説明

トレーディング支援システム、トレーディング支援方法およびプログラム

【課題】2つの株式銘柄の売買価格を定量的かつ客観的に分析し、将来の2つの銘柄の売買価格の関係を精度よく予測する。
【解決手段】 市場において売買される売買対象の銘柄から第1銘柄と第2銘柄の選択を受ける手段と、所定の解析期間内の複数時点における第1銘柄の売買価格と第2銘柄の売買価格を所定の売買記録データベースから参照する手段と、複数時点における第1銘柄の売買価格に対する第2銘柄の売買価格の比率である価格比の変化を示す価格比曲線を算出する手段と、複数時点を示す時点情報とその時点での価格比とを有する実績データとの乖離が所定の評価式により略最小となる回帰直線を算出する回帰直線算出手段と、価格比曲線を周波数成分に変換し、所定数の周波数成分の組み合わせによる近似曲線を算出する近似曲線算出手段と、回帰直線と近似曲線との合成により現在時点から所定時間経過した後の価格比の予測情報を出力する手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、市場取引を支援するトレーディング支援技術に関する。
【背景技術】
【0002】
株式取引のように比較的短期間で売買を繰り返して売買価格の差額から利益を得る取引においては、適切な売りまたは買いの判断が要求される。そのような売買の意思決定を支援する技術として、例えば、特許文献1記載のものが知られている。この方法では、経済時系列データの未来のトレンドを予測し、予測結果と実現値の乖離を算出し、乖離の激しい変化が検出されると、通報手段がその旨を使用者に通知する。
【0003】
また、そのような売りまたは買いの判断のため、ペアトレーディングという手法が知られている。ペアトレーディングでは、類似した属性を有する2つの株式の銘柄を選択する。そして、一方の銘柄の売買価格の変化に対する他方の銘柄の売買価格の変化の乖離から2つの銘柄の売買のタイミングが判断される。
【0004】
例えば、類似した企業規模で類似した産業分野に所属する2つの株式会社の株式価格を監視する。そして、一方の株式価格が値上がりし、他方の株式価格の値上がりが十分でない場合、他方の銘柄の株式は、買いどきであると判断される。例えば、通常2つの銘柄の価格差が100円であるのに、現在価格差が150円の場合、将来、価格差は100円に戻ると予測される。したがって、現時点で高い方の銘柄の株式を売り、安い方の銘柄の株式を買っておき、その後、価格差が通常の100円に戻った時点で、高い方の銘柄の株式を買い、安い方の株式を売ればよい。このような手法により、適切な2つの銘柄を選択できた場合に利益を得る確率を高くできる。
【0005】
しかし、従来のペアトレーディングは、2つの銘柄の売買価格の関係(差分、比率等)から売り時、買い時を判断するものの、定量的で客観的な相対株価の予測アルゴリズムは提案されてこなかった。したがって、将来の2つの銘柄の売買価格の関係を精度よく予測することはできなかった。
【特許文献1】特開平7−296057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、2つの株式銘柄の売買価格を定量的かつ客観的に分析し、将来の2つの銘柄の売買価格の関係を精度よく予測する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。すなわち、本発明は、市場において売買される売買対象の銘柄から第1銘柄と第2銘柄の選択を受ける手段と、所定の解析期間内の複数時点における上記第1銘柄の売買価格と第2銘柄の売買価格を所定の売買記録データベースから参照する手段と、上記複数時点を示す時点情報とその時点での上記第1銘柄の売買価格に対する第2銘柄の売買価格の比率である、そのような価格比とを有する実績データとの乖離が所定の評価式により略最小となる回帰直線を算出する回帰直線算出手段と、上記解析期間における前記価格比の変化を示す価格比曲線を算出する手段と、上記価格比曲線を周波数成分に変換し、所定数の周波数成分の組み合わせによる近似曲線を算出する近似曲線算出手段と、上記回帰直線と上記近似曲線との合成により現在時点から所定時間経過した後の上記価格比の予測情報を出力する手段とを備えるトレーディング支援システムである。
【0008】
