説明

トンネル変状計測装置及びトンネル変状計測方法

【課題】変形前の断面形状を示すデータがなくとも、断面の形状にかかわらず変状を計測することのできるトンネル変状計測装置を得る。
【解決手段】軸設定部3は、記憶装置1に格納されている点群データ6からトンネルの軸10を抽出する。断面設定部4は、軸10に直交する面に対して軸10に平行に射影した点群の射影パターンによりトンネルの断面を求める。基準面設定装置2は、断面を軸10の方向に掃引した面を基準面14として設定する。変状算出装置5は、点群データ6における任意の点と基準面14との差をその点の変状として算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ計測などによって得たトンネル覆工面の3次元の点群データから、トンネルの各地点の変状の度合いを表す量を計測するトンネル変状計測装置及びトンネル変状計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネルの維持管理においては、コンクリートの落下や崩落事故を未然に防ぐため、その覆工面における浮き、剥がれや荷重による凹凸変形などの変状を計測することが重要である。しかしながら、供用から長く時間が経過して設計断面を示す資料が散逸しているものも多く、また、設計資料があったとしても、厳密にその寸法どおりに施工されているとは限らない。さらに、過去にレーザ等による詳細な計測が行われているトンネルは稀である。従って、レーザ測量等によって形状を計測しただけでは、変状が大きいのか、あるいは、もともとそのように施工されているのかを判断することは難しい。このため、何らかの方法で施工時の初期の形状、つまり、変状を生じる前の形状を推定した上で変状量を計測することになる。
【0003】
このような従来のトンネル変状計測装置として、レーザ計測を用いて変状の調査を行う方法があった(例えば、特許文献1参照)。この文献に記載された方法では、断面が一定の曲率半径を有するように設計されたトンネルについて、レーザ計測を行うトンネル断面測定機をトンネル内部に設置し、トンネル内の複数地点で断面上に沿ってレーザ計測を行い、断面上に並んだレーザ照射点列の3次元座標値を求める。こうして得た点列の座標値から断面ごとに曲率半径を計算する。さらに、これらの曲率半径の値を平均した値を初期の曲率半径とし、各断面の曲率半径との差をその断面における変状とする。これは、トンネルでは、スライドセントルと呼ばれるかまぼこ型の型枠を順次軸(長尺)方向に移動させつつコンクリートが覆工されることから、初期の覆工面の形状は用いたセントルによって決まる同一の曲率半径をもつと考えられ、この初期の曲率半径の値を各断面の形状から計算した値の平均値として求めるものである。これにより、設計断面の情報や、過去の計測データがなくとも、変状を調査することを可能にしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−329551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような変状計測方法では、一定の曲率半径の断面をもつトンネルを対象とするのみであり、それ以外の断面形状のトンネルには適用できないという問題点があった。さらに、一つの断面上の点に対して一つの曲率半径を算出するため、曲率半径値が合致すれば変状はないとされることになり、例えば、その断面部分のみが平行移動しているような変状や、断面内にて凹凸が繰り返されて結果的に同一の曲率半径値になるといった変状を計測することができないという問題点があった。さらに、断面内のどこに大きな変状が出ているかを特定できないという問題点があった。
【0006】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、変形前の断面形状を示すデータがなくとも、断面の形状にかかわらず変状を計測できるとともに、平行移動しているような箇所を検知でき、さらに、各計測点各々の変状値を計測できるトンネル変状計測装置及びトンネル変状計測方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るトンネル変状計測装置は、トンネルを計測した3次元の座標値をもつ点群データからトンネルの軸を抽出する軸設定部と、トンネルの断面を設定する断面設定部とを有し、軸と断面とに基づいて構成される面を基準面として設定する基準面設定手段と、点群データにおける任意の点と基準面との差をその点の変状として算出する変状算出手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明のトンネル変状計測装置は、トンネルを計測した3次元の座標値をもつ点群データからトンネルの軸と断面を求め、これら軸と断面とに基づいて基準面を設定し、任意の点と基準面との差を変状として算出するようにしたので、変形前の断面形状を示すデータがなくとも、断面の形状にかかわらず変状を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1による変状計測装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1による変状計測装置の点群を示す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1による変状計測装置の点群データを示す説明図である。
【図4】本発明の実施の形態1による変状計測装置のセントルと断面との関係を示す説明図である。
【図5】本発明の実施の形態1による変状計測装置の射影パターンを示す説明図である。
【図6】本発明の実施の形態1による変状計測装置の軸上の点を示す説明図である。
【図7】本発明の実施の形態1による変状計測装置の軸データを示す説明図である。
【図8】本発明の実施の形態1による変状計測装置のuv平面で軸を示す説明図である。
【図9】本発明の実施の形態1による変状計測装置の平均断面を極座標で示す説明図である。
【図10】本発明の実施の形態1による変状計測装置の平均断面データを示す説明図である。
【図11】本発明の実施の形態1による変状計測装置の変状を示す説明図である。
【図12】本発明の実施の形態1による変状計測装置の動作を示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態2による変状計測装置を示すブロック図である。
【図14】本発明の実施の形態2による変状計測装置のトンネルとスパンとの関係を示す説明図である。
【図15】本発明の実施の形態2による変状計測装置のスパンデータを示す説明図である。
【図16】本発明の実施の形態2による変状計測装置の平均断面を求める動作を示す説明図である。
【図17】本発明の実施の形態2による変状計測装置の動作を示すフローチャートである。
【図18】本発明の実施の形態3による変状計測装置を示すブロック図である。
【図19】本発明の実施の形態3による変状計測装置の軸データを示す説明図である。
【図20】本発明の実施の形態3による変状計測装置の射影パターンを示す説明図である。
【図21】本発明の実施の形態3による変状計測装置の動作を示すフローチャートである。
【図22】本発明の実施の形態4による変状計測装置を示すブロック図である。
【図23】本発明の実施の形態4による変状計測装置の設置物の点群の判定を示す説明図である。
【図24】本発明の実施の形態4による変状計測装置の動作を示すフローチャートである。
【図25】本発明の実施の形態5による変状計測装置の軸の変更を示す説明図である。
【図26】本発明の実施の形態5による変状計測装置の動作を示すフローチャートである。
【図27】本発明の実施の形態6による変状計測装置を示すブロック図である。
【図28】本発明の実施の形態6による変状計測装置の変状を強調した座標値を示す説明図である。
【図29】本発明の実施の形態6による変状計測装置の動作を示すフローチャートである。
