説明

トンネル内の湧水排水構造

【課題】湧水量が大きい区域にトンネルを構築する場合でも、掘削面積を最小限に抑えながら、大量の湧水をトンネル外に確実に排水できるようにしたトンネル内の湧水排水構造を提供する。
【解決手段】トンネル10内での湧水を排水するための湧水排出構造であって、トンネル10内の道路20下に埋設された薄板状の湧水案内部材30と、湧水案内部材30内を案内されてくる湧水をトンネル外に排水ための排水管とを備える。そこにおいて、薄板状の湧水案内部材30は周囲面から内部に湧水が浸透可能でありかつ内部には浸透した湧水の流路が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル内の湧水排水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルを地中に構築した場合、周囲からの湧水がトンネル内に浸入するのは避けられない。また、トンネル内でも湧水が発生する。湧水がトンネル内に滞留して道路面が冠水状態となると、車両の通交が危険になるばかりでなく、路面を舗装しているアスファルトの劣化が促進されるので、トンネルには、湧水をトンネル外に排水するための湧水排水構造が付設されるのが普通である。
【0003】
一般的なトンネル内の湧水排水構造は、トンネル内道路下に、土中の水が浸入可能な浸透性パイプ(メッシュ管や有孔管)を排水管として路線方向に沿って埋設する構造であり、排水管に浸透してきた湧水を排水管を通してトンネル外に排水することで、湧水がトンネル内に滞留するのを防止している。他のトンネル内の湧水排水構造として、透水性パイプからなる暗渠排水管をトンネル側壁を貫通して周囲の土中に浸入させ、該暗渠排水管に浸透してきた湧水をトンネル内道路下に配設した多孔性の中央排水管に案内して、中央排水管に直接浸透する湧水と一緒に、トンネル外に排水するようにしたものも採用されている。
【0004】
また、特許文献1には、湧水量が多く、道路中央部の排水管だけでは十分な排水ができない場合の対策として、トンネル内の管理用通路の下にも導水路を設け、該導水路に道路面からの排水用の導水孔とトンネル側壁からの湧水用の導水孔とを形成する技術が記載されている。
【0005】
また、特許文献2は、湧水ではなく、雨水のための一時的な貯水槽や貯留槽を構成するための部材として、組み立てると内部に貯留用の連続した空隙を確保できる樹脂製部材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−327600号公報
【特許文献2】特開2009−24447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のトンネル内の湧水排水構造において、大量の湧水を排出するためには、特許文献1に記載のようにメッシュ管や有孔管である排水管の本数を増設するか、増設しない場合には、大口径の排水管を用いる必要がある。しかし、複数本の排水管を埋設するのは、トンネルの施工工程を複雑にする恐れがある。また、1本の排水管で対処しようとすると、径の大きな排水管が必要となるが、現状ではメッシュ管や有孔管は径の大きさに限りがあり、的確に対処できないケースが起こり得る。さらに、仮に大径の排水管を設置すると、施工時での掘削面積が増加し、工費が大きくなるのを避けられない。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、湧水量が大きい区域にトンネルを構築する場合でも、掘削面積を最小限に抑えながら、大量の湧水をトンネル外に確実に排水できるようにしたトンネル内の湧水排水構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるトンネル内の湧水排水構造は、トンネル内の道路下に埋設された薄板状の湧水案内部材と、前記湧水案内部材内を案内されてくる湧水をトンネル外に排水ための排水管とを備えており、前記薄板状の湧水案内部材は周面から内部に湧水が浸透可能でありかつ内部には浸透した湧水の流路が形成されていることを特徴とする。
【0010】
上記のトンネル内の湧水排水構造では、道路下に薄板状の湧水案内部材を埋設し、該湧水案内部材の周囲面から内部に湧水を浸透させるようにしている。湧水案内部材を薄板状とすることで、同じ断面積の部材を円筒管で作る場合と比較して、上下方向の厚みを薄くすることができる。すなわち、平面積が広くかつ厚さの薄い湧水案内部材を用いることで、施工時での掘削面積を最小限に抑えることができ、施工コストが低減する。
【0011】
