説明

トンネル緩衝工

【課題】屋根部の構造を軽量化すると共に、圧力による変形を抑制し、密封性を向上させ、性能を向上させたトンネル緩衝工を提供することを目的とする。
【解決手段】トンネル入口2にフード部3を設置したトンネル緩衝工1であって、前記フード部は骨組み構造部4と、前記骨組み構造に固定される屋根部5を備え、前記屋根部を、周囲を周囲固定手段12により固定され、さらに周囲固定部内を複数の領域に区画するように配置された複数の上側又は下側膜変形抑制部材13、11に上側又は下側膜変形抑制部材13、11を介して支持される可撓性の膜部材又はシート部材7で構成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速列車等の移動体がトンネルに進入することによって、トンネル出口で発生する微気圧波を低減できるトンネル緩衝工に関する。
【背景技術】
【0002】
新幹線等の高速列車がトンネル入口に進入すると圧縮波が生じ、この圧縮波がトンネル内を伝播してトンネル出口に到達すると、圧縮波の圧力勾配にほぼ比例したパルス状の圧力波が出口から外部に放射される。このパルス状の圧力波がいわゆる微気圧波である。
【0003】
高速列車がトンネル入口に進入することで生じる圧縮波は、圧力によって伝播速度が異なり、圧力が低いと伝播速度は遅く、圧力が高いと伝播速度は速い。すなわち、圧縮波の先端付近で圧力の低い部分は伝播速度が遅く、圧縮波の後方で圧力の高い部分は伝播速度が速いので、圧縮波の波形は伝播するうちに後方部分が先端付近部分に次第に追い付いていく。このため圧縮波の波形は、最初は緩やかであっても、伝播するうちに次第に切り立った形状に変化する。これを波の非線形効果という。圧縮波の波形の切り立った形状への変化に伴い、圧縮波の圧力勾配は大きくなっていく。
【0004】
短いトンネルの場合は、圧力勾配はほとんど変化せずにトンネル出口に到達するが、長いトンネルの場合は、波の非線形効果が蓄積することによって、圧力勾配が徐々に大きくなり、切り立った波形となってトンネル出口に到達する。
【0005】
微気圧波の放射は、破裂的な空気圧音(一次音)を招くことがあるだけでなく、トンネル出口付近の民家の窓ガラスや戸を急に動かして二次音を発生させる要因となるものであり、その低減が重要となっている。
【0006】
具体的な微気圧波低減対策としては、トンネル入口にトンネル緩衝工を設ける方法がある。トンネル緩衝工とは、トンネルの入口にトンネル断面積の1.4〜1.5倍程度のフード部を設けたものである。トンネル緩衝工によりトンネル入口で生じる圧縮波の圧力勾配を小さく抑えることができるので、トンネル出口での微気圧波の低減を図ることができる。
【特許文献1】特開2001−248390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたトンネル緩衝工のフード部は、H形鋼を主な構造部材として骨組み構造部を形成し、骨組み構造部に屋根部としての鋼板(デッキプレート等)を取り付けて構築する構造となっている。そのため、屋根部の重量が重く、それを支持する骨組み構造部の鋼材使用量が多くなるという問題が発生する。また、屋根部材の耐力により、主な構造部材の配置間隔を広げることは困難である。さらに、屋根部が鋼板で形成されるため、トンネル緩衝工のフード部の形状の設計の自由度がなく、施工性、経済性においても問題を有するものであった。
【0008】
本発明は、従来技術の持つ課題を解決する、屋根部の構造を軽量化すると共に、圧力による変形を抑制し、密封性を向上させ、性能を向上させたトンネル緩衝工を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のトンネル緩衝工は、前記従来技術の持つ課題を解決するために、トンネル入口にフード部を設置したトンネル緩衝工であって、前記フード部は骨組み構造部と、前記骨組み構造に固定される屋根部を備え、前記屋根部を、周囲を周囲固定手段により固定され、さらに周囲固定部内を複数の領域に区画するように配置された複数の上側又は下側膜変形抑制部材に上側又は下側膜変形抑制部材を介して支持される可撓性の膜部材又はシート部材で構成することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のトンネル緩衝工は、前記可撓性の膜部材又はシート部材を、複数の上側及び下側膜変形抑制部材を配置したパネル枠に固定し、前記パネル枠を前記骨組み構造部に固定することを特徴とする。
