説明

トンネル発破工事の粉塵沈静方法及びそれに用いる噴霧装置

【課題】 トンネル発破工事において、粉塵の飛散を低コストで迅速に沈静する。
【解決手段】 切羽2から所定距離の側壁位置に細霧を切羽2へ噴霧する一次噴霧装置3を配置し、発破時の飛石の直撃を受けない位置に細霧を切羽2へ渦巻状に噴霧する二次噴霧装置4を配置する。発破直後に一次噴霧装置3で切羽2へ噴霧し、その細霧で飛散する粉塵を捕捉して地表へ降下させて沈静し、その後二次噴霧装置4を切羽2の方向へ移動させて渦巻状に噴霧し、その細霧で未だ浮遊する微粉塵を捕捉して地表へ降下させて更に沈静する。一次及び二次噴霧時はいずれも送風や換気は行わない。したがって、安価な機器でトンネル1内の全換気を待たずに短時間に粉塵を沈静でき、特に二次噴霧装置4は渦巻状に噴霧するから、細霧が緩やかに飛散して切羽2の前方領域で広範囲に滞留し、粉塵を捕捉し易くなって沈静効果が優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル発破工事の粉塵沈静方法及びそれに用いる噴霧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のトンネル発破工事の粉塵除去技術が特許文献1,2に開示されている。特許文献1の技術は、排気ファンを備えた伸縮自在の風管を移動可能な台車に搭載し、これをトンネルの長さに応じた台数配置して各風管の前後端同士を接続し、各排気ファンを作動させて発破による粉塵を最前部の風管から吸引して最後部の風管から坑外へ除去するようにしたことを特徴としている。
【0003】
特許文献2の技術は、送風ファンを備えた伸縮自在の風管をトンネル内に配管し、切羽の近傍位置に集塵機を配置し、送風ファンを作動させて外気を切羽へ向けて送風するとともに発破による粉塵を集塵機で集塵して坑内の空気を浄化できるようにしたことを特徴としている。
【0004】
ところで、前記の各技術は粉塵を除去するのにその空間の空気をほぼ全て吸引する必要があり、除去に時間を要する問題があった。特に、細かい微粉塵は空気中を浮遊して除去されにくいから、換気が不十分となり易い問題があった。また、前者の技術はトンネルの長さに応じた数の台車が必要で、後者の技術も高価な集塵機を利用するから、いずれも発破工事にコストがかかる問題があった。
【特許文献1】特開2004−68374号公報
【特許文献2】特開2003−314200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、従来のこれらの問題点を解消し、粉塵の飛散を低コストで迅速に沈静できるトンネル発破工事の粉塵沈静方法及びそれに用いる噴霧装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決した本発明の構成は、
1) トンネル工事の発破で飛散した粉塵を沈静する方法であって、切羽から所定距離離れた位置に細霧を切羽へ噴霧する一次噴霧装置を配置し、発破時の飛石の直撃を受けない位置に細霧を切羽へ渦巻状に噴霧する二次噴霧装置を配置し、発破直後に一次噴霧装置で切羽へ噴霧し、その細霧で飛散する粉塵を捕捉して地表へ降下させて沈静し、その後二次噴霧装置を切羽の方向へ移動させ、同二次噴霧装置で切羽へ渦巻状に噴霧して細霧を切羽の前方領域で滞留させ、その細霧で未だ浮遊する微粉塵を捕捉して地表へ降下させて更に沈静することを特徴とする、トンネル発破工事の粉塵沈静方法
2) トンネル外の空気を吸引して切羽へ送風する送風機を配置し、トンネルの坑口に扉を設け、二次噴霧装置の噴霧後に扉を開放して送風機の送風の勢力でトンネル内の空気を坑外へ押し出すように排出して換気するようにした、前記1)記載のトンネル発破工事の粉塵沈静方法
3) 一次噴霧装置及び二次噴霧装置に給水する水を殺菌する殺菌装置を備えた、前記1)又は2)記載のトンネル発破工事の粉塵沈静方法