また、薄板状の湧水案内部材は広い表面積を有しており、その周囲面から内部に浸透する湧水量も大きくすることができるので、湧水量の大きな場所にトンネルを構築する場合でも、湧水に対して適切な対処が可能である。湧水案内部材内に浸透した湧水は、湧水案内部材内の流路を通りさらに排水管を通って速やかにトンネル外に排出されるので、トンネル内に湧水が滞留することはない。
【0012】
本発明によるトンネル内の湧水排水構造の一態様において、前記排水管は前記薄板状の湧水案内部材の路線方向の端部において該薄板状の湧水案内部材に接続している。また、他の態様では、前記排水管はトンネル内の道路下に所要長さにわたって配置されており、該排水管に沿うようにして前記薄板状の湧水案内部材が配置されている。施工現場の環境に応じて、いずれかの態様を選択すればよい。いずれの場合も、排水管は浸透管であることが望ましい。
【0013】
本発明によるトンネル内の湧水排水構造において、前記薄板状の湧水案内部材は、適宜の材料を用いて形成することができるが、好ましい形態は、組み立てると内部に湧水の流路としての連続した空隙を確保できる樹脂製部材を上下方向に積み上げて構成され、かつ全体が透水性シートにより被覆されている形態である。前記の樹脂製部材には、適宜の構成のものを用いることができるが、一例として、前記した特許文献2に記載される形状のものが挙げられる。
【0014】
一般に、前記した特許文献2に記載されるような樹脂製部材はコンクリート製品と比較して軽量であり、大きさも適宜の大きさのものを容易に作ることができる。それを適数だけ組み合わせて薄板状の湧水案内部材とする作業も、メッシュ管や有孔管を敷設する作業と比較して容易であり、狭いトンネル内での施工性が向上する。軽量であることから人力施工も可能となる。また、前記した特許文献2に記載される樹脂製部材は、輸送時には、コンパクトに重ねることができ、輸送効率も高くなる利点がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、湧水量が大きい区域にトンネルを構築する場合でも、掘削面積を最小限に抑えながら、大量の湧水をトンネル外に確実に排水できるようにしたトンネル内の湧水排水構造が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明によるトンネル内の湧水排水構造の一形態を断面で示す概略図。
【図2】図1に示すトンネル内の湧水排水構造の要部を示す平面図。
【図3】本発明によるトンネル内の湧水排水構造の他の形態を断面で示す概略図。
【図4】図3に示すトンネル内の湧水排水構造の要部を示す平面図。
【図5】図3に示すトンネル内の湧水排水構造の要部を示す断面図。
【図6】湧水排水構造における湧水案内部材で用いる樹脂製部材の一例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施の形態に基づき説明する。
図1および図2に示す形態において、10はコンクリート造のトンネルであり、20はアスファト舗装などが施されている道路である。道路20の両側には、管理道路21や排水溝22などが付設されている。これらの構成は、従来のトンネル構造と同じであってよい。本発明によるトンネル内の湧水排水構造では、道路20の下に、薄板状の湧水案内部材30が設置されており、その点で従来の構造と相違している。
【0018】
薄板状の湧水案内部材30は、周囲面から内部に湧水が浸透可能でありかつ内部には浸透した湧水の流路が形成されている構成を備えるものであり、トンネル10内の道路20の全長にわたって、その下に設置されてもよく、他と比較して湧水量の大きい場所での道路下にのみ設置してもよい。図2では、トンネル10内の道路下の一部にのみ薄板状の湧水案内部材30を設置した状態を平面視で示しており、設置した薄板状の湧水案内部材30の路線方向の両端部には、内部の湧水流路に連通するようにして、適宜の排水管23,23が接続している。
【0019】
薄板状の湧水案内部材30は適宜の樹脂製部材を用いて作ることができる。図6は、好適な樹脂製部材の一例を示しており、前記した特許文献2に記載されるものである。この樹脂製部材31は全体として平面視で正方形状であり、下端が開放された箱状部の複数個がX方向に配列した箱列32が、X方向に直交するY方向に間隔を空けながら必要列数だけ配列した構成を基本的に持つ。図6に示すように、必要な場合には異なった大きさの複数個の樹脂製部材31を箱列32の方向が同じ方向となるように寄せ集めて樹脂製部材31とすることもできる。この樹脂製部材31の多数枚を、前記箱列32の方向が互いに直角に交差させながら2段あるいは3段程度に上下方向に積み上げることで、内部に連続した湧水案内流路33を備えた湧水案内部材30が形成される。敷設する平面方向の広がり枚数と、段積み数を適宜設定することにより、大きな平面積を持ちながら高さの低い(例えば、30cm程度)形状の湧水案内部材30、すなわち薄板状の湧水案内部材30が得られる。