本発明によれば、第1銘柄の売買価格に対する第2銘柄の売買価格の比率の変化を示す価格比曲線を算出するとともに、上記複数時点を示す時点情報とその時点での上記価格比とを有する実績データの回帰直線を算出する回帰直線算出する。そして、上記価格比曲線を周波数成分に変換し、所定数の周波数成分の組み合わせによる近似曲線を算出し、上記回帰直線と上記近似曲線との合成により現在時点から所定時間経過した後の上記価格比の予測情報を出力する。したがって、回帰直線による長期的な変化の動向と、周波数成分を組み合わせた近似曲線による短期的な変化の動向とを組み合わせて第1銘柄と第2銘柄の価格比の予測を支援できる。
【0009】
上記回帰直線算出手段は、上記解析期間内の複数の時点を期間の開始時点して現在時点に至る複数の回帰直線算出期間を設定する手段と、上記前記回帰直線算出期間の各々において前記実績データに対する回帰直線を算出するとともにその回帰直線の前記実績データに対する乖離の程度を示す評価式を算出する手段と、上記回帰直線算出期間ごとに算出された回帰直線のうち、乖離が最小の回帰直線を上記解析期間の回帰直線として選択する手段とを有するものでもよい。
【0010】
本発明によれば、複数の回帰直線算出期間を設定し、各回帰直線算出期間で回帰直線を求める。そして、回帰直線算出期間ごとに求めた回帰直線に対して乖離を算出し、その乖離が最小の回帰直線を上記解析期間の回帰直線として選択する。したがって、人手によらず、コンピュータの処理により実績データに対して乖離最小と評価される回帰直線を求めることができる。
【0011】
上記回帰直線と上記実績データとの乖離は、実績データと回帰直線の値との誤差の自乗平均値を実績データの分散で規格化した値にしたがって算出されるようにしてもよい。このような実績データと回帰直線との乖離度の算出により、実績データのばらつきの影響を除外して実績データと回帰直線との乖離を評価できる。
【0012】
また、本発明は、上記いずれか処理をコンピュータが実行する方法であってもよい。また、本発明は、以上のいずれかの機能をコンピュータに実現させるプログラムであってもよい。また、本発明は、そのようなプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記録媒体でもよい。
【0013】
ここで、コンピュータが読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータから読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体のうちコンピュータから取り外し可能なものとしては、例えば、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、CD-R(Compact Disk Recordable) 、CD-RW(Compact Disk ReWritable)、DVD(Digital Versatile Disk)、DAT(Digital Audio Tape)、8mmテープ、
メモリカード等がある。
【0014】
また、コンピュータに固定された記録媒体としてハードディスクやROM(Read Only
Memory)等がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、2つの株式銘柄の売買価格を定量的かつ客観的に分析し、将来の2つの銘柄の売買価格の関係を精度よく予測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という)に
係るトレーディング支援システムについて説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本発明は実施形態の構成に限定されない。
【0017】
<システムの概要>
本実施形態では、2つの株式銘柄の相対株価比の変化を解析し、将来の相対株価比を定量的に予測することにより株式取引を支援するトレーディング支援システムを説明する。
【0018】
本トレーディング支援システムは、コンピュータにコンピュータプログラムを実行させることにより実現される。このようなシステムは、パーソナルコンピュータとパーソナルコンピュータ上のアプリケーションプログラムにより実現してもよい。また、このシステムをサーバ上のプログラムとして実現し、ウェブブラウザを有する端末(クライアント)にサービスを提供するようにしてもよい。
【0019】
図1に、本トレーディング支援システムを実現するコンピュータの構成を例示する。このコンピュータは、CPU1、メモリ2、操作部3、表示部4、データベース部5、作業用ファイル部6および通信インターフェース7を有している。
【0020】
CPU1は、メモリ2にローディングされたアプリケーションプログラムを実行し、トレーディング支援システムとしての機能を提供する。メモリ2は、例えば、RAM(Random Access Memory)であり、そのようなアプリケーションプログラムおよびCPU1により処理されるデータを記憶する。