4) 変形可能な通風ダクトの内部又は後端部に送風ファンを取り付け、高圧水を給水する複数の給水パイプを通風ダクトの吹出口外周位置から吹出方向へ向けて取り付け、各給水パイプの途中位置に給水パイプの高圧水を噴射する複数の噴射ノズルを気流側へ向けて所定間隔をおいて取り付け、送風ファンを台車に搭載し、吊下部材をその中央部で台車の上部に軸支し、吊下部材と通風ダクトの先端部を軸支し、吊下部材の後端にクランクの一端を軸支し、クランクの基端をモータの出力軸に固着し、クランクの動きで通風ダクトが旋回するように向きを変化させて渦巻状に噴霧できるようにした、噴霧装置
5) クランクに吊下部材の後端を軸支する軸穴を複数形成し、軸支位置を異ならせて通風ダクトの旋回半径を変更できるようにした、前記4)記載の噴霧装置
にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、発破直後に一次噴霧装置で切羽へ向けて噴霧すると、その細霧が飛散する粉塵を捕捉して地表へ降下する。大抵の粉塵はこの工程で沈静し、浮遊する粉塵は大幅に減少する。その後、二次噴霧装置で切羽へ向けて渦巻状に噴霧すると、その細霧で未だ浮遊している微粉塵を捕捉して更に沈静される。一次及び二次噴霧時はいずれも送風や換気は行わない。したがって、従来技術と比較して安価な機器でトンネル内の全換気を待たずに短時間に粉塵を沈静できる。特に、二次噴霧装置は渦巻状に噴霧するから、細霧が緩やかに飛散して切羽の前方領域で広範囲に滞留し、粉塵を捕捉し易くなって沈静効果が優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明では、トンネル外の空気を吸引して切羽へ送風する送風機を配置すると、坑口の扉を開放して送風機の送風の勢力でトンネル内の空気を坑外へ押し出すように排出して換気され、作業環境をさらに改善できる。送風機には噴霧ノズルを取り付け、その細霧で微粉塵をより短時間に沈静させてもよい。また、トンネルの坑口方向へ送風する小型の排気ファンを複数設置すると、除去方向への送風の勢力が増加し、より短時間に換気できるようになる。また、一次噴霧装置及び二次噴霧装置に給水する水を殺菌する殺菌装置を備えると、作業者の健康に配慮した作業環境にでき、特に河川や池などの水源から給水する場合に効果的である。以下、本発明の実施例を図面に基づいて具体的に説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は実施例のトンネル発破工事の粉塵沈静を示す説明図、図2は実施例の一次噴霧装置の説明図、図3は実施例の二次噴霧装置の側面図、図4は実施例の二次噴霧装置の正面図、図5は実施例の二次噴霧装置による噴霧状態を示す説明図、図6は実施例の工程を示すチャートである。
【0010】
図中、1はトンネル、2は切羽、3は一次噴霧装置、3aはフレーム、3bは噴霧ノズル、3cは給水ホース、3dは防護カバー、3eは噴霧口、3fは防護板、3gは土嚢、3hはホースリール、4は二次噴霧装置、4aは通風ダクト、4bは送風ファン、4cは給水パイプ、4dは支持部材、4eは噴霧ノズル、4fは台車、4g車輪、4hは吊下部材、4iはモータ、4jはクランク、4kは軸穴、4mは給水ホース、4nはハンドル、5は給水機、5aは給水ポンプ、5bは給水タンク、5cはフィルター、5dは防護板、5eは操作盤、5fはホースリール、6は送風機、7は点火ボックス、8はジャンボ削岩機、9は発破飛石防護装置、Dはずりである。
【0011】
本実施例の一次噴霧装置3は、図2に示すようにフレーム3aの上端部に3本の噴霧ノズル3bを噴霧角度を調整可能に取り付け、各噴霧ノズル3bに給水ホース3cを接続し、噴霧ノズル3bに爆風から防護する噴霧口3e付きの防護カバー3dを被覆し、フレーム3aに爆風から防護する防護板3fを取り付け、フレーム3aの下部に一次噴霧装置3が爆風で吹き飛ばされないように土嚢3gを載せている。細霧の粒度は90〜100ミクロンで、噴出能力は28〜34L/分である。