【0011】
また、本発明のトンネル緩衝工は、前記可撓性の膜部材又はシート部材を、複数の上側及び下側膜変形抑制部材を配置した骨組み構造部に固定したことを特徴とする。
【0012】
また、本発明のトンネル緩衝工は、前記周囲固定手段及び前記上側又は下側膜変形抑制部材を着脱可能として前記可撓性の膜部材又はシート部材の取り換えを容易にしたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明のトンネル緩衝工は、前記可撓性の膜部材又はシート部材の表面又は裏面に前記上側又は下側膜変形抑制部材の配置の軸方向と交差する方向に延びる所定幅の補強布を少なくとも1列接着固定し、前記補強布の前記上側又は下側膜変形抑制部材に対応する位置に膜垂れ下がり防止ベルトを配置し、前記膜垂れ下がり防止ベルトを前記上側又は下側膜変形抑制部材に着脱自在に連結することを特徴とする。
【0014】
また、本発明のトンネル緩衝工は、前記可撓性の膜部材又はシート部材の前記周囲固定手段による固定部及び隣接する前記固定部の間にシール部材を配置することを特徴とする。
【0015】
また、本発明のトンネル緩衝工は、前記トンネル入口と前記フード部の接続部の近傍の前記屋根部を鋼板で形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の構成により、屋根部を軽量化できるので骨組み構造の鋼材使用量を減らすことができ、圧力変動による可撓性の膜部材又はシート部材の変形を抑制し、フード部の密封性を向上させてトンネル緩衝工の性能を向上させ、可撓性の膜部材又はシート部材が破れた場合の垂れ下がり長さを小さくすることで架線等(架線・電力線・通信線等の設備・列車を含む)との接触を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態を図により説明する。図1は、本発明のトンネル緩衝工の全体概略図であり、図2は、トンネル緩衝工のフード部の構成を示す概略図である。
【0018】
トンネル緩衝工1は、トンネル入口2にトンネルの断面積の1.4〜1.5倍の断面積を有するフード部3が設置される。フード部3は、H形鋼等の構造部材6で形成される骨組み構造4と屋根部5で構成される。
【0019】
本発明の特徴的構成は、トンネル緩衝工1のフード部3の屋根部5が、可撓性の膜部材又はシート部材7で形成される膜構造となっていることである。膜構造を形成する可撓性の膜部材又はシート部材7としては、従来、スポーツ施設用の膜構造に用いられるものを使用する。このような可撓性の膜部材又はシート部材7としては、フィルムをはじめ、織物、編物及び不織布等のシート状物に樹脂をコーティングした複合材が使用される。複合材を構成する繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維及びポリエステル繊維等で、好ましくは、耐候性に優れた高強度、耐熱性の繊維を使用する。又、複合材を構成する樹脂としては、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム及びアクリル樹脂等、その他これらに類するものから選択される。かかる樹脂は、上述のシート状物に含浸、コーティング及びラミネート等の方法から選択される少なくとも1種の方法により複合される。
【0020】