【0021】
操作部3は、キーボードのような文字入力装置、または、マウス等のポインティングデバイスである。CPU1は、ユーザによる操作部3への入力を検知し、ユーザによる各種の設定操作、選択操作等を受け付ける。
【0022】
表示部4は、液晶ディスプレイ、CRT(Cathode Ray Tube)、プリンタ等であり、CPU1による処理結果、または、アプリケーションプログラムの画面等を表示する。
データベース部5および作業用ファイル部6は、例えば、ハードディスク装置により構成される。データベース部5は、株式の取引価格を記録する売買記録データベースを含む。作業用ファイル部6は、作業用領域と機能し、CPU1の処理に伴って発生する各種データを記録する。例えば、作業用ファイル部6は、いわゆるペアトレーディングで使用される2つの株式銘柄の相対株価比データ、その相対株価比データをフーリエ級数に展開したデータ、その相対株価比データに対する回帰直線データ等を記録する。
【0023】
通信インターフェース7は、ネットワーク上のコンピュータと通信するときに使用される。通信インターフェース7は、例えば、LANボード、モデム等である。なお、図1に示したコンピュータは、サーバとして機能してもよいし、クライアントであってもよい。このコンピュータがクライアントして機能する場合、データベース部5の取引価格データベースのデータは、ネットワーク(例えば、インターネット上)のサーバから受け取るようにしてもよい。
【0024】
本トレーディング支援システムを実現するアプリケーションプログラムは、主として以下の機能ブロックを有する。
(1)相対株価比算出部
相対株価比算出部は、2つの株式銘柄の取引価格を過去の所定期間に渡って参照し、その相対株価比の変化を示す散布データ(所定時間間隔の相対株価比のデータ列)を算出する。本実施形態においては、相対株価比は、以下の数式で算出する。
【0025】
相対株価比=Log2((PA/σA)÷(PB/σB));
ここで、PAおよびPBは、2つの銘柄AおよびBの株価である。また、σAおよびσBは、銘柄AおよびBの各々の株価の所定期間中のばらつきを示す標準偏差である。このように、各々の株価を標準偏差で規格化することによって株価の変動の大きい銘柄と株価の変動の小さい銘柄を等価的に評価して相対株価比を求めることができる。
【0026】
なお、株式の取引価格は、例えば、インターネット上で公開されたウェブサイトから日々の終値等を収集し、データベース部5に銘柄ごとに記録しておけばよい。そして、2つの銘柄が指定されたときにその銘柄情報から所定期間(例えば、120日間)のその銘柄の売買価格を参照するようにすればよい。また、株式の取引価格については、その取引価格データが必要になったときに、コンピュータのデータベース部5の記録を参照する代わりに、株式の取引価格データを提供するインターネット上のサイトまたは事業者サーバ等にアクセスして提供を受けるようにしてもよい。
(2)回帰直線算出部
回帰直線算出部は、その相対株価比のデータ列に最もよく当てはまる回帰直線を算出する。ここで、相対株価比のデータ列に最もよく当てはまる回帰直線は、以下の数1から数3によりr2が最大になるように回帰直線の係数および切片が決定される。
【0027】
【数1】

【0028】
ここで、yiは、相対株価比のデータ列(実績値)であり、a+bxiは、回帰直線による値(すなわち予測値)である。また、数1は、相対株価比のデータ列(実績値)と回帰直線による値(予測値)との差の自乗平均値を示している。
【0029】
【数2】

【0030】
ここで、Sy2は、yi(実績値)の分散である。したがって、数2は、実績値の分散か
ら、数1による実績値と予測値との差の自乗平均値を減算した値を示す。
【0031】
【数3】

【0032】
以上の定義から数3は、相対株価比の実績値の分散から、数1の自乗平均値を減算し、相対株価比の実績値の分散で除算した値となる。この数3で示される値のことを回帰直線
の当てはまり度と呼び、回帰直線が相対株価比の実績値に一致する程度を示す。
【0033】
また、数3は最右辺の式に示したように、相対株価比の実績値と予測値との差の自乗平均値を実績値の分散で除算した値を1から減算した形式となる。相対株価比の実績値と予測値との差の自乗平均値を実績値の分散で除算した値は、回帰直線が実績値から乖離する程度(乖離度)をしている(実績データと回帰直線の値との誤差の自乗平均値を実績データの分散で規格化した値に相当)。したがって、数3の当てはまり度は、1−乖離度に一致する。
