説明

トンネル類の保護・補修ライニング工法

【課題】地下水脈等の影響により内周壁のコンクリートから湧水・漏水が発生している殊に古いトンネル類において、地下水脈の影響を排除し、亀裂や劣化・脆弱の修復を支障なくなしうるミゼロン樹脂によるトンネル類の保護・補修ライニング工法を提供する。
【解決手段】道路や鉄道、導水路等を通すトンネルをはじめ、各種の目的で掘削された地下空洞等のトンネル類のミゼロン樹脂による保護・補修ライニング工法であって、そのトンネル類の劣化・脆弱および亀裂を改善する区域の内周壁を洗浄し、且つ、その区域において、外部と遮断するとともに外部空気を持続的に吹き込むことにより空気が内周壁を押し続ける高圧の作業環境を調整し、その高圧により内周壁内の水をトンネル類を囲む地下中に後退させ、内周壁の内面を乾燥させた高圧環境下において該壁にミゼロン樹脂を塗布し、塗布したミゼロン樹脂を内気圧の押圧力で壁内に注入ないし含浸させて壁内空隙を埋めるとともに、壁内面にミゼロン樹脂の塗膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、道路や鉄道、導水路等を通すトンネルをはじめ、各種の目的で掘削された地下空洞等(トンネル類と総称することにする)の内周壁を劣化・脆弱や水漏れ等の点で改善する保護・補修ライニング工法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路や鉄道、導水路が通る古くなったトンネルでは、経年使用によりコンクリートの劣化、脆弱化が進んでいる。湧水・漏水も原因の一つであり、例えば
、青函トンネル等は湧水量が益々増えているという。また、塩水がコンクリー
トを通過すれば劣化・脆弱が急速に進み、コンクリート強度(圧縮強度)が弱
くなり、いずれは崩壊に繋がることも考えられる。寒冷地では湧水が氷柱となり落下し危険を及ぼすことがある。従来から、その対策に無溶剤型、例えば柔軟型特殊ポリウレタン樹脂系塗料(以下、説明の便宜、上代表的商品名「ミゼロン樹脂」をもって説明していく)による保護・補修ライニング技術が提案され実施されてきたが、本出願人では、さらなる技術の向上と用途拡大を目指している。
【0003】
「ミゼロン」とは、米国で開発された無溶剤の2液硬化型特殊ポリウレタン樹脂塗料であり、一種のウレタンエマストラーであって、近年問題になってい
るコンクリートの老朽化・劣化を抑制し、耐用年数を向上させることを目的と
した経済的な新塗料である。
【0004】
従来、ミゼロン樹脂を使用するトンネル類(原則として湧水・漏水が無い場合)や水路の保護・補修ライニング工法は次の作業手順において行われていた。
(下地処理) コンクリート壁をジェット水にて洗浄し、圧縮空気で水を切
る。その後、バーナーにてコンクリートの表面を強制的に乾燥させる。
(下塗り) ミゼロンシーラーU−60をエアレス塗装機又はロール刷毛に
てコンクリートに含浸させる。
(上塗り) ミゼロンS−100/A−1000を専用塗装機にて規定厚膜になるように吹き付ける。
なお、上塗り完了後に欠陥箇所が発生した場合は、ミゼロン樹脂をパテ状にしてヘラにて補修する。
(完成) 30分〜60分で指触乾燥し、3時間後には通水可能となる。
【0005】
なお、ミゼロン樹脂は、従来から次のような特徴が挙げられている。
a.強靱な塗膜を形成できる。
b.耐磨耗性、耐衝撃性に優れる。
c.吸水率が小さく、耐水性に優れる。
d.クラック追従性に優れる。
e.耐薬品性に優れる。
【0006】
また、湧水・漏水がある場合における従来工法としては、エポキシ樹脂を劣化・脆弱した亀裂ある局部に注入することが多く行われていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トンネル類では、地下水が遠のいている乾燥した地盤であると上記のような工事を有効になすことができるが、湧水・漏水が発生しているトンネルにおいては、地下水が妨げになるために工事が難航し、湧水・漏水が原因で工事の実
施を諦めることになる事態も多かった。コンクリート溝の水路の場合であると
、上流で流水を変更して下流の水流を停止すれば、工事区間において水路が乾燥状態となり得るが、トンネルの場合であると、地下水脈を停止することはできないからである。
【0008】
また、注入方法によるときには、注入器具によって内周壁が傷つく不都合があり、また、エポキシ樹脂自体柔軟性がなく、また、時間と共に硬化するが、
コンクリート内面は常に動体状態にあることから、その内部変化に追従が難し
いという問題があった。トンネル内のひび割れ現象は、年数に比例して増加傾向にある。これは、経年と共に材質疲労が起きることが原因ともなっており対策が急がれている。
【0009】