このような可撓性の膜部材又はシート部材7により屋根部5を膜構造とすることにより、屋根部5を軽量化することができ、屋根部5の軽量化に伴いそれを支持する骨組み構造4の構造部材である鋼材使用量を削減できる。また、屋根部5を膜構造にすることにより、フード部3の延長方向に沿って断面形状、断面積を異なるように変化させる等の設計の自由度が増加する。
【0021】
図3は、本発明のトンネル緩衝工1のフード部3の一実施形態の断面図である。フード部3は、基礎16に一端を固定されるH形鋼等の構造部材6に、他の構造部材6を添接板14で連結し、アーチ形の断面を形成する。本実施形態においては、フード部3の断面形状としてアーチ形を採用しているが、半円形や多角形断面であっても良い。構造部材6により形成されるアーチ形断面を所定間隔毎に形成し、各アーチ形断面を複数の横部材で連結し骨組み構造部4を形成する。
【0022】
フード部3の骨組み構造4の断面形状及び屋根部5の膜構造を設計する際、積雪期に屋根部5に積もった雪が自然に落下するような屋根部5の角度、形状を設定することや、暴風雨、地震等の自然災害に耐える形状及び強度とすることは当然考慮されるべきことである。フード部3とトンネル入口2の接続部の近傍は、落下物等を考慮し屋根部5を可撓性の膜部材又はシート部材7による膜構造ではなく鋼板を用いるのが望ましい。
【0023】
図4は、屋根部5を構成するパネル化した膜構造の第1実施形態を示す図である。この実施形態のパネル化した膜構造は、4角形のパネル枠9を備えている。パネル枠9は薄板鋼板で形成されたC形鋼のフランジ部に内側方向に延びる膜周囲固定部8を構成する水平部が形成されている。水平部の下部のフランジ部に補強リブ10が所定間隔で形成される。また、パネル枠9の長辺間に所定間隔で複数の下側膜変形抑制部材11の両端をパネル枠9の水平部の下部のフランジ部に固定手段を介して固定する。
【0024】
下側膜変形抑制部材11の配置間隔は、例えば、パネル枠9の長辺の長さが3430mmで短辺の長さが2000mmの場合、500〜600mmの間隔で複数本配置する。この実施形態では、下側膜変形抑制部材11を断面円形の鋼又はアルミ等の薄肉金属製管で形成している。下側膜変形抑制部材11は、可撓性の膜部材又はシート部材7の圧力による変形を抑制する機能と、パネル枠9を補強する機能を有するものである。下側膜変形抑制部材11の配置本数及びその径は、下側膜変形抑制部材11の可撓性の膜部材又はシート部材7の圧力による変形を抑制する機能と、パネル枠9を補強する機能を損なうことなく、屋根部5の軽量化を考慮して設計する。また、図4に示される実施形態では、下側膜変形抑制部材11の配置を所定間隔で平行に配置し膜周囲固定部8で囲まれた部分を複数の4角形の領域に区画しているが、膜周囲固定部8で囲まれた部分を複数の三角形、升目、又は円形の領域に区画するように配置しても良い。
【0025】
可撓性の膜部材又はシート部材7を、パネル枠9の短辺側の膜周囲固定部8及び長辺側の膜周囲固定部8に載置する。パネル枠9の短辺側及び長辺側の膜周囲固定部8上の可撓性の膜部材又はシート部材7を、膜周囲固定手段である板状の膜周囲固定部材12と連結ボルトで固定する。また、下側膜変形抑制部材11上の可撓性の膜部材又はシート部材7は、その上に上側膜変形抑制部材13を配置する。上側膜変形抑制部材13の両端の連結部を膜周囲固定部材12と一緒に長辺側の膜周囲固定部8に固定する。膜周囲固定部材12及び上側膜変形抑制部材13はいずれも鋼又はアルミ等の金属製とする。この実施形態では、上側膜変形抑制部材13は、断面円形の金属製管を用いているので両端連結部を板状として膜周囲固定部8への固定を容易にしている。この実施形態の上側膜変形抑制部材13は、可撓性の膜部材又はシート部材7を下側膜変形抑制部材11に押し付け支持するだけで、下側膜変形抑制部材11に固定しない。可撓性の膜部材又はシート部材7は、その周囲をパネル枠9の膜周囲固定部8で膜周囲固定部材12と連結ボルトにより固定すると共に、複数の下側膜変形抑制部材11と上側膜変形抑制部材13により支持されるので、フード部3内の圧力変動による内方、外方への変形が抑制されトンネル緩衝工の性能を向上させる。