【0012】
二次噴霧装置4は、図3,4に示すように蛇腹状の通風ダクト4aの後端部に電動の送風ファン4bを取り付け、8本の給水パイプ4cを通風ダクト4aの吹出口外周にU字状の支持部材4dで吹出方向へ向けて取り付け、各給水パイプ4cに気流側へ向けた噴射ノズル4eを7体取り付けて給水パイプ4cと水路を連通させ、各給水パイプ4cの後端に給水ホース4mを接続し、送風ファン4bを台車4fに搭載している。
【0013】
台車4fの上部には吊下部材4hをその中央部で軸支し、吊下部材4hの前端は支持部材4dに軸支し、後端はクランク4jの一端に軸支し、クランク4jの基端をモータ4iの出力軸に固着している。モータ4iでクランク4jを回転させると、吊下部材4hがその中央部を支点として回動して通風ダクト4aの向きを旋回するように変化させる構造となっている。軸穴4kは複数形成しており、内側の軸穴4kを使用すると通風ダクト4aの旋回半径が小さくなり、外側の軸穴4kを使用すると旋回半径を大きくできる。モータ4iの回転数は30rpm(1回転/2秒)である。細霧の粒度は40〜60ミクロンで、噴出能力は8〜18L/分である。
【0014】
給水機5は、図2に示すようにノズル水圧8MPaの給水ポンプ5aと給水タンク5bと殺菌機能付きのフィルター5cを搭載し、爆風から防護する防護板5dを全面に取り付け、一次噴霧装置3と二次噴霧装置4への給水を操作する操作盤5eを後部に取り付け、トンネル1外の河川・池・貯水槽等の水源から水を給水し、フィルター5cで濾過及び殺菌した後に給水タンク5bに貯水し、給水ポンプ5aで送り出す構造となっている。
【0015】
本実施例を図1,5,6に基づいて説明する。一次噴霧装置3は切羽2から35m離れた側壁位置に配置し、二次噴霧装置4はジャンボ削岩機8の後方位置に発破飛石防護装置9を介して配置し、送風機6は切羽2から50m離れた位置から坑口に渡って常設する。送風機6はその後端部に送風ファン(図示せず)を備えている。給水機5と点火ボックス7は送風機6の下方位置に配置し、一次噴霧装置3の給水ホース3cと二次噴霧装置4の給水ホース4mを給水機5に接続する。
【0016】
ジャンボ削岩機8で切羽2に発破孔を複数穿孔して爆薬を装填し、爆薬から伸びるリード線を後方へ引き回して点火ボックス7と結線する。坑口の扉(図示せず)を閉鎖して作業者が点火ボックス7の後方へ退避し、爆薬を爆破させる。発破5秒後に一次噴霧装置3で切羽2へ噴霧し、その細霧で飛散している粉塵を捕足して地表へ降下させる。大抵の粉塵はこの工程で沈静し、浮遊する粉塵は大幅に減少する。
【0017】
その間に、作業者が二次噴霧装置4を切羽2から60m離れた位置に移動させて切羽2へ向けて渦巻状に噴霧し、その細霧で未だ浮遊している微粉塵を捕捉して更に沈静し、ずりDに隠れている粉塵も舞い上がらせて加湿する。通風ダクト4aはクランク4jの動きで旋回するように向きが変化し、細霧が緩やかに飛散して切羽2の前方領域で広範囲に滞留し、微粉塵を均一に捕捉して沈静効果を高める。二次噴霧装置4は移動作業により噴霧までおよそ3分要する。
【0018】
発破後およそ11分経過すると、坑口の扉を開放して送風機6を作動させ、トンネル1内の空気を送風の勢力で坑外へ押し出すように除去して換気する。このとき、一次噴霧装置3は停止させ、二次噴霧装置4はモータ4iを停止して噴霧方向を送風機6の直前位置へ向けて固定し、そのまま噴霧を数分間継続する。その二次噴霧装置4の細霧は送風機6の送風に乗って切羽2の先端へ飛び、切羽2の高所の奥部まで細霧を十分に行き渡らせて加湿する。その後、二次噴霧装置4は停止させる。
【0019】