この発明は、上記のような実情に鑑みて、地下水脈等の影響により内周壁のコンクリートから湧水・漏水が発生している殊に古いトンネル類において、地下水脈の影響を排除し、亀裂や劣化・脆弱の修復を支障なくなしうるミゼロン樹脂によるトンネル類の保護・補修ライニング工法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明は、道路や鉄道、導水路等を通すトンネルをはじめ、各種の目的で掘削された地下空洞等のトンネル類のミゼロン樹脂による保護・補修ライニング工法であって、そのトンネル類の劣化・脆弱および亀裂を改善する区域の内周壁を洗浄し、且つ、その区域において、外部と遮断するとともに外部空気を持続的に吹き込むことにより空気が内周壁を押し続ける高圧の作業環境を調整し、その高圧により内周壁内の水をトンネル類を囲む地下中に後退させ、内周壁の内面を乾燥させた高圧環境下において該壁にミゼロン樹脂を塗布し、塗布したミゼロン樹脂を内気圧の押圧力で壁内に注入ないし含浸させて壁内空隙を埋めるとともに、壁内面にミゼロン樹脂の塗膜を形成することを特徴とするトンネル類の保護・補修ライニング工法を提供するものである。
【0011】
上記のトンネル類の保護・補修ライニング工法によると、トンネル類の高い内気圧は、内周壁の水を後退ないし退散させてひび割れ、亀裂、目地部等の不良箇所からの水漏れ状態を停止する。これで、バーナー等の手段によりミゼロン樹脂を不都合なく塗布できる乾燥状態が得られること、また、塗布したミゼロン樹脂をひび割れ、亀裂、目地部等の不良箇所に強制的に注入ないし浸透させ、さらに、塗膜を内周壁に押しつけて強固に結合させる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、この発明によれば、高い内気圧を設定することにより、内周壁に水の後退に伴う乾燥状態が得られ、その乾燥面に不都合なくミゼロン樹脂を塗布できるだけでなく、高い内気圧により注入ないし含浸させることができるので、内周壁の内部変化に対応できるよう全ての領域にわたって均等に内周壁の改善をなすことができ、したがって、内周壁を注入器により傷つけるような不都合がなくなり、また、内周壁の全域にわたって長寿命に材質を完璧に改善し、湧水・漏水や崩壊等の危険を未然に防止でき、しかも、注入作業が省ける等作業時間の短縮が可能であるという優れた効果を発揮できるものである。
【0013】
加えて、請求項2によれば、道路や鉄道、導水路等を通すトンネルの一区間や局部などを高圧に設定するのに適しており、また、請求項3によれば不都合のない適正な作業環境が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、この発明の実施形態として、鉄道の古いトンネル1の保護・修復について説明する。そのトンネル1は、現在も電車が通っているが、築後20年ほど経過しており、内周壁2のコンクリート劣化があり、部分的に亀裂4が生じており、酷い箇所では亀裂から地下水が湧水・漏水している。トンネル1の全長にわたってミゼロン樹脂によるライニング工法を行ったが、湧水・漏水のない箇所では従来工法により、湧水・漏水の箇所では本発明工法によることとした。以下に、本発明工法について説明する。
【0015】
1.施工区間の細分
現在使用されているトンネル1であるので、電車が通過しない夜間において工事を行う必要から、その時間帯に工事を完了できる区間に細分される。そのうち、湧水・漏水のある箇所ではその区間内が次の如く外気圧に比べて、0.1〜1.0気圧高めに設定して、その中において作業が行われる。
【0016】
2.難坑区域の高圧設定方法(様々となるが一例として説明する)
当該区域の両端部には遮断壁3,3が設けられる。この場合トンネル1内の底面は、この事例では線路が通っているばかりでなく、それが砂利の上に敷かれているので、空気の洩れが発生しやすい。そこで、底面に空気を通さないシート(図示しない)を敷き、その上において両端の遮断壁3,3が設置される。
【0017】
遮断壁3の周囲は膨出手段(例えばチューブ状の環状風船)により内周壁2に密着する装備がなされている。そして、コンプレッサーから圧縮空気が導入されることにより、トンネル1内が高圧の内気圧に設定される。
3.難坑区域における本作業準備
a)ライニング作業を行う難坑区域には、予め内周壁をジェット水により洗浄した後、乾燥させておく。湧水・漏水がある箇所はそれで乾燥しないので、亀裂4を封じて止水する。
b)遮断壁3,3の間には、ライニング作業に要する一切の道具、資材等を予め投入しておく。
【0018】
4.ライニングの本作業
a)高圧による止水
両遮断壁3,3の間を例えば1.5気圧〜2気圧程度に調整する。この値は地下水脈(の位置又は海面の高さ等)等に関係して必ずしも一定しなく、これよりも高圧(例えば3気圧,4気圧)であることもあるが、この程度であると作業をなしやすい。この状態を例えば1時間程度保持する。こうすると、亀裂に含まれている水が高圧により引っ込み、また、トンネル1の周囲の土に含まれている水が撤退し、やがて、湧水・漏水が停止する。ちなみに、本発明では、内気圧を限定するものではない。
b)乾燥
止水の状態を見て内周壁2の水を拭きとりながらバーナーの吹き付けにより内周壁2の表面を乾燥させる。