また、可撓性の膜部材又はシート部材7を交換する際は、膜周囲固定部材12、連結ボルト及び上側膜変形抑制部材13を取り外すだけで簡単に実施できる。図4に示される実施形態では、膜周囲固定部8を上向きとし、下側膜変形抑制部材11を先ずパネル枠9に固定し、パネル枠9の上側から可撓性の膜部材又はシート部材7を固定しているが、膜周囲固定部8を下向きとし、上側膜変形抑制部材13を先ずパネル枠9に固定し、パネル枠9の下側から可撓性の膜部材又はシート部材7を固定しても良い。その場合、可撓性の膜部材又はシート部材7を交換する際は、膜周囲固定部材12及び下側膜変形抑制部材13を取り外す。
【0026】
図5は、屋根部5を構成するパネル化した膜構造の第2実施形態を示す図である。この実施形態のパネル化した膜構造は、4角形のパネル枠9を備えている。パネル枠9はC形鋼のフランジ部に内側方向に延びる膜周囲固定部8を構成する水平部が形成されている。水平部の下には補強リブ10が形成される。パネル枠9の長辺間に所定間隔で複数の下側膜変形抑制部材11の両端をパネル枠9の膜周囲固定部8の下部のフランジ部に固定手段を介して固定する。下側膜変形抑制部材11の配置間隔は、図4に示される実施形態と同様に、例えば、パネル枠9の長辺の長さが3430mmで短辺の長さが2000mmの場合、500〜600mmの間隔で複数本配置する。この実施形態では、下側膜変形抑制部材11を断面形状C形の鋼又はアルミ等の金属で形成している。下側膜変形抑制部材11は、可撓性の膜部材又はシート部材7の圧力による変形を抑制する機能と、パネル枠9を補強する機能を有するものである。下側膜変形抑制部材11の配置本数及びその径は、下側膜変形抑制部材11の可撓性の膜部材又はシート部材7の圧力による変形を抑制する機能と、パネル枠9を補強する機能を損なうことなく、屋根部5の軽量化を考慮して設計する。また、図5に示される実施形態では、下側膜変形抑制部材11の配置を所定間隔で平行に配置し膜周囲固定部8で囲まれた部分を複数の4角形の領域に区画しているが、膜周囲固定部8で囲まれた部分を複数の三角形、升目、又は円形の領域に区画するように配置しても良い。
【0027】
この実施形態では、下側膜変形抑制部材11の断面形状をC形とし、水平フランジ部が上を向くように配置する。可撓性の膜部材又はシート部材7をパネル枠9の短辺側の膜周囲固定部8及び長辺側の膜周囲固定部8への固定は図4に示される第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0028】
下側膜変形抑制部材11上の可撓性の膜部材又はシート部材7上に、下側膜変形抑制部材11の軸方向に複数に分割された板状の上側膜変形抑制部材13を配置する。前記複数の板状の上側膜変形抑制部材13を連結ボルトで断面形状C形の下側膜変形抑制部材11のフランジ部に固定する。他の構成は図4に示される第1実施形態と同様であるので説明を省略する。図4に示される実施形態では、上側膜変形抑制部材13を下側膜変形抑制部材11の軸方向に複数に分割された板状としているが、分割しない1つの上側膜変形抑制部材13としても良い。この実施形態においても、可撓性の膜部材又はシート部材7は、その周囲をパネル枠9の膜周囲固定部8で膜周囲固定部材12により固定されると共に、複数の下側膜変形抑制部材11と上側膜変形抑制部材13により固定されるので、フード部3内の圧力変動による内方、外方への変形が抑制されトンネル緩衝工の性能を向上させる。また、可撓性の膜部材又はシート部材7を交換する際は、膜周囲固定部材12及び上側膜変形抑制部材13を取り外すだけで簡単に実施できる。また、可撓性の膜部材又はシート部材7は、周囲固定部8内で複数の下側膜変形抑制部材11と上側膜変形抑制部材13に区画されて固定されているため、可撓性の膜部材又はシート部材7の破損時の垂れ下がりを小さくし、架線等(架線・電力線・通信線等の設備・列車を含む)への接触を防止できる。図5に示される実施形態では、膜周囲固定部8を上向きとし、下側膜変形抑制部材11を先ずパネル枠9に固定し、パネル枠9の上側から可撓性の膜部材又はシート部材7を固定しているが、膜周囲固定部8を下向きとし、上側膜変形抑制部材13を先ずパネル枠9に固定し、パネル枠9の下側から可撓性の膜部材又はシート部材7を固定しても良い。その場合、可撓性の膜部材又はシート部材7を交換する際は、膜周囲固定部材12及び下側膜変形抑制部材13を取り外す。
