すくい面の下流側で前記すくい面に対して滑らかに連続しつつ、凹面に湾曲した湾曲面をなしており、最上流位置が最下流位置に対して前記ブレードの進行方向に関して前方に位置している、チップブレーカ面を備えていることを特徴とする。
【0015】
また本発明の構成は、
円筒状の筒部と、前記筒部の先端部に取り付けられたブレードとを備えたトレパニング工具において、
前記ブレードの先端部には、切れ刃,すくい面及び逃げ面が形成されると共に、チップブレーカ面を備えたチップブレーカ部品が取り付けられており、
前記チップブレーカ面は、切り屑の流れ方向に関して、前記すくい面の下流側で前記すくい面に対して滑らかに連続しつつ、凹面に湾曲した湾曲面をなしており、最上流位置が最下流位置に対して前記ブレードの進行方向に関して前方に位置していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、すくい面に連続するチップブレーカ面を備えているため、切れ刃で切削されて発生した切り屑は、すくい面に沿い流れてからチップブレーカ面に沿い流れて、チップブレーカ面の最上流部からブレードの進行方向の前方に押し出される。このように切り屑が前方に押し出されるため、この切り屑は被切削面等に衝突して分断される。
切り屑が分断されるため、切り屑の巻き付きや詰まりを生ずることなく、切り屑を外部に効果的に排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1に係るトレパニング工具を、一部を断面にして示す構成図。
【図2】図1のII矢視図。
【図3】図1及び図2のIII拡大矢視図。
【図4】本発明の実施例に係るトレパニング工具により、穴あけ加工をしている状態を示す構成図。
【図5】本発明の実施例に係るトレパニング工具により、穴あけ加工をしている状態を示す構成図。
【図6】本発明の実施例2に係るトレパニング工具に備えたブレード部分を示す拡大図。
【図7】従来のトレパニング工具を示す断面図。
【図8】図7のVIII矢視図。
【図9】従来のトレパニング工具により、穴あけ加工をしている状態を示す構成図。
【図10】図7及び図8のX拡大矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
<構成の説明>
本発明の実施例にかかるトレパニング工具110の構成を、その一部を断面にして示す図1、図1のII矢視図である図2を参照して説明する。
【0020】
図1及び図2に示すように、本実施例に係るトレパニング工具110では、円筒状の筒部111の先端部(図1では左側の端部)に、複数個(本例では4個)のブレード112が取り付けられている。
このとき、図2(a)に示すように、各ブレード112が、筒部111の先端部において、周方向に沿い均等間隔に配置されていることもあるが、図2(b)に示すように、各ブレード112が、筒部111の先端部において、周方向に沿い不均等間隔に配置されていることもある。
【0021】
なお本実施例では、筒部111に複数個のブレード112を備えた複刃のトレパニング工具としているが、筒部111に1個のブレード112を備えた単刃のトレパニング工具であってもよい。
【0022】
筒部111の基端部(図1では右側の端部)には、筒部111の基端部側の端面を閉塞する状態で、閉塞板113が固定されている。さらに、閉塞板111には把持部114が取り付けられている。
【0023】
本実施例では、ブレード112の先端に形成した刃部Cの構造に、特別な技術的特徴がある。そこで、図1及び図2のIII矢視拡大図である図3を参照して、本実施例のブレード112の先端に形成した刃部Cについて説明する。
なお、図3はトレパニング工具110の外側(外周側)からトレパニング工具110(筒部111の外周面111a)を見た状態の図であり、しかも、筒部111の外周面111a及びワークWを平面的に展開した図である。
【0024】
図3に示すように、ブレード112の先端部には、平らな平面であるすくい面112aと、逃げ面112bと、すくい面112aと逃げ面112bが交わってできる切れ刃112cと、すくい面112aに対して滑らかに連続したチップブレーカ面112dによって、刃部Cが形成されている。
【0025】
チップブレーカ面112dは、すくい面112aに対して滑らかに連続する湾曲面であり、切り屑gの流れ方向に関して、すくい面112aの下流側に配置されている。
なお、「切り屑gの流れ方向」とは、切れ刃112がある部分側を上流側とすると共に切れ刃112から離れた部分側を下流側として、流れ方向を規定したものである。
【0026】
チップブレーカ面112dは、なだらかな凹面となっている湾曲面である。そして、チップブレーカ面112dの湾曲状態は、ブレード112の進行方向(回転方向)αに沿い見ると、チップブレーカ面112dの最下流位置(図3では下側位置、即ち、すくい面112aに接する位置)に対して、チップブレーカ面112dの最上流位置(図3では上側位置)が、進行方向(回転方向)αの前方に位置する状態となっている。
【0027】
チップブレーカ面112dの湾曲状態を機能的に説明すると、チップブレーカ面112dの湾曲状態は、すくい面112aに沿い上流側から下流側に向かいつつ、進行方向(回転方向)αとは逆方向(−α方向)に向かって流れてきた切り屑gを、その流れ方向を徐々に逆方向(−α方向)から進行方向(回転方向)αに変化させて、最後には刃部Cから見て進行方向(回転方向)αの前方に切り屑gを押し出すような形状になっている。
【0028】
<動作手順及び作用効果の説明>
次に、厚肉のワークWに穴あけ加工する動作手順を説明する。
先ず、トレパニング工具110の把持部114を工作機械(図示省略)の把持機構で把持し、図4に示すように、トレパニング工具110の先端側(つまりブレード112)を、鋼材などのワークWの表面に宛てがう。
【0029】
次に、トレパニング工具110を、その軸心Sを回転中心としてα方向に沿い回転させる。
このように回転しているトレパニング工具110の先端側(つまりブレード112)を、鋼材などのワークWに宛てがいつつ、トレパニング工具110を、その軸心Sに沿いβ方向に押し付けていくと、穴あけ加工を行うことができる。