【0034】
以上の評価式により、回帰直線算出部は、当てはまり度最大(乖離度最小)となる回帰直線を実績値(yi、i=1,N(Nはデータ数))に対して求める。なお、このとき、当てはまり度最大となる回帰直線に代えて最小自乗法のような方法で回帰直線を求めてもよい。この場合には、回帰直線と実績値の誤差の自乗が、乖離の程度を示す評価式として評価に使用される。誤差の自乗が最小となるように直線の係数が選択される。
【0035】
また、本実施形態では、相対株価比の実績値は、日次データ(例えば、株価の終値)であり、データ数Nは、日数を示している。例えば、yi、i=1,Nは、本日から本日よりN−1前までの期間での相対株価比の実績値に相当する。
【0036】
しかし、日次データに代えて、さらに細かなデータ、例えば、時間ごとの株価に本発明を適用してもよい。また、日次データよりさらに粗いデータ、例えば、週ごとの株価の終値に本発明を適用してもよい。
【0037】
さらに、回帰直線算出部は、データ数N−k(k=1,K)を変更して上記同様の手順で回帰直線を算出する。具体的には、回帰直線算出部は、本日から、本日よりN−1日前までの期間(N日間)での相対株価比の実績値から回帰直線を算出する。さらに、回帰直線算出部は、本日から、本日よりN−2日前までの期間(N−1日間)での相対株価比の実績値から回帰直線を算出する。このような手順を繰り返して、回帰直線算出部は、本日から、本日よりN−K−1日前までの期間(N−K日間)での相対株価比の実績値から回帰直線を算出する。
【0038】
そのようにして求めた、K個の回帰直線のうち、上記数3により算出される当てはまり度最大(乖離度最小)のものを相対株価比の実績値yi(i=1,N)に対する回帰直線として決定する。
【0039】
図2に、このようにして算出したK個の回帰直線の例を示す。この例では、本日を含むN日分(本日からN−1日前までのデータ)〜本日を含むN−K日分(本日からN−K−1前までのデータ)の実績値について、合計K個の回帰直線が示されている。
(3)フーリエ解析部
フーリエ解析部は、横軸を時間軸として相対株価比の実績値yi(i=1,N)を折れ線グラフで結んだ曲線をフーリエ級数に展開し、元データ(折れ線グラフ)との乖離が最大振幅の10%となるまでの有限個の波動(周波数成分)の和で表現する。フーリエ解析の手順については、広く知られているのでその説明を省略する。なお、コンピュータ上のフーリエ変換の手法としては、例えば、FFT(Fast Fourier Transform)が知られている。
【0040】
図3に相対株価比の実績値の折れ線グラフをフーリエ解析した例を示す。この例では、太い実線で示される実績値の折れ線グラフが、第1周期、第2周期、第3周期等の周波数の波動に展開されている。また、図3では、フーリエ級数に展開された波動の他、回帰直線(図3に「トレンド」と示される)が描画されている。
(4)予測部
予測部は、回帰直線およびフーリエ級数による波動を組み合わせて相対株価比の本日以降の変化を予測する。すなわち、予測部は、回帰直線算出部で算出された回帰直線によりいわゆるトレンドを表示する。一方、フーリエ解析部で算出されたフーリエ級数値(有限個の周波数成分の和で算出された相対株価比)により、短期的な相対株価比の動向を表示する。
【0041】
図4に、予測部による出力結果の例を示す。図4において、横軸が解析対象の期間(日数)であり、縦軸が相対株価比である。図4において期間としては、2001年3月1日から2001年6月28日までの120日間が例示されている。また、矩形のシンボルで示される曲線100が相対株価比の実績値の折れ線グラフである。また、三角形のシンボルによる曲線101が、フーリエ解析部で算出されたフーリエ級数値である。また、図4の実線102が回帰直線である。
【0042】
図5は、このような解析結果をより単純化したモデルで例示した図である。図5では、B社の株価に対するA社の相対株価比を予測する例を示している。図5でも、横軸が日数であり、縦軸が相対株価比(単位はパーセント)である。図5の例では、29日目までの株価の実績値に基づき、回帰直線110およびフーリエ級数による波動が示されている。そして、現在時点を示す第29日目より後の区間の曲線111の破線部分が相対株価比の予測値となっている(この破線部分が予測情報に相当する)。
【0043】
<処理フロー>