【0029】
図6は、屋根部5を構成するパネル化した膜構造の第3実施形態を示す図である。この実施形態のパネル化した膜構造は、4角形のパネル枠9を備えている。パネル枠9はC形鋼のフランジ部に内側方向に延びる膜周囲固定部8を構成する水平部が形成されている。水平部の下には補強リブ10が形成される。パネル枠9の長辺間に所定間隔で複数の断面円形の下側膜変形抑制部材11の両端をパネル枠9の水平部の下に固定手段を介して固定する。下側膜変形抑制部材11の配置間隔は、図4に示される実施形態と同様に、例えば、パネル枠9の長辺の長さが3430mmで短辺の長さが2000mmの場合、500〜600mmの間隔で複数本配置する。この実施形態では、下側膜変形抑制部材11を断面円形の鋼又はアルミ等の薄肉金属製管で形成している。下側膜変形抑制部材11は、可撓性の膜部材又はシート部材7の圧力による変形を抑制する機能と、パネル枠9を補強する機能を有するものである。下側膜変形抑制部材11の配置本数及びその径は、下側膜変形抑制部材11の可撓性の膜部材又はシート部材7の圧力による変形を抑制する機能と、パネル枠9を補強する機能を損なうことなく、屋根部5の軽量化を考慮して設計する。また、図6に示される実施形態では、下側膜変形抑制部材11の配置を所定間隔で平行に配置し膜周囲固定部8で囲まれた部分を複数の4角形の領域に区画しているが、膜周囲固定部8で囲まれた部分を複数の三角形、升目、又は円形の領域に区画するように配置しても良い。
【0030】
可撓性の膜部材又はシート部材7を、パネル枠9の短辺側の膜周囲固定部8及び長辺側の膜周囲固定部8に載置する。パネル枠9の短辺側及び長辺側の膜周囲固定部8上の可撓性の膜部材又はシート部材7を、膜周囲固定手段である板状の膜周囲固定部材12と連結で固定する。この実施形態の可撓性の膜部材又はシート部材7の裏面側には、下側膜変形抑制部材11の軸方向と交差する方向に延びる補強布20が接着剤又は溶着による接着により固定されている。補強布20は、膜部材又はシート部材7の表面側に接着しても良い。
【0031】
図6に示される実施形態では、補強布20を1列接着配置した例が示されているが、補強布20を複数列接着配置しても良い。補強布20の以外の他の構成は、図4に示される第1実施形態と同様であるので説明を省略する。この実施形態の上側膜変形抑制部材13では、可撓性の膜部材又はシート部材7を下側膜変形抑制部材11に押し付け支持するだけで、膜変形抑制バー11とは固定しない。可撓性の膜部材又はシート部材7は、その周囲をパネル枠9の膜周囲固定部8で膜周囲固定部材12により固定されると共に、複数の下側膜変形抑制部材11と上側膜変形抑制部材13により支持されるので、フード部3内の圧力変動による内方、外方への変形が抑制されトンネル緩衝工の性能を向上させる。また、可撓性の膜部材又はシート部材7を交換する際は、膜周囲固定部材12及び上側膜変形抑制部材13を取り外すだけで簡単に実施できる。図6に示される実施形態では、膜周囲固定部8を上向きとし、下側膜変形抑制部材11を先ずパネル枠9に固定し、パネル枠9の上側から可撓性の膜部材又はシート部材7を固定しているが、膜周囲固定部8を下向きとし、上側膜変形抑制部材13を先ずパネル枠9に固定し、パネル枠9の下側から可撓性の膜部材又はシート部材7を固定しても良い。その場合、可撓性の膜部材又はシート部材7を交換する際は、膜周囲固定部材12及び下側膜変形抑制部材13を取り外す。
【0032】