【図30】本発明の実施の形態7による変状計測装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1によるトンネル変状計測装置を示すブロック図である。
図示のトンネル変状計測装置は、記憶装置1、基準面設定装置2、変状算出装置5からなり、基準面設定装置2は、軸設定部3と断面設定部4とを有している。本実施の形態では、記憶手段である記憶装置1に記憶されたトンネルを計測した3次元の座標値からなる点群データに対して、基準面設定手段である基準面設定装置2はその軸設定部3にてトンネルの軸を求めて設定し、断面設定部4にてトンネルの平均的な断面形状である平均断面を求め、その平均断面を軸の方向に掃引した面をトンネルの基準面とする。そして、変状算出手段である変状算出装置5は、点群データの各点について基準面との距離を計算し、その値を変状の値として記憶装置1に格納する。
【0011】
図2と図3は点群データ6の内容を示す説明図である。各点7はトンネル8の覆工面9を計測したもので、(x,y,z)の3次元座標値を有している。点はK個あるとし、そのk番目の点Pの座標値を(x,y,z)で表す。x,y,zは平面直角座標系であってもよいし、適宜原点をとって、例えば東向きにx、北向きにyをとった座標系でもよい。単位は例えばmとする。以下、x,y,zは右手系としてz軸を鉛直上向きとして説明する。この点群データ6は、例えば、図3に示すような形式にて記憶装置1に格納されている。
図4から図11は、基準面の設定と変状の計測について説明する説明図である。
【0012】
点群データ6は、例えば、車両など移動体を走行させながら、周囲の対象空間の3次元形状を取得する三次元形状計測システムであるモービルマッピングシステムによって計測されたものである。モービルマッピングシステムでは、車両にGPS(Global Positioning System)とジャイロスコープ等の慣性航法装置や車速パルスから移動距離を算出するオドメトリ装置といった測位機器、それとレーザスキャナを搭載して、周囲の地物の座標値を点群データ6として取得する。GPSと慣性航法装置によって自車両の位置と姿勢を正確に計測し、これにレーザスキャナによって対象物までの変位を計測、加算することによって、レーザパルスが照射された地点の3次元座標を取得する。レーザスキャナは、距離計測方向であるレーザパルスの照射方向をその回転面内で回転させながら順次照射し、照射方向にある物体までの距離を計測していく。1周期の回転で1つの面上の点群が得られ、さらに車両を進行させることにより、対象空間にわたる点群データ6を取得していく。トンネル内ではGPS測位ができないものの、慣性航法とオドメトリを用いて測位を行い、トンネル前後のGPS計測値を参照することで、トンネル内でも正確な三次元座標値を与えている。
【0013】
モービルマッピングシステムでは、レーザスキャナのパルス照射間隔、スキャン周期が小さいため、密な点群データ6を得ることができる。現在のシステムにおける一例では、レーザスキャナの照射角度の間隔が1度である。車両に設置されたレーザスキャナからトンネルの覆工面9までが5mあったとすると、覆工面9上での計測点の間隔は約9cmになる。また、スキャン周期は1/75秒であり、車両が時速30kmで走行して計測を行ったとすると、車両の進行方向には約11cm間隔で点が並ぶことになる。速度を落とせばさらに密な点群を得ることもできる。このように、トンネル8内の全域あるいは特定の範囲にて、詳細にトンネルの覆工面9の点群を得ることができる。このようなモービルマッピングシステムについては、例えば「車で走行しながら三次元座標を記録」日経コンストラクション,2008/10/25号、17ページ、日経BP社、2008年発行に示されている。
【0014】
もちろん、点群データ6はモービルマッピングシステムには限らず、他の計測装置、例えば、据え置き型のレーザスキャナやトータルステーションなどの測量機器を用いて計測したものであってもよい。
【0015】
次に、点群データ6を用いた、変状を呈する前のトンネルの形状である基準面の設定について図4を用いて説明する。上述の通り、トンネルの覆工面9はセントル100を用いて軸方向に移動しながらコンクリートが覆工される。セントルによる型枠が十分に正確な柱状の面を持っていると仮定すれば、トンネルの覆工面9の形状はセントル100で決まる一定の断面100aを軸方向に移動させたものになる。この断面100aは、トンネルによって多彩であり、また、セントル100の製作時の状況によっては設計断面と完全に合致するものにはならないことも有り得る。一方、軸10の方向には同一の断面形状が続くとみなすことができる。よって、点群データ6を軸方向に射影して重ねることで、そのトンネル固有の断面形状を求めることができる。
【0016】
図5に示すように、変状がないならば、点群データ6を軸10に直交する射影面11に射影すると、その射影点12はトンネル断面を表す線パターン上にのる。この射影パターンによって断面形状を得ることができる。点群データ6に変状があったとしても、射影点12の平均位置をとることで変状の影響をなくすことができる。こうして射影パターンからトンネル本来の断面形状を表す平均断面13を求める。この平均断面13をトンネルの軸10の方向に掃引した面を基準面14とする。言い換えれば、基準面14は、平均断面13を底面とし、直交する軸10を持つ柱体の側面である。点7に変状がある場合には、その点7と基準面14との差が大きくなるので、その差の値によりトンネルの変状を表す。
【0017】
さて、この基準面14を設定するには、点群データ6から、先ずトンネルの軸10を求めなければならない。これには、例えば、藤田武洋、佐藤宏介、井口征士著「局所曲面形状解析に基づくビンピッキングのためのビジョンシステム」、電子情報通信学会論文誌D−II、Vol.J73−D−II、No.1、46−53ページ、1990年発行、に示された点群データ6を円柱15(図6参照)で近似する際に軸を求める手法を用いる。この文献では、点群ごとに法線ベクトルを算出し、それら全体に最も直交する方向として軸を求めている。この手法は円柱に限らず柱体であれば適用できる。この手法によって求めた軸10をトンネル8の内部を通過するように調整する。これには、例えば、上記文献に示された手法で点群データ6を円柱で近似し、その中心軸とする。あるいは、点群データ6の重心を通るようにするか、モービルマッピングシステムでの計測時に、その車両の走行軌跡が得られている場合は、車両通過時の1点を軸10が通るようにする。軸10の方向については、他の手法により、例えば、点群データ6の慣性主軸のうちトンネルの長手方向に近いもので定義する、あるいは、モービルマッピングシステムでの計測において、一回のスキャン内に左右の覆工面9の点が同等に含まれているならば、その中から水平方向に最も離れる2点を求め、その中点を最小二乗法で近似する直線の方向としてもよい。またあるいは、例えば緯度経度にて道路中心線の座標値が測量されている場合には、これを軸10として用いるように構成してもよい。モービルマッピングシステムでの計測時に、その車両の走行軌跡が得られている場合は、これを最小二乗近似して得られる直線としてもよい。
【0018】
以下、図12のフローチャートを用いて実施の形態1のトンネル変状計測装置の動作を説明する。
ステップST1では、基準面設定装置2が記憶装置1から点群データ6を読み出す。これは、点群データ6を構成する点群すべてでもよいし、範囲を区切って処理を行う場合には、一部分のみでもよい。
【0019】
ステップST2では、基準面設定装置2は軸設定部3にて点群データ6からトンネルの軸10を求める。これは、例えば、上記のような手法による。この軸10は、図6に示すような、例えば軸10上の2つの点16である点A(a,a,a)と点B(b,b,b)を用いて、軸10のデータ10aを図7のような形式で記憶装置1に格納する。点16は、点群について各点7の軸10へ下ろした垂線の足の両端となる点とする。