図6に、本トレーディング支援システム(以下、単にシステムという)の処理フローを示す。この処理では、本システムは、取引対象の銘柄、例えば、東京証券取引所の上場銘柄から2つの銘柄をペアとして、ユーザから設定を受ける(S1)。すなわち、ユーザは、操作部3を操作して銘柄のペアを選択または入力する。CPU1は、その操作部3への操作を検出し、2つの銘柄の選択を受け付ける。
【0044】
一般的には、ペアの選択は、所定の市場での取引銘柄を分類する業種分類において、同一業種(例えば、電機、機械、建設等)とされる銘柄の中から以下の条件(A)−(D)の条件を満たすものが選択される。
(A)株式の時価総額が500億円以上である。この条件を採用する理由は、時価総額が所定以上あれば、株式の流動性が確保されるからである。
(B)相対株価比の所定期間(例えば、過去18ヶ月)の推移を求め、所定移動期間により算出される移動平均からの乖離がプラスおよびマイナス方向に2σ(σは標準偏差)の範囲に90%のデータが収まり、プラスおよびマイナス方向に3σの範囲に全データが収まる。すなわち、この条件により、相対株価比の実績値がその移動平均値から大きく乖離することがない2つの銘柄が選択されることになる。
(C)2つの銘柄について過去1年半の日次株価の終値の相関係数が0.3以上である。(D)所定の回帰性判定期間において、相対株価比に回帰性がある。回帰性があるか否かは、次式により示される。すなわち、過去1年半の相対株価比の実績値の移動平均値Xtの遷移を示す次式
Xt=α+β・Xt-1+ε;
において、β<1を満たすことを条件とする。ここで、Xt-1は、現在時点から移動平均期間を1つ分遡った時点の相対株価比の移動平均値を示し、Xtは、現在の移動平均値を示す。ここで、βは、概略的にXt-1とXtとの比率を示しており、β<1となる場合には、2つの株価の相対株価比が減少することを示し、2つの銘柄の相対株価比に回帰性があることを示す。一方、β=1の場合には、時点t−1と時点tの間で、2つの株価の相対株価比が維持されることを示す。したがって、β=1またはβ>1の場合には、2つの銘柄の相対株価比に回帰性がないことになる。したがって、Xt−1とXtとの関係を示
す実験式(経験式)を求め、βが1未満か否かにより相対株価比の再帰性を判定できる。なお、αは、切片項であり、εは、誤差項である。
【0045】
本実施形態では、(A)−(D)を満たす銘柄を事前にオペレータがコンピュータに入力する。ただし、上記条件を満たす銘柄をコンピュータプログラムの処理により選択するようにしてもよい。
【0046】
すると、本システムは、そのペアの銘柄について所定の期間(例えば、120日間)について、売買価格の日次データ(例えば、株価の日々の終値)を所定の売買記録データベースから参照する。この120日で例示される所定の期間が所定の解析期間に相当し、その期間中の各日が所定の解析期間中の複数時点に相当する。そして、その期間の売買価格の日次データに対する相対株価比を求める。この処理によって算出される年月日データと相対株価比データとの組み合わせた点を結ぶ折れ線が価格比曲線に相当する。そして、上記期間中の相対株価比に対する回帰直線を算出する(S2)。S2の処理を実行するCPU1が回帰直線算出手段に相当する。
【0047】
次に、本システムは、その期間の相対株価比を結ぶ折れ線グラフを波動と見なしてフーリエ級数に展開し、元の折れ線グラフとの差違が所定範囲(例えば、誤差10%以内の範囲)となる有限の級数を求める(S3)。これをフーリエ級数による波動部分と呼ぶ。この有限のフーリエ級数による波動部分が近似曲線に相当し、S3の処理を実行するCPU1が近似曲線算出手段に相当する。
【0048】
次に、本システムは、上記回帰直線とフーリエ級数による波動部分を現在時点から所定期間だけ延長することで、現在時点以降の相対株価比の変化を予測する(S4)。そして、本システムは、例えば、上記回帰直線およびフーリエ級数による波動部分を将来の予測部分を含めて表示する(図4、図5参照)。ユーザは、本システムによる相対株価比の予測部分の表示から、売買執行のタイミングを判定し、売買を執行する(S5)。
【0049】
これにより、本システムは、ユーザに、回帰直線によるいわゆるトレンドの方向性と、フーリエ級数を用いた波動により短期的な変化の方向性を明示することができる。ユーザは、2つの銘柄の相対株価比のトレンドおよびフーリエ級数による波動部分の変化の方向により、2つの銘柄のいずれを売るべきか、買うべきかを判断し、売買を執行するタイミングを判定できる。
【0050】
例えば、図4の例では、予測部分として示された部分で、回帰直線は上昇傾向にあるので、トレンドとしては、相対株価比は上昇するが、フーリエ級数による波動部分は減少するため、短期的には下降することが分かる。