【0020】
好ましくは、湧水案内部材30の全体を、不織布やジオテキスタイル、樹脂製ネットのような透水性材料(図5の35参照)で被覆する。それにより、樹脂製部材31の積み上げ姿勢が安定化するとともに、湧水の内部への流入は許容しながら湧水案内流路33内へ周囲の土壌が入り込むのを阻止することができる。
【0021】
上記のトンネル内の湧水排水構造では、図6に示すような樹脂製部材31を用いて湧水案内部材30を構築することから、その施工はきわめて容易である。また、湧水案内部材30は薄板状であることから、掘削面積を最小限に抑えてトンネルの施工することができる。さらに、湧水案内部材30は広い表面積を有することから、大量の湧水を湧水案内部材30内の湧水案内流路33および排水管23を通してトンネル外に排水することができる。
【0022】
図3〜図5に示すトンネル内の湧水排水構造では、排水管23がトンネル内の道路20の中央下に所要長さにわたって配置されており、その排水管23に沿うようにして、その左右に前記した薄板状の湧水案内部材30、30が配置されている点で、図1および図2に示したトンネル内の湧水排水構造と相違している。
【0023】
左右の薄板状の湧水案内部材30、30は、排水管23へ湧水が流入しやすいように、排水管23側が下方となるように傾斜して設置されている。また、薄板状の湧水案内部材30は、図4に示すように、路線方向の複数の箇所において導水管24を介して前記した排水管23と接続しており、薄板状の湧水案内部材30から排水管23への湧水の流入を確実にしている。
【0024】
また、この例では、薄板状の湧水案内部材30の上に、コンクリート床版34を配置することで、道路面からの上載荷重によって樹脂製である薄板状の湧水案内部材30が変形あるいは破損するのを防止している。なお、図5において、35は薄板状の湧水案内部材30を覆う透水性シートである。
【0025】
本発明において、上記した排水管23は、ポリエチレン管のような非浸透性の管でもよく、排水管23の周囲の湧水が入り込むことのできる多数の孔を備えた有孔管あるいは浸透管であってもよい。さらに、図示しないが、トンネル外の湧水を引き込む透水性パイプからなる暗渠排水管をさらに設置して、その暗渠排水管内の湧水をも前記した薄板状の湧水案内部材30内に導水するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0026】
10…トンネル、
20…道路、
30…薄板状の湧水案内部材、
23…排水管、
31…薄板状の湧水案内部材を構成する樹脂製部材、
33…薄板状の湧水案内部材内の湧水案内流路、
34…コンクリート床版、
35…透水性シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内での湧水を排水するための湧水排出構造であって、トンネル内の道路下に埋設された薄板状の湧水案内部材と、前記湧水案内部材内を案内されてくる湧水をトンネル外に排水ための排水管とを備えており、前記薄板状の湧水案内部材は周囲面から内部に湧水が浸透可能でありかつ内部には浸透した湧水の流路が形成されていることを特徴とするトンネル内の湧水排水構造。
【請求項2】
前記排水管は前記薄板状の湧水案内部材の路線方向の端部において該薄板状の湧水案内部材に接続していることを特徴とする請求項1に記載のトンネル内の湧水排水構造。
【請求項3】
前記排水管はトンネル内の道路下に所要長さにわたって配置されており、該排水管に沿うようにして前記薄板状の湧水案内部材が配置されていることを特徴とする請求項1に記載のトンネル内の湧水排水構造。
【請求項4】
前記薄板状の湧水案内部材は、組み立てると内部に湧水の流路としての空隙を確保できる樹脂製部材の2枚以上を上下方向に積み上げて構成され、かつ全体が透水性シートにより被覆されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のトンネル内の湧水排水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−31593(P2012−31593A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170212(P2010−170212)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)