【0020】
ステップST3では、断面設定部4において、点群データ6の射影を行う。これは、図5に示すように、軸10に直交する射影面11に、軸10に平行に射影する。射影面11内に直交する2軸u,vをとる。ここでは、uを水平面内にとる。点群データ6の点7(P)の射影点12をQとしuv座標で(u,v)と表す。この(u,v)は以下のように得られる。軸10の方向ベクトルをwとし、その単位ベクトルをe、u,v軸方向の方向単位ベクトルをそれぞれe,e、ただし、eは上向きとすれば、


であるので、


であり、これが射影点12(Q)である。
【0021】
続いて、図8に示すように、uv平面にて軸10である原点からの角度θと距離rとの極座標で表す。


軸10は、平均断面13を近似する円の中心に設定されれば、以下の処理で都合がよい。そこで、極座標で表す前に、再度、射影点12を最小二乗近似する円の中心にuv座標系の原点を設定し直し、射影点12の座標値を変換し、また、軸10の両端の座標値も、それが同様の射影変換の際に原点に射影されるように座標値を変更してもよい。
【0022】
ステップST4では、射影点12から平均断面13を求める。平均断面13はθに対してそのrをθの関数とて表す。図9に示すように、θを例えばαからβまでd刻みでN点とり、これを順にΘ=1,・・・,Nとする。Θから±δの範囲17にある点群からそのr値の平均値を求め、これをRとする。すなわち、


である。ここで、αとβは、トンネルの覆工面9をカバーするような値に設定する。また、路面を含めて全周をカバーするようにα=−π/2、β=3π/2としてもよい。dは例えば1度とする。また、覆工面9上で例えば10cmになる値を設定してもよい。δは例えばd/2とする。dはまた、覆工面9上で例えば10cm間隔になるように、θによって変化させるようにしてもよい。この(Θ,R),i=1,・・・,Nで表される平均断面点18をSとし、点列S,i=1,・・・,Nで平均断面13を表す。この平均断面13のデータ13aを図10のような形式で記憶装置1に格納する。この平均断面13と軸10とにより基準面14が構成される。
【0023】
ステップST5では、変状算出装置5が記憶装置1から点群データ6を読み出す。これは、点群データ6を構成する点群すべてでもよいし、一部分のみでもよいし、1点ずつ処理する場合は1点のみでもよい。
以下では、各点7の変状を計算する。これは点7と基準面14との差であり、これは点7の射影点12と平均断面13との差で得られる。
【0024】
ステップST6では、上記ステップST3にて行ったのと同様に、点群の座標値を射影面11上の極座標(θ,r)に変換する。このとき、記憶装置1に格納されている軸データを用いる。あるいは、基準面設定手段2は上記ステップST3で得た(θ,r)座標を記憶装置1に格納するように構成し、本ステップはその変換した座標値を読み出すように構成してもよい。
【0025】
ステップST7では、点群の変状量を算出する。前のステップにて点群の座標値から(θ,r)に変換している。平均断面13はそのrをθの関数として求めているので、θの値によって決まる平均断面13のrとの比較によって、その点が基準面14上にあるか、あるいはその内側または外側に変位しているかを計測できる。これは、記憶装置1に格納されている平均断面データを用いて以下のように実行する。θに対する平均断面13のr値をR(θ)とすれば、R(θ)は平均断面データの値を補間して、


として平均断面13上、θ=θの点19(θ,R(θ))を得る。ここでは、一次補間にて説明したが、より高次の多項式補間など他の補間方式を用いてRを計算するようにしてもよい。
【0026】
図11に示すように、このR(θ)を用いて点Pにおける変状Dを、


のように求める。尚、ここでは覆工面外側への変状を正で表した。求めた変状値Dを記憶装置1に格納する。
【0027】
以上の動作により、点群データ6から各点7における覆工面9の変状を計測することができる。
【0028】
尚、上記実施の形態1では、平均断面13を定義する点列Siを(Θ,R)によって表したが、平均断面13が定義できるならば、他の座標系、形式であっても構わない。例えば、平均断面13を円や楕円で近似し、Θに対してその天端部から測った円または楕円の距離をΘに代えて用いるようにしてもよい。
また、平均断面13を定義する点列Siを極座標(Θ,R)によって表したが、射影面上のuv座標によって表してもよい。さらに、点Pにおける変状Dを、Qと点列Siを順次結んでできる連続線分との距離によって算出するようにしてもよい。
また、軸10の方向ベクトルw、またはその単位ベクトルeを軸のデータ10aとして格納するように構成してもよい。
また、スライドセントル100を用いて覆工されたトンネルを想定して説明したが、これに限るものではなく、他の工法によって施工されたトンネルに対しても同様に実行できる。
【0029】
このような構成によれば、点群データ6からトンネル8の軸10と平均断面13を求め、覆工面9の変状前の形状である基準面14を構成する。各点7と基準面14との差は、その点が変形前の面からどれだけ変位しているかを表すことになる。
このようにトンネル8の軸10と平均断面13とにより基準面14を設定することにより、断面の形状にかかわらず基準面14が構成できて変状を計測することが可能になる。また、大域的に平行移動する変状においても、移動した部分の点群は基準面14との差が出るので、変状を算出することが可能になる。さらに、点ごとに基準面14との差によって変状が計測できるため、各計測点各々の変状値を計測することが可能になる。
【0030】
以上説明したように、実施の形態1のトンネル変状計測装置によれば、トンネルを計測した3次元の座標値をもつ点群データからトンネルの軸を抽出する軸設定部と、トンネルの断面を設定する断面設定部とを有し、軸と断面とに基づいて構成される面を基準面として設定する基準面設定手段と、点群データにおける任意の点と基準面との差をその点の変状として算出する変状算出手段とを備えたので、変形前の断面形状を示すデータがなくとも、また、断面が円でなくともトンネルの変状を計測することができる。
【0031】
また、実施の形態1のトンネル変状計測装置によれば、基準面設定手段の軸設定部が設定する軸は、トンネルを近似する柱体の軸と同一の方向を有する線分または直線またはベクトルであるようにしたので、トンネルの変状を正しく計測することができる。
【0032】
また、実施の形態1のトンネル変状計測装置によれば、基準面設定手段の断面設定部が設定する断面は、軸に直交する面に対して、軸に平行に射影したそれぞれの点の射影パターンを近似する点列であるようにしたので、変形前の断面形状を示すデータがなくとも、また、断面が円形でなくとも、断面の形状を推定して変状を計測することができる。
【0033】
また、実施の形態1のトンネル変状計測装置によれば、基準面設定手段は断面設定部が設定する断面を軸設定部が設定する軸の方向に掃引した面を基準面として設定するようにしたので、変形前の断面形状を示すデータがなくとも、また、断面が円形でなくとも、変形前の形状を基準面として推定して変状を計測することができる。
【0034】
また、実施の形態1のトンネル変状計測方法によれば、3次元の座標値をもつ点群データからトンネルの変状を計測するトンネル変状計測方法において、基準面設定手段により行われ、点群データからトンネルの軸を抽出すると共にトンネルの断面を設定し、かつ、軸と断面とに基づいて構成される面を基準面として設定する基準面設定工程と、変状算出手段により行われ、点群データにおける任意の点と設定された基準面との差をその点の変状として算出する変状算出工程とを備えたので、変形前の断面形状を示すデータがなくとも、また、断面が円でなくともトンネルの変状を計測することのできるトンネル変状計測装置を実現することができる。
【0035】
実施の形態2.