【0051】
図7に、回帰直線算出処理(図6のS2)の詳細を示す。この処理では、システムは、まず、2つの銘柄について過去N日分(例えば、120日分)の株価データを所定の売買記録データベースから読み出す(S20)。システムは、次に、2つの銘柄について過去N日分(例えば、120日分)の相対株価比データを算出する(S21)。
【0052】
システムは、次に、回帰直線算出期間Lを上記N日間に設定する(S22)。そして、現在日から過去L日間の相対株価比データに対して回帰直線を算出する(S23)。回帰直線の算出手順そのものは広く知られているので、その説明を省略する。次に、算出した回帰直線と上記過去L日分の相対株価比データから当てはまり度(または乖離度)を算出する(数3参照)。そして、その当てはまり度または乖離度とともに算出した回帰直線のデータをメモリ2に記憶する(S24)。S24の処理を実行するCPU1が評価式を算出する手段に相当する。
【0053】
次に、システムは、回帰直線算出期間Lを1日短縮する(S25)。このS25の処理を実行するCPU1が回帰直線算出期間を設定する手段に相当する。そして、システムは、処理を終了するか否かを判定する(S26)。これは、例えば、回帰直線算出期間が所定値より短くなれば(例えば、60日以下になれば)、処理終了とすればよい。処理を終了しない場合、システムは、制御をS23に戻す。一方、処理を終了する場合、システムは、当てはまり度の最も大きい回帰直線(または乖離度の最も小さい回帰直線)を選択する(S27)。その後、システムは、回帰直線算出処理を終了する。
【0054】
以上述べたように、本システムによれば、2つの銘柄をペアとしてペアトレーディングする場合において、2つの銘柄の相対株価比データから回帰直線とフーリエ級数部分を算出して、現在時点以降の相対株価比の動きを予測し、表示することができる。
【0055】
また、回帰直線の算出にあたっては、回帰直線算出期間Lを所定の範囲で変化させ、各算出期間において各々回帰直線を算出するとともに、各期間における当てはまり度(または乖離度)を算出する。そして、本システムは、当てはまり度の最も大きい(または乖離度の最も小さい)回帰直線を全体の解析期間の回帰直線として選択する。したがって、本システムによれば、人の判断によることなく、株価の取引データから機械的に相対株価比に対する当てはまり度の最も大きい(乖離度の最も小さい)回帰直線を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態に係るトレーディング支援システムを実現するコンピュータの構成図である。
【図2】本トレーディング支援システムにおいて回帰直線を選択する処理例を示す図である。
【図3】時系列相対株価のフーリエ級数による波動分解処理結果を例示する図である。
【図4】フーリエ級数による近似曲線算出結果を例示する図である。
【図5】回帰直線とフーリエ級数による近似曲線とにより2つの銘柄の相対株価比を予測する曲線の例を示す図である。
【図6】本トレーディング支援システムの処理を示すフローチャートである。
【図7】回帰直線算出処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
1 CPU
2 メモリ
3 操作部
4 表示部
5 データベース部
6 作業用ファイル部
7 通信インターフェース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
市場において売買される売買対象の銘柄から第1銘柄と第2銘柄の選択を受ける手段と、
所定の解析期間内の複数時点における前記第1銘柄の売買価格と第2銘柄の売買価格を所定の売買記録データベースから参照する手段と、
前記複数時点を示す時点情報とその時点での前記第1銘柄の売買価格に対する第2銘柄の売買価格の比率である、そのような価格比とを有する実績データとの乖離が所定の評価式により略最小となる回帰直線を算出する回帰直線算出手段と、
前記解析期間における前記価格比の変化を示す価格比曲線を算出する手段と、
前記価格比曲線を周波数成分に変換し、所定数の周波数成分の組み合わせによる近似曲線を算出する近似曲線算出手段と、
前記回帰直線と前記近似曲線との合成により現在時点から所定時間経過した後の前記価格比の予測情報を出力する手段とを備えるトレーディング支援システム。
【請求項2】
前記回帰直線算出手段は、
前記解析期間内の複数の時点を期間の開始時点して現在時点に至る複数の回帰直線算出期間を設定する手段と、