送風はおよそ1時間ほど継続した後、ずりDを排出して支保工を行い、5〜6時間後に次の発破を行って同様に粉塵を沈静して換気し、以上の工程を繰り返してトンネル1が構築される。トンネル1内の湿度は噴霧で上昇しており、坑壁のコンクリートの表面を保湿して養生効果を高めるとともに、トンネル1内の温度を低下させて作業環境が改善される。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の技術は、トンネル発破工事に利用される。また、二次噴霧装置はコンクリートの吹き付け時に生じる粉塵の沈静にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例のトンネル発破工事の粉塵沈静を示す説明図である。
【図2】実施例の一次噴霧装置の説明図である。
【図3】実施例の二次噴霧装置の側面図である。
【図4】実施例の二次噴霧装置の正面図である。
【図5】実施例の二次噴霧装置による噴霧状態を示す説明図である。
【図6】実施例の工程を示すチャートである。
【符号の説明】
【0022】
1 トンネル
2 切羽
3 一次噴霧装置
3a フレーム
3b 噴霧ノズル
3c 給水ホース
3d 防護カバー
3e 噴霧口
3f 防護板
3g 土嚢
3h ホースリール
4 二次噴霧装置
4a 通風ダクト
4b 送風ファン
4c 給水パイプ
4d 支持部材
4e 噴霧ノズル
4f 台車
4g 車輪
4h 吊下部材
4i モータ
4j クランク
4k 軸穴
4m 給水ホース
4n ハンドル
5 給水機
5a 給水ポンプ
5b 給水タンク
5c フィルター
5d 防護板
5e 操作盤
5f ホースリール
6 送風機
7 点火ボックス
8 ジャンボ削岩機
9 発破飛石防護装置
D ずり

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル工事の発破で飛散した粉塵を沈静する方法であって、切羽から所定距離離れた位置に細霧を切羽へ噴霧する一次噴霧装置を配置し、発破時の飛石の直撃を受けない位置に細霧を切羽へ渦巻状に噴霧する二次噴霧装置を配置し、発破直後に一次噴霧装置で切羽へ噴霧し、その細霧で飛散する粉塵を捕捉して地表へ降下させて沈静し、その後二次噴霧装置を切羽の方向へ移動させ、同二次噴霧装置で切羽へ渦巻状に噴霧して細霧を切羽の前方領域で滞留させ、その細霧で未だ浮遊する微粉塵を捕捉して地表へ降下させて更に沈静することを特徴とする、トンネル発破工事の粉塵沈静方法。
【請求項2】
トンネル外の空気を吸引して切羽へ送風する送風機を配置し、トンネルの坑口に扉を設け、二次噴霧装置の噴霧後に扉を開放して送風機の送風の勢力でトンネル内の空気を坑外へ押し出すように排出して換気するようにした、請求項1記載のトンネル発破工事の粉塵沈静方法。
【請求項3】
一次噴霧装置及び二次噴霧装置に給水する水を殺菌する殺菌装置を備えた、請求項1又は2記載のトンネル発破工事の粉塵沈静方法。
【請求項4】
変形可能な通風ダクトの内部又は後端部に送風ファンを取り付け、高圧水を給水する複数の給水パイプを通風ダクトの吹出口外周位置から吹出方向へ向けて取り付け、各給水パイプの途中位置に給水パイプの高圧水を噴射する複数の噴射ノズルを気流側へ向けて所定間隔をおいて取り付け、送風ファンを台車に搭載し、吊下部材をその中央部で台車の上部に軸支し、吊下部材と通風ダクトの先端部を軸支し、吊下部材の後端にクランクの一端を軸支し、クランクの基端をモータの出力軸に固着し、クランクの動きで通風ダクトが旋回するように向きを変化させて渦巻状に噴霧できるようにした、噴霧装置。
【請求項5】
クランクに吊下部材の後端を軸支する軸穴を複数形成し、軸支位置を異ならせて通風ダクトの旋回半径を変更できるようにした、請求項4記載の噴霧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−101032(P2010−101032A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271568(P2008−271568)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(591145737)エスビー工業株式会社 (3)