図13は本発明の実施の形態2によるトンネル変状計測装置の構成を示すブロック図である。点群区分手段である点群区分装置20は、トンネル8がカーブしている場合や勾配が変化する場合に適切な平均断面13を設定するため、特にセントル100を用いて一度に覆工した範囲を示すスパンに点群を分割する。すなわち、点群区分装置20は、点群データ6におけるそれぞれの点を位置によって複数の集合に区分する。そして、本実施の形態では、スパンごとに軸10を設定することで、カーブや勾配が変化しているトンネル8においても、適切な平均断面13と基準面14が得られるようになる。基準面設定装置2および変状算出装置5の基本的な構成は実施の形態1と同様であるため、該当する部分に同一符号を付してその説明を省略する。
【0036】
図14と図15と図16はスパン単位での変状計測を説明する説明図である。
トンネル8の中にはカーブしているものもあり、勾配も一様とは限らない。このような場合、トンネル8の軸10を直線としたのでは射影面11で断面が重ならず正しい平均断面13を得ることはできなくなる。従って、基準面14との差で得られる変状も適切なものにはならない。
一方、カーブ箇所や勾配の変化箇所でも、セントル100を用いてコンクリートが覆工されることに変わりはない。このため、一度に覆工された範囲はセントル100で決まる断面をもっている。そこで、図14に示すように、トンネル8を覆工時の範囲であるスパン21に区分し、それぞれにて個別に基準面14を求める。
【0037】
本発明の実施の形態2によるトンネル変状計測装置の動作を図17のフローチャートによって説明する。図12に示す本発明の実施の形態1によるトンネル変状計測装置の動作を示すフローチャートと同一の動作を行う部分は同一の符号をつけている。
【0038】
ステップST21では、点群区分装置20は、記憶装置1から点群データ6と図15に示すようなスパンデータ21aを読み込む。スパンデータ21aはM個のスパン21の軸方向の長さL,j=1,2,・・・,Mを有しているもので、この長さLは、例えば、トンネル8の設計資料や調査資料から与えられる。あるいは、スパン21の境界では目地の凹凸が顕著になる場合もあり、点群データ6を3次元グラフィックス表示して計算機のマウスやキーボードなどの入力デバイスにより対話的に目地がくる位置を指定して長さLを入力して作成してもよい。
【0039】
ステップST22では、点群データ6から補助中心線22を求める。これは、点群データ6を区分するためにトンネル8のカーブや勾配変化に追随するように表した中心線である。例えば、点群データ6を多項式近似して求める。これは例えば、xy平面上で近似曲線を求め、さらに、曲線状の距離に対するz値(高さ)を多項式近似する。トンネル8の一定間隔ごとに近似するようにしてもよい。もちろん、他の方法にて補助中心線を算出してもよい。
【0040】
ステップST23では、スパン21ごとの区分点23を求める。これは補助中心線22上、スパンデータ21aで与えられる距離の点を順次求め、これを区分点23としたもので、スパンの境界に対応する点である。上記のように補助中心線22が与えられている場合、距離は点列の連続する2点間の距離を順次積算したものとなる。区分点23を順にT(txj,tyj,tzj),j=1,・・・,M+1とする。区分点23の数はM+1個となる。
【0041】
ステップST24では、点群データ6がどのスパン21に属するかを求め、その番号を与える。これは、例えば、j番目のスパン21を規定する2個の区分点23の座標値は(txj、tyj、tzj),(txj+1,tyj+1,tzj+1)であるので、この2点を結ぶ線分24のベクトルをc=(txj+1−txj,tyj+1−tyj,tzj+1−tzj)として、


の場合に、その点7はj番目のスパン21に属すとする。これは、点7からの線分24がのる直線へ下ろした垂線の足がこの線分24内に入る場合である。尚、j番目の区分点(txj,tyj,tzj)近傍の点7は、j−1番目のスパンとj番目のスパンのどちらにも属すか、あるいはどちらにも属さないといった状況になる。そこで、さらに、cとcj−1を用い、


の場合にj番目のスパンに属し、そうでないときにj−1番目のスパンに属すとする。これは、TからPに向かうベクトルとc、−cj−1とのなす角を比較し、小さくなる方のスパンに属すとするものである。Tを起点にするため、cj−1は符号を負にしている。k番目の点Pがj番目のスパンに属す場合、Pのデータにj番目のスパンを示すデータを付加して記憶装置1に記憶する。
【0042】
ステップST25では、スパン21のうち未処理の一つを対象として、基準面設定装置2は記憶装置1からそのスパンに属する点群データ6を読み込む。
【0043】
ステップST26では、スパン21ごとに、図16に示すように、上記実施の形態1でのステップST2の動作と同様に軸10を求める。尚、区分点23近傍の点群は、本来含まれるスパンとは異なるスパンに属すると判定される可能性がある。そこで、区分点23からの補助中心線22に沿った距離が、例えば10cm以下となる場合、その点は軸10の設定には用いないようにする。j番目のスパン21を規定するのはj番目とj+1番目の区分点23であり、両者を結ぶ線分に沿ったj番目とj+1番目の区分点23からの点7の距離をそれぞれλ,λj+1とすれば、


であり、この値の一方が10cm以下となる場合は軸10の設定には用いないようにする。
【0044】
ステップST27では、ステップST3にて変換した(θ,r)を用いて、上記実施の形態1のステップST4と同様に平均断面13を設定する。ただし、ここでも区分点23近傍の点群は平均断面13の設定に用いない。
【0045】
ステップST28では、現在の対象スパン21について、変状算出装置5は記憶装置1からそのスパン21に属する点群データ6とそのスパン21の基準面14のデータを読み込む。以下、ステップST6、ステップST7で変状を計測する。
【0046】
ステップST29では、すべてのスパン21について変状を算出する処理を終えたかどうかを判定し、そうであれば終了し、そうでなければステップST25に戻る。
【0047】
以上の動作により、カーブ部分や勾配が変化している部分でも、点群データ6から各点7におけるトンネル覆工面9の変状を計測することができる。
【0048】
尚、上記実施の形態2では、セントル100による覆工時のスパンごとに処理を実行したが、直線部分などは複数のスパン21を合わせて処理するようにしてもよい。また、覆工時のスパンに係わらず、例えば10mごと、というようにスパン21を分割構成してもよい。
また、スパンの長さからなるスパンデータを用いるように実行したが、測量等により区分点23の座標値が得られているならば、これを直接入力して実行するように構成してもよい。
【0049】
このような構成によれば、セントル100を用いて一度に覆工したスパン21の単位で基準面14を求め、点群データ6と基準面14との差によって点群データ6が変状前の面からどれだけ変位しているかを表すことになる。
このようにトンネル8のスパン21ごとに基準面14を設定することにより、カーブしている部分や勾配が変化している部分でも変状を計測することが可能になる。
【0050】
以上説明したように、実施の形態2のトンネル変状計測装置によれば、点群データにおけるそれぞれの点を位置によって複数の集合に区分する点群区分手段を備え、基準面設定手段は区分された点の集合ごとに基準面を設定するようにしたので、カーブや勾配が一定でないトンネルにおいても変状を計測することができる。
【0051】
また、実施の形態2のトンネル変状計測装置によれば、点群区分手段は、トンネル覆工時のセントル位置によって決まる位置でそれぞれの点を区分するようにしたので、カーブや勾配が一定でないトンネルにおいても正しく平均断面を設定することができる。
【0052】
実施の形態3.