【0030】
つまり、周方向に沿い回転している複数のブレード112によりワークWを切削し、しかも、回転している複数のブレード112がβ方向に徐々に進行していくため、複数のブレード112は螺旋状の経路に沿い切削しつつ進んでいく。
【0031】
この結果、図5に示すように、筒部111の外周面111aの外側(外周側)にはリング状の円周溝Gが形成され、筒部111の内周面111bの内側(内周側)にはコア(芯材)W1が残る。
【0032】
このような穴あけ加工を行っているときには、図3に示すように、切れ刃112cがワークWを切削することにより発生した切り屑gは、すくい面112aに沿い、上流側から下流側に向かいつつ進行方向(回転方向)αとは逆方向(−α方向)に向かって流れる。更に、この切り屑gは、チップブレーカ面112dに沿い、上流側から下流側に向かいつつ流れ方向が逆方向(−α方向)から進行方向(回転方向)αに変化し、最後には刃部Cから見て進行方向(回転方向)αの前方に押し出される。
【0033】
チップブレーカ面112dの最上流部から進行方向(回転方向)αの前方に押し出された切り屑gは、刃部Cから見て進行方向(回転方向)αの前方の位置において、ワークWの被切削面W2等に衝突する。
このようにして、切り屑gが被切削面W2等に衝突することにより、連続していた切り屑gは分断される。
【0034】
分断されて、短くなった切り屑gは、円周溝G(図5参照)を通って外部に排出される。このとき切り屑gは、分断されて短くなっているため、円周溝Gを通ってスムーズに外部に排出される。
つまり切り屑gが、トレパニング工具110の筒部111の外周面111aに連続的に巻き付いたり、円周溝Gの中で詰まったりすることなく、切り屑gをスムーズに外部に排出することができる。
【0035】
ワークWに対する穴あけ加工が進み、円周溝GがワークWの一端側(図5では右端側)から他端側(図5では左端側)にまで貫通したら、トレパニング工具110をワークWから引き抜く。そして、円柱状になったコア(芯材)W1も取り除く。
かかる作業により、ワークWに、直径がDとなっている大径穴を形成することができる。
【実施例2】
【0036】
次に本発明の実施例2に係るトレパニング工具のブレードについて、図6を参照して説明する。
【0037】
実施例2では、チップブレーカ面を有していないブレード112に、チップブレーカ面200aを備えたチップブレーカ部品200を取り付けている。チップブレーカ部品200をブレード112に取り付ける手法としては、ボルト固定やクランプ固定など周知の機械的締結手段を採用することができる。
【0038】
チップブレーカ部品200のチップブレーカ面200aは、実施例1のチップブレーカ面112dの面形状及び面配置と同一の面形状及び面配置となっており、チップブレーカ面112dの機能と同一の機能を果たす。
【0039】
即ち、チップブレーカ面200aは、なだらかな凹面となっている湾曲面である。そして、チップブレーカ面200aの湾曲状態は、ブレード112の進行方向(回転方向)αに沿い見ると、チップブレーカ面200aの最下流位置(図6では下側位置、即ち、すくい面112aに接する位置)に対して、チップブレーカ面200aの最上流位置(図6では上側位置)が、進行方向(回転方向)αの前方に位置する状態となっている。
【0040】
チップブレーカ面200aの湾曲状態を機能的に説明すると、チップブレーカ面200aの湾曲状態は、すくい面112aに沿い上流側から下流側に向かいつつ、進行方向(回転方向)αとは逆方向(−α方向)に向かって流れてきた切り屑gを、その流れ方向を徐々に逆方向(−α方向)から進行方向(回転方向)αに変化させて、最後には刃部Cから見て進行方向(回転方向)αの前方に押し出すような形状になっている。
【0041】
チップブレーカ面200aが上記の面形状及び面配置となっているため、切り屑gは、進行方向(回転方向)αの前方に押し出されてワークWの被切削面W2等に衝突し、短く分断される。
分断されて、短くなった切り屑gは、円周溝G(図5参照)を通ってスムーズに外部に排出される。
【符号の説明】
【0042】
110 トレパニング工具
111 筒部
112 ブレード
112a すくい面
112b 逃げ面
112c 切れ刃
112d チップブレーカ面
113 閉塞板
114 把持部
200 チップブレーカ部品
200a チップブレーカ面
C 刃部
g 切り屑
G 円周溝
W ワーク
W1 コア(芯材)
W2 被切削面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の筒部と、前記筒部の先端部に取り付けられたブレードとを備えたトレパニング工具において、
前記ブレードの先端部には、
切れ刃,すくい面及び逃げ面のみならず、
切り屑の流れ方向に関して、前記すくい面の下流側で前記すくい面に対して滑らかに連続しつつ、凹面に湾曲した湾曲面をなしており、最上流位置が最下流位置に対して前記ブレードの進行方向に関して前方に位置している、チップブレーカ面を備えていることを特徴とするトレパニング工具。
【請求項2】
円筒状の筒部と、前記筒部の先端部に取り付けられたブレードとを備えたトレパニング工具において、
前記ブレードの先端部には、切れ刃,すくい面及び逃げ面が形成されると共に、チップブレーカ面を備えたチップブレーカ部品が取り付けられており、
前記チップブレーカ面は、切り屑の流れ方向に関して、前記すくい面の下流側で前記すくい面に対して滑らかに連続しつつ、凹面に湾曲した湾曲面をなしており、最上流位置が最下流位置に対して前記ブレードの進行方向に関して前方に位置していることを特徴とするトレパニング工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−107149(P2013−107149A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252274(P2011−252274)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】