図7(a)(b)(c)は、図6に示される実施形態の補強布20の可撓性の膜部材又はシート部材7の裏面側への接着状態を示す図である。補強布20の下側膜変形抑制部材11に対応する位置に、膜落下防止ベルト21が、その両端部が所定間隔で補強布20の下に垂れ下がるように鳩目パンチ22で可撓性の膜部材又はシート部材7、補強布20に連結される。膜落下防止ベルト21の両端部には連結具23が設置されている。
【0033】
膜落下防止ベルト21は、図7(c)に示されるように、下側膜変形抑制部材11を抱き込むようにし、その両端部の連結具23をロック具24に連結して下側膜変形抑制部材11に連結する。補強布21は、可撓性の膜部材又はシート部材7を補強すると共に、万一可撓性の膜部材又はシート部材7が破れた場合、補強布20の複数個所で膜落下防止ベルト21で下側膜変形抑制部材11に連結されているため、破れた可撓性の膜部材又はシート部材7が大きく垂れ下がるのが防止でき、破れた可撓性の膜部材又はシート部材7が架線等(架線・電力線・通信線等の設備・列車を含む)に接触するのを防止する。前述のように、パネル枠9に先ず上側膜変形抑制部材13を固定する場合、補強布20を可撓性の膜部材又はシート部材7の表面側に接着し、その上に膜落下防止ベルト21を鳩目パンチ22で固定し、膜落下防止ベルト21を上側膜変形抑制部材13に連結する。図6、図7では、補強布20、膜落下防止ベルト21の配置の実施形態を図4に示される実施形態に適用した例を示しているが、図5に示される実施形態に補強布20、膜落下防止ベルト21の構成を配置しても良い。
【0034】
トンネル緩衝工1においてはその性能を発揮するためにフード部3の密封性が必要である。図8は、トンネル緩衝工1の密封性を向上させるための構成を示す図である。トンネル緩衝工1のフード部3の骨組み構造部4を構成するH形鋼からなる構造部材6に、パネル枠固定用プレート15が連結ボルト又は溶接等の固定手段で固定される。パネル枠固定用プレート15の両側にパネル枠9が連結ボルト等の固定手段により固定される。パネル枠9はC型鋼のフランジ部に膜周囲固定部8を構成する水平部が4角形の枠内側方向に延びている。膜周囲固定部8の株のフランジ部には所定間隔で補強リブ10が形成されている。パネル枠9の膜周囲固定部8に可撓性の膜部材又はシート部材7の周囲を載置し、その上に板状の膜周囲固定部材12を連結ボルトで固定する。その際、可撓性の膜部材又はシート部材7と膜周囲固定部材12との間にゴムや樹脂等の弾性シール部材19を挟み込み可撓性の膜部材又はシート部材7の周辺固定部をシールする。さらに、隣接するパネル枠9間にシール用鉄板18をゴムや樹脂等の弾性シール部材19を挟み込み連結ボルトでパネル枠9のウェブ部にシールして固定する。周辺固定部とシール用鉄板18の固定部との隙間にエッジロープ17を挿入し密封性を高める。
【0035】
図9は、このような密封性向上機構を配置した場合と、配置しない場合のトンネル緩衝工1の圧力勾配の時系列変化を示す図である。図9に示されるように、密封性向上機構がない状態では、波の非線形効果により圧縮波の波形が切り立った形状への変化に伴い、圧縮波の圧力勾配は大きくなっている。密封性向上機構を配置した状態では、圧縮波の波形がなだらかか形状となりトンネル緩衝工の性能が向上しているのがわかる。
【0036】
パネル枠9に可撓性の膜部材又はシート部材7を配置したものを中心に説明したが、パネル枠9を用いることなく、骨組み構造4を構成する構造部材6に直接または支持プレートを介して上側膜変形抑制部材13及び下側膜変形抑制部材11を配置し、前記で説明したような構成で可撓性の膜部材又はシート部材7を固定配置しても良い。
【0037】
以上のように、本発明のトンネル緩衝工1の構成により、屋根部5を軽量化できるので骨組み構造4の鋼材使用量を減らすことができ、圧力変動による可撓性の膜部材又はシート部材7の内方及び外方への変形を抑制し、フード部3の密封性を向上させてトンネル緩衝工1の性能を向上させ、可撓性の膜部材又はシート部材7が破れた場合の垂れ下がり長さを小さくして架線等(架線・電力線・通信線等の設備・列車を含む)との接触事故を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態を示す図である。