図18は本発明の実施の形態3によるトンネル変状計測装置の構成を示すブロック図である。基準面設定装置2aの軸補正部25は、スパン21ごとに得られている軸10を連続に接続するように補正する。これ以外は、実施の形態2と同様であるため、対応する部分に同一符号を付してその説明を省略する。
【0053】
上記実施の形態2では、スパン21単位で基準面14の設定を行った。この場合、一つのスパン21内が全般的に変形しているような大きな変状があると、変状後の形状が基準面14となってしまい、変状を検知することができなくなる。そこで本実施の形態では、スパン21単位に軸10は設定するものの、平均断面13は全体の点群データ6を用いて設定することで、広範囲にわたる変状があったとしても基準面14がその影響を受けないようにする。
【0054】
軸10の設定と点群データ6の座標(θ,r)への変換はスパン21ごとに行い、座標値(θ,r)から平均断面13を求める処理はすべての点群を対象に実行すれば、カーブや勾配の変化を有するトンネルにおいても、変状を計測することができるようになる。
図19と図20は、スパン21ごとの軸10による基準面14の設定を説明する説明図である。
【0055】
本発明の実施の形態3によるトンネル変状計測装置の動作を図21のフローチャートによって説明する。図21において、図12および図17のフローチャートと同一の動作を行う部分は同一の符号をつけている。
【0056】
ステップST24までで、点群データ6をスパン21ごとに区分し、各スパン位置を示す補助中心線22が求まっている。ステップST25で基準面設定装置2aが記憶装置1から未処理のスパンに属する点群データ6を読み込む。
【0057】
ステップST31では、前のステップで一つのスパン21に属する点群データ6を記憶装置1から読み込んだ後、実施の形態2のステップST26と同様な動作で軸10を設定する。
【0058】
ステップST32では、すべてのスパン21について処理を終了したかどうかを判定し、そうであればステップST33に進み、そうでなければステップST25に戻る。
【0059】
ステップST33では、基準面設定装置2aの軸補正部25にて、軸10の端点16の補正を行う。これは、軸10がスパン21間で連続につながるようにするもので、j番目のスパン21の終点である端点16とj+1番目のスパン21の始点である端点16を、両者の中点の座標にて置き換える。この中点を以下でj+1番目の節点26とし、Uj+1で表す。節点26は、他の方法、例えば、j番目の区分中心線とj+1番目の区分中心線それぞれが乗る直線の最短距離を与える点の中点として与えてもよい。j番目の節点26をU(uxj,uyj,uzj)とする。
さらに、j番目の節点26について、例えば前後の一定個数の節点26を用いて多項式近似しその近似式上に乗るようにj番目の節点26を移動させてもよい。これは変状により軸10が理想的な位置からずれている場合に、その影響を軽減する効果がある。
節点26からなる軸10のデータ26aを図19に示すような形式にて記憶装置1に格納する。
【0060】
ステップST34では、基準面設定装置2aに、再度、記憶装置1からすべての点群データ6を読み込む。
【0061】
ステップST35では、実施の形態1のステップST3と同様の動作を、点7が属するスパン21の軸10と射影面11に対して行うものである。断面設定部4において点群データ6の座標変換を行う。これは、その点7(P)がj番目のスパンに属するとして、その軸10に直交する射影面11内にuv軸をとり、以下のように(u,v)、(θ,r)に変換する。ここでは、uを水平面内にとる。j番目のスパン21の軸10の方向ベクトルをwとしその単位ベクトルをewj、u,v軸方向の方向単位ベクトルをそれぞれeuj,evjとして変換を行う。


これはつまり、図14に示すようなカーブのあるトンネルを、図20に示すように、各スパン21の軸10が一つの直線上にのるように、スパンごとに属する点7を変換し、一つの射影面11へ射影することに相当する。
【0062】
ステップST27にて平均断面13を設定する。
ステップST36では、変状算出装置5が記憶装置1から点群データ6を読み出す。このとき、各点が属するスパン情報も併せて読み出す。
ステップST37での(θ,r)への変換では、上記ステップST35での変換のように、点Pが属するスパンをjとすれば、j番目のスパンの軸10を用いて変換を行うことが特徴となる。
続いて、ステップST7にて各点の変状Dを算出する。
【0063】
以上の動作により、カーブ部分や勾配が変化している部分があり、大域的な変状があるような場合でも、点群データ6から各点7におけるトンネルの覆工面9の変状を計測することができる。
【0064】
尚、上記実施の形態3では、セントル100による覆工時のスパン21ごとに処理を実行したが、上記実施の形態2と同様に、直線部分などは複数のスパン21を合わせて処理するようにしてもよい。また、覆工時のスパン21に係わらず、例えば10mごと、というように区分を分割構成してもよい。
また、スパンの長さからなるスパンデータを用いるように実行したが、測量等により区分点23の座標値が得られているならば、これを直接入力して実行するように構成してもよい。
【0065】
このような構成によれば、セントル100を用いて一度に覆工したスパンごとに軸10を求め、点群全体で平均断面13を求めて基準面14を構成することになる。
このようにトンネル8のスパン21ごとに軸10、トンネル8全体で平均断面13を設定することにより、カーブしている部分や勾配が変化している部分を有しさらに大きな変状が存在するような場合で変状を計測することが可能になる。
【0066】
以上説明したように、実施の形態3のトンネル変状計測装置によれば、点群データにおけるそれぞれの点を位置によって複数の集合に区分する点群区分手段を備え、基準面設定手段は軸を補正する軸補正部を備え、軸設定部は区分された点の集合ごとに軸を設定し、軸補正部は点の集合ごとに設定された軸が連続になるように補正し、断面設定部が設定した断面と連続な軸によって基準面を設定するようにしたので、カーブや勾配が一定でないトンネルにおいても、変状を計測することができる。
【0067】
実施の形態4.