前記回帰直線算出期間の各々において前記実績データに対する回帰直線を算出するとともにその回帰直線の前記実績データに対する乖離の程度を示す評価式を算出する手段と、
前記回帰直線算出期間ごとに算出された回帰直線のうち、乖離が最小の回帰直線を前記解析期間の回帰直線として選択する手段とを有する請求項1に記載のトレーディング支援システム。
【請求項3】
前記回帰直線と前記実績データとの乖離は、実績データと回帰直線の値との誤差の自乗平均値を実績データの分散で規格化した値にしたがって算出される請求項2に記載のトレーディング支援システム。
【請求項4】
コンピュータが、市場において売買される売買対象の銘柄から第1銘柄と第2銘柄の選択を受けるステップと、
所定の解析期間内の複数時点における前記第1銘柄の売買価格と第2銘柄の売買価格を所定の売買記録データベースから参照するステップと、
前記複数時点を示す時点情報とその時点での前記第1銘柄の売買価格に対する第2銘柄の売買価格の比率である、そのような価格比とを有する実績データとの乖離が所定の評価式により略最小となる回帰直線を算出する回帰直線算出ステップと、
前記解析期間における前記価格比の変化を示す価格比曲線を算出するステップと、
前記価格比曲線を周波数成分に変換し、所定数の周波数成分の組み合わせによる近似曲線を算出する近似曲線算出ステップと、
前記回帰直線と前記近似曲線との合成により現在時点から所定時間経過した後の前記価格比の予測情報を出力するステップとを実行するトレーディング支援方法。
【請求項5】
前記回帰直線算出ステップは、
前記解析期間内の複数の時点を期間の開始時点して現在時点に至る複数の回帰直線算出期間を設定するステップと、
前記回帰直線算出期間の各々において前記実績データに対する回帰直線を算出するとともにその回帰直線の前記実績データに対する乖離の程度を示す評価式を算出するステップと、
前記回帰直線算出期間ごとに算出された回帰直線のうち、乖離が最小の回帰直線を前記解析期間の回帰直線として選択するステップとを有する請求項4に記載のトレーディング支援方法。
【請求項6】
前記回帰直線と前記実績データとの乖離は、実績データと回帰直線の値との誤差の自乗平均値を実績データの分散で規格化した値にしたがって算出される請求項5に記載のトレーディング支援方法。
【請求項7】
コンピュータに、市場において売買される売買対象の銘柄から第1銘柄と第2銘柄の選択を受けるステップと、
所定の解析期間内の複数時点における前記第1銘柄の売買価格と第2銘柄の売買価格を所定の売買記録データベースから参照するステップと、
前記複数時点を示す時点情報とその時点での前記第1銘柄の売買価格に対する第2銘柄の売買価格の比率である、そのような価格比とを有する実績データとの乖離が所定の評価式により略最小となる回帰直線を算出する回帰直線算出ステップと、
前記解析期間における前記価格比の変化を示す価格比曲線を算出するステップと、
前記価格比曲線を周波数成分に変換し、所定数の周波数成分の組み合わせによる近似曲線を算出する近似曲線算出ステップと、
前記回帰直線と前記近似曲線との合成により現在時点から所定時間経過した後の前記価格比の予測情報を出力するステップとを実行させ、トレーディングを支援するコンピュータ実行可能なプログラム。
【請求項8】
前記回帰直線算出ステップは、
前記解析期間内の複数の時点を期間の開始時点して現在時点に至る複数の回帰直線算出期間を設定するステップと、
前記回帰直線算出期間の各々において前記実績データに対する回帰直線を算出するとともにその回帰直線の前記実績データに対する乖離の程度を示す評価式を算出するステップと、
前記回帰直線算出期間ごとに算出された回帰直線のうち、乖離が最小の回帰直線を前記解析期間の回帰直線として選択するステップとを有する請求項7に記載のトレーディングを支援するコンピュータ実行可能なプログラム。
【請求項9】
前記回帰直線と前記実績データとの乖離は、実績データと回帰直線の値との誤差の自乗平均値を実績データの分散で規格化した値にしたがって算出される請求項8に記載のトレーディングを支援するコンピュータ実行可能なプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−39952(P2006−39952A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218967(P2004−218967)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(399100673)株式会社大和証券グループ本社 (139)