c)不陸調整
亀裂からの湧水・漏水が止まらない箇所が発見されたときは、その部分を封じる。それには、繊維強化速硬型補修モルタル(OMモルタルS)、又は合成繊維補強ポリマーセメントモルタル(OMモルタルB)を亀裂4に詰め込む。
d)下塗剤ミゼロンシーラーの塗布
以上の作業により下地処理が終わったならば、一液型ポリウレタン樹脂塗料6(ミゼロンシーラーU−60)を塗布する。これには、エアレス塗装機を用い又は刷毛塗りする。塗布量は0.2Kg/m程度、厚みは50μm程度とする。これに内気圧が作用して亀裂4にミゼロン樹脂13が浸入する。なお、本出願人においては、ミゼロン樹脂がトンネル1の内周壁2の中において水分と触れることにより発泡し結合が硬化する案について検討中である。
e)上塗剤ミゼロンの塗布
二液型無溶剤ポリウレタン樹脂塗料9(ミゼロンS−100/A−1000)を塗布する。これには専用塗装機を使用し、塗布量は3〜4Kg/m程度とする。厚みは1500〜2000μm程度である。
f)補修
これまでの作業により内周壁の劣化・脆弱の材質が改善されるとともに止水が確実なライニングがなされるが、補足的に、ミゼロンS‐100/A−1000又はB−500/A−5000を専用機又はヘラ塗りし、このミゼロン樹脂11の塗布により保護・補修を確実なものとする。なお、以上で3回塗りであるが、1回塗りや2回塗りである場合もある。
【0019】
ミゼロン樹脂の塗布完了後、次の区間に移って同じように作業を行う。なお、塗布作業完了から60分程度で車輛が不都合なく通過できる状態となる。
【0020】
(この発明の別の用途について)
この発明は、トンネル類の劣化・脆弱や亀裂を改善し保護・補修することを
主な目的とするが、トンネルのみではなく、多くのコンクリート構造物に利用
すれば、コンクリート劣化作用を止めることができる。そこで、次のような用
途にも実施することが想定される。
a)非鉄金属の廃鉱山の空間(廃坑)に漏水防止策として亀裂にミゼロンを注入し、漏れないように耐酸槽をつくり、電極を入れて巨大電池を作る。これにより余剰電力を蓄積できる。
b)平野部では、地下に大きな空洞を設けて同じく巨大な電池施設を作り、雷の放電エネルギーを避雷針で誘導し、電池施設に蓄える。
c)下水道のヒューム管
d)ダム壁面への樹脂圧入(局部の圧入も可能)
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施として内部高圧設定の態様を模式的に示すトンネルの透視した斜視図である。
【図2】同トンネルの拡大断面図である。
【図3】図2のA部についてミゼロン樹脂の塗布作業を示す拡大した断面図である。
【図4】ミゼロン樹脂の塗布面を示すさらに拡大した断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 トンネル
2 内周壁
3 遮断壁
4 亀裂(空隙)
6,9,11 (塗膜を構成する)ミゼロン樹脂
13 亀裂に浸入したミゼロン樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路や鉄道、導水路等を通すトンネルをはじめ、各種の目的で掘削された地下空洞等のトンネル類に無溶剤型、例えば柔軟型特殊ポリウレタン樹脂系等(以下、ミゼロン樹脂と製品名にして記述)による保護・補修ライニング工法であって、そのトンネル類の劣化・脆弱および亀裂を改善する区域の内周壁を洗浄し、且つ、その区域において、外部と遮断するとともに外部空気を持続的に吹き込むことにより空気が内周壁を押し続ける高圧の作業環境を調整し、その高圧により内周壁内の水をトンネル類を囲む地下中に後退させ、内周壁の内面を乾燥させた高圧環境下において該壁にミゼロン樹脂を塗布し、塗布したミゼロン樹脂を内気圧の押圧力で壁内に注入ないし含浸させて壁内空隙を埋めるとともに、壁内面にミゼロン樹脂の塗膜を形成することを特徴とするトンネル類の保護・補修ライニング工法。
【請求項2】
トンネル類が道路や鉄道、導水路等を通すトンネルであって、作業に取りかかる一区域を高圧に調整する手段として、その区域の両端部にトンネルを塞ぐ遮断壁を設け、コンプレッサーにより外部空気をその区域内に吹き込むことを特徴とする請求項1記載のトンネル類の保護・補修ライニング工法。
【請求項3】
作業区域の内気圧を大気圧に対して0.1〜1.0気圧高めにすることを特徴とする請求項1又は2記載のトンネル類の保護・補修ライニング工法。








【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−133179(P2010−133179A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311726(P2008−311726)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(508360752)株式会社大塚工業 (1)
【Fターム(参考)】