図22は本発明の実施の形態4によるトンネル変状計測装置の構成を示すブロック図である。設置物判定手段である設置物判定装置27は、変状計測値によってその点がトンネル覆工面上の計測点か、あるいはトンネル内壁に設置された設置物上の点かを判定する。また、基準面設定装置2bは、設置物判定装置27によって設置物上の点と判定された点では無い点群を用いて基準面14を設定するよう構成されている。その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0068】
図23は設置物の点群の判定を示す説明図である。
トンネルの内壁には照明灯や換気装置など多くの設置物が存在している。これらの多くは覆工面9の面上から内側に出ており、これらを計測した点28も含めて平均断面13と基準面14を求めたのでは、基準面14が本来の覆工面9から外れてしまい、正しい変状が計測できないことになる。そこで、本実施の形態では、基準面14を用いてまず設置物点群の判定と除去を行い、改めて基準面14を設定し直すように動作させる。
【0069】
本発明の実施の形態4によるトンネル変状計測装置の動作を図24のフローチャートによって説明する。図12に示す本発明の実施の形態1によるトンネル変状計測装置の動作を示すフローチャートと同一の動作を行う部分は同一の符号をつけ、その説明を省略する。
基準面設定装置2bにおいては、実施の形態1での動作と同一となるステップST1からステップST7までの動作フロー中、ステップST41の、設置物上の点と判定されている点28を処理対象から除く動作が付加されている。なお、最初の動作においては、点群データ6はすべて設置物とは判定されていないため、除かれる点はない。
【0070】
ステップST7において変状を算出した後、ステップST42では、設置物判定装置27に記憶装置1から変状値を含む点群データ6を読み出す。
ステップST43では、変状値によってその点7が覆工面9上の点か、あるいは覆工面9以外の設置物の点かを判定する。これには変状値を用い、図23に示すように、平均断面13から内部にDの境界29を設け、上記のように内側の変状を正とした場合には、D>Dの点を設置物の点28と判定する。例えば、D=0.05とする。この条件を満たして設置物と判定された場合、それを表すため、例えば、D=999に変更する。この値は、トンネルの値より十分に大きくする。
【0071】
ステップST44では、設置物と判定された点28を除いての基準面14の再計算、更新を行うかどうかを判定し、更新する場合はステップST1に戻り、そうでなければ処理を終了する。ステップST42で新たに設置物と判定された点28が存在しなければ更新しない。また、所定の回数の更新を既に行っていたときには更新しないように動作させてもよい。ステップST1に戻った場合、次のステップST41では、設置物上の点28を基準面14の算出に使用しない。ステップST7では、覆工面9上の点について変状値を算出し更新する。
【0072】
以上の動作により、覆工面9上に設置物があり、それを計測した点28も点群データ6に含まれていたとしても、順次設置物の点28を取り除いていくように構成しているので、設置物があったとしてもその影響を受けずにトンネルの覆工面9の変状を計測することができる。
【0073】
なお、上記実施の形態4では、変状が5cmより大きい点を設置物上の点28としたが、この値はトンネル8の状況によって変更してよい。また、覆工面9から窪んだ設置物がある場合には、外側の変状にも制限を加え、例えば、変状が内外5cm以上を設置物と判定するように構成してもよい。さらに、平均断面13を求めた際に範囲15ごとのr値の標準偏差を求め、点7について、それが入る範囲15の標準偏差の一定倍以上の変状を有するときに設置物と判定するようにしてもよい。
【0074】
このような構成によれば、覆工面9上の設置物を順次判定して基準面14の算出において用いないようにすることになる。
このようにトンネル覆工面9上の点のみから基準面14を設定できるようになり、設置物の影響を受けずに変状を正しく計測することが可能になる。
【0075】
以上説明したように、実施の形態4のトンネル変状計測装置によれば、点群データに含まれるトンネル内壁に設置された設置物を計測した点を判別する設置物判定手段を備え、基準面設定手段は設置物を計測した点を除いた点群データを用いて基準面を設定するようにしたので、トンネル内壁の設置物の影響を受けずにトンネルの変状を計測することができる。
【0076】
実施の形態5.