【図2】本発明の実施形態を示す図である。
【図3】本発明の実施形態を示す図である。
【図4】本発明の実施形態を示す図である。
【図5】本発明の実施形態を示す図である。
【図6】本発明の実施形態を示す図である。
【図7】(a)(b)(c)本発明の実施形態を示す図である。
【図8】本発明の実施形態を示す図である。
【図9】本発明の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1:トンネル緩衝工、2:トンネル入口、3:フード部、4:骨組み構造部、5:屋根部、6:構造部材(H形鋼)、7:可撓性の膜部材又はシート部材、8:膜周囲固定部、9:パネル枠、10:補強リブ、11:上側膜変形抑制部材、12:膜周囲固定部材、13:上側膜変形抑制部材、14:添接板、15:パネル枠固定用プレート、16:基礎、17:エッジロープ、18:シール用鉄板、19:弾性シール部材、20:補強布、21:膜落下防止ベルト、22:鳩目パンチ、23:連結具、24:ロック具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル入口にフード部を設置したトンネル緩衝工であって、前記フード部は骨組み構造部と、前記骨組み構造に固定される屋根部を備え、前記屋根部を、周囲を周囲固定手段により固定され、さらに周囲固定部内を複数の領域に区画するように配置された複数の上側又は下側膜変形抑制部材に上側又は下側膜変形抑制部材を介して支持される可撓性の膜部材又はシート部材で構成することを特徴とするトンネル緩衝工。
【請求項2】
前記可撓性の膜部材又はシート部材を、複数の上側及び下側膜変形抑制部材を配置したパネル枠に固定し、前記パネル枠を前記骨組み構造部に固定することを特徴とする請求項1に記載のトンネル緩衝工。
【請求項3】
前記可撓性の膜部材又はシート部材を、複数の上側及び下側膜変形抑制部材を配置した骨組み構造部に固定したことを特徴とする請求項1に記載のトンネル緩衝工。
【請求項4】
前記周囲固定手段及び前記上側又は下側膜変形抑制部材を着脱可能として前記可撓性の膜部材又はシート部材の取り換えを容易にしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のトンネル緩衝工。
【請求項5】
前記可撓性の膜部材又はシート部材の表面又は裏面に前記上側又は下側膜変形抑制部材の配置の軸方向と交差する方向に延びる所定幅の補強布を少なくとも1列接着固定し、前記補強布の前記上側又は下側膜変形抑制部材に対応する位置に膜垂れ下がり防止ベルトを配置し、前記膜垂れ下がり防止ベルトを前記上側又は下側膜変形抑制部材に着脱自在に連結することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のトンネル緩衝工。
【請求項6】
前記可撓性の膜部材又はシート部材の前記周囲固定手段による固定部及び隣接する前記固定部の間にシール部材を配置することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のトンネル緩衝工。
【請求項7】
前記トンネル入口と前記フード部の接続部の近傍の前記屋根部を鋼板で形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のトンネル緩衝工。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−243125(P2009−243125A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90188(P2008−90188)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)