本発明の実施の形態5によるトンネル変状計測装置の構成を示すブロック図は図1に示す実施の形態1によるトンネル変状計測装置の構成を示すブロック図と同一である。
図25は軸の変更を示す説明図である。
本発明のトンネル変状計測装置で求めた基準面14を利用し、時間をおいて計測した点群データ6の変状を計測できれば、変状の時間的な変化を捉えることができる。しかしながら、既存の基準面14との差によって、その後あるいは過去に計測した同一トンネル8の別の点群データ6の変状とすることはできない。これは、点群データ6の座標値にその時々の計測誤差が含まれるためである。例えば、モービルマッピングシステムで用いられるネットワーク型RTK(Realtime Kinematic)−GPSの方式では数cmの誤差が生じる。これは変状量より大きい。一方、点どうしの相対的な位置は、慣性航法装置やレーザスキャナの精度が高いことから、正確に得られている。つまり、絶対的な座標値が誤差を有するので軸10は過去のものと一致しないが、仮に軸10を一致させれば、相対誤差は小さいので、その平均断面13はそのまま使えることになる。既存の基準面14の軸10を対象の点群に対して新たに求めた軸10bに置き換えればよい。即ち、実施の形態5における基準面設定装置2は、点群データ6を用いて断面設定部4が設定した断面13と、この設定に用いた点群データ6を計測した時刻とは異なる時刻に計測した点群データ6を用いて軸設定部3が設定した軸10bとで基準面14を設定する。その他の構成については実施の形態1と同様である。
【0077】
本発明の実施の形態5によるトンネル変状計測装置の動作を図26のフローチャートによって説明する。図12に示す本発明の実施の形態1によるトンネル変状計測装置の動作を示すフローチャートと同一の動作を行う部分は同一の符号をつけ、説明を省略する。
記憶装置1には、以前に同一トンネルを計測した別の点群データ6に対して、実施の形態1の動作を実行して求めた軸10と平均断面13からなる基準面14のデータが、既に格納されているとする。
ステップST1からステップST2までの動作により、新たな点群データ6からトンネル8の軸10bを得る。
【0078】
ステップST51では、基準面設定装置2が既存の軸10をステップST1からステップST2までの動作により求めた軸10bに更新する。なお、対象の点群データ6に対しての平均断面の算出は行わない。本実施の形態5の目的は、過去の形状に対する変状を求めることであり、その基準は過去の平均断面13となる。
ステップST5以降で、新たに求めた軸10bと既存の平均断面13で構成される基準面14に対して、点群データ6の変状を求める。
【0079】
図25は、新たに求めた軸10bと既存の平均断面13によって得られる基準面14による変状算出を示している。点群データ6の点7はその計測時点の誤差を有するため、既存の軸10には合致しない。新たに求めた軸10bにて変状を算出する。
以上の動作により、既存の基準面からの変状値を計測することができる。
【0080】
このような構成によれば、軸を更新することによって、同一トンネル8の別の時点の基準面14を変状計測の基準面としている。
このように同一トンネル8の別の時点の基準面14を利用できるようになり、変状の時間的な変化を確実に計測することが可能になる。
【0081】
以上説明したように、実施の形態5のトンネル変状計測装置によれば、基準面設定手段は、点群データを用いて断面設定部が設定した断面と、この設定に用いた点群データを計測した時刻とは異なる時刻に計測した点群データを用いて軸設定部が設定した軸とで基準面を設定するようにしたので、経時的な変化がある場合でも変状を正しく計測することができる。
【0082】
実施の形態6.
図27は本発明の実施の形態6によるトンネル変状計測装置の構成を示すブロック図である。
描画手段である描画装置30は、点群データ6を入力し、コンピュータグラフィックスにより、強調度設定手段である強調度入力装置31から入力されているパラメータ値に従って変状を強調して正投影図や中心投影図として描画し、表示装置32に表示する。その他の構成については実施の形態1と同様である。
図28は変状を強調した座標値を示す説明図である。
【0083】
本発明の実施の形態6によるトンネル変状計測装置の動作を図29のフローチャートによって説明する。図12に示す本発明の実施の形態1によるトンネル変状計測装置の動作を示すフローチャートと同一の動作を行う部分は同一の符号をつけ、説明を省略する。
本発明の実施の形態1の動作と同一のステップST1からステップST7までの動作が実行され、点群データ6の変状値が計測されて記憶装置1に格納されている。
【0084】
ステップST61では、描画装置30が記憶装置1から点群データ6とその変状値、さらに軸10と平均断面13からなる基準面14のデータを読み出す。
ステップST62では、描画装置30は強調度入力装置31にて入力された変状を強調するパラメータγを読み取る。強調度入力装置31は、例えばマウスやキーボードなどの入力デバイスによって構成され、入力がなされなかった場合は、以前に入力された最新の値、あるいは、固定の例えばγ=5を描画装置30に渡す。
【0085】
ステップST63では、変状を強調した描画を行うための各点の座標値を計算する。図28に示すように、点P(x,y,z)の描画用の点7a(P’)の座標値(X,Y,Z)は、基準面14からの差(変状)Dをγ倍にした位置の点の座標値で、以下のようになる。


ここで、点7の極座標(θ,r)、また、uv軸方向の方向単位ベクトルであるe、eを用いる。これらは、軸10と平均断面13のデータからここで算出してもよいし、ステップST3にて求めた後、記憶装置1に格納しておき、これを読み出すように構成してもよい。また、

は基準面14に対する変状の方向を表すベクトルになり、これにDを乗じたものが点7に含まれる変状の成分33である。点7の座標値(x,y,z)には基準面14に対してこの変状の成分が含まれていることになるため、実施の形態3中に示した式において第2項の係数はγ−1になる。
【0086】
ステップST64では、描画用の座標値(X,Y,Z)により、3次元コンピュータグラフィックスによって投影図画像を描画し、表示装置32に表示する。γ=1が入力されていれば点群データ6がそのままの座標値で描画され、γ=0が入力されていれば各点7が基準面14上に投影されて描画されるので基準面14の形状を描画されることになる。
【0087】
ステップST65では、γを変更して再度描画するかどうかを判定し、再度描画する場合は、ステップST62に、そうでなければ終了する。これは、例えば、マウスやキーボードなどの入力デバイスによって行う。
【0088】
以上の動作により、変状を強調した点群データ6の画像を描画、表示することができる。通常、覆工面9の変状は小さく、点群データ6をそのまま表示したのではどこに変状が出ているのかを見て取ることはできない。変状を強調することで視覚的な理解が可能になる。
【0089】
なお、上記実施の形態6では、点群データ6の投影図を描画するものとして説明したが、これに限るものではなく、例えば、ある地点での断面図など、他の形式の図面の描画にも適用できる。
また、変状を強調するために座標値を変更して描画するように構成したが、座標値にて強調するのではなく、例えば、変状の値によって描画時の色や輝度をγDの値に従って変更し、描画色にて強調するように構成してもよい。
【0090】
このような構成によれば、点群データ6の各点7に対し、その基準面14からの変状を一定倍した点を描画用座標値とするようになっている。
このように変状を一定倍して描画することにより、変状の現れている位置や変状のパターン、傾向を視覚的に容易に把握することが可能になる。
【0091】
以上説明したように、実施の形態6のトンネル変状計測装置によれば、点群データにおける任意の点を描画する描画手段と、描画した結果を表示する表示手段と、描画時の変状の強調度を指定する強調度入力手段とを備え、描画手段は、強調度入力手段から入力された描画時の変状の強調度を示すパラメータ値を点群データの任意の点の座標値に含まれる変状成分に乗じ、変状を強調した座標値を持つとして任意の点を描画するようにしたので、変状の計測結果を分かり易く表示することができる。
【0092】
実施の形態7.
本発明の実施の形態7によるトンネル変状計測装置の構成を示すブロック図は、図13に示す本発明の実施の形態2の構成を示すブロック図と同一である。上記実施の形態3では、軸10はスパン21単位に、平均断面13は全体の点群データ6を用いて設定する際に、基準面設定装置2の軸補正部25にて、軸10の端点16の補正を行い、軸10がスパン21間で連続につながるようにした。これは、本来、スパン21間が滑らかに接続するように施工されていることを想定したものであるが、セントル100の移動時のずれによって各スパン21は必ずしも滑らかには接続せず、軸10の端点はスパン21間で連続とはなっていない状況も考えられる。このような場合は、補正処理がよくない影響を及ぼす。そこで、本実施の形態7では、スパン21単位で求めた軸10により、全体の点群を用いて平均断面13を設定する際に、軸10の端点の補正は行わないようにしたものである。
【0093】
本発明の実施の形態3によるトンネル変状計測装置の動作を図30のフローチャートによって説明する。図21に示す本発明の実施の形態3によるトンネル変状計測装置の動作を示すフローチャートと同一の動作を行う部分は同一の符号をつけ、説明を省略する。
ステップST24までで、点群データ6をスパン21ごとに区分し、各スパン位置を示す補助中心線22が求まっている。さらに、ステップST32までで、すべてのスパン21について軸10が求まっている。ステップST34で、基準面設定装置2に、再度、記憶装置1から全ての点群データ6を読み込む。
【0094】
ステップST71では、実施の形態1のステップST3と同様の動作を、点7が属するスパン21の軸10のデータを用いて行う。
ステップST27にて全ての射影点12を用いて平均断面13を設定する。
ステップST36で変状算出装置5が記憶装置1から点群データ6を読み出す。
ステップST72では、(θ,r)への変換では、上記ステップST71での変換のように、点Pが属するスパンの軸10を用いて変換を行うことが特徴となる。
続いて、ステップST7にて各点の変状Dを算出する。
以上の動作により、各スパンが滑らかに接続していないような場合でも、点群データ6から各点7におけるトンネル覆工面9の変状を計測することができる。
【0095】
なお、上記実施の形態7では、セントル100による覆工時のスパン21ごとに処理を実行したが、実施の形態2と同様に、直線部分などは複数のスパン21を合わせて処理するようにしてもよい。また、覆工時のスパン21に係わらず、例えば10mごと、というように区分を分割構成してもよい。
【0096】
このような構成によれば、セントル100を用いて一度に覆工したスパンごとに軸10を求め、点群全体で平均断面13を求めて基準面14を構成することになる。
このようにトンネル8のスパン21ごとに軸10、トンネル8全体で平均断面13を設定することにより、カーブしている部分や勾配が変化している部分を有しさらに大きな変状が存在するような場合で変状を計測することが可能になる。
【0097】
以上説明したように、実施の形態7のトンネル変状計測装置によれば、点群データにおけるそれぞれの点を位置によって複数の集合に区分する点群区分手段を備え、基準面設定手段は区分された点の集合ごとに基準面を設定するようにしたので、カーブや勾配が一定でないトンネルにおいても、変状を計測することができる。
【符号の説明】
【0098】
1 記憶装置、2,2a,2b 基準面設定装置、3 軸設定部、4 断面設定部、5 変状算出装置、6 点群データ、7,7a 点、8 トンネル、10,10b 軸、11 射影面、13 平均断面、14 基準面、18 平均断面点、20 点群区分装置、25 軸補正部、27 設置物判定装置、30 描画装置、31 強調度入力装置、32 表示装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルを計測した3次元の座標値をもつ点群データからトンネルの軸を抽出する軸設定部と、前記トンネルの断面を設定する断面設定部とを有し、前記軸と前記断面とに基づいて構成される面を基準面として設定する基準面設定手段と、
前記点群データにおける任意の点と前記基準面との差をその点の変状として算出する変状算出手段とを備えたトンネル変状計測装置。
【請求項2】
点群データにおけるそれぞれの点を位置によって複数の集合に区分する点群区分手段を備え、
基準面設定手段は区分された点の集合ごとに基準面を設定することを特徴とする請求項1記載のトンネル変状計測装置。
【請求項3】
点群データにおけるそれぞれの点を位置によって複数の集合に区分する点群区分手段を備え、
基準面設定手段は区分された点の集合ごとに設定した軸を用いて基準面を設定することを特徴とする請求項1記載のトンネル変状計測装置。
【請求項4】
点群データにおけるそれぞれの点を位置によって複数の集合に区分する点群区分手段を備え、
基準面設定手段は軸を補正する軸補正部を備え、軸設定部は区分された点の集合ごとに前記軸を設定し、前記軸補正部は点の集合ごとに設定された前記軸が連続になるように補正し、断面設定部が設定した断面と連続な軸によって基準面を設定することを特徴とする請求項1記載のトンネル変状計測装置。
【請求項5】
点群区分手段は、トンネル覆工時のセントル位置によって決まる位置でそれぞれの点を区分することを特徴とする請求項2から請求項4のうちのいずれか1項記載のトンネル変状計測装置。
【請求項6】
点群データに含まれるトンネル内壁に設置された設置物を計測した点を判別する設置物判定手段を備え、
基準面設定手段は前記設置物を計測した点を除いた点群データを用いて基準面を設定することを特徴とする請求項1記載のトンネル変状計測装置。
【請求項7】
基準面設定手段は、点群データを用いて断面設定部が設定した断面と、当該設定に用いた点群データを計測した時刻とは異なる時刻に計測した点群データを用いて軸設定部が設定した軸とで基準面を設定することを特徴とする請求項1記載のトンネル変状計測装置。
【請求項8】
点群データにおける任意の点を描画する描画手段と、前記描画した結果を表示する表示手段と、描画時の変状の強調度を指定する強調度入力手段とを備え、
前記描画手段は、前記強調度入力手段から入力された描画時の変状の強調度を示すパラメータ値を点群データの任意の点の座標値に含まれる変状成分に乗じ、変状を強調した座標値を持つとして前記任意の点を描画することを特徴とする請求項1記載のトンネル変状計測装置。
【請求項9】
基準面設定手段の軸設定部が設定する軸は、トンネルを近似する柱体の軸と同一の方向を有する線分または直線またはベクトルであることを特徴とする請求項1から請求項8のうちのいずれか1項記載のトンネル変状計測装置。
【請求項10】
基準面設定手段の断面設定部が設定する断面は、軸に直交する面に対して、当該軸に平行に射影したそれぞれの点の射影パターンを近似する点列であることを特徴とする請求項1から請求項9のうちのいずれか1項記載のトンネル変状計測装置。
【請求項11】
基準面設定手段は断面設定部が設定する断面を軸設定部が設定する軸の方向に掃引した面を基準面として設定することを特徴とする請求項1から請求項10のうちのいずれか1項記載のトンネル変状計測装置。
【請求項12】
3次元の座標値をもつ点群データからトンネルの変状を計測するトンネル変状計測方法において、
基準面設定手段により行われ、前記点群データからトンネルの軸を抽出すると共に前記トンネルの断面を設定し、かつ、前記軸と前記断面とに基づいて構成される面を基準面として設定する基準面設定工程と、
変状算出手段により行われ、前記点群データにおける任意の点と前記設定された基準面との差をその点の変状として算出する変状算出工程とを備えたトンネル変状計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2011−203090(P2011−203090A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70194(P2